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2013-09-30

麻植茂・元グラントソントン太陽ASGグループ 「スイス在住を経て」第6回

| 14:57

スイス・ビジネス・ハブスイス企業誘致局)ニューズレター 連続インタビュー

2013年3月号

聞き手:元日本経済新聞社チューリヒ支局長磯山友幸

スイスには昔から国外からの移住者が少なくない。ロシアの革命家ウラジーミル・レーニンのような政治亡命から、喜劇俳優チャールズ・チャップリンのような晩年を過ごすための移住まで、理由は様々だとはいえ、数多くの外国人を引き付けてきた。最近は税金が安いといった経済的な理由で移住する企業創業者なども増えている。日本人でスイスに移り住む人はまだまだ少ないが増加傾向にあるようだ。スイスに滞在経験のある日本人に聞くインタビュー・シリーズ。今回はスイスに「移住経験」のある麻植茂さんに話を聞いた。

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問 麻植さんは日本の準大手の会計事務所であるグランドソントン太陽ASGグループの創業者のひとりです。退職を期にスイスに移住されたそうですが、何年の事ですか。

 麻植 チューリヒに移り住んだのは2001年10月のことです。そのまま永住するつもりでしたが、不整脈で定期的な通院が必要になり、主治医のいる日本に戻ってきました。もちろん、スイスの医療水準が高いことも承知していましたが、体調の微妙なやり取りとなるとやはり日本がいいだろうということで帰国しました。2004年4月ですから、残念ながら3年弱の「移住生活」だったことになります。

 問 なぜ移住を決めたのですか。

 麻植 私は公認会計士でしたが、職業専門家としての能力は50歳代でピークアウトします。60歳で完全にリタイアしようと常々考えていました。しかし、年長の私がいると何かと若い人たちが頼りにするため、なかなか仕事と縁が切れませんでした。それなら、いっそのこと、海外に移住してしまおうと考えたわけです。もともと日本的なルールの運用が曖昧な社会は好きでなく、外国の方が性に合うと思っていたこともあります。日本に飽き飽きしていたわけです。

 問 なぜスイスだったのですか。

 麻植 まず安全であること、そして英語が通じること、そして欧州の中心にあって何よりも便利であることが理由でした。実は、移住する数年前でしたか、チューリヒに行った際に、スイス人の若い弁護士と知り合いました。その時、日本人がスイスに移住するのは難しいんだろうね、と何気なく聞くと、いやいやチューリヒ州に退職者を移民として受け入れるリタイアメント・プログラムが導入されたのでチャンスはあるという話をしてくれたのです。スイス移住後は労働しないことが条件で、一定以上の消費をすることが義務付けられていました。スイス人の雇用は奪わずに消費を喚起してくれる人を受け入れるというわけです。

 問 一定の消費とは。

麻植 ある一定額の財産証明を提出するのです。そのうえで、消費する額は日本円にして月100万円ぐらいだったと記憶しています。これにはアパートの賃借料なども入りますから、そんなに無理な金額ではありません。加えて、犯罪歴がないことも条件の1つでした。

 問 その退職者の移住プログラムに応募されたわけですか。

 麻植 はい。弁護士に委任状を渡して頼んでおいたのです。申請にはこのほかに、スイス国籍を持つ人2人の推薦状が必要だったと思います。お願いしたのはツーク市で代々800年も続くというファミリーのひとりでした。スイスの建国は1291年ですから、建国以前からの歴史があるというわけです。日本の会社の代理人などを引き受けていた人物で、仕事の関係でかなり前に知り合っていた人でした。もうひとりはスイスにあった日系の金融機関に頼んで作ってもらいました。

 問 そして許可を得たわけですね。

 麻植 あまり期待していなかったのですが、半年ほどして突然連絡が来ました。許可が下りるから3カ月以内に住所を定めて居住申請せよ、ということになったのです。居住許可は1年更新で、問題がなければ6−7年で定住できる許可に変わると聞いていました。実はそれまで家内にはきちんと話しをしていませんでした。「長期の旅行に行くようなものだから」と言って説得しました。

チューリヒ湖が見下ろせるアパートを借りて、生活を始めると非常に快適でしたね。チューリヒを拠点にヨーロッパ各地を旅行して歩きました。むしろ家内の方が気に入って、私の病気で帰国を決めた時も自分だけ残りたいと言っていたほどでした。

 スイスの中でもチューリヒは外国人に優しい町です。言うまでもなくスイスは、大きく分けてドイツ語圏とフランス語圏、イタリア語圏から成り立っています。ですから、自分と違う言葉を話す人に対して非常に寛容です。英語を話せる人も非常に多いですね。市役所の手続きなども英語で対応してくれます。そうした日常の生活でのストレスが極めて小さいところではないでしょうか。

 問 最近は日本人の資産家でスイス移住を希望する人が多いようです。

 麻植 私も資産家の財産管理アドバイスなどを長年してきました。日本の場合、相続税が高いこともあり、企業の創業者などの間で、海外に資産を移そうというニーズが高まっているのは間違いありません。これは世界的な傾向です。最近、フランスが富裕税を課すことを決めた途端に、フランスの資産家がベルギーなどに移住しています。

 フランスからベルギーへの移住なら、フランス語も通じますから国内移動のようなものです。まったく何の躊躇もなく移住できるでしょう。ヨーロッパ人がヨーロッパ内の他の国に移住するのもさほど苦労はないでしょう。基本にある文化はかなり共通していますから。言葉が違うのが壁だと言うかもしれません。だから多言語国家のスイスが移住先として好まれるのでしょう。

ですが、われわれ日本人にとってはこの生活文化の違いはかなり大きなハードルだと思います。税金のために外国に移住したいと思う人が100人いたとすると、実際に移住に踏み切れるのは5人以下です。もともと外国暮らしが長く、西洋文化に馴染んでいるとか、私のように日本的なものに飽き飽きしてでもいない限り、移住はストレスでしょうね。

 よくスイス税金天国だと言われ、課税を逃れた人たちが移り住んでいるとされます。ですがスイス政府は課税逃れの移住者は好ましくないと思っているそうです。私が利用した退職後移住のプログラムの場合、居住実態があるかどうか厳格にチェックされるとの話でした。居住許可証の更新の際に、居住実態がないとして、許可の更新が受けられなかった人もいたそうです。

 問 文化と言えば食事の違いは問題なかったのですか。

 麻植 実は私は、健康上の理由から魚中心の食事にしています。私が移住した2001年ごろにはチューリヒでも日本食ブームが盛り上がっていました。町中のミグロやコープといったスーパー・マーケットでも鮮魚コーナーが充実しているところが増えていて、刺身用のサーモンや鮪などを買うことができるようになっていました。もともと魚はあまり食べない国民なのですが、寿司ブームのおかげで、チューリヒの町中には回転ずしレストランなどもできていました。私が帰国した後は一段と日本食が一般的になったようですから、食材などは簡単に手に入るようになっているのではないでしょうか。

 問 スイスは日本人にとっても暮らしやすいということですね。

 麻植 はい。ヨーロッパの中で一、二番目に外国人が暮らしやすい国であることは間違いありませんが、それは日本人にとっても同じだと思います。ただ、いずれにせよ、好奇心が旺盛な人でないと、外国暮らしは辛いと思いますね。

麻植 茂(おえ・しげる)氏

1941年3月神戸生まれ。1963年、一橋大学商学部卒業。会計事務所勤務を経てへて、1969年会計事務所設立。1985年監査法人を創設し代表社員などを務める。他の監査法人との合併を推進、現在の太陽ASG監査法人に育てた。2001年に退職、会計士を廃業し、チューリヒで引退生活を送った。2004年に帰国。現在、社会貢献活動に取り組む。

http://www.switzerland-ge.com/global/invest/ja/blog/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E5%9C%A8%E4%BD%8F%E3%82%92%E7%B5%8C%E3%81%A6-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E6%BB%9E%E5%9C%A8%E7%B5%8C%E9%A8%93%E3%82%92%E6%8C%81%E3%81%A4%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%EF%BC%88%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC%E2%91%A5%EF%BC%89

Swiss Business Hub Japan – Location Promotion

Embassy of Switzerland

ブランド王国スイスの秘密

ブランド王国スイスの秘密

2013-09-27

本格的に消費に火を付けたアベノミクス

| 16:39

時計専門誌「クロノス日本版」にいただいているコラム「時計経済観測所」では、毎回、時計と景気を結び付けた記事を書いています。少し古くなりましたが、8月発売の9月号に載った記事を、編集部のご厚意で以下に再掲させていただきます。クロノスのオリジナルページものぞいてみてください。→http://www.webchronos.net/

 7月の参議院議員選挙自民党が圧勝した。自民党は改選議席を34から65に増やし、非改選の50議席と合わせて115議席を獲得。公明党と合せて135議席と、過半数の122議席を大きく上回った。これでいわゆる「衆参のねじれ」は解消、与党は両院で多数を占めることとなった。自民党の圧勝は安倍晋三首相が進める経済政策アベノミクス」への期待の表れと言えるだろう。「たくさんの国民の皆さんに、経済政策を前に進めていけという大きな声をいただいた」

 選挙結果を受けて安倍首相はこう語った。そのうえで、デフレからの脱却を急ぎ、経済の再生に取り組む姿勢を強調した。

 選挙戦の最中、野党アベノミクス批判を展開したが、決め手に欠いた。「株価の上昇で潤うのは一部の金持ちだけで、庶民の生活は苦しくなっている」。せいぜい、そうした批判が精一杯だった。では、アベノミクスによる株価の上昇で潤っているのは、本当に一部の金持ちだけなのだろうか。

 野党アベノミクス批判で使ったのが、「百貨店の高級品は売れているが、スーパーの生活必需品は売れていない」というもの。確かに5月まではそうした傾向が見えなくもなかった。前号でも触れたように百貨店での「美術・宝飾・貴金属」の売り上げの伸びが目立っていたからだ。

 高級品の販売好調がいずれ消費全体に火を付けるだろうと見られていた5月中旬。1万6000円に迫っていた日経平均株価が急落した。その後も株価は一進一退が続いたのである。株価右肩上がりの上昇が一服したことで、いったい消費はどうなるのか。一時のミニバブルとして終わってしまうのではないか。消費の行方が注目された。

 選挙戦終盤の7月18日、日本百貨店協会が6月分の販売動向を発表した。それによると全国百貨店売上高(店舗数調整後)は前年同月比7.2%増と大幅に増えたのだ。株価の下落にもかかわらず、「美術・宝飾・貴金属」の売り上げも16.3%増と高い伸びを続けた。時計の販売などが引き続き好調だったのである。ハンドバッグなどの「身のまわり品」も14.0%増だった。株価の軟調は高額品消費にほとんど影響しなかったと見ていい。

 しかも、生活必需品の消費も大きく増えていることが明らかになった。投票日の翌22日に、日本チェーンストア協会が発表した6月のスーパーなどの売り上げは驚きの数字だった。全体で前年同月比5.1%増加、既存店ベースでも2.7%の増加になったのだ。

 既存店ベースでは3月に1.7%のプラスになったものの、4月も5月もマイナスだった。2.7%増という数字は過去2年間で最大の伸び率だ。

 食料品では肉や惣菜の販売が好調だった。また、家具やインテリア、家電製品を中心に住関連商品も大きく増えた。6月の百貨店とスーパーの売り上げの伸びは、株価の上昇で一部の高級品だけが突出して売れていたものが、消費全体へと広がっていることを如実に示していた。

 こうした消費好調の傾向が続くのは間違いなさそうだ。6月末に支給されたボーナスは、バブル期以来の高い伸び率を示したとされ、ボーナス増が消費を押し上げている。また、7月以降の全国的な猛暑によって、クーラーなどの家電製品や夏物衣料なども大いに売れた。中元商戦でも例年より高めの商品が好調だった。

 アベノミクスによる円安は、輸入品価格を押し上げている、とマイナス面が指摘されるが、現実には国内消費を増やすことに貢献している。円安で海外旅行が割高になったため、夏休みは国内旅行へのシフトが起きた。JTBの集計では、夏休みの国内旅行者数は過去最高だった。もちろん、日本を訪れる外国人旅行者も急増しており、これに伴って国内消費が盛り上がっている。時計や宝飾品は旅行者による購入が大きな割合を占めるが、この夏は、こうした日本国内を旅行する人の大幅な増加が追い風になるだろう。アベノミクスが軌道に乗れば、消費をされに押し上げることになるかもしれない。

クロノス日本版9月号(8月発売)

2013-09-26

8月の百貨店売上高は再びプラス アベノミクスに残る課題は大都市と地方の格差解消

| 10:58

今の景気を支えているのは消費と公共投資です。アベノミクスによる「ムードの好転」が消費を押し上げてきたわけですが、今後どうなっていくのかが大きな焦点です。現代ビジネスに掲載された原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37079


 1カ月前のこのコラムで「好調な伸びが続いてきた百貨店の売上高に変調をきたし始めた可能性が出てきた」と書いた。

 日本百貨店協会が8月20日に発表した全国百貨店の7月の売上高(店舗数調整後)が前年同月比で2・5%のマイナスになったからだ。6月が7.2%増という高い伸びだっただけに、7月以降、景気が腰折れしてしまうのかどうか、全国百貨店の8月の売上高が注目されていた。

 では8月の売上高はどうなったか。

 9月20日に日本百貨店協会が発表した統計によると、全体の売り上げ(店舗数調整後)は2.7%増と再びプラスに転じた。7月に9カ月ぶりにマイナスになった「身の回り品」が4.5%増と再びプラスになったほか、衣料品(1.9%増)、雑貨(8.5%増)、家庭用品(1.6%増)、食料品(0.1%増)、食堂・喫茶(4.1%増)など主要部門が軒並みプラスになった。

高額消費の代表格「美術・宝飾・貴金属」が18.3%増

「身の回り品」は靴、アクセサリー、ハンドバッグ、財布、傘といった商品で、景気動向によって売れ行きが変わる商材。景気が良くなる時はまっ先に売れ始め、悪化する時はまっ先に売れなくなると言われる。

 また、高額消費の代表格である「美術・宝飾・貴金属」も18.3%増と大きく伸びた。

 伸び率は5月の23.3%増をピークに、6月は16.3%増、7月は14.2%増と、伸び率が鈍化していたが、8月は再び伸び率が前の月を上回った。

 これらの数字を見る限り、7月の減少は6月が「売れ過ぎ」だった反動、あるいは一時的な減少で、消費は全体としては依然として強い、ということを示しているようだ。

 前月のコラムには読者から様々意見をいただいたが、こんな指摘もあった。

 衣料品の売り場担当者の話として、今年はバーゲンセールでの売り上げが好調で、6月にセールが始まった途端に売れてしまい、7月には売るモノがなくなっていた、というのだ。

 目星を付けていた洋服をセール後半に買いに行ったら、もうどの店にも無かったという声を私自身も耳にした。

 確かに統計数字でみても、6月の衣料品は全国ベースで10.5%増の高い伸びを示していた。猛烈な売れ行きだったことを数字は示している。7月の衣料品が全国で7.3%減ったのは「モノ」の供給が間に合わなかったから、という説もうなづけるというわけだ。

スーパーでも総販売額が6カ月連続でプラス

 8月の消費が底堅かったことは、スーパーの売上高にも表れている。

 日本チェーンストア協会が9月24日に発表した8月の販売統計(速報)では、総販売額の伸び(店舗調整前)は前年同月比2.3%増。既存店ベース(店舗調整後)の数字も100.1%とプラスだった。

 店舗調整前の総販売額の増減率で言えば、今年2月まではほぼマイナスが続いてきたが、3月にプラスに転じ、6カ月連続でプラスになっている。食料品が2.3%〜4.7%という比較的高い伸びを示しており、8月も3.5%増えた。

 百貨店での販売好調は当初、株価の上昇に伴う「資産効果」と言われた。

株価が上昇して利益を得たり、含み益が増えた株式保有者が、高額品を中心に消費している、というわけだ。実際、年明け以降の消費の伸びを「美術・宝飾・貴金属」や「身の回り品」といった高額消費が支えてきたことは事実だ。

