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2013-12-04

28歳になった時に社会で活躍できる女性になるために---「伸びる子の育て方」を品川女子学院の漆紫穂子校長に聞いた

| 18:18

女性が活躍できる社会、というのは理想論ではなく、少子高齢化する日本では社会を維持するうえで選択余地のないことです。安倍首相アベノミクスで「女性の活躍促進」というのは、そんな切実な現実が背後にあります。では、女性を育てる教育現場はどう考えているのでしょう。最近、メディアで活躍されている漆紫穂子・品川女子学院校長にお聞きしました。現代ビジネスの原稿です。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37693

伸びる子の育て方

伸びる子の育て方

安倍晋三首相は、自らが推進する経済政策アベノミクスの「中核」として「女性の活躍促進」を掲げている。6月に閣議決定した「成長戦略」では、保育所の待機児童の解消や、女性の活躍促進などに取り組む企業へのインセンティブ付与、公務員での女性登用の拡大などを打ち出した。

こうした改革を教育の現場ではどう見ているのか。企業とのコラボレーションによるライフデザイン教育など斬新な女子教育で知られる品川女子学院の漆紫穂子校長に聞いた。

聞き手: 磯山友幸(ジャーナリスト


男女共に働くパートナーシップが必要

 問 最近出版された『伸びる子の育て方』というご著書の冒頭に、品川女子学院が取り組む「28(にじゅうはち)プロジェクト」の話が出てきます。

 28歳の時に社会で活躍する人材の育成を柱に据えて、そのためにはどんな教育が必要か、逆算してライフデザインを描いていく、という教育を行っています。

 問 28歳の時にどんな女性になっていることを目指すのでしょうか?

 社会で働くことも、子どもを産み育てることも、どちらも諦めない女性です。第一子を出産する平均年齢が30歳ですので、28歳といえば、結婚して子どもを生むことを考える時期です。

 雇用機会均等法ができた私たちの世代は、仕事をバリバリやっていて40歳を過ぎて一息ついた時に、子どもを作ろうかと考えてもリスクが大きかったり、なかなか授からなかったりで、諦めざるを得ない女性も多くいました。

 男と女は違います。当然、人生設計も違うわけで、早めに決めていくことが非常に大事。15〜16歳で、これからどんな学部学科に進むのか選択を迫られますが、ここできちんと考えずに、やり直しをしたりすると、女性の人生で重要な20歳代の時間をそれに費やすことになってしまいます。

 問 女性が働き続けるのが当たり前の社会になってきました。

 2010年に64%だった生産年齢人口の割合は2060年には51%にまで低下するそうです。男だけでなく女も働かなければ、社会は成り立たなくなります。いずれは(女性に一定比率を割り当てる)クオータ制や、(企業が意欲の高い女性を積極登用する)ポジティブ・アクションなどが議論されるのでしょうが、今はその過渡期だと思います。男女共に働くパートナーシップのあり方を整えていくことが必要でしょう。

 問 安倍首相は「女性の活躍促進」を政策の柱に掲げています。

 女性活用を取り上げていただけるのは素晴らしい事だと思います。もちろんトップがビジョンを示すことは大事ですし、どんな社会を目指すのかをが分からないと、改革を掲げてもうまくいきません。そのためには、できるだけ現場の声を聞いていただきたいですね。改革が必要な問題の答えは、必ず現場にあります。上から仕組みを作っても、現場の意思とずれていてはうまく機能しません。

 問 具体的には?

 子どもが生まれて、保育所に預けることができないからという理由で仕事を休まざるを得ない人がまだまだ多くいます。待機児童の早急な解消が何としても必要です。

 また、従業員100人以下のような組織に、育休付与を義務付けたとしても、実際に数人の育休者が出たら組織は回らなくなります。責任感の強い女性ほど休めないでしょう。そういう組織に助成金を出すなどして、育休を取らせやすくする工夫がないと機能しません。

 問 ただ上から押し付けるだけでは難しい、ということですね。

 ええ。それに社会や家庭の意識改革も必要です。最近は、同じ職場どうしで結婚して働き続ける夫婦が増えています。所得もほぼ同じ、仕事の忙しさも同じ。それなのに家事負担は圧倒的に女性というケースもまだまだ多い。企業でも、もっと男性が休んだり、残業せずに早く帰ることができるムードを作るべきでしょう。

自分を認め、肯定する気持ちが大事

 問 28プロジェクトではどんな教育をされているのですか?

