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2013-07-31

「水素水」で急成長!地元熊本の名水に"超"付加価値を付けたKIYORA菊池

| 14:13

各地の6次産業への取り組みを取材していますが、熊本県菊池市にお邪魔した際に、紹介された会社の原稿を書きました。超が付くほどの高付加価値戦略で成功している水素水ですが、ブランド化、マーケティングのアイデアが詰まっています。是非ご一読下さい。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36578

 日本の地方にはそれぞれ特徴を持った「宝」がいっぱいある。おコメや野菜、果物といった農産物や、魚介類など1次産業品に付加価値を付けて高く売ろうというのが6次産業の発想だ。1次産業と加工などの2次産業、販売など3次産業を組み合わせ、1+2+3=6次産業化というわけである。

 そこでキーワードになる「高付加価値化」を実現するには、他にはない加工で「差別化」を進め、ブランドを磨くこと。高付加価値化戦略とは端的に言えば、コストを大幅に上回る価格で消費者に商品を買ってもらうための仕掛けづくりである。そんな6次産業化にこれから市を挙げて取り組もうとしている熊本県菊池市に、地元の宝に超が付く付加価値を付けて人気商品となり、急成長を遂げている企業を見つけた。

名水百選にも選ばれた菊池渓谷の水がベース

 「KIYORAきくち」(本社・菊池市大神志保子社長)。健康ブームの中で一躍人気商品となった水素水のメーカーである。厳密に言えば、6次産業の範疇からは外れるが、宝に磨きをかけている同社の高付加価値化戦略は6次産業の手本になり得る。

阿蘇山麓に広がる菊池市は豊かな伏流水が湧き出る銘水地として知られる。昔からの米作地帯だが、そこでできるコメの食味が良いのも、美味しい水と切っても切れない関係があるからだと言われる。市内を流れる菊池川の源流「菊池渓谷」の水は、1985年に環境省が認定した「名水百選」にも選ばれた。

 そんな豊かな水を売り物にしようという試みは様々行われている。ペットボトル詰めしたミネラルウォーターや、仕込み水として作った日本酒など、成功している商品もある。そんな中で短期間の間に急成長しているのが「ナノ水素水KIYORABI」を製造・販売する「KIYORAきくち」なのだ。

 菊池水源系の水を汲み上げ、ミクロンサイズの均一な孔を有するガラス製のSPGフィルターを通して「ナノ化」し、それに圧力をかけて水素ガスを押し込んで「ナノ水素水」を作る、という。これを4層構造のアルミパウチに充填し、殺菌処理の後、出荷している。通信販売が主体で、顧客は全国に広がる。

水素水は「飲むと身体が軽くなる」といった評判から健康ブームの中で人気商品として広がったが、同社の製品は「水素の含有量が平均して1.23ppmを超え、水素水としては業界随一の水素量を誇っている」(大神社長)という。

 同社は社長の大神氏と姉の永田文子氏(現・副社長)が50歳を過ぎてから起業した。もともとエステを経営してきた大神氏は健康食品に関心を持っていたが、ある時、水素水に出会う。

 最初は知人からもらった水素水を半信半疑で飲んだのがきっかけだったが、すっかりその魅力に取りつかれた。製造会社などを訪ねてみると、意外に簡単な設備で作っていることが分かり、自分でも作れると思い立ったのだという。親戚から資金を集めて、実家の納屋を改装して製造設備をそろえ、事業に乗り出した。

 「楽しくないことはしない。この先の人生を楽しむためにこの事業を始めたんですから」と大神社長。自ずと会社の方針は「人の嫌がることはしない」こととなった。「実は、うちには営業部もありませんし、会議もやりません」と笑う。決めなければいけないことが出れば、その場で社員が集まって決める。お客さんにも押し売りのような事はせず、「電話対応を熊本弁でいいと言っています」(永田副社長)。

テレビの影響もあり生産は年間1000万本体制へ

 そんな自然体の経営が功を奏したのか。許可を得て2009年から製造販売を始めると、折からの健康ブームに乗って売り上げは急速に増えていった。同社の実質初年度だった2010年2月期の売上高は3,200万円ほどだったが、翌年には1億2,000万円に急増。さらに2012年2月期には約2億円、2013年2月期に約5億円と、まさに倍々ゲームで伸びていった。生産が間に合わないため新工場を建設。2012年9月から稼働させ、1日4000本を作る体制を敷いた。

 ところが、テレビ番組で取り上げられたことで人気に火が付いたこともあり、それでも需要の増加に追い付けない状態が続いている。来年をメドにさらに隣接地に新工場を建設する。最終的には年間1000万本の生産体制にする計画だ。

 KIYORA菊池の事業を高付加価値化のモデルと書いたのは他でもない。「ナノ水素水KIYORABI」の価格は非常に高いのだ。500ミリリットル20パック入りが1万500円。1パック500円見当だからミネラルウォーターの4〜5倍である。そんな高価格品を顧客は支持している。消費者は自らが効果のある良いものと納得をすれば、おカネを払うというわけだ。

大神社長は「生産量を増やして価格を下げようとしているのですが、値下げをするとお客さんから苦情に似た問い合わせが来るんです」と苦笑する。値下げするのは品質が下がったからではないのか、というのだという。健康志向の商品は安ければ売れるというものではないのだろう。

水素は無味無臭のため、もとの水自体の味に大きく左右される。つまり菊池の「宝」である天然水が、「ナノ化」と「水素」と「アルミパウチ」によって、一気に価値を高められているのだ。社名に「きくち」を付けたのも、そんな地元の宝を大切にしたいという社長姉妹の思いが表れている。

 だが、あくまで出発点は「水素水」。「菊池の水」から商品づくりがスタートしたわけではない。水素水の価値を高めるために菊池の水が一役買った格好なのだ。

6次産業化というと「宝」である1次産品のブランド化にばかり力が入りがちだ。だが、新しい消費者に求められるモノを作り、そこに「宝」が一役買う形こそ、本当の6次産業化の成功パターンかもしれない。そんなことを「KIYORAきくち」の躍進は示している。

2013-07-30

「労組色」強まった民主党に「解党的出直し」はできるか

| 20:04

結党以来最低の議席獲得となった民主党。いったい彼らはどこへ行くのでしょうか。フォーサイトに原稿がアップされました。是非ご一読お願いします。

 参議院議員選挙民主党が大敗した。改選議席44に対して今回獲得したのはわずか17議席。結党以来最低の獲得議席となった。非改選の42議席と合わせて59議席と、かろうじて野党第1党の名は保ったが、自民党115議席、公明党20議席という巨大与党を前に、国会内での存在感の低下は明らかだ。 2007年の参院選民主党は60議席を獲得する圧勝だった。非改選と合わせた議席数は109で、自民党の83を上回り、政権交代へと大きな弾みになったのだ。その選挙での自民党は、改選議席64で当選は37だった。6年前の自民党は64→37、今回の民主党は44→17だから、今回の民主党の負けっぷりは凄まじい。例えば07年の岩手県の比例代表での民主党の得票率は55.06%と全国でも最高だった。小沢一郎元代表の地盤ということもあり、民主党人気が沸騰した。ところが今回は14.14%。小沢氏の離党に加え、民主党の人気凋落がはっきりと数字に表れた。 そんな満身創痍民主党は、いったいどこへ行くのだろうか。 民主党第3世代の存在意義 日本のほとんどの政党は、バッジを付けている国会議員が党の役職を占め、政党の方向性を決める。落選してしまえば、…  続きは新潮社フォーサイト」で(有料)→http://www.fsight.jp/18570

2013-07-26

天草で「シマアジの生ハム」を作る田脇水産は 長崎大との産学協働で6次産業化を目指す

| 16:24

不定期ながらお届けしています6次産業の現場リポート。今回は産学協働版6次産業の取り組みをご紹介します。長崎大学と天草養殖会社「田脇水産」が開発したシマアジの生ハム。是非一度召し上がってみてください。オリジナルページは→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36511

参議院議員選挙も終わり、いよいよ安倍晋三首相が掲げる「成長戦略」が実行本番を迎える。

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 その1つの柱として打ち出されているのが農林水産業の「6次産業化」の推進だ。

 農水産物などの1次産品をそのまま出荷するのではなく、加工(2次産業)や、販売・サービス(3次産業)と組み合わせることによって付加価値を高めていこうとするもの。1次+2次+3次で6次産業化というわけだ。そんな取り組みを追う現場リポート。

 今回は大学と水産業者が一体となって取り組む「産学協働版6次産業」を紹介する。

 『シマアジの生ハム』をご存じだろうか。

 高級魚のシマアジの身をごく薄く切り、柚子の香りを付けて生ハム状に仕上げたものだ。

熊本天草養殖業を営む田脇水産が長崎大学水産学部の協力を得て開発した。田脇水産のホームページのほか、東武百貨店のオンラインショップなどで販売、ちょっと変わった贈答品として好評を博している。自然解凍してそのまま酒の肴とすることもできるが、サラダ仕立てにしたお洒落なオードブルなど活用範囲は広い。

味噌漬けや一夜干しなどを試した結果「生ハム」にたどり着く

シマアジは非常に美味で、アジ類の中では最高級。値段も高い。

 田脇誠一社長は「美味さは刺身が一番だけど、生の流通ではせいぜい2〜3日しかもたない。冷凍しても運べるように、おいしく加工することを考えた」と言う。

味噌漬けや一夜干しなどいろいろ試した結果、生ハム状にするのが最もシマアジの持ち味を生かせるという結論に達したのだそうだ。

 田脇水産は天草マダイトラフグシマアジ養殖を行ってきた。

 田脇社長の父が養殖に成功。長崎大学水産学部で学んだ田脇社長が本格的に養殖業を始めて27年になる。養殖いかだは100台に達し、出荷量はマダイが年間10万〜15万尾(稚魚販売を含む)、トラフグが3万尾、シマアジ1万尾、と規模は大きい。養魚用の魚を産卵させ、孵化させる種苗生産の施設も持ち、活魚の出荷まで一貫して事業展開している。

 植物性プランクトンのクロレラ培養、それを餌として、動物性プランクトンのシオミズツボワムシを育て、幼魚のエサとしている。餌づくりの段階からこだわって魚を育てているのは、それによって魚の味が大きく変わるからだ。

 だが、生魚の出荷ではどうしても相場の変動に左右される。養殖は全国で行われるようになり、価格も大きく下がった。かつて熊本に200軒あった養殖業者は今は3分の1になったという。

 田脇水産も社員8人、パート4人を抱えて、相場変動にあまり左右されない経営を目指さなければならない。それには、付加価値の高い加工品の拡大がカギだったのである。

長崎大学水産学部での学びから生まれた新商品

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 そんな時に出会ったのが、母校である長崎大学水産学部が始めた「海洋サイバネティクス長崎県の水産再生」プログラムだった。

 水産業活性化のための社会人養成を狙いにしていた「海洋サイバネティクス」とは、水産科学に加えて、環境科学や生物学経済学、工学などを融合させた学問領域。漁業者や加工業者、販売業者など水産のプロである社会人を対象にしている。田脇社長は2011年度の受講生として、シマアジの商品開発と販売戦略に取り組んだのである。それで生まれたのがシマアジの生ハムだったわけだ。

