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2017-11-29

年収800万円サラリーマンは本当に「金持ち層」なのか 狙い撃ちの税制改正に大いなる疑問

| 08:41

現代ビジネスに11月29日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53655

取りやすいところから取る

結局、取りやすいところに増税するという事なのだろうか。政府与党が議論を進めている2018年度税制改正所得税の見直しで、年収800万円台から900万円台以上の会社員が増税になりそうな気配だ。

自営業者やフリーランスなど全員が対象になる「基礎控除」を増やす一方で、会社員だけが対象になる「給与所得控除」を引き下げる検討が進んでいる。

働き方によって控除が異なり税額に差が付くのは不公平だという理屈は一見正しそうだが、どうやら本音は税金を「取りやすいところから取る」ための制度改正の様相が強まっている。

給与所得控除は、スーツや靴など会社員として働くために必要なものの購入代などを「必要経費」として認める仕組み。年収に応じて控除額が増えるが、現在は年収1000万円超で控除額が上限の220万円に達して頭打ちになる。

基礎控除を引き上げて、給与所得控除を引き下げることで、低所得者は減税になり、高所得者は増税になるとしているが、焦点は年収いくら以上で増税になるかという「分岐点」だった。

政府与党は今回の見直しで、控除の上限額220万円を引き下げたうえで、さらに上限に達する年収の線引きも年収800万円台〜900万円台に引き下げたい考え。つまり上限を超える800万円台〜900万円台の会社員は増税になる可能性が高い。

サラリーマンへの不公平は変わらず

だが、実際に、基礎控除が増えたとして、自営業者やフリーランスで働く人の税負担が減り、会社員との間で「公平性」が増すのだろうか。

現実には、自営業者などは申告時に経費計上が認められており、一般的に言って会社員よりも幅広く控除が認められている。

最近では言われなくなったが、会社員・自営業者・農林漁業所得者の所得捕捉率を、「9・6・4(クロヨン)」「トーゴーサン(10・5・3)」と呼び、その格差が長年指摘されてきた。給与所得者は会社による源泉徴収が原則で、所得を隠しようがないため、所得捕捉率は9割あるいは10割なのに対して、自営業者は6割あるいは5割だとするものだった。

この状況は抜本的に代わったわけではない。それにもかかわらず、「給与所得控除」が縮小される方向になったことに、サラリーマンの間からは不満の声が上がっている。決して、自営業者よりも会社員が優遇されてきたわけではないからだ。

むしろ最近は、比較的高い給与所得を得ている人への課税強化が続いてきた。2011年度の税制改正では、それまで所得に応じて増加していた控除に上限が導入された。また、2013年度税制改正では所得税の最高税率が40%から45%に引き上げられ、個人住民税と単純合算した最高税率は50%から55%になった。

財務省自民党税制調査会は、「カネ持ち」に課税強化する分には批判を浴びないと思っているのだろう。確かに世の中は格差に対する批判が根強くあり、高額所得者への増税に賛成する声も少なからずある。

都合の良い「カネ持ち」

だが、年収800万円会社員は「カネ持ち」なのだろうか。50歳近くになって部長になり、ようやくたどり着いた年収といった感じではないか。しかし一方で、子どもが大学生年代に差し掛かるなど、出費も大きくなる時期だ。「カネ持ち」だとして増税のターゲットになることに釈然としない人も多いに違いない。

欧米の感覚では、所得税の累進強化など、所得に過重な課税をすることは、逆に「格差」を固定化することになると考えられている。フローの所得にかかる税金が高ければ、一から稼いでカネ持ちになるのは難しい。

表面上の所得が小さくても資産をたくさん持つ従来からのカネ持ちを優遇することになるというわけだ。日本でも所得課税を強化すれば、フローの所得が少ない資産家を優遇していることになる。

カネ持ちへの課税強化でそれを再分配すれば本当に国民は豊かになるのだろうか。カネ持ちを大事にしない国からは、カネ持ちは逃げていく。当然、課税が強化されれば、カネ持ちほど諸外国に移住ができ、節税対策が可能だ。

