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2013-05-01

「アベノミクス」円安効果が最も表われる 外国人観光客関連産業から景気は復活する

| 11:12

アベノミクスで円安株高になっても簡単には実態経済に効果はない、という見方があります。確かに輸出産業が潤ってそれが給与などに反映されるまでには、かなりのタイムラグがあります。ところが最近の統計を見ていると、驚くほどの数字が出始めています。高額品消費もそうですが、外国人観光客の急増は顕著です。この波及効果は相当大きいと思います。外国人観光客の増加に絞って「エルネオス」5月号の連載に以下の原稿を掲載しました。編集部のご厚意で転載します。是非ご一読下さい。

硬派経済ジャーナリスト

磯山友幸の≪生きてる経済解読≫連載──25

エルネオス→http://www.elneos.co.jp/


タイムラグがある円安効果

 安倍晋三首相が推進する経済政策、いわゆるアベノミクスによって円安株高の流れが一気に進んでいる。安倍氏が選んだ黒田東彦・日本銀行総裁がアベノミクスの方針に従って「次元の異なる」大胆な金融緩和を打ち出したことも、この流れに拍車をかけた。ムードが一変したことで、白川芳明・前総裁の姿勢を支持してきたはずのエコノミストたちもすっかり宗旨替えしたようにみえる。

 声高にアベノミクスを批判する専門家こそ影をひそめているが、「アベノミクスは資産バブルを起こすだけ」「実態は何も変わらない」と猯篝鏑瓩吠析する人は少なからずいる。通貨価値が下落しているのだから株式不動産などの資産価格が上がるのは当然で、実体経済は何も変わらないというわけである。

 本当に実体経済には影響がないのだろうか。

 円安によって輸出産業の業績が改善すれば実体経済にもプラスに働くのはいうまでもない。だが、それにはどうしてもタイムラグがある。自動車や電機といった産業の輸出が増え、そうした企業の業績が伸び、それが従業員の給与増や雇用の増加に結びつくには最低でも一年はかかるだろう。残業代やボーナスは先に増えるかもしれないが、基本給を増やす決断を経営者はそう簡単には下せない。いつまた円高に振れるかわからないという疑心暗鬼があるうちは舵を切れないのだ。つまり、アベノミクスへの期待が早々に雲散霧消するようなことがあれば、従業員が「効果」を実感できずに元の木阿弥になる可能性もないわけではない。

輸出増より観光客増

 もう一つは、円安になってもかつてのように「輸出産業」の業績を押し上げないのではないかという懸念もある。この二十年で日本企業の生産体制は様変わりした。最終組み立てばかりか、部品などの製造もどんどん海外に移っていった。単純に日本で製造したものを海外に輸出していた頃なら、円安になればその分、企業の利益も増えた。

 ところが海外生産が主体になると、思うほど利益が増えないということがあり得るのだ。連結決算では海外子会社の数字を円に換算するので数字はグンと良くなるが、海外子会社が手にするキャッシュが増えているわけではない。ましてや日本円に換えて国内に利益を持ち帰らない限り、円安効果が国内従業員に及ぶことは難しくなる。よくいわれる「円安になれば輸出が増える」は、もはやそんなに単純な図式ではなくなっているのだ。

 では、円安株高が実体経済に効果をもたらしていないかというと、そうではない。現実に足下でアベノミクス効果といえる経済の活況が起きつつある。その典型が観光、それも外国人旅行者の増加である。

 日本政府観光局の統計によると、二月に日本を訪れた外国人観光客は七十二万九千五百人。前年同月に比べて何と三三・一%も増加した。中華圏の旧正月休みである「春節」が昨年は一月だったのが、今年は二月になったという特殊事情もあるが、一〜二月通算で比較しても一三・四%の増加である。円安によって外国からの「日本旅行」の代金が格安になったことが最大の理由だろう。

 国別に見ると、香港からの旅行客がほぼ倍増、台湾からも七割増えた。マレーシアが五割増、韓国が四割増、シンガポールとタイがそれぞれ三割増といった具合だ。オーストラリアカナダからも二割前後伸びている。三月もこの傾向は続きそうで、円安で日本観光ブームに火がついたとみてよさそうな状況だ。

 外国人観光客の増加は輸出の増加と同じ効果がある。しかも外国人がわざわざやって来て日本国内に外貨を落としていくので、物品の輸出に比べてはるかに即効性が高い。製造品の輸出なら実際に出荷して資金決済されるまでには三カ月から半年は必要だが、旅行者が来れば、かなりの金額が現金決済される。

 しかも小売店やレストラン、旅館・ホテルといった経済の最下流におカネが直接流れるので、景気を刺激する効果が非常に高い。ホテルで宿泊客が増えれば、客室係や配膳係などの手が足らなくなり、パートやアルバイトといった臨時職員の募集がすぐに始まる。

地方経済復活の切り札

 実は世界は今、空前の旅行ブームといっていい状況になっている。経済のグローバル化によってBRICsなどの新興国の一人当たり国民所得が急増。冷戦の終結以降、国外への旅行が自由になったことや、航空運賃の大幅な下落も加わって、海外旅行に出る人が急増しているのだ。かくいう日本人も円高を武器に海外旅行を楽しんだが、欧州などの著名観光地に行けばわかるとおり、どこも人で溢れ返っている。

 円高でも外国人旅行客がそれなりに増えていたのは、こうした世界的なブームに加えて、日本ではデフレによって、「価格破壊」が進行していたことが大きい。例えば日本旅行客が驚くような価格の宿泊パック。また、東京の中心で前菜・メイン・デザート・コーヒー付きのランチが二千円といった価格設定は、海外先進国の常識からすれば信じられないほどの格安価格だ。それがアベノミクスで円安になっているわけだから、日本旅行がブームにならないわけはない。

 日本の地方の観光地へ行くと、バブル期に造った大型のホテルが林立している温泉街などに出会う。顧客の数を確保するために、どこも価格を切り詰め、青息吐息の経営を強いられているところが多い。こうした地方の観光地に外国人旅行者が押し寄せるようになれば、低迷著しい地方経済復活の切り札になるのは間違いないだろう。外国人が地方に来れば、当然、その地域の農産物や工芸品などを購入して自国に帰ることになる。それをきっかけに地域の産物の輸出へと拡大していくかもしれない。アベノミクス効果は意外に地方経済にも早く波及する可能性がある。