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2012-12-14

「国権の最高機関」が聞いてあきれる国会活動のお寒い現状

| 16:08

東京電力福島第一原子力発電所事故調査委員会、いわゆる「国会事故調」がまとめた提言が「無視」されたまま御蔵入りしそうな気配です。そもそも国会が持つ「国際調査権」を行使するためのインフラがないことが大きな原因。国会議員に優秀な人材を選んでも、議員国会で活動しようと思うとハードルは高いのです。日経ビジネスオンラインに拙稿がアップされました。オリジナルページは→http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121212/240889/

国会議員の実力を高め、民間の英知を政策に反映するには?

 「福島原子力発電所事故は終わっていない」という文章で始まる報告書をまとめた国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会国会事故調)。後ほど詳述するが、実はこの国会事故調は、明治以来の日本の国会のあり方を変える第一歩になると期待された肝いりの委員会だった。

 国会事故調は、「この事故が『人災』であることは明らか」と指摘したうえで、国会に「独立調査委員会を設置すること」など7つの提言をまとめ、2012年7月に委員会は解散した。残務整理に当たっていた事務局も閉鎖された。報告書は衆参両院議長に提出されたにもかかわらず、国会はその後何ら対応を取らなかった。そして衆議院は解散された。

 現在、報告書は店ざらしの状態で、今後も国会で取り上げられるメドは立っていない。事故調が集めた膨大な関係資料は国会図書館に放り込まれたままで、このままお蔵入りする公算が高い。国民の代表として、前例のない布陣で事故の事実究明に当たったはずだった国会は、なぜ機能しないのか。

実は異例だった国会事故調の成り立ち

 国会には憲法に定められたいわゆる「国政調査権」がある。憲法第62条には「両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」と書かれている。この国政調査権は予算委員会などの常設の委員会や、問題に応じて設置される特別委員会を通じて行使されるというのが憲法学者の解釈だ。

 従来、委員会の委員は国会議員だけで構成されているから、調査をしようにも専門知識が十分ではなく、多くの場合、“素人”である国会議員が、その道の“プロ”である政府の役人を問い質すことになる。そのため十分な調査結果を得られてきたとは言い難い。さらに、民主党政権になって役人の答弁を禁じ、原則として大臣や副大臣などが答えるようになったため、にわか勉強の素人同士の議論が噛み合わない場面がしばしば見られた。

 ところが、2011年の震災後に与野党が一致して法律を通して実現した国会事故調は、従来とはまったく違う委員会だった。民間の専門家を委員に据え、事務局にも民間人を集めた。国会が調査権を行使する手足として民間人からなるスタッフを使ったのである。予算も15億円という巨額の資金が用意された。国会にこうした調査の実働部隊が設けられたのは、国会の歴史始まって以来のことと言えた。国会事故調の取り組みが成功すれば、日本の国会も、米国の議会のように、独自に調査する能力を持つのではないか。そんな期待が高まった。

 もちろん、従来から国会にはスタッフがいる。衆議院にも参議院にも事務局があり、議員の政策立案を助ける目的で設けられた調査局や法制局という組織も存在する。国会図書館も本来は、国会議員の調査を手助けするために置かれている。だが、こうした国会職員には政府が持つ情報を整理することなどが精一杯で、独自情報を収集する力はほぼないに等しい。

 日本は行政立法司法三権分立体制だという。だが現実には立法府である国会の情報収集能力は驚くほど低い。圧倒的に情報を握っているのは行政府、つまり役所なのである。与党議員の場合、政策立案しようと思えば、すぐに役人が飛んできて助けてくれる。野党でも有力政治家の場合は、役所は情報を小まめに届ける。結果、国会議員の政策スタッフのような役割は行政府である役所が担うことになってきた。

 憲法には国会は「国権の最高機関」と定められているが、それは形だけ。現実には、情報量とそれを生かした政策立案能力の点で、行政府の方が上位にあると言っても過言ではない。だから、政治家は総理大臣になることを夢見る。国会の委員会の委員長は大臣になる前の待命ポストのように扱われ、総理大臣になれない議員が、せめて衆議院議長にと願う。

