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2014-12-26

現代ビジネス・磯山友幸「経済ニュースの裏側」 2014年「いいね!」ランキング

15:19

今年もお世話になりありがとうございました。私が現代ビジネスの「経済ニュースの裏側」に書いた原稿で、2014年にFBの「いいね!」をたくさんいただいた記事をランキングしてみました。「いいね!」の理由は様々だと推測されますが、是非、読み返してみていただきたいと存じます。

1、公務員ボーナス2ケタ増! 世界有数の赤字組織がアベノミクスの恩恵享受、おかしくないか

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41299 

2、「18歳から選挙権を!」安倍首相夫人と「ACT18」共同発起人を務める高校生の思い

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39918 

3、秋葉原で「アイドル書店」をオープンした取次ぎ大手「日販」が狙う「書店ネットワークの潜在力」活用

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38490 

4、20ヵ月連続で貿易赤字。もはや「円安で製造業復活」は幻想だ

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38789 

5、倒産件数減少を、「アベノミクスの効果」というのはおかしくないか

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41468

6、農業特区・養父市と組んだ「改革派農家」岡本重明が語る「日本農業再生の秘策」

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38978

7、自民党の「日本再生ビジョン」がメスを入れた日本の成長阻害要因とは?

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39385

8、「ゆりあげ朝市」は「民」の力で震災前の1.5倍の売り上げになった!成功の秘密を、櫻井広行理事長に聞いた

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39144

9、ハイヤー配車の米ベンチャー「Uber」は、日本のタクシー業界の「サービスの黒船」となる

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38566

10、年間444億円の保険を売った日本一のセールス・レディ柴田和子さんの「成功哲学」

   http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39323

2014-12-25

業界なれ合いの政治資金監査 弁護士も税理士も「監査人」

16:59

エコノミストの弁護士会計士特集に書いた原稿です。是非ご一読ください。


 政治とカネの問題が再びクローズアップされている。小渕優子衆議院議員の関連政治団体「小渕優子後援会」の政治資金収支報告書では、観劇会の会費収入と劇場に支払った支出に巨額の差異があることが発覚。小渕氏は経財産業相を辞任に追い込まれ、東京地検特捜部の捜査が入った。誰でもわかるような収支の齟齬をなぜ見逃していたのか。経理の分かる専門家はいなかったのか。

 実は、政治資金収支報告書には“プロ”による「監査」が義務付けられている。届けられている報告書には「政治資金監査報告書」が添付され、「登録政治資金監査人」の署名捺印が付されている。

 上場企業は公認会計士や監査法人による監査が義務付けられているが、政治資金の場合、会計士の他に税理士や弁護士もこの「監査人」として登録できる。小渕優子後援会もAという税理士が署名捺印している。プロがチェックし、ハンコまで押しているのに、どうしてひと目で分かるような齟齬がまかり通ったのか。

 「あれは監査なんて代物ではない」と、日本公認会計士協会の役員も務めた大物会計士は言う。報告書に書かれている支出の領収書があるかどうかを突き合わせるのが主な仕事で、収支がその団体の活動実態を正確に示しているかどうかや、支出内容が適正かどうかといった判断をするのは「登録監査人」の責任ではないのだという。「中学生でもできるような代物」と吐き捨てる。

 ではなぜ、そんな緩い「監査」がまかり通っているのか。背景には会計士と税理士、弁護士が仕事を分かち合うなれ合いの構図が潜む。上場企業並みの厳しい監査を義務付ければ、当然、その仕事は会計士しかできなくなる。会計士が仕事を独占するのは許せぬとばかり、税理士や弁護士が反対するのだ。逆に、税理士にきちんとした監査をやらせるような制度にすればよいのだが、そうなると上場企業の監査を独占している会計士業界の領域を侵されかねない。「監査のようで監査でない」中途半端な領域を作って仲良く仕事を分け合うのがお互いの業界の平和のだめだ、というわけである。

 世の中で情報公開や説明責任が重要性を増す中で、監査に対する社会のニーズはどんどん高まっている。そんな新しい「監査」領域を、業界が仲良く分け合っている結果、中途半端な領域はどんどん拡大している。

役人OBも外部監査人

 政治団体だけでなく、地方公共団体の「外部監査」でも同じことが起きている。会計士のほかに、税理士や弁護士、「公務精通者」が外部監査人になれるのだ。公務精通者とは、要するに役人OBである。

 今、存在意義が問い直されているJA全中全国農業協同組合中央会)が持つ独自の制度も、長年にわたる「すみ分け」の結果だ。農協の「監査」は監査法人や会計士ではなく、「農業協同組合監査士」が行っている。それを会計士協会は「似非監査制度だ」と批判するが、実はこの制度を統括する役割を担うJA全中の監査委員長は、大手監査法人の理事長OBの指定席になっている。つまり、会計士業界自身が、「監査であって監査でない」中途半端な存在を許してきたわけだ。

 そうした中途半端な制度が機能しない最大の理由は、独立性が薄くなりがちなことにある。「第三者」がチェックすることによる独立性の確保は、監査制度の要諦である。政治資金監査報告書にもこんな一節が書かれている。「私(監査人)の責任は、外部性を有する第三者として(中略)監査を行った結果を報告することにある。」

 前出の小渕氏が代表を務める別の政治団体「未来産業研究会」は親族の店への支出などが不適切だと指弾されたが、実はその収支報告書の登録監査人もA税理士だった。しかも、関東信越税理士政治連盟の「税理士による国会議員等後援会名簿」によると、A税理士は小渕優子氏の後援会幹事長も務めている。税理士が作る小渕応援団の中心人物が果たして第三者なのかどうか。

 会計士も税理士も、社会のためにやるべきことはまだまだたくさんある。

2014-12-24

アベノミクスの成果はあったか。今年の10大ニュースで検証する

| 17:25

アベノミクス」もそろそろ2年がたちます。安倍首相が強調するほど成果が出ているのか、今後も期待はできるのか。来年は、その評価が定まる年になるのではないでそうか。2014年最後の現代ビジネス原稿がアップされました。オリジナル→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41529


2014年も「経済」に多くの関心が集まった年だった。アベノミクスで景気は良くなるのか。日々の生活は改善するのか。株価は上昇するか。年金など社会保障の将来は大丈夫かーー。そんな疑問や不安を持って安倍晋三首相政権運営を見守って来た人も多いに違いない。

安倍首相が「アベノミクスを問う選挙」と位置付けた12月の解散総選挙では、与党が議席の3分の2を獲得したものの、投票率は戦後最低となった。

アベノミクス十大ニュース

アベノミクスに代わる経済政策を打ち出せなかった民主党があまり議席を伸ばせず、アベノミクスに一貫して反対してきた共産党が躍進した。選挙結果は、アベノミクスは消極的賛成を得たに過ぎないと言ってもよいだろう。それほどにアベノミクスの具体的な成果が国民の目に見えていないということだろう。

いったい今後、アベノミクスによってどんな変化が起き、経済はどう動いていくのか。それを占うために、私が選んだ2014年1年間の「アベノミクス十大ニュース」を振り返り、検証してみることにしよう。

アベノミクス十大ニュース

1 成長戦略に「コーポレートガバナンス強化」を明記

2 法人税率の20%台への引き下げ方針を決定

3 「JPX日経インデックス400」の先物上場

4 スチュワードシップコードを制定

5 コーポレートガバナンス・コードの策定

6 国家戦略特区を指定

7 GPIFポートフォリオ見直し

8 女性力の活用訴え

9 農協改革

10 消費税率再引き上げの見送り

6月24日に閣議決定された成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」には、注目すべきいくつかの政策が盛り込まれた。1年前に成長戦略「日本再興戦略」を閣議決定した際に比べて、内外の評価は高かった。

もっとも画期的だったのが、「日本の稼ぐ力を取り戻す」として、真っ先に「コーポレートガバナンスの強化」を上げたことだろう。日本企業が稼ぐ力を取り戻すことで日本経済全体の成長力を取り戻そうという発想だ。従来の成長戦略は。国が見定めた戦略分野に補助金を付けるなど、「国が企業に何をするか」が中心の議論だったが、今回は、まずは企業自身に変化を求めることで、国自体も変わっていこうという志向に転換したのである。

コーポレートガバナンスで企業経営に緊張感を持たせることで、経営者自身が低採算の事業を見直し、収益性の高い事業へ集中していくことを促している。従来のガバナンス論は、不正防止や経営者の暴走阻止に重点を置いて語られることが多かったが、むしろ企業がより儲けるために経営者の背中を押す仕組みとしてガバナンスの重要性が語られるようになった。

法人税減税

1つの柱である社外取締役の導入についても、外部からの不正に対するチェック役を期待するという視点から、戦略的な経営判断に外部の知見を入れるという視点へと大きく変わりつつある。

国の成長戦略の中にROE(株主資本利益率)という言葉が書き込まれたのも画期的なことだろう。

ガバナンスの強化で、企業経営者に厳しさを求める一方で、経営者が求めてきた法人税減税にも大きく踏み込んだ。閣議決定した成長戦略の中に、「数年で法人実効税率を 20%台まで引き下げることを目指す。この引下げは、来年度から開始する」と明示したことで、財務省が強く抵抗してきた法人税率の引き下げが実現に向けて動き出すこととなった。法人税の実効税率は現在35%で、これを最低で29%まで下げるとすると、6%ポイントの引き下げが必要になる。初年度の引き下げ幅をどのくらいにするのか、政府与党は年内にも固める方針だ。

ROEの高さを目指す

企業に変化を促す効果が大きそうなのは東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が2014年1月から算出を始めた「JPX日経インデックス400(JPX400)」という新しい株価指数だ。

ROEの高さなど経営指標をベースに400社が選ばれ、毎年夏に入れ替えが行われる。国際的に通用するグローバル企業というのが選定の謳い文句だけに、経営者の間で、何とかこの指数に選ばれようという動きが強まった。つまり、ROEの向上などを目指す経営者が増えたのだ。

指数の構成銘柄として選ばれる意味はほかにもある。インデックスを使った投資信託などが設定されるようになり、指数構成銘柄への買いニーズが一気に高まったのだ。つまり、インデックスに採用されると自社の株式売買が増えるという副次効果が出始めたわけだ。さらに11月末に新指数の先物上場され、人気を博していることから、先物取引に関連した現物の売り買いも増えている。

これまで日本を代表する指数は日経平均株価だったが、日経平均株価の時価総額が大きい企業が主として選ばれる。好業績企業を集めたJPX400が人気を博すのはある意味当然ともいえる。今後、日本を代表する株価指数になっていくだろう。この指数や指数先物の導入も、成長戦略で求められていたもので、アベノミクスの柱のひとつと言うことができる。

スチュワードシップコード

そうした企業の変化を外部から促す仕組みとして導入されたのが、スチュワードシップコードだ。企業の株式を持つ金融機関など「機関投資家」が、株主としてどう行動するかを示したもので、昨年の成長戦略を受けて今年2月に策定された。ほとんどの機関投資家がこのコードの受け入れを表明。株主として適正に行動することを宣言した。