 産学協働で製品を作り出しても、最後の販売はなかなかうまくゆかないのが常だ。

長崎大学は東武百貨店の協力を得て、「匠が織り成す新しい恵海(めぐみ)の味」という独自コーナーをオンラインショップ上に開いた。「海洋サイバネティクス」をきっかけに、受講者は販売チャネルを得ることができる仕組みだ。

 ちなみに、田脇水産の『シマアジの生ハム』と姉妹商品の『天草いぶし桜鯛』をセットにした商品も東武百貨店が販売している。『天草いぶし桜鯛』はマダイの身を薄造りにして、クルミチップでスモークしたもの。マダイの美味さが濃縮された、これも逸品だ。

 『シマアジの生ハム』など、本格的に加工品の販売に乗り出した2012年で、加工品がようやく田脇水産全体の売り上げの1%を占めるようになった。

 もともと、加工品の開発には前向きで、マダイを開きにして紅白の二つの色と味を付けた『天草鯛の二重奏』が商工会議所が推進する「天草謹製」ブランドに認定されている。紅白の鯛がめでたいとあってお祝い品などに重宝されてきたが、それでも売り上げはごくわずかだった。長崎大学を通じて都会の百貨店と結びつくことで、ようやく“事業化”してきたのである。

目標は売上げ全体に占める加工品販売額1割

 いずれは全体の売り上げに占める加工品販売の割合を10%にまでもっていくのが目標だ、という。田脇社長は「加工品にかけるエネルギーと悩みは、仕事全体の半分以上」と笑う。天草の美味しい魚を全国の人に食べて欲しい、という思いで、新商品の開発には余念がない。

 もっとも、今後、加工を事業の柱にする場合、ある段階でひとつの決断が必要になる。現在は餌置き場の一角に作った専用の食品加工場で製造しているが、ほぼ手作りに等しい。大量に生産しようと思えば、本格的な加工設備が必要になる。今の規模では贈答品需要に応えるだけで精一杯なのだ。

 加工場を増設するとなれば投資も必要だし、新たな人材の雇用も必要になる。6次産業化に向けて大きな一歩を踏み出すかどうか。田脇社長の悩みは続く。

株式市場に必要なのはカネだけではない!

| 16:18

ウェッジの7月号(6月20日発売)に掲載された連載記事です。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2954?page=1

 株の町、東京日本橋兜町が賑わいを見せている。1年前とは打って変わり、町を歩く証券マンの表情も明るい。周囲の老舗の売り上げもうなぎ登りとか。長期にわたって株価低迷が続き、証券会社が続々廃業。兜町がワンルームマンションの町に変わりつつあったから、すんでのところで復活の兆しが見えてきたということだろう。

 町の中心である東京証券取引所も今年1月、大阪証券取引所と合併。日本取引所グループが誕生した。日本の金融市場の中心として体制を整えたところへ、アベノミクスの追い風が吹いた。ご存じ、安倍晋三首相が掲げる経済政策である。昨年末に10,395円だった日経平均株価は5月には15,000円を突破、5カ月で5割も上昇した。

 もちろん、兜町が潤っているのは、株価水準が上がったためではない。長年、株式市場から遠ざかっていた個人投資家などが一気に売買を再開、売買高が急増していることが大きい。実際、5月23日には日経平均が1100円も下がる急落に見舞われたが、この日の売買高は何と76億5500万株と過去最高を記録。売買代金で見ても5兆8377億円と2007年以来の過去最高となった。バブル真っ盛りの1987年3月の1日平均売買高が14億株で、バブル崩壊後は1億株台しか出来ないこともあったことを考えると、猛烈な活況ぶりだ。上場企業である日本取引所株価自体、あれよあれよという間に3倍になったことを見ても、いかにアベノミクス兜町を潤しつつあるかを示している。

 バブル期の5倍という売買高は個人投資家が戻ってきたことだけによるわけではない。売買の仕方がこの四半世紀で劇的に変わったのだ。インターネット売買の普及でデイ・トレーダーと呼ばれる投資家が急増し、株式を長期に持つのではなく、1日の間に売買するスタイルが一気に普及した。いわゆる回転売買が激しさを増すことで、売買高が大きく膨らんでいるのだ。

 さらにアルゴリズム取引と呼ばれるコンピューターによる自動売買も広がっている。株価のわずかな動きを捉えて激しく売買を繰り返すシステムである。短期的な株式売買の世界は、もはやコンピューターどうしの戦いの様相を呈している。取引所の売買システムのコンピューターとつなぐミリセカンド(1000分の1秒)の通信時間が優劣を決するようにまでなった。取引所のサーバーが置かれているデータセンター内に自社のサーバーを置くことはもとより、隣の棚に置けるかどうかまでが争われている。それがデータセンターのサービスにもなっている。

東京は機械ばかりが跋扈する市場になってしまった」

 昨年、取引所業界の専門家がぼやいていたのを思い出す。証券会社などに籍を置き、日本株を売買する日本人のトレーダーが、この4〜5年の間に兜町を見捨て、香港シンガポールに移住してしまった、というのだ。しかも彼らはかの地で引き続き日本株の売買を続けている。

トレーダー、資産家が日本から去っていく

 なぜ、拠点を移すのか。彼らも好き好んで海外暮らしを選んでいるわけではない。最後は税制など日本の規制に行き着くのだという。有価証券取引税や所得税などコストが高く、同じ日本株を売買する際に香港などの方が圧倒的に有利になるのだそうだ。

 法人税所得税相続税といった税金の税率はアジアの国々に比べて日本は高い。企業オーナーや資産家が日本を脱出し、相続税がない国や所得税率が低い国に移住する傾向はここ5年ほど続いていた。とくに民主党政権資産課税を強化する姿勢を見せていたことで、その流れは一気に加速していた。

 アベノミクスで国内景気がデフレから脱却しそうな気配が見えたことで、その流れが止まるかと思いきや、止まらない。むしろ景気回復でインフレになることを予想、インフレによる資産の目減りなどを懸念して、円高のうちに資産を移そうと考える人が少なくないという。当然、資産家がいなくなれば、日本株の売買にとってもマイナスだ。しかも資産家の場合、短期の売買よりも大量の株式を長期にわたって保有するケースが多い。そんな投資家が日本国内からジワジワと減っているわけである。

 自民党日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)は政府の成長戦略よりひと足早く「中間提言」をまとめた。その中には「金融・資本市場の魅力拡大(『5年以内』に世界一へ)」という項目がある。

 「香港シンガポール上海などのアジア新興資本市場の台頭を踏まえつつ、日本の資本市場がニューヨークロンドンなどとも比肩できる世界の代表的な市場としての評価を5年以内に確立する事を目指し、市場の魅力拡大に最大限努める」としている。

 具体策としては「総合取引所の早期実現」「英文開示や国際会計基準の利用の拡大」「東証『グローバル300社』インデックスの創設」「資本市場の監視・監督体制の格段の強化」「REIT市場の活性化」といった政策が並んでいる。バブル期同様、世界一と肩を並べる市場に戻そうというわけだ。その心意気は必要だろう。

 だが、それ以上に大事なのは、日本の資本市場に「人」が集まるような政策を取ることではないか。いくら「カネ」が集まっているといっても海外から操作されている機械の取引だけで回っているのでは、本当の意味での金融業は日本で発達しない。

 バブル期に進出した世界の金融機関が東京を後にして久しい。多くが香港シンガポールに拠点を移したままだ。こうした金融機関を呼び戻し、金持ちが日本に資産を移し、日本で消費生活を楽しむ。それでこそ、本当の意味で経済は再成長路線に乗る。

 日経平均が1100円の急落を演じた際、経済界の一部からはアルゴリズム取引を規制すべきだという声が上がった。これに対して麻生太郎副総理財務相は「1日で株価が乱高下するのはあの機械のおかげだと僕は思っている」と述べたものの、一方的に規制するようなことはしない方針を示した。もはや世界でアルゴリズム取引が行われている以上、一国だけで規制することは難しい。それよりもむしろ、多くの金融機関や個人投資家が世界から集まる国にするにはどうすべきか。

 これまで政府は、日本の製造業が国内にとどまることを奨励する目的で、「国内立地補助金」などを出してきた。ならば、国内に金融機関や投資家が留まったり、あるいは海外からやってくる場合に、税制上のメリットが生じるような制度改革をしていくべきだろう。兜町の活況を単なる一時のミニバブルに終わらせてはいけない。

◆WEDGE2013年7月号より

2013-07-24

IFRS「300社」で新株価指数(7月号)

| 00:19

6月20日発売の「ファクタ」7月号に掲載された原稿を、編集部のご厚意で以下に再掲します。IFRS関連の原稿です。オリジナルページ→http://facta.co.jp/article/201307002.html

国際会計基準(IFRS)の適用問題がようやく前進し始めた。民主党政権下で自見庄三郎金融相が突然「先送り」を表明して以来、時間だけを浪費してきたが、政権交代金融庁も腹を括ったようだ。

日本経済新聞は5月28日付の朝刊1面で「国際会計基準の強制適用、当面見送りへ 金融庁」という記事を掲載した。「企業会計審議会金融庁長官の諮問機関)が7月にもまとめる報告書に強制適用の時期を明記しない」と書いていたが、これは本質を突いていない。

自見氏が追加選任したIFRS反対派が多数を占める審議会では毎回、ただただ声高に反対論を叫ぶ委員が“大活躍”するばかり。国際的に通用する会計基準の決定という国益を大きく左右する問題で、日本がどう国際的な立場を保っていくのかという戦略的な議論はほとんどなかった。強制適用の時期を盛り込んだ報告書など、もともと出るはずもないのだ。

だが反対派の抵抗にもかかわらず、IFRSの適用は大きく前進することになりそうだ。現在も認められている「任意適用」を大幅に拡大することが報告書に盛り込まれるからだ。海外に資本金20億円以上の子会社を持つ場合などに限っていた規制を緩め、新規上場企業にも利用を認める。任意適用の拡大はIFRS反対派も主張してきたことなので、これには反対できない。そもそも反対派は任意適用ではIFRS採用会社は増えないと高を括っているのだ。

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自民党の企業会計小委員会は6月、IFRSに関する提言をまとめた。そこにはこんな一文が盛り込まれた。

「2016年末までに、国際的に事業展開をする企業など、概ね300社程度の企業がIFRSを適用する状態になるよう中期目標を立て、その実現に向けて積極的に環境を整備すべきである」

小委員会では、出席議員から「300社では不十分ではないか」といった意見も出たが、金融庁は当面この300社を目標として、導入企業にインセンティブを与えることなどを検討する姿勢を示した。