会社員は打ち出の小槌か

今回の税制改正では、当初、年収1000万円超の会社員に増税する方向で検討されてきた。だが、前述の通り、会社員のこの層は、教育費や住宅ローンなど出費も多い世代が重なる。子どもの教育世帯を支援すると掲げる一方で、増税するのでは政策がチグハグだという指摘もあり、増税対象を広げることになった。この結果、800万円台〜900万円台という案が浮上してきたのだ。

だが、年収800万円台の会社員は決して「カネ持ち」層ではないことは明らかだ。どうやら、働き方によって云々は、増税を会社員に納得させるための「方便」だったようだ。結局は、控除額をいじれば税収増が簡単に実現できる、「取りやすいところから取る」のが政府のいつもの手なのだ。

もし、本当に「働き方」によって税制上の「格差」が生じているというのならば、会社員もすべて「自己申告制」に変え、会社による源泉徴収制度は止めるべきだろう。実際、欧米では申告するのが当たり前になっている。

源泉徴収によって国は効率的に会社員の所得を把握し、税金を会社に代行させることで徴収してきた。この源泉徴収制度を維持するために、会社員から不満が出ると、給与所得控除を積み増してきた。それが、最近、会社員が文句を言わなくなったからか、控除の縮小に拍車がかかっている。

打ち出の小槌のように給与所得控除を使っていると、いつか、会社員が反乱を起こすことになりかねない。その時は、源泉徴収制度も守れなくなる可能性がある。

2017-11-27

「草加せんべい」 地域ブランドで打って出る

| 10:43

ウェッジインフィニティに11月26日にアップされた原稿です。→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9235

 コメをついて丸く延ばし、焼いて醤油をぬった「せんべい」は、東日本を中心に広くお茶菓子として愛されている。「塩せんべい」「焼きせんべい」などと呼ばれていたが、戦後は「草加せんべい」が一般名詞のように使われてきた。

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山香煎餅の河野文寿社長

日光街道2番目の宿場町だった草加宿(現在の埼玉県草加市)の名物だったという来歴もあるが、市内にたくさんあった煎餅店の主人たちが、高度経済成長期に百貨店の物産展などに進出、大いに「草加せんべい」の名前を浸透させたことが貢献したとされる。「せんべい」イコール「草加せんべい」というイメージが定着したわけだ。

 ところが、厄介な問題が起きる。外国産のコメを原料に新潟で焼いた「草加せんべい」まで登場したのだ。さすがに草加の煎餅店は危機感を強めた。協議会を作って「地域団体商標」として特許庁に申請、登録された。2007年のことだ。

 それ以来、「草加せんべい」は、本物のせんべいを示す、草加市が誇る地域ブランドになった。

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せんべいチョコ

草加市内にはせんべいの製造・販売に携わる会社や店が60以上あるという。そんな中で最後発である1971年創業の「山香煎餅本舗」は、次々と斬新なアイデアを打ち出すことで、「草加せんべい」を発信し続けている。

 その1つが「草加せんべいの庭」。創業者で会長の河野武彦さんが建てたせんべいのミニ・テーマパークだ。木を使った建物にこだわり、建築家を探すところから始め、構想から10年をかけて2008年に完成した。 

 一角にある手焼き体験コーナーでは、予約なしでせんべいを焼くことができる。毎月第2土曜日には「子どもせんべい道場」を開催。参加するごとにスタンプがもらえ、15個ためると「職人」として山香煎餅の前掛けがもらえる。

 「おじいちゃん、おばあちゃんと孫が一緒に来て楽しんで焼き、食べる。草加せんべいが思い出と共に記憶に刻み込まれるんです」

 現社長の河野文寿さんは言う。美味しかった物の記憶と共に、草加せんべいファンが増えていくわけだ。「いずれ、職人の前掛けをもらった子どもの中から、当社に入社してくる人が出てきたら最高です」と河野社長。

