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2013-07-31

「水素水」で急成長!地元熊本の名水に"超"付加価値を付けたKIYORA菊池

| 14:13

各地の6次産業への取り組みを取材していますが、熊本県菊池市にお邪魔した際に、紹介された会社の原稿を書きました。超が付くほどの高付加価値戦略で成功している水素水ですが、ブランド化、マーケティングのアイデアが詰まっています。是非ご一読下さい。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36578

 日本の地方にはそれぞれ特徴を持った「宝」がいっぱいある。おコメや野菜、果物といった農産物や、魚介類など1次産業品に付加価値を付けて高く売ろうというのが6次産業の発想だ。1次産業と加工などの2次産業、販売など3次産業を組み合わせ、1+2+3=6次産業化というわけである。

 そこでキーワードになる「高付加価値化」を実現するには、他にはない加工で「差別化」を進め、ブランドを磨くこと。高付加価値化戦略とは端的に言えば、コストを大幅に上回る価格で消費者に商品を買ってもらうための仕掛けづくりである。そんな6次産業化にこれから市を挙げて取り組もうとしている熊本県菊池市に、地元の宝に超が付く付加価値を付けて人気商品となり、急成長を遂げている企業を見つけた。

名水百選にも選ばれた菊池渓谷の水がベース

 「KIYORAきくち」(本社・菊池市大神志保子社長)。健康ブームの中で一躍人気商品となった水素水のメーカーである。厳密に言えば、6次産業の範疇からは外れるが、宝に磨きをかけている同社の高付加価値化戦略は6次産業の手本になり得る。

阿蘇山麓に広がる菊池市は豊かな伏流水が湧き出る銘水地として知られる。昔からの米作地帯だが、そこでできるコメの食味が良いのも、美味しい水と切っても切れない関係があるからだと言われる。市内を流れる菊池川の源流「菊池渓谷」の水は、1985年に環境省が認定した「名水百選」にも選ばれた。

 そんな豊かな水を売り物にしようという試みは様々行われている。ペットボトル詰めしたミネラルウォーターや、仕込み水として作った日本酒など、成功している商品もある。そんな中で短期間の間に急成長しているのが「ナノ水素水KIYORABI」を製造・販売する「KIYORAきくち」なのだ。

 菊池水源系の水を汲み上げ、ミクロンサイズの均一な孔を有するガラス製のSPGフィルターを通して「ナノ化」し、それに圧力をかけて水素ガスを押し込んで「ナノ水素水」を作る、という。これを4層構造のアルミパウチに充填し、殺菌処理の後、出荷している。通信販売が主体で、顧客は全国に広がる。

水素水は「飲むと身体が軽くなる」といった評判から健康ブームの中で人気商品として広がったが、同社の製品は「水素の含有量が平均して1.23ppmを超え、水素水としては業界随一の水素量を誇っている」(大神社長)という。

 同社は社長の大神氏と姉の永田文子氏(現・副社長)が50歳を過ぎてから起業した。もともとエステを経営してきた大神氏は健康食品に関心を持っていたが、ある時、水素水に出会う。

 最初は知人からもらった水素水を半信半疑で飲んだのがきっかけだったが、すっかりその魅力に取りつかれた。製造会社などを訪ねてみると、意外に簡単な設備で作っていることが分かり、自分でも作れると思い立ったのだという。親戚から資金を集めて、実家の納屋を改装して製造設備をそろえ、事業に乗り出した。

 「楽しくないことはしない。この先の人生を楽しむためにこの事業を始めたんですから」と大神社長。自ずと会社の方針は「人の嫌がることはしない」こととなった。「実は、うちには営業部もありませんし、会議もやりません」と笑う。決めなければいけないことが出れば、その場で社員が集まって決める。お客さんにも押し売りのような事はせず、「電話対応を熊本弁でいいと言っています」(永田副社長)。

テレビの影響もあり生産は年間1000万本体制へ

 そんな自然体の経営が功を奏したのか。許可を得て2009年から製造販売を始めると、折からの健康ブームに乗って売り上げは急速に増えていった。同社の実質初年度だった2010年2月期の売上高は3,200万円ほどだったが、翌年には1億2,000万円に急増。さらに2012年2月期には約2億円、2013年2月期に約5億円と、まさに倍々ゲームで伸びていった。生産が間に合わないため新工場を建設。2012年9月から稼働させ、1日4000本を作る体制を敷いた。

 ところが、テレビ番組で取り上げられたことで人気に火が付いたこともあり、それでも需要の増加に追い付けない状態が続いている。来年をメドにさらに隣接地に新工場を建設する。最終的には年間1000万本の生産体制にする計画だ。

 KIYORA菊池の事業を高付加価値化のモデルと書いたのは他でもない。「ナノ水素水KIYORABI」の価格は非常に高いのだ。500ミリリットル20パック入りが1万500円。1パック500円見当だからミネラルウォーターの4〜5倍である。そんな高価格品を顧客は支持している。消費者は自らが効果のある良いものと納得をすれば、おカネを払うというわけだ。

大神社長は「生産量を増やして価格を下げようとしているのですが、値下げをするとお客さんから苦情に似た問い合わせが来るんです」と苦笑する。値下げするのは品質が下がったからではないのか、というのだという。健康志向の商品は安ければ売れるというものではないのだろう。

水素は無味無臭のため、もとの水自体の味に大きく左右される。つまり菊池の「宝」である天然水が、「ナノ化」と「水素」と「アルミパウチ」によって、一気に価値を高められているのだ。社名に「きくち」を付けたのも、そんな地元の宝を大切にしたいという社長姉妹の思いが表れている。

 だが、あくまで出発点は「水素水」。「菊池の水」から商品づくりがスタートしたわけではない。水素水の価値を高めるために菊池の水が一役買った格好なのだ。

6次産業化というと「宝」である1次産品のブランド化にばかり力が入りがちだ。だが、新しい消費者に求められるモノを作り、そこに「宝」が一役買う形こそ、本当の6次産業化の成功パターンかもしれない。そんなことを「KIYORAきくち」の躍進は示している。