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2013-01-18

安倍内閣の真価が問われる「金融資本市場の活性化」。国民新党が先送りした国際会計基準IFRSの行方はどうなる?

| 18:27

金融緩和を先取りする格好で株価が上昇、ムードは明るくなっていますが、これで本格的な景気回復につながるかどうかは予断を許しません。とくに、民主党時代の金融・資本市場政策をどう見直していくのか。今後の焦点になりそうです。現代ビジネスの記事を編集部のご厚意で以下に再掲します。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34583


民主党政権の3年3ヵ月の間、金融業界には逆風が吹き続けた。民主党は金融に関心が薄く、最後の2ヵ月を除いて大臣ポストも国民新党に丸投げした。

 連立を組んだ国民新党から金融相ポストに就いた亀井静香氏、自見庄三郎氏らは、民主党マニフェスト(政権公約)からは大きくかけ離れた独自の政策を推し進めた。亀井氏が推進した郵政民営化の巻き戻し、中小企業などへの金融モラトリアム、そして自見氏による国際会計基準IFRSの先送りなどが典型例だ。

民主党が圧勝して政権を奪取した2009年総選挙での、国民新党の得票率(比例)はわずか1.73%。多数の国民から信任を得たわけではない国民新党が金融を壟断できたのは、ひとえに民主党が金融に無関心だったからに他ならない。

政権交代後の2009年12月、当時の菅直人副総理兼国家戦略相が発表した「新成長戦略」には、金融分野への言及がゼロだった。記者ブリーフィングでこの点を質問された菅氏は「リーマンショックは金融の行き過ぎによる結果でもあるし」と煮え切らない返事をした。成長させる分野として「金融」がまったく念頭になかったというのが本当のところだったのだろう。

企業経営に大きな影響を与えるIFRSの行方

安倍晋三内閣は1月11日、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を発表した。柱の1つである「成長による富の創出」の中に、「金融資本市場の活性化等」を盛り込んでいる。政権交代から短期間での経済対策だけに、盛り込まれた具体的な政策は、民主党政権時代の積み残しが多い。

アジア No.1市場の構築」という言葉も、民主党の置き土産だが、安倍自民党は政権公約でも「国際展開戦略」として成長するアジア経済圏を取り込むなど経済のグローバル化に積極的に取り組んでいく姿勢を示している。緊急経済対策では「市場の利便性向上・国際競争力の向上等を通じた金融資本市場の活性化等に取り組む」との方針を掲げた。

 では具体的に、政策はどう変わるのだろうか。郵政改革の方向性については自民・公明民主の三党で合意した経緯がある。今後自民党内での議論が再燃する可能性はあるものの、今すぐに安倍内閣として方向転換することはあり得ないだろう。

 モラトリアム、つまり中小企業等金融円滑化法のツケについては、激変緩和措置などが検討されている。これについては別稿に譲ることにしたい。もう1つ、個別の企業経営に大きな影響を与えるのがIFRSの行方だろう。会計基準の変更によって企業の戦略に影響を与える可能性があるからだ。

自民党政権時代の2009年、金融庁の企業会計審議会は中間報告をまとめ、IFRSを全上場企業に義務付けるかどうか2012年中に判断するとしていた。ところが自見金融相が2011年5月に突然、「政治判断」だとしてこのメドを延期する方針を発表していた。

 企業会計審議会の臨時委員にIFRS反対派と目される人物10人を追加で任命するなど、強引な手法で議論の流れを変えようと画策した(当時の記事参照)。金融庁の事務方は激しく抵抗したが、民主党の掲げる「政治主導」には逆らえず、海外の視察などを繰り返してきた。結局、2012年中にIFRSの扱いを決めることは見送った。