 5月後半に株価が急落したことで、こうした「資産効果」に陰りが出ることが懸念された。すでに指摘したように、伸び率でみれば「美術・宝飾・貴金属」の売上高は5月をピークに鈍化しており、株価下落の影響が出始めていたという見方もできる。

 5月22日に1万5627円を付けた日経平均株価は6月13日に1万2445円まで下げたが、6月末には1万3677円まで回復。8月末は1万3388円だったから、ほぼ2カ月間にわたり一進一退だった。

 その一方で、8月には高額品消費が再び伸びている。高額消費はかなり底堅いと見ていいだろう。

 9月は月末に向けて再び株価が上昇し、1万4500円を上回った。上旬には2020年のオリンピック東京開催が決まり、景気の先行きに対する見方は明るくなった。

猪瀬直樹東京都知事は、東京オリンピックが「心のデフレを取り払う」と強調していたが、20年近く染みついたデフレマインドが変わる可能性が出てきたように思う。これが9月以降の消費にどう表れてくるか。

安倍晋三首相は10月上旬に消費税率の引き上げに向けた最終判断を下す。最も重視されるとみられる指標である4〜6月の国民総生産GDP)も上方修正され、実質前期比0.9%増(実質年率3.8%増)となった。来年4月から税率が5%から8%に引き上げられるのはほぼ既定路線になったと見られている。

消費を冷やさぬには、家計に回るおカネを増やす必要が

消費税率の引き上げが正式に決まれば、駆け込み需要が生まれる一方で、来年4月以降の消費にマイナスの影響が出ることは確実だ。

 あるいは増税に備えて家計が財布のひもを引き締めるようなことになれば、せっかく明るさが増している消費が一気に腰折れしかねない。

政府は、消費増税の悪影響を吸収するための景気対策を打つ方針だが、消費を冷やさないためには、家計に回るおカネを増やすことが重要になる。

 企業に対する法人税減税や設備投資減税分を消費に回すには、企業がまっ先に年末のボーナスや給与を増やす必要があるが、具体策となるとなかなか答えはみつからないのが現状だ。

 百貨店の売上高を見ていて、もう1つ鮮明なのが、大都市と地方のギャップだ。

 8月の売上高の伸び率は全国では2.7%増だが、東京は5.6%増、名古屋9.5%増、大阪7.8%増と大都市圏の伸びが大きい。主要10都市でも仙台神戸広島はマイナスで、主要都市以外の地域となると0.9%のマイナスだ。

消費税率の引き上げは、それでなくても停滞感の強い地方の中小都市の景気を一気に冷やす可能性がある。

消費税対策として議論されている法人税率の引き下げも、恩恵を受けるのは大都市に本社を置く大企業が中心で、地方の中小企業や個人はなかなか恩恵にあずかれない。地方からの消費の腰折れを防ぐためにも、地方への景気対策が大きな課題になりそうだ。

2013-09-25

財政難のなかで防災対策に知恵を絞る

| 17:48

ウェッジの9月号(8月20日発売)に掲載された連載コラム「復活のキーワード」。防災の日にからめて防災関連の話題でした。

オリジナル→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3106


 東日本大震災から2年半が経った。大津波による深刻な被災を受けた海岸線では、国の事業として巨大な堤防の建設が続いている。高さ7メートルを超えるコンクリートの壁を作ることに地域住民などから反対が起きている地域もあるが、工事は粛々と進んでいる。

 震災後、南海トラフ地震リスクが叫ばれるようになり、予想される津波の高さなどが見直された。静岡県高知県などでは20メートルを超す津波が数分で押し寄せるといった予測が出されている。どんな巨大堤防を造っても自然の力には抗しきれないという現実を突き付けられている。

 そんな中で、巨額の資金をかけずに、身近なところから災害に備えようという試みが官民さまざまなところで巻き起こっている。

 千葉県旭市銚子市の西、九十九里浜の北端にあたる場所に広がる人口68000人余りの市である。農業・漁業が盛んなほか、夏になると多くの海水浴客が訪れる。東日本大震災では16人の死者・行方不明者が出たほか、1280世帯の家屋が全半壊したが、ほとんどが津波による被害だった。大津波警報が発令されてから最大波が襲うまで2時間。避難体制のあり方に大きな教訓を残した。

 その1つが情報の伝達。市内113カ所に設置した防災無線のスピーカーで避難を呼びかけたが、その後のアンケートで「聞こえなかった」という回答が予想以上に多かったのだ。スピーカーから出た音が風に流されたり、離れた2つの音がズレて聞こえたりして、何を言っているか分からない状況が多発したのだ。

そこで旭市は、ちょうど総務省が募集していた「住民への災害情報伝達手段の多様化実証実験」に参加。情報伝達システムの見直しを行った。避難しようにも正しい情報が迅速・確実に伝わらなければ逃げようがない、と痛感したからだ。

 新たに海岸線に「ホーンアレイスピーカー」を3基設置した。スピーカーを4台縦型に組み合わせたもので、各スピーカーから同じ音を同時に出し、音が重なり合うように調節することによって音の指向性を格段に高めた。音響機器メーカーのTOAが開発したもので、従来の2〜3倍の距離まで、明確な音が届くようになった。

 また、新システムでは、防災無線を海岸近くにある小学校4校の校内放送設備と接続。緊急速報が流れた場合に自動的に校内全教室に流れるように変えた。市役所からの電話連絡を受けて教員が校内放送をしていた従来の仕組みに比べ、同じ情報を一斉に早く伝達できるようになった。

 さらに電光掲示板や津波避難標識も設置したほか、市内地域にある携帯電話に自動的にメールを送る「エリアメール」なども整備した。「住民だけでなく、市外からいらっしゃる海水浴などの観光客にも等しく情報が行き渡る仕組みづくりが必要だ」と旭市地域安全班の高橋利典・主任主事は語る。

 もっとも全国どこの市町村でも財政状態は厳しい。巨額の設備投資をする余裕はないのが一般的だ。旭市のシステムづくりには1億8000万円ほどかかったものの、総務省の実証実験ということで市に負担はなかったが、今後は市の予算で整備していくことになる。市内に小中学校は20校ほどあり、校内放送との接続などが課題になる。

 また、今回のシステムに組み込まれたホーンアレイスピーカーを設置すれば、到達範囲が広い分、スピーカーの設置台数を減らせるため、メンテナンスコストが減るメリットもある。

 千葉県では巨額の資金が必要なコンクリート製の巨大堤防の建設は見送り、土盛りして木を植える防潮林の整備を進めている。津波の力を減衰させる効果はあるが、巨大な津波の場合、防潮林を越えて来る可能性はある。そうなると、いかに迅速に避難してもらえるよう情報を伝達できるかが、大きなポイントになる。堤防というハードにかける金額に比べれば、情報システムへの投資は大きくない。旭市では高さ10メートルの津波避難タワーの建設も進めているが、周辺住民や海水浴客全員がそこに逃げられることを想定しているわけではない。あくまで逃げ遅れた人のための設備で、逃げ遅れないためのインフラ整備が重要だと考えている。

 静岡三重高知にかけての太平洋沿岸、南海トラフ地震による津波が想定されている場所の防災対策はさらに深刻だ。場所によっては、津波は最大30メートルに達するとされ、もはや堤防で防ぐことは難しい。

 そんな中で民間企業から相次いで出てきたのが、津波シェルターというアイデア。水に浮くシェルターに逃げ込んで、難を逃れるというものだ。旧約聖書に登場する「ノアの方舟」の発想である。

 5月に名古屋市ポートメッセなごやで開かれた防災・減災をテーマにした展示会「中部ライフガードTEC2013防災・減災・危機管理展」にも、何社かの「方舟」が出展されていた。

 大阪府豊中市のミズノマリンが扱うのは25人乗りの救命艇シェルター。もともとマリンエンジンなどを扱う企業で、貨客船の救命艇のメンテナンスなどを行ってきた。大型船舶などに装備されている救命艇がベースだけあって、25人乗りで700万円からと、それなりに高額だ。

 他にも鉄工所が開発した鋼鉄製のシェルターや、家庭向けのFRP(繊維強化プラスチック)製のシェルターなども展示されており、100万円以下の製品もある。もっとも逃げ込める人数が限られていることや、巨大津波という異常事態でどこまで強度を保てるかなど効果に対する疑問の声もあり、本格的に自治体などが採用するには至っていない。

 アウトドア用品大手のモンベル(本社大阪市)が開発したのは浮力補助胴衣「浮くっしょん」。通常は折りたたんで椅子のクッションになっているが、津波の際には救命胴衣になる。いわば防災ずきんの津波版だ。大人用5000円、子供用3800〜4200円で、布製のカバーも販売している。同社では災害発生直後の緊急避難用備品セットや、避難生活用のテントなどのセットも手がける。

 これを用意すれば絶対に大丈夫と言えないのが防災の難しさだ。いくら万全と思っても必ず「想定外」の事態が起きるということを今回の東日本大震災は教えてくれた。身近な防災用品の整備などできるところから準備しておくことが肝心だ。9月1日は防災の日。国や自治体などの対策に頼るだけではなく、自分の身を守る方法に思いを巡らせてみてはいかがだろうか。

◆WEDGE2013年9月号より

2013-09-24

外国人旅行者「世界30位」は戦略の失敗? 五輪開催に向けて問われる「観光立国」の本気度

| 15:14

外国人旅行者が急増していますが、「観光立国」にはまだまだです。

日経ビジネスオンラインにアップされた原稿です。

オリジナル→http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130918/253597/


 日本を訪れる外国人旅行者が急増している。日本政府観光局の推計によると、今年7月の訪日外国数は100万3000人。月間として初めて100万人の大台に乗せた。今年1月から7月までの累計で595万人に達しており、政府が目標としてきた年間1000万人を今年、達成する可能性が強まってきた。

 京都奈良といった有名観光地ばかりでなく、日本人があまり訪れないような地方の観光地でも外国人に出会うことが増えた。しかも、最近顕著なのは「国際化」が進んでいることだろう。韓国語や中国語ばかりでなく、タイ語やインドネシア語などを耳にする機会が増えた。もちろん、英語、ドイツ語、ロシア語も聞かれる。ひと時急増していた中国からの観光客が、昨年9月の尖閣諸島問題をきっかけに激減したことも「中国一色」から多様化するきっかけになった。

 海外からの旅行者の急増は、安倍晋三首相が推進する「アベノミクス」の効果と言える。第1の矢である「大胆な金融緩和」によって円安が進んだことが大きい。外国人にとってみれば自国通貨が日本円に対して強くなったわけで、日本旅行の代金が大幅に安くなっている。為替変動によって人数が大きく増減する韓国からの旅行者が急増していることも、円安効果の威力を示していると言えそうだ。

2月以降の観光客は2ケタ増

 1月の訪日外国人数は前年の同じ月に比べてマイナスだった。だがアベノミクスへの期待が高まり、円安になると共に大きく増え、2月以降は2ケタの伸びが続いている。2月は33.5%増、3月は26.7%増、4月は18.4%増と続き、5月も31.2%増、6月は31.9%増、そして7月は18.4%増となった。9月から年末にかけては、昨年は尖閣問題で中国からの観光客が激減した数値が比較のベースになるため、今年は高い伸び率が続くのは確実とみられる。中国人観光客の大幅な減少を、韓国台湾香港、タイなどからの観光客の急増で補い、さらに数を増やしているというまさに活況状態が続いている。

 外国人観光客増加の経済的効果は大きい。ホテル代や交通費など直接的な旅行費用が増えるだけではない、外国人が日本に来てお土産を買い自国に持ち帰れば、日本にとっては輸出と同じ効果がある。しかも、小売りや外食、ホテルといった観光関連産業の雇用を生み出す。

 原発の停止で火力発電用LNG液化天然ガス)の輸入が急増、日本の貿易収支は赤字に転落している。そんな中で、外国人旅行者がもたらす収入は小さくない。

ちなみに2012年に海外に旅行に出かけた日本人は1849万人。日本を訪れた外国人835万人の2.2倍にのぼる。当然、外国人が日本で使う旅行費用よりも日本人が海外で使う旅行費用の方が大きく、いわゆる「旅行収支」は赤字だ。ところが今年2月以降の円安で、海外旅行に出かける日本人は前年比で毎月1割以上減っている(4〜6月の暫定値、日本政府観光局調べ)。つまり、日本人が外国で使うおカネが減り、外国人が日本で使うおカネが増えているので、効果がダブルで利いている。

 日本人が外国旅行ではなく、国内旅行に切り替えても同じ効果がある。

 2000年に国土交通省が、日本の全国民がもう1回、国内宿泊旅行に出かけた場合の経済効果を試算したことがある。旅行にかかる出費の総額は5兆8000億円にのぼり、50万人の雇用が生まれるとした。さらに波及効果まで加えると13兆7000億円で、109万人の雇用を生むとしている。1億人がさらに1泊という計算だから効果は絶大だが、1000万人の外国人旅行者にさらに1泊してもらっても10分の1の効果はあるということになる。

 政府は2006年12月に「観光立国推進基本法」を制定。観光に力を入れる方針を示した。第1次安倍内閣の時だ。第1次安倍内閣では、羽田空港を本格的な国際空港に転換することなどを決めている。安倍首相は今年3月に「観光立国推進閣僚会議」を設置、3月と6月に会合を開いた。

 そのうえで、政府は7月1日から、タイとマレーシアの訪日観光客のビザを免除する規制緩和策を導入。フィリピンベトナムについても数次ビザを発給、インドネシアは数次ビザの期間を15日から30日に延長する措置をとった。7月のタイからの訪日観光客数は84・7%も増加しており、ビザ免除の効果が出ていると見られる。こうした東南アジアのビザ要件の緩和などをテコに、昨年78万人だった東南アジアからの訪日旅行者を今年100万人に増やし、2016年には200万人にしたい考えだと言う。

計画では2030年に3000万人

 安倍内閣が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」には、訪日外国人旅行者の促進策として「ビジット・ジャパン事業」が盛り込まれている。今年1000万人の達成を目指したうえで、2030年には3000万人にする計画を掲げた。

 3000万人というと大きな数字に見えるが、上には上がいる。観光庁の資料によると、2010年の受け入れ外国人数はフランスがトップで7680万人。次いで米国(5974万人)、中国(5566万人)、スペイン(5267万人)、イタリア(4362万人)となっている。日本は世界で30位。アジアでは香港(2008万人)やタイ(1584万人)、マカオ(1192万人)よりも少ない。

 トップのフランスは観光資源が豊富なのだから当然だ、と言う人がいるかもしれない。だが、パリは国際会議の開催件数が世界一多いなど、明らかに努力の跡がある。日本には独自の文化や自然など観光資源は山ほどある。にもかかわらず世界で30位というのは、明らかにこれまで戦略不足だったということだろう。

 1つだけ例を挙げれば、日本人にも人気のルーブル美術館の開館時間は週4日が9時から18時、週に2日は9時から21時45分だ。一方、東京国立博物館の開館時間は9時30分から17時で、特別展のある金曜日だけ20時まで開いている。ルーブルの日本語ホームページは素晴らしい。ちょっとした違いだが、観光客の利便性の向上を心掛けているのだ。

「Koen」を「Park」に

 国土交通省は日本国内の観光地にある道路案内標識の英語表記を、外国人旅行者にも分かりやすいよう改善すると発表した。これまで「公園」を日本語読みの「Koen」としてきたものを「Park」と記載するという。外国人に分からない英語表記を続けてきたこと自体、不思議だが、小さな一歩とはいえ意味のある改革だろう。

 先日も成田空港から渋谷駅に着いた外国人旅行者が、いきなりラッシュアワーの雑踏に“放り出され”て行く先探しに窮していた。タクシー乗り場にたどり着けないのだ。日本語が読めない外国人にはまだまだ東京の都心の移動は不便このかたない。

