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2014-12-01

会計士協会長選の「ガバナンス」

| 17:20

月刊ファクタの12月号(11月20日発売)に掲載された原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201412025.html


日本公認会計士協会の執行部でいま最大の懸案はガバナンス改革問題だという。だが、ガバナンス改革といっても、安倍晋三内閣が成長戦略の柱として掲げているコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革のことではない。自分たちのトップである会計士協会会長を選ぶ選挙制度の見直し論議に躍起になっているというのだ。

現在の会長選びは、まず選挙で65人の理事を選び、理事の中から立候補した人物を対象に「推薦委員会」が会長候補者を絞り込む。そのうえで、理事の過半数の信任を得て会長に就任する仕組みだ。会長の任期は3年で再任はできない。

推薦委員会は前会長や監査法人幹部、個人事務所幹部、外部有識者など13人からなり、そのうち9人以上が賛成しないと会長候補にはなれない仕組みにしている。推薦委員会で1人に絞り込むことができなかった場合は、会員会計士による選挙が行われる規定になっている。

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この仕組みは、2​0​0​4年から07年まで会長を務めた藤沼亜起氏の時に導入された。その後の増田宏一氏、山崎彰三氏、そして現在の森公高氏の3代にわたって推薦委員会の指名で会長に就いてきた。

ところがその仕組みを、藤沼会長時代以前に行われていたような会員会計士による直接選挙に戻そうという意見が執行部内で台頭して、侃々諤々の議論が続いているというのである。

現在の選挙制度に不満を持っている会計士の主張はこうだ。

いまの制度では大監査法人の“談合”によって会長が事実上決まっており、組織に所属しない個人会計士や監査法人内での評価が芳しくない会計士は立候補できない、というのである。その点、かつてのような選挙なら誰でも立候補でき、公平だというのだ。

確かに、このところ大監査法人出身者が会長に就いているのは事実だ。藤沼氏は新日本監査法人だったし、増田氏はあずさ監査法人、山崎氏は監査法人トーマツだった。森氏を選んだ13年は、新日本の幹部が有力だったが、法人内をまとめきれず、あずさの森氏になった経緯がある。次の16年は新日本で決まりだとか、準大手のあらた監査法人に回るといった読みがまかり通っている。表面を見る限り、大法人がたらい回しにしている、という批判も正しいと見えなくもない。

実は、こうした主張は前会長の山崎氏の時代からくすぶっていた。推薦委員会の決定に不満を抱いた個人事務所出身の理事が、会員5​4​4人の署名を集め、山崎会長の解任請求をする事態に発展した。11年のことだった。請求は理事会によって否決されたが、山崎氏はその後、会長任期の期限が近づくと、会長選びの仕組み、つまりガバナンス改革を行うという方針を示してしまった。現在の森会長はその流れを受けて執行部内で議論を続けているのだという。

藤沼氏が現在の制度に変えたのは、長年指摘されてきた弊害を取り除くためだった。

第一に、会長選挙には膨大な資金が必要だったこと。候補者がホテルで大決起集会を開いて選挙権を持つ会計士を招待したり、テレホンカードなどの金券を配ったりが当たり前のように行われていた。もちろん公職選挙法の対象ではないから、どんなカネの使い方をしても自由だった。会長に立候補するには数千万円から億のカネが要ると言われたものだ。副会長も別に直接選挙を行っていたから、ここでも数千万円のカネがかかっていた。要は名誉をカネで買うようなものだったのだ。

第二の弊害は、会計士協会の実務の継続性が失われることだった。世の中で監査制度の重要性や会計基準の見直しが重要な課題になると、協会の役割が重要になった。ところが、有力会計士がそろって会長選挙に立候補した場合、落選した会計士は副会長や理事など他の役職に就くことができないため、執行部から外れて浪人せざるを得なかった。逆に、浪人し続けた人が突然会長に選ばれても、それまでの協会執行部の動きがほとんど分からない事態に直面したのだ。

現在の制度なら、理事から会長候補を絞り込むため、仮に調整が難航して選挙になっても、落選者は理事として残る。役員会で副会長などに指名することも可能だ。

「13人の推薦委員には、前会長など協会の実務を担ってきた人が入って選考するため、継続性などに配慮することができる。しかも、13人はバランスを考えて決めており、公平性が損なわれているという批判は当たらない」

現在の選挙制度を変えるべきではないと主張する大物会計士はそう言う。「人望さえあれば、中小の法人から会長が選ばれる可能性は十分にある」というのだ。それに直接選挙になったとしても、大量の会計士を抱えて票を持つ大監査法人の意向に大きく左右されることには何ら変わりはない。

「制度変更を主張しているのは、今の制度では自分が当選できないと思っているから。業界全体のことを考えて主張しているのではない」と別のベテラン会計士も言う。

「日本経済に様々な問題が山積する中で、協会執行部が内輪の問題に熱を上げているのは実にくだらない」と協会の役員も務めた中堅会計士は吐き捨てる。

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13年に就任した森会長への期待は大きかった。歴代会長に比べて若い55歳で会長に選ばれたことから、難題に果敢に挑んでいくとみられた。ところが就任早々、税理士との職域争いに直面した。会計士試験に合格すると税理士資格も取れる現行制度を見直せと税理士会側が主張し、政治を動かして法改正を画策したのである。これに会計士業界として反論するキャンペーンを張らざるを得なくなったのだ。

そんな内向きの仕事に忙殺されてきた森氏が、今度は会長選挙見直しという内輪の仕事に時間を取られているのである。「気がつけばもうすぐ1年半が過ぎ、任期の折り返し点。結局、何もできないうちに任期を終えることになりはしないか」と、森氏を支えてきたあずさ監査法人の関係者は危惧する。「政治とカネ」で問題視されている政治資金団体や政党の監査のあり方や、地方自治体、国の会計制度のあるべき姿など、会計士協会が率先して取り組む課題は少なくない。

会計士試験の受験者が激減して人材不足が深刻化する中で、協会は会計士の魅力を発信していくと言う。つまらない内輪の選挙制度改革に注ぐエネルギーがあったら、もっと社会貢献する姿勢を世の中に示すべきだろう。