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2013-07-23

なし崩しで振り出しに戻りつつある「公務員制度改革」 安倍首相の本気度が問われる

| 16:32

選挙は予想通り自民党の圧勝で終わりました。選挙戦中、安倍首相が強い口調で訴えた経済再生のための改革が、本当に進むのかどうか。これから安倍氏の本気度が試されます。その本気度を占う1つの尺度が「公務員制度改革」への取り組み姿勢でしょう。第1次安倍内閣であれほど強硬に推し進めた公務員制度改革に、安倍首相はどんな姿勢で取り組むのでしょうか。日経ビジネスオンライン選挙直前にアップされた原稿です。ご一読お願いします。オリジナルページ⇒http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130716/251151/


 安倍晋三首相は6月28日、首相官邸国家公務員制度改革推進本部の会議を開いた。推進本部は3月に持ち回りの本部決定を行っているが、実際に会議を開いたのは安倍内閣になって初めて。参議院議員選挙を前に「公務員制度改革」に取り組む姿勢をアピールした格好だったが、実はこの会議は安倍内閣としては最初で最後のものとなった。というのも推進本部とその事務局が7月10日をもって消滅したからである。

 この推進本部は2008年に施行された国家公務員制度改革基本法に基づいて設置されたが、実は5年間の時限措置だった。5年の間に一気に公務員制度改革を進め解散することになっていたのだ。その期日が到来したわけである。

 もちろん当初予定されていた公務員制度改革が完了したわけではない。基本法に基づいて国家公務員法改正案が繰り返し国会に出されたが、いずれも廃案になっている。むしろ具体的な改革はほとんど進まなかったと言っていい。では、安倍内閣として今後の公務員制度改革をどうするのか。その方針が、この最後の会議で「今後の公務員制度改革について」という文書として「本部決定」された。

今回の方針は、一言でいえば「緩い」

 公務員制度改革は第1次安倍内閣が最も力を入れたテーマだった。公務員制度改革は「天下りあっせんの禁止」を盛り込んだ2007年4月24日の閣議決定からスタートした。当時、予算や権限を背景とした押しつけ的な斡旋が行われているとした政府答弁書を出すにあたり、当時の事務次官4人が公然と反対したが、それを「事務次官会議なんて法律でどこにも規定されていない」として押し切るなど霞が関を敵に回しながら闘ったのも安倍首相だった。事務次官会議で了承を得たものだけを閣議にかけるという不文律をぶち破ったのである。

 だが、今回決定された方針からは、そんな安倍首相の強い意志が感じられない。ひと言で言えば「緩い」のだ。

 第1次安倍内閣の閣議決定にあった「再就職に関する規制」といった言葉は姿を消した。もちろん「天下り」という言葉もない。「退職管理の適正化」という言葉だけが出て来るが、これも過去の取り組みとして触れられているだけで、すでに問題解決済みという扱いなのだ。もはや、押しつけ的な天下り斡旋など日本から姿を消したという判断のようだ。

 では何を改革するのか。「改革の必要性」としてこう書かれている。

 「誤った政治主導を是正し、『政』と『官』の役割を明確にすることにより、相互の信頼の上に立った本当の意味での政治主導を確立する必要がある。この真の政治主導の下、公務員が使命感と行政のプロとしての誇りを胸に、国家・国民のために積極的に行動できる、新しい公務員制度を創ることが、今、求められている」

 そのうえで、具体的に5つの点を掲げている。

 1)幹部人事の一元管理

 2)幹部候補育成課程

 3)内閣人事局の設置等

 4)国家戦略スタッフ、政務スタッフ

 5)その他の法制上の措置の取扱い

 内閣人事局を設置して幹部人事については内閣が一元管理するというのは、長年議論されてきたことである。しばしば指摘されているように、現在の人事は採用から人員配置、評価に至るまで各省庁別で、縦割り行政の弊害を生んでいた。しばしば「省益あって国益なし」と指摘されてきた。官邸主導、政治主導が言われて久しいが、内閣が各省を掌握てきないのは端的に言えば人事権がないからだった。もちろん、これまでのやり方や各省の権益をぶち壊すことになる内閣人事局の設置には霞が関は今も反対である。