実は金融庁には、何が何でもIFRSの任意適用を拡大しなければならない理由があるのだ。国際基準づくりを進める「国際会計基準(IFRS)財団」には、規制当局のトップで構成する「モニタリング・ボード」という国際組織がある。ボードには日本の金融庁もメンバーに選ばれ、河野正道・国際政策統括官が出席している。米国はSEC(証券取引委員会)委員長が出ており、日本も金融庁長官のポストだが、英語が流暢な国際派の河野氏が出ている。その河野氏がボードの議長に選ばれているのだ。

そのメンバーの見直しが16年に行われる。条件は自国の資本市場でのIFRSの使用とIFRS財団への資金拠出。IFRSを使用していない国や資金負担をしない国の規制当局は、基準作りに口出しできないわけだ。そして、IFRSの使用については「強制又は任意適用」が必要だとしたうえで、「IFRSが顕著に使用されることとならなければならない」とされている。つまり、16年までに日本企業のIFRSの任意採用を「顕著」にすることを、金融庁は国際的に公約しているわけだ。16年までに300社という数字はここから出ているのである。

だが、放っておいて任意適用が300社になるわけではない。金融庁が切り札として考え出したのが取引所との連携だ。東証を傘下にもつ日本取引所グループに「グローバル300(仮称)」という株価指数の策定を急がせている。構成銘柄の条件はIFRSをすでに採用するか16年までに採用すること、社外から独立取締役を導入していること、英文で情報開示をしていることなど、世界の投資家に向けて、日本の今後を担うグローバル水準に達した良い会社を「見える化」しようというわけだ。

新指数の開発には日経平均株価を計算している日本経済新聞が当たる。指数を巡っては東証がTOPIX東証株価指数)をつくって以来、日経とは冷戦状態で、日本取引所取締役からは日経と組むことに反対意見も出たが、斉藤惇CEO(最高経営責任者)が押し切った。老舗の大企業を中心とする日経平均株価と並ぶ、日本を代表する指数にするには日経との和解が不可欠という判断があった。もちろん、合併によって日経平均先物を扱う大阪証券取引所が傘下に入ったこともある。

実はこの「グローバル300」指数。安倍晋三内閣が6月14日に閣議決定した成長戦略にも盛り込まれている。自民党日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)が5月に出した「中間提言」に、日本の資本市場再生策の具体策として盛り込まれたものだが、そこにも指数を構成する企業にIFRSの採用を義務付けることがうたわれていた。成長戦略の工程表では13年度中に指数の概要を決めるよう日本取引所に求めることが明記されている。

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かつてドイツ取引所が株式市場を再編してグローバル企業を対象にした「プライム・スタンダード市場」を作った。東証1部、2部、マザーズといった市場を再編し、「グローバル企業市場」などを設立する案もあったが、「東証1部」が信用力を測るブランドになっている現状を壊すと混乱が大きいと判断。新指数の策定に落ち着いた。

指数に組み込まれるからと言ってインセンティブにならないのではないか、という声もある。だが、世界の投資家が売買する指数になれば、先物と現物を組み合わせて売買する機関投資家などを中心に、構成銘柄の現物株へのニーズが一気に高まる。日経平均株価から除外された途端にその会社の株価が急落するのを見ても分かる。

国際市場で海外のライバルと戦っている企業は、ライバル企業ときちんと比較されたうえで評価され株価が付くことを願っている。ライバル企業に比べて格安な株価しか付かなければ、買収の危機にさらされるからだ。そうした国際感覚を持った経営者からすれば、新指数に採用されることは極めて重要だということになる。

もっとも、冒頭の日経新聞が「当面」と書いているように、強制適用自体が消えたわけではない。安倍首相は今後の3年間を内外の投資を促進する「集中投資促進期間」と定め、それを促すために制度や規制を国際水準にそろえることを表明した。

自民党会計小委の提言でも促進期間の「できるだけ早い時期に、強制適用の是非や適用に関するタイムスケジュールを決定する」ことを求められた。7月以降、強制適用に向けた議論が再び始まる可能性が大きい。

2013-07-23

なし崩しで振り出しに戻りつつある「公務員制度改革」 安倍首相の本気度が問われる

| 16:32

選挙は予想通り自民党の圧勝で終わりました。選挙戦中、安倍首相が強い口調で訴えた経済再生のための改革が、本当に進むのかどうか。これから安倍氏の本気度が試されます。その本気度を占う1つの尺度が「公務員制度改革」への取り組み姿勢でしょう。第1次安倍内閣であれほど強硬に推し進めた公務員制度改革に、安倍首相はどんな姿勢で取り組むのでしょうか。日経ビジネスオンライン選挙直前にアップされた原稿です。ご一読お願いします。オリジナルページ⇒http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130716/251151/


 安倍晋三首相は6月28日、首相官邸国家公務員制度改革推進本部の会議を開いた。推進本部は3月に持ち回りの本部決定を行っているが、実際に会議を開いたのは安倍内閣になって初めて。参議院議員選挙を前に「公務員制度改革」に取り組む姿勢をアピールした格好だったが、実はこの会議は安倍内閣としては最初で最後のものとなった。というのも推進本部とその事務局が7月10日をもって消滅したからである。

 この推進本部は2008年に施行された国家公務員制度改革基本法に基づいて設置されたが、実は5年間の時限措置だった。5年の間に一気に公務員制度改革を進め解散することになっていたのだ。その期日が到来したわけである。

 もちろん当初予定されていた公務員制度改革が完了したわけではない。基本法に基づいて国家公務員法改正案が繰り返し国会に出されたが、いずれも廃案になっている。むしろ具体的な改革はほとんど進まなかったと言っていい。では、安倍内閣として今後の公務員制度改革をどうするのか。その方針が、この最後の会議で「今後の公務員制度改革について」という文書として「本部決定」された。

今回の方針は、一言でいえば「緩い」

 公務員制度改革は第1次安倍内閣が最も力を入れたテーマだった。公務員制度改革は「天下りあっせんの禁止」を盛り込んだ2007年4月24日の閣議決定からスタートした。当時、予算や権限を背景とした押しつけ的な斡旋が行われているとした政府の答弁書を出すにあたり、当時の事務次官4人が公然と反対したが、それを「事務次官会議なんて法律でどこにも規定されていない」として押し切るなど霞が関を敵に回しながら闘ったのも安倍首相だった。事務次官会議で了承を得たものだけを閣議にかけるという不文律をぶち破ったのである。

 だが、今回決定された方針からは、そんな安倍首相の強い意志が感じられない。ひと言で言えば「緩い」のだ。

 第1次安倍内閣の閣議決定にあった「再就職に関する規制」といった言葉は姿を消した。もちろん「天下り」という言葉もない。「退職管理の適正化」という言葉だけが出て来るが、これも過去の取り組みとして触れられているだけで、すでに問題解決済みという扱いなのだ。もはや、押しつけ的な天下り斡旋など日本から姿を消したという判断のようだ。

 では何を改革するのか。「改革の必要性」としてこう書かれている。

 「誤った政治主導を是正し、『政』と『官』の役割を明確にすることにより、相互の信頼の上に立った本当の意味での政治主導を確立する必要がある。この真の政治主導の下、公務員が使命感と行政のプロとしての誇りを胸に、国家・国民のために積極的に行動できる、新しい公務員制度を創ることが、今、求められている」

 そのうえで、具体的に5つの点を掲げている。

 1)幹部人事の一元管理

 2)幹部候補育成課程

 3)内閣人事局の設置等

 4)国家戦略スタッフ、政務スタッフ

 5)その他の法制上の措置の取扱い

 内閣人事局を設置して幹部人事については内閣が一元管理するというのは、長年議論されてきたことである。しばしば指摘されているように、現在の人事は採用から人員配置、評価に至るまで各省庁別で、縦割り行政の弊害を生んでいた。しばしば「省益あって国益なし」と指摘されてきた。官邸主導、政治主導が言われて久しいが、内閣が各省を掌握てきないのは端的に言えば人事権がないからだった。もちろん、これまでのやり方や各省の権益をぶち壊すことになる内閣人事局の設置には霞が関は今も反対である。

文章にちりばめられた「抵抗」

 安倍内閣の後を継いだ福田康夫内閣は2008年に国家公務員制度改革基本法を設置、上記の5項目もそこに盛り込まれている。安倍首相はその実現を改めて掲げたのである。

 だが、本当に改革ができるのか。この文章にもさまざまな「抵抗」がちりばめられている。

 文章の前段には「秋に国会が開かれる場合には、国家公務員制度改革関連法案を提出するとともに、平成26年春に内閣人事局を設置することを目指す」と書かれているが、あくまで「目指す」である。さらに上記の5つに関しては「基本法の条文に即し、以下の各項目に関して機動的な運用が可能な制度設計を行う」として、「制度設計を行う」と書かれているだけで、実現するとは書かれていない。しかも、「内閣人事局の設置等」と「等」が付き、他の選択肢があるような書きぶりになっている。官僚が抵抗する時の常とう手段である。

 本部がなくなった後については、行政改革推進本部が、「本決定の方針に則って」「法案の立案業務及び内閣人事局設置準備業務を推進することとする」と書かれている。同じ推進本部なので、機能は変わらないと思われるだろう。だが現実は全く違う。基本法に明記されて権限がはっきりしていた公務員制度改革推進本部とちがい、行政改革推進本部が行う公務員制度改革の根拠は、この「本部決定」しかないわけだ。しかも本部決定で「閣議決定」にもなっていない。霞が関で官僚の行動を縛るのは法令だ。その根拠は極めて「緩い」わけである。

 なぜ、安倍首相はかつてほど公務員制度改革に強硬な姿勢を見せないのか。

 側近によれば、安倍首相霞が関との関係を相当気にしている、という。第1次安倍内閣が短命に終わったのは、霞が関を完全に敵に回したことが大きな要因だったと見ているというのだ。少なくとも参議院議員選挙が終わり政治的基盤を固めるまでは、霞が関を敵に回したくないということのようなのだ。

 では、参議院選挙で衆参のねじれを解消し、与党だけで法案が通せるようになった段階で、安倍首相公務員制度に斬り込んでいくのだろうか。

 1つの試金石は「幹部公務員制度」の行方だ。安倍氏は、今後の公務員制度改革は2009年の麻生太郎内閣で閣議決定した国家公務員法改正案をベースにする方針だという。この法案は廃案になったが、当時策定作業に当たったのが甘利明氏だったことから「甘利法案」と呼ばれている。この法案には幹部の人事制度として「特例降任」という制度が盛り込まれているが、一度審議官以上の幹部になると現実には幹部から外すことができない。幹部から外せないとなると、役人の定員が決まっているため、外部からの登用はできないということになってしまう。

政府機関への天下りも復活

 実は、民主党政権時代、自民党みんなの党が共同で「幹部公務員法案」を国会に提出したことがある。これも廃案になっているが、今年6月にはほぼ同じ内容の「幹部公務員法案」を民主党日本維新の会みんなの党の3党で共同提出した。

 参議院選挙後に安倍自民党が再び「幹部公務員法」に意欲を示せば、与野党の多くは賛成する可能性が高く、成立する環境にある。反対は霞が関だけである。安倍首相が秋の臨時国会に向けてどんな姿勢を見せるのか。提出される関連法案はどんな内容になるのか。