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せんべい焼き体験に訪れた佐々木さんご家族(上)、「子どもせんべい道場」のスタンプ(下)

 飲食コーナーには「草加せんべいソフトクリーム」や「草加せんべいバーガー」「草加せんべいドーナツ」といったメニューが並ぶ。バーガーは料理が趣味の河野社長が自ら開発した。せんべいの粉を練っているうちに、これをハンバーガーにしたら、と思い付いた。

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草加せんべいバーガーと小松菜ジュース

 イベントの時などは、隣接する実演コーナーで、山香煎餅のベテラン職人による手焼きの技を実際に見ることができる。山香煎餅のせんべいを直売する売店棟では、様々なイベントが開かれる。オペラなどのミニ・コンサートは好評だ。

 「最近、せんべいは売れないと言って、実際、多くの煎餅店がつぶれています。でも売り方を工夫すれば、まだまだ伸びるのではないか」

 そう語る河野社長は、新しい需要を取り込むために、せんべいの新商品開発にも余念がない。

 このところのヒット商品は「草加せんべいチョコ」。焼き上がった草加せんべいを細かく砕いてクランチ状にし、それとホワイトチョコレートを合わせた新食感のお菓子だ。6枚入り540円と決して安くはないが、「細かく砕くなど猛烈に手間がかかっているので、同業他社は誰も真似しない」(河野社長)と苦笑する。

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職人によって焼かれる「天晴」せんべい

 最近メディアで話題になったのが、「おいしい非常食」。賞味期限が通常6カ月のせんべいを、10倍の5年に延ばして長期備蓄を可能にした。保存期限が来ると廃棄処分する保存食が少なくないが、せんべいならば期限が迫ったらおいしく食べてしまえる。


一球入魂の最高級品

 もともと、山香煎餅では「本物」にこだわって来た。例えば「天晴(てんはれ)」という商品はこだわりの有機米を原料に、天然素材のダシと有機醤油を使い、備長炭で職人が1枚1枚焼き上げる。どんなに頑張っても職人1人が1日100枚しか焼けない。値段は1枚1080円。12枚入りが1万4040円という、せんべいとしては超高級品だ。

 「30年やっているベテラン職人にベンツぐらい乗らせてあげたい。一球入魂の最高級品ですから」

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生産ラインを流れていくせんべい

 せんべいを極めた職人に、それに見合う十分な稼ぎを払おうとすれば、決して高くない値段だ、というわけだ。

 もちろん、機械を使って焼いている商品も多いが、それでも本物の材料にこだわっている。調味料も「アミノ酸」は使わず、昆布カツオのダシをとって使っている。スーパーなどに大量に売る価格勝負の商品は作らない。


銀座に出店

 最近、河野社長は全国で「良い物」を作ったり、扱ったりしている人たちとのネットワークづくりに力を入れている。高知県四万十川中流で町おこしを行う畦地履正さんの声掛けでスタートした「あしもと逸品プロジェクト」の中核メンバーなのだ。そんなネットワークから新たな商品も生まれている。

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せんべいの原料となるお米

 畦地さんは四万十の栗やコメ、紅茶など「良い物」を育て、全国に売り出している。さっそく、四万十町でとれる「かおり米」を使い、山香煎餅がOEM受注してせんべいに仕立てた。「かおり米せんべい」は草加せんべいスタイルではなく、油で揚げたせんべいだが、これも山香煎餅が長年培ってきた技術。草加せんべいの技術が全国各地の地域の特産品づくりに生きている。

 今、山香煎餅では、次なる挑戦を準備している。地域で磨いた「草加せんべい」ブランドで、「打って出る」計画だ。来年1月22日に東京銀座の中心に「草加せんべい」の店を出す予定だ。

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せんべい焼き体験を楽しむ笑顔の斉藤さんご家族

 銀座には東京の名だたる煎餅店が店を構える。そこにあえて「草加せんべい」で打って出るのだ。小さな店舗のため、手焼き体験などのコーナーは作れないが、タブレット端末を置いて、手焼きの草加せんべいのストーリーなどをアピールするつもりだという。