 2020年のオリンピック東京開催が決まった。安倍首相五輪に向けた整備をアベノミクスの「第4の矢」と位置づけている。まずは、2020年の訪日外国人の目標数値を定め、外国人が旅行するだけでなく、長期滞在しやすい国へと一気に脱皮させることだろう。

 観光の推進は、日本経済の活性化に直結するだけでなく、日本文化をへの理解を通して日本ファンを作ることにもなる。

2013-09-20

「万年野党」が若者を地方に集める「国家戦略特区」を提案! 地方選挙権・被選挙権の年齢引き下げは実現するか

| 11:42

選挙権はなぜ20歳以上なのでしょうか。世界の大半は18歳です。被選挙権はなぜ25歳(参議院30歳)なのでしょう。地方議会選挙選挙権・被選挙権年齢は自治体がそれぞれ独自に決めたらよいのではないか。そんな国家戦略特区を「万年野党」が提案しています。

オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37020

 以前このコラムでも取り上げた任意団体「万年野党(政策監視会議)」が、選挙権・被選挙権の年齢引き下げを柱とする「国家戦略特区」の創設を政府に提案した。

 現在は、選挙権は20歳以上、被選挙権は25歳以上(参議院議員は30歳以上)となっているが、希望する自治体選挙に限って年齢を引き下げ、若者の意見を反映しやすい地方自治を目指すことで、若者の流入を加速させ、地方活性化のきっかけにしようというアイデアである。

 国家戦略特区安倍晋三首相自身が「徹底的な規制撤廃を図り、世界から資本と叡智があつまる場を作る」としているもので、いわば規制改革の突破口。万年野党の提案は内閣府に設置された「国家戦略特区ワーキンググループ」(座長、八田達夫・大阪大学招聘教授)のヒアリング対象にも選ばれており、長年議論されながら実現のメドがたたなかった選挙権年齢の引き下げに、風穴があく可能性も出てきた。

選挙権年齢の引き下げは、経済活性化に結び付くのか

 実は、選挙権年齢の引き下げは世界的な流れだ。欧州では1970年代に引き下げの波が広がった。OECD加盟34ヵ国のうち日本と韓国を除く32ヵ国が18歳になっている。韓国も2005年に20歳から19歳に引き下げており、20歳以上としているのは日本だけになっている。

 また、被選挙権についてはOECD加盟34ヵ国中18ヵ国(52.9%)が18歳もしくはそれ以下としている。21歳以下に被選挙権を認めている国は27ヵ国(79.4%)に達する。

 日本でも、憲法を改正する際に必要な国民投票の手続きを定めた国民投票法(2010年5月施行)には「日本国民で年齢満18年以上の者は、国民投票の投票権を有する」と定められている。ただ、同法では国政選挙の年齢を18歳に引き下げることや成年年齢を定めた民法の改正など「必要な法制上の措置を講ずる」としていたが、これまで店晒しになってきた。

 自民党は10月に召集する臨時国会で、国民投票選挙権を18歳に確定する法案を提出する方針だが、同法が求めた国政選挙年齢の引き下げなどは、意見がまとまらず先送りする。

 「地方それぞれに置かれた状況が違うのだから、自治体選挙権や被選挙権は自治体が決めれば良いのではないか」と万年野党の事務局長で元市川市議会議員高橋亮平氏は言う。実際、ドイツオーストリアでは州単位で選挙権・被選挙権年齢を定めており、16歳への引き下げが広がっているという。米国では18歳の大学生町長や高校生市長が誕生した例もあるそうだ。

 アベノミクスの狙いはあくまで経済再生だが、選挙権年齢の引き下げは、経済活性化に結び付くのか。

現行の被選挙権年齢は憲法違反の可能性も

 万年野党の提案にはもう1つの柱がある。大学や大学院に「通信制・政治実習コース」の開設を認め、議員となった学生の議会活動などを「単位」として認定する、というもの。例えば20歳で市議会議員に当選して4年間議会活動を行えば大学または大学院を卒業でき、新卒として企業や官公庁などに就職できるというアイデアだ。

 万年野党が持つ官僚や政治家、シンクタンク研究員といった「政策人」のネットワークを生かし、大学生議員の政策活動を支援・指導していくという。「4年の任期が終われば卒業するのが前提のため、議会がいわゆる職業政治家ばかりになる弊害を打破できる」(高橋氏)とみる。

 若者が活躍できる場ができることで、この特区を採用した自治体に若者が集まると見ているのだ。過疎化が進む地方自治体の悩みは若者が出て行ってしまうこと。若者にすれば、高齢者ばかりで若者の声が街づくりにまったく反映されない、という苛立ちがある。

 このアイデアを実現するためには、最低でも被選挙権が20歳まで引き下げられることが必要になるというわけだ。被選挙権年齢については憲法には規定がなく、公職選挙法などで定められているに過ぎない。「むしろ、25歳や30歳としているのは年齢差別で、20歳以上の成人に普通選挙権を保障している憲法に違反している可能性もある」(大手法律事務所のパートナー弁護士)という指摘もある。

これまでの特区とはまったく違う「国家戦略特区

 では、実際に、選挙権・被選挙権年齢を引き下げようという自治体はあるのか。

 実はこれまで政府が作ってきた「特区」でも年齢引き下げを掲げた特区提案がいくつも出されてきた。2003年と2005年にはNPO法人が「選挙権年齢引き下げ特区」を提案、2008年と2009年には「地方選挙権・被選挙権年齢を地方で決める特区」提案が出された。

 また、自治体自体からの特区提案もあり、2003年に埼玉県北本市が1回、同年に広島県三次市が5回にわたって提案したが、いずれも総務省などに事実上門前払いされている。

 これまで政府が設けてきた「構造改革特区」や「総合特区」は、自治体や民間の要望に対して、各省庁が規制を緩和するかどうかの方針を示す形で進められ、事実上、役所が嫌う規制緩和はなかなか実現できなかった。

 今回の「国家戦略特区」では民間の委員が選択した特区提案を産業競争力会議で議論、安倍首相が主導して実現する形になっている。「これまでの特区とはまったく違う」(産業競争力会議議員竹中平蔵・慶応義塾大学教授)という。国全体で一度に変えることは難しくとも地方からこれまでの規制を変えていく一歩になる可能性はありそうだ。

 万年野党は、政治や政策決定を"野党"的スタンスで監視していこうという任意団体で、現在、特定非営利活動法人(NPO法人)の認証申請中。経済人や学者、ジャーナリスト、政治家・官僚OBなどの参加が内定しており、会長にはジャーナリスト田原総一朗氏の就任が決まっている。

2013-09-19

原発停止で待ったなし! 高止まりするLNG価格引き下げのカギを握る経産省の思惑

| 19:06

エネルギー関連の記事が9月18日にアップされました。ご笑覧ください。

オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37012


 福井県にある関西電力大飯原子力発電所の4号機が9月16日未明、定期検査のため稼働を停止した。1年2ヵ月前に野田佳彦内閣が再稼働に踏み切って以降、大飯原発だけが運転していたが、3号機が9月2日に定期検査で停止。4号機も止まったことで、国内で稼働している原子炉は再びゼロになった。

 経済産業省は8月末に、原発の再稼働が遅れれば家庭の電気料金が今より25%上がるという試算を公表。原発再稼働に向けたムードづくりに躍起だが、原子力規制委員会安全審査にも時間がかかっており、年内の再稼働は難しい情勢だ。

 そうなると、電力会社は火力発電で電力需要を賄うことになるが、その際、最大の問題といえるのが、燃料費の増加をいかに抑えるかだ。中でも高止まりしているLNG液化天然ガス)の価格をどう引き下げていくかが1つの焦点になっている。

「高すぎるLNGからの脱却」が課題

 9月10日にある国際会議が東京都内で開かれた。LNGの生産国と消費国、関連する企業などが一堂に会する国際会議で、「LNG産消会議」と呼ばれる。昨年に引き続き2回目で、今回は消費国である韓国インド、欧州諸国など、生産国であるカタールオーストラリアなどが参加。約50の国・地域の政府や民間企業から1000人以上が集まった。

 日本がこの会議を主催したきっかけは、ズバリ、LNGの調達価格の引き下げ。米国でのシェールガス革命の進展などによって、国際的な天然ガス価格は大きく下落しているが、アジアに需要が集中しているLNGは価格が高止まりしている。原発停止後のLNG輸入費の急増が貿易収支の大幅な赤字要因になっていることもあり、日本政府消費国と連携することで、産出国に価格引き下げの圧力をかけていく戦略だ。

 ちなみにLNGは日本が世界最大の輸入国で、世界全体の消費量の4割を日本で使っている。一方で、天然ガスを冷却して液化する特殊な工程が必要なため、産出側と消費側の長期契約が多く、しかも価格が原油価格連動となっていることから、価格が高止まりしている。

 会議で挨拶した茂木敏充・経産相は、日本のLNGの輸入価格が100万BTU(英国熱量単位)当たり16.3ドルと米国の3.8ドルに比べて4倍強の価格差がある点を指摘。「液化や輸送のコストを加味しても突出して高い状況が続いている」と述べ、「高すぎるLNGからの脱却」が課題であることを強調していた。

 そのうえで、国内外の複数の企業でLNGを大量購入することで、輸入価格の引き下げを狙う「共同調達」に関する共同研究会を設置、検討を開始する方針を表明した。

LNG先物市場の創設に向けた議論

 実は昨年の会議では別の対策が打ち出されていた。LNG先物市場の創設である。

 原油や天然ガスなど多くのコモディティ商品は取引所で先物の売買が行われている。実需に加えて、投資の資金が流れ込むことで、価格がこなれ、市場実勢を反映した価格になるのが取引所取引のメリットだ。

 ところがLNGは産出側と消費側が直接交渉で価格を決める「相対取引」が主体のため、価格に市場原理が働いていない。民主党政権のそんな問題意識から生まれた政策だった。

 経産省は「産消会議」後の昨年11月にさっそく、「LNG先物市場協議会」を設置。先物取引について議論を開始、5回の審議を経て今年4月に報告書をまとめた。

 報告書では、「LNG先物市場の創設に、いくつかの難しい課題があることは理解するものの、積極的に取り組んでいくべきである」とし、現金決済型の市場を先に作ること、そのためのスポット価格の情報収集の仕組みを作ることなどを求めた。市場の創設時期については2014年度中とした。また、現物の受渡しも可能な市場についても「検討していくべきだ」とした。

 ところが、その後の動きをみていると、遅々として進んでいないように見える。この間、政権が交代したためか、経産省の意向が反映されたためか、「市場での価格決定」に難色を示しているようにすら感じられる。

料金認可体制と市場原理

 どうも背後には経産省にとって不都合な2つの問題があるようだ。

 1つは、商品取引所の統合問題。現在政府は、証券取引が中心の取引所にコモディティも扱うことができるようにする「総合取引所」化を推進している。すでに東京証券取引所と大阪証券取引所が統合、今年1月に日本取引所グループ(JPX)が発足している。

 社名から「証券」が消えているのがミソで、傘下のデリバティブ市場でコモディティも扱える体制づくりを狙っている。LNG取引も現金決済となれば金融取引で、JPXで上場することに何ら支障はなくなる。

 ところが経産省には「東京商品取引所(旧東京工業品取引所)」という許認可先があり、これまでも幹部が天下りしてきた。LNG先物をJPXに取られるわけにはいかない、という組織の論理があるというのだ。

 もう1つは電力会社に認めている「総括原価主義」の料金体系。調達原価、事業コストに適正利潤を乗せて電力料金を決めていいという仕組みだ。さらに燃料価格が上昇すればその分、自動的に料金を上乗せできる「原料費調整制度」というのもある。

 つまり、電力会社にとっては燃料費を努力して下げても料金が下がるだけで、自分たちにはメリットがない。逆に言えば燃料費が上がっても料金転嫁できるので、懐は痛まない。つまり調達原価を引き下げるインセンティブが働かない仕組みになっているのだ。

 仮にLNG先物市場ができ、市場の原理で価格が決まるようになると、総括原価主義自体が崩壊しかねない。逆に言えば、総括原価主義が残っている限り、先物市場を作っても本格的には機能しないとも言える。経産省にとっては料金認可が権力の源泉だ。料金認可体制と市場原理はなかなか相容れない。

 一方で、原発を即刻再稼働しなければ料金は大幅に上がると急かせながら、一方では先物市場の創設を2014年度中と2年も猶予を作ったのは、そんな「やる気のなさ」を示している。ちなみに報告書を作成した協議会のメンバーにはJPXは入っていない。このあたりにも自分たちの掌の上ですべてを進めたい経産省の思惑がみえる。

 原発再稼働に向けた原子力規制委員会安全審査には、4つの電力会社が合計6原発12基を申請している。四国電力伊方原発3号機(愛媛県)や九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)、同玄海原発3、4号機(佐賀県)が、早期の再稼働対象とされる。もっとも、審査終了後に、地元の同意を得なければ再稼働は難しく、難航が予想される。LNG価格の引き下げに向けて早急な対応が必要だろう。

2013-09-18

特区で問われるアベノミクスの本気度

| 14:51

産経新聞社が発行する日刊紙フジサンケイビジネスアイ」の9月16日付け1面コラムに掲載された記事を以下に再掲します。ご笑覧ください。→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130916/mca1309160502003-n1.htm

 アベノミクスの成長戦略の切り札とされる「国家戦略特区」の選定作業が始まった。8月12日から9月11日まで、民間企業や地方自治体などから具体的な特区提案を募集。首相官邸に設置された「国家戦略特区ワーキンググループ」(座長、八田達夫・大阪大学招聘(しょうへい)教授)が提案内容についてのヒアリングなどを行っている。提案されたもののうち、ヒアリング対象になった案件は、順次公表されている。11日までにヒアリングを終えたものは17件。内容をみると、「農業」や「都市再生」「医療」「教育」といった分野での特区提案が多い。

 愛知県など東海4県3市は「アグリ・フロンティア創出特区」を提案した。1次産業の農業に2次産業の加工や3次産業のサービス業などを組み合わせる「6次産業化」(1+2+3)の促進が狙い。農家レストランなどへの農地転用の規制緩和や税制優遇などを求めている。愛知県は、県が保有する有料道路の運営を民間に委託する「コンセッション方式」を実行するための特区提案も行っている。

 安倍晋三内閣が6月に閣議決定した「成長戦略」の中で「立地競争力のさらなる強化」を掲げ、その“武器”として国家戦略特区が位置づけられた。具体的な検討事例として「容積率・用途等土地利用規制の見直し」が示されていたこともあり、大手デベロッパーによる提案も目立った。

 三井不動産が「日本橋八重洲『日本発信』特区」を提案。森ビルも「東京グローバル新都市プロジェクト」を打ち出している。さらに、医療法人などが医療関連の特区提案をしているが、これも成長戦略の中に、外国人医師による外国人向け医療の解禁が例示されたことが引き金になっているようだ。

 政府はこれまでもさまざまな特区制度を作ってきた。小泉純一郎内閣で2003年4月から始まった「構造改革特区」や、民主党政権が「新成長戦略」の一環として導入した「総合特区」がある。後者では「国際戦略総合特区」「地域活性化総合特区」といった名称でさまざまな地域が認定されてきた。

 こうした特区は、全国一律の規制を特定の地域に限って緩和しようというものだった。民間の提案があっても役所側が門前払いするケースも目立った。今回は首相主導で、大胆な規制見直しを行うとしており、「これまでとはまったく次元が違う」(産業競争力会議の民間議員)という。

 安倍首相自身、ロンドンで行った経済演説で、国家戦略特区の意義を強調。大胆な規制緩和を実施するので、日本にもっと直接投資をしてほしいと呼びかけた。

 それだけに、どんな特区が具体化してくるのか注目度は高い。いわゆる「岩盤規制」を国家戦略特区を武器に打ち破ることができるのか。アベノミクスの本気度が問われる。(ジャーナリスト 磯山友幸)