例えば従来は、生命保険会社が保険契約を取るためや関係維持のために、企業の株式を取得し、株主権の行使を適正に行っていなかったようなケースもみられた。今後は保険契約者の利益を最大化する視点で株主権の行使が迫られるようになる。つまり、一種の株式持ち合いで、経営者に白紙委任状を渡すような行動はとれなくなるわけである。

来年に向けて策定が急がれているのがコーポレートガバナンス・コード。日本企業の「あるべき姿」を示し、遵守できない場合にはその理由を記載することになる。会社法などでは絶対的に遵守する線がルールになるため、最低水準が決められるが、あるべき姿では理想像を示すことが可能。懸案の独立社外取締役についても2人以上の設置が、「あるべき姿」として明記され、3分の1以上を社外取締役としようとする企業も、その方針などを明記するようコードに記載された。

来年の株主総会からこのコードの遵守が求められる見通しで、日本企業の経営体制のあり方が大きく変わるきっかけになりそうだ。

企業の間で、ダイバーシティ(多様性)を追及する動きも強まっている。多様性が企業の収益性を高めるという分析はほぼ定着している。安倍首相が就任以来繰り返し主張してきた女性力の活用も、企業内に急速に広がっている。女性幹部の登用に踏み切る企業が相次いでいるのだ。これもアベノミクスの効果と言っていいだろう。

企業が変わった後、国はどう変わるか。企業活動の自由度を増すためには規制改革が不可欠になる。特に医療や農業、労働分野は、安倍首相が言う「岩盤規制」として自由度を著しく縛っている。

農協改革がアベノミクスのバロメーター

安倍首相はこれら岩盤規制に穴をあけるために「国家戦略特区」を指定し、その中で規制を大胆に見直すとした。3月には具体的な特区地域が指定された。農業分野では新潟市兵庫県養父市、医療など複合的な国際都市としての基盤整備として大阪を中心とする関西圏東京圏、ベンチャー育成など労働分野の規制改革拠点として福岡市、観光拠点として沖縄県の6つが「国家戦略特区」に指定された。

今後は、それぞれの地域で、どれぐらい具体的な規制突破の成功例が出てくるかどうかがカギだろう。さらに、地方創生などを目指して、特区の拡充にも取り組む姿勢を見せている。

農協改革は岩盤規制の象徴的な存在。JA全中の実質的な解体がどこまでできるか。今後のアベノミクスの改革度合を測るバロメーターになる。

もっとも、夏ごろからアベノミクスの効果に対する批判的な見方が広がった。4月に消費税率を5%から8%に引き上げた影響がジワジワと出始めたことも大きい。夏以降の消費が盛り上がらず、このままでは景気が失速する可能性も出ていた。

そんな中で、安倍首相が取り組んだのがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産のポートフォリオ見直しである。これまで国債中心だった運用を株式などに大きくシフトさせる決断を下した。デフレからインフレ経済体制が変わるとみれば、債券から株式へのシフトは合理的だが、一方で、大幅なポートフォリオの組み替えを一気に行ったことから、株式相場の上昇に結び付いたという見方も出ていた。

さらに、安倍首相自身が消費税率の再引き上げを2015年10月から2017年4月に延期する方針を決断。野党からは「アベノミクスの失敗を糊塗するための決断だ」という批判を浴びた。増税延期が、今後、日本の景気にどんな影響を与えるかは、今のところまだ見えていない。

年明け以降も、アベノミクスの行方に人々の関心を集まるだろう。第1の矢の大胆な金融緩和や、第2の矢の機動的な財政出動は、即効性のあるカンフル剤だ。その効果が持続している間に、第3の矢である構造改革、規制改革を実行しなければ、本当の経済成長には結びついていかない。どれだけ第3の矢で成果を出すことができるのか。3年目を迎えるアベノミクスの真価が問われることになる。

2014-12-19

たとえ危険でも、老朽原発を再稼働させようとするワケ  「新しい原発の方がより安全なのは当たり前」だが…

| 14:32

私は根っからの原発廃止論者というわけではありません。しかし、運転開始から40年もたった老朽原発を動かそうとする一部の原発推進派の人たちの動きには強い違和感を覚えます。取材している経済産業省の幹部の中にも、同様に疑問視している人たちが少なからずいます。安全よりも経済性を優先することはしない、というのが今だに悪戦苦闘が続く福島の教訓だったはずです。日経ビジネスオンラインに書いた原稿です。→ http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141218/275308/


関西電力が12月16日、福井県高浜町にある高浜原子力発電所の1、2号機で進めている「特別点検」の様子を報道陣に公開したというニュースが流れた。原子炉内の溶接部分を遠隔操作のロボットで調べたり、格納容器の壁の塗装の状態を作業員が目視で点検したりする様子などを記者に見せたそうだ。

 原子炉建屋のコンクリート壁を深さ5センチほどくりぬいて、中の鉄筋に異常がないことも強調したらしい。狙いはもちろん、40年経った同原発の1号機が、稼働には何の支障もないことを世の中にアピールするためである。

 関西電力は11月末、運転開始から40年が経った高浜1号機と、来年で40年になる高浜2号機について、20年の運転延長を目指す方針を発表した。2015年春にも原子力規制委員会に再稼働の審査を申請する意向で、そのために必要な手続きとして、特別点検を実施したのだ。特別点検の結果を受けて、原子力規制委員会が認めれば、1回に限って最長20年間、運転を延長できるとしている。

 なぜ、運転開始から40年を経た老朽原発を稼働させようとするのだろうか。

 日本経済新聞によると、関西電力の八木誠社長は11月26日に開いた記者会見で、「高浜1、2号機はほかの電源より競争力がある」と運転延長に踏み切る理由を説明した、という。稼働年数が長い原発の方が、新しい原発に比べて減価償却が進んでいる。

 つまり、古い原発の方が財務上、発電コストが低くなるため、利益を多くあげられるというわけだ。2012年3月期以降2014年3月期まで赤字が続いている関西電力からすれば、赤字脱却のためには儲かる原発を優先的に動かしたいと考えるのは、ある意味当然だろう。

 だが、この論理は、安倍晋三首相が掲げる政策と相入れるのだろうか。

 安倍首相原発について、安全が確認されたものは再稼働すると繰り返し述べているが、一方で、「原子力規制委員会が世界で最も厳しいレベルの規制基準で徹底的な検査を行う」とし、その検査に適合すると認められなければ稼働しないとも言っている。

安全性は経済性に勝る

 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓は、経済性を優先して安全性が疎かになるような事は許されない、という事だ。再稼働を進めるのは、世界で最も厳しいレベルの規制基準に照らして安全といえる原子炉に限るべきなのは言うまでもない。

 原子力規制委員会が行っている再稼働に向けた安全審査では、立地や災害への備えにばかり関心が向いているように見える。原発の下に活断層があるかどうかや、それが動く可能性があるかどうか。巨大な津波が来た場合に原子炉を守れるだけの堤防の高さがあるかどうか。火山の噴火で被害を受けるリスクはないかどうか。そうした立地上のリスクが検証されるのはもちろん必要なことだ。特に、福島第一の悲劇を経験した後だから、「2度あることは3度ある」という視点に立つことも必要だ。

 だが、もう1つ、大きなリスクがある。老朽化である。人間が作ったものである以上、いつかは古くなり、朽ちていく。老朽化が事故に結び付く可能性は十分にあるのだ。

 1990年代以前に建てられて第2世代と言われる原子炉は、当初は設計寿命が40年とされていた。実際にはメンテナンスや修理などによって運用寿命を延ばすことが可能だとされているが、設計上はあくまで40年だったのである。民主党政権時代に「40年で廃炉」という基本原則が作られたが、その背景にはこうした設計寿命の問題があった。

原子炉も進歩している

 その後、2000年以降に作られる第3世代と呼ばれる原子炉は当初設計で60年の寿命とされている。通常の科学技術と同様に、原子炉も進歩しているのだ。資源エネルギー庁の幹部を務めたOBは、「1970年代に日本に作られた原発と、90年代の原発は設計思想から異なり、安全性は劇的に高まっている」と言う。

 このOB氏は当然、原発再稼働推進派だが、自信を持って安全だと言える新型の原発を中心に稼働させればよいと考えているようだ。

 経済産業省の現役幹部も、「新しい原発の方がより安全なのは当たり前だ」と語る。その理屈から言えば、まずは運転開始から一定年数を経たものは廃炉と決め、比較的新しい原発の中で、より安全性の高いものを選んでいくというのが常識的な判断方法ではないか。

 次の表は、原発原子炉ごとに運転開始年代順に並べたものだ。青色で示した原子炉がすでに運転停止しているものだ。


 1966年の東海原発1号機は1998年に運転停止になった。また、2009年には中部電力の浜岡原発1号機と2号機が、耐震補強工事の費用がリプレースするよりも大きくなるという理由などで、中部電力自身が廃炉を決定、運転を休止した。2036年度に廃炉解体を完了する予定になっている。福島第一の1号機から4号機までは、周知の通り、事故によって破壊されており、廃炉作業を進めている最中だ。

 表を見てお分かりの通り、運転から40年前後の原子炉に、廃炉に着手されているものが多い。一方で、各電力会社が運転再開に向けて、原子力規制委員会に審査を申請しているのが黄色で示した原子炉だ。

 最も早期に再稼働されると見られている鹿児島県の九州電力川内原発1、2号機は1984年と1985年に運転開始された原子炉だ。そのほか、申請されているものは、川内原発よりも新しい原発である。比較的新しい原発に再稼働申請が多いのは、ある意味当然の成り行きなのだ。

 1970年代以前に建設された原子炉はどうなるのか。関西電力が打ち出した高浜1、2号機の60年への稼働延長方針は、廃炉が不可避と見られていた他の原子炉を復活させることになる。政府が60年稼働にゴーサインを出したとなれば、他の電力会社も追随することになるだろう。減価償却のほぼ終わった原発を動かせば、一気に収益が改善するのは明らかだからだ。

 70年代の原発も世界最高レベルの安全性は確保されている、と強弁することは可能だろう。だが、90年代の原発に比べれば安全性が劣るであろうことは、容易に想像がつく。20年間技術の進歩がなかったはずがないからだ。もちろん、現在の技術で修繕すれば大丈夫という理屈も成り立つ。だが、それでも新品の最新鋭の方がより安全に違いない。

経営者には決断できない

 つまり、老朽化した原発を動かすのは、最新鋭の原発を動かすよりもリスクが高い可能性が大きいのである。

 安全第一で再稼働を進めると言うのなら、政府は真っ先に廃炉にする原子炉を決めて公表すべきだろう。収益を考えなければならない電力会社に自ら廃炉の決断をさせるのは無理だ。事業者が廃炉を公言すれば、減価償却が終わっていない分について一括で損失処理などが求められるケースもある。また、具体的に廃炉の作業に入るとなれば、膨大な時間と費用がかかる。そんな業績の足を引っ張る決断をしたくないというのが経営者の心理である。