 5年間のサボタージュの結果、国家公務員制度改革推進本部が消え、基本法も事実上機能しなくなった。公務員制度改革はなし崩し的に振り出しに向けて戻りつつあるという見方もできる。そんな中で、霞が関の守旧派官僚たちは祝杯を挙げているといわれる。実際、民主党政権の後半以降、政府機関への天下りもなし崩し的に復活している。そんな実状を安倍首相はどう見ているのか。

 選挙が終われば安倍氏の改革姿勢が改めて問われることになる。

2013-07-22

安倍政権のエネルギー政策はいったいどうなる。首相のリーダーシップが試される「電力システム改革」の行方

| 18:33

参議院選挙前に現代ビジネスにアップされた原稿を以下に再掲します。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36438


参議院議員選挙の投票日が近づいてきた。7月に入り、日本列島は例年にない猛暑に見舞われているが、まったくと言ってよいほどエネルギー問題は争点になっていない。自民党公明党は、原子力発電所の再稼働が必要という立場だが、世論を刺激するような強硬な物言いは避けているように見える。

選挙公約にしてもこんな具合だ。

原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。その上で、国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします」

 この文章を読む限り、何が何でも原発を再稼働させようとしているわけではない、と言っているようにも見える。社民党共産党はもちろん、日本維新の会みんなの党など野党のほとんどは「脱原発」を掲げているが、正面からぶつかって来ない与党を攻めあぐねている。

 昨年の夏前、民主党政権は、「原発を再稼働しなければ夏場の電力が足りなくなる」と繰り返し喧伝し、7月1日に関西電力大飯原子力発電所を再稼働させた。昨年を上回る猛暑が続いても、今年はそんな「危機を煽る」手法は封印されている。選挙前にどこかの原発を再稼働させていたら、選挙戦の様相はまったく違ったものになっていただろう。それは、東京電力が柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働の前提となる安全審査の申請に動き出したことに対する新潟県の反発などを見ても明らかだ。

 では、選挙後に、安倍政権はどんなエネルギー政策を推し進めようとしているのか。

野党が合意した「電気事業法改正案」は廃案に

 6月26日、会期末を迎えた通常国会は、事前の見込みを覆す異例の展開となった。参議院の会議に出席を拒否した安倍首相に対して、野党側が問責決議案を提出。野党の賛成多数で可決してしまったのである。これによって、与野党の合意で成立が確実だった「電気事業法改正案」が、廃案になってしまったのである。

 安倍内閣は4月2日、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定していた。地域ごとに独占を認めている現在の電力供給の仕組みを見直し、家庭ごとに電力会社を選択できるようにするなど、3段階に分けて改革を進める方針を明確にした。その第1段階の法改正が頓挫してしまったのである。

 3段階の改革とは、まず2015年をメドに「広域系統運用機関」を新設して、地域を越えて足りない電力を融通しやすくするのが第一歩。続いて、2016年をメドに新しい発電会社が、家庭向けに電力を販売することを認め、企業向けから家庭向けまですべての電力販売を自由化するとした。さらに第3段階として、長年の懸案だった既存の電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」に踏み切る。2018年から2020年をメドに実現を目指す、としていた。

 発送電分離には、電力業界だけでなく、所管する経済産業省内にも反対論が根強く存在する。長い間、9つの電力会社(沖縄を加えると10社)がそれぞれの地域の独占権を握る「9電力体制(10電力体制)」こそが、電力を安定供給するためには不可欠だとされてきた。安倍首相は、そんな独占体制に風穴を開けたのである。

 6月に英国北アイルランドの避暑地ロックアーンで開かれたG8サミット(主要国首脳会議)に出席した安倍首相は、その途上、ロンドンで講演を行った。そこでもこんな発言をした。

「日本の再興に必要なものは、古い日本を新しくし、新しい日本をもっと強くする、強力な触媒です。対日直接投資にその期待がかかります。2020年までに、外国企業の対日直接投資残高を、いまの2倍、35兆円に拡大します。最近の相場で換算すると、3,700億ドルを上回る規模になります」

 つまり、外国企業に日本への投資を呼びかけたのである。海外からヒト・モノ・カネが集まらなければ、経済は発展しない。だが、外国企業は、道楽で日本に投資するわけではない。チャンスがなければカネはやってこない。

 そのチャンスとして安倍首相が持ち出したのが、電力市場改革だった。「限りないイノベーションの起こり得る、大きな市場が、日本に現れようとしています」「つい先日、半世紀以上続いた市場の寡占に終止符を打ち、電力市場の自由化と、送配電の分離を進める意思決定をしたのです」と胸を張って見せたのである。

電源の多様化には「電力システム改革」の早期実現が不可欠

 もちろん今でも、電力業界やその意向を受けた議員、役所の一部には、地域独占を守るべしという意見が根強くある。これまでは、地域独占を認める一方で、「総括原価主義」と呼ばれる電力料金の決定方法がとられてきた。燃料価格の上下を自動的に料金に転嫁する「燃料費調整制度」もある。

 つまり、電力会社は競争から解き放たれ、停電や事故を起こさず、高品位の電気を安定的に提供することだけが使命であったのだ。その独占体制を守る最大の砦が「発送電」の一体化維持、つまり「発送電分離阻止」だったのである。

 そんな反対論を押し切る形で閣議決定したにもかかわらず、「骨抜き」を懸念する声が挙がった。反対派への配慮から、発送電分離法案の提出時期を「2015年を目指す」という努力目標のような表現にしてしまったためだ。さらに、第1弾の法案が廃案になったことで、改革の遅れが懸念される。反対派が巻き返す時間的余裕ができたという見方もできる。

 しかし、だからと言って、時計の針が逆を向いて動くことはなさそうだ。

原発事故に直面した経済産業省でも若手の課長級を中心に、「脱原発依存」はもはや不可避で、「発送電分離」などの自由化を大きく進めなければ電力コストの上昇で早晩やっていけなくなる、という見方が支配的になっている。

 総括原価主義を維持したままでは、家庭向け電力料金の大幅な上昇は避けられない。消費者の不満を爆発させないためには、「発送電分離」や自由化によって「電力会社を選ぶ」選択肢を増やすしかない、というわけだ。それが「電力システム改革」の閣議決定に至った理屈だった。

原発に対する国民世論が厳しいことを考えれば、原発への依存度はせいぜい10%ぐらいだろう」と、電力システム改革の原案づくりに携わった経産省の中堅幹部は言う。そうなった場合、他を自然エネルギーだけですべて賄うのは無理だ。石炭LNG液化天然ガス)、原油の需要が高まるのは明らかだ。

「日本の太陽光電力市場は、今年度、再び、世界でトップクラスの規模を取り戻します。風力、波力、バイオマス水素そして燃料電池。私たちの前には、多様な機会が現れています」

ロンドンでの講演で安倍首相は、多様な電源を追求することが新たなイノベーションを生み、投資機会を生むと強調した。電源の多様化を目指せば、ドイツなどが進めた地域分散型のエネルギー供給へと進んでいく。全国を送電線網で結び、大規模な発電所を建設して安定的にエネルギーを供給する体制から、地域の実情に合った中小規模の電源開発へと流れは変わっていくだろう。

 ミニ水力やバイオマスなどに加え、コージェネレーション(熱電併給)システムの導入拡大なども重要なテーマになってくる。コージェネは、排熱を再利用するためエネルギー効率は高い。そうした電源の多様化が進むためにも、「電力システム改革」の早期実現が不可欠だ。

 世界に向けて大見得を切った安倍首相が、選挙後にどんなリーダーシップを見せるのか。大方の予想通り、電気事業法がすんなり改正されるか。秋の臨時国会に注目したい。

2013-07-18

10年以上も上昇を続ける高過ぎる投信手数料は、投信統合簡易化で本当に下がるのか

| 16:59

日本経済新聞にこの記事が出た際、投信運用に長年携わる金融界の幹部から電話をもらった。「あまりにも変だ」というのである。「投資家の利益になる」という触れ込みだが、本当に本当なのだろうか。この第一報はともかくとして、現場の記者にはさらに検証する記事を書いてもらいたいものだ。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36442


 そんな金融庁の方針を、7月11日付け日本経済新聞が朝刊1面で報じた。「投信の数が急増し、手数料が過去最高水準に達しているため」、金融庁が「投資家に不利益が生じていると判断」、「投資信託の統合を促す」という内容だった。

投信の手数料が株式売買手数料などに比べて高過ぎなのは明らかで、これが投資家の不利益を生じているという金融庁の認識は正しいだろう。

 だが、数多くある投信を統合すれば、本当に手数料は下がるのだろうか。

管理コストが下がれば手数料は下がるのか

 記事によれば、理屈はこうだ。投信の残高が小さいと投資家をつなぎ留めるのが難しくなり、残高に占める管理コストの割合は高まる。こうした投信を統合することが簡単になれば、効率化できて、管理コストが下がる。そうなれば、手数料の引き下げにつながる、というのである。

 これまで投信を統合するには、過半数の投資家の書面による承認決議が必要で、現実に統合する投信はほとんどなかった。金融庁は、「同じ種類の資産を組み入れ、投資家に不利益にならないような資産内容の変更にとどまる場合」、書面決議を不要にする方針だという。異なる投資対象や方針を採用している投信の合併は従来通り書面決議を義務づけるとしているが、これについても要件を緩和する方向らしい。

投信統合の議論は、金融庁の「投資信託投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」で出てきたものだ。金融審議会の委員を中心とする学者や弁護士など専門家で構成され、2012年3月から12月まで13回にわたって議論された。その最終報告には投信の併合手続き、つまり投信統合の問題が「書面決議を要する併合手続の見直し」と題して、こう盛り込まれていた。

 現在、投資信託間の併合に当たっては常に双方の投資信託において書面決議を要することとされている。これが、非効率な小規模投資信託を存続させ、ひいては経費率の上昇を通じて受益者の利益を害しているおそれがあると指摘されている。投資信託の併合を促進する観点から、併合の前後で「商品としての基本的な性格」に相違がない投資信託については書面決議を不要とすることが適当である。

 このワーキンググループの議論の過程ではこんな指摘も出ていた。

 ドイツ証券の村木正雄シニアアナリストが提出した資料には「大手リテール証券の収益構成比の推移」というグラフがあり、投信販売手数料の収入割合が年々上昇、2009年以降、35〜45%に達していること、その一方で、投信残高に応じて入る収入は年々低下、15%前後に留まっていることが図示されていた。

 ちなみに株式売買手数料10〜15%となっている。つまり、大手証券の収益が圧倒的に投信販売の手数料に依存しているかを示していたのだ。これは銀行にしても同じで、銀行の収益に占める投信販売手数料の割合は年々上昇していた。

 日本で販売されている株式公募型の投信は約4000本で、年300本近い新商品が発売されている、と日経新聞の記事にもある。とにかく投信の新商品を売り出し、新しい顧客の資金を獲得することで販売手数料を稼ぐ。そんなビジネスモデルに証券会社も銀行もなっているのだ。