2013-09-17

【スマートエネルギー情報局】中部電力が踏み出した、日本の新しいエネルギー産業創生に向けた第一歩

| 00:13

8月19日に「スマートエネルギー情報局」にアップされた原稿です。

オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36720


 安倍晋三首相が構造改革の象徴として掲げる「電力自由化」をにらんだ民間企業の動きが出始めた。中部電力はこのほど、三菱商事子会社の電力小売事業者である「ダイヤモンドパワー」を買収し、首都圏での電力販売事業に乗り出すことを公表した。一大消費地である東京電力の管内で、電力の大口販売を行う。

 ダイヤモンドパワーは、契約電力50kW以上の大口需要家に、大手電力会社の送電線を通じて小売りする特定規模電気事業者。東京電力、中部電力、関西電力の管内で、電力を供給しているいわゆる「新電力」で、新電力全体の中では2%程度のシェアを持つ。首都圏の百貨店や病院、オフィスビルなどを契約先に持つ。

 中部電力は三菱商事が持つダイヤモンドパワー株式の80%を約10億円で譲り受ける。残りの20%は三菱商事が保有し続ける。2013年度の業績は売上高160億円、純利益15億円という。

 大手電力会社が新電力を傘下に収めて自ら経営に乗り出すのは初めて。また、ダイヤモンドパワーが中部電力の子会社となることで、中部電力グループとして自社の供給域外である東京電力管内や関西電力管内に電力を本格的に供給することとなる。大手電力会社が自社区域を超えて販売体制を敷く初のケースになるという。

 これに併せて、中部電力と三菱商事、日本製紙が三社共同で発電事業に乗り出すことも決めた。静岡県富士市の日本製紙富士工場敷地内に、10万kW級の石炭火力発電所を建設する。新たに発電事業会社を設立、三菱商事が70%、日本製紙が20%、中部電力が10%出資することで合意した。新会社が発電した電力をダイヤモンドパワーが引き受け、大口需要先に小売りするほか、新電電や大手電力会社へ卸売りする。

電力改革がもたらすエネルギー産業の地殻変動

 安倍内閣は今年4月、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。地域ごとに独占を認めている現在の電力供給の仕組みを見直し、家庭ごとに電力会社を選択できるようにするなど、3段階にわけで改革を進める方針を示した。

 まず2015年をメドに「広域系統運用機関」を新設。地域を越えて足りない電力を融通しやすくする。2016年をメドに新しい発電会社が家庭向けに電力を販売することを認め、企業向けから家庭向けまですべての電力販売を自由化する。さらに既存の電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」にも踏み込み、2018年〜2020年をメドに実現を目指す。これに向けて、改正電気事業法案が次の臨時国会に提出される見通しだ。

 第一段として広域系統運用機関が設置されると、これまで以上に大手電力会社間の電力融通が拡大すると見られる。中部電力は今回の体制を敷くことで、グループの新電力を通じて弾力的に他電力への電力販売を行える体制が整う。また、現在の特定規模電気事業者には家庭向けなど小口電力の小売りは認められていないが、2016年以降に自由化されれば、一気に電力市場の構図が変わる可能性がある。

 特に、東京電力が供給エリアとする関東地方は一大電力消費地だが、福島第一原子力発電所事故の影響で東京電力の原発再稼働は厳しい状況が続いており、東京電力の電力供給力に懸念が生じている。逆に言えば、他の大手電力や新電力にとっては事業の拡大余地が大きい魅力的な市場ということになる。

 中部電力は保有する原発が停止中の浜岡原発だけで、発電量に占める原発の依存度がもともと低い。そのうえ、域内電力需要を上回る発電能力を持っており、域外への売電余力も大きかった。最新鋭の高効率石炭火力発電所を新設、16年春に稼働させることで、競争力の高い電力販売価格が実現できるとみている。また、今後想定される原発の廃炉コストなどの負担が他の大手電力よりも小さくなると見られるため、本格的な電力供給競争が始まれば中部電力が優位に立てるという見方も出ている。

 一方で中部電力は、火力発電用にLNG液化天然ガス)を大量に消費しているが、その価格引き下げにも大胆な手を打っている。大阪ガスと共同で米国シェールガスの輸入に名乗りを上げてきたのだ。通常の石油ガスに比べてシェールガスの価格は低く、液化コストを入れても従来のLNGよりも大幅に価格引き下げが可能と見られている。

 5月にはオバマ政権が日本へのシェールガスの輸出を許可。中部電力と大阪ガスが、米フリーポート社との間で結んでいるLNG加工設備プロジェクトが動き始めた。2017年には米国からのLNGの積み出しが始まる見通しだ。

 電力自由化が大きく進みかけた2003年頃には中部電力と大阪ガスの経営統合の噂が流れた。安倍内閣による電力改革が今後、こうしたエネルギー産業の体制に大きな変化をもたらすのは間違いない。世界各地で電力事業を買収・事業展開する総合商社や、都市ガス会社、大量に熱を発生させる製造企業などが合従連衡して、「総合エネルギー・コングロマリット」を形成していくことになるだろう。

 今回の中部電力や三菱商事の動きは、日本の新しいエネルギー産業創生に向けた第一歩と言えるかもしれない。

2013-09-16

「五輪決定」を「東京集中投資」の免罪符にするアベノミクス「最終戦略」

| 09:11

安倍氏に近い政治家が「しかし、安倍さんは引きがいいよな」と関心していました。東京オリンピック決定は間違いなくアベノミクスの原動力になる、という見立てです。オリンピックアベノミクスについてフォーサイトに書きました。

 2020年のオリンピック開催地が東京に決まった。アルゼンチンで行なわれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で最後のスピーチに臨んだ安倍晋三首相は、身振り手振りからまばたきの間隔まで指導を受け、「勝負」をかけていたという。アベノミクスの行方が注目される中で、オリンピック誘致に成功したことは、安倍首相にとって大きい。東京でのオリンピック開催を“免罪符”に、東京への集中投資が可能になったからだ。オリンピック効果が「成長戦略」を大きく後押しすることは間違いなさそうだ。 水面下の路線対立 自民党内には深刻な路線対立がある。積極的な財政出動によって公共事業を積み増し、経済を復活させるべきだという主張と、構造改革によってこそ日本経済は復活するという主張が、水面下でぶつかり合っている。アベノミクスの3本の矢のうち2本目の「機動的な財政出動」に前者を主張する議員は期待し、3本目の「民間投資を喚起する成長戦略」に後者は望みをかける。前者は公共事業配分型のいわゆる「古い自民党」であり、後者は「小泉・竹中路線」を彷彿とさせる構造改革中心で、両者はまったく相容れない。 大ざっぱに言えば、前者は地方選挙区の議員が多く、後… 以下、新潮社フォーサイト」(有料)→http://www.fsight.jp/20789

2013-09-13

アベノミクスが目指すべき中小企業対策は 望月晴文東京中小企業投資育成社長インタビュー

| 14:49

現代ビジネスに今週アップされた記事を、編集部のご厚意で以下に再掲します。経産次官だった望月晴文さんのインタビューです。

オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36956


安倍晋三首相が推進する経済政策アベノミクスがいよいよ実行段階を迎える。そんな中で、成長戦略などの中で「弱い」と指摘されているのが中小企業対策だ。元・経済産業事務次官中小企業庁長官も務めた望月晴文・東京中小企業投資育成社長に聞いた。

  アベノミクスは3本目の矢として「民間投資を促す成長戦略」を掲げており、政府はいわゆる「官民ファンド」を相次いで立ち上げています。東京中小企業育成は「官民ファンド」の元祖のようなものですか。

 望月 ええ。当社の発足は1963年ですから今年でちょうど50周年になります。当初は国も出資していましたが、1986年に民間法人化しました。新潟長野静岡以東が当社の営業エリアで、西には名古屋中小企業投資育成、大阪中小企業投資育成とうい兄弟会社があります。

  中小企業に投資し、上場で投資を回収するプライベート・エクイティ投資をやっているわけですね。

 望月 累計の投資先はつい先日2000社に達しました。すでに80社以上が株式を公開しています。上場すると卒業だとは言っているのですが、現実には企業側から株式保有を続けて欲しいと頼まれるケースも多く、上場後も株式を保有しているケースもあります。

現時点で900社に出資していますが、85%の企業が配当しており、平均の配当利回りは6%です。当社が出資している会社は中小企業の中でも信頼が高く、一種のブランドになっています。

  新規投資も行っているのでしょうか。

 望月 もちろん。年間30億円を新規投資に振り向けることになっていますが、資本金3億円未満の中小企業が対象です。仮に5割近くの株式を持つとしても、年間60社から70社に投資しなければならない計算です。投資先を探すのに苦労しています。

  民間法人ということですが、現在、国は御社に出資していないのですか。

 望月 当社の株式東京都が12%を持つほか、民間金融機関が株主です。大手都市銀行の合併で5%を越えてしまう銀行が出たため、名古屋大阪中小企業投資育成が持っており、持ち合いのような形になっていますが、いずれ地方銀行など金融機関に持ってもらいたいと考えています。

  では国はもはや関係ない?

 望月 いえ、中小企業投資育成株式会社法という法律に基づいた会社ですので、社長人事など許認可事項です。中小企業の経営者は外部株主が入ってくることに敏感です。国がバックにいる当社に安定株式でいて欲しいという期待が大きいわけです。これが民間の論理だけで経営していたら、利益が出ている株式はすべて売却してしまおうということになりかねません。

  投資の対象は製造業ですか。

 望月 当初は製造業だけが対象でしたが、現在はサービス、流通産業にも対象を広げています。国がバックにいる会社が投資するには相応しくない一部の産業を「ネガティブリスト」にして、それ以外は支援対象にするというスタンスです。

  アベノミクスでも中小企業対策が今後の課題になっています。

 望月 産業構造の転換とは言っても、日本の中小企業の多くはモノ作りに携わっています。もちろんサービス産業のパイは大きくなり雇用も生んでいますが、給与水準を比べるとサービス産業はまだまだ低い。サービス業は付加価値の高いサービスを育てていくべきでしょう。一方の製造業は、どうやって国内のモノ作りを減らさないか、という視点で施策を打つしかありません。

  製造業を残せ、と。

 望月中小企業もちゃんと海外拠点を持ち、国際展開を進めています。海外生産を含めて、グローバル・マーケットの中で中小企業も生きていくしかありません。国内は内需向け。最終ニーズに対応する拠点をどれだけ残せるかです。今後も伸びるのは海外です。

 また、海外に出て行くと中小企業は特定の大企業1社をお客さんにしているわけには行かない。1対1の下請け関係ではなくなるわけです。自動車なら日本の大手メーカーだけでなく、現地に出ている欧米メーカーとも取引する。だからと言って日本国内のケイレツを壊す必要はない。最終メーカーと下請け企業が一体になって製品を作り上げていくのは日本のモノ作りの強さだったのですから。

  中小企業も海外に出て行くべきだ、ということですね。

 望月 もちろんです。東京中小企業投資育成でも、国内中小企業の幹部と一緒に、この秋にインドネシアの視察に行きます。視察先は日本企業で先に進出して成功している企業です。まだ海外に出ていない中小企業に先輩企業の経験を学んで欲しいと思います。

  アベノミクスの行方が注目されています。望月さんも歴代内閣の成長戦略づくりに関与されてきました。

 望月アベノミクスの本丸は3本目の矢の「成長戦略」です。これまでに何度も成長戦略が作られてきて、何をやるべきかは、もう皆分かっているのです。あとはやるかどうかです。これまで成長戦略を具体化する際、抵抗勢力の岩盤を前に拳を「寸止め」していたように思います。今度は岩盤をぶち破らなければいけません。これは政治に期待するほかありません。

  農業や医療などの抵抗勢力ということでしょうか。

 望月 農業も医療も成長産業になっていく期待は大きい。しかし、既得権にあぐらをかいて抵抗している全農や医師会などをぶち破ることができなかった。民主党政権時代に、政権に擦り寄った過去があるのだから、自民党も彼らに強気の対応ができるようになったのではないでしょうか。

  産業構造の転換が必要だと言われています。

 望月 かつては経済産業省が産業構造ビジョンを作り、人や資本を誘導しました。では果たして今後の将来ビジョンを描ける人がいるのでしょうか。この10年を振り返ってもまったくイメージとは違っていました。

 今は基礎素材や部品が日本のモノ作りの強さを支えていますが、10年、20年前にはおそらく誰も想像していなかったに違いありません。もっとIT(情報通信)やソフトで儲ける国になっているという声が多かったはずです。

 ですから、何か方向を決めるのではなく、ヒト・モノ・カネの資源が柔軟に移動できることが大事なのではないでしょうか。加えて、研究開発にきちんと人材と資金が回ることが必要だと思います。


望月晴文(もちづき・はるふみ)氏

1948年、神奈川県生まれ。1973年、京都大学法学部卒。通商産業省に入省。産業政策局企業行動課長、原子力安全・保安院次長、商務流通審議官などを経て、2003年中小企業庁長官、06年資源エネルギー庁長官、08年経済産業事務次官を務めた。10年内閣官房参与を経て、2013年東京中小企業投資育成社長。日立製作所の社外取締役も務める。

2013-09-12

贈答品向け時計の活況がやってくる

| 00:30

時計専門誌クロノス日本版に昨年来コラムをいただいています。題して「時計経済観測所」。時計と景気を結び付けた記事を書いています。少し古くなりましたが、6月発売の7月号に載った記事を、編集部のご厚意で以下に再掲させていただきます。クロノスのオリジナルページものぞいてみてください。→http://www.webchronos.net/

 百貨店での高級品の売り上げが急増している。前々回のこのコラムでも予想した通り、安倍晋三首相が掲げる経済政策、いわゆるアベノミクスの効果で、美術・宝飾品や貴金属が猛烈な勢いで売れているのだ。円安と株高が一気に高額消費を盛り上げたわけだ。

 日本百貨店協会の集計によると、2月の全国の百貨店での「美術・宝飾・貴金属」の売上の伸び率(店舗数調整後)は前年同月比8.6%増となった。全商品の総売上高の伸び率が0.3%だったので、貴金属が突出して伸びたことになる。この数字自体驚きをもって迎えられたが、3月はさらにそれを上回った。

 同じ統計の3月の「美術・宝飾・貴金属」の伸び率は前年同月比15.6%と凄まじい伸びになった。全商品の総売上高も3.9%伸びており、長期的な低落傾向が続いてきた百貨店業界にとって久々の明るいニュースになった。もちろん、宝飾品の代表格が高級時計であることは言うまでもない。

 地域別に「美術・宝飾・貴金属」の伸び率を見てみると、面白いことが分かる。2月時点で伸び率が高かったのが福岡(28.7%増)、札幌(23.6%増)、名古屋(23.2%増)、東京の10.9%増を大きく上回っていた。

 実は2月に日本を訪れた外国人観光客は前年同月に比べて33%も増えていた。円安になったことで、外国人から見て日本旅行が超割安になったわけだ。その恩恵が真っ先に表れたと思われるのが福岡。日本人だけでなく、外国人旅行者の高級品購入も相当貢献したのではないかと思われる。

札幌が高い伸びを示しているのは長期にわたって北海道の消費が落ち込んでいた反動かもしれないが、詳しくはわからない。名古屋が伸びたのは、円安によってトヨタ自動 車を中心とする中京地区の企業に業績改善期待が広がったためではないか。要は景気が良くなる、というムードの転換は、大企業が集まる東京よりも、これらの地方中核都市の方が早かったということである。

 3月の統計を見ると変化が生じている。東京の伸び率が20.0%増と大きく浮上。札幌(41.5%増)や福岡(30.8%増)には及ばなかったものの、名古屋の18.1%増を上回った。円安や株高による資産効果が全国的な広がりをみせ、しかも高い伸びを示しているのである。

 この傾向は4月以降も続くだろう。アベノミクスの先行きをどう見るかについては議論の分かれるところだが、高級品消費には別の追い風があるからだ。

4月から中小企業の交際費の税務上の扱いが変わった。それまで交際費の一部は損金として認められなかったが、新年度から800万円まで全額が損金として認められることになったのだ。これまでは飲食費などは「会議費」として損金になるひとり5000円以下にとどめるケースが目立ったが今後は800万円までの範囲内なら高額の飲食でも損金扱いできる。しかも、円安で利益が増えている企業が多いだけに、上限一杯まで交際費を使おうというムードになりつつあるのだ。