 自民党の一部には、「廃炉庁」を作って政府主導で廃炉作業を進めるべきだという意見もある。だが、政府がその費用を負担するとなれば、財政問題に火が付きかねず、大きな声にならない。

 だが、問題を先送りし、老朽化した原発をなし崩し的に再稼働させるようなことがあれば、結局は安全を犠牲にしたと、いずれ批判されることになりかねない。

2014-12-18

落第点「コーポレートガバナンス・コード」で株価急落か

| 15:39

安倍晋三内閣が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」の柱だったコーポレート・ガバナンスの強化が、「骨抜き」で決着しそうな気配だ。成長戦略を受けて、日本企業の「ベスト・プラクティス(あるべき姿)」を指し示す「コーポレートガバナンス・コード」の策定作業が大詰めを迎えているが、経団連などの強い反対で、理想像と言うには恥ずかしい現状追認のコードが出来上がりそう。ガバナンス強化で企業経営に緊張感を与えることで日本企業に「稼ぐ力」を取り戻させようとした安倍内閣の取り組みには、海外の機関投資家などから期待が寄せられていた。だが、このままでは彼らに大きな失望を与えることになる。日経平均株価で1万7000円を超えた日本の株価の行方にも影響を与えそうだ。 注目された「社外取締役」の割合 11月25日、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が金融庁内で開かれた。8月の初会合以来、7回目となった会議には、事務局を務める金融庁から、コードの「たたき台」が示された。6回目の会合で示された「たたき台」に会議メンバーの意見などを加えたもので、この日の会議を踏まえて原案がまとめられる段取りだ…

以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)→http://www.fsight.jp/30887

2014-12-17

倒産件数減少を、「アベノミクスの効果」というのはおかしくないか

| 11:57

安倍首相倒産減少をアベノミクスの成果だと言いますが、そもそもアベノミクスが追求していたのは廃業率の引き上げ、つまり倒産増加だったのではないでしょうか。現代ビジネスに書いた原稿です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41468

東京商工リサーチが発表した11月の全国企業倒産件数は736件と、11月としては24年ぶりに800件を下回った。1年前の2013年11月は826件だったので、14.6%も減ったことになる。

銀行の支援で生き延びる企業が増えただけ

24年前といえば1990年。まさにバブルの絶頂期だった頃である。好景気によって企業収益が上がり、倒産する企業がどんどん減った。では、今回の倒産減少もアベノミクスによって景気が回復した結果なのか。バブル期を上回るほど、経済環境は好転しているというのだろうか。

倒産件数は24年間で最低です」

民主党政権時代よりも2割、倒産を減らしました」

12月14日に投開票が行われた衆議院選挙の遊説中、安倍晋三首相はこう繰り返した。つまり、倒産件数が減ったのは、自らが主導してきたアベノミクスの効果だというのである。アベノミクスによって「行き過ぎた円高」が是正されたことから、企業業績が好転。その結果として倒産が減ったというわけである。

だが、現実は少し違うようだ。アベノミクスによってデフレから脱却しつつあることで、企業業績が好転しているのは確かだ。輸出型企業も円安によって大幅に利益を増やしている。確かに、アベノミクスによって倒産の危機を免れた企業もあるに違いない。しかし、東京商工リサーチは、倒産件数が減少した理由として次のように分析している。

「金融機関が中小企業のリスケ要請に応じていることや、景気対策として実施された公共事業の前倒し発注などが抑制効果を高めた」

つまり、倒産が少なかったのは、企業に貸し込んでいる銀行などが、支払いの期日や金額などの見直し、いわゆるリスケに応じていることが大きいと見ているのである。本来なら倒産してもおかしくない企業を金融機関が支えているというわけだ。地域の金融機関がそんな事ができるのは金融緩和の結果、潤沢な資金が市場に供給されているからで、その意味ではアベノミクスの効果と言うこともできるかもしれない。

だが、本来ならば市場原理で淘汰されるべき企業が、銀行の支援で生き残ることで、いわゆるゾンビ企業が増え続けているという指摘もある。

アベノミクス以前から倒産は減り続けている

現在の倒産件数の激減が、アベノミクスの結果ではないと言える、もう1つの理由は、民主党からの政権交代で、倒産件数のトレンドが変わったわけではないことだ。民主党が政権を握っている間も、倒産件数は減り続けてきた。

企業の倒産件数はリーマンショック後の2009年3月に1537件とピークを付けたのち、減少を続けてきた。民主党政権が発足した直後の2009年9月に1155件と1200件を割り込んだあと、東日本大震災前の2011年2月には987件と1000件の大台を下回った。民主党が政権を手放した2012年12月は890件だったから、単純に計算すると民主党政権期間中に倒産件数は23%も減ったことになる。

リーマンショック後に猛烈な円高となり、電機メーカーなどが軒並み赤字に転落する中で、なぜ倒産件数は減少したのか。

民主党政権下で金融担当相に就いた亀井静香国民新党代表(当時)が導入した中小企業金融円滑化法の効果だった。「亀井モラトリアム法」と呼ばれた中小企業救済策だ。

中小企業などが求めた場合、金融機関はできる限り貸付条件の変更に応じるようにと定めた法律で、実質的に破綻状態にあった企業まで資金繰りを助ける結果となり、目に見えて倒産件数は減少した。

当初はリーマン・ショックに対応するための緊急措置ということで導入されたが、東日本大震災もあって2度にわたって延長され、結局、廃止されたのは安倍政権になった後の2013年3月末だった。

亀井モラトリアム法

2009年12月の法律施行から2013年3月末の廃止までの間に、条件変更が行われた融資の件数はのべ401万9733件。見直し対象になった融資金額は111兆7424億円にのぼった。

アベノミクスを打ち出した安倍政権は、潰れるべき企業を潰さない「亀井モラトリアム」に当初は批判的だった。安倍首相の肝煎りで発足した産業競争力会議では民間議員から、ゾンビ企業を作らず、新陳代謝を促進することが重要だという意見が出された。

本来なら倒産して市場から退出すべき企業を無理やり支えて生き残らせると、市場で過当な価格競争を繰り広げるため、本来は勝ち組だったはずの優良企業の足を引っ張ることになる。つまり死者が生者を食っていく「ゾンビ化」が進行してしまう。それを避けるには、負け組企業をきちんと退出させることが不可欠だというのである。

日本では倒産する企業が少ない分、新規に開業する企業も少ない。古い企業が市場に残っているため、新規参入が起きないのである。これが、日本市場全体の生産性の低さに結びついている、としたのだ。

安倍内閣は2013年6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」の中で、「中小企業・小規模事業者の新陳代謝の促進」という一文が盛り込まれた。そこには、「開業率・廃業率が米国英国レベル(10%台)になることを目指す」という数値目標まで示された。日本では開業率も廃業率も5%程度なので、10%という目標は、倒産件数や企業件数を倍増させることを意味していた。

ところがである。安倍内閣の方針にもかかわらず、「亀井モラトリアム法」が廃止された2013年4月以降も倒産件数が減り続けたのである。

法律廃止前後に金融庁中小企業庁などと中小企業向けに配布したチラシには、こう書かれていた。

「円滑化法の終了後も、円滑化法と同等の内容を法律(地域経済活性化支援機構法)や監督指針・検査マニュアルに明記し、金融機関が法の終了前と変わらず貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めます」

新陳代謝より、企業のゾンビ化

つまり、法律が廃止されても、廃止前同様に融資条件の見直しなどを金融機関に行わせる方針を示したのである。そこにアベノミクスの1本目の矢である大胆な金融緩和による資金供給が加わり、ゾンビ企業にもどんどん資金が流れる結果となった。

さらにアベノミクスの2本目の矢である機動的な財政出動によって積み増された公共事業によって、地方企業に仕事が回ったこともあり、倒産件数が一気に減少したのである。

新陳代謝という言葉が新聞に踊った2013年の夏にはいったん倒産件数が1000件を超える月もあったが、その後は800件台が定着。2014年8月には727件にまで減少したのである。安倍政権発足時の2012年12月の890件と比べれば18.3%の減少である。これをもって安倍首相民主党政権時代よりも2割減らした、と主張したわけである。

選挙戦のためとはいえ、安倍首相の主張には矛盾がある。アベノミクスで目指してきたのは新陳代謝だったはずなのに、いつの間にか倒産件数減少を成果として胸を張るように変化してしまった。倒産件数は少なければ少ないほど良いという風に宗旨替えしたのであろうか。これは理解に苦しむ。

金融政策や公共事業、金融庁の指導によって中小企業を潰さないことがアベノミクスの目的だとすれば、いくら成長戦略や構造改革を掲げてみたところで、実現できるはずはない。

アベノミクスを問う」とした解散総選挙で、与党は定数の三分の二を占め、大勝を収めた。安倍首相は記者会見で、「アベノミクスをさらに前進させよとの国民の声をいただくことができた」と語った。国民の信任を得たとして安倍首相前進させようというアベノミクスとはいったい何なのか。有権者は厳しく検証していく必要がありそうだ。

2014-12-15

運用資産の見直しを断行したGPIFには 国民の年金財産を守る組織改革こそ重要

| 17:10

エルネオス12月号(12月1日発売)に掲載された連載原稿です。編集部のご厚意で再掲します。


インフレ時には債券は高リスク

 厚生年金国民年金の年金積立金を管理・運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、運用方法を大幅に見直すと発表した。二〇一四年度までの中期計画に盛り込まれていた基本ポートフォリオ(資産構成割合)では六〇%を日本国債などの「国内債」で運用するとしていたものを、三五%に引き下げる一方で、国内株式を一二%から二五%に、外国株式を一二%から二五%に、外国債券を一一%から一五%にそれぞれ引き上げた。七一%を債券、二五%を株式、五%を短期資産としていた運用方針を一変し、株式債券を半々とするポートフォリオに転換したのだ。

 債券中心から株式へとウエートをかけることに対して、「国民の資産をリスク晒すものだ」という批判が噴出している。国債リスクが低く、株式は危ないというのは一見正しそうな批判だが、それにもかかわらず、なぜGPIFはこんな見直しに動いたのか。

「日本経済は長年続いたデフレからの転換という大きな運用環境の変化の節目にあります」──。GPIFは中期計画変更の発表文の中でこう述べている。デフレとはモノの価値が下がり続ける経済状態だが、逆に言えば貨幣の価値は上がり続けることになる。そうした環境では貨幣に近い債券への投資が理に適っていることになる。

 実際、デフレが続いた日本では安倍内閣発足まで長期にわたる株価下落が続いた。このため、株式投資はリスクが高いという認識が定着したのだ。

 だが、経済インフレ的になった場合はどうか。貨幣の価値が下がり、モノの価値が上がる状態になる。そうなると、貨幣に近い債券を持っていると損失を被ることになる。インフレになれば金利が上昇するが、これは国債価格の下落を意味する。保有している国債に損失が生じることになるのだ。