 また、季節感も大切にしていく。和菓子では四季折々に商品が変わるが、せんべいにはなかなか変化がない。春には山菜味、夏はカレー味、秋はさつまいも味、といった季節商品にも力をいれ、新しい需要を掘り起こしていく。

 かつては、関東を中心に「進物」といえば「せんべい」というのが定番のひとつだった。銀座という消費の最先端の場所で、せんべいを巡る消費者の嗜好をどう捉えていくか。おそらく「草加せんべい」にまったく新しい価値を加えることになるのだろう。

(写真・生津勝隆 Masataka Namazu

2017-11-24

宝飾品など販売好調、消費底入れか 2019年の消費増税へ、「国内消費」の行方が焦点

| 10:15

日経ビジネスオンラインに11月24日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/112200064/

訪日外国人の高額品購入が復活

 百貨店での高額商品の売れ行きが好調だ。日本百貨店協会が11月21日に発表した10月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)によると、雑貨の中の「美術・宝飾・貴金属」部門の売上高が前年同月比5.8%増と7カ月連続のプラスとなった。10月は2週連続で週末に台風日本列島を直撃するなど、百貨店全体の売上高は1.8%のマイナスだったが、高額商品の売り上げは失速しなかった。高額品の売れ行きは消費全体の先行きを占う先行指標とも言えるだけに、長期にわたって続いてきた消費低迷がいよいよ底入れする気配が出てきた。

 高額商品好調の追い風になっている最大の要因はインバウンド消費。訪日外国人の高額品購入が復活してきた。同じ百貨店協会がまとめた10月の外国人観光客の売上高調査によると、免税手続きをした売上高は280億9000万円と前年同月の1.9倍に拡大、月間で過去最大を記録した。

 免税手続きをした客の数は38万人と前年同月比1.6倍となり、こちらも過去最多を更新した。中国の国慶節の休暇が10月1日から8日までだったこともあり、中国人観光客の来店が大幅に増えた。

 中でも注目されるのが、免税客1人当たりの購買額が7万4000円と前年同月の5万9000円から大幅に増え、2015年12月の7万7000円以来の高さとなったこと。百貨店協会の調べによると、外国人観光客に人気があった商品のトップは引き続き「化粧品」だったが、2位に「ハイエンドブランド」、3位に「婦人服飾雑貨」が入り、中国人を中心とする外国人観光客の消費が再び高額化していることを物語っている。

 ちなみに免税客の客単価は2014年12月の8万9000円がピークだった。急激な円安によって日本での買い物価格が大幅に割安になったこともあり、百貨店で欧米の高級ブランド商品が飛ぶように売れた。そうした「爆買い」はその後沈静化、客単価も下落した。2016年7月には5万2000円を付けていた。

 その後は、日本の化粧品や食品などに購買対象が広がっていた。ここへきて日本製の婦人物コートなどが売れているといい、客単価の上昇は、かつての「爆買い」とはやや様相が違う。日本の良いものを買うという本来の方向に進みつつあるという見方もある。今年7月の単価は6万4000円だったので、3カ月で1万円上がったことになる。

株高による「資産効果」が追い風に

 問題は、日本国民などによる国内消費に火がつくかどうか。高額品の売れ行き好調は消費が盛り上がる予兆と見ることもできるが、果たしてどうか。もちろん外国人観光客は免税品だけを買うわけではないので、国内消費にも貢献しているが、国民が消費を増やさなければ、力強さは戻ってこない。

 そこで、全国百貨店売上高から免税売り上げを引いた「実質国内売り上げ」を計算し、対前年同月比を見てみた。対象店舗数が違うので、正確な数字とは言えないが、それでも傾向はわかる。

 2016年8月から2017年8月まで1年にわたってマイナスが続いていたが、2017年9月は1年2カ月ぶりにプラスに転じた。ところが10月はマイナス4.2%と、再び減少に転じてしまった。台風など天候要因が大きかったので、一喜一憂はできないが、今後の動向を注視する必要がありそうだ。