金融機関にとって投信販売は利益率の非常に高いビジネス

 日本では投資家が投信の購入時に払う販売手数料は非常に高い。2013年上期に新規に発売された投信の手数料は2.59%だったという。しかもここ10年上昇を続けているという。投信によっては3%を超えるものも珍しくない。

ネット証券会社の台頭などで株式売買手数料が大幅に低下する中で、投信販売は利益率の非常に高いビジネスになっているのだ。

 銀行がキャンペーンで新たな資金を預ける場合、半分を投信にすると残りの半分の定期預金の金利を1年間に限って1%上乗せするといったケースが目立った。投信の販売手数料が2.5%入るなら、同額の定期預金に1%の金利を付けても十分に元が取れる。

 低金利の中で1%上乗せと聞けば、凄い優遇金利のように聞こえるが、何ということはない投資家自身が支払った手数料の一部が金利として回っているに過ぎない。

投信は残高に対しても年間で2%近い管理手数料を取る。米国では一%以下と言われ、非常に高い。だが、金融機関からすれば、ワンショットの売買でそれを上回る手数料が稼げるわけだから、新規の販売に力が入るのは当然である。

 これが新規商品がどんどん生まれ小規模投信が乱立する本当の要因だろう。顧客を新規商品に誘導して、資金をどんどん回転させれば、それだけ手数料が落ちる。金融機関のビジネスモデルの帰結としてファンド乱立が起きたのだ。

 では、投信の統合が簡単になることで、手数料が下がるというのは本当だろうか。

 小規模になって管理コストばかりがかさむことになった投信を統合すれば、投信会社の収益には間違いなく貢献する。では投信会社はその分を自主的に販売手数料の引き下げに向けるのだろうか。

結局のところ得をするのは投信業者ではないか

 本来は販売される投信の数が増えれば増えるほど、商品間の競争が激しくなり手数料の高いものは淘汰されていくはずだ。数が多い方が競争は働くと考えるのが普通だろう。逆に統合しやすくして仮に投信の数が減れば、むしろ手数料は上昇するのではないか。

 いや、それは年間の管理手数料の引き下げにつながるのだ、という反論があるかもしれない。だが、販売手数料と管理手数料の格差が今よりも広がれば、一段とじっくり長期にわたって資金を預かって運用するよりも、短期間で新商品を売買した方が儲かることになる。

金融庁が言う投信統合の促進は投資家の利益のためではなく、投信業者の利益のためではないか、と疑いたくなる。

 しかも投信統合の書面決議を不要とするケースを「投資家に不利益にならないような資産内容の変更にとどまる場合」とした場合、不利益にならないかどうかを誰が判断するのか。過半数の投資家の議決なら裁量の余地はない。だが、不利益になるかどうかという判断を加えるとすると、そこには裁量の余地が生じる。

 案の定、冒頭の日経新聞の記事にはこんな下りがあった。

金融庁は政省令の改正だけでなく、投信を設定する運用会社への監督・検査も強める。監督指針や検査マニュアルの見直し、取り組み状況の点検が焦点となる」

 金融機関の儲け頭である投信販売に、金融庁が裁量行政さながら口をはさむ。そんな下心が見えてくる。

2013-07-17

参院選前に「アベノミクス効果」を分析してみる

| 20:51

参議院議員選挙の投票が近付いてきました。アベノミクスを掲げた安倍自民党野党は攻めあぐねているように見えます。経済再生を掲げられては中々批判がし難いところでしょう。予想通り自民党が圧勝するのでしょうか。新潮社フォーサイトに先週記事を書きました。通常は有料ですが、この記事は無料になっています。是非ご覧ください。オリジナルページ→http://www.fsight.jp/18294


アベノミクスは株を持っている金持ちだけが潤っているのであって、庶民の生活はむしろ苦しくなっている」

 参議院議員選挙選挙戦が始まって、野党によるアベノミクス批判のボルテージが上がっている。安倍晋三首相が進める経済政策バブルを作るだけで実体経済を良くするわけではない、というのである。その際、しばしば使われるのが、消費が増えていると言っても百貨店で高級品が売れているだけで、スーパーの食料品など生活必需品は相変わらず売れていない、という批判だ。これは本当なのだろうか。

消費マインドは緩やかに変化

 日本百貨店協会の統計(店舗数調整前)をみると、確かに「美術・宝飾・貴金属 」の変化は劇的だ。対前年同月比で1月が5.3%増、2月が8.0%増だったものが、3月15.1%増→4月18.4%増→5月22.8%増とうなぎ登りに増えている。アベノミクスでムードが変わったことによって財布のヒモが緩んだのだろう。時計や宝石などが売れているのだ。株高によって資産が膨らみ消費におカネがまわる「資産効果」も生じているようにみえる。

 もっとも、百貨店全体の売り上げが大きく増えているわけではない。全商品合計の売り上げ増減は、1月1.0%減→2月0.3%減→3月3.3%増→4月0.7%減、5月2.4%増といった具合だ。こうみると、高級品だけが突出して売れているようにみえる。野党アベノミクス批判が正しいのだろうか。

 では野党がダメな例に出すスーパーはどうか。大手スーパーなどが加盟 する日本チェーンストア協会の統計をみると、販売高の伸び率(対前年同月比)はこんな具合に変化している。1月5.0%減→2月5.6%減→3月3.9%増、4月0.3%増→5月1.4%増である。これをみると3月以降、消費のムードが変わっているようにもみえなくもない。百貨店の食料品の売上高をみても、1月から4月まではマイナスが続いていたものが、5月には0.2%のプラスに転じた。生活必需品にジワリと景気回復効果がみえ始めているようにもみえる。

 7月9日に発表したイオンの3−5月期(四半期)決算は、本業のもうけを示す営業利益が、前年同期比9.8%増の347億円となり、この時期としては7年ぶりに過去最高を更新した。総合スーパー部門の食料品や家電製品の販売増が寄与しているという。また、7月4日に発表したセブン&アイ・ホールディングスの3−5月期も過去最高の営業利益となった。

 百貨店やスーパーなど小売業界はこれまで、長期のデフレによる売上高の減少に苦しんできた。円安によって輸入食品などの価格が上昇することで、利益が圧迫されるのではないかと懸念されていたが、それを吸収する増収効果があったということだろう。

 ファミリーレストランファストフードなど、外食産業の売り上げも伸びている。日本フードサービス協会統計をみると、1月2.2%減→2月1.3%減→3月1.6%増→4月0.3%減→5月3.3%増と尻上がりに良くなっている。とくに5月の伸びが大きかった。外食産業は比較的庶民的な価格帯の店舗チェーンが多く、いわゆる資産効果とは直結しにくい。こうした分野の伸びは、消費マインドが緩やかに変わってきていることを示しているのかもしれない。

6月のデータに注目

 株高による一過性の消費バブルなのか、それとも消費マインドの変化による実体経済の転換なのか――。

 とりあえずは、今後発表される6月の統計数字が大きな意味を持つだろう。昨年末からほぼ一本調子で上昇してきた株価は、5月後半に急落を繰り返した。日経平均株価で1万6000円に迫っていたが、6月中旬には1万3000円を割った。

 百貨店での美術・宝飾・貴金属 の売り上げ増 が株高による資産効果だけだとしたら、株価の急落が大きく響くに違いない。6月のこの部門の売り上げがどうなるかが注目される。

 日本百貨店協会の6月の統計は7月18日に発表される予定で、ここで高級品の売り上げが激減し、百貨店全体の売り上げも再びマイナスに舞い戻っていれば、やはりアベノミクスバブル的な要素が消費を浮つかせているだけだ、ということになる。ちなみに、18日は参議院選挙の最終盤だけに、統計数字が悪化すれば、アベノミクスを批判したい野党に格好の材料を提供することになるに違いない。

 一方で、仮に6月の数字が5月のムードを引き継いで底堅いものとなれば、アベノミクスによる景気回復がいよいよ軌道に乗ってきたという印象が一段と強くなる。チェーンストア協会やフードサービス協会の6月の統計数字は、選挙後に発表される予定。この数字自体が選挙の材料にされることはないが、どんな傾向になるのか、大いに注目される。

旅行は海外から国内へ

 アベノミクスの景気浮揚効果を占うもう1つの統計が、「訪日外国人数」の推移である。昨年末以来の円安によって、日本を訪れる外国人旅行者 が急増しているのだ。外国人旅行者の増加は国内消費の増加に直結する。

 日本政府観光局の統計(一部推計)によると、日本を訪れた外国人旅行者 数の対前年同月の伸び率は、1月には1.9%減だったものが、2月以降急増している。2月33.5%増→3月26.7%増→4月18.4%増→5月31.2%増といった具合だ。

 昨年秋の尖閣諸島を巡る対立以来、日本を訪れる中国人は激減しているが、韓国台湾香港からの旅行者が急増している。5月を例に取れば、中国からの訪日客は27.2%も減ったのに対して、韓国からは45.5%増、台湾からは61.7%増、香港からは82.2%増とそれぞれ急増している。

 好景気で空前の旅行ブームに沸くアジア諸国からの訪日客の伸びが大きいが、ロシアフランスオーストラリアなどからの訪日客も伸びている。

 4月には月間過去最高の92万3000人が日本を訪れたが、5月も87万5000人と過去3番目の多さだった。このままのペースが続けば、2012年1年間の訪日客835万人を大きく上回り、初めて1000万人の大台に乗せる可能性も十分にありそうだ。

 一方、 これまでは円高で海外旅行に出かける日本人が大きく増えてきた。日本人の出国者数は今年1月まで増えていたが、円安が鮮明になった2月以降、減少に転じている。2月9.0%減→3月4.9%減→4月12.3%減→5月11.8%減である。

 もっとも、その分が国内旅行に回っている。JTBの推計によると、今年の夏休み期間(7月15日−8月31日)の1泊以上の国内旅行者数は7624万人と去年より2.2%増え、過去最高になる見通しだという。これまで海外に落ちていたおカネが国内に回るわけで、二重に国内消費に貢献することになる。

「加工貿易型」から「債権国型」へ

 事実、その効果も数字に現れ始めている。7月8 日に財務省が発表した5月の国際収支状況(速報)によると、サービス収支が441億円と黒字転換した。サービス収支には運輸や旅行に伴う資金移動が含まれるが、外国人が多く日本に来て日本の物を買えば、輸出が増えるのと同じ効果がある。旅館や飲食店、みやげ物店といった地域に密着した産業に直接おカネが落ちる分、大企業中心の物品輸出に比べて景気を暖める即効性が高いとみることができる。

 ちなみに、5月の物品の輸出入の差額、つまり貿易収支は9067億円の赤字だったが、サービス収支の黒字化に加え、海外での配当収入といった所得収支の黒字が大幅に増えたことから、経常収支は5407億円の黒字となった。海外から原材料を輸入して加工した製品を輸出して儲けるという「加工貿易型」の経済から急速に「債権国型」の内需経済へと、アベノミクスの円安株高効果によって、日本が大きく変わり始めていることを示している。