 そんな弱体立法府を大きく変える可能性を、国会事故調は秘めていたわけだ。国会自身が調査力を持ち、情報を収集し、それをベースに政策判断をしていく。本当の意味で国会が国権の最高機関となり、本物の三権分立を実現することができるきっかけになったかもしれない。

詰めの甘さで見事に期待を裏切る

 国会が独自に力を持つことを最も警戒していたのは、言うまでもなく霞が関だ。情報量を武器に議員を手玉に取ってきた役人からすれば、議員に独自に政策立案力を持たれたら、役所の思い通りの政策が実現できなくなる。

 東電の福島第一原発の事故でも、政府調査委員会を先に立ち上げていた。そのため、国会で事故調を作るという動きには当初、政府を挙げて反対姿勢だった。ところが国会で、原発を推進してきた行政府が調査しても中立ではない、という批判が噴出したため、与野党が一致して国会事故調を立ち上げる法案を議員立法で通した。

 霞が関は冷ややかだった。独立性を保つために、事故調の事務局から役人を排除し民間人主体としたことも一因だった。

 ところが、この法案には大きな落とし穴があった。国会事故調の設置法では、委員会が報告書を両院議長に提出した後の扱いをきちんと定めていなかった。報告書を両院議長は「内閣に送付する」とあるだけで、国会としてどう報告書を政策に生かしていくかを決めていなかったのだ。事故調の委員や事務局は調査作業を進めていく過程でその“欠陥”に気づいた。そのため、提言の中に「独立調査委員会」の設置を盛り込んだ。法律では、議長に提言すること自体は規定されていたので、そこに国会での扱いを盛り込めば、法律的にも議長は何らかの行動を取らざるを得なくなる、と考えたわけだ。

 そもそも、なぜ報告書の国会での扱いを法律に盛り込まなかったのか。「委員会を作ることで合意するのが精一杯で、その後の議論の受け皿まで考えが及ばなかった」と法律の成立に尽力した議員のひとりは言う。事務局幹部の中には、「法案作りに関与した国会職員に霞が関の回し者がいて、法律を骨抜きにした」と指摘する人もいるが、真相は藪の中だ。

 国会事故調の委員長を務めた黒川清氏は、国会で報告書の提言を実行するよう機会があるたびに訴えている。これから総選挙によって新たに生まれる衆議院議員が、これをどう扱うかが焦点になる。また、国会事故調が使った経費の総額についてもまだ決算報告がされていない。2011年度の決算を審議する決算委員会に報告されると思われるが、国会予算の中にバラバラに計上され、国会事故調として単独で収支決算されない可能性もある、という。

 もっとも、国会事故調が設置されたという事実そのものは大きな意味を持つ。国会が国権の最高機関として国政調査権をフルに行使するために、民間の専門家を集めた委員会を設置したという実績が生まれたからだ。独自の法律を作れば、そうした委員会を設置できるという前例を作ることができたわけだ。今後は報告書を常設の委員会などに送付して国会議員の議論の土台にするなど、法律制定時に工夫を凝らせばよいわけである。

もっとも、そうした専門家の委員会を国会議員が使いこなせるかどうかが、大きな焦点になる。そもそも国会議員の間で、国会での活動を重視するムードが欠けているからだ。国会活動を重視するようなムードをどのように作ってゆけば良いのか。

 このほど、前衆議院議員が3年余りの間に国会で質問した回数や時間など「国会活動」のデータをまとめた異色の書籍が出版された。『国会議員三ツ星データブック』(東京プレスクラブ刊)。

 質問回数や時間、議員立法の提案件数、質問主意書の提出回数などを議員別にランキングしているほか、議員ごとに活動実績を記載している。ランキングの上位に入った議員には星を付けるなど、レストランガイドのような体裁になっている。

国会自身にもっと情報開示が必要だ

 たとえばだが、このような衆議院議員の実績をまとめたデータに基づいて、国会での活動実績によって国会議員が評価されるようになり、それで選挙の当落が決まるような時代になれば、国会が国政調査権を行使する国権の最高機関として機能し始めることになるのではないか。国会議員国会活動についての情報も体系的に手に入れられるようになっていないなど、国会自身の情報開示にもまだまだ改善の余地がありそうだ。