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2014-02-05

社外取締役設置を「事実上の義務化」。法務相答弁で守旧派企業も遂に逃げ道がなくなった!

| 20:52

国会論戦が始まりました。アベノミクスで打ち出されている成長戦略がどうなっていくのか。言葉だけでなく、実行が問われています。今国会に提出されている会社法改正案も、日本経済に大きなインパクトを与える内容が含まれています。現代ビジネスに書いた原稿です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38279


社外取締役の設置促進などを目的とする会社法改正案が今国会で審議され、可決される見通しだ。欧米では当たり前になっている社外取締役を置くことで、日本の上場企業に紀律を働かせようというコーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化は、海外からもとくに注目されている。

安倍晋三首相が進める「アベノミクス」の成長戦略にも「会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する」と盛り込まれている。

どうやって企業に導入を促すか。大きな焦点になっていたが、どうやら流れは決まったようだ。

「義務化断念」「先送り」の報道は実態と異なる

実は、国会に提出された法案では、社外取締役設置は明確には「義務化」されていない。会社法の改正議論が始まったのは民主党政権下の2010年。法務省の法制審議会会社法制部会で議論された。

2011年にまとまった「中間試案」では、上場企業に社外取締役を「1人以上の義務付け」ることが盛り込まれていたが、経団連や全国銀行協会などが強硬に反対。最終的に2012年8月にまとまった要綱案からは外され、義務化しないことになっていた。その後、民主党政権の崩壊で、法案は宙に浮いていた。

政権を奪還した自民党安倍政権はその扱いに苦慮する。成長戦略では導入促進と言いながら、準備されている法案は義務付け見送りというチグハグな内容になっていたからだ。自民党内の議論では、法案を大幅修正して、社外取締役を義務化するという案も出たが、これには法務省が真っ向から抵抗した。

「もし強引に社外取締役の義務化を打ち出せば、経団連が態度を硬化させ、法案自体が出せなくなる」

法務省はこう主張していた。だが、法制審議会で決めた結論をひっくり返されては省としてのメンツにかかわるというのが本音ではないか、と見られていた。だからと言って、安倍内閣が「義務付け断念」のまま、法案を国会に出すわけには行かない。自民党法務省の間で、ギリギリの調整が行われた。

答申では、社外取締役を置いていない場合、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告書に記載するよう求めていた。法務省はこれを省令で規定する意向だったが、自民党側は法律の中に明記させたうえで、さらに株主総会で説明するように修正を加えた。

ちなみに、「相当でない」とは、「置くことができない」事情では許されず、「置かない方が良い」理由ということになる。しかも、各社ごとの独自の判断を書かなければならず、経団連などが「ひな形」を用意することもできないようにした。事実上、逃げ道が塞がれているのである。

1月31日、衆議院予算委員会で質問に立った塩崎恭久自民党政調会長代理は、この法律案は社外取締役を「事実上義務化をしたのに等しい」と言えるのではないかと聞いた。マスメディアでは「義務化を断念」「義務化を先送り」と報じられているが、実態は違うのだと法務大臣に明言するように求めたのである。

この誘い水に谷垣禎一法務相は乗った。「事実上の義務化という塩崎議員のそういう評価、十分可能だと思っています」と述べたのである。正面からは義務付ける法律にはなっていないものの、「置くことが相当でない理由」を説明するのは容易いことではないから、事実上の義務化だというわけだ。

すでに東証1部上場企業の6割超が設置

安倍内閣を支える閣僚と党幹部が、そんなやり取りをしたのには理由があった。

1月22日、スイスダボスで開かれた「世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)」での安倍首相の演説には、こんな下りが含まれていたからだ。

「24日からの国会に、会社法改正を提案します。これで、社外取締役が増えます」

これまでも海外で、日本への投資を呼びかけてきた安倍首相にとって、社外取締役の導入促進は、半ば「国際公約」になっていた。外国人投資家も日本企業のガバナンスが強化されることで、低採算の事業の見直しなどが進み、もっと利益を上げる企業体質が出来上がると見ている。つまり、日本企業の収益性改善には、社外取締役の導入などコーポレートガバナンスの強化が不可欠だと見ているのだ。

安倍首相がそう外国人に大見得を切った以上、その後の国会審議の際に出てくる報道の見出しが「社外取締役の義務化断念」では困るわけだ。しかも、昨年1年間で15兆円も買い越していた外国人投資家が、年初から「売り越し」に転じている。安倍首相の改革姿勢に疑問符が付くようなことになれば、さらに日本株が売られかねない。株価の下落は支持率の低下に直結する。

法務大臣に「事実上の義務付けに等しい」とまで言われて、上場企業が社外取締役を拒絶し続けるのはもはや難しい、と言ってよいだろう。

現実にはここ数年、急速に社外取締役が普及してきた。日本取締役協会の2013年8月の調査では、東証1部上場1752社のうち社外取締役を1人以上置いている企業は1090社にのぼる。すでに全体の62.2%に社外取締役がいるのだ。

2013年6月に、それまで導入を強く拒んでいたトヨタ自動車が社外取締役3人の選任を決めたこともムードを一変させた。社外取締役の導入に反対してきた守旧派企業が総崩れになっているのだ。1年前の同じ調査では54.2%だったから、大幅に上昇したのである。

企業経営者からすれば、頭をひねって「置くことが相当でない理由」を考えても、株主総会株主に批判を浴びせられる可能性が高い。それならば、さっさと社外取締役を選任してしまう方が楽だということになる。

成長戦略へ「緩い経営」許さぬ安倍政権

ダボスでの演説で、安倍首相はさらにこうも言った。

「来月中には、機関投資家に、コーポレート・ガバナンスへのより深い参画を容易にするため、スチュワードシップ・コードを策定します」

生命保険会社などが契約者の利益を第一に考えて、株主として行動するよう規範を定めるとしたのである。保険契約を取ることを第一に企業の株を持ち、大株主としては何も発言しない従来型の「物言わぬ株主」では、許されなくなっていくのだ。

自民党内ではさらに、欧州では一般的な「コーポレートガバナンス・コード」の策定を目指す動きも出始めた。

アベノミクスの成長戦略には、「民間投資を喚起する」という修飾句が付いている。というのも、企業が内部留保を溜め込んで事業のために資金を使わなくなっていることが日本経済の成長を阻害していると分析しているからだ。日本企業の経営者の背中を押すには、投資減税などの「アメ」だけではなく、ガバナンスの強化といった「ムチ」も必要というわけだ。

コーポレート・ガバナンス・コードを作ることで、経営者が漫然と不採算事業を抱え込むような「緩い経営」を許さない風土に変えていこうというのである。アベノミクスが掲げる「産業新陳代謝」を促すことにもつながる。

安倍首相が求める経営風土の改革で、日本企業は収益性を高めることができるのかどうか。企業経営者の力量が問われることになる。