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2013-06-26

国際会計基準(IFRS)への「当面の方針」を強引にまとめた金融庁の「八方美人」

| 19:00

IFRS問題の最近の動きについて現代ビジネスに記事を書きました。ご一読下さい。

オリジナルページ⇒http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36231

金融庁の企業会計審議会は6月19日、「国際会計基準(IFRS)への対応の在り方に関する当面の方針」をまとめた。委員の一部からは異論が出たものの、字句修正も一切受け付けず、会長権限で一気に取りまとめた。人事異動の時期が迫り、とにかく一定の結論を出したい金融庁のシナリオ通りに落ち着いたということだろう。

民主党政権下の「政治主導」で、それまでのIFRS導入論議がストップされ、反対派が大量に委員に任命された。その委員構成が続く現状では、到底、IFRS導入推進派と反対派が折り合うことは難しいとみられていた。それだけに、金融庁からすれば「知恵と腕力で何とかまとめた」と言いたいに違いない。

 だが、公表された「当面の方針」の中味をみると、余りにも八方美人。賛成・反対それぞれの主張を盛り込み、金融庁の事情までも織り込んだ「同床異夢」の産物になっている。

立場によって読み方が違う「当面の方針」

「国際会計基準に『日本版』 金融庁株式売却益など独自仕様」---日本経済新聞審議会が開かれた19日の朝刊で、こう報じた。すでに議論がまとまり、形ばかりの会議が開かれるというのなら、それは見事な"スクープ"と言えただろう。

 だが、意図的に議論の方向性を示し、それを既定路線とするような報道には「裏がある」と見るのが普通だろう。日本版IFRSの導入をことさら強調したかった人たちがいる、ということだ。

 IFRSは国際的な会計基準の統一を掲げて、英ロンドンにある国際組織IASB(国際会計基準審議会)が基準を決定している。その純粋なIFRSの基準のうち、日本企業が反対する基準を除外した日本版を作ってしまおうというのである。これは経団連がここへきて急速に主張しているもので、経団連はこれを「J-IFRS」と呼んでいる。

 つまり、IFRSの導入に慎重な姿勢を示している企業が納得できる方向に議論が進んでいることを印象付けたかったに違いない。おそらく金融庁経団連のリークだが、金融庁は躍起になってリーク疑惑を否定している。

 IFRS推進派が今回の「当面の方針」に異論を唱えなかったのは、純粋なIFRSを任意適用する範囲を大幅に拡大する方針が盛り込まれたからだ。これまでは上場企業で海外に一定規模の子会社を持つことがIFRS採用の条件だったが、これを撤廃し、上場を目指す非上場企業にも、海外事業を行っていない企業にもIFRS利用に道を開いた。しかも、IFRS利用を条件にした株価指数を作るよう取引所に働きかける、という一文まで盛り込んだ。

 つまり、日本企業のIFRS利用がデファクトとして広がっていく、と読んだのである。日本企業の横並び志向からすれば、あり得るストーリーだ。いくら日本版IFRSを作っても、現実には使われないのではないか、という判断だ。

 一方の反対派は、IFRSを全上場企業に義務付ける「強制適用」には絶対反対を貫くかたわら、日本の基準を部分的に残した"なんちゃってIFRS"の採用を求めてきた過去があった。それだけに、日本版IFRSの導入には正面から反対できない。任意適用を拡大しても、そうたやすく企業がIFRS採用に動くことはあり得ないと高をくくっている。

 つまり、同じ、「当面の方針」でも立場によって読み方が違うのだ。

最初から純粋なIFRSを採用した方が簡単?

 実は方針を下書きしている金融庁自身にも別の思惑があった。1月20日に金融庁ホームページに掲載された英文がそれを端的に語っている。

 まず「単一で高品質な国際基準を策定するという目標に日本がコミットしていることを改めて確認した」としたうえで、IFRSを任意適用する際の要件の撤廃と、日本版IFRSの導入、単体決算の簡素化の3つを行うとしている。会計基準の国際的な統一を目指すという方針は、金融危機後の2008年ワシントンサミットの首脳宣言で示されており、これには日本も明確にコミットしている。その立場を改めて強調しているのだ。

 IFRSの採用に向けて積極的な対応を取っている、というスタンスを対外的にアピールしたいというのが金融庁の思惑だ。しかも日本版IFRSについても英文ではJ-IFRSといった表現は使わず、「限定的な修正を加えたIFRS同等の基準を導入する」としているに過ぎない。国際金融界に対して日本が世界標準化を進める方向性を明示しているのだ。

 実は、これはアベノミクスが掲げる「オープン」戦略と機を一にしている。つまり、自民党など政治の要請にも応えているというわけだ。

 その八方美人の「方針」でいったい何が起きるのか?

 真っ先に、任意適用の拡大が進むだろう。表面上はIFRS導入に慎重姿勢を崩していない新日鉄住金やトヨタ自動車など日本を代表する企業が、任意適用に踏み出す可能性もありそうだという。

 巨額のM&A(企業の合併・買収)を行った場合、日本基準ではのれん(買収額と資産額の差)の一定額を毎期償却しなければならない。そうなれば、表面上の利益を圧迫する。IFRSはのれんの償却は不要だ。M&A戦略に直面した多くの企業はIFRSへと舵を切る。日本を代表する大企業がIFRS、それも純粋なIFRSに転換すれば、関係会社や系列企業、取引先などに一気に広がる可能性が高い。

 では、反対派が期待する日本版IFRSは広がるか?

「当面の方針」でも指摘しているように、あまりにも除外基準が多い場合、IASBにIFRSと認定されない可能性がある。つまり「限定的な修正」と認められるかどうかがカギになるのだ。

 2015年3月期から適用できるように基準を作る意向だとされるが、除外を増やせば国際的に通用せず、除外を減らせば反対派の日本企業から批判が出る。しかも、「日本版IFRSを採用しています」と公言した途端、国際資本市場でまったく見向きもされなくなる危険性も出て来る。それなら純粋なIFRSを採用した方が簡単だ、ということになるかもしれない。

4つもの基準が併存するツケは大きい

金融庁からすれば、なし崩し的にIFRSの任意適用会社が増えてくれれば、厄介な議論に巻き込まれなくとも済むということなのかもしれない。

 だが、この「八方美人」方針のツケは大きい。日本の資本市場で使われる会計基準が、日本基準と米国基準、純粋IFRS、日本版IFRSと4つもの基準が併存することになるからだ。

 世界の企業の決算書を比較可能にしようというIFRSのプロジェクトに中途半端に向き合っているうちに、日本国内の企業ですら比較ができない事態に直面している。つまり、日本の資本市場の品質が世界から大きく劣後しているということだ。

金融商品取引法の第一条には「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする」と書かれている。それを行政の立場で守るのが金融庁の役割であるはずだ。

 国内に4つも存在する会計基準を放置し、それをどう一本化していくかという明確な方針すら示せないことが、公正な価格形成をゆがめ、投資者の保護をないがしろにしているということに気が付かなければ、日本の資本市場の再生、日本経済の再興はあり得ない。