 こうした“構造転換”が間もなく発表される6月以降のデータで実証され、その後も 続くとすれば、日本国内の消費が一段と盛り上がるのは間違いなさそうである。

2013-07-16

アベノミクスに乗れるか 地方の観光地

| 11:19

アベノミクスの効果なんて地方にはまったくありません。そんな声を良く聞きます。では円安株高と地方は無関係なのでしょうか。何かチャンスは無いのでしょうか。フジサンケイビジネスアイの1面コラムが先週掲載されました。

オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130716/mca1307160502000-n1.htm


 県庁所在地から車で1時間ほど離れたある地方都市へ行った。ご多分に漏れず商店街はシャッター通り。高齢化が進み、産業といえば農業ぐらい。しっとりとした良質の温泉が自慢だが、何軒も並ぶ大規模な温泉宿は人影もまばらだ。バブル期に団体客目当てにお色気を売りにした歓楽温泉として名前が知れわたったため、家族連れはなかなかやってこない。他に目立った観光資源もない。

 アベノミクスの円安株高では地方経済には恩恵を及ばさないという声がある。本当だろうか。

 為替が円安に振れたことで、今年2月以降、外国人観光客が急増している。日本政府観光局の調べでは、2月33.5%増、3月26.7%増、4月18.4%増、5月31.2%増である。月別の過去最高を毎月更新し、このままのペースでいけば、今年の訪日外国人は初めて1000万人の大台に乗せそうだ。彼らの多くを引き付けているのが、東京大阪などの大都市や、京都などの一流観光地であることは間違いない。だが、今後リピーターが増えれば、地方の観光地にもどんどん外国人が押し寄せるようになるだろう。

 外国人ばかりではない。JTBの推計では夏休み期間中(7月15日〜8月31日)に1泊以上の国内旅行に出かける人は、7624万人と昨年より2.2%増えて、こちらも過去最高を更新する見通しだという。円安で海外旅行ブームに若干のブレーキがかかっていることもあり、国内旅行回帰が起きているのだ。

 外国人にせよ日本人にせよ、日本国内を旅行して歩く人が間違いなく大幅に増えている。空前の国内旅行ブームがやってくると言っても過言ではなさそうだ。

 問題は地方の観光地が、そうした観光客を引き付けることができるかどうか、である。バブル期に、社員旅行の団体客需要を当て込んだ観光地は全国に数多い。鉄筋コンクリート造りの旅館街は似たような風情になった。かつての豪華設備はむしろ哀感を漂わせる。過剰設備の稼働率を上げるために採算度外視の安値路線に走り、これも地域性や特色をそぐ要因になっている。何せ地元の食材は高くて使えないから、輸入冷凍品ということになるのだ。

 逆に、バブルに乗り遅れたひなびた温泉地が、その後の温泉ブームの柱になった。独特の情緒や地元の料理を売りに、1泊1人5万円でも予約が取れない人気宿も生まれた。

 この20年で、日本人の旅の嗜好(しこう)が文化の薫りを楽しむ旅へと変わってきたように思う。そんな個人を大切にするおもてなしが、実は外国人客にも人気だという。

 自分たちの地域の特色は何か。果たして何が一番の売り物になるのか。それをもう一度考え直して勝負してみるときがやってきているのではないか。アベノミクスの恩恵を受けられるかどうかは、それぞれの地域のそれぞれの経営者の知恵しだいということではないだろうか。(ジャーナリスト 磯山友幸)

2013-07-10

国会議員の質問力を多角的に評価するNPO法人「政策監視会議(万年野党)」の取り組み

| 19:28

国会議員の質問力評価という本邦初?の試みを政策監視会議(万年野党)が実施しました。果たして、質問力の高い議員は誰か。万年野党フェースブックページなどにデータがあります。是非ご覧ください。

オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36384


 前回のこのコラムで、「国会議員の活動データを集積する会」がまとめた全参議院議員国会での質問回数などのランキングを紹介した。質問回数が多ければよいというものではない、という批判を多くいただいたが、その通りだろう。

 実は「政策監視会議(万年野党)」という別の団体が、国会議員の質問力、つまり質問の中味について評価し、ランキングする取り組みを始め、その結果が7月3日に公表された。今回はその取り組みについて紹介したい。

政権監視を専門とする「万年野党

 同会はジャーナリスト田原総一朗さんを会長に、永田町霞が関の政策活動を監視しようというもの。特定非営利活動法人(NPO法人)としての認定を目指して組織化を進めている。政権監視を専門とするという意味合いから「万年野党」という名称にする方針だ。

 同会が初めて行った国会議員の「質問力評価」の方法は3通り。全国会議員にアンケート用紙を配布し、同僚の国会議員の質問に点数を付けさせた。初回ということもあって回答した議員は31人と少ないが、名前の挙がった議員は251人にのぼった。同僚議員の質問について「テーマ設定」「調査・下準備」「成果・実現」のそれぞれについて5点満点で評価、合計15点満点でランキングしている。

 2つ目の調査では、霞が関の省庁の職員、つまり官僚たちに自由に国会議員の質問力を評価させている。絶対匿名を条件に協力者を募ったが、さすがに協力する官僚は少なく、7人による評価にとどまっている。これも同じく15点満点で採点している。

 3つ目の評価方法は、国会議員自身に自薦の質問を出してもらい、それを国会TVのビデオ画像から10分間のサンプルとして抽出するというもの。政策専門家7人が実際にそれを見たうえで評価を下している。

「集積する会」ランキングとの相違点と共通点

 初めの同僚議員評価のランキングは評価者数がひとりでは、同じ党の先輩や仲の良い同僚に高評価を与えたものが目立つので、同僚議員2人以上から評価された議員131人に限ってランキングしている。

 同僚評価で最も高い点数だったのが前原誠司衆院議員民主党)。理路整然とした語り口に定評がある。次いで山井和則衆院議員、後藤佑一衆院議員民主党議員が続いた。4位に入ったのが西田昌司参院議員。いわゆる爆弾質問系、糾弾調の質問が持ち味の自民党議員だ。

 党派別にみると、みんなの党では6位に中西健治参院議員が入り、同率7位には公明党江田康幸衆院議員日本維新の会小沢鋭仁衆院議員共産党大門実紀史参院議員生活の党森ゆうこ参院議員が肩を並べた。

 ちなみに「国会議員の活動データを集積する会」の国会質問回数では大門氏(6位の93回)、中西氏(10位の80回)の2人がベスト10に入っていた。質問回数が多いだけでなく、質問内容についての同僚議員の評価も高いということだろう。

 2つ目の調査である官僚によるランキングは、トップに6議員が並んだ。衆院ではの柿沢未途(みんな)、後藤佑一(民主)、松本剛明民主)、義家弘介(自民)の各議員参院では鈴木寛民主)、世耕弘成(自民)の両議員だ。

 いずれも政策通として知られる議員であり、官僚たちが仕事上の付き合いで議員の質問力を熟知していることの表れだろう。ちなみに柿沢議員は「集積する会」が昨年末にまとめた衆議院議員の質問回数ランキングでトップだった。

 3つ目の調査は、実際に質問の様子を評価者がビデオ視聴して点数を付けるというもの。トップには自民党の柴山昌彦衆院議員共産党山下芳生参院議員が並んだ。

 柴山議員が自薦したのは、独立取締役の導入を巡る会社法改正についての質問。オリンパスによる巨額の損失隠し事件など企業の不祥事が社会問題になっていた折の質問だったこともあり、「テーマ設定」について高い評価を得た。評者からは「独立取締役など、専門的な重要課題について、制度面まで斬り込んだ質問」「データ等を用い詰めた質疑」という評価が付いた。

 山下議員の質問はいわゆるブラック企業について。共産党ならではの実態調査をベースにした質問だった。評者からは「明確な問題意識と十分な実態調査結果」といった点や、「具体的な提言を行っている」点が評価されていた。

民主党では大西健介衆院議員の質問が3位、みんなの党では大熊利昭衆院議員の質問が4位に入った。維新では村上正俊衆院議員が8位、公明では國重徹衆院議員が15位、みどりの風谷岡郁子参院議員も15位だった。

国会議員の活動実態を国民の目に

 おそらく前例のない調査で、評価結果も一定の傾向を示したが、今後の課題はサンプル数を増やすことだろう。国会議員の自薦質問にしても42議員にとどまっており、全体からみれば5%強にすぎない。もっとも自薦議員の数が増え、仮に720人余りいる全議員の質問をチェックするとなると、評価者の負担が極端に大きくなる。評価の仕方も今後の課題と言うことだろう。

「万年野党」は秋のNPO認可を目指して体制固めを急ぐ方針だ。今後も議員国会質問などを評価する活動を行っていく。会長の田原総一朗氏のほか、アドバイザリーボードに、宮内義彦・オリックス会長、草刈隆郎・日本郵船元会長、竹中平蔵・慶應義塾大学教授、高橋洋一・嘉悦大学教授、橘川幸夫・デジタルメディア研究所所長らを迎え、様々な国会議員評価の仕組みを開発していく。

国会議員の仕事は国会での活動であるにもかかわらず、その国会活動の実態が国民の目にはなかなか見えず、その適正な評価もされていない。この実態に風穴を空ける活動ができるのかどうか、今後の行方に注目していただきたい。

2013-07-09

国際化に背を向ける、亡国の会計鎖国論争 海外投資家を遠ざける「有言不実行」

| 20:36

民主党政権下で止まっていた国際会計基準IFRSを巡る論議が動き出しました。6月20日に企業会計審議会が「当面の方針」を発表したのですが、これで八方すべてが丸く収まるというものではなさそうです。日経ビジネスオンラインに先週アップされた原稿です。

オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130703/250621/?P=1


 「チャレンジ、オープン、イノベーション」を掲げたアベノミクスの成長戦略の実行に向けて、安倍晋三首相は9月の臨時国会で具体的な法案を提出する方針を示した。産業競争力強化法案(仮称)などを国会に出すほか、税制改革にも前倒しで取り組むとしている。

 6月14日に閣議決定した成長戦略が株式市場の失望を招いた反省から、さらなる「大玉」を秋に向けて盛り込む姿勢を強調している。強い口調で改革方針を明言している安倍首相だが、市場の期待を取り戻せるかどうかは、具体的な政策が発言の方向性と一致しているかどうか、つまりは言葉通り実行できるかにかかっている。もっとも、個別の政策が具体化すればするほど、抵抗勢力が頭をもたげてくる。そんな動きがすでに表面化している。

IFRS対応は「国際的な詐欺行為」

 「これは国際的な詐欺行為ではないか」

 金融庁の企業会計審議会がまとめた、日本の上場企業が使う会計基準のあり方の方針について、審議会委員のひとりは吐き捨てるように言う。同審議会が6月19日にまとめた「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」には、「単一で高品質な国際基準を策定するという目標に日本がコミットしていることを改めて確認した」と書かれている。

 国際的に進んでいる会計基準の統一作業に、日本も歩調を合わせていくとしており、安倍首相の「オープン」戦略とも方向性は合致する。ルールや規制を国際標準に合わせ、世界で最もビジネスがしやすい国に日本を脱皮させるというのが、アベノミクスの基本姿勢だ。

