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2014-04-15

御手洗キヤノンもついに「陥落」、初導入する社外取締役二人の微妙な経歴

| 17:43

社外取締役を入れれば企業が良くなるわけではありません。どう社外取締役を生かすかが問われます。社外取締役に反対してきた企業も相次いで導入を決めていますが、要は本気で生かすつもりがあるのかどうかでしょう。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38897


キヤノンが3月28日に株主総会を開いた。都内の本社で行われ、過去最多の2663人の株主が出席したという。総会では、元大阪高検検事長弁護士の齊田國太郎氏と元国税庁長官で証券保管振替機構社長の加藤治彦氏を、同社初の社外取締役に選んだ。

追い詰められた御手洗冨士夫氏

キヤノンは社外取締役の導入に反対してきた最右翼の会社とみられてきた。会長兼社長の御手洗冨士夫氏も社外取締役不要論を語ってきた。経団連が社外取締役の義務付けに強く抵抗しているのも、会長を務めた御手洗氏への配慮があると見られてきた。

そのキヤノンが陥落したのである。

同社が社外取締役を置いて来なかったことに関して株主の関心も高かった。昨年の株主総会でもなぜ置かないのかという質問が出ていた。御手洗氏はさすがに「不要」とは切り捨てず、探しているが「十分な時間を割いていただける有能な人物が見つからない」という答えだったという。

そのキヤノンが社外から取締役を入れると発表して臨んだ総会だけに関心を呼んだのだろう。過去最多の出席者が集まった一因と考えられる。

1月末に社外取締役の導入方針を決めた際には「制度に反対しているわけではなく当社に必要が無かっただけ。適切な人材が見つかったのでお願いした」というキヤノンのコメントが日本経済新聞に載っていた。

さすがに株主総会で「見つかったから」と答えるのはマズイと思ったのだろう。日経によれば御手洗氏は「M&A(合併・買収)が増え法務面で対応の必要性が高まっている」と理由を説明したそうだ。

だが現実は、さすがのキヤノンも追い詰められたから、というのが本音に違いない。

トヨタの社外取締役導入で孤立したキヤノン

恐らく最も効いたのが取締役選任議案の投票結果だろう。キヤノンが関東財務局に提出した臨時報告書によると、昨年の株主総会取締役選任議案で、御手洗氏に対する賛成票が極端に少なかったのだ。

田中稔三副社長ほかすべての取締役候補が92%前後の賛成票を得たのに対して、御手洗氏への賛成票は72.21%にとどまっていたのだ。外国の機関投資家などが社外取締役を導入しない御手洗氏に「ノー」を突きつけたのである。

やはり社外取締役を置いていなかったトヨタ自動車が昨年6月の株主総会で3人の社外取締役を導入したことも、キヤノンの孤立を深めた。

そこに今国会で審議中の会社法改正で、社外取締役を置かない場合は、「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明しなければならなくなる見通しとなった。相当でない理由とは「置かない方がよい」という意味だから、なかなか説明は難しい。

谷垣禎一法相も国会答弁で「事実上の義務付けという評価は可能」とまで踏み込んだ。よほどの事がない限り、企業経営者からみれば社外取締役を置く方が簡単なところへ追い込まれたわけだ。

では今年のキヤノンの株主総会での投票結果はどうなったか。田中副社長ら社内出身の取締役が全員93%台の賛成票を得る中で、御手洗氏は90.08%の賛成票だった。

他の取締役に比べて反対票は2倍以上だったが、昨年の72%に比べれば賛成票が激増したことになる。社外取締役の導入を投資家が評価した効果とみていいだろう。

しかも社外取締役である齊田氏と加藤氏に対する賛成票は94.15%と94.11%。他の社内出身取締役を上回る結果となった。これも株主が社外取締役を歓迎した結果とみていいだろう。

「モノ言える」監査役なのか

今回のキヤノンの総会ではひとつの「異変」が起きた。監査役候補の北村国芳氏の賛成票が66.06%にとどまったのである。3分の1近くが反対に回ったのだ。

北村氏は第一生命保険出身。キヤノンが取引所に提出した書類によると、「生命保険会社において長年にわたり幅広い分野の仕事に携わっており、実務家としての視点に加え、企業経営に関する相当程度の知見を有していることから、経営全般の監視と、一層の適正な監査の実現のために活かしたく、社外監査役として選任しております」とある。

社外監査役でなおかつ、取引関係などがない「独立役員」に相当するとキヤノンが胸を張っている人物である。

機関投資家が反対した理由は北村氏は「独立役員」としての独立性に疑義がある、というものだったようだ。北村氏は第一生命保険で総合法人第八部長を務めていたが、2010年3月にキヤノンに転籍したと第一生命の広報資料にある。

キヤノンの取引先の出身であるうえ、どうやらキヤノンに籍を置いたことがあるらしい、というわけだ。キヤノンと第一生命の間の取引は「それぞれの年間売上高の1%に満たない額だ」として独立役員として何ら問題ないというのがキヤノン側の立場である。

社外取締役や社外監査役などは会社や経営陣から独立した立場でモノが言えることが重要だ。会社から何らかの利益提供を受けていたら、経営者に思い切った事など言えるはずはない。

社外取締役は「元顧問」

株主総会株主から圧倒的な支持を得た二人の社外取締役についても、キヤノンは独立性の高い「独立役員」であると取引所に報告している。だが、本当に独立性に問題はないのだろうか。

というのも、齊田氏も加藤氏もどうやらキヤノンの顧問だった「過去」があるようなのだ。

キヤノンが取引所に提出した「独立役員届出書」には、両氏について、「顧問報酬を支払っていたことがありますが、報酬は多額ではなく、契約は既に終了しております」と記載されている。何ということはない。会社の顧問だった官僚OBを社外取締役に置き換えたということのようなのだ。

「社外取締役を置けば会社が良くなるわけではなく、置いた社外取締役を生かせば会社は変わるということだ」と、会社法改正の議論に加わった法学者は言う。

社外取締役の設置ですべて事が足りるはずがないことは、数々の不祥事を起こした会社の中にも社外取締役がいる会社があったのを見れば分かる。追い詰められたから嫌々形だけを繕うのではなく、社外取締役をどう経営に生かせるかが今後問われることになる。