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2014-09-01

社外取拡充で「閑散役」絶滅の危機

| 16:41

月刊ファクタの9月号(8月20日発売)に掲載された原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201409041.html

安倍晋三内閣が6月24日に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略改訂2014」に盛り込んだ「コーポレートガバナンス・コード」の策定作業が始まった。金融庁東京証券取引所が共同で事務局を務める「有識者会議」が8月7日に発足、初会合を開いた。

メンバーは座長の池尾和人・慶応義塾大学教授のほか12人。経営者からは、経団連会長企業である東レから常務の内田章氏が加わったほか、無印良品の松井忠三会長がメンバーになった。機関投資家からは東京海上アセットマネジメントの大場昭義社長、ガバナンス問題の専門家からは冨山和彦・経営共創基盤社長や武井一浩弁護士らが加わった。

焦点は企業がもっと稼ぐよう経営者に圧力を加えるような「厳しい規定」が盛り込まれるかどうか。制定を求めた成長戦略には「持続的な企業価値向上のための自律的な対応を促すことを通じ、企業、投資家、ひいては経済全体にも寄与するものと考えられる」と書かれている。ガバナンス・コード制定で経営者に成長を促し、経済成長につなげようというわけだ。

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従来、上場企業の制度について会社法など定める場合、絶対に守らねばならない最低限の基準が盛り込まれた。ところが、今回制定作業が始まったガバナンス・コードでは、上場企業のあるべき姿、いわゆる「ベストプラクティス」を示し、そのうえで「Comply or Explain(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか)」を経営者に求めることになる。ハードルを低くすれば従来と変わらない「現状追認」になってしまうだけに、どれだけハードルを上げるかが焦点になるわけだ。

初会合では事務局が各国のガバナンス・コードの事例などを説明し、その後、自由討議を行った。ガバナンス問題に詳しい冨山氏などは、説明すれば適用を回避できるのだから、できるだけ厳しい規定にすべきだと主張していた。ルールを厳しくすれば経営者のフリーハンドを縛ることになるため、経団連などが今後どういう姿勢で臨むかが注目されている。初会合には内田氏も松井氏も欠席したため、スタンスは不明だ。

具体的な規定で焦点になりそうなのが社外取締役の導入促進。前国会で改正された会社法では、社外取締役の義務付けは見送られたが、導入が相当でない理由を株主総会で開示させることとなったため、多くの企業が社外取締役導入に動いた。社外取締役がいなかった東レも6月の総会で初めて1人を選任した。

成長戦略ではガバナンス・コードについて、「我が国企業の実情等にも沿い、国際的にも評価が得られるものとする」と書かれている。「実情に沿う」ものと、「国際的に評価」されるものにはかなりの開きがありそうだ。だが、日本の企業の多くも複数の社外取締役を置くケースが急速に増えている。一方で、欧米先進国では取締役に占める社外の割合は過半数が主流になりつつある。ガバナンス・コードに具体的な割合を盛り込むかどうかもまずは議論になりそうだが、もし人数を示すことになれば、最低ラインは「複数」になるだろう。

社外取締役「複数」設置をガバナンス・コードに盛り込むことにした場合、財界の声を代弁するであろう東レの内田氏がどんな姿勢を示すかは未知数だが、メンバーの多くは反対しないとみられる。

そんな中で、発言が注目されるメンバーがいる。太田順司・日本監査役協会会長である。監査役協会は、社外取締役の導入はガバナンス向上にとって基本的に有用だという姿勢だが、太田氏はかねて「設置義務化には課題もある」と発言してきた。太田氏は最後まで社外取締役導入に抵抗してきた新日鉄住金の出身。コードに複数設置を明記し、事実上義務化することに賛成しづらいのではないか、と周囲はみる。

実は、ほかにも監査役協会には社外取締役の複数導入にすんなり賛成できない理由がある。会社法に詳しい弁護士が語る。

「社外監査役複数に加えて社外取締役複数を置くと、よほどの大企業以外は財政的にも大きな負担になる。今回の法改正で導入された『監査等委員会設置会社』に雪崩を打って移行するのではないか」

監査等委員会設置会社とは、取締役会に社外取締役が過半数を占める監査委員会を設置する会社のこと。監査委員会に3人の取締役を充て、うち2人を社外取締役にすれば要件を満たす。監査役や監査役会を置く必要がなくなるのだ。

これまで監査役を置かずに済んだのは委員会設置会社だけだった。社外取締役が過半を占める「指名」「報酬」「監査」の三つの委員会を置く会社だ。欧米のコーポレートガバナンスの仕組みに近いが、なかなか普及していない。社長の任命権を社外出身者に握られることになりかねず、経営者の抵抗感が強いことが理由とみられてきた。つまり、日本の上場企業の大半は監査役を置く会社だったのだ。それが、監査等委員会設置会社に移るとなれば、監査役は激減することになる。監査役協会にとっては存亡の危機になりかねないのだ。

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かつて監査役は「閑散役」などと揶揄され、取締役になれなかった人が任命されるB級役員とみられていた。監査役にしてくれた社長に厳しいことなど直言できるはずはない、という見方も多かった。その後、監査役の機能強化を目指して何度も制度改正が行われてきた。3人以上置く監査役のうち過半数を社外にすることとされたほか、監査役の任期を4年にして、社長の意向で簡単にはクビにできないようにした。

多くの企業で取締役の任期を1年とし、毎年選任するスタイルが定着する中で、監査役だけが任期4年となったことで「身分保証」されたうえ、長期間にわたって内部監査を行えるようになった。日本独自の制度である監査役もようやく機能するようになった、という声も多い。そんな監査役制度をやめてしまっていいのか、という批判が現役の監査役の中には少なからずある。

監査役を廃止し、監査委員会に置き換えた場合、現在の監査役が横滑りして取締役になれるのかという点も、現役監査役たちの不安材料だ。社内出身者の場合、取締役と監査役の「格」の差は明らかにあると痛感している。経営幹部の多くも取締役と監査役にふさわしい人材は異なると語る。

つまり、社外取締役の拡充は監査役“絶滅”の危機なのだ。かと言って、長年ガバナンスの強化を主張してきた監査役協会が、厳しいガバナンス・コードの制定に反対するようなことはない、と信じたい。(経済ジャーナリスト