 G8サミット(主要国首脳会議)で英国を訪れた安倍首相は講演でも、日本の変革に向けた覚悟を示し、日本への投資を呼びかけた。外国からの投資を促進するうえでも、外国人から見て理解できる「国際標準」のルールに揃えることが重要であるのは言うまでもない。ましてや株式投資の対象である企業を測るモノサシである会計基準が日本独自の「ガラパゴス」基準では話にならない。

 だが、冒頭の委員が怒るのは、高らかに宣言している前段の方針に続いて盛り込まれた具体的な施策が、あまりにも国際的な常識からかけ離れたものだからだった。IFRSを使うと言いながら、一部の基準を適用除外にした日本版IFRSを新たに作るという方針が示されているのだ。

 長年IFRSの導入に慎重姿勢だった経団連が提言として打ち出したもので、ご丁寧にも「J−IFRS」という略称まで生み出されている。これで「日本もIFRSを採用しています」と主張しようというのである。

 もちろん、世界を見れば、IFRSの一部の基準を適用除外にすることを認めている国もある。だが、適用除外にしているのはごく一部の基準にとどまり、除外している企業もごく少数だ。ところがJ−IFRSでは、M&A(企業の合併・買収)の際ののれん代(買収金額と資産価格の差)の扱いや、リースの扱いといった企業の決算数字が大きく変わりかねない基準を適用除外にする意向だという。IFRSとJ−IFRSは似て非なるものになる可能性が大きい。

 世界で1つの基準づくりに日本も協力しますと言いながら、中味のまったく違うものを作ってしまおうというのだから、国際社会の目を誤魔化そうとしていると思われても仕方がない。冒頭の委員が「国際的詐欺行為」だと怒る理由はここにある。

 審議会の「当面の方針」では、国際基準を作る作業での日本の発言力を維持すると高らかにうたっている。日本の主張を受け入れるかどうかは国際組織側の受け止め方次第なのだが、金融庁はあたかも、J−IFRSが国際的に受け入れられ、本来のIFRS(ピュアIFRSと呼んでいる)の策定プロセスでも日本の発言力は維持できる、と信じているようなのだ。

 J−IFRSを打ち出す前の段階で、IFRSを策定している国際会計基準審議会(IASB)に説明はしている。窓口は藤沼亜起・元日本公認会計士協会会長で、IASBの運営母体であるIFRS財団の評議員会副議長を務めている。日本の国際派会計士として信頼の厚い人物だ。もちろん藤沼氏は積極的なIFRS導入論者である。

国際的な発言力低下の恐れも

 その藤沼氏がIASBのメンバーに説明したのは、あくまで日本企業にIFRSを導入させるための過渡的措置として一部の基準を適用除外にする、という方針だった。つまり欧米の会計専門家からすれば、世界の他の国が採用しているように、ごく一部の基準を除外するだけだろうと信じ、日本の方針を了承している。まさか似て非なる基準がIFRSの名を冠して出てくるとは思っていないのだ。

 IFRS導入に反対し日本基準は素晴らしいと叫ぶ「鎖国派」も、J−IFRSで国際的な発言力が保てると主張する経団連派も、自分たちが国際交渉の場に出ていくわけではない。だから日本の方針が国際的に受け入れられるのかどうかという感覚なしに、強硬な反対論だけをまくし立ててきた。国際交渉の矢面に立っているのは藤沼氏ら「推進派」と金融庁の国際派の役人で、反対派はその背中に向けて矢を射ている構図なのだ。

 IFRS関連の国際組織で、現在日本が獲得している主要ポストは数多い。これも長い間、IFRSを「国際基準」にするために日本も協力してきた実績があってのことだ。橋本龍太郎首相時代には「金融ビッグバン」の一環として「会計ビッグバン」をし、日本基準を大幅に国際基準に合わせる改革をした。株式への時価会計なども導入されている。日本基準をIFRSと同化させるプロセスは着々と進んでいた。日本基準とIFRSの中味が同じになれば、IFRSを上場企業に強制適用しても何ら問題はない、という発想だった。

 ところが、民主党政権の誕生で、国際化に背を向けるIFRS反対派が審議会に大量に登用された。今もその構成は基本的に変わっていない。もともと、「単一で高品質な国際基準を策定するという目標に日本がコミット」すること自体に背を向ける反対派委員も少なくない。現在は任意で認められているIFRS(ピュアIFRS)の使用を禁止しろと公言する委員すらいる。

 日本がかろうじて維持しているポストはIFRS財団評議員会に副議長の藤沼氏を含む2人。基準を作るIASB理事会には住友商事出身の鶯地隆継氏が理事として加わっている。IFRS財団には、金融庁など規制当局者から構成する「モニタリング・ボード」という国際組織があるが、その議長は、金融庁の河野正道・国際政策統括官が務めている。そのポストを守れるかどうかで、日本の発言力が維持できるかどうかが決まるのだ。

 藤沼氏の任期は今年末だが、副議長として半年ほど任期を延長する方向で話が進んでいる。日本のIFRSへの取り組みが微妙なタイミングなので交代するのは国際組織にとってもプラスではない、という主張が認められている。だが、J−IFRSの中味次第では藤沼氏の後任に日本人が選ばれない可能性が高い。

数年後には、アジアオフィスも中国が奪還?

 すでにIFRSを導入している国々から日本が評議委員会のポストを2つ握っていることに批判的な声が強まっているからだ。鶯地氏の任期は2016年、モニタリングボードの任期も2016年だ。昨年東京に設置されたIASBのアジアサテライトオフィスも10年後に見直すという規定があり、中国が自国内に移すべきだとかねてから主張している。

 つまり、ここ数年、日本がIFRSに対してどういう姿勢を取るかが、3年後、5年後の日本の発言力を大きく左右するタイミングにさしかかっているのだ。もし国際基準づくりで日本が発言力を失えば、日本の国益など守れるはずもない。

 そんなリスク審議会の「当面の方針」は軽く見ているのではないか。アベノミクスの基本方針と違う「詐欺的な」対応をすることで、著しく国益を損なうことになりかねないのだ。

 しかも、J−IFRSが加わることで、日本の上場企業の決算書には、日本基準、米国基準、ピュアIFRS、J−IFRSの4つが混在することになる。日本基準をJ−IFRSに転換するのが合理的とも言えるが、日本基準のすばらしさを強調してやまない一部の会計学者が根強く反対する。IFRS反対派の企業人の多くは、日本基準を礼賛しながら実は自社では米国基準を使っているケースが多い。米国基準の決定には当然ながら、日本はまったく発言権がない。そんな4つの基準が混在する世界でも不思議な国になるわけだ。

 企業を見るモノサシすら統一できない日本の株式市場を、外国人投資家が信じて、日本に投資するだろうか。安倍首相がいくら外国で「日本は変わりますから、投資してください」と叫んでも、足下でガラパゴス化を進めていては元も子もない。世界から「国際的詐欺行為」と言われないためには、経済のオープン化、国際標準化に安倍首相官邸スタッフが本気で立ち向かうことが必要だろう。

2013-07-04

国会活動に最も熱心な参議院議員は? 「国会議員の活動データを集積する会」がランキングを公表

| 10:46

先日発表した国会質問ランキングについて現代ビジネスに記事を掲載しました。ご笑覧下さい。オリジナルページ 講談社現代ビジネス→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36309

 NHKの「国会中継」が放映される「予算委員会」は、国会議員にとっては「晴れの舞台」だという。多くの人が質疑に注目するということもあるが、何をおいても全国にテレビ中継されることが大きい。質問する姿を選挙民にアピールできなくとも、テレビカメラの角度を計算して、自らの姿が映る席を確保し、存在をアピールするだけでも大いに意味がある。国会活動をアピールするうえでも強力な武器になる、というわけだ。

 にもかかわらず、テレビを見ていると、同僚議員との雑談に明け暮れる議員の姿や、居眠りをしている大臣や議員の姿を、嫌というほど見せつけられる。国会議員はいったい、国会で何をしているのか。どうやったら、国会で熱心に活動している議員と、そうでない議員を判別できるのか。

「代返」だって認められている国会議員の活動実態を「数値化」しよう

 実は、この質問に答えるのは案外難しい。国会議員の仕事は言うまでもなく、国会の会議に出席して議論を戦わせることだが、会議への出席率といったデータは集計されていない。極端な話、国会議員になって会議にもほとんど出席せず、質問もしない議員もいるのだが、それを簡単に見分ける方法がないのである。

 委員会などでは「委員差し替え」といって、当日の会議に出られない場合、若手の議員などに委員を差し替えて、出席させることがしばしばある。代理で出席の返事をする「代返」が公式に認められているのだ。そんな慣行もあって出席を取ることには意味はない、という意見もある。

 また、総理経験者など、「大物」議員になると、「懲罰委員会」のようなほとんど会議が開かれない委員会に名前だけ所属しているケースも少なくない。そもそも、国会でバリバリ質問するのは「若手議員の仕事」といったムードすらあるのだ。

 そんな国会議員の活動実態を「数値化」しようという試みが昨年秋から始まった。任意団体の「国会議員の活動データを集積する会」がそれで、私もメンバーに加わっている。昨年末の衆議院選挙の直前には衆議院議員の活動実績ランキングを公表したが、参議院議員選挙を前に、6月27日に参議院議員の活動実績ランキングが公表された。

 同会で集積しているデータは今のところ3つ。議員の「国会での質問回数」、議員の権利として政府に考え方などを質すことができる「質問主意書の提出件数」、そして「議員立法の提案件数」である。

 いずれも衆議院参議院が公式の出している「国会TV」画像や、議事録などから、人海戦術でデータをエクセルファイルに抜き出している。「衆議院TV」の場合、各議員の発言時間が表示されているため、「質問回数」に加えて「質問時間」も集計したが、「参議院TV」には時間表記がないため、回数だけになった。いずれも限られたデータだが、それすら、まとまった数値が存在していなかった。

参議院議員の任期は6年で、3年ごとに改選される。このため、全議員を比較するには直近3年分のデータに絞る必要があった。議事録などが公開されるタイミングもあり、一部は5月末までのデータになっている。

国会での質問回数ランキングは?