 国債ならば満期まで保有していれば元本が戻ってくるではないかという主張もある。だが今後、高齢化が進んで年金の支払いが増えていけば、資産を取り崩さなければならなくなる。その時、国債価格が元本を割っていれば、損失が発生する。また、仮に満期まで保有して元本が戻ってきたとしても、インフレが進めば実際の価値が目減りすることになる。

最低でも五兆円が市場に流入

 それでも国債ならば紙切れになったり、目に見えて価格が暴落したりすることはないから、役所などは債券中心の運用にこだわる。運用失敗の責任を問われにくいからだ。だが、国債運用で運用利回りが上がらなければ、結局はその分を税金で穴埋めしなければ年金は支払えない。日本の年金は物価や賃金の変動によって支給額を変更していくマクロ経済スライドが導入されているものの、毎年の運用の成否が支給額の増減に直結しているわけではないからだ。

 なぜこのタイミングでGPIFは基本ポートフォリオの見直しに踏み切ったのか。建前はデフレからインフレへの転換だが、安倍晋三首相自身が認めているように、まだ完全にデフレから脱却したわけではない。本格的なインフレが足下で起きているわけでもない。

 野党などが強く批判しているのは、GPIFの資金によって日本の株価を押し上げようとしているのではないか、という疑念がぬぐえないことだ。GPIFの運用資産は百二十七兆円と巨額にのぼることから、国内株式の割合を一二%から二五%に引き上げるという方針が完全に実施されれば、一三%分の資金が株式市場に流れ込むわけで、その額は十六・五兆円に達する。当然、これだけの資金が日本株に入れば、株価にはプラスに働く。

 また、外国株式債券の割合が二三%から四〇%に引き上げられたことで、一七%分の資金が日本から海外に流れることになる。これが大きな円安要因になることは言うまでもない。安倍政権は意図的に円安株高を起こすことを狙ってGPIFの資産を使っているというのである。

 もっとも、国内株の割合が一気に一二%から二五%になるわけではない。配分割合には「かい離許容幅」というのが設けられており、国内株式の場合、上下九%とされている。つまり、最低ならば一六%だ。それでも四%分だから五兆円近い規模になる。

ガバナンス改革も並行すべき

 政府が円安株高を実現するために国民の財産をリスクに晒しているとすれば、それは大きな問題だ。株価が上昇して年金資産が増えればよいが、高値で株式を一気に買ってその後に下落すれば大幅な損失を被る。年金運用は政府の政策や意図に関わりなく、年金受給者の利益の最大化が図られなければおかしい。

 そのために不可欠なのが、運用するGPIFの組織のあり方だ。現在は独立行政法人で、政府が理事長を任命する。また、運用見直しについても大臣の許認可事項だ。これでは、政府株価を上げるためにポートフォリオを見直させたと捉えられても仕方がない。

 もともと政府が出したGPIFの改革案は、ポートフォリオの見直しとGPIFの組織のあり方、いわゆるガバナンス改革がワンセットになっていた。ところが、ガバナンス改革は後手に回り、資産構成の見直しだけが先行して行われたのである。

 短期的にはガバナンスよりも資産配分の見直しのほうに世界の注目が集まるのは当然だろう。だが、中長期的には世界最大のファンドの運用方針がどう決まるのか、透明性を示さなければ世界の信頼は得られない。政権が変わるごとに運用方針が変わると見られたら、GPIFは市場の混乱要因だ。そんな資金が大手を振って動き回る日本の株式市場など危なくて投資できないということになりかねない。それだけにガバナンス体制のあり方が重要になるのだ。

 第二次安倍改造内閣厚生労働大臣に就いた塩崎恭久衆議院議員は、日本銀行のような独立した運用委員会による合議制をGPIFにも導入させるべきだと考えているようだ。そのためには、理事長に権限が集中している独立行政法人のままでは難しい。国民の財産を守るためにも、GPIFのガバナンス改革が重要になっている。

2014-12-12

では「増税派」「経済成長派」どちらの主張が正しいのか

| 16:38

フォーサイトにアップされた記事です。無料公開ですのでこちらにも全文再掲します。オリジナルページへ是非→http://www.fsight.jp/31240


安倍晋三首相が来年10月に予定されていた消費税率の再引き上げを見送ったことで、「増税派」と「成長派」のつばぜり合いが再び激しさを増している。方やこのままでは日本の財政は破綻し、国債は暴落しかねないとして早期の増税を主張。安倍首相の先送り判断を批判する。こなた、まずは経済を成長させることが第一で、成長によって税収が増えれば増税しなくても財政再建は可能になると主張する。もちろん、景気に配慮した安倍首相の判断は正しかったと見る。両者の主張は真正面から対立して相容れない。なかなか国民には理解しにくい議論だが、いったいどちらが正しいのか、どう考えれば良いのだろうか。

消費税を35%に!?

 10月下旬、経済学者の小林慶一郎・慶應大学教授と社会学者の橋爪大三郎・東京工業大学名誉教授の共著『ジャパン・クライシス』が筑摩書房から刊行された。その2人に話を聞く機会があった。

 この本の副題には、「ハイパーインフレがこの国を滅ぼす」とある。このままアベノミクスの大胆な金融緩和を続けていたら、何かのきっかけで国債が大暴落し、手の付けられないハイパーインフレ、つまり凄まじい物価高騰がやってくる、というのだ。

 確かに日本の財政状態は危機的である。

 日本政府が抱える借金は昨年、1000兆円の大台に乗った。一方で、毎年の税収よりも歳出の方が大幅に多い状況が続いており、単年度赤字を垂れ流し続けている。国債の償還や利払いなどを除いた一般歳出と税収がトントンになるプライマリー・バランス(基礎的財政収支)にほど遠い状況が続いているのだ。

 さらに、少子高齢化によって年金や健康保険など社会保障費の国庫負担も毎年1兆円前後のペースで増え続けている。このままの状態を放置し続ければ、早晩限界がやって来るとしている。

 家計に例えてみれば分かりやすい。1000万円の借金を抱えているうえに、毎年収入が足りなくて50万円ずつ借り増ししているようなものだ。借金がどんどん膨らんでいくわけである。

ハイパーインフレになれば、せっかくの資産も一瞬にして失われ、年金制度も破綻。企業や銀行も次々と倒産し、多数の国民が路頭に迷う」

『ジャパン・クライシス』はそう指摘する。

 それを避ける方法も両教授は示している。消費税率を35%に引き上げるというのだ。

 今の消費税率は4月に5%から引き上げられ、やっと8%になったところ。それでも消費の減速などが叫ばれている。安倍首相はそうした影響の大きさを捉え、8%を10%にするのを躊躇した。

 そんな状況にあって35%という税率は凄まじい。欧州諸国でも20%弱といったところだ。「高福祉高負担」の典型例として日本でしばしば紹介される北欧諸国ですら25%である。世界最高水準の消費税率にしないと、日本の財政は再建困難だというわけだ。

「税収を増やす」では一致

 こうした「危機」を一笑に付す人物が高橋洋一・嘉悦大学教授である。経済成長をすることでプライマリー・バランスを黒字化することは十分に可能で、増税なしに財政再建できると主張する。実際、小泉純一郎政権から第1次安倍政権にかけて、あと一歩で黒字化するところまで迫ったという具体例を示す。高橋教授は財務官僚出身で、古巣の官僚たちから蛇蝎のごとく嫌われている。財務省の主張をことごとく批判し、論破してきたからだ。

 そんな高橋教授を、ジャーナリスト田原総一朗氏が司会を務めるBS朝日の番組『激論! クロスファイア』が、11月22日にゲストとして招いた。増税推進派の増田寛也・野村総研顧問と激論を闘わせていたが、番組には私もコメンテーターとして出させていただいた。

 では、どちらの主張が正しいのか。順を追って考えてみよう。

 まず、税収を増やさなければならない、という点については、ほぼ両陣営の意見は一致している。現在のように100兆円近い一般会計歳出があるのに、歳入が50兆円では話にならない。もっとも、税収を増やすための手段が異なる。増税派は、税収を増やすには税率を引き上げるのが先決という考えなのに対し、成長派は、税率を引き上げても、それで景気が悪化すれば税収は増えないと主張する。過去の消費税増税の例などを引いて、税率引き上げがむしろ税収減になる可能性すらあるとしている。

 確かに、税率を引き上げても、景気が悪化して税収が減る可能性は十分にある。だが、経済成長だけで増税は不要というのは、なかなか確証が持てない。外部要因があったとはいえ、小泉・安倍政権でも結局はプライマリー・バランスを達成できなかった。

3本柱を同時に実行

 では、どうすれば良いか。

 財務省を辞めて学者になった小黒一正・法政大学准教授の近著『財政危機の深層』では、「(現在の)危機的な状況を脱却するには、『経済成長』『歳出削減』『増税』の3つを同時に行っていかなければならない」「どれか単独の策で財政を立て直すのはムリ」だとしている。

 3つを同時に、というのはバランスの取れた主張だろう。経済成長を追求しながら、歳出削減もやり、増税もする。これで早期のプライマリー・バランスを目指すというのは正しいだろう。

 家計に置き換えてみても、月々赤字を垂れ流しているとしたら、まず支出を減らすことを考えるだろう。歳出削減を考えるのは当たり前のことである。増税で収入を増やすという方法ももちろんあるが、増税はなかなか国民の理解を得られない。また、前述の通り、税率引き上げが税収増に直結するわけでもない。

 消費税率で35%が必要、というのも机上の計算だ。現実に消費に35%の税率をかけたら、消費が激減するのは間違いない。

 昔、イタリアの観光地で買い物をした時、キャッシュで買って領収書はいらないと言ったら、2割以上安くなった。仮に店がその売り上げを申告しなかったとすれば、消費税分は値引きしても店に損はない。税率の高い欧州諸国では、消費が総じて低調なだけでなく、消費経済アングラ化している。

 日本で仮に35%の税率を課したら、誰もまともに店で商品を買わなくなるだろう。日本人の事だから、すぐに物々交換サイトが立ち上がるなど、課税を逃れる“取引”が一気に広がるに違いない。そう考えると、税率35%というのは現実的ではない。

 余談だが、「ハイパーインフレがやってくる」というのも現実的ではないように思う。戦争などで生産手段がすべて破壊でもされない限り、圧倒的なモノ不足は起きない。むしろ購買力が落ちてモノ余りが続けば、価格が一気に上昇するとは考えにくい。さらに、世界経済は相互に連関しあっているため、世界の工場である中国経済麻痺でもしない限り、高いインフレが発生する可能性は低いのではないか。

 国債の価格にしても一方的に壊滅的な価格まで下落したり、デフォルトするとは考えにくい。世界的なカネ余りが続いていたとすれば、日本国債の価格が低下(利回りは上昇)すれば、割安感から買い物が入ってくる。それが市場原理というものだ。

公務員ボーナスは21%増!