 高額品消費に追い風はまだある。株価の大幅な上昇によるいわゆる「資産効果」だ。日経平均株価が9月中旬に2万円を突破、10月に入ると上げ足を早め、2万2000円台に乗せた。海外投資家が買い越しを続けていることが大きいが、一方で日本の個人投資家は株式を売り越しており、値上がりによる利益を獲得しているものとみられる。

 株価の上昇によって利益を得たり、含み益が増えたりしたことで、財布のひもが緩み、それが消費に回る。「資産効果」による消費は、日頃は買わない高額品などが売れることだ。百貨店の「美術・宝飾・貴金属」が、外国人観光客だけでなく、日本人富裕層に売れ始めるようになると、消費が本格的に底入れする可能性が出てくる。

 国内消費が低迷を続けたままだと、2019年10月に予定される消費税率の引き上げに暗雲が漂う。安倍晋三首相消費増税分の使い道を争点に10月に解散総選挙を行っており、現在8%の税率を10%に引き上げることは既定路線だが、消費が低迷したまま増税に踏み切れば、さらに消費が落ち込み、景気を失速させることになりかねない。

 2020年には東京オリンピックパラリンピックが控えており、これに向けた建設投資や設備投資などが2018年は佳境を迎える。景気は一段と力強さを増すに違いないが、それが消費に回るためには、安倍首相も言うように働く人たちの給与が増えて「経済の好循環」が起きることが不可欠になる。

 日本を訪れる外国人の消費を多様化することも課題だ。免税品を狙った「買い物ツアー」では、消費対象は限られる。しかも免税手続きをした場合、消費税は入って来ない。せっかくやってくる外国人にもっとおカネを落としてもらう工夫が必要だろう。

訪日外国人は「リピーター」が過半数に

 日本政府観光局(JNTO)の推計によると、日本を訪れる外国人の数は今年1〜10月の累計で2379万人と、2016年1年間の2403万人に迫っている。2017年1年間では2800万人に達する見通しだ。オリンピックを開く2020年には4000万人に増やすという目標を政府は掲げている。

 オリンピック観戦に来る観光客を含めれば、4000万人の突破は十分にあり得る。その観光客によるインバウンド消費が、消費全体に占める割合は現在以上に重みを増す可能性が高い。

 いかに外国人に長期滞在しておカネを落としてもらうか、そのための仕組みづくりが不可欠だ。

 観光庁がまとめている「訪日外国人の消費動向」の2017年7〜9月報告書によると、旅行者1人が旅行中に支出している金額は14万339円。前年同期に比べて9.8%も増えている。

 では、何に使っているか。買い物代が34.2%と最も多く、次いで宿泊費が29.7%、飲食費が21.1%、交通費が11.2%となっている。「娯楽サービス費」は3.3%に過ぎない。

 一方でこの調査では「次回したいこと」も聞いている。「次回したいこと」で「今回したこと」を上回るポイントになったのは、「温泉入浴」(40.0%)や「四季の体感」(27.6%)、「日本の歴史伝統文化体験」(27.0%)、「自然体験ツアー・農漁村体験」(16.0%)、「舞台鑑賞」(12.9%)など。もちろん、次回も「ショッピング」を楽しみたいという人も多い(42.6%)がより体験型の旅行を求めていることがわかる。いわゆる「モノ消費」から「コト消費」へのニーズだ。

 そう考えると、まだまだ日本には旅行者をひきつけるコンテンツがたくさんある。しかも大都市部ではなく、地方にこそその魅力が散在している。だが、一方で、地方ほどその魅力に気づいておらず、観光コンテンツとして磨かれていないケースが多い。

 「インバウンド消費」というと、百貨店やドラッグストアでの「爆買い」がイメージされがちだ。だが、今や日本を訪れる外国人はリピーターがかなりの数に上っている。観光庁の前述の調査では、初めて日本を訪れた人は43.7%で過半数はリピーターだった。10回目以上という人も8.2%に達する。日本にやってくる外国人は年々「日本通」になってきているのだ。