文章にちりばめられた「抵抗」

 安倍内閣の後を継いだ福田康夫内閣は2008年に国家公務員制度改革基本法を設置、上記の5項目もそこに盛り込まれている。安倍首相はその実現を改めて掲げたのである。

 だが、本当に改革ができるのか。この文章にもさまざまな「抵抗」がちりばめられている。

 文章の前段には「秋に国会が開かれる場合には、国家公務員制度改革関連法案を提出するとともに、平成26年春に内閣人事局を設置することを目指す」と書かれているが、あくまで「目指す」である。さらに上記の5つに関しては「基本法の条文に即し、以下の各項目に関して機動的な運用が可能な制度設計を行う」として、「制度設計を行う」と書かれているだけで、実現するとは書かれていない。しかも、「内閣人事局の設置等」と「等」が付き、他の選択肢があるような書きぶりになっている。官僚が抵抗する時の常とう手段である。

 本部がなくなった後については、行政改革推進本部が、「本決定の方針に則って」「法案の立案業務及び内閣人事局設置準備業務を推進することとする」と書かれている。同じ推進本部なので、機能は変わらないと思われるだろう。だが現実は全く違う。基本法に明記されて権限がはっきりしていた公務員制度改革推進本部とちがい、行政改革推進本部が行う公務員制度改革の根拠は、この「本部決定」しかないわけだ。しかも本部決定で「閣議決定」にもなっていない。霞が関で官僚の行動を縛るのは法令だ。その根拠は極めて「緩い」わけである。

 なぜ、安倍首相はかつてほど公務員制度改革に強硬な姿勢を見せないのか。

 側近によれば、安倍首相霞が関との関係を相当気にしている、という。第1次安倍内閣が短命に終わったのは、霞が関を完全に敵に回したことが大きな要因だったと見ているというのだ。少なくとも参議院議員選挙が終わり政治的基盤を固めるまでは、霞が関を敵に回したくないということのようなのだ。

 では、参議院選挙で衆参のねじれを解消し、与党だけで法案が通せるようになった段階で、安倍首相公務員制度に斬り込んでいくのだろうか。

 1つの試金石は「幹部公務員制度」の行方だ。安倍氏は、今後の公務員制度改革は2009年の麻生太郎内閣で閣議決定した国家公務員法改正案をベースにする方針だという。この法案は廃案になったが、当時策定作業に当たったのが甘利明氏だったことから「甘利法案」と呼ばれている。この法案には幹部の人事制度として「特例降任」という制度が盛り込まれているが、一度審議官以上の幹部になると現実には幹部から外すことができない。幹部から外せないとなると、役人の定員が決まっているため、外部からの登用はできないということになってしまう。

政府機関への天下りも復活

 実は、民主党政権時代、自民党みんなの党が共同で「幹部公務員法案」を国会に提出したことがある。これも廃案になっているが、今年6月にはほぼ同じ内容の「幹部公務員法案」を民主党日本維新の会みんなの党の3党で共同提出した。

 参議院選挙後に安倍自民党が再び「幹部公務員法」に意欲を示せば、与野党の多くは賛成する可能性が高く、成立する環境にある。反対は霞が関だけである。安倍首相が秋の臨時国会に向けてどんな姿勢を見せるのか。提出される関連法案はどんな内容になるのか。

 5年間のサボタージュの結果、国家公務員制度改革推進本部が消え、基本法も事実上機能しなくなった。公務員制度改革はなし崩し的に振り出しに向けて戻りつつあるという見方もできる。そんな中で、霞が関の守旧派官僚たちは祝杯を挙げているといわれる。実際、民主党政権の後半以降、政府機関への天下りもなし崩し的に復活している。そんな実状を安倍首相はどう見ているのか。

 選挙が終われば安倍氏の改革姿勢が改めて問われることになる。