 では、1000兆円という借金を減らすにはどうしたらよいのか。

 この方法は明らかだ。まずは、プライマリー・バランスを黒字化して、これ以上赤字を増やさないこと。そのうえで、借金を返すために、資産を売却することだ。まだ政府JT株も保有しているし、日本郵便グループの株式も持つ。借金を減らさなければ破滅がやってくるというのであれば、否応なしに保有資産を売らなければならないだろう。それが、民間の家計では当たり前のことだ。

 高橋洋一氏は著書で、1000兆円を超す借金の反対側に650兆円の資産がある、と主張している。本気で借金を減らすのならば、一気にスリム化して借金を返すべきだろう。政府が保有するものの中には、プレミアムを付けて高く民間に売れるものも、まだまだある。

 以上のように、成長だけで借金が返せるという“バラ色”の絵を描くのでなければ、やるべきことは(1)毎年垂れ流している赤字を止める(2)資産を売却して一気にスリム化する――この2つを取り急ぎやることだろう。

 これは民間の感覚からすれば、当たり前の事だ。赤字垂れ流しを止めるには、支出すべての見直しが不可欠だ。12月10日には国家公務員のボーナスが支給されたが、その額、1年前に比べて21%の増加だった。東日本大震災や財政悪化を理由とする減額措置を2年間で終了させた結果だ。赤字垂れ流しが続いているのに、給与やボーナスが大きく増えるというのは、民間の感覚で言えば信じられないことだ。逆に言えば、それほど本気で財政を立て直そうとしていないのではないか、と疑ってしまう。

 政府保有株の売却や政府機関の見直しなどもほとんど行われていない。そうした、民間ならば当然やるべき事を放置したまま、税率だけを引き上げるというのでは、国民はとうてい納得しないだろう。

 財務省出身の小黒氏ですら、日本の国の会計状況は複雑で分かりにくいと指摘している。ともかく実態を把握し、そのうえで、どうやれば借金が減らせるのかを真剣に考えていくことが不可欠だろう。

2014-12-11

財政赤字でも増える公務員ボーナス

| 16:19

12月10日の内閣人事局の発表を受けたマスコミの報道は「公務員ボーナス平均69万円」「12万円増」といった見出しでした。これを計算すれば簡単に出るのですが、昨年冬に比べて何と21%も増えています。21%増というと批判を浴びるからでしょうか。しかも69万円というのは、給与ボーナスが大きく増える管理職は除いた数字です。支給日の朝にフジサンケイビジネスアイの1面コラムに掲載された拙稿です。是非お読みください。サンケイビズ→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/141210/mca1412100500003-n1.htm


 公務員の年末ボーナスが10日に支給される。今年は前年に比べて大幅に増額され2桁増になるという。

 理由は、期待以上の成果を上げたからでも、国の財政が劇的に改善したからでもない。4月から消費税率の引き上げに成功したから「大入り袋」が配られるというわけでは、もちろんない。2012年度、13年度と2年間にわたって実施されていた減額措置が今年度から終了した結果、「元の水準」に戻るためだ。

 減額措置は、東日本大震災で復興特別税を導入したのがきっかけだった。復興のための財源を捻出するためとして、所得税法人税に税率が上乗せされた。民間に増税を求めるには、政府も身を切る姿勢を示すことが重要だとして、給与カットを決めたのである。給与が平均7.8%減額され、ボーナスも約10%減った。

 法人税の上乗せは前倒しで廃止されたが、所得税への上乗せは25年間ということになっており、今も続く。だが、公務員の給与カットを決めた法律は「2年間の時限措置」で、今年度から廃止された。元に戻るだけで、給与は8.4%増、ボーナスは11%増ということになる。8月の人事院勧告では、月給を0.27%、賞与を0.15カ月分引き上げるよう求めており、さらにベースが上がったから、ボーナスの伸びは大きくなる。

 給与の減額措置を決めたのは、「我が国の厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み」ということだった。だが、日本の財政が厳しさを脱したわけでも、復興が完了したわけでもない。財政は基礎的財政収支(プライマリーバランス)すら黒字化できず、毎年、単年度赤字を垂れ流している。

 霞が関では「特別措置が終わったのだから、元に戻るのは当然」という反応が多いが、民間の感覚から大きくズレている。赤字会社が赤字から脱却できない段階で、ボーナスを大幅に増やすことなど、民間ではまず考えられないだろう。

 財務官僚は、財政赤字がこのまま続けば「ギリシャ化する」と言う。

 国の借金が1000兆円を超え、GDP(国内総生産)の2倍になったと危機をあおり、税率の引き上げが不可欠だとする。だが、どんなに増税しても、大盤振る舞いして使ってしまえば、借金は減らない。

 財政赤字が進んでもボーナスが増えるのであれば、公務員は誰も借金を減らそうとはしない。財政破綻に直面したギリシャは、勤労者の25%が公務員だったという。だから緊縮財政に反対する大デモが起きた。国に依存し、ぶら下がることばかり考える人が増えれば、財政再建などできない。

 日本では民間より待遇の良い公務員を志望する若い学生が増えている。民間よりも、巨額な赤字を抱える国や地方自治体の方が安定的に見えるのだろうか。これこそ、ギリシャ化の本質ではないか。(ジャーナリスト 磯山友幸)

2014-12-10

GDP下方修正の日に日経平均1万8千円台 「不自然な株高」を演出しているのは誰か

| 15:33

「投票日まで持つか」という発言をする証券関係者が増えていましたが、一時、日経平均株価が1万8000円を付けたことで、市場に達成ムードが広がり、売りを誘ったようです。10日は400円の大幅安で引けました。どうやら強気一辺倒ではなくなってきたようです。現代ビジネスに書いた原稿です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41386


12月8日、日経平均株価が一時、7年4ヵ月ぶりに1万8000円台に乗せた。円安の進行や米国の雇用情勢の改善などを材料とされていたが、市場関係者からは「不自然な買い」を指摘する声もあった。

景気は低調、上げ相場は続くのか

8日は今年7〜9月期の国内総生産(GDP)の改定値が発表された。先月の速報段階で年率換算でマイナス1.6%だったが、発表ではマイナス1.9%と下方修正された。企業の設備投資がマイナス0.2%から0.4%に、公共投資がプラス2.2%からプラス1.4%にそれぞれ下方修正されたことが響いた。

先月の速報値段階で安倍晋三首相消費増税の先送りと解散総選挙を表明しており、改定値への関心が薄れていたとはいえ、景気の低調さを改めて示した。日経平均株価もいったんは1万8030円まで付けたが、結局引け値は1万7935円と前週末比15円高にとどまった。

市場関係者の関心はこの上げ相場がいつまで続くか。10月21日に1万4804円だった日経平均株価は、10月31日の日銀による追加緩和とGPIF(年金積立金等管理運用独立行政法人)のポートフォリオ見直しによって、一気に上昇に弾みが付いた。わずか1ヵ月半の間に3000円、20%以上も上昇したのである。

この上昇を支えたのは海外投資家だった。

東京証券取引所の投資部門別売買動向によると、11月1ヵ月間(11月4日〜28日)に、海外投資家は1兆2586億円を買い越したのである。週ベースでは10月20日の週から11月21日まで5週連続で買い越していたから、ほぼ日経平均の上昇は海外投資家が支えたと言っても過言ではない。11月トータルでは証券会社の自己売買部門も9714億円買い越しており、相場上昇に色を添えた。

2013年に15兆円も買い越した海外投資家だったが、今年に入ってからは日本株に慎重姿勢を取り続けていた。そんな海外投資家が一気に買いに動いたのはなぜか。

安倍官邸の周囲にも株高を演出したいムード

GPIFのポートフォリオ見直しを評価したのは間違いない。GPIFが運用する130兆円あまりの投資先を、日本国債を中心とする「国内債券」60%から35%に引き下げる一方で、国内株式の割合を12%から25%に、外国株式の割合を12%から25%に、外国債券を11%から15%にそれぞれ引き上げたのである。 

このポートフォリオ見直しは現在動いている2014年度末までの中期計画の見直しという形で行われているので、早ければ来年3月にもこの割合が実現することになる。GPIF幹部が「できるだけ早期に見直す」と発言したと報じられ、株式市場で「材料視」された。

なにせ130兆円にのぼる運用資産の5%分が動くだけで、6.5兆円の資金が入ってくるのだから、投資家は無視できない。国内株式を12%から25%に引き上げられるという方針が、日本の株式市場にプラスに働くのは間違いないからだ。

一方で、国債を60%から35%に引き下げれば、その分、GPIFが債券を処分することになるわけだが、これはポートフォリオ見直しと同時に行われた日本銀行の追加金融緩和が“引き受ける”格好になった。つまり、GPIFが処分しても、日銀が買い増すので、国債暴落は起きないという“流れ”ができたのである。

巨額の資金が入ってくる日本株市場を無視できない、というのが海外投資家の動きにつながった。特に短期の利益を狙うヘッジファンドが、率先して買っていたことは間違いない。

安倍官邸の周囲にも「株高」を演出したいというムードが強くある。アベノミクス選挙を戦う以上、株価が下落傾向にあっては戦いにならない。GPIFのポートフォリオ見直しもそうした政府の思惑と機を同じくしている、と市場関係者は感じている。

国内投資家の間で、12月に入って、「不自然さ」を指摘する声が増えている。その日の材料に関係なく、日経平均株価の構成銘柄などを中心に、幅広く買い物が入っている、というのだ。GPIFの資金が日経平均株価が上昇するように株を買っているのではないか、というのだ。GDPの下方修正という悪材料が出た8日に節目の1万8000円に乗せたのが典型だというのだ。つまり、政府株価をコントロールしようとしているのではないか、というわけだ。

個人投資家は、アベノミクスを信任せず!?