 そうした旅行者により「日本らしさ」を体験してもらう工夫をしなければ、早晩飽きられてしまう。日本にやってくる理由は「買い物」だけではなくなっているのだ。

 日本の良さをアピールするだけではない。日本が世界から呼び寄せるコンテンツの力も旅行者には魅力だ。東京の博物館で開かれる展覧会の特別展などで、外国人の姿が多く見られるようになった。また、音楽会でも外国人が席を占める。日本に絵を見にやってくる、あるいは音楽を聴きに来るのは、日本が世界からコンテンツを集める力を持っているからだ。日本で開くコンサートももはや日本人のためだけのものではない。

 2020年に向けて、どうやって外国人に国内でおカネを落としてもらうか。真剣に考える時が来ている。

2017-11-22

「消える職業」公認会計士が人気回復基調のワケ 試験合格者、2年連続で増加の吉報

| 09:44

現代ビジネスに11月22日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53590

回復の背景

「ようやく底入れした」と、胸をなでおろすのは、日本公認会計士協会の役員も務めたベテラン会計士。ここ数年、会計士の不人気ぶりが目立っていたことに危機感を募らせていた。

11月17日に金融庁が発表した2017年の公認会計士試験合格者は1231人と前年に比べて123人増加した。2016年には1051人まで減っていたが、2年連続の増加となった。

背景には、減り続けていた試験受験者(願書提出者)の数が増えたこと。今年は1万1032人と、どん底だった2015年の1万180人に比べて8%増えた。

2015年は東芝不正会計問題が発覚した年で、監査を担当していた監査法人や担当会計士が処分されるなど、会計監査のあり方が強く批判された。安倍晋三内閣によるアベノミクス開始以降、就職情勢が急速に好転したこともあり、難しい公認会計士試験に挑戦するのではなく、民間企業に就職する学生が増えたことも、受験者の大幅な減少につながったとされる。

危機感を持った日本公認会計士協会では、「コウニンカイケイシってナンダ!?」と題する職業としての会計士をPRする動画を作成するなど、会計士職業の知名度アップに力を入れた。

「公認会計士って、どんな仕事?お金の計算ばかりしている仕事? 決算書を作る専門家? そんな風に思ってはいませんか?」

動画が公開されるに当たって会計士協会はそんな問いかけをしている。

「公認会計士は健全な資本市場を守る社会的に重要な役割をもち、経営的思考を持って企業のトップと接する、やりがいと可能性にあふれた職業です。その魅力をこの動画で感じ取って、あなたの未来の選択肢にぜひ『公認会計士』を加えてください」と、リクルートを前面に打ち出した。

それぐらい若い人材の確保が難しくなっていることに危機感を募らせていたのだ。

振り回された「人気」職業

学生たちに公認会計士試験が敬遠されていたもう一つの要因は、日本最難関と言われるほど合格率が低かったこと。2011年には最終合格者の願書提出者に占める割合(合格率)は6.5%にまで下がった。

かつては在学中に合格しなくても、浪人して予備校に通い、合格を目指すというのが当たり前の姿だった。ところが最近では試験合格のために浪人することを嫌う風潮が強まり、会計士試験離れに拍車をかけた。

このほど発表された2017年の合格率は11.2%。2011年を底に6年連続で合格率が上昇している。

2000年代に会計士不足が深刻化すると、試験制度の見直しなどで会計士試験に大量に合格させる時代が続いた。2006年には3108人、2007年には4041人、2008年には3625人が合格している。当時の合格率は2007年で19.3%。合格率の上昇と共に受験者も増え、2010年には2万5648人が願書を出した。今年の受験者の2倍以上である。

そこへリーマンショックが直撃。一転して、会計士余りの時代に直面する。1つの監査法人で500人規模の採用をしていたところが、一気に絞り込んだため、試験に合格しても監査法人に就職できない「就職浪人」が誕生したのだ。