 まずは、国会での質問回数のランキングをみてみよう。トップは福島みずほ氏(社民)の128回。ベスト10には共産党議員が5人、社民党議員が2人、みんなの党が2人、新党改革が1人と、少数政党が並んだ。実はこれには理由がある。少数政党は所属議員が少ないため、様々な会議をひとりの議員が掛け持ちする。さらに、少数政党には時間は短いながらも質問は割り振られるため、議員1人当たりの質問に立てるチャンスは格段に大きくなるのだ。

 ちなみに共産党の所属議員は6人で、全議員がこのランキングに入っている。一方、与党だった民主党議員は数も多いうえ、与党ということで質問のチャンスも少ない。

 だからと言って、このランキングが無意味だ、ということにはならない。同じ政党の中で、誰が活躍しているかを知るための一助になる。例えば、与党だった民主党でも金子洋一議員は30回でランキングに入っているし、自民党でも佐藤正久議員51回で28位に入っている。佐藤議員は「議員立法発議回数」「質問主意書提出件数」のランキングにも上位に名前が入っており、国会活動を精力的にこなしていることがこのデータから見えてくる。

 もちろん、大臣や副大臣政務官といった政府の役職に就いていたり、議長や副議長、委員会の委員長になっている議員は、質問に立つことはまずない。ランキングに入っていないから、即ダメ、ということにはならない。

議員立法発議ランキングと舞台裏

議員立法の発議回数では新党改革の荒井広幸議員がダントツの19回だった。これを、みんなの党小野次郎氏が13回で追う。法律案のほとんどは内閣が発議する「閣法」だが、これは専門家である官僚たちがフルにバックアップする。

 ところが議員立法の場合、法律案を作る段階では参議院事務局のスタッフが協力するものの、専門性は所管官庁の官僚に適わないケースが多い。それだけ、議員にはかなりの力量が必要なのだ。

議員に政策スタッフを付けるべきだという議論はかねてからあり、「政策秘書」の制度が導入されたりしたが、なかなか霞が関にかなう人材を擁している議員政党は少ない。発議回数2回までをランキングの対象としたのも、そうした手間ひまを考慮している。

国会議員の貴重な権限「質問主意書」提出ランキング

質問主意書の提出件数は公明党の浜田昌良議員が99回でトップ、これを自民党の佐藤正久議員が85回で追った。質問主意書国会議員の貴重な権限とも言えるが、大臣経験者や官僚など「政府側」からはすこぶる評判が悪い。いちいち回答を用意して閣議にかけなければならないからだ。「くだらないものまで、何でも質問主意書にして出してくる議員がいる」という悪口も聞く。だが、政府が嫌がるというのは、牽制機能として効果が大きいという意味でもある。微妙な問題で政府の公式見解を引き出すのに使う議員もいる。

質問主意書については政党で縛りをかけているケースもあるようだが、一般的には議員の「意欲」次第で出すことができる。衆議院議員の中には、質問主意書を出すための作業をメインの仕事としている専属の秘書を置いている人もいるという話だ。

 ご覧いただいてお分かりの通り、この3つのランキングを組み合わせてみると、国会活動に「熱心な議員」はおぼろげながらも見えてくる。

データから見えてきた「熱心な議員

国会議員の活動データを集積する会」は基礎データを集積して、メディアなどに提供するところまでを目的として団体で、ランキング以外に「評価」はしないことにしている。党派や思想信条などに関係なく、基本的なデータとして客観的に示せる段階までで止めておこうという方針だ。

 ただし、「集積する会」がデータを提供した先が、様々な評価を行うことは自由としている。今回もYahoo!の「みんなの政治」や東京プレスクラブに情報を提供した。東京プレスクラブはランキングなどをベースに独自に議員を評価し、全参議院議員を対象に三ツ星で格付けしている。ちなみに星3つは11人、星2つは34人、星1つは105人だった。委員会別の質問回数などのデータも加えた『国会議員三ツ星データブック』が電子書籍として発刊された。

 もちろん、質問回数が多ければよいというわけではないだろうという反論も多くある。中味が問題だ、というわけだ。しかし、中味の評価となると、一定の専門知識を持った人たちに評価してもらうことが重要になる。これを担う組織を別途、設立する方向で準備中だ。政府国会の政策活動の監視を目的とした特定非営利活動法人(NPO)とする予定で、「国会議員の質問力評価」などを行い、近く公表していく。

2013-07-03

国会議員の質問力を評価 政策監視会議(万年野党)

| 17:51

先日、参議院議員の質問回数などのデータを蓄積する「国会議員の活動データを集積する会」をご紹介しました。質問回数だけではダメだろう、中味が重要だろうというかねてからの指摘に応える初の試みを、「政策監視会議(万年野党)」という新設の団体で行いました。万年野党という名称でNPO法人化する予定で、会長にはジャーナリスト田原総一朗さんに就任していただく予定です。今後、「国会議員の通信簿」を質量ともに充実させていく方針です。

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2013-07-02

“期待外れ”の成長戦略に埋め込まれた 「岩盤規制」を破る道具が「国家戦略特区」

| 14:20

乱高下を続ける株価ですが、外部要因に振り回される度合いが落ちたような感じがします。急激な円高や、米国株の急落、中国株の急落などでも、下げた後、下値に買いが入っているようで、案外底堅い。久しぶりに日本株を日本のファンダメンタルズで買うムードになってきたのでしょうか。安倍首相は改革に向けて力強い発言を繰り返していますが、問題は参議院選挙後に具体的にどう動くか。エルネオス7月号の連載でもそのあたりの話をふれました。

エルネオス ⇒ http://www.elneos.co.jp/



破れなかった「岩盤規制」

 安倍晋三首相が推進する経済政策、いわゆるアベノミクスの「三本の矢」の三本目である「成長戦略」が六月十四日、閣議決定された。「チャレンジ」「オープン」「イノベーション」を掲げ、ヒト・モノ・カネを一気に動かす「アクション」の時だと強調した。安倍首相の力強い言葉は印象的だったが、市場の反応は冷淡だった。

 五月二十二日に一万五千六百二十七円を付けた日経平均株価は二十三日に一千百円安の急落となり、その後も乱高下を繰り返した。まとまりつつあった成長戦略への「失望」が売りの一因とされた。アベノミクスへの期待が大きかっただけに、その反動ともいえた。閣議決定された六月十四日には一万二千六百八十六円まで下げたのだ。安倍内閣が発足した昨年十二月二十六日の日経平均終値は一万二百三十円だったから、一時は五三%上昇したものが、二四%の水準まで下落したことになる。つまり日経平均株価で見る限り、五カ月での上昇分の半分が三週間で吹き飛んだのである。

 では、それほどまでに「成長戦略」の中身はひどかったのだろうか。

 たしかに、農業や医療、労働法制、コーポレートガバナンス(企業統治)などへの踏み込みが足らなかったのは事実だ。こうした項目には、JAや医師会、連合、経団連と、いずれも反対する団体が明確なだけに、七月の参議院選挙を前に「敵をつくらない」ことが優先されたのだろう。成長戦略をつくった産業競争力会議の民間議員の中からも、「安倍首相選挙を意識しており、選挙前には踏み切れない問題が多過ぎた」と語っていた。

 強力な反対勢力がいる強硬な規制を、産業競争力会議のメンバーである竹中平蔵・慶応義塾大教授は「岩盤規制」と呼び、それを打ち破るには至らなかったと振り返った。成長戦略について演説するたびに株価を下げる市場の反応に安倍首相も焦りを隠せなかった。閣議決定した成長戦略について「成長戦略は一つの通過点。さらなる高みを目指して、絶えず発展させていく。いわば『成長戦略・シーズン2』に向けた、スタートです」と述べ、本来は六月で解散する予定だった産業競争力会議の延長を表明した。

規制改革の実験場

 さらに、「規制改革こそ成長戦略の『一丁目一番地』」だとし、「時には国論を二分するようなこともあるでしょう。(中略)成長のために必要であれば、どのような『岩盤』にもひるむことなく立ち向かっていく覚悟です」と述べた。竹中氏の「岩盤」と呼応しているのは疑うべくもなかった。では、安倍首相は本気で岩盤規制を打ち破ろうとしているのか。

 実は、岩盤に穴をあける「道具」が、成長戦略の中に埋め込まれている。それが「国家戦略特区」だ。国全体としてはなかなか撤廃できない「岩盤規制」を、ある特定のプロジェクトに限って認め、規制改革の突破口にしようという狙いだ。小泉純一郎内閣当時の二〇〇三年に「構造改革特区」が制定され、すでに地方自治体によってさまざまな特区が設置されたが、これをさらに戦略的に運用しようという発想である。これまでどちらかというと地域活性化が目的になっていたものを、大胆な規制改革の実験場にするという明確な方針を打ち出す。詳細は産業競争力会議の下に設置された「国家戦略特区ワーキンググループ」で検討中だが、発表された成長戦略の報告書の中にも、「優先的に取り組むべき規制・制度改革項目」としてワーキンググループでの議論が例示されている。

 例えば「居住環境を含め、世界と戦える国際都市の形成」という目標を設定、具体的な政策として、‥埒患鐔斬タ覆里燭瓩陵得冦─ν囘單土地利用規制の見直し、外国人医師による外国人向け医療の拡充、インターナショナルスクールに関する設置許可条件等の見直し、といったものを掲げている。国際的な立地競争力を高めるのを邪魔している規制を一気に撤廃してしまおうというわけだ。

 世界のビジネスマンが居住しやすい町をつくろうと思えば、医療や教育の充実は不可欠だ。外国人医師の日本国内での医療行為を認めようとすれば、当然のことながら医師会は猛烈に反対する。それを、プロジェクトを限って一定の地域に認めてしまおうというわけだ。インターナショナルスクールの規制緩和も同様である。

強烈な霞が関の抵抗

「日本が本気で改革する姿勢を内外にアピールし、本当に物事を動かしていくためには、スピード感をもって規制・制度改革やインフラの整備を実現してみせる必要がある」

 成長戦略には、こう「国家戦略特区」の狙いが書かれている。首相を議長とする「国家戦略特区諮問会議」を設置して全体の方針を決めるほか、特区ごとに、所管大臣と地方自治体の首長、民間事業者からなる「統合推進本部」を置く方向で議論が詰められている。諮問会議で大枠の許可を得れば、国と地方、民間からなる「推進本部」で規制の緩和などが決められる仕組みを狙っている。

 これは規制改革を推進する狠亙政府瓩里茲Δ並減澆砲覆蠧世襦いちいち中央官庁にお伺いを立てずに、政治主導だけで権限を地方に委ねることになるかもしれない。

 国家戦略特区で「風穴」が空くことで、その規制が全国的に撤廃されていくことを狙うわけだが、当然のことながら霞が関は反対する。諮問会議や推進本部の位置付けなどを明確化するための法案が秋の臨時国会に出されることになるが、霞が関は骨抜きを画策するにちがいない。特区で勝手に規制が撤廃されることになれば、省庁の存在意義にかかわってくるからだ。

 そんな抵抗を押し返して、岩盤に穴を空けることができるかどうか。安倍首相のリーダーシップにかかっている。

2013-07-01

国会議員の活動データを集積する会

18:00

 国会議員の仕事は言うまでもなく国会での活動です。ですから本来、国会議員の評価は、国会での活動で決められるべきだと考えます。ところが、議員国会活動については驚くほど情報がありません。会議の出欠すら集計データは公表されていません。昨年秋に始めた非営利任意団体『国会議員の活動データを集積する会』でこのたび、参議院議員国会での活動状況について集計結果を発表しました。基礎データの取得が可能な「国会での質問回数」「議員立法発議件数」「質問主意書提出件数」の3つに絞ってデータを集積したものです。集計したランキングは以下の通り。フェイスブックも立ち上げましたので、是非、「いいね」を押してください。https://www.facebook.com/giindata

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