 交際費には当然、贈答品も含まれる。1個数万円の時計を取引先の社長に贈るといったバブル時代の懐かしい光景が再現されることになるかもしれない。

さらに、麻生太郎副総理財務相大企業にも交際費の一部を損金として認める方向だという発言を繰り返している。仮に、来年からの税制改正でそれが実現すれば、消費が大きく盛り上がることは間違いないだろう。

 5月には日経平均株価が1万5000円を突破するなど昨年末から4割以上も株価が上昇した。また、為替も1ドル100円台に乗せた。株高によって、株式を保有している人たちの資産価値が大きく膨らみ、それが高級品消費に回る「資産効果」が高級時計などの販売に追い風なのは言うまでもない。さらに、円安による外国人観光客の増加も追い風だろう。加えて、交際費特需も見込めることになる。時計など宝飾品業界には3筋の追い風が吹いている。

                                                    クロノス日本版7月号(2013年6月発売)

2013-09-11

【スマートエネルギー情報局】安倍政権のエネルギー政策はいったいどうなる!? 首相のリーダーシップが試される「電力システム改革」の行方

| 16:24

講談社などいくつかのメディアがタイアップしたサイト「スマートエネルギー情報局」に、エネルギー関連の記事も書いています。少し古くなりましたが、7月17日にアップされた原稿を以下に再掲します。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36438


参議院議員選挙の投票日が近づいてきた。7月に入り、日本列島は例年にない猛暑に見舞われているが、まったくと言ってよいほどエネルギー問題は争点になっていない。自民党公明党は、原子力発電所の再稼働が必要という立場だが、世論を刺激するような強硬な物言いは避けているように見える。

選挙公約にしてもこんな具合だ。

原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。その上で、国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします」

 この文章を読む限り、何が何でも原発を再稼働させようとしているわけではない、と言っているようにも見える。社民党共産党はもちろん、日本維新の会みんなの党など野党のほとんどは「脱原発」を掲げているが、正面からぶつかって来ない与党を攻めあぐねている。

 昨年の夏前、民主党政権は、「原発を再稼働しなければ夏場の電力が足りなくなる」と繰り返し喧伝し、7月1日に関西電力大飯原子力発電所を再稼働させた。昨年を上回る猛暑が続いても、今年はそんな「危機を煽る」手法は封印されている。選挙前にどこかの原発を再稼働させていたら、選挙戦の様相はまったく違ったものになっていただろう。それは、東京電力が柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働の前提となる安全審査の申請に動き出したことに対する新潟県の反発などを見ても明らかだ。

 では、選挙後に、安倍政権はどんなエネルギー政策を推し進めようとしているのか。

野党が合意した「電気事業法改正案」は廃案に

 6月26日、会期末を迎えた通常国会は、事前の見込みを覆す異例の展開となった。参議院の会議に出席を拒否した安倍首相に対して、野党側が問責決議案を提出。野党の賛成多数で可決してしまったのである。これによって、与野党の合意で成立が確実だった「電気事業法改正案」が、廃案になってしまったのである。

 安倍内閣は4月2日、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定していた。地域ごとに独占を認めている現在の電力供給の仕組みを見直し、家庭ごとに電力会社を選択できるようにするなど、3段階に分けて改革を進める方針を明確にした。その第1段階の法改正が頓挫してしまったのである。

 3段階の改革とは、まず2015年をメドに「広域系統運用機関」を新設して、地域を越えて足りない電力を融通しやすくするのが第一歩。続いて、2016年をメドに新しい発電会社が、家庭向けに電力を販売することを認め、企業向けから家庭向けまですべての電力販売を自由化するとした。さらに第3段階として、長年の懸案だった既存の電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」に踏み切る。2018年から2020年をメドに実現を目指す、としていた。

 発送電分離には、電力業界だけでなく、所管する経済産業省内にも反対論が根強く存在する。長い間、9つの電力会社(沖縄を加えると10社)がそれぞれの地域の独占権を握る「9電力体制(10電力体制)」こそが、電力を安定供給するためには不可欠だとされてきた。安倍首相は、そんな独占体制に風穴を開けたのである。

 6月に英国北アイルランドの避暑地ロックアーンで開かれたG8サミット(主要国首脳会議)に出席した安倍首相は、その途上、ロンドンで講演を行った。そこでもこんな発言をした。

「日本の再興に必要なものは、古い日本を新しくし、新しい日本をもっと強くする、強力な触媒です。対日直接投資にその期待がかかります。2020年までに、外国企業の対日直接投資残高を、いまの2倍、35兆円に拡大します。最近の相場で換算すると、3,700億ドルを上回る規模になります」

 つまり、外国企業に日本への投資を呼びかけたのである。海外からヒト・モノ・カネが集まらなければ、経済は発展しない。だが、外国企業は、道楽で日本に投資するわけではない。チャンスがなければカネはやってこない。

 そのチャンスとして安倍首相が持ち出したのが、電力市場改革だった。「限りないイノベーションの起こり得る、大きな市場が、日本に現れようとしています」「つい先日、半世紀以上続いた市場の寡占に終止符を打ち、電力市場の自由化と、送配電の分離を進める意思決定をしたのです」と胸を張って見せたのである。

電源の多様化には「電力システム改革」の早期実現が不可欠

 もちろん今でも、電力業界やその意向を受けた議員、役所の一部には、地域独占を守るべしという意見が根強くある。これまでは、地域独占を認める一方で、「総括原価主義」と呼ばれる電力料金の決定方法がとられてきた。燃料価格の上下を自動的に料金に転嫁する「燃料費調整制度」もある。

 つまり、電力会社は競争から解き放たれ、停電や事故を起こさず、高品位の電気を安定的に提供することだけが使命であったのだ。その独占体制を守る最大の砦が「発送電」の一体化維持、つまり「発送電分離阻止」だったのである。

 そんな反対論を押し切る形で閣議決定したにもかかわらず、「骨抜き」を懸念する声が挙がった。反対派への配慮から、発送電分離法案の提出時期を「2015年を目指す」という努力目標のような表現にしてしまったためだ。さらに、第1弾の法案が廃案になったことで、改革の遅れが懸念される。反対派が巻き返す時間的余裕ができたという見方もできる。

 しかし、だからと言って、時計の針が逆を向いて動くことはなさそうだ。

原発事故に直面した経済産業省でも若手の課長級を中心に、「脱原発依存」はもはや不可避で、「発送電分離」などの自由化を大きく進めなければ電力コストの上昇で早晩やっていけなくなる、という見方が支配的になっている。

 総括原価主義を維持したままでは、家庭向け電力料金の大幅な上昇は避けられない。消費者の不満を爆発させないためには、「発送電分離」や自由化によって「電力会社を選ぶ」選択肢を増やすしかない、というわけだ。それが「電力システム改革」の閣議決定に至った理屈だった。

原発に対する国民世論が厳しいことを考えれば、原発への依存度はせいぜい10%ぐらいだろう」と、電力システム改革の原案づくりに携わった経産省の中堅幹部は言う。そうなった場合、他を自然エネルギーだけですべて賄うのは無理だ。石炭LNG液化天然ガス)、原油の需要が高まるのは明らかだ。

「日本の太陽光電力市場は、今年度、再び、世界でトップクラスの規模を取り戻します。風力、波力、バイオマス水素そして燃料電池。私たちの前には、多様な機会が現れています」

ロンドンでの講演で安倍首相は、多様な電源を追求することが新たなイノベーションを生み、投資機会を生むと強調した。電源の多様化を目指せば、ドイツなどが進めた地域分散型のエネルギー供給へと進んでいく。全国を送電線網で結び、大規模な発電所を建設して安定的にエネルギーを供給する体制から、地域の実情に合った中小規模の電源開発へと流れは変わっていくだろう。

 ミニ水力やバイオマスなどに加え、コージェネレーション(熱電併給)システムの導入拡大なども重要なテーマになってくる。コージェネは、排熱を再利用するためエネルギー効率は高い。そうした電源の多様化が進むためにも、「電力システム改革」の早期実現が不可欠だ。

 世界に向けて大見得を切った安倍首相が、選挙後にどんなリーダーシップを見せるのか。大方の予想通り、電気事業法がすんなり改正されるか。秋の臨時国会に注目したい。

2013-09-10

「景気減速」でも7%成長を維持する 中国のバブルと日本のバブルの違い

| 21:27

エルネオス9月号(9月1日発売)の連載コラムに書いた記事を編集部のご厚意で以下に再掲いたします。

エルネオス→http://www.elneos.co.jp/


腐敗撲滅運動で景気が沈静化

 中国経済の減速が鮮明になってきた。今年一〜三月期の実質成長率はプラス七・七%と事前の予想を下回ったのに続き、四〜六月期もプラス七・五%と伸び率が鈍化した。四半期ベースで前の期の成長率を下回るのは二期連続。世界の一大消費地である中国の景気減速は、世界経済はもとより日本経済にも大きな影響を与えるのは間違いない。景気の減速で金融機関が巨額の不良債権を抱えているとの見方も強く、中国バブルの崩壊に警鐘を鳴らす専門家も出始めた。

 景気減速の背景には、昨年十一月に中国共産党総書記となり、今年三月に国家主席に就任した習近平氏の経済運営がある。習氏は就任以来、汚職などを徹底的に取り締まる腐敗撲滅運動を本格化させた。それが景気を沈静化させている一因になっているというのだ。

 昨年まで北京市内の高級レストランは予約が取れないほどの盛況ぶりだったが、ここへきて情景が一変している。企業幹部などによる政府高官たちへの接待がめっきり減ったのだ。「人目を避けて研修施設内の食堂で会食するケースが増えた」と、北京をしばしば訪れる日本企業の経営者も言う。

 政府機関や国営企業は社内に幹部や来客が使う食堂を持つ。食堂といっても大小いくつもの個室を備え、高級レストランと変わらない料理や酒が出る。もちろん、党の幹部が恐れているのは庶民の目だけではない。習体制になってから格段に厳しくなった汚職の取り締まりだ。

 党幹部がタックスヘイブン租税回避地)などに資金を移し、海外での蓄財に励んでいることは、今や庶民の共通認識。腐敗撲滅運動に引っかかって事件になれば、党幹部個人が失脚するだけでは済まされない。財産の没収や死刑が待っているのだ。ここへきて、中国を脱出して国外に逃避している党幹部がいるという話が伝わる。

高級時計の需要が激減

 こうした腐敗撲滅の影響をモロに受けているのは、高級レストランや贈答品といった高額消費。例えばスイス時計協会の統計によると、今年一〜六月にスイスから中国への時計の輸出額は前年同期比一八・七%減、香港向けも一一・一%減った。欧州米国、日本向けなどが軒並み伸びている中で、中国香港向けだけ落ち込みが著しい。

 去年の上期はその一年前に比べて中国向けが一六・二%増、香港向けが二五・八%増だったことを考えると、まるで景色が変わったのだ。ちなみにスイス時計の最大の輸出先は香港で、これに米国中国ドイツが続く。

 中国で高級時計やブランド品、高級洋酒などがもてはやされてきたのはほかでもない。贈答用としての需要が急増していたからだ。中でも時計は大きさが小さいものの金額は張る。一つ数百万円の高級ブランド時計は持ち運びが簡単なうえに転売も可能で、賄賂には最適だったと事情通は言う。それが習氏の引き締めで激減したというわけだ。

 習氏が腐敗撲滅に動いているのは、一般庶民の不満が高まっているからにほかならない。党の幹部ばかりが賄賂などで潤い、巨額の資産を蓄積しているという批判は根強い。経済が二桁の高度成長を続けているうちは、庶民にも恩恵が及んでいた。実際に恩恵にあずかっていたというよりも、いつかは自分にも余波が回ってくると信じる人が多かったということだろう。それが、成長が鈍化したことで幻想が剥げると、特権階級への批判がみるみる高まってきたのだ。

 日本では、中国経済が減速すると、いよいよ中国バブルも崩壊だという論調が目立つ。一九八〇年代後半の日本のバブルと重ねあわせて見るからだろう。たしかに党幹部ばかりでなく北京の庶民までが何軒ものマンションを持つようになっており、日本人の目には明らかに不動産バブルだと映る。

借り手も貸し手も国家

 だが、日本との大きな違いがある。日本の場合、バブルに踊ったのは民間企業や個人で、そこに民間の金融機関が膨大な資金を貸し付けた。投資用ワンルームマンションなどの借り手も民間人だった。当然ながら民間の市場経済の中で生じたバブルだったのだ。バブル崩壊不動産価格が下落に転じると担保割れが生じ、金融機関は貸し剥がしにかかった。借主が出てしまい賃貸収入がなくなれば、投資した人は不動産を持ち続けることは不可能だ。こうしてバブルは崩壊していった。

 ところが中国の場合、資金の出し手は最終的にすべて政府や国営企業であるうえに、賃貸マンションなどの最終的な借り手も国営企業であることが少なくない。つまり、バブルの最終的な引き受け手が国家になっているのである。こうした特殊構造が、中国バブルはそう簡単には潰れないという指摘につながっている。

「七%程度の安定成長を続けるというのが習体制の方針だ」と中国ウオッチャーの一人は言う。金融緩和で景気を過熱させれば二桁成長も可能だが、そうなると物価高騰などの副作用が生じ、庶民の生活が一層苦しくなる。七%程度の成長ならば、副作用を抑えながら景気を持続させることが可能とみているというのだ。

 実際、庶民の消費支出は大きく落ち込んでいるわけではない。例えば自動車。中国汽車工業協会が発表した七月の自動車販売台数は百五十一万台と、前年同月比九・九%増えた。投機性の高い商品に向かうカネは減っているものの、実需ともいえる耐久消費財への支出は順調に伸びているということだ。

 また、中国バブルの根幹ともいえる不動産の価格もなかなか下落しない。中国の大都市部の住宅価格は七月も二桁の伸びとなり、北京上海では今年最大の上昇になったという。

 減速したとはいえ、七%の成長を続けている経済大国は中国だけ。一時手控えていた日本企業の中国投資も再び増え始めた。今年の下半期は中国経済の底力が問われることになるだろう。

                    エルネオス9月号 連載──29 磯山友幸の≪生きてる経済解読≫

2013-09-09

国の借金1000兆円突破でも過去最高の予算要求 永田町・霞が関にまったく感じられない「危機感」

| 11:19

2020年の東京オリンピックが決まりました。デフレ脱却、経済成長に向けた起爆剤になるでしょう。だからといって、何でもかんでも公共事業で作ればよいという話ではありません。100年後をにらんだ、メリハリのきいた国づくり、都市づくりが必要です。そういう意味で、予算の作り方、おカネの使い道をどう決めるか、仕組みの見直しを考えなければいけないように思います。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20130321/245368/


 財務省は8月、「国の借金」が今年6月末で初めて1000兆円の大台に乗せたと発表した。「国の借金」は、国債の発行残高と借入金、政府短期証券の合計で、3月末に比べて17兆270億円増えて1008兆6281億円となったという。

 「えっ、まだ1000兆円を超えていなかったの」という向きも多いのではないか。これまで新聞は何度となく「1000兆円突破確実」と書いてきたから、そんな錯覚に陥ったとしても不思議ではない。それが遂に現実のものとなったのだ。

 では、緊急事態かというと、永田町にも霞が関にもそんな危機感はない。財務省は8月30日に2014年度予算の編成に向けた各省庁からの概算要求を締め切った。それによると、一般会計の総額は99兆2000億円で、要求額としては過去最大となった。特別会計に計上する東日本大震災の復興費用と合わせると100兆円を超える。

 2013年度の当初予算は92兆6000億円だったから、一般会計分だけでも7%という高い伸びだ。安倍晋三首相が掲げる経済政策アベノミクス」に便乗して、要求できるものは何でも要求しておこう、という姿勢が各省庁に蔓延している。国の借金が増えることなどお構いなし。霞が関に危機感などまったくないのだ。

