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2014-01-16

「社外取締役」嫌う経団連の亡霊

| 19:02

月刊FACTAにいただいている連載コラムは私が書く原稿の中でも非常に多くの反応があります。締切から発売までのタイムラグが比較的長いため、コーポレートガバナンスなどの構造問題を書くケースが多いからでしょうか。12月20日に発売された1月号の原稿を編集部のご厚意で以下に再掲させていただきます。是非、ご一読ください。→ http://facta.co.jp/article/201401040.html

2014年1月号 連載 [監査役 最後の一線 第33回]

by 磯山友幸(経済ジャーナリスト


「社外取締役の1人以上義務付けなど当たり前だ」

「いや、企業ごとに判断すべきで義務付ける必要はない」

2年以上にわたって繰り広げられたそんな議論に一応の結論が出た。安倍晋三内閣が11月末、企業統治のあり方などを見直す会社法改正案を閣議決定し、国会に提出したのだ。年明けの通常国会で法案が審議される。

法案では、焦点だった株式公開企業の社外取締役設置については、義務付けを見送った。ただし、社外取締役を置いていない場合、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない」という規定が法律に明記された。

置くことが「相当でない」とは、置けない事情ではなく、置かない方が良い理由ということ。「合理的な理由を説明するのは極めて難しい」(企業統治に詳しい久保利英明弁護士)とみられ、実質的に設置を義務付けたに等しい、という評価もある。

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法務省の法制審議会会社法制部会が改正に向けた要綱案をまとめたのは2012年8月だった。民主党政権下で改正について諮問された、その答申だったが、民主党政権の崩壊で宙に浮いてしまう。自民党政権はその扱いに苦慮することになる。

というのも、安倍内閣は6月に成長戦略を閣議決定したが、そこには、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化が謳われ、こう書かれていたからだ。

会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する【次期国会に提出】」

次期国会提出という「宿題」を出された法務省は、義務付けを見送る内容の民主党案のまま、国会に法案提出しようとした。これにはさすがに自民党政務調査会法務部会などで異論が噴出した。「社外取締役は国際的にみて常識。義務付けに修正すべきだ」(三宅伸吾参議院議員)という声もあったが、法務省側は、義務付けに転換すれば、経団連が法案そのものに反対し、国会提出すらできなくなる、と強硬に抵抗した。

実は、法制審が要綱案をまとめる過程で出した「中間試案」には「1人以上の義務付け」が盛り込まれていたが、経団連や全国銀行協会などが強く反対。最終的に義務付けを見送る一方で、「置くことが相当でない理由」を事業報告書に記載することで妥協していた経緯があった。その“合意”が根底から覆ってしまう、というわけだ。

アベノミクスが掲げる「社外取締役の導入促進」に何とか法案を近づけようと自民党側で知恵を絞ったのが塩崎恭久政調会長代理や柴山昌彦衆院議員など。法務省案では「相当でない理由」の説明は省令で求めることになっていたが、これを法律に明文化するなど、ギリギリまで調整。国会会期末が迫る中でようやく修正のうえ法案が閣議決定されたのだ。

修正後の法案ではさらに、「事業報告書への記載」だった原案の説明方法を、株主総会での説明にした。事業報告書への記載では、終わった期に社外取締役がいなかった理由の説明になってしまう。これを株主総会で、取締役候補者に社外取締役がいない場合に説明する義務に変えたのだ。

企業経営者からすれば、株主総会で議決しなければならない新任取締役候補を説明する際に、なぜ社外取締役を置かないかを議長の社長などが説明することになったのは大きな変化だ。候補者に社外取締役がおらず、「置くことが相当でない理由」を説明したとして、当日の出席株主から強く非難されることは火を見るより明らかだからだ。

最近の株主総会での取締役選任では、独立性の乏しい社外取締役候補者に票が入らない例が急増している。社外取締役がいない候補者名簿を議案にかけ、まともな説明ができなかったら、海外機関投資家を中心に反対票が投じられる可能性が高い。

一方で、日本の現状からすれば、社外取締役1人以上の義務付けにそこまで目くじらを立てる必要はないようにも見える。日本取締役協会の13年8月の調査では、東証1部上場1752社のうち1090社が社外取締役を1人以上置いている。全体の62.2%だが前年の54.2%から大幅に上昇した。それまで設置を強く拒んでいたトヨタ自動車が13年6月の総会で社外取締役を導入するなど、状況は大きく変わっている。実は反対してきた経団連の企業も導入が進んでいる。正副会長会社18社のうち17社には社外取締役がおり、しかも240人いる取締役のうち51人が社外なのだ。

もはや義務付けに反対する理由はないのだが、ある経団連企業のトップによると「一部の経営者の顔色をみている事務局が方向転換できずにいる」という。一部の経営者というのは前会長の御手洗冨士夫・キヤノン会長兼社長と三村明夫・新日鉄住金名誉会長だという。もはや正副会長を退任した2人だが、その亡霊に事務局職員は取り付かれているというのだ。実際、両社は今でも社外取締役を置いていない。

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「社外取締役がなぜ不要かという理由は一切言わず、とにかく義務付けに反対という姿勢はいかがなものか」と法制審議会の委員も務めた上村達男・早稲田大学教授は経団連の姿勢に首をかしげる。法案が成立し、株主総会での説明が義務付けられた時、果たして、キヤノンと新日鉄住金がどんな「置くことが相当でない理由」を掲げるのか、大いに注目したい。

これで事実上、義務付けと同じ効果が出て、成長戦略で掲げた「社外取締役の導入促進」が実現する、ということだろうか。だが、懸念は残る。この法案が通った際に、「社外取締役の義務付けは見送った」というネガティブなメッセージを海外の機関投資家などに発信することになりかねないからだ。

通常国会では民主党など野党が「社外取締役を義務付ける」議員立法を目指す動きもあるという。それならいっそのこと、与野党協議で修正をして、義務付けを盛り込んでしまってはどうか。

経団連と共に義務付けに反対してきた経済同友会はその方針を転換しつつある。強硬だった銀行協会もみずほ銀行の不祥事で表立った反対はできない。みずほは社外取締役がいなかったと批判されて急遽、元最高裁判事を起用した。あとは経団連事務局がメンツにこだわらず方針転換すれば、長年の懸案はあっという間に解決する。海外に日本企業の改革姿勢をアピールすることになり、間違いなく株価は上昇するだろう。