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2013-10-22

「宗教法人の不透明な運用実態 問われる財政の透明性」(週刊エコノミスト10月22日号)

17:13

週刊エコノミストが「宗教と経済」と題する特集を組みました。その中で、宗教法人の財務データの開示について原稿を書かせていただきました。その部分を編集部のご厚意で以下に再掲します。特集全体も面白い内容になっていますので、是非、書店や電子書籍等でお買いもとめください。

http://www.weekly-economist.com/2013/10/22/%E9%80%B1%E5%88%8A%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%8E%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88-2013%E5%B9%B410%E6%9C%8822%E6%97%A5%E5%8F%B7/

週刊エコノミスト「宗教と経済」2013,10,22

           

 「ハイリターンを求めるあまり、複雑な『仕組み債』などハイリスク金融商品に手を出し、宗団の財政は危機的な状況になっている」

 和歌山県高野町に総本山の金剛峯寺を置く宗教法人高野山真言宗」で9月12日、宗派の議会に当たる「秋季宗会」が開かれ、資産運用の失敗問題について財政部長が報告した。資産運用の失敗は2月の春季宗会で表面化、4月の臨時宗会で、宗派の執行機関である「内局」のトップだった庄野光昭・宗務総長が辞任していた。

 4月の臨時宗会では、第三者委員会が損失額は6億9600万円とし、「法人や運用担当の責任を問うことは適切でない」と判断したという。ところがその後、損失額が「集計ミス」だったとして17億円に訂正され、第三者委員会の再調査が行われていた。7月5日に新しい宗務総長に添田隆昭氏が就任。新体制が発足したこともあり、旧執行部を強く批判する内容になったと見られている。

 宗教法人の資産運用は批判の的になりがちだ。高野山真言宗のケースでも、「お布施など約30億円を運用し、高リスク金融商品も購入していた」と新聞各紙が報じた。あたかも善意のおカネをばくちに回していたかのような論調が目立った。ネット上には「(1200年前に高野山を開いた)弘法大師も泣いている」といった声があふれた。

 では、宗教法人が資産運用を行うのは問題なのだろうか。欧米では教会などの宗教団体が、寄付などで集めた基金を運用して活動資金を賄うのは当たり前になっている。運営を安定させるには単年度の収入に頼るのではなく、大きな基金を持ち、その運用収益に頼る形の方が望ましい。

 欧米では、宗教団体が「機関投資家」として市場に大きな影響力を持っている。欧州で広がっているSRI(社会的責任投資)も、もとはといえば宗教団体のファンドの運用姿勢などから生まれたと言われる。軍需産業やタバコアルコールといった宗教団体から見て好ましくない産業への投資を除外した投資スタイルが、SRIへと発展したというのだ。

 現実には、日本の宗教法人も多額の運用資産を持ち、それを金融商品で運用している。相場が良くて収益が上がっている時は誰も関心を持たないが、ひとたび相場の下落で損失を被ると責任者が集中砲火を浴びる。それだけに、「現場は安全第一の意識が強い」と大手証券の営業担当者は語る。日本国債などが中心だが、最近では外資系金融機関が「安全だ」と言って持ち込む「仕組み債」などでも多く運用されているという。だが、その実態はまったくと言ってよいほど見えない。


公開されない収支報告書

 宗教法人は1995年の法改正で、一定の小規模法人を除いて収支報告書や貸借対照表といった会計書類を文化庁に提出することが義務付けられた。宗教法人と認定されることによって税制上の恩典を得ている以上、当たり前のこととも思える。

 ところが、役所にこうした数値データがあるにもかかわらず、国民には一切公開されていない。公開することによって憲法が保障する「信教の自由」を害することになりかねない、というのだ。決算数値すら第三者の目に触れないのだから、運用実態がどうなっているのかやぶの中。まったくずさんな資産運用をしていたとしても、世の中の批判を浴びることはないのだ。

 2012年5月、内閣府の情報公開・個人情報保護審査会は、宗教法人の収支計算書など文化庁が持つ情報の公開請求に対して、同庁が対象文書を具体的に特定することなく「不開示」とした決定は、「違法なものであり、取り消すべき」とする判断を下した。不開示に対する異議申立書では、「宗教法人は、法によって税金の免除など数々の優遇を受けている極めて公共性の高い法人」だと主張、「学校法人が一部開示となっているにもかかわらず、宗教法人は不開示とする理由は全く見当たらない」とした。

 これに対して、文化庁は「公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」という条文を理由に開示を拒み、どんな書類が文化庁に提出されているかすら明らかにしなかった、という。


欧州の教会は収入公開

 海外ではまったく様相が異なる。税収の一定割合を教会の収入とする「教会税」が導入されている欧州では、情報開示は進んでいる。

 ドイツ国民の3割が教会員とされるドイツ福音主義教会(EKD)は毎年、活動内容を詳述した「年次報告書」を発行、ホームページでも公開している。11年は99億5400万ユーロ(約1兆3000億円)の収入があり、そのうち40%が教会税、18%が寄付、20%が学校運営や資産運

用収益などの収入であることが分かる。支出の欄を見ると、「資産運用」に3%分が充てられている。教会員や国民に基本的な情報を示すのは当然と考えているのだろう。

 大教団を運営し、布教し、大伽藍を維持し続けるには潤沢な資金が不可欠だ。広く浄財を募るにも、財政状態への理解を得ることは必要だろう。財政の透明性を高めることは、宗教法人自身にとっても重要なことに違いない。