どの省庁も要求したい放題

 どの省庁も言いたい放題の要求になっているが、中でも目立つのが国土交通省の16.3%増。総額5兆8591億円のうち5兆1986億円が公共事業関係費だ。トンネルや橋などインフラの老朽化対策や、大地震に備える巨大堤防の建設、公共施設の耐震化など「防災・減災」が名目だ。

 まだ概算要求の段階だが、自民党から民主党への政権交代が起きる直前に麻生太郎内閣が組んだ2009年度予算で5兆7000億円の公共事業関係費が計上されて以来の予算規模になる可能性がある。アベノミクスでは第2の矢として「機動的な財政出動」を掲げているが、景気対策として公共事業を重視する麻生副総理財務相の影響が大きいことを図らずも示した格好だ。自民党内にも「国土強靭化」を旗印に公共事業の積み増しを求める声は多い。

 農林水産省の要求額も13.6%増の2兆6093億円と高い伸びを示した。アベノミクスでは「強い農業」を掲げて、農地の大規模化などを打ち出しているが、耕作放棄地飛び地となった農地を集約して大規模化する「農地中間管理機構(農地バンク)」の設立に向けた予算や、農業農村整備事業などの要求を増やした。

 厚生労働省の要求額の伸び率は3.8%と小さく見えるが、これは予算要求額の規模が30兆5620億円と省庁で最大なためだ。増加額で見ると1兆1000億円の増加となる。年金や医療費などの社会保障関連費用の伸びを理由にしている。

 もちろん、これから財務省が要求額を査定して最終的に予算を決めていくことになるが、ここまで概算要求が大きくなると、前年度の当初予算を下回るような「緊縮型」になることは、到底ありそうにない。一方で国の借金が1000兆円を越えたと喧伝し、一方では大盤振る舞いの予算を組むという摩訶不思議な行動に出ているのである。

 では、なぜこのタイミングで1000兆円超えを発表したのか。6月末という期中でもあり、残高にして8兆円くらいならばやり繰りして1000兆円未満に抑えることも可能だったはずだ。それをわざわざこの時期に1000兆円超えとしたのには理由がありそうだ。

 財務省はこれまで何度も「1000兆円突破確実」という予想数値を発表し、新聞にそう書かせてきた。そのタイミングを振り返ってみると面白いことが分かる。

 2011年の秋に「2011年度末には1000兆円突破へ」という見通しを出したが、3月11日に起きた東日本大震災を受けて復興国債の発行と復興増税を議論していた時期に重なる。だが、現実には2011年度末には1000兆円は突破しなかった。

これまで、見込みに反して1000兆円は突破しなかった

 次いで「2012年末(2012年12月末)には突破確実」という発表をした。2012年5月のことだ。この時は消費税増税を巡って民主党自民党公明党の3党合意が佳境を迎えていた。消費税増税法案の審議を前に、このままでは国の借金は大変だ、という必要があったのだろう。だがやはり2012年末には突破しなかった。

 安倍政権の誕生で、大規模な2012年度の補正予算を組むことが決まり、5兆円の国債を増発することとなった。これを単純に上乗せすれば、1000兆円突破は必至だ。財務省は「2012年度末(2013年3月末)には突破するとした。消費税増税する社会保障・税一体改革関連法は国会を通っていたとはいえ、増税を決める最後の閣議決定が残っている。借金は増え続けます、と危機感を煽る必要があったのだろう。だが、それでも1000兆円は超えなかった。

 8月の発表で遂に1000兆円を越える数字を出したのは、財務省にとって消費増税に向けてできることは何でもする、という事ではないか。安倍首相は来年4月からの税率引き上げをなかなか決断せず、10月に初旬まで先送りしている。一方でアベノミクスの効果によって税収は増えており、「国の借金」も2013年3月末は2012年12月末より減っていた。

 財務省は今、2014年3月末の「国の借金」の総額を1107兆1000億円と推計している。このままでは1年で100兆円も増えてしまう、というのだ。果たして本当か。

 もし、本当に1100兆円を突破するようなことがあったら、財務大臣はもとより、財務次官も主計局長もクビにすべきだろう。なぜか。国の借金の3月末の残高の増加率を時系列に見てみると、2004年度を境に大きな変化がある。

 それまでは毎年増加率が10%を超えることが多かったが、2005年度末に5.9%増→2006年度末0.8%増→2007年度末1.8%増→2008年度末0.3%減と増加率が大きく低下したのだ。小泉純一郎内閣の後半から第1次安倍内閣にかけての構造改革路線が借金の増加を抑えていた。


 麻生首相が予算編成した2009年度の年度末には4.3%増、民主党政権になって以降は、2010年度4.7%増→2011年度3.9%増→2012年度3.3%増と推移してきた。小泉・安倍時代に比べれば増加したものの、それ以前の2ケタ増にはさすがに戻らなかったわけだ。

 では財務省が言うように2013年度末、つまり来年3月末の借金が1107兆円になったとしたら、今年度の増加率はどれくらいになるか。11.6%の増加である。つまり、景気対策の名の下に公共事業をバンバン実施した1990年代後半から2000年代前半の伸び率に舞い戻るということだ。これは自然増などというものではなく、意図的に借金を増やす政策を打った結果だということになるのは明らかだろう。

 こんな「緩い」見通しを出し、「消費増税は不可避」と宣伝されても、本気で借金を減らそうとは考えていないのではないか、と勘ぐらざるを得ない。各省庁も来年4月には消費増税でおカネが入ってくるので、今のうちに少しでも山分けの額が増えるよう要求だけは大きくしておこう、という下心が見え見えだ。

借金残高に反比例する成果主義でも導入しては?

 米国では連邦債務国債発行)の上限が法律で定められており、上限に達すると強制的に歳出が削減されることになっている。もちろん、これが景気悪化の引き金を引くという懸念はあるものの、国の借金に一定の歯止めがかかっている。日本は赤字国債の発行には国会の議決が必要だったが、政争の具になるというのを理由に2015年まで3年分の赤字発行を容認する法律を通している。

 つまり、借金を減らす努力を促す圧力がまったくかからなくなっているのである。このままでは、せっかく消費税率を引き上げて、仮に税収が増えたとしても、大盤振る舞いで消えてしまい、借金は増え続けることになりかねないのではないか。

 本気で借金を減らそうと思うのなら、借金を一定以上増やした首相財務大臣、財務官僚の責任が問われるようにしたらどうか。中小企業の社長のように個人で連帯保証をしろとは言わないが、借金残高に反比例して大臣や官僚のボーナスが決まるような「成果主義」でも導入してみたらいかがだろうか。

2013-09-06

司法制度改革 合格者3000人頓挫の舞台裏 公務員制度改革の失敗と一体(週刊エコノミスト)

| 10:20

毎日新聞出身の先輩ジャーナリストから紹介され、最近、週刊エコノミストにも書く機会をいただいています。3月に会計士特集でIFRSや監査の話を書きましたが、8月の弁護士特集でも原稿を書かせてもらいました。編集部のご厚意で、以下に再掲させていただきます。エコノミストが弁護士特集を組んだのは初めてだそうです。今後定期化するのかどうか。

エコノミスト 2013年 8/6号 [雑誌]

エコノミスト 2013年 8/6号 [雑誌]


 法制度改革と公務員制度改革は表裏一体のものだったという“事の発端”を知っている人は、めっきり少なくなった。法科大学院弁護士の増員といった「方法論」への批判が高まり、何のために司法制度改革をするのか、といった理念が消え失せてしまったように見える。そんな司法制度改革の行き詰まりは、ここへ来て鮮明になってきた公務員制度改革の行き詰まりと軌を一にしている。

橋本行革が発端

 司法制度改革が始まったきっかけは、橋本龍太郎内閣時代の1997年にさかのぼる。当時、総理府(現内閣府)に置かれていた「行政改革会議」の最終報告で司法制度改革の必要性が指摘されたのが事の始まりだった。

事前規制型社会から事後監視型社会へ──。いわゆる「橋本行革」として知られる改革は、霞が関のあり方を根本から見直そうというものだった。法律や政省令行政指導による霞が関の事前規制から民間を解き放ち、問題が起きれば事後に監視・処罰、救済する社会へと大転換させようと考えたのだ。

 役所による事前規制は「箸の上げ下ろしまで」と皮肉られるほどに細部に及んでいた。しかも、法律ではなく行政指導の形をとるものが多かった。そんな役所の規制にがんじがらめになった閉塞を打ち破ろうというのが橋本行革だった。背景にはバブル崩壊で沈滞した日本経済を復活させようという狙いがあった。行政改革会議は橋本首相自らが議長に就任。首相補佐官だった水野清・衆院議員が事務局長を兼ねて加わったが、その他の委員12人はすべて民間人だった。豊田章一郎・トヨタ自動車会長、諸井虔・秩父小野田相談役、飯田庸太郎・三菱重工業相談役ら財界の大物が顔をそろえていた。豊田氏は経済審議会会長、諸井氏は地方分権推進委員会委員長、飯田氏は行政改革委員会委員長と、それぞれの会議体のトップを兼ね、橋本首相のリーダーシップで一気に改革を進められる体制を作った。

 腹心の水野氏以外、政治家を入れず、ましてや官僚もメンバーに加えなかったのは、役所の抵抗を封じ込めるためだった。その委員の一人として加わった佐藤幸治・京都大学教授が委員長になって99年に始まったのが、司法制度改革の具体案を議論する司法制度改革審議会だったのである。

法曹拡大に至る議論

 「官」の役割を小さくするには、肥大化した官僚組織をスリム化しなければならない。だが、そうなると、これまで事前規制によって行われていた民間同士の利害調整に齟齬をきたす。それを防ぐには、事後的に紛争を解決するインフラが必要になる。

ところが当時の日本の司法は、それを引き受けることができるだけのキャパシティーを持ち合わせていなかった。量的にも質的にも不十分なのは明らかだったのだ。

 97年段階で日本の法曹人口(弁護士検事裁判官)は2万730人で、法曹1人当たりの人口は約6300人だった。当時の米国の法曹は94万1000人で、1人当たりの人口は290人だった。1人当たり人口は英国で710人、ドイツで740人、フランスで1640人だったから、日本の法曹の少なさは突出していた。司法制度改革審議会が、法曹人口の拡充を真っ先に打ち出したのはある意味当然とも言えた。

2001年6月にまとめた審議会の報告には、法科大学院など新たな法曹養成制度を整備し、10年頃には新司法試験の合格者数を年間3000人にすべきとした。99年当時の合格者は年間1000人程度だったから、まさに大量合格である。そうした取り組みを進めることで、18年頃までには実働法曹人口を5万人規模にするとしたのである。

 当時は弁護士会も、そうした法曹拡大の方針に理解を示していた。90年から2年間、日本弁護士連合会会長を務めた中坊公平氏も審議会委員に加わり、「法曹6万人が必要だ」と発言していた。

司法制度改革のもう一つの大きな柱が、09年の裁判員制度の導入につながる国民の司法参加だった。これも公務員制度改革と理念を共有している。

 99年に行政改革推進本部の規制改革委員会委員長に就任した宮内義彦オリックス会長は当時、こんなことを言っていた。「最高裁の15人の裁判官の構成がすべてを物語っている。過半数は裁判官検事など行政機関である法務省と一体の人たち。弁護士など民間出身者の意見は通らない」。つまり、霞が関中心の国家体制司法も従属させている、と見ていたのだ。事実、それまでの日本では行政訴訟は上級審では国の勝訴と決まっていたようなものだった。

 当初は最高裁などは、こうした改革の動きに反対しているようにも見えた。だが、裁判官の中にも国民の司法参加を実現し、行政と対置する裁判所を目指すべきだと考えた人たちがいた。憲法が規定する三権分立を文字通り実現すべきだ、という裁判官本来の発想とも言える。08年に最高裁長官になった竹崎博允氏は、88年に矢口洪一長官が陪審制や参審制の研究のため海外に派遣した裁判官の一人だった。

小泉内閣で一気に進展

 「改革なくして、成長なし」。そんなスローガンと共に構造改革を進めた小泉純一郎内閣が、司法制度改革に前のめりになったのは半ば必然だった。小泉内閣司法制度改革は一気に進むことになる。01年末、内閣司法制度改革推進本部が設置され、翌年3月には司法制度改革推進計画を閣議決定。これに従って04年には法科大学院が開校した。06年には新司法試験が実施され、07年以降、合格者は年間2000人を超えるようになった。

 こうした流れは、リーマン・ショックを境に一気に逆流し始める。小泉改革の後を継いだ第1次安倍晋三内閣参院選での大敗や消えた年金問題、閣僚の事務所費問題などで火だるまとなってわずか1年で退陣。

その後の福田康夫内閣も1年しかもたなかった。そして09年の政権交代へと突き進んでいく。

それまで小泉改革によって景気は持ち直し、02年1月に底を打った景気は08年2月まで回復が続いた。73カ月の景気回復は戦後最長で、高度経済成長期の「いざなぎ景気」を超えたことから「いざなみ景気」と名付けられた。規制緩和と経済のグローバル化はビジネス弁護士の仕事を急増させていた。M&A(企業の合併・買収)の企業評価など新しい仕事が増える一方、銀行の不良債権処理が進んだ結果、企業再生の案件なども増えた。役所の仕事の仕方が、事前規制型から事後監視型に変わったことも、弁護士の仕事を増やした。いわゆるリーガルオピニオンに対する企業などのニーズが高まったのだ。かつては法律上、問題があるかないか微妙な場合、所管官庁に通って役所の方針を探る。かつての金融業界ならそのためにエリート社員を役所担当として張り付けた。大蔵省の英文の頭文字を取って「MOF担」、つまり大蔵省担当が銀行や証券会社の花形ポストだった。

 ところが、90年代後半に社会問題化した大蔵省過剰接待事件や、官官接待問題などによって、行政指導を使った裁量行政は事実上封印されていった。そうなると金融機関や企業は「行政リスク」を負うことになる。つまり、法的に問題ないと思って実行したことが、役所によって事後的に問題だと指摘されるリスクが出てきたのだ。それを防ぐために事前に弁護士法律学者の意見書を取り、役所にも提出しておく、そんな欧米で一般的な手法が日本でも広がったのである。もちろん、そうなれば弁護士の役割は一段と重要になる。

弁護士の職域拡大

 こうした流れもあり、弁護士行政における役割は急速に高まった。役人と違い実務に通じていることもあり、新たな法整備や規制実務で役所からも重宝される存在になったのだ。

会社法のベテラン弁護士でコーポレートガバナンス(企業統治)に詳しい久保利英明弁護士が、金融庁総務企画局参事という立場で法令等遵守調査室の顧問になったのも、端的な例だ。また、01年当時の会社法改正には西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士法務省民事局付として出向、法整備の実務に当たった。今では弁護士が役所に出向するのは一つの重要なキャリアパスになっている。

 霞が関も定員の枠の拡大が難しい中で、弁護士事務所からの出向を歓迎している。米国では全弁護士の8〜9%は州や連邦政府に所属しているとされる。そういう意味ではようやく日本も行政の「専門家」「高度化」が進んだのだが、これも司法制度改革があったればこそ、だったとも言える。

出向まで至らなくとも、政府関係の仕事をするケースは増えている。役所の審議会の委員といえば、かつては学者の指定席だったが、今や現役の弁護士が有力メンバーになっている。例えば12年に金融庁が設けた「投資信託投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」には、森・濱田松本法律事務所の石黒徹弁護士東京駿河台法律事務所の上柳敏郎弁護士らが加わっていた。投資信託のような専門性の高い分野でも

それを専門にカバーする弁護士が生まれていたのだ。

 11年12月、東京電力福島第1原子力発電所事故を検証する委員会が国会に設置された。いわゆる国会事故調である。原発事故対応は政府も当事者であるとして、独立した立場からの検証を求めた国会が独自に法律を通して設置したものだった。独立性を保持するために政治家を入れず、すべて民間専門家とするという方針は憲政史上初の試みだったが、これも弁護士なくしては成り立たなかった。というのも、事務局に多くの弁護士が馳せ参じたからだ。

