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2014-05-02

株主総会での取締役選任議案に異変 株主に求められる「スチュワードシップコード」

| 14:17

地味な改革ですが、生命保険会社などの機関投資家に、保険契約者の利益を第一に考え、投資家として行動するよう義務付ける「スチュワードシップ・コード」が日本にも導入されます。これによって、日本企業のコーポレートガバナンス改革が一歩前進することは間違いありません。エルネオスに書いた記事です。

硬派経済ジャーナリスト磯山友幸の《生きてる経済解読》 連載37(2014年5月号)

 取締役選任の投票用紙を見たことがあるだろうか。三月決算が多い日本では、五月上旬になると会社から総会招集通知が一斉に送られてくる。決算書など業績内容などの説明文書に加えて、葉書式の投票用紙が封書で届くのが一般的だ。

 配当や株主優待などが狙いの個人投資家だと投票用紙を返送しないケースも少なくないが、送り返す場合にも何も印を付けないでそのまま送り返す人がかなりいる。議案に賛否の印を付けずに返送された投票用紙は「白紙委任」として会社が提案した議案に賛成したものと扱われるが、そんな賛否などあまり気にしたことがない人が多いにちがいない。

 ところが最近、この議案の賛否に経営者が神経を尖らせているのだ。かつては会社側の提案は圧倒的な賛成票で支持されるのが普通だったのだが、異変が起きているからである。特に賛否が分かれているのが取締役の選任議案である。

キヤノンの取締役選任議案に変化

 三月決算会社よりひと足早く三月末に株主総会を開いたキヤノンも、取締役選任議案の行方に神経を尖らせていた会社の一つだ。昨年三月の総会では、田中稔三・副社長ほかすべての取締役候補が九二%前後の賛成票を得たのに対して、御手洗冨士夫・会長兼社長への賛成票だけが七二・二一%にとどまっていたのだ。注目された今年の投票結果は、田中副社長ら社内出身の取締役が全員九三%台の賛成票を得る一方で、御手洗氏も九〇・〇八%の賛成票を得た。他の候補者よりも低いとはいえ、一年前に比べて大幅に賛成票が増えたのである。

 なぜ、こんなことが起こるのだろうか。実は海外の機関投資家などが取締役の選任に当たって「問題」とした人物にバツを付けているのである。日本の取締役選任議案の投票は候補者名簿を一括して賛否を問う形になっているが、「○△氏を除く」といった条件を付けて投票することができる。海外の機関投資家は特定の人に「ノー」を突きつけているのだ。

 昨年の総会で御手洗氏に賛成票が少なかったのは、キヤノンが社外取締役を置いていなかったから。海外の投資家は社外取締役を会社に設置させることに前向きで、社外取締役を置いていない会社のトップには半ば自動的に「否」を付けているのだ。御手洗氏は社外取締役導入に反対している最右翼とみられてきたことも投資家の猗身瓩鯒磴辰討い拭

 今年の総会で御手洗氏への賛成票が急増したのは、この総会に出された取締役候補者名簿にキヤノンとしては初めて社外取締役二人を含めたからである。元大阪高検検事長弁護士の齊田國太郎氏と元国税庁長官で証券保管振替機構社長の加藤治彦氏が候補者だったが、齊田氏と加藤氏に対する賛成票は九四・一五%と九四・一一%で、社内出身の取締役候補者よりも多かった。キヤノンの株主の多くが社外取締役を歓迎したことを示している。

株主として求められる責任

 海外の機関投資家などが社外取締役や社外監査役の候補者に求めるのは、何といっても「独立性」だ。社長など会社のトップに対して独立した立場からきちんとモノが言えるかどうかを気にしているのだ。

 そうでなくとも日本の取締役は「空気を読む」ことに長けた人が多いといわれる。自分を取締役に引き上げてくれた社長の意向や顔色を読んで、社長に追随しがちだというのだ。会社の未来や従業員、株主の利益よりも、社長の意向がともすると優先されかねないというわけである。

 そうした空気を打破するために導入されるはずの社外取締役や社外監査役が、社長の親族や取引先、もともと報酬を支払って雇っていた顧問や従業員では話にならないということで、候補者の経歴などを厳しくチェックしている。独立性に問題があるとなると、総会の投票で「ノー」を突きつけるのだ。

 こうした投票行動は機関投資家が個々に決定している場合もあるが、議決権行使について助言する会社のアドバイスに従うケースも少なくない。こうした助言会社が「否」と決めると、機関投資家が大量に保有する株式の議決権が一気に反対票になってしまうのだ。

「あまりにも気分が悪いので、あの会社の社外役員は断りました」と大物会計士は顔をしかめた。出身の会計事務所(監査法人)がその会社の監査を担当していたため、議決権助言会社が「反対」票を投じるよう意見を出しており、多くの海外機関投資家が反対する見通しになったからだ。当の大物会計士は出身事務所を辞めて十年以上が経過しているうえ、その会社の監査に直接携わったことがなかったが、外形的に見ると独立性が乏しいと見えてしまうのだ。

 弁護士などの場合、過去に会社と顧問契約があったケースなどは同様に問題視されることもある。もっとも、顧問契約があったかどうかは取引所に提出する書類などで判明するケースもあるが、投資家にはなかなか分からないため、まとまった反対票になっていないケースもある。

 かつては株式を保有する銀行や生命保険会社は、株主総会では会社側に付いて賛成票を投じるのが普通だった。いわゆる「モノ言わぬ株主」として振る舞ってきたわけだが、こうした日本の大株主も変化を迫られている。

 アベノミクスの一環として日本の機関投資家に「スチュワードシップコード」の導入が進められているのだ。スチュワードシップコードとは英国で二〇一〇年に制定されたもので、企業の株式を保有する機関投資家の行動規範。資産運用の委託者の利益を実現するために、投資先企業の経営者に影響力を与えるなど一定の役割を果たすべきだという考え方。その「日本版」を導入しようというのである。

 このコードを遵守すれば、生命保険会社などは保険契約者の利益を最大にするために行動しなければならなくなり、株主として積極的にモノを言う存在に変わることになる。つまり、外国人機関投資家が行っている賛否の行動を、日本の機関投資家もよりいっそう明確に実行しなければならなくなるわけだ。

 社長が取締役を選び、株主はそれを形だけ追認する。そんな日本型の選任プロセスが大きく変わろうとしている。