 企業とコラボレーションして新商品を開発する授業や、起業プロジェクトなどを行っています。ソーシャル・ビジネスの授業で中学1年生で地域の研究、中2で日本文化を学び、中3で企業とのコラボをやります。そして4年生(高校1年生)では、起業体験として30〜40万円の元手で事業計画を作り、文化祭に出店します。バーチャルではあるけれど、世の中に近い形で経験してみるわけです。

 問 学外の人の協力が不可欠ですね。

 私たち教員だけでは無理です。企業の経営者や専門家など様々な方に授業もお願いしています。私は、コラボレーションとシェアだと言っているのですが、協力していただいた成果が出れば、それをお返ししていく。企業も社会貢献の一貫としてお手伝いいただくわけですが、授業を通じて社員の教育にプラスになったというお話も聞きます。

 また、授業のやり方や企業とのコラボレーションの手法などもどんどんオープンにしています。他校から見学や問い合わせがあればすべて受け入れています。

 問 28プロジェクトの到達点は28歳ということだと思いますが、卒業後もつながりが続くということですか?

 はい。成人式後にはたくさんの卒業生が晴れ着姿で戻って来ます。また、大学2〜3年生になった卒業生を対象に就職活動セミナーを開いています。自分のライフデザインの原点に戻って考えるきっかけにして欲しいと考えています。また、卒業生向けの「白バラ・カレッジ」という教養講座もあります。そして28歳になると「ホーム・カミング・デー」があり、みんな帰ってきます。

 母校は故郷です。実は品川女子学院には経営が厳しい時期がありました。そんな時に「私の故郷はここしかない」と高齢の卒業生から言われたのです。学校は絶対に守らなければいけない。受験票が30枚しか来ないどん底から7年で1800人の応募がある学校に変えることができたのも、そんな思いからです。

 問 子どもたちがライフデザインを描いていくうえで、最も大切なことは何でしょう?

 自己肯定感だと思います。自分の良いところもダメなところもひっくるめて、自分を認め、肯定する気持ちです。自己肯定感の強い子は気持ちに余裕があって人にも親切です。卒業後、困難に直面しても、しなやかに乗り越えることができます。

 問 なぜ、自己肯定感が大事だと思われるようになったのですか?

 社会で成功したり、活躍している様々な人たちとお話していて、共通点があることに気付きました。皆さん、自分に自信があって、自慢のような話でも嫌味のない明るさがある。自分が好きなのだ、と思いました。苦しいことも難なく乗り越えてきたのだろうな、と感じるのです。それが自己肯定感だと思うのです。

 問 教室に「私たちは世界をこころに、能動的に人生を創る日本女性の教養を高め、才能を伸ばし、夢を育てます」という教育目標が書かれていました。

 学校改革の過程で、教員と話し合ってミッションを立て直しました。それがこの目標です。本校は、創立した大正期から「政治・経済につながる女性」を目標に掲げ、そのために、手に職を持たせる教育を行ってきました。まだ婦人参政権のないころの話です。社会で活躍する女性を育てるために、常に新しいことにチャレンジするという風土は根付いています。

 問 卒業生は、活躍する女性として育っていますか?

 

 ええ。組織の中で活躍する卒業生もたくさんいますが、起業するような子も出てきました。女性が能力を発揮しようとすると、まだまだ社会では叩かれます。そんな時にくじけないよう、在学中に自己肯定感をいっぱい"貯金"させるように心がけています。


漆紫穂子(うるし・しほこ)

東京都品川生まれ。中央大学文学部卒業、早稲田大学国語国文学専攻科修了。他校の国語教師を務めたのち、1989年に品川女子学院へ。学校改革に参加し、7年間で中等部入学希望者数が60倍になった。2006年4月に父の跡を継ぎ、第6代校長に就任。趣味はトライアスロン品川女子学院のウェブサイトで「校長日記」を執筆中。

近著『伸びる子の育て方』刊行記念講演会を2013年12月14日(土)13:30〜 丸善・丸の内本店 3F日経セミナールームで開催予定。詳細はこちらをご覧ください:http://www.junkudo.co.jp/mj/store/event_detail.php?fair_id=3308