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2013-08-05

安倍首相がなかなか消費増税を決めないワケ

| 09:21

消費税率は来年4月に上がることが法律で決まっていますが、安倍首相はなかなか「最終決定した」と言いません。参院選までかと思っていたら、そうでもないようです。なぜでしょうか。日経ビジネスオンラインに書いた原稿が先週金曜日にアップされました。是非ご一読下さい。以下にも貼り付けていますが、オリジナルページも初回登録すれば、無料で読めます。日経ビジネスオンラインhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130731/251769/



 消費税率の引き上げを巡る議論が激しさを増してきた。安倍晋三首相は「経済状況を見極め判断する必要がある」と繰り返し表明、10月頃まで最終判断しない姿勢を崩していない。判断先送りは参議院選挙での争点化を恐れてのことと見られていたが、参議院選挙で大勝した後も明言を避けている。

 首相周辺の「リフレ派」ブレーンが増税による景気への影響を懸念する発言を繰り返していることから、安倍首相増税慎重論に傾いているのではないか、という見方も広がっている。一方、財務省は何としても悲願の増税を予定通り実施したい考え。麻生太郎副総理財務相なども予定通りの引き上げを支持している。今後、政権内でも立場の違いが鮮明になってくる見通しだ。

最終決断は10月に

 7月27日、訪問先のフィリピンで記者会見した安倍首相は、財政再建のための中期財政計画を8月に策定すると明言したが、その際、「消費税引き上げを決め打ちするものではない」と語った。財政計画を作る段階で来年4月の増税を織り込めば、10月を待たずに増税にゴーサインを出すことになる。そうはせずに、あくまで最終判断は10月にするということを強調したのである。

 消費税は2014年4月に現行の5%が8%に引き上げられ、2015年9月に10%にすることが決まっている。民主党政権自民党公明党との3党合意によって成立させた「社会保障・税一体改革関連法」に時期と税率が明記されている。

 ただ、法律には「景気条項」と呼ばれる附則が付いており、「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」と書かれており、その判断を下すのが10月と言われているのだ。附則には「施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認」することが明記されている。

 アベノミクスの第1の矢である「大胆な金融緩和」を主導してきた浜田宏一内閣参与(エール大学名誉教授)は、繰り返し増税が景気に与える影響の大きさを指摘。増税時期の先送りや1%刻みでの引き上げなどが好ましいとする発言を繰り返してきた。

 安倍首相リフレ政策を信奉するに際し、影響を与えた1人として知られる高橋洋一・嘉悦大学教授も、「上昇している飛行機が逆噴射するようなものだ」として増税の影響の大きさを指摘している。アベノミクスによって、ようやくデフレマインドから脱却しつつある中での税率引き上げは、消費を一気に冷やし、景気回復を失速させるというわけだ。

 年明け以降、百貨店売上高はプラスに転じ、6月にはスーパーの売上高も大きく増えるなど、消費に火がついた感はある。だが、多くの識者が指摘するように、本物の景気回復による消費増というよりも、株高やデフレ脱却ムードによる消費増の色彩がまだまだ強いのは事実だろう。そんな中で、消費税率が上がれば、一気に消費が萎む可能性は十分に考えられる。

 そんな中、大手メディアは、安倍首相が、消費増税について複数の案を想定して経済への影響を検証するよう指示した、と報じた。新聞の中には「税率の引き上げ幅や時期に関して検証する」と書き、増税先送りが本格的に動き出したように報じたところもある。浜田氏らが主張する税率を1%ずつなだらかに上げる案も検討対象になる、と報じられた。

「やっと増税法案が通ったのに…」

 こうした増税反対論の台頭に神経を尖らせているのが財務省だ。「やっと増税法案が通ったのにここで延期を許したら、際限なく延期が繰り返されて税率引き上げが実現できなくなるのではないか」。財務省の中堅幹部はそんな懸念を口にする。

 もちろん、現職の財務相である麻生太郎副総理は、「消費税を上げる方向で、予定通りやりたいと思っている」と財務省を後押ししている。また、経済再生担当相として司令塔役を担う甘利明氏や、茂木敏充・経産相も、増税国際公約だなどとして、予定通りの税率引き上げを支持している。

 そんな中、東京都内で7月29日にあった日銀黒田東彦総裁の講演が大きな話題になった。黒田氏は消費増税について、「2段階の引き上げによって日本経済の成長が大きく損なわれることにはならない」と述べたのだ。4月に「異次元緩和」を打ち出しアベノミクスを支えている黒田氏が、増税しても景気に影響を与えないと発言したのは大きい。

 財務省の幹部などは膝をたたいてうなづいた。言うまでもなく黒田氏も財務省出身者。何としても消費税率を引き上げたい財務省の意向を忖度したということなのだろうか。

 安倍首相が判断を先送りしているのは、市場への影響を恐れての事だと言われる。実際、黒田氏の発言が伝わった株式市場では日経平均株価が大幅に下落した。まだ多くの投資家はアベノミクスの成否に確信を持っていない。6月に発表したアベノミクス3本目の矢である「成長戦略」でも、斬り込み方が不十分だとの見方が広がり、一時株価が大きく下げた。

 消費の盛り上がりなどアベノミクスの効果が出始めたと見られる中で、消費増税を明言した場合の市場のショックを懸念しているというのである。こうした懸念は菅義偉官房長官も共有しているという。菅氏は安倍内閣の中でも最もリフレ派ブレーンの主張に耳を傾けている閣僚のひとりだ。

消費増税をめぐる決断を政局に?

 安倍氏が仮に、浜田氏らの言を入れて、消費税の実施時期を見直す決断をした場合、閣内での主張は対立し、政局に発展する可能性が高い。財務省など霞が関との緊張も一気に高まる。法律に明記された実施時期をずらすには新たな法律を国会で通す必要があるが、自民党内で意見が割れれば、長期政権と目されている安倍内閣が瓦解することになりかねない。

 安倍首相が現実路線を取るとすれば、株式市場に与える影響を小さくするためにギリギリまで判断を先送りし、最終的には予定通り増税する道を選ぶのではないか。

 ただ、回復しかけた景気を消費増税が直撃する可能性もある。景気回復ムードが一気に萎み、デフレからの脱却に失敗した場合、アベノミクスへの失望が広がることになる。そうなれば、安倍内閣への国民の支持も急落し、内閣は瓦解する。

 それを避ける手は何か。消費増税で国民から吸い上げることになる分を、財政出動として国民に戻すことしか方法はないだろう。2番目の矢である「機動的な財政出動」をさらに積み増すということだ。そうなれば、財政支出の増大こそが景気回復のカギだと、かねて主張している麻生副総理との関係も維持できる。

財政支出では都市部住民に恩恵少ない

 問題は、消費税増税の影響を受ける「消費者」に、財政出動で資金を戻すことができるかどうかだ。「国土強靭化」などで自民党議員が熱望する公共事業の積み増しなどでは、地方の建設業者などに恩恵が集中し、都市を中心とした消費者に恩恵が行くのには時間がかかる。

 また、農業などへの補助金増も都市部の住民には恩恵を与えない。現在、百貨店売上高の高い伸びを支えているのは都市部の消費が中心だ。都市サラリーマン層の税負担増を相殺できるような財政支出はなかなか見当たらない。

 法人税を引き下げ、その分を給与の引き上げに当てるよう経営者に求める手もある。だが、消費税率上げと法人税率下げの組み合わせは野党の強い反発を招くうえ、財務省自身が難色を示す公算が大きい。

 予定を見直すにせよ、予定通り税率を上げるにせよ、安倍首相には厳しい局面が待ち受けている。

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