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2013-08-30

消費税増税の先延ばしはあるか 問われる安倍首相の決断

| 21:25

いよいよ政府の集中点検会合で「消費税率の引き上げの影響」について意見聴取が始まりました。さて、安倍首相はどんな決断を下すのでしょうか。エルネオス8月号(8月1日発売)に掲載したコラムを編集部のご厚意で再掲します。

エルネオス→http://www.elneos.co.jp/

■景気回復が鮮明になってきた

 参議院議員選挙を乗り切った安倍晋三首相には、いくつかの試練が待ち受けている。最大のものは、今年九月末にも閣議決定が必要になる消費税率の引き上げだ。民主党政権時に成立した税・社会保障一体改革関連法で、来年四月から消費税率を現行の五%から八%に引き上げることが決まっている。ただし、景気動向などを勘案して実施の半年前に実施を閣議決定することになっているのだ。

 法律の附則第十八条として「消費税率の引上げに当たっての措置」が明記されており、「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」とされている。いわゆる「景気条項」である。

 その経済状況を勘案する材料として最も重視されるのは、四?六月期のGDP(国内総生産)の伸び率。八月十二日に一次速報、九月九日に二次速報が発表される。一?三月の実質GDPの伸び率が一・〇%(年率換算四・一%)と高くなったことから、さらにプラス成長が続くとすれば、景気回復が鮮明になってきたといえる。

 四月から五月中旬までは大幅な円安株高が続いていたため、企業の輸出も好調だったとみられる。株高による資産効果もあって百貨店の売り上げも好調で、国内消費も一段と伸びたとみていい。物価が上昇気味のため実質GDPの足を引っ張る可能性もあるが、四?六月期に景気が失速したとは考えにくい。つまり、景気動向への配慮から消費税増税を見送るという判断にはならない可能性が高い。

 では、予定通り来年四月からの税率引き上げにすんなり踏み切るかといえば、そうとは限らない。内閣参与としてアベノミクスの方向性を首相にアドバイスしている浜田宏一・米エール大学名誉教授は、予定通り消費税を引き上げた場合、「日本経済へのショックが大きい」と繰り返し述べている。アベノミクスによってようやく景気が上向く兆しが出てきたものを、一気に冷や水を浴びせかねないというのだ。浜田参与は安倍首相消費税引き上げ時期の延期を進言しているとされる。

 浜田氏は、デフレ脱却には大胆な金融緩和が必要だとする「リフレ派」の学者としてアベノミクスを支えてきた。官邸の関係者によれば、安倍首相の信頼は非常に厚いという。

■参謀たちは延期を説く

 同じリフレ派で財務省出身の高橋洋一・嘉悦大学教授も、消費税増税には反対論を唱えている。「アベノミクスの効果が出る前に消費税増税をすることは、上昇中の飛行機で逆噴射をするようなものだ」として、実施時期を遅らせるべきだと主張している。高橋氏は第一次安倍内閣の公務員制度改革などを支えたが、自民党野党に転落し、安倍氏が党の要職に就いていなかった時代に頻繁に面会に通っていたという。「安倍さんにリフレを吹き込んだのは高橋洋一氏だ」(財務省の幹部)といわれる。敵の多い高橋氏と首相が大っぴらに会うことはないが、安倍首相は定期的に密かに高橋氏を呼んで経済政策について意見を聞いている、という説もある。

 そんなアベノミクスの“参謀”たちがこぞって延期を求めているのである。ちなみに、日本銀行黒田東彦総裁が打ち出した「異次元緩和」など、大胆な金融緩和策がデフレ脱却に効果を示してくるのには二年くらいはかかるというのがリフレ派の人たちの見方だ。その効果が出る前に消費税増税で足を引っ張れば元の木阿弥になる、というわけである。

 七月中旬に都内で講演した浜田氏は、「増税経済に対し大きなショックを与える」と改めて懸念を表明する一方で、四?六月期の実質GDPが「一?三月期の年率四・一%と同じようなら、怖いが(増税の)橋を渡ることはあり得る」とも語った。

 では、実質GDPがプラス成長を続けているものの四・一%には及ばなかった場合はどうするのか。四月の段階では「(増税の)一年先送りも選択肢」と述べていたが、さすがに七月に入るとトーンダウンした。安倍首相が本気で先送りを考えるとすれば、九月には消費税増税延期法案を国会に提出する必要がある。だが、この段階になっても、そんな法案の準備は行われている気配がない。浜田氏は「一%ずつの引き上げも選択肢」だとした。一気に五%を八%にするよりも影響が小さいというわけだが、これを実行するにも法改正が必要になる。

財務省と心中する気はない

「七月の参議院議員選挙で争点になるのを避けるのが本当の狙いで、初めから予定通り増税するつもりだったのではないか」

 野党の間からはそんな声も聞こえる。選挙前は財務相を兼ねる麻生太郎副総理までが「景気は戻っているが、(消費税の)引き上げを決めるところまでは戻っていない」と煙に巻いていた。四月には「予定通り増税する」という内容の原稿を英紙に寄稿、五月にも「今は延ばす感じはない」と発言するなど、財務省の立場に立った発言をしてきたが、さすがに選挙モードということだったのだろうか。

 もっとも、選挙を乗り切ったからといって、早速消費税増税にゴーサインを出したのでは、高止まりしている支持率も急落しかねない。ましてや四月に実際に引き上げが行われた段階で消費が激減し、景気が失速するようなことになれば、アベノミクスは失敗だったという烙印を押される。そうなれば安倍首相は退陣に追い込まれることになるだろう。消費税増税を決めると共に政権を追われた野田佳彦内閣と同じ運命になるわけだ。

 もっとも、安倍首相は野田前首相と違い、財務省と心中するつもりはないようにみえる。アベノミクスが成功すれば、消費税率を引き上げなくても財政再建は可能だと信じている節もある。

 財務省を敵に回しても増税延期を取るか、アベノミクスを危機に晒しても消費税増税を優先させるのか。はたまた第三の切り札が存在するのか。安倍首相の決断に注目したい。