だが、政府がコントロールできていない投資主体がいる。個人投資家である。週ベースでは10月20日の週以降、6週続けて売り越しとなっている。その額合計2兆8800億円。11月1ヵ月だけに限っても1兆9837億円を売り越したのである。株価が上昇したところで、いったん利益を確定しておこうという売り物が多かったのだろう。

今年1月〜3月に海外投資家が売り越したタイミングで、個人投資家は買いに回っていた。海外投資家とGPIFが買いに回っている時を、個人は絶好の売り場とみなしているのだ。

安倍首相がいくらアベノミクスの成果を声高に叫んでも、将来にわたって景気が良くなるという確信を個人は持てていないということでもある。個人の投資動向を見る限り、アベノミクスは十分に信任を得られていないようだ。

では、海外投資家は、アベノミクスの成功を信じて、日本株を買っているのだろうか。そうではなさそうだ。GPIFのポートフォリオ見直しをきっかけに買いに動いた海外投資家は、ヘッジファンドなど短期の利益を狙う投資家が多いと見られ、年金やプライベートバンクなどの長期資金が本格的に日本株に向かっているわけではない。

短期的な利益が得られると思えば、株価水準が一定以上になると、買いを一変、売りに出てくる可能性は十分にあるわけだ。市場関係者が海外投資家の動向を注視しているのはそのためだ。もちろん、今年の1月とは違い、外国人投資家の売りが相場全体を大きく崩すことになるかどうかは分からない。今年1月とは違い、GPIFの資金による買いがまだまだ入ってくる可能性があるからだ。

そのタイミングで、焦点の個人投資家がどう動くのか。アベノミクスを問い直す選挙の結果を見て、日本経済の先行きに期待が持てるとなれば、再び下値を拾う動きが広がることになるだろう。

2014-12-09

あなたはタックス・ペイヤーか それともタックス・イーターか  税金の使われ方を透明化する

| 08:36

2011年の東日本大震災後にWEDGEで連載を始めた「復活のキーワード」は、日本を覆っていた悲観論を排して、前向きに「やるべき事」を提言することに狙いがありました。3年近く続きましたが、雑誌のリニューアルを期に、新しいコラムに衣替えすることになりました。最終回の原稿のブログ掲載が漏れていました。遅くなりましたが再掲します。オリジナルページ→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3886?page=1 


 東日本大震災をきっかけに始まったこのコラムは、単なる政策批判にとどまらず、日本復活に向けた具体的な提言をすることが狙いだった。諸外国の例や取材する経営者らのアイデアを盛り込んで、問題を指摘するだけではなく、新しい視点を提示するように心掛けてきた。中にはその後、政府の政策に反映されたものもあれば、まったくの空振りに終わっているものもある。震災から3年がたち、景気にも明るさが見えてきたので、ひとまず連載を終えることにしたい。

 もちろん、まだまだ日本は復活したと言える状況になったわけではない。中でも多くの知識人が「危機的」と指摘するのは、日本政府の過大な借金である。財務省が発表する「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」によると、昨年12月末時点の残高は1017兆9459億円。この連載を始める直前の2011年3月末は924兆3596億円だったから100兆円近く増えたことになる。借金は減るどころか増え続けているのである。

 財務省が強調するように、GDP国内総生産)対比でも増え続けており、13年末で日本は224%。米国の113%や英国の110%、イタリアの130%を大幅に上回る先進国最大の借金国になった。しかも毎年、増え続けているのだ。

 では、本気で借金を減らそうとすれば、どうするか。まずやるべきことは増え続ける借金を抑えること、つまり出血を止めることだ。企業でも家計でも、毎月の赤字を出さないようにするのは常識である。赤字を出さないためには収入を増やすか支出を減らすしかない。霞が関からすれば支出を減らすのは大変なので、収入を増やすことばかり考える。国の場合、国債などの借金も収入として扱われるので、どんどん借金する。あるいは税率を引き上げることで収入を増やそうとする。なかなか支出の削減には取り組まない。

 多くの国民は国の借金は大きな問題だと理解している。だからこそ、4月からの消費税率引き上げも受け入れた。収入と支出のバランスを借金なしに取り戻す水準を「プライマリー・バランス」と言うが、そこにはまだまだ遠い。支出の削減に本気で取り組まないので、赤字の垂れ流しが続いているのだ。

 もちろん、アベノミクスの成長戦略で経済規模を大きくすれば、GDP比の借金は小さくなる。また、景気が良くなれば税収も増えるので、赤字体質から脱却するには経済成長は不可欠だ。だが、ここまで積み上がった借金を減らすには、成長だけでは不十分。支出の見直しが不可欠なのだ。

 欧米には「タックス・ペイヤー」と「タックス・イーター」という言葉がある。前者は日本でも普通に使われるが、後者はあまり聞かない。税金を無駄遣いしている人と批判的に使うこともあるが、ここでは悪い意味には取らない。単に国家財政に「貢献している人」と「依存している人」と分けて考えてみる。

 政治家や公務員はどんなに良い仕事をして社会に貢献しても税金から給料をもらっている以上、「タックス・イーター」である。給与から税金を払っていると言うだろうが、元をたどれば税金である。年金生活者も広義の「タックス・イーター」だ。今まで保険料を払ってきたからもらうのは当然の権利だと言うだろうが、日本の年金は積立方式ではない。国が社会保障費を負担しなければ制度はもたないのだ。

 では、働いている人は全員が「タックス・ペイヤー」かというと必ずしもそうとは言えない。支払う税金よりも、行政から受けているサービスの方が多い人は「タックス・イーター」ということになる。もちろんひとりの人が「タックス・ペイヤー」と「タックス・イーター」の両面を持っているので、差し引きどちらかと考えるわけだが、「タックス・ペイヤー」より「タックス・イーター」が多いから借金がどんどん増えているとも言える。

 埼玉県の上田清司知事は、緻密なデータを駆使して行政刷新に取り組んでいることで知られる。例えば、県の一般会計予算(1兆6764億円)がどう賄われているかを県民数で割って示し、県税で賄っているのが8万4000円、借入金が4万7000円、地方交付税や国庫支出金が10万2000円と歳入構造を示す。一方で、県が支援する子育て支援は子どもひとり当たり5万4000円。さらに公立の小中学校の教育に関わる行政コスト3357億円を生徒数で割ると、ひとり当たり58万円になるという具体的な数字を県民に訴えている。つまり、どれだけの負担でどれだけの便益を得ているかを見える化しているのだ。

 上田知事は繰り返し「事実を知ることが大事だ」と訴えている。埼玉県のある学校の不登校率が6%に達していることが分かったことで、初めて本気になって有効な対策が打てた。その結果、翌年には不登校率は半分になった、という。このほかにも、犯罪発生率や、学力水準、果ては県税の徴収率など様々なデータを地域別に示すことで、状況の改善に結び付けてきた。事実を示して、問題の所在が分かれば、現場の人たちは改善しようと努力するのだ。

 埼玉県では県出資の民間会社などへの天下りを廃止し、民間人に経営を任せた。その結果、赤字が常態化していたこうした企業は黒字化した。埼玉県の職員数は人口比で全国で最も少ない。全国平均のほぼ半分の人数で行政を賄っている。

 国民や住民からすれば、行政サービスを充実させろ、というのは当然の要求である。だが、そのためにどれぐらいのコストがかかるのかが示されることはほとんどない。公務員は予算を使うのが仕事だから、コスト感覚は生まれない。さらに、行政組織はどんどん自己増殖していく。住民の要求を汲み上げる議員とコスト感覚なく自己増殖する公務員が組み合わされば、当然の帰結として赤字が慢性化し、借金のヤマになるのだ。

 借金が増えて大変だと騒ぐ財務省の官僚たちは、増税には一生懸命だが、支出を減らすためのコストの把握や公表には消極的だ。支出削減に行政サービスを縮小せよという声が強くなれば、それを支えている行政も同時にスリム化しなければならなくなる。そうなれば役所の権限も天下りポストも減っていく。残念ながら数字に弱い政治家は、役所の権益に斬り込んではいけない。

 あなたは、タックス・ペイヤーか、それともタックス・イーターか。前者ならば、もっと税金の使われ方に目を光らせよう。数字は嘘をつかないから、数字を基に理詰めで考えるべきだ。

 もし後者だと感じたら、同じ行政サービスがもっと安くできないか考えよう。官業を民間に移管できれば、タックス・イーターが減り、タックス・ペイヤーが増えることになる。このまま赤字を垂れ流していては、そのツケは国民に回ってくるのだから。

◆WEDGE2014年6月号より

2014-12-08

消費増税の影響ジワリ  好調だった宝飾品 消費にブレーキ

| 22:16

時計専門誌クロノスに書いた原稿です。

 安倍晋三首相が2015年10月に予定されていた消費税率の再引き上げを1年半先延ばしする方針を示した。「国民の信を問いたい」として解散総選挙に打って出たが、信を問うまでもなく、とても再増税できる経済状況ではなくなってきた。2014年4月に消費税を5%から8%に引き上げた影響がジワジワと表れ始め、消費の伸びに一気にブレーキがかかってきたからだ。

 日本百貨店協会が発表した2014年10月の全国百貨店売上高は店舗調整後で2.2%のマイナスとなった。消費増税の影響で4月以降、前年比で大幅なマイナスになっていたが、6月以降順調に回復傾向を示し、8月にはマイナス0.3%とほぼ前年並みの水準に戻していた。東京大阪など10都市の売り上げに限れば、8月にはプラス0.5%に転じていた。これで9月以降の全国ベースの売り上げがプラスに転じれば、消費は腰折れすることなく消費増税の影響を吸収したことになるはずだった。

 ところが9月は0.7%のマイナスと逆にマイナス幅が拡大。そして10月はさらにマイナスが拡大する結果となった。夏ごろを境に完全に消費が退潮し始めたのだ。夏のバーゲンセールが終わると、婦人服売り場などから顧客の姿がめっきり減っていた。

 この傾向は高級時計を含む「美術・宝飾・貴金属」の売り上げにも鮮明に表れている。このコラムでも何度も取り上げた数字だ。アベノミクスが始まって以降、消費増税前までは2桁の伸び率が続いてきたが、駆け込み需要の反動で4月以降急減。その後、回復するかに見えたが、9月のマイナス2.8%をピークに10月はマイナス6.4%と再びマイナス幅を拡大した。

 円安の効果で外国人観光客が大幅に増えており、高級品も彼らが大量に購入するようになっている。旅行者は消費税の免税手続きができることから、高額品に関しては4月の消費増税は、外国人消費にはほとんど影響していない。さらに10月以降、化粧品や食料品なども免税対象に加える拡充措置が始まったこともあり、外国人消費の背中を押している。それにもかかわらずプラスにならないのだから、いかに国内居住者の消費意欲が衰えているかが分かる。

 消費だけでなく経済全体の回復も鈍い。2014年7〜9月期の国内総生産(GDP)の伸び率は、物価変動の影響を除いた実質で4~6月期に比べてマイナス0.4%となった。年率に換算するとマイナス1.6%である。おおかたのエコノミストは2%前後のプラスになると見込んでいたので、大きな衝撃が走った。消費増税前の駆け込みで1~3月期が大幅に伸び、その反動で4~6月期が大きく沈んでいたから、どう見ても7~9月期は最悪期を脱すると誰もが考えていたからだ。安倍首相消費税再引き上げ先送りを決める直接的な引き金になった。

 では、消費税増税の先送りを決めたことで状況は変わるのか。10月の百貨店売上の数字が大きくマイナスになったことを見ても、簡単には再び消費に火がつくことはなさそうだ。株価の上昇や年末のボーナスの増加によって、再び消費マインドが高まるかどうかは予断を許さない。それほどまでに4月の消費増税がボディーブローのように効いてきたのだ。   

 増税時期を2017年4月とすることで、当面の間、消費税問題が消費の足を引っ張ることはなくなると見られる。消費税の引き上げが視野に入ってくる2016年の年末商戦は再び、増税前の駆け込み需要が盛り上がることになると見られるが、それまでにはまだ2年の時間がある。

 日本のGDPに占める個人消費の割合は6割だ。つまり、その分、小売りやサービス業に従事している人の数も多いことを示している。政府は円安で製造業の利益が上がって給料が増えれば消費が増えると見る。だが、消費が落ち込むことによる小売やサービス業の給与減の方がむしろ影響は大きい。一度萎えてしまった消費意欲に再び火をつけるのは簡単ではない。

