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2013-10-10

日本のグローバル化へ向けた試金石「雇用特区」の攻防

| 12:22

安倍首相が改革の突破口と位置づける「国家戦略特区」。水面下では熾烈な攻防が続いているようです。是非ご一読下さい。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37194


激しい抵抗に見舞われている「雇用特区

安倍晋三内閣が「規制改革の突破口」と位置づける国家戦略特区の具体案作りが最終段階を迎えている。6月14日に閣議決定した成長戦略で、市場関係者や海外などから「踏み込み不足」という声が上がった医療、雇用、農業などで「特区」に限り、大幅な規制を緩和する方向で調整が進んでいる。

内閣官房に置かれた国家戦略特区ワーキンググループ(座長の八田達夫大阪大学招聘教授ら民間人5人)が提案をまとめているが、規制する官庁側は激しく抵抗している。安倍首相による最終的な政治決断を経て、10月15日から始まる臨時国会に、法案として提出される見通しだ。

具体案の中で、最も激しい抵抗に見舞われているのが「雇用特区」だ。

ワーキンググループでは、「グローバル企業やスタートアップ直後の企業が優秀な人材を集めやすくするために、優秀な人材にとって働きやすい制度環境を作るべきだ」としている。現状では、外国企業が日本で数年間のプロジェクトを前提に専門人材を有期契約で雇用しようとしても、規制によって制約されていると指摘している。

このため、特区での特例として、「有期雇用規制の特例」を設けることや、「解雇ルールの明確化」、「労働時間規制の特例」などが必要だとした。

具体的には、有期雇用が5年を越えると、無期契約に転換する権利が、日本の法律では定められているが、特区内では「無期転換しない」契約を結ぶことを可能にするという。また、解雇の要件・手続きを契約書面で明確化することによって、解雇ルールを明確化できるようにするという内容だ。

9月以降、産業競争力会議(議長・安倍首相)が課題別に作った分科会で、「雇用・人材」の担当となった経済同友会代表幹事の長谷川閑史・武田製薬社長と、ワーキンググループの八田教授らが具体案を検討、厚生労働省との調整を進めた。厚労省は当初から、「雇用条件は全国一律であるべきで、特区制度にはなじまない」として反対してきた。

解雇ルールをめぐるメディアの批判キャンペーン

10月1日に開いた産業競争力会議では、メンバーの竹中平蔵・慶応義塾大学教授が、A4版1枚の資料を提出。以下のように指摘した。

「特に『雇用』分野は、残念ながら、全く前進がみられないと評価せざるを得ない。また、一部歪んだ報道により、しっかりとした改革が止められる可能性についても危惧している。雇用分野を含め、国家戦略特区を完成させるべく、引き続き全力を尽くしたい」

ここで竹中氏が指摘した「歪んだ報道」とは、9月後半に一部のメディアなどで急増した反雇用特区の記事を指している。「解雇特区」「首切り特区」といった見出しが乱舞し、「『遅刻すれば解雇』と約束し、実際に遅刻したら解雇できる」といった例が記事に取り上げられた。

ワーキンググループでの議論はあくまで「解雇ルールの明確化」で「解雇しやすくする」方策を議論していたわけではなかった。現在の日本では判例の積み重ねで「解雇4原則」といわれるものが存在するが、裁判が決着してみないと結論がどうなるか分からない。雇用を巡って裁判になった時の予測可能性が低いことが、外国企業やベンチャー企業の新規雇用を妨げている、というのが問題意識だった。

また、「遅刻すれば解雇」といった不適切な内容の契約条項は、ガイドラインによっては排除することも前提としていたという。

腹に据えかねた八田教授らは、9月30日に問題の記事を掲載した大手新聞社に対して抗議文を送ったという。記事がワーキンググループの議論とかい離し、「明らかに事実に反する」ことや、事前に八田教授らメンバーに一切取材・確認を行っていなかったことを「重大な手続き違反」と指摘する内容だったようだ。

こうした"歪んだ"記事や批判について、産業競争力会議の民間議員の一人は、「明らかに確信的なキャンペーン」だと見る。というのも、今年3月から4月にかけて、「前哨戦」があったからだ。

産業競争力会議の議論で、同様の趣旨の「解雇ルールの明確化」を議論し始めたところ、「解雇をしやすくする」「解雇規制の緩和」といった記事が、次々と掲載されたのだ。労働組合支持母体とする左派政党も、この論調を繰り広げた。結果、7月の参議院選挙への影響を恐れた安倍首相官邸の意向で、議論を打ち切ったのだ。

今回の「国家戦略特区」での雇用ルールの特例は、対象になる企業や従業員を絞り込んでいる。適用するのは特区内に限ったうえ、外国人比率が一定以上のグローバル企業か、起業から5年以内のスタートアップ直後の企業とする。

また、対象従業員も弁護士や公認会計士など専門資格を取得している人や、修士号・博士号を取得した"優秀な人材"に限っているのだ。つまり、ベンチャー企業や外国企業、グローバルに競争する企業の一部の優秀な人材に限るとしているわけだ。

さらに、不当労働行為や契約の強要といった問題が生じないように特区内の監督機能を強化する方針も、ワーキンググループの提案には盛り込まれている。

曖昧な解雇規制が外国企業には「リスク」となる

それでも厚労省左派政党の間には、根強い反対がある。田村憲久・厚労相は9月末の段階で、「労働者を保護する法令は、憲法上の基本的人権の一つと認識している。特区の内と外で違うということが、果たしてできるのか」と慎重姿勢を示したという。

憲法の人権まで持ち出して、特区での規制緩和に反対しようとしているわけだ。労働組合も同様だが、特区がアリの一穴になって、全体の規制が崩れることにならないか危惧しているわけである。正社員は簡単には整理解雇できない今の判例も、過去の「闘争」の積み重ねで獲得した成果だから、一歩たりとも譲れないということなのだろう。

安倍首相は海外での演説で、繰り返し「日本への投資」を呼びかけている。外国企業を呼び込もうとした場合、日本の曖昧な解雇規制が、外国企業の経営者にとっては「リスク」になっている。それを欧米のように、明確に労働契約として結ぶことには合理性があるだろう。

経済のグローバル化が進む中で、雇用を増やすには、どんどん海外企業にも日本で事業展開し、日本人を雇用してもらう必要がある。日本が本当に国際化できるかどうか、雇用特区は1つの大きな試金石だろう。