ついに「非正規社員」減少、雇用環境改善で「人手不足」の時代が始まる

講談社の現代ビジネスに書いた原稿です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42714


正規雇用といえば、20年続いたデフレ経済の落とし子のような存在で、企業が労働コストを引き下げる切り札として多用されてきた。正社員がやっていた仕事を、パートやアルバイト、契約社員に置き換える動きが続いたのである。なかなか正社員としての働き口がない中で、働く側も非正規雇用に甘んじてきたケースが少なくない。

人手不足が全国に広がる
ところが、この非正規雇用に変化の兆しが見え始めた。昨年来、人手不足が言われる中で、非正規の雇用者数が遂に減少に転じたのである。

総務省が3月27日に発表した2月の労働力調査(速報)によると、「非正規の職員・従業員数」は1974万人と前年同月比15万人減少した。一方で「正規の職員・従業員数」は3277万人と58万人増加。雇用者数全体としては51万人増の5595万人となった。雇用者が増える中で、非正規から正規へのシフトが起きたとみることもできる。

2012年末に安倍晋三内閣が発足して以降、雇用者数は増加が続いている。安倍首相も「アベノミクスによって雇用を100万人以上増やした」と繰り返し発言してきた。実際2012年12月〜13年2月の3ヵ月の平均雇用者数と、2014年12月から15年2月のそれを比べると、114万人増加している。

これに対して野党は、「首相は雇用が増えたと自慢しているが、増えたのは非正規雇用だけだ」と批判してきた。正規雇用はむしろ減って、非正規ばかりが増えたというのである。

この批判も、統計を見れば正しかったことが分かる。政権発足以来、昨年の夏ごろまでは、ほぼ一貫して正規雇用は減少。これとは逆に非正規は大きく増えていた。

一見、正規から非正規にシフトしているように見えるが、雇用者数全体は伸びてきたのだから、雇用環境は改善傾向にあったとみていい。「人手不足」がジワジワと全国に広がり、パートやアルバイトなど非正規雇用の働き口を生み出したわけだ。正規社員の減少は、団塊の世代など比較的人口の多い高齢世代が退職していることとも無関係ではない。

減少が続いていた正規雇用だが、昨年9月に1.1%増となって以降、プラスになる月が増えた。そして2月は1.8%増という高い伸びになったのだ。一方で非正規雇用者は0.8%減少した。

これをどう読むべきだろうか。

非正規と正規の人件費の差が縮まる
2月の統計で非正規の内訳をさらにみると、アルバイトの25万人減、嘱託の11万人減が目を引く。飲食店などサービス産業を中心にアルバイトを募集しても人が集まらない状態が続いており、時給も急速に上昇している。

非正規と正規の人件費の差が縮まってくれば、人材を安定的に確保できる正規雇用にシフトしていこうという動きが企業の間に生まれるのは当然だろう。

男女別にみると、傾向が違う事が分かる。非正規の減少は圧倒的に男性が多かった。男性の場合、非正規雇用が14万人減って正社員が24万人増えたが、非正規の中で減少が目立ったのは嘱託や契約社員など。つまり、嘱託や契約社員から正規社員に移った人が多くいたとみられる。

一方、女性の場合、正規は35万人増えたが、非正規の減少は1万人にとどまった。つまり、これまで働いていなかった女性が働くようになり、その分雇用者が増えたとみられるのだ。非正規の中ではアルバイトが23万人も減少、パートが14万人増えた。契約社員派遣社員も増えている。

高まる大手企業の採用意欲
業種別に2月の就業者(正規・非正規含む)の増減をみてみると、どんな産業で人手が求められているかが見えてくる。製造業が17万人増、卸売業・小売業が13万人増、運輸業・郵便業が11万人増といった具合だ。

円安によって業績が改善している自動車関連の製造業などは積極的に人を採用し始めている。小売り業や運輸業は、景気回復によって仕事が大幅に増えているため、人材が必要になっている。

一方で2月の雇用者数で減少が目立ったのは、建設業の19万人減や宿泊業・飲食サービス業の5万人減など。こうした業種が不景気に喘いで雇用を減らしているとはとうてい考えられない。むしろ仕事はあるのだが、働き手に敬遠されてなかなか人材を確保できていない様子が浮かび上がる。

もちろん、2月の非正規雇用の減少が今後も続くかどうかは分からない。65歳以上の退職世代の割合は大きく、彼らが正規雇用から離れて今後も非正規雇用者として働き続ける可能性は高い。そうなると、雇用統計の数字が大きくブレル要因にもなる。

一方で、来年春に卒業する予定の大学4年生の就職活動が始まっているが、昨年以上に企業の採用意欲は強い。優秀な若い人材の確保が企業活動にとって不可欠になっており、早い段階で内々定を出して囲い込む動きが進展しそうだ。新卒の学生だけで企業の求人ニーズを賄うのは無理で、既卒の世代の正規雇用なども広がっていくとみられる。正規雇用が増え、非正規は減るという傾向が今後も続く可能性は十分にありそうだ。

当然のことながら、不安定で報酬の低い非正規雇用よりも、正規雇用者が増えれば、消費などにおカネが流れる可能性は高まる。昨年4月の消費増税以降、国内消費の冷え込みは深刻だが、雇用者数の増加と待遇の改善によって、消費が下支えされてくる可能性はある。景気の足下の強さを把握するうえでも、3月、4月の労働力調査からは目が離せない。