会計士は試験に合格しても、監査法人などでの2年間の業務補助と、3年間の実務補習が終わらなければ会計士として活動できない。監査法人に入れないと実務補習が事実上受けられないという問題に直面した。

会計士試験は本来、業務を始める前提の資格試験だが、弁護士試験などとともに、試験に受かれば食べていけるというギルド組織への登竜門になっていた。米国などでは会計士資格を持っていても他の職業に就いているケースは普通だが、日本の場合大半が監査法人などの会計事務所に勤め、一般企業の経理部などに就職するケースはまれだ。

日本経済新聞が今年度の大手監査法人の採用計画を調査しているが、4法人合計で1000人弱となっており、今年1231人が合格しても、ほとんどが大手の監査法人に採用される計算になる。

本当に必要とされる人材か…?

一方で、資本市場の拡大や、企業金融の高度化によって、企業などが求める会計人材へのニーズは高まっている。

会計士試験に合格したら監査法人に入るという発想や仕組み自体を大きく見直すべきタイミングに来ているのだが、なかなか試験制度自体が世の中の変化に対応できていない。

会計士試験への受験者・合格者が2年続けて増加したことで、会計士の不人気には歯止めがかかったと言えるのだろうか。会計知識は求められる一方で、従来の会計監査制度や監査法人のあり方などが大きく問い直される段階に来ている。

仮想通過ビットコインの基盤技術であるブロックチェーンが広がれば、相互にデジタルデータを保有することで、会計帳簿で不正を働くことは難しくなるとされる。そうなれば、会計帳簿が正しいかどうかを証明する会計監査自体が姿を消す可能性も出て来る。会計業務は「消える職業」として、いの一番の名前が挙がる。

そんな新しい時代に求められる会計専門家を今の試験が供給しているのかどうか。改めて検証が必要になるだろう。

2017-11-20

東証は東芝の犠牲者

| 09:41

日本CFO協会が運営する「CFOフォーラム」というサイトに定期的に連載しています。コラム名は『コンパス』。オリジナルページもご覧ください。→http://forum.cfo.jp/?p=8577

 東京証券取引所は2017年10月12日、東芝株について「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」と「監理銘柄」から「指定解除」した。東芝の内部管理体制について「相応の改善がなされた」と認めた結果としている。これで、2015年に発覚した東芝粉飾決算に関する東証の「審査」は一段落。東芝は粉飾や内部管理体制の不備を理由とした上場廃止からは免れたことになる。

 さらに、10月24日には東芝が臨時株主総会を開催、半導体事業の売却承認を取り付けた。売却額は2兆円ともいわれ、2018年3月末までに売却が完了すれば、現在の債務超過が解消される見込み。2期連続の債務超過も東証の上場廃止基準に定められており、これからも逃れることになる。

 東芝株主総会前に、自社が東証に提出した内部管理体制の「改善報告」を公表した。臨時株主総会に報告する決算については、監査法人から限定付きながら適正意見を得たが、内部統制については「不適正」との意見を監査法人に付けられていた。「改善報告」を総会前に公表することで、株主の理解を得ようとしたのだろう。

 東芝が公表した「改善報告」では、これまで終始一貫「不適切会計」としてきたものを「不正会計」と改めて表記している。大手メディアには「反省の意思を明確にするため」と説明しているようだ。「不適切」と言い張ることで、あたかも「悪いことはしていない」と言いたいかのように受け取られていた。

 金融庁から処分される際も、有価証券報告書虚偽記載と認定されており、粉飾つまり不正会計が長年にわたって行われていたことが公になっている。それでも東芝は「不適切」と言い続けたが、ようやく東証に対しては「恭順の意」を示したわけだ。

 だが、東芝が本当に反省しているのかは疑わしい。というのも同社のホームページのトップにはいまだに「不適切会計」という言葉が使われている。さらには「不正会計問題」ではなく、単なる「会計問題」と記載しているところもある。あくまで「不正」という言葉は使わないという意思がうかがえる。上場廃止を回避するために、東証に対してのみ「不正会計」という言葉を使っているようなのだ。