2014-12-05

消費税先送りに「勝利」した安倍首相は、アベノミクスを貫徹できるか?

| 11:28

選挙の争点は何か。選挙でどのくらい自民党が議席を確保すれば安倍首相の求心力が維持できるのか。日経ビジネスオンラインにアップされた記事です。オリジナル→http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20130321/245368/


総選挙告示され、選挙戦が始まった。安倍晋三首相自民党総裁は「アベノミクスを問う選挙だ」と言い、野党は「流れを変える選挙だ」と応じる。だが、多くの国民は、世論調査でも高い支持率を維持していた安倍政権が、なぜこの年末の忙しい時期に解散・総選挙に打って出たのか、首をかしげているのではないか。

 「解散をしなければ消費増税の先送りを決めることはできなかった」

 安倍首相に近い人物は言う。首相は11月18日夜、記者会見して、来年10月に決まっていた消費税率の10%への引き上げ時期を2017年4月に延期する方針を示し、国民の信を問うとして、解散総選挙を打ち出した。

 前日の17日に発表された7−9月期のGDP国内総生産)が、4−6月期比で年率に換算してマイナス1.6%と、予想外の2期連続マイナス成長となり、国民の間には「増税の先送りは当然」という感覚が広がっていたが、それでも解散がなければ、予定通りの増税が決まっていただろう、というのだ。

 首相が解散を決めるちょうど同じタイミングで、政府は各界の有識者を招いて消費税率の引き上げを巡る「点検会合」を開いていた。経済界や労働界、学者、エコノミストなどが意見を求められたが、「予定通り引き上げ」派が明らかに優勢だった。

 当然、財務省は税率引き上げが悲願で、多くのメンバーには日本の厳しい財政状況が繰り返し説明されているから、増税派が優勢になるのは当然だった。

 自民党内も引き上げ派が圧倒的多数と見られていた。党の税制調査会長である野田毅氏はもとより、安倍首相の出身派閥である清和政策研究会(清和研)の会長である町村信孝氏や、幹事長の谷垣禎一氏ら、財務省に近い党幹部はこぞって「引き上げ派」だった。自民党内のほとんどの議員は、消費増税は必要という姿勢だった。

解散に出たことで「安倍おろし」を回避

 仮に安倍首相が解散を打ち出さずに、消費増税の先送りだけを発言した場合、どうなったか。さきの側近は「安倍おろしが始まっただろう」と言う。この見方には異論も多いが、安倍首相と党側の亀裂が一段と強まったことは間違いないだろう。安倍内閣は露骨に財務省と距離を置いているが、党側には谷垣氏はじめ財務省シンパが圧倒的に多い。若手の議員も何かと面倒をみてくれる財務官僚を敵に回したくない、というのが本音だ。

 「国の財政を考えずに消費税を先送りするのはけしからん」

 「社会保障を充実させるという国民との約束を踏みにじった」

 そんな声がジワジワと広がれば、安倍内閣の支持率も徐々に下落していくことになっただろう。もちろん、野党もこうした批判を前面に打ち出して、アベノミクス批判を展開したに違いない。

 そうした、党内の「増税派」の声が、解散・総選挙で一気に消滅してしまったのである。

 国民の目からみて分かりにくいのは、こうした党内の「増税派」と安倍首相の対立が、まったく表面化しなかったことだ。安倍首相増税先送りに表立って反旗を翻す動きが出れば、それこそ郵政選挙と同じ構図になった。郵政民営化に反対した議員を公認せず、同じ選挙区に刺客候補者を立てた小泉純一郎首相(当時)と同じ手法である。

 実は、安倍首相が解散を表明する前後、自民党内にひとつの噂が流れていた。税調会長も務め、増税派の象徴的な存在でもある野田氏を公認しないというのだ。消費増税派の多くの議員の頭に、郵政選挙の悪夢がよぎったのは想像に難くない。

 これを境に、自民党内から安倍首相の方針に逆らうムードは消えていった。対決の構図が見えないまま、解散総選挙となったことで、国民にはまったく争点が見えなくなったのである。マスメディアがこぞって「大義なき解散」と書いたのは、致し方のないことだった。

第1次安倍内閣の轍を踏まない戦略

 ただ、安倍首相増税派への「配慮」も忘れなかった。2017年4月に先送りする一方で、景気条項は付さないとしたのだ。ただ先送りすれば増税派の不満は蓄積される。追い詰めれば窮鼠猫を噛むこともある。言う事をきかない首相の足を財務省が本気で引っ張り出す可能性もなくはない。

 第1次安倍内閣はスキャンダルにまみれて1年で崩壊したが、公務員制度改革に真正面から斬り込んだ安倍内閣の足を引っ張るために、霞が関周辺からスキャンダル情報が野党に流されたとみられた。少なくとも、当時を知る安倍首相周辺の人たちは、そう信じている。増税は先送りするが必ずやる、と明示することで相手を追い詰めることを避けたわけだ。

 案の定、選挙戦が始まると争点から消費税はほぼ消えたと言っていい。自民党増税派にせよ、野党にせよ、予定通り増税すべきだと主張して選挙は戦えないと考えたのだろう。三党合意で増税を決めた当事者である民主党も、早い段階で、消費増税先送りを容認してしまった。消費税を巡る攻防は安倍首相の完勝だったと言ってよいだろう。

米国からも「増税先送り」要請

 消費増税の先送りは、安倍首相首相周辺のリフレ派ブレーンだけの発想ではない。米国オバマ政権の幹部からも先送りを求める声が上がっていた。ようやく明るさが見えてきた日本経済が、再増税で一気に失速することになれば、世界経済の足を引っ張ることになる。

 日本が再びデフレに沈めば米国経済にもマイナスだ。先送り時期が1年後の2016年10月ではなく、2017年3月になった一因は、次の米大統領選挙が2016年11月に行われることと無縁ではない、と見ていいだろう。

 消費増税が争点ではなくなったことで、与野党はそろって「アベノミクス」に照準を絞ることになった。もともとアベノミクスに反対してきた共産党社民党は、アベノミクスを弱者を生み出す市場原理主義だとし、格差を拡大させると批判している。

 民主党海江田万里代表は、アベノミクスを失敗だったと位置付けたうえで、アベノミクスからの転換を訴えている。安倍首相アベノミクスによってデフレからの脱却が始まったとして、成果を自画自賛する戦略を取る。

民主党は批判票を取り込めるか

 民主党は、アベノミクスの効果は実感できないという世論調査に賭けたのだろう。だが、マニフェストを見る限り、アベノミクスに代わる経済政策を具体的に提示できているとは言い難い。そんな中で、どれだけアベノミクス批判票を民主党が取り込むことができるのか。

 どうやら、ここでも安倍首相の本当の敵は身内にあると見てよさそうだ。アベノミクスの1本目の矢である大胆な金融緩和に関しては反対する声もあったが、一応の成果を上げている以上、真正面から批判する声は少ない。

 2本目の矢である機動的な財政出動は、公共事業のバラマキを続けてきた「古い自民党」と親和性が高い政策だけに、これにも反対の声はない。問題は3本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」つまり、規制改革や構造改革である。

 改革に着手しようと思えば、従来の既得権に手を突っ込むことになる。こうした既得権層が支持基盤だったりして、政治献金を受けている自民党議員は少なくない。3本目の矢は総論賛成だが、各論になれば、根強い反対意見が噴出してくるのだ。

 安倍内閣は昨年6月に成長戦略を策定、今年6月にはそれを改訂した。だが、安倍首相が「岩盤規制」と名付ける農業や医療、雇用などの分野には、まだほとんど穴が空いていない。党内の抵抗勢力を黙らせて3本目の矢を進めるには安倍首相の強力なリーダーシップが必要であることは間違いない。それをこの総選挙にかけようというのだ。

 だが、どれぐらいの議席を自民党が確保すれば、安倍首相の求心力が高まり、反対が多い構造改革を押し通すことができるのか。もちろん、現有議席よりも増やせれば、安倍首相の力は増す。だが、野党間の選挙協力もあり、なかなか情勢は厳しい。

安倍首相の勝利ラインは266議席

 安倍首相は「与党で過半数」と言っているが、今回の選挙では定数が480から475に減るので過半数は238。解散前は自民党が295議席、公明党が31議席で合計326議席を持っていたから、88議席減に相当するが、さすがにそこまで減らすというのは現実的ではない。

 おそらく、すべての常設委員会で委員長を出したうえで、委員の過半数を得るために必要な「絶対安定多数」が自民党単独で確保できれば、「安倍首相の勝利」ということで党内は納得するに違いない。絶対安定多数は今度は266議席なので、自民党単独でこれを守るとすれば、295から比べて29議席減が限度ということになる。

 それでも多くの議員が嫌がる構造改革を進められるかどうかは微妙だ。これまでは、野党であるみんなの党維新の党が改革を訴えていた。「安倍内閣の改革では生ぬるい」と主張していたわけだ。

 みんなの党が解党し、維新人気が衰えていると言われる中で、どれだけ野党改革派国会に戻ってくるか。総選挙の結果によって、3本目の矢である構造改革の成否が見えることだけは間違いないだろう。

2014-12-04

公務員ボーナス2ケタ増! 世界有数の赤字組織がアベノミクスの恩恵享受、おかしくないか

| 13:03

政府を企業に例えれば、売り上げは「税収」と「借金」です。だから役人は税率引き上げと借金増やしに邁進するワケです。そのためには、どんどん予算を膨らませ、歳出を増やします。なぜって、減らすインセンティブはまったくないからです。借金がどんどん増えても、幹部公務員の給料はどんどん増えます。現代ビジネスにアップされた記事です。オリジナル→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41299


安倍晋三首相が目指す「経済の好循環」がひと足早く実現する“業界”がある。国家公務員だ。

国家公務員は賞与16.5%増という試算も

12月10日に支給される年末ボーナスは前年に比べて11%以上の大幅増額になる。4月の消費税率引き上げと同時に、給与も8.4%増えており、まっ先にアベノミクスの恩恵を享受している。

民間では円安による企業業績の好調がなかなか給与や賞与の増加に結びつかず、むしろ物価上昇によって実質賃金は目減りしている。国が抱える借金は昨年、1000兆円の大台を突破、世界有数の赤字組織のはずだが、リストラするわけでもなく、ボーナスが大盤振る舞いされる。何かおかしくないだろうか。

ボーナスが大幅に増えるのは2012年度、2013年度と2年間にわたって実施されていた減額措置が今年度から終了したためだ。「我が国の厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み」給与減額支給措置が取られ、給与は平均7.8%、賞与は約10%が減額されていた。4月から7.8%減が元の水準に戻ったので、給与は8.4%増加。ボーナスは10%減が元に戻るので11%以上増えることになる。

さらに、今年8月には人事院が月給を0.27%、賞与を0.15カ月分引き上げるよう勧告しており、これもボーナスには反映される。民間のシンクタンクによっては、賞与は16.5%増えるという試算もある。

