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2014-05-07

「日本企業の取締役は規律と知識が足りない」ーーN・ベネシュBDTI代表理事が語る「日本的ガバナンスの限界」

| 16:47

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39173

社外取締役の導入など日本企業のコーポレートガバナンス改革が少しずつ動き出した。安倍晋三首相も成長戦略の中に企業のガバナンス企業をうたう。

今後、日本企業の取締役はどんな機能が求められていくのか。公益社団法人「会社役員育成機構(BDTI)」で代表理事を務めるニコラス・ベネシュ氏に聞いた。

ようやく日本で本格的なコーポレートガバナンス議論が始まった


  安倍晋三内閣は成長戦略の中でコーポレートガバナンスの強化を打ち出しています。

 ベネシュ 日本企業の新陳代謝を促進して収益性を上げるために、コーポレートガバナンス(企業統治)を強化することが重要だと、やっと日本の政治家が言い出したことは喜ばしい事です。

これまでは、ハゲタカファンド対日本企業といった対立の構図の中でばかり、コーポレートガバナンスが語られてきましたが、そんな外国対日本といった議論は水掛け論というか、実に馬鹿げています。

ようやく初めて日本で本格的なコーポレートガバナンス論議が始まったと見ています。

  日本企業のガバナンスの問題点を繰り返し指摘されていますが、なぜベネシュさんは日本企業のガバナンス問題に関心を持ったのですか。

 ベネシュ もともと投資銀行で日本企業に仕組債を売ったり、M&A(企業の合併・買収)のアドバイスをする仕事をしていました。バブル期に日本企業は相次いで米国の会社や不動産を買収しましたが、バブル崩壊後に売却を余儀なくされた時、お手伝いする事が多かったのです。その際、日本企業がいかにガバナンスが欠如しているのか痛感したのです。

バブル期米国の資産を買った経営者の動機は「ライバル企業が米国で資産を買ったのだから、うちも」といった横並び意識でした。自社の事業にとってどれだけプラスになるかという検討の結果ではありません。ですから、本来の価値を大幅に上回る価格でも平気で買収していったのです。

私が処分のお手伝いをしたころには二束三文で巨額の赤字が生じました。それでも買収を決断したトップは責任を取って辞任することはありませんでした。

  当時の負の遺産の処分が、その後の「失われた20年」の停滞につながったという指摘はありますね。

 ベネシュ 日本企業の場合、ガバナンスが利かないので、不採算事業や不稼働資産があっても、簡単にそれを処分することができません。「あの事業は元社長の誰々さんが始めたものだから、彼が死ぬまで止められない」といったことを真顔で話しています。私もいくつもの日本企業のアドバイザーや社外取締役をやりましたので、そういう場面はたくさん見てきました。

  そうした問題の先送りをしないためにも社外取締役が必要なわけですね。

 ベネシュ 不採算部門や子会社などの売却、リストラを日本企業は先送りしがちです。そこに外部の独立した取締役がいれば、社内の論理だけで物事が決まらなくなる。ただ社外取締役ひとりでは、社長や社内出身取締役に反対するのは難しいので、少なくとも3人いれば機能し始めると思います。

「ステークホルダー重視」では抽象的だ

  安倍内閣も社外取締役の導入促進を掲げて会社法改正を今国会に提案しています。

 ベネシュ ええ。安倍内閣がコーポレートガバナンスの強化に本腰を入れているのは分かります。法制審議会が決めた会社法改正案では、社外取締役1人すら義務付けていませんが、これに株主総会での説明義務を課して実質的な設置義務にしようというのは努力の結果だと思います。

しかし、自民党は政権再交代する時のマニフェストで複数の独立した社外取締役の設置を掲げていたはずで、後退しているようにも見えます。6月にも改定される成長戦略でどこまでコーポレートガバナンスの強化策が盛り込まれるのか、大いに注目しています。

内容が無ければ、多くの外国人投資家に「アベノミクスの第3の矢は中身がない」というメッセージを発信することになりかねません。

  安倍内閣は対日直接投資の大幅な増加も掲げていますが、なかなか外国企業の日本企業への投資は進みません。

 ベネシュ 対日直接投資の規模は、国内総生産GDP)比では先進国の中でも最低水準です。これは日本企業のガバナンスが利いていないので、なかなか投資しにくいことが背景にあります。

