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2014-08-07

「日本の稼ぐ力を取り戻す」主役は企業 経営者のマインドが変わるかどうかが鍵

| 15:27

月刊エルネオスのコラム「生きてる経済解読」の8月号(8月1日発売)に掲載された記事です。編集部のご厚意で転載させていただきます。ぜひご一読ください。エルネオス→http://www.elneos.co.jp/


 安倍晋三内閣が六月二十四日に閣議決定した「日本再興戦略 改訂2014」。ちょうど一年前に策定した成長戦略の見直し版だが、今回はこれまでのどの内閣が作った成長戦略とも違う大きな特徴がある。「日本の稼ぐ力を取り戻す」というのが最大のキャッチフレーズだが、そこでいの一番に登場するのが「企業が変わる」という項目なのだ。「国を変える」という項目よりも先に登場する。

 成長戦略はいうまでもなく国の政策方針を示すものだから、国がどう変わるか、企業をどうサポートするかという視点で書かれるのが普通だろう。実際、これまでの成長戦略も、国として何をするかが書かれていた。規制緩和しかり、重点分野の育成を促す投資減税しかりである。それが、「企業が変わる」と真っ先に掲げている。

「外部の目」で取締役会を変える

 そんな政府視点が大きく変わった背景には、日本の「稼ぐ力」を本気で取り戻そうとすれば、企業自身に稼ぐ力を取り戻して儲けてもらうほかないという切羽詰まった事情がある。逆に言えば、それほど日本企業の稼ぐ力が落ちているということでもある。

 ではどうやって政府が企業を変えようとしているのだろうか。「改訂2014」では、「改革に向けての10の挑戦」を掲げているが、その一番目は、「コーポレートガバナンスの強化」である。取締役会や株主総会といった会社の仕組みや株主である機関投資家の役割を見直すことで、企業に稼ぐ力を取り戻させようというのだ。

 どういうことか。例えば、社外取締役の導入を促進して、企業の取締役会に「外部の目」を入れることを求めていく。その結果、取締役会で実質的な経営論議が起きることを期待するわけだ。従来のような社内出身の取締役ばかりでは、自分を取締役に取り立ててくれた社長に異を唱えることなどまずできない。

 外部の目が入ることで、理にかなわない決定はなかなかできなくなる。例えば、赤字が続いている不採算事業があるとしよう。もともと社長の出身母体がその事業だったりすると、社内出身者ではまず何も言えない。独立した外部の専門家なら、その事業をどうやって黒字化するのか、赤字から脱出できないならどうしてその事業を継続するのかと、当然のことながら問うことになる。ここで、きちんとした説明ができなければ、不採算事業を抱え続けるという結論にはできにくくなる。

 逆に、成長性の高い分野に集中投資する際も、各事業部門のバランスなどに配慮しがちな社内出身取締役よりも、大胆な意見を主張できるに違いない。従来は「空気を読んで」議論にならなかった取締役会を、実質的に経営の方向性を決める議論の場にさせようという狙いがあるのだ。

 では具体的にどうやって、政府は企業に変化を求めていくつもりなのか。

 改訂版には「コーポレートガバナンス・コード」の策定が盛り込まれた。これは、上場企業が目指すべき理想像、いわゆる「ベスト・プラクティス」を示す指針、ルールである。基本的にはコードに従うことを求められるが、企業の事情などで従うことができない場合には、その理由の説明が求められる。「コンプライ・オア・エクスプレイン」(従え、さもなくば説明せよ)と呼ばれるルールの仕組みで、欧州を中心に広がっている。これを日本にも本格的に導入しようというのである。

 会社法など法律でルールを示す場合には、逃げ道がないため、ルール自体が「最低限」を定めるものになりがちだ。すべての上場企業が従えるような基準になるわけである。ところが、コンプライ・オア・エクスプレインならば、説明さえきちんとすれば適用を除外される道があるため、ルール自体は厳しい「理想像」を掲げることができる。

 政府金融庁東京証券取引所に、そのコードの策定をする有識者会議の設置を求めており、来年六月の株主総会に間に合うようにコードを完成させよとしている。

 政府がそこまで企業のあり方に立ち入るのにはワケがある。日本企業の利益率が国際的にみて極端に小さくなっているのだ。企業が儲けることができなければ、当然、法人税収も増えないうえ、雇用も生まれず、従業員の給与も増えない。下請けにきちんとした対価を払うにも、最終製品を売る企業がきちんと儲けることが大事なのだ。

無駄な企業剰余金を許さない

 今回の改訂版にはこう書かれている。

「日本企業の『稼ぐ力』、すなわち中長期的な収益性・生産性を高め、その果実を広く国民(家計)に均てんさせるには何が必要か。まずは、コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準のROEの達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である」

 ここには、「グローバル水準のROEの達成」という言葉が出てくる。ROEとは株主資本(自己資本)を使ってどれだけの利益を生み出したかを見る指標で、株主資本利益率、自己資本利益率と呼ばれる。欧米の主要企業では一〇%を超えるのが当たり前だが、日本企業では五%に満たないところが少なくない。ざっくり言ってROEを最低でも二倍にすると言っているのである。ROEが二倍になれば株価は二倍になる。

 ROEを引き上げるには大きく分けて二つの方法がある。一つは分子である利益を増やすこと。不採算事業をやめ、儲かる部門に集中することで、利益を上げる戦略が考えられる。もう一つは分母である株主資本を小さくすること。抱えている余剰資金を使って市場から自社株を買い戻し、それを消却すれば資本は小さくなる。

 実は、米国で長期にわたって株価上昇が続いてきた背景には、この自社株消却の効果がかなりある。市場に出回る株の量が減れば、当然一株当たりの利益は増え、株価が上昇する。欧州でも自社株消却はかなり広がっている。日本では、企業が剰余金を貯め込んで投資に使わないことが問題視されてきた。ROEを掲げれば、そんな資本の無駄遣いは許されなくなる。

 問題は、企業経営者が「稼ぐ気」になるかどうかだ。企業自身が変わらなければ、日本の「稼ぐ力」はそう簡単には取り戻せない。