カギを握るのは麻生太郎副総理財務相兼金融相

政権交代で安倍内閣のIFRSへの対応はどうなるのか。

 緊急経済対策のベースになった自民党の政策をまとめたのは政権交代前に政調会長だった甘利明氏や茂木敏光氏ら。安倍政権では2人とも閣僚となり、日本再生戦略は甘利氏が担当大臣となった。成長戦略の柱としてグローバル化対応を進めるのは現体制からみて明らか、ということだろう。甘利氏も経済産業相になった茂木氏も、経産省に近く、産業界の要望には敏感だ。経団連などの一部にはIFRSに慎重な向きもあるが、グローバル化対応に正面から異を唱えるのは難しい。

一方、日本経済再生本部の下に設置された「産業競争力会議」には経団連副会長の坂根正弘・コマツ会長や新浪剛志・ローソン社長、竹中平蔵・慶応大学教授といったグローバル化に向けて改革を進めるべきだと主張する人たちが加わった。産業競争力会議がIFRS推進の姿勢を取れば、経済再生本部も同じ方向性を持つことになりそうだ。

 こうした流れを受けて金融庁は、昨年10月2日に開催した後、途絶ている企業会計審議会の総会を2月をメドに再開する方針だという。自見元金融相が任命した委員など人事の見直しも行う見通しだ。

 もっとも安倍内閣がもろ手を挙げてグローバル化路線を突き進むかどうかは分からない。カギを握るのは政権内で大きな影響力を持つ麻生太郎副総理財務相兼金融相のスタンスだ。

麻生氏はリーマンショックの直後に首相に就任、世界的な経済危機に直面しただけに、行き過ぎた金融業への問題意識が強い。リーマンショック後の10月30日に開いた記者会見では、危機の原因を3つ挙げ、その1つに会計基準を指摘している。引用すればこんな具合だ。

「3つ目には、会計基準の在り方についてです。今回のような金融市場が大きく乱高下するような状況において、すべからく時価主義による評価損益の計上を要求することが、果たして適切であろうか。時価主義をどの範囲まで貫徹させるべきか。更に有価証券を売買するか。また、満期まで保有するのかによって、いかなる評価方法が適切であるのか。国際的な合意を目指して、首脳会議で議論を行わさせていただきたいと思っております」

IFRSに積極的な姿勢を取ることが不可欠

 当時の麻生氏の周囲には時価会計を金融危機の元凶とする人たちが集まっていた。エコノミストのリチャード・クー氏などもそのひとりと見られる。確かに発火点となった米国サブプライムローンなど証券化商品は、「金融業界の暴走」が一因と言えた。麻生氏の周囲にはIFRSなどグローバル化を嫌う人たちが多いという声もある。

 続く11月15日、金融・世界経済に関する首脳会合が開かれた。世界の首脳が集まった席で麻生首相は「危機の克服〜麻生太郎の提案」とする文書を作り配布した。日本は経済危機とは無縁だ、という自負がこの段階ではあり、日本のバブル崩壊後の経験を世界に訴えるという姿勢だった。

もっとも、世界の首脳に訴えたこの文書では、会計基準に対するトーンはやや変わる。そこでは、「各国の会計基準を収斂する作業が、国際会計基準審議会を中心に進められているが、この作業に、当局、企業、投資家等の関係者が関与することで、客観的な、かつ公正な基準作りが迅速に進められるべき」という一文を盛り込んだ。国際基準自体を公正な基準にするように日本も積極的に関与していくという姿勢を示しているとみていい。

首相当時のスタンスを見る限り、麻生金融相も国際的な会計基準の統一には理解を示しているようにみえる。財務省も内部に設けたチームで分析した「日本経済が成長しない理由」として、経済のグローバル化への対応が遅れたことを挙げている。

 今後、安倍内閣が再成長路線を目指すに当たって、グローバル化を推進する方向に大きく舵を切ることになる。その大きな具体策の1つが国際舞台での会計基準づくりで主導権を握ることになるだろう。基準作りで主導権を握るためにはIFRSに積極的な姿勢を取ることが不可欠で、IFRSが国内基準として企業に義務付けられる日も遠くないとみるべきだろう。