 この国会事故調は1年間の時限組織だったため、解散後の雇用を考えれば民間人には辛い仕事であった。そんな“季節労働”を引き受けたのは弁護士だったのである。

一気にしぼんだ期待

 さて、司法制度改革による弁護士の職域拡大への期待だが、リーマン・ショックで一気にしぼむことになった。M&Aなど民間の仕事が一気に減少したからだ。景気が減速する一方で、改革で決めた2000人の新規合格者が弁護士業界に毎年加わることになった。そこで起きたのが、弁護士業界からの司法制度改革批判である。「大量合格で弁護士の質が落ちた」という批判は、パイが縮小する中で新規参入が増えれば仕事が奪われるのではないか、という危機感が背景にあったのは間違いない。10年には司法試験合格者3000人体制を真正面から批判する宇都宮健児弁護士が、地方の弁護士会などの支持を得て日弁連会長になる。この頃から一気に司法制度改革は方向転換することになった。

 政府は7月16日、関係閣僚会議を開き、司法試験合格者年間3000人を目指したこれまでの計画を撤回するとした検討会議の提言を了承した。法科大学院についても、自主的な定員削減や統廃合を求めることとした。司法制度改革の看板ともいえた3000人の目標撤回は象徴的な出来事である。

 そのわずか1週間前。7月10日に霞が関から一つの組織が消えた。国家公務員制度改革推進本部。08年に公務員制度改革の工程表を決めた国家公務員制度改革基本法が制定された際に設置されたものだが、その法定期限の5年が満了して解散したのである。もちろん、公務員制度改革が工程表通りに進んだわけではない。政治的な駆け引きの中で、関連法案は何度も廃案になった。霞が関からすれば、「時間切れ」で逆転勝利に持ち込んだ格好である。

 司法制度改革と公務員制度改革が、時を同じくして頓挫したわけである。結果、日本はどんな国になっていくのか。官僚主導の事前規制型の国へと舞い戻っていくのか。そうだとすると「規制改革は安倍内閣の一丁目一番地だ」と大見えを切ったアベノミクスは失敗するということになる。

                                  週刊エコノミスト 2013年8月6日号

http://www.weekly-economist.com/2013/08/06/%E9%80%B1%E5%88%8A%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%8E%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88-2013%E5%B9%B48%E6%9C%886%E6%97%A5%E7%89%B9%E5%A4%A7%E5%8F%B7/

2013-09-05

アベノミクスは追い風になるか!? 外国人・富裕層向け家事・育児サービスを展開するシェヴの柳基善CEOに聞いた

| 13:07

家事支援サービスが急成長しています。フィリピン人家政婦を外国人や富裕層に派遣する会社シェヴの柳CEOにお話をお聞きしました。

オリジナルページ→現代ビジネス http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36896


 安倍内閣は「成長戦略」の1つの柱として「女性の活躍推進」を掲げている。そのための施策として保育所の待機児童解消や、「ベビーシッターやハウスキーパーなどの経費負担の軽減に向けた方策を検討する」ことを「成長戦略」に盛り込んだ。

 いまや欧米では働く女性が外国人ベビーシッターなどを雇うのは当たり前になっており、日本での潜在ニーズは高いとみられるが、外国人の就業規制もあり、なかなか広まらない。外国人や富裕層向けに家事・保育サービスを展開するシェヴ(本社・東京都港区南青山)の柳基善・代表取締役CEO(最高経営責任者)に聞いた。

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定住資格を持つフィリピン人女性が活躍

  首都圏で外国人や富裕層向けに家事・保育サービスを手掛けています。

2004年1月に会社を作り同年7月から営業を開始しました。来年で10周年になります。現在は事業の7割強が家事代行、2割強がベビーシッティング、残りが専門的なハウス・クリーニング・サービスなどです。240人から250人のスタッフを抱えていますが、フィリピン人を中心に外国人も100人以上います。

お客様の半分は日本に滞在している外国人です。お客様のご都合をお聞きするコーディネーターはバイリンガルで、英語と日本語で対応しています。

  残り半分は日本人のお客さんということですか。

いわゆる富裕層のお客様が中心ですね。首都圏全体をサービスエリアにしていますが、圧倒的に六本木、青山、広尾といった地域のマンション居住者が多いです。常時、400世帯から500世帯くらいのお宅にサービスを提供しており、年間では3万件、1000世帯にのぼります。

  フィリピン人などの家政婦を雇える人は法律で限られているのではないですか。

はい。法律では、外国人をメイドとして雇うことができるのは、「投資・経営」に携わる会社の外国人トップや「法律・会計業務」に携わる外国人、駐日大使館職員などに限られています。これをわれわれの世界では「スポンサーができる人」と言っています。一般の日本人が外国人を雇うことはできません。

  シェヴでは、日本人家庭にも外国人スタッフによるサービスを提供していますね。

ええ。多くがフィリピン人ですが、全員、日本人と結婚するなどして定住資格を持っている人たちです。現在、定住フィリピン人は日本国内に20万人もいるのです。10年間このビジネスをやってきて、彼女らとのネットワークが広がりました。

フィリピン人は優しい人が多く、ハウスキーパーやベビーシッターとして世界的に人気があります。日本に来る前にホテルで働いたり、外国人宅で家事に従事していたフィリピン人もたくさんいます。そんな経験を日本でも生かしたいと考えている定住フィリピン人女性は少なくないのです。日本人家庭でもフィリピン人ベビーシッターの人気は高いですね。

  不法就労ではないのですね。

スポンサーができる人のところで働いている(定住資格のない)外国人が、アルバイトで日本人家庭でも働いているケースもあるようですが、これも違法です。私どもはこうした人たちは使っていません。

今後の市場規模は急速に拡大する

  柳さんはなぜこの事業を起こそうと思われたのですか。

もともと銀行で為替のディーリングをやっていて、英国にも勤務したことがあるので、外国から日本にやってくるビジネスマンのニーズを感じていました。また、起業前は銀行でプライベートバンキングを担当していたこともあり、日本人の富裕層でもメイドへのニーズがあると思っていました。

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  ベビーシッターやハウスキーパーに対するニーズは増えているのでしょうか。

創業以来、順調に増えていましたが、2008年のリーマンショックで大打撃を受けました。投資銀行などの日本支店の閉鎖が続き、日本に住む外国人ビジネスマンが激減したからです。そのショックから立ち直ろうとしたところへ、今度は東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故があり、外国人の日本離れに拍車がかかりました。

ようやくその影響が薄れ、最近は徐々に戻ってきています。ただ、業種は違います。金融関係はまったく戻って来ません。最近は、不動産投資関連やエネルギー関連の外国人が東京に増えているように感じます。

  日本人のニーズはどうですか。

着実に増えているという感じですね。もともと当社は外国人顧客と日本人顧客を半々にする方針でやってきました。リーマンショックで外国人顧客が激減した後も何とかやってこれたのは、このためです。日本では高収入の共働き家庭などが増えており、ベビーシッターやハウスキーパーへのニーズは高いと思います。また最近は、フロントで様々な作業を引き受けるコンシェルジェ・サービスが広がっており、そうした会社とも契約しています。

  今後、こうした家事支援サービスが広がっていくのでしょうか。

やはりネックは料金が高いことです。奥さんが稼いだ月給のほとんどがベビーシッター代に消える、といった声を良く聞きます。それと、なかなかハウスキーパーとしての働き手が集まらないため、ニーズに応えられていない面もあります。介護やベビーシッターなどの分野でフィリピン人など外国人が働けるよう、ルールを変えていくべきではないでしょうか。

  はやり料金は高いのでしょうか。

当社は1回3時間9000円ぐらいです。週に1回、月4回とすると月額3万6000円です。実際には月額5〜10万円ぐらい支払われている方が多いのではないでしょうか。毎日朝から夕方までとなるとすぐに40万〜50万円になってしまいます。年収分の一定相当額の紹介料を当社がいただいて人材を紹介するケースもありますが、それでも月に20万〜25万円はかかります。働く女性にとって不可欠なサービスなのですから、国などによる助成があっても良いのではないでしょうか。

  自民党がベビーシッター代などを必要経費として認める「家事支援税制」の導入を打ち出し、アベノミクスの成長戦略にも「経費負担の軽減策を検討する」という一文が盛り込まれました。

それはいい事だと思います。最近は家事代行業に力を入れる企業も増えています。ダスキンやおそうじ本舗、カジタク、ベアーズといった企業が伸びています。

  そんな中でシェヴの戦略は。

当社はハイエンドのお客様に特化する戦略を守っていきたいと思います。政府が規制緩和で小規模保育を認めるということなので、マンション内保育所も検討しています。待機児童の解消が大きな課題になっていることもあり、「保育バブル」と思えるほどです。市場規模は急速に大きくなるのではないでしょうか。

柳基善(ユウ・キソン) 1959年大分県生まれ。慶応大卒。外資系金融機関HSBC東京支店、ロンドン本店で勤務した後に独立。2004年に株式会社シェヴ(Chez Vous)を設立した

2013-09-04

また「会計マジック」頼み原発廃炉

| 17:09

会計制度を変えても実態が変わるわけではありません。見た目が変わるのですが、往々にして問題の先送りでしかないことがしばしばあります。役所はこの会計基準をいじることで、あたかも実態が変わったかのように見せる「会計マジック」が大好きです。おそらく大臣や次官・局長は本質を理解できず、現場の課長が目先の難問を突破するのに好都合だからでしょう。それが後々に大きな禍根を残してきたことは、いくつも前例があります。会計マジックは国主導の粉飾です。ファクタ9月号(8月20日発売)の連載コラムです。 FACTAhttp://facta.co.jp/article/201309029.html


経済産業省は、電力会社が原子力発電所を廃炉にする場合、その費用を10年超にわたって分割計上することができるよう電気事業法の会計規則を変更する方針を固めた。その費用は将来の電気料金に上乗せして利用者から徴収することも認める方針のようだ。

一般から意見を聞いたうえで、年内に正式決定するというが、会計・監査をつかさどる日本公認会計士協会や、上場規則に目を光らせる日本取引所グループなどがどんな意見を出すのか、大いに見ものである。

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一般の会計基準では、使わなくなった生産設備の廃棄を決めた場合、毎期一定額を費用計上する「減価償却」に不足があれば、その分を除却損として一括処理するのが普通だ。また、使う意思があっても使えない状態が続いている生産設備の場合は、帳簿上の資産価値を引き下げる「減損」の処理が必要になる。製品が予想以上に早く陳腐化し、生産設備の減損や除却損の計上を余儀なくされるケースはしばしばある。

電力会社が持つ原発についても本来は同様の会計処理が必要になる。8月7日の日本経済新聞によると、電力会社が保有する原発をすべて廃炉にした場合、2.6兆円の除却損が発生する、という。これを電気事業法を変えることで、廃炉にしても10年間は稼働している時と同様に減価償却できるようにするのだという。また、廃炉のための費用で不足する分も将来にわたって分割計上し、それを電気料金に上乗せするというのだ。

これで「電力会社の負担は大幅に軽くなる」と日経新聞は書いている。原発を廃炉にするコストを将来にツケ回しし、将来の電気利用者に負担させようというわけだから、廃炉時点の表面上の負担は確かに小さくなる。

こんな姑息なルール変更を思いつくあたり、既存の電力会社の経営を「守る」ことにしか頭が回らない経産省の考えそうなことだ。確かに一度に出る損失の額は小さくなる。だが、その分、将来にわたって負担を背負い込むことになるわけで、電力会社の将来の経営には決してプラスにならない。「痛いから嫌だ」といって損失を繰り延べるのは、国主導の粉飾決算に他ならないのだ。

それにしても、監査を担当する会計士は何と言うのだろう。一般法よりも特別法の方が優先するので、電気事業法で定めれば問題ない、と唯々諾々と認めるのだろうか。一般の会計基準よりも特別法で厳しくするのなら分かる。それを特別法で緩めて「負担を軽くする」というのは本末転倒ではないのだろうか。

使わなくなった生産設備の減価償却まで認めるとしたら、会計の原則を踏みにじることになる。そんな会計ルールを認めれば、世界から物笑いになるだろう。

当然のことながら、監査では限定意見を付けたり、特記事項を書くことになるに違いない。だが、そうなると、上場企業としての適格性に問題はないのか、という議論になる。つまり、正しく決算書が作られておらず、膨大な含み損を抱えている企業の売買を認めてもよいのか、という議論だ。つまり、取引所が判断を迫られる番になるわけである。

廃炉に伴う多額の損失を一度に計上した場合、電力会社は赤字に転落する可能性もあるだろう。あるいは、債務超過になるかもしれない。政治が「段階的な原発廃止」を決めたドイツでは、大手の電力会社は軒並み巨額の損失計上を余儀なくされた。その分は政府の決定によって生じた損失であるとして、政府を相手取って損害賠償を求める動きになっている。

日本でも、基本ルールどおり、一度に損失処理を義務付ければ、当然ながらその費用は誰が負担すべきなのかという議論になるに違いない。債務超過になって資本増強が必要になれば、誰が新しい株主となって電力会社の経営を支えるべきかも問われることになるだろう。

損失先送りを求めるこの会計ルールを、電力会社はすんなりと受け入れるのだろうか。いま処理すべきものを持ち越せば、会社の将来に大きな禍根を残すことは間違いない。廃炉から10年にわたってその費用を料金に転嫁することになれば、経営の自由度が失われ、企業体としての競争力にも大きな影響を受ける。

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安倍晋三首相は6月に英・北アイルランドで開かれたG8サミット(主要国首脳会議)に出席した際、ロンドンで講演を行い、こう大見得を切った。

「限りないイノベーションの起こり得る、大きな市場が、日本に現れようとしています」

「つい先日、半世紀以上続いた市場の寡占に終止符を打ち、電力市場の自由化と、送配電の分離を進める意思決定をしたのです」

今後は日本で、一気に電力市場の自由化を進めることを示し、外国資本への日本への投資を促したのである。そんな自由化が大きく進む中で、既存の電力会社が廃炉費用を将来にわたって抱え続ければ、新規参入者との間で競争上著しく不利になる可能性がある。

これまで日本の電力会社には地域独占を認める代わりに、コストに適正利潤を乗せた認可料金しか認めない「総括原価主義」を採用してきた。今回、廃炉費用を先送り計上し、それを料金に上乗せしていいというのは、総括原価主義のコストに過去の原発の廃炉費用も含めるということに他ならない。そうなれば、廃炉費用を抱え続ける既存電力会社と、原発は持たない新規参入事業者の間に大きな競争力格差が生じることになりかねない。

競争上の公平性を保つために、新規参入業者にも廃炉費用に相当する分の経費負担でも求めるという話にでもなれば、自由化とは名ばかり。新規参入を阻害するだけだろう。

自由化が進み地域独占が崩れ、電力会社間の料金競争が始まった場合、多くの原発の廃炉を決めた電力会社の料金は高くなり、原発を持たない電力会社に到底勝つ術がなくなる。また、本来は一度に処理すべき損失を抱えたまま、株主にだけ配当を続けることが許されるかどうかも大きな問題になるだろう。

基準を変えて実態よりも影響を軽微に見せようという「会計マジック」は折にふれて繰り返されてきた。実態を覆い隠す「国主導の粉飾決算」は、原発廃炉という重要な問題から国民の目をそらすことにもなる。

2013-09-03

世界最大の投資ファンド 年金資産120兆をどう使う?

| 16:06

ウエッジ8月号(7月20日発売)に掲載された連載「復活のキーワード」を編集部のご厚意で再掲させていただきます。今回のテーマはGPIF。年金運用です。オリジナル⇒http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3025?page=1


 デフレから緩やかなインフレへ。安倍晋三首相が主導する経済政策アベノミクス」が、大きく世の中のムードを変えつつある。過去20年近くにわたって日本社会にはデフレが浸透し、人々の意識もいつの間にかデフレが前提になっていた。物価が上がるという現象を実体験として持たない世代が、社会の中堅層にまで達しつつある。

