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磯山友幸のブログ RSSフィード Twitter

2014-09-05

地元の宝を世界に売り出す 「よそ者」副市長の挑戦 【兵庫県 養父市】

| 11:45

地域おこしに絶対必要なのは「よそ者」の視点です。そこに住む人たちにとっては「当たり前」の物事によそ者は価値を見出すことができます。国家戦略特区に指定された兵庫県養父(やぶ)氏にも、そんな「よそ者」がいました。ウェッジ「地域おこしのキーワード」掲載記事です。オリジナルページ→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4081


「やってもらいたい棚田があるんだが、一度見に来てもらえないか」。

 兵庫県養父(やぶ)市の副市長を務める三野昌二さん(58)の携帯に、農業委員を務める地元の農家から電話が入った。昨年2月に広瀬栄市長に口説かれて副市長を引き受けたころは、「よそ者が何をやるのか」と見られてきたが、三野さんの改革に少しずつ理解を示す人の輪が広がっている。

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 三野さんは大手旅行会社を振り出しに、リゾートホテルゴルフ場の立ち上げやレストランの経営管理などを手掛け、長崎のテーマパーク「ハウステンボス」の再生にも関与した。

 そんな経歴を改革派市長に買われ、養父市が100%出資する地域おこし会社「やぶパートナーズ」の代表取締役も兼ねる。

 養父市へは京都から特急で2時間、もう少しで日本海側に抜ける中山間地に広がる。人口は約2万6000人だが、ご多分に漏れず高齢化と人口減少が止まらない。市域の84%が山林で、谷筋に沿って山の奥まで小規模な棚田が広がるが、そんな中山間地でのコメ作りは大型機械も入らず重労働のため、年を追うごとに休耕田や耕作放棄地が増えている。日本の農業が直面する「限界」が見える典型的な中山間地農業地帯だ。

 「歳とって耕作できない人が毎年増えている。この美しい風景もあと数年かもしれません」

 市の中心部から30分ほど山を登った別宮(べっくう)地区にある、田植えが終わった棚田を前に西谷弘之さん(71)はつぶやいた。

スキー場で民宿を営むかたわら、京都伏見杜氏だった経験を生かして「どぶろく特区」の認定を受け、酒造りに取り組む。棚田では酒米作りをしている。そんな西谷さんも、棚田はそろそろ終わりかと焦り始めていた。

 そこにやってきたのが三野さんだった。何とか棚田を維持できないか。三野さんは様々なアイデアを実行に移していった。

 1つが「棚田オーナー制度」。都会の企業が資金を出して「オーナー」になってもらい、そこでできたコメは、その企業に贈答用などとして使ってもらう。全国の中山間地で試みられている制度を、養父にも導入したのだ。企業の出資額は1アール(10メートル×10メートル)あたり4万8000円。45キロの玄米を収穫できる。農家には農協に販売した場合に比べて2倍の価格を支払うから、実入りは大きい。生産効率が低い棚田でも維持できるというわけだ。初年度2ヘクタールから始めたが好評で、徐々に拡大していく計画だ。

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 もう1つが「休耕田復活事業」。休耕田になっているところをやぶパートナーズが農家から借り受け、同社が雇った若者が耕作する。水田だけでは給料が出ないので、やぶパートナーズが道の駅で経営するコンビニエンスストアでも働く。建屋(たきのや)地区の休耕田を任されている阿部博史さん(23)は茨城県取手市から奥さんと2人で移り住んだ。一歩一歩だが雇用を生み、住民を増やす手ごたえを感じている。「耕作地を休耕田のままにしておくと、水田として復活できなくなる。新しい農業の担い手を増やすためにも、田んぼを復活しておくことが不可欠だ」と三野さんは語る。

よそ者、若者、馬鹿者

 もちろん、コメなどの農産物をそのまま売っていては経済的に成り立たない。今はやりの6次産業化にも取り組んでいる。三野さんが注目するのは地域のおかあちゃんたち。地元をもり立てようという意欲が強い。

 取材に伺った6月中旬には小佐(おさ)地区の廃校になった小学校で地元のおかあちゃんたちが、料理の腕をふるう「おさごはんの会」が開かれていた。赤米のおにぎり、もろみ味噌ときゅうり、鶏のから揚げ、漬物、栃餅、コメで作ったポン菓子。地元のひとたちが金券片手に思い思いのコーナーで料理と引き換えていく。

 「昔から作ってきた美味しいものは、いっぱいある。それをもう一度掘り起こそうと思ってね」と森本佐智子さん(66)。創作料理の開発にも熱心に取り組む。そんな取り組みからヒット商品が生まれれば地域おこしにつながる、という思いからだ。

 次は、養父市の名所である名草神社で「ごはんの会」を開く計画だという。名草神社は市内の妙見山の山中にあり、1665年に出雲大社から移築された国の重要文化財三重塔が建つ。出雲大社の大改修にあたって妙見杉を提供したお礼として贈られたものだという。境内には樹齢250年から400年とされる妙見杉の巨木が立ち並ぶ。道が険しく観光客は多くないが、知る人ぞ知るパワースポットだ。この地元の宝と、地元ならではの味を組み合わせて売り出そうというわけだ。

 他にも養父には、蛇紋岩米や但馬牛、八鹿豚、朝倉山椒、八鹿浅黄といったブランドの産物がある。それを使ってどう高付加価値商品を作っていくか。

 三野氏が注目しているのが朝倉山椒だ。これを生かした商品を作れないかと頭をひねる。定番の佃煮ではなく、「山椒ジェノベーゼ」という新商品も生まれた。オイル漬けの山椒ハーブパスタにからめるだけの瓶詰めソースだ。山椒は香辛料として世界的にもブームになりつつある。やぶパートナーズが山椒農家から高めの値段で買い取って乾燥加工し、世界に向けて輸出することを考えている。


 街おこしには「よそ者、若者、馬鹿者」の視点が不可欠だと言われる。地元に長年暮らした人にとっては、ごくごく当たり前の物事が、よそ者には感動を与え、ファンができる。地域の魅力を発掘する役割を「よそ者」の副市長に任せたのは英断だ。

 養父は今年3月、安倍内閣から「国家戦略特区」に指定された。全国各地で限界に直面する中山間地農業の改革モデルという位置づけだ。

 メディアでは農業委員会と市長の対立ばかりに焦点が当たっていたが、「このままでは沈んでしまう」という危機感は市民が共有する。やぶパートナーズと一緒にやろうという動きが急速に広まっているのも、そんな危機感が背景にある。