贈答品向け時計の活況がやってくる

時計専門誌クロノス日本版に昨年来コラムをいただいています。題して「時計経済観測所」。時計と景気を結び付けた記事を書いています。少し古くなりましたが、6月発売の7月号に載った記事を、編集部のご厚意で以下に再掲させていただきます。クロノスのオリジナルページものぞいてみてください。→http://www.webchronos.net/

Chronos (クロノス) 日本版 2013年 07月号 [雑誌]

Chronos (クロノス) 日本版 2013年 07月号 [雑誌]

 百貨店での高級品の売り上げが急増している。前々回のこのコラムでも予想した通り、安倍晋三首相が掲げる経済政策、いわゆるアベノミクスの効果で、美術・宝飾品や貴金属が猛烈な勢いで売れているのだ。円安と株高が一気に高額消費を盛り上げたわけだ。
 日本百貨店協会の集計によると、2月の全国の百貨店での「美術・宝飾・貴金属」の売上の伸び率(店舗数調整後)は前年同月比8.6%増となった。全商品の総売上高の伸び率が0.3%だったので、貴金属が突出して伸びたことになる。この数字自体驚きをもって迎えられたが、3月はさらにそれを上回った。
 同じ統計の3月の「美術・宝飾・貴金属」の伸び率は前年同月比15.6%と凄まじい伸びになった。全商品の総売上高も3.9%伸びており、長期的な低落傾向が続いてきた百貨店業界にとって久々の明るいニュースになった。もちろん、宝飾品の代表格が高級時計であることは言うまでもない。
 地域別に「美術・宝飾・貴金属」の伸び率を見てみると、面白いことが分かる。2月時点で伸び率が高かったのが福岡(28.7%増)、札幌(23.6%増)、名古屋(23.2%増)、東京の10.9%増を大きく上回っていた。
 実は2月に日本を訪れた外国人観光客は前年同月に比べて33%も増えていた。円安になったことで、外国人から見て日本旅行超割安になったわけだ。その恩恵が真っ先に表れたと思われるのが福岡。日本人だけでなく、外国人旅行者の高級品購入も相当貢献したのではないかと思われる。
札幌が高い伸びを示しているのは長期にわたって北海道の消費が落ち込んでいた反動かもしれないが、詳しくはわからない。名古屋が伸びたのは、円安によってトヨタ自動 車を中心とする中京地区の企業に業績改善期待が広がったためではないか。要は景気が良くなる、というムードの転換は、大企業が集まる東京よりも、これらの地方中核都市の方が早かったということである。
 3月の統計を見ると変化が生じている。東京の伸び率が20.0%増と大きく浮上。札幌(41.5%増)や福岡(30.8%増)には及ばなかったものの、名古屋の18.1%増を上回った。円安や株高による資産効果が全国的な広がりをみせ、しかも高い伸びを示しているのである。
 この傾向は4月以降も続くだろう。アベノミクスの先行きをどう見るかについては議論の分かれるところだが、高級品消費には別の追い風があるからだ。
4月から中小企業の交際費の税務上の扱いが変わった。それまで交際費の一部は損金として認められなかったが、新年度から800万円まで全額が損金として認められることになったのだ。これまでは飲食費などは「会議費」として損金になるひとり5000円以下にとどめるケースが目立ったが今後は800万円までの範囲内なら高額の飲食でも損金扱いできる。しかも、円安で利益が増えている企業が多いだけに、上限一杯まで交際費を使おうというムードになりつつあるのだ。
 交際費には当然、贈答品も含まれる。1個数万円の時計を取引先の社長に贈るといったバブル時代の懐かしい光景が再現されることになるかもしれない。
さらに、麻生太郎・副総理兼財務相は大企業にも交際費の一部を損金として認める方向だという発言を繰り返している。仮に、来年からの税制改正でそれが実現すれば、消費が大きく盛り上がることは間違いないだろう。
 5月には日経平均株価が1万5000円を突破するなど昨年末から4割以上も株価が上昇した。また、為替も1ドル100円台に乗せた。株高によって、株式を保有している人たちの資産価値が大きく膨らみ、それが高級品消費に回る「資産効果」が高級時計などの販売に追い風なのは言うまでもない。さらに、円安による外国人観光客の増加も追い風だろう。加えて、交際費特需も見込めることになる。時計など宝飾品業界には3筋の追い風が吹いている。
                                                    クロノス日本版7月号(2013年6月発売)