特例で減額が決まった引き金は東日本大震災だった。復興のための財源をねん出するためだとして所得税法人税に「復興特別税」が上乗せされた。民間に増税を求めるうえでも政府が身を切る姿勢を示すことが不可欠だったのだ。法人復興税は前倒しで廃止されたが、所得税への上乗せは25年間ということになっており、今も続いている。年間の税収増は、所得税の上乗せ分だけで3000億円にのぼる。

特別措置による国家公務員給与の削減額は3000億円程度だったので、今年度はその分がそっくり増える。復興税は被災地に使うことになっているが、カネに色があるわけではない。増税分がそっくり公務員給与に回ったと見てもいいだろう。

今回の賞与増について霞が関では、「特別措置が終わったのだから、元に戻るのは当然だ」という反応が多い。民間企業では一度減ったボーナスはなかなか元に戻らないが、霞が関の常識は違うのだろう。

特例措置の前提だったはずの、「東日本大震災への対処」も終わったわけではない。ましてや、「厳しい財政状況」はまったく改善していない。国債費などを除いた一般の歳出を税収で賄なうプライマリーバランスさえ達成していない。単年度赤字を出し続けている会社が、ボーナスを大幅に増やすなどということは、民間の常識では考えられない。

財政破綻」でも収入増、後ろめたくないか

いやいや、公務員は安月給で働いているのだから、給与を上げなければ優秀な人材は雇えない、という声もある。確かに、課長補佐以下の現場の職員の給与水準は決して高いとは言えないが、長い間、下落し続けてきた民間給与と比べ、大きな差がなくなってきた。

課長以上の幹部になれば、民間をはるかに凌駕する。 

人事院が勧告する公務員給与は民間並みが前提で、民間を大きく上回ることはない。だが、現実には勧告対象から管理職以上を外しており、平均額が実態よりも低く見えるような仕組みになっている。それでも、人事院自身が認めるように、50歳を超える公務員になると、給与は民間よりも高い。

もちろん、国の財政や予算を考える幹部公務員の給与・賞与はさらに高くなる。人事院が資料に示す「モデルケース」でも、45歳の本省の課長の年収は1200万円、局長になれば1747万円に跳ね上がる。

もちろん、優秀な官僚が高い報酬を得ることに反対しているわけではない。だが「このままでは財政が破綻する」と危機感を煽り、「消費税率は10%にしてもまだまだ不十分」だと増税を求める一方で、自分たちの給与や賞与を大きく増やすことに、後ろめたさを感じないのだろうか。財政赤字の拡大は自分たちの責任ではない、と言いたいのだろうか。

第1次安倍内閣で公務員制度改革に斬り込んだ安倍首相は、一変して公務員に理解のある宰相に変貌したようにみえる。霞が関を敵に回したことが短命政権につながったと思っているのだろうか。民主党霞が関を敵に回してまで実現した給与削減の特例法をさっさと廃止にして、満額、元の水準に戻したのは驚きだった。しかも消費増税とまったく同じタイミングでの給与増にもかかわらず、世の中の批判は高まらなかった。

アベノミクスを成功させるためには、消費に火をつけなければならない、という経済政策が優先された、と見ることもできる。民間に給与を増やせといってもなかなか実現しないが、公務員給与ならば、政府自身で決められる。

公務員が手取りが増えた分を消費に回せば、「経済の好循環」のきっかけになるかもしれない、というわけだ。公共事業を増やすよりも公務員給与を増やす方が手っ取り早いと考えたのか。アベノミクス流の「コンクリートから人へ」だったのかもしれない。

地方公務員への「バラマキ」を地方創生に生かせ!

国は、特例措置で給与の減額が決まった際、地方公務員にも同規模の削減を求めた。地方自治体は猛烈に反発したが、同調しない自治体には地方交付税交付金の支払いを遅らせる嫌がらせまで行って、引き下げさせたのだ。これが、特例措置の終了で、国同様、元に戻ることになった。地方公務員の給与もボーナスもやはり同様に増えているのだ。

地方の中小都市に行くと、地域の消費を支えているのは圧倒的に公務員など「官業」の職員であるケースが多い。県庁、市役所、農協、金融機関、電力会社などだ。

現金収入のある職業がこうした「官業」ばかりになっている産業構造にこそ地方の問題があるのだが、こうした官業依存度はますます高まっている。県庁や市役所の職員が飲みに行かなければ、地方の繁華街は火が消える、というわけだ。逆に言えば、地方公務員のボーナス増は、景気の下支えに役立つというのである。

では、果たして、公務員給与の「バラマキ」は景気にプラスに作用しているのだろうか。公務員の場合、今年夏のボーナスも前年に比べて大幅に増えていた。同様に特例措置がなくなったからだ。だが、残念ながら、夏以降、4月の消費税増税の影響がジワジワと出て、全国の消費は停滞している。

公務員、とくに高額の年末賞与を手にする霞が関の幹部公務員の皆さんには、是非とも増収分を貯蓄などに回すのではなく、すべて消費に回して、景気浮揚に務めていただきたい。

2014-12-01

会計士協会長選の「ガバナンス」

| 17:20

月刊ファクタの12月号(11月20日発売)に掲載された原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201412025.html


日本公認会計士協会の執行部でいま最大の懸案はガバナンス改革問題だという。だが、ガバナンス改革といっても、安倍晋三内閣が成長戦略の柱として掲げているコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革のことではない。自分たちのトップである会計士協会会長を選ぶ選挙制度の見直し論議に躍起になっているというのだ。

現在の会長選びは、まず選挙で65人の理事を選び、理事の中から立候補した人物を対象に「推薦委員会」が会長候補者を絞り込む。そのうえで、理事の過半数の信任を得て会長に就任する仕組みだ。会長の任期は3年で再任はできない。

推薦委員会は前会長や監査法人幹部、個人事務所幹部、外部有識者など13人からなり、そのうち9人以上が賛成しないと会長候補にはなれない仕組みにしている。推薦委員会で1人に絞り込むことができなかった場合は、会員会計士による選挙が行われる規定になっている。

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この仕組みは、2​0​0​4年から07年まで会長を務めた藤沼亜起氏の時に導入された。その後の増田宏一氏、山崎彰三氏、そして現在の森公高氏の3代にわたって推薦委員会の指名で会長に就いてきた。

ところがその仕組みを、藤沼会長時代以前に行われていたような会員会計士による直接選挙に戻そうという意見が執行部内で台頭して、侃々諤々の議論が続いているというのである。

現在の選挙制度に不満を持っている会計士の主張はこうだ。

いまの制度では大監査法人の“談合”によって会長が事実上決まっており、組織に所属しない個人会計士や監査法人内での評価が芳しくない会計士は立候補できない、というのである。その点、かつてのような選挙なら誰でも立候補でき、公平だというのだ。

確かに、このところ大監査法人出身者が会長に就いているのは事実だ。藤沼氏は新日本監査法人だったし、増田氏はあずさ監査法人、山崎氏は監査法人トーマツだった。森氏を選んだ13年は、新日本の幹部が有力だったが、法人内をまとめきれず、あずさの森氏になった経緯がある。次の16年は新日本で決まりだとか、準大手のあらた監査法人に回るといった読みがまかり通っている。表面を見る限り、大法人がたらい回しにしている、という批判も正しいと見えなくもない。

実は、こうした主張は前会長の山崎氏の時代からくすぶっていた。推薦委員会の決定に不満を抱いた個人事務所出身の理事が、会員5​4​4人の署名を集め、山崎会長の解任請求をする事態に発展した。11年のことだった。請求は理事会によって否決されたが、山崎氏はその後、会長任期の期限が近づくと、会長選びの仕組み、つまりガバナンス改革を行うという方針を示してしまった。現在の森会長はその流れを受けて執行部内で議論を続けているのだという。

藤沼氏が現在の制度に変えたのは、長年指摘されてきた弊害を取り除くためだった。

第一に、会長選挙には膨大な資金が必要だったこと。候補者がホテルで大決起集会を開いて選挙権を持つ会計士を招待したり、テレホンカードなどの金券を配ったりが当たり前のように行われていた。もちろん公職選挙法の対象ではないから、どんなカネの使い方をしても自由だった。会長に立候補するには数千万円から億のカネが要ると言われたものだ。副会長も別に直接選挙を行っていたから、ここでも数千万円のカネがかかっていた。要は名誉をカネで買うようなものだったのだ。

第二の弊害は、会計士協会の実務の継続性が失われることだった。世の中で監査制度の重要性や会計基準の見直しが重要な課題になると、協会の役割が重要になった。ところが、有力会計士がそろって会長選挙に立候補した場合、落選した会計士は副会長や理事など他の役職に就くことができないため、執行部から外れて浪人せざるを得なかった。逆に、浪人し続けた人が突然会長に選ばれても、それまでの協会執行部の動きがほとんど分からない事態に直面したのだ。

現在の制度なら、理事から会長候補を絞り込むため、仮に調整が難航して選挙になっても、落選者は理事として残る。役員会で副会長などに指名することも可能だ。

「13人の推薦委員には、前会長など協会の実務を担ってきた人が入って選考するため、継続性などに配慮することができる。しかも、13人はバランスを考えて決めており、公平性が損なわれているという批判は当たらない」

現在の選挙制度を変えるべきではないと主張する大物会計士はそう言う。「人望さえあれば、中小の法人から会長が選ばれる可能性は十分にある」というのだ。それに直接選挙になったとしても、大量の会計士を抱えて票を持つ大監査法人の意向に大きく左右されることには何ら変わりはない。

「制度変更を主張しているのは、今の制度では自分が当選できないと思っているから。業界全体のことを考えて主張しているのではない」と別のベテラン会計士も言う。

「日本経済に様々な問題が山積する中で、協会執行部が内輪の問題に熱を上げているのは実にくだらない」と協会の役員も務めた中堅会計士は吐き捨てる。

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13年に就任した森会長への期待は大きかった。歴代会長に比べて若い55歳で会長に選ばれたことから、難題に果敢に挑んでいくとみられた。ところが就任早々、税理士との職域争いに直面した。会計士試験に合格すると税理士資格も取れる現行制度を見直せと税理士会側が主張し、政治を動かして法改正を画策したのである。これに会計士業界として反論するキャンペーンを張らざるを得なくなったのだ。

そんな内向きの仕事に忙殺されてきた森氏が、今度は会長選挙見直しという内輪の仕事に時間を取られているのである。「気がつけばもうすぐ1年半が過ぎ、任期の折り返し点。結局、何もできないうちに任期を終えることになりはしないか」と、森氏を支えてきたあずさ監査法人の関係者は危惧する。「政治とカネ」で問題視されている政治資金団体や政党の監査のあり方や、地方自治体、国の会計制度のあるべき姿など、会計士協会が率先して取り組む課題は少なくない。

会計士試験の受験者が激減して人材不足が深刻化する中で、協会は会計士の魅力を発信していくと言う。つまらない内輪の選挙制度改革に注ぐエネルギーがあったら、もっと社会貢献する姿勢を世の中に示すべきだろう。