日本の経営者はしばしば「ステークホルダー重視」と言います。株主以外の従業員や取引先などステークホルダーも大切にするのだというわけですが、非常に抽象的で、要は「株主重視ではない」という意味にしか聞こえません。

海外の資本との提携やM&Aについても非常に非合理的です。昔ある会社のアドバイスをしていた時、米国のIT(情報技術)企業の傘下に入って新しい時代に対応したビジネスへの転換を進めるべきだ、と主張しましたが、当時の創業一族は「独立性が大事だ」と言って拒絶し続けました。その後、事業環境の変化でその会社は倒産し、米国のIT企業はタダ同然でその会社を手にいれました。

あの時、株式を売っておけば創業一族にも資産が残り、会社も発展して、従業員も倒産の憂き目に遭うことはありませんでした。何が株主やステークホルダーにとって最善かを経営者が考える仕組みになっていないのです。

  日本企業の場合、経営者の資質にも問題があるということでしょうか。

 ベネシュ 大きな会社では世代間ギャップが大きいように感じます。ある会社に企業価値が間違いなく向上するM&Aの案件を持っていった際、その会社の担当の部長と時間をかけて資料作りをしました。部長もこのM&Aは必要不可欠だと信じていたのです。ところが私が役員会で説明するとNoという結論でした。部長は「えっ役員がノーと言った?信じられない」と怒っていました。

これを見て私は、日本企業の場合、部長世代は会社の将来を真剣に考えているが、役員は自分の任期だけを大過なく過ごせればよいと思っているのだ、と初めて理解しました。

  日本の取締役は能力が欠如している?

 ベネシュ 多くの日本企業の取締役は規律と知識が足りないと思います。コーポレートガバナンスが利かない分、規律が働きません。さらに、ほとんどが社内で特定の部門で育った人ばかりで、経営者としての知識が圧倒的に足りません。日本では「役員昇格」と言いますが、取締役の役割は事業部門の部長の仕事とはまったく違います。

「日本的ガバナンス」は存在しない

  ベネシュさんは会社役員育成機構(BDTI)を作られ代表理事に就任されています。役員の研修が事業の中心だそうですね。

 ベネシュ コーポレートガバナンスの概念の普及と役員研修が大きな2つの柱です。日本企業ではまだ、取締役に対する研修をほとんど行っていません。やっているところでも、新任役員に対して、弁護士が講師になって会社法の説明をする程度で、取締役の役割とは何かをきちんと理解させるような研修はまだまだです。

BDTIでは昨年一年間で、コーポレートガバナンス関連のセミナーを9回開催し、参加者はのべ527人にのぼりました。このほか、「国際ガバナンス塾」「グローバル・コンプライアンス研修」、英語版の国際ガバナンス塾「English Director Boot Camp」などを実施しています。

  コーポレートガバナンスの強化については日本でも昔から議論があります。しかし、経営者の多くは日本には日本流のやり方がある、と言って国際水準のコーポレートガバナンスを嫌ってきました。今でもその風潮は強いと思います。

 ベネシュ 「日本的」というものが本当に存在するのなら、具体的な概念を示して欲しいと思います。私も米国流の仕組みが一番良いなどと言うつもりはありません。米国でも欧州でもコーポレートガバナンスの仕組みはどんどん変えてきました。

もし、日本的ガバナンスというものが本当にあって、それが企業や社会の成長により大きく寄与するというのなら、世界の投資家や経営者が納得する定義を示して欲しいと思います。

それでも日本の政治家がコーポレートガバナンスの重要性に気づき、それが日本企業の収益性向上や経済成長にとって大事だと考え始めたのは素晴らしいことです。コーポレートガバナンスの在り方を規定するコーポレートガバナンス・コードを制定すべきだという議論が自民党の中から出てきたのも、日本が変わり始めたシグナルだと注目しています。

ニコラス・E・ベネシュ氏独立系M&Aアドバイザリー専業ブティック株式会社ジェイ・ティ・ピー代表取締役米国スタンフォード大学卒業後、米国カリフォルニア大学(UCLA)で法律博士号・経営学修士号を取得。旧J.P.モルガンに入り、11年間勤務した後独立。2009年に公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)を設立し代表理事に。日本在住は30年を超える。これまでにアルプス取締役、スキャンダル後のLDH(旧名ライブドア)、セシールなどの社外取締役を歴任した。現在、在日米国商工会議所(ACCJ)の成長戦略タスクフォース座長と人的資本タスクフォースの座長補佐を務める。