 50歳以上の人なら、子供の頃、小遣いをもらうと郵便局や銀行に貯金した経験を持つに違いない。利息が付いて貯金額が増えるのを楽しみにしていたものだ。一方で、欲しいモノの値段も上がった。どんどん貯金して、利息が付かなければモノは買えない。そんな日常があった。

 ところが、最近の子供たちは小遣いをもらっても、平気で勉強机の引き出しに入れておく。利息などたかが知れているから、銀行に行くだけ面倒だ。焦ってモノを買わなくても、明日は値段が下がる。逆に言えば、放っておけばおカネの価値は上がるのだ。

 そのデフレマインドが最も浸透しているのが、資産運用の世界。それも長期間積立金を預かる年金運用の世界だろう。何せ、デフレならば、どんなに金利が低くても国債で運用するのがベスト。現金で持っていたとしても目減りすることはない。株式不動産、外国資産などで運用すれば、ことごとく損をする。おカネの価値が高まれば、モノの値段は下がるからだ。もちろん為替も強くなるから、外貨建ての資産はどんどん目減りする。これがデフレの世界だ。

 一見、資産を持っている人には、楽な世界だが、働いて日々おカネを得ようという人には大変だ。デフレが続けばいずれ給料も下がる。会社が儲からないので雇用も増えない。このままデフレが続いたら経済全体がぶっ壊れてしまうというのがアベノミクスを支える人たちの危機感だ。

 さて、今後はインフレになっていくとすれば、資産運用、とくに年金運用のスタイルは変わる必要が出て来る。これまでは「増やす」ことよりも「減らさない」ことで十分だったものが、今後はインフレ率以上に増やすことを求められる。特に今の年金制度では、インフレになれば、それに連動して年金受給額も増えるので、きちんと運用で資産を増やせなければ、おカネが不足してしまう。そのツケは年金掛金を支払う若者や税金を払う国民に回る。

 実は、アベノミクスの3本目の矢である成長戦略「日本再興戦略」に、こんな一文が盛り込まれた。

 「公的・準公的資金について、各資金の規模・性格を踏まえ、運用(分散投資の促進等)、リスク管理体制等のガバナンス株式への長期投資におけるリターン向上のための方策等に係る横断的な課題について、有識者会議において検討を進め、提言を得る」

 明記はされていないが、ここで想定されているのはGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)の見直しである。GPIFは3月末で120兆4653億円の資産を運用する、規模では世界最大の投資ファンドだ。ところが全体の60%を日本国債など国内債券に回しており、国内株式にはわずか13%しか投資されていない。日本が成長するという前提に立った資産構成になっていない、とも言える。アベノミクスは成長戦略で、この年金資産を有効活用し、経済の成長につなげれば、年金受給者に大きくプラスになる、という発想を取り入れようとしたのである。

長期間の運用にも
ベンチャーは最適

 日本経済再生本部の議論では、GPIFの資産の一部をベンチャー企業に投資すべきだという意見が出た。日本を「起業大国」にするきっかけをGPIFが担うべきだ、というわけだ。「米国カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)などは、資産構成の1つにベンチャー投資を加えており、長期的な運用利回りの向上に役立っている」と元UBSグローバル・アセットマネジメントの社長で、投資人材の教育ベンチャーを立ち上げた岡村進氏も言う。長期間運用するという年金資金の性格からみても、ベンチャー投資は格好の投資先だというのだ。

 現在、日本のベンチャー・キャピタルVC)の市場規模はおよそ1兆円と言われる。仮にGPIFの資産の1%が振り向けられるだけで、規模が2倍になる。米国ではインフラファンドVC、再生ファンドなどへの投資資金の流入額の半分は年金基金の資金だという。巨額の資産を抱えて国債に投資しているのでは、宝の持ち腐れだ。

 ところが、これに真っ向から反対したのが年金制度を運用する厚生労働省だった。「積立金の運用は、専ら被保険者のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行う」という厚生年金保険法国民年金法の規定から、“高リスク”のベンチャー投資に年金資金は回せない、というのだ。

 年金を計画通りに払えればよく、運用利回りを上げるためにリスクを取る必要はないということだろう。制度上、実質的な運用利回りは年1.1%となっている。名目の賃金上昇率を上乗せするのが「実質」という意味だが、デフレだと賃金下落分を差し引くことになる。2011年度までの9年間で制度上の運用利回りは0.58%で良い計算で、この間のGPIFの利回りは2.42%だったから十二分に責任を果たしている、というわけである。

 だが制度維持と言っても、現実には、保険料負担は年々上昇、17年には18.3%(会社・個人負担合計)になる。この負担の重さが非正規労働や無年金者を増やしているという指摘もある。さらに、基礎年金の国庫負担も2分の1に引き上げられた。年金利回りが高くなれば年金財政問題が大きく改善するのは当然である。

 実は、GPIFの見直し問題は政治を舞台に長い間、議論されてきた問題だ。08年には経済財政諮問会議のグローバル化改革専門調査会が組織の独立性や専門性、透明性を確保するよう求める内容を報告書に盛り込んだ。運用を担う専門性の高い内外の金融人材を活用する仕組みづくりを求めたのである。その後、民主党政権下でも、厚労省に「GPIFの運営の在り方に関する検討会」などが置かれ議論された。民主党行政刷新会議で、独立行政法人改革を進め、GPIFについては、独法ではなく固有の法律に基づいた法人に改組する方針が閣議決定された。それが再度の政権交代によって、凍結されている。

 安倍内閣が閣議決定した「日本再興戦略」では、「有識者会議において検討を進め、提言を得る」とされているが、「本年秋までに結論」という期限が付いている。そこでどんな方針が示されるかは、今後の日本経済に大きな影響を与える。デフレから緩やかなインフレへと経済の前提を変え、巨大ファンドが運用姿勢を見直すことが、日本経済の再興には不可欠だろう。

◆WEDGE2013年8月号より

2013-09-02

アベノミクスが本腰を入れる「雇用制度改革」の成否

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 2014年度の予算編成に向けた各省庁の概算要求が始まった。安倍晋三首相が進める経済政策アベノミクス」の3本目の矢である「成長戦略」に盛り込まれた政策がどう具体化されていくのか。各省の概算要求をみているとおぼろげながら見えてくる。そんな中で、成長戦略が求めた「政策転換」が鮮明に表れたものの1つが雇用対策予算だ。

 厚生労働省は概算要求で、解雇を防ぐための「雇用調整助成金」を半減させる一方、転職支援のための助成金を大幅に増額した。雇用調整助成金は、経営難に陥った企業が従業員を解雇せずに休業などの形で雇い続けた場合に支給するもので、12 年度は1134億円が支給されたが、これを概算要求では545億円と半減させた。一方で、転職する場合の費用などを助成する「労働移動支援助成金」は、12年度は2億4000万円に過ぎなかったが、これを大幅に増額して301億円を要求に盛り込んだ。

 安倍政権は6月14日に閣議決定した成長戦略で、

「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」

 を掲げ、2015年度までに「雇用調整助成金」と「労働移動支援助成金」の予算規模を逆転させる方針を示した。厚労省はこの方針に従ったわけだ。

根本から変える政策転換

 成長戦略に盛り込まれた通り、民間の人材ビジネスを活用して従業員を転職させた企業に対し、その費用の一部を支給する制度を整備し、助成対象を中小企業だけでなく大企業にも拡大。転職を受け入れた企業が訓練する費用についても助成することにした。12年度はこの制度で助成したのは774人に過ぎなかったが、概算要求の前提は約7万人分だという。

 これは雇用対策、赤字企業対策の哲学を根本から変える政策転換といえる。

 これまでは、とにかく失業者を世の中にあふれさせないことを最優先とし、国が企業にカネを払うことによって企業に余剰人員を抱え続けさせることを良しとしてきた。この傾向は、08年のリーマンショック後の大幅な景気の落ち込みで強まった。経常損益が赤字で、生産量もしくは売上高が前年同期比で5% 以上減っていれば支給対象とするなど、支給要件が大幅に緩和された(その後2012年10月に緩和措置撤廃) 。この結果、雇用調整助成金の支給対象企業は09年10月に9万6400社に拡大、対象者数はピークの09年7月には252万7754人に達した。09年度の支給総額は6534億円だった。

 さらに労働組合支持母体とする民主党政権は、赤字企業でも潰さないようにする政策を取った。中小企業に融資している銀行に対して、返済条件の見直しを事実上義務付ける「中小企業等金融円滑化法」を09年末に施行。この制度は何度も延長され、13年3月末まで続いた。

一種の麻薬

 日本の失業率は他の先進国に比べて極端に低いが、実際は雇用調整助成金などによって、潜在的な失業者が企業内に余剰人員として抱え続けられていることが数字を良く見せていると 、学者の間などからも繰り返し指摘されてきた。リーマンショック後の09年7月には完全失業率は5.7%だったが、雇用調整助成金の対象者250万人を加えて計算すると、実質的な失業率は9.7%だったことになる。

 企業経営者が人を雇うのは、従業員が付加価値を生み出し、企業に利益をもたらすからだ。企業が成長していけば、さらに従業員が必要になり、新しい雇用を生む。ところが、国民の税金を使って企業に余剰人員を抱えさせたらどうなるか。経営者はどうにかして利益を生み出そうという努力を怠るようになりかねない。

 また、従業員も、会社が傾けば自分のキャリアを生かせる別の職場へと転職していくのが普通だが、その流れが止まってしまう。経営が緩む一方で、従業員個人も自らのスキルアップを怠ってしまう。雇用調整助成金は一種の麻薬なのだ。

「産業新陳代謝」

 産業競争力会議が、雇用維持から労働移動へと大きく舵を切ったのは、この麻薬によって個々の企業だけでなく、日本の産業界全体に雇用のミスマッチが起きていると見たからだった。本来ならば潰れるべき企業が潰れず、その企業が人材を「余剰人員」として抱え込んだままになっていることで、人手が足らない成長余力のある企業に人材が移らない。これが日本全体の成長を阻害しているのではないか、と見たのである。

 それを産業競争力会議では「産業新陳代謝」と呼んだ。同会議の議員である坂根正弘・コマツ相談役(前会長)や新浪剛史・ローソンCEO(最高経営責任者)らが、新陳代謝の必要性を強く主張した。新浪CEOからすれば、コンビニなどのサービス産業には優秀な人材がなかなか集まってこないという現状を打破するには、役割の終わった製造業が無駄に人材を抱え込んでいる状況を何とかしなければならない、という思いがあった。

「整理解雇4要件」

 産業競争力会議では、解雇法制の整備も議論になった。企業が無駄な人員を抱え込むのは解雇の条件が法律で明確にされていないからではないか、という声が出たのだ。

 現在の解雇ルールとしては、判決で積み上げられた「整理解雇4要件」が存在する。高度の経営危機に直面するなど人員整理の必要性があることが前提で、新規採用の抑制や希望退職の募集といった整理解雇を回避する努力を履行すること、解雇する人の人選基準が合理的であること、説明や協議などの手続きが妥当であることなどが求められる。

 この4要件を満たすことはなかなか難しいうえ、会社が満たしたと考えても訴訟になるケースが少なくなく、裁判所の判断がどうなるかも分からない。日本の企業経営者にとって、整理解雇は不確実なリスクを抱え込むことになるため、欧米のように景気変動に応じた人員整理がなかなかできないのだ。

反対論の噴出

 だが、 産業競争力会議でこの解雇法制の話がでると、左翼系の野党メディアが大騒ぎを始めた。

産業競争力会議は、企業が解雇しやすくなるように制度を変えようとしている」

 という反対論が噴出したのだ。

「誰も解雇をしやすくしようなんて言っていないのに、一部のメディアが書いたことで批判の嵐になった」

 と同会議の民間人議員のひとりは言う。

「解雇した場合の不確実性を取り除くために解雇のルールを法律で明示すべきだというのが議論の本質だった」

 と別の民間人議員も言う。

 また、 割増退職金を支払うなど金銭で解決できるようにする事も必要だという意見が出た。企業が訴訟などを恐れて本来必要な解雇をしないことも、余剰人員を抱え込むことにつながっている、というわけだ。

改革姿勢の後退

 最終的に、 批判を浴びたことで解雇法制の話は議論しないこととなった。7月の参議院議員選挙を控えて批判の種は作りたくない安倍首相周辺の意向が働いたという。

 そして結局、6月に出された成長戦略には解雇法制の話は盛り込まれなかったが、これが逆に改革姿勢の後退ととらえられた。欧米の金融界などは、日本が成長しない一因に硬直的な雇用慣行があると見ているのだ。改革姿勢を打ち出したアベノミクスでも企業のあり方そのものを変えることはなかなか難しいのではないか、という失望感が広がったのである。そうした失望の声を受けた安倍首相が 、秋に成長戦略第2弾を検討する姿勢をすぐさま表明せざるを得なくなったのは周知の通りだ。

雇用政策の抜本的見直し

 では、秋の第2弾では何をやるか。首相官邸は、市場関係者などから「不十分」と指摘された「農業」「医療・介護」、そして「雇用」をテーマに据える方針を固めている。それぞれに作業部会を設置して、9月にも議論を始める方針だ。つまり、雇用政策の抜本的な見直しも大きな柱になる。

 成長戦略には、

「多元的で安心できる働き方の導入促進」

 として、

「多様な正社員モデルの普及・促進を図る」

 という一文も盛り込まれている。いわゆる「限定正社員」の導入である。正社員は転勤や残業、職種の変更を受け入れないといけないのに対して、勤務地や職種を契約で限定する制度だ。派遣社員やパートなどの非正規雇用が広がった背景には、多様な働き方を求める人たちが多いからだという見方がある 。9月以降の議論では、こうした多様な働き方を可能にする雇用制度の具体化や、解雇法制の整備などが再び議論されることになりそうだ。

成否のカギは「岩盤規制」の撤廃

 もちろん、共産党社民党などはこうしたアベノミクスの雇用制度改革に強く反発している。冒頭の「労働移動支援助成金」の大幅な積み増しについても「大企業のリストラ支援策」だとして、強く批判している。

 アベノミクスの雇用政策の大転換がうまくゆくかどうかは、ひとえに将来の雇用が生まれるかどうかにかかっている。成長戦略では「解雇しやすくする」という批判を受けて「失業なき労働移動の実現」という一文が盛り込まれた。だが、雇用制度を労働移動型に変えた場合、短期的には失業者が増えるのは間違いない。その失業者たちを短期間で吸収する雇用機会をいかに作り出していくか ――。医療・介護や農業といった将来の雇用が期待される分野の「岩盤規制」の撤廃とワンセットで議論が進められるべきだろう 。

2013-09-01

「住宅着工の伸び」で問われるアベノミクスの真価

| 23:41

ちょっと古くなりましたがフォーサイトに原稿を書きました。

 景気回復の決め手とも言える住宅着工の伸びが顕著だ。このほど国土交通省が発表した今年上期(1−6月)の新設住宅着工戸数は45万1063戸と、前年同期比8.6%増えた。上期の伸び率としては、1996年上期の9%増以来の高さだった。東日本大震災の被災地での住宅建設が本格化し始めたほか、株価上昇による「資産効果」が不動産にも波及している模様。来年4月からの消費税率引き上げをにらんだ駆け込み需要も着工を押し上げているとみられる。 住宅の新築は、住宅資材が必要になるばかりでなく、家具や家電製品の買い替えなどに直結する。また、とび職や大工、左官といった現場の人手が必要になるため、雇用吸収力も高く、 経済波及効果が大きいのだ。安倍晋三首相が掲げる経済政策アベノミクス」による大胆な金融緩和の効果によって、消費が盛り上がりを見せているものの、本格的な景気回復に結びつくかどうかは、この住宅建設に火が点くかどうかにかかっている。果たして、上期の住宅着工の増加は本物なのだろうか。 東北でも本格化 月別の新設住宅着工件数でみると、昨年9月から大幅なプラスに転じている。今年1−4月はひとケタの伸びだったが、5月は14.5%…  以下は新潮社フォーサイトで(有料)→http://www.fsight.jp/19946