 そんな東芝をなぜ東証はあっさり許したのか。東証のルールでは、特注銘柄の指定は最長1年半。その期限は2018年3月の段階で切れており、審査でクロかシロ、つまり上場廃止か上場維持かを決める必要性に迫られていた。

 東証としては、株主などに大きな影響を与える上場廃止という選択肢はなかったのかもしれない。東芝のように大勢の株主がいて、銀行や生命保険会社が大株主になっているような老舗企業を上場廃止にすることは当初から想定していないのではないか。

 どこからも文句の来ないような小さなベンチャー企業はさっさと上場廃止にするが、老舗企業は守り抜く。そんなダブルスタンダードなのだろう。

 東証自体、株式上場している営利企業だ。取引所は本来、そこで売買する投資家が最も尊重すべき「客」のはずだが、どうやら上場して賦課金を払ってくれる企業を「客」と思って優先しているのだろう。そんな利益相反を避けるために、上場廃止などの審査は東証の自主規制法人が行うことになっており、理事長以下7人の理事の過半である4人は独立性の高い外部理事ということになっている。

 だが、実際には理事長は金融庁長官の天下り。東証プロパーの3人の理事は金融庁には逆らえない。外部理事の1人は公認会計士だが、所属する日本公認会計士協会は金融庁の監督先で、役所の方針に異を唱えることなどできない。つまり、金融庁の胸先三寸で上場廃止の可否が決まるのが実情なのだ。しかも議事はまったく公開されていない。役所の審議会は議事録が公開されているから、それ以下である。

 東証が金融庁の意向を忖度し、不正を犯しても大企業だからといって優遇していれば、東証という市場の「質」が問われることになりかねない。取引所が上場廃止のルールを設けているのは、腐ったリンゴの売買を見逃せば、腐ったリンゴを買わされた投資家が市場自体を信用しなくなるからだ。あそこの市場は安心して売買ができる、ということにならなければ、市場の繁栄はあり得ない。東証は東芝を守って、自らの信用を犠牲にしていることになる。

2017-11-17

「銀行が消える日」がやってくる ついに大手銀行が大規模リストラへ

| 10:02

日経ビジネスオンラインに10月27日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/111600056/

3グループ合計で3万2000人分の業務削減

 ついに大手金融機関が大幅な人員削減に動き出す。みずほフィナンシャルグループ(FG)は11月13日、傘下のみずほ銀行の支店など国内拠点の2割に当たる約100店舗を削減、2026年度末までにグループの従業員を1万9000人減らす方針を打ち出した。また、三菱UFJフィナンシャル・グループも2023年度末までに9500人分の業務量を削減、三井住友フィナンシャルグループも2019年度末までに4000人分の業務量を削減する、としている。

 3メガバンクの言い方はいずれも慎重で、大手メディアも腫れ物に触るかのような扱いだ。三井住友は「業務量を削減」という表現をして、人を削減するわけではない、というニュアンスをにじませる。三菱UFJも同様に「業務量を削減」としているうえ、目標年度は東京オリンピックパラリンピック後の2023年度末だ。

 メディアも、「リストラ」という言葉は封印し、「業務削減」「業務の効率化」といった単語を使っている。せいぜい「構造改革」ぐらいだ。「浮いた人員は都市部の支店を中心に投入し、収益力を取り戻す狙いだ」(日本経済新聞)と、あくまで人切りはしないというムードを作っている。

 メガバンクは新卒学生を大量採用してきた。就職情報誌のランキングによると、2016年4月入社では、みずほFGが1920人、三井住友銀行が1800人、三菱東京UFJ銀行が1300人を採用したという。団塊世代の退職などの穴を埋めるために大量採用しているのだ。「メガバンクに就職できて、これで安泰だ」と思う新卒者も少なくなかっただろう。そんな人たちにとって、今回の「リストラ方針」は大きなショックだったに違いない。

 一見、突然のように見える構造改革方針は、なぜ打ち出されたのか。

 一つはマイナス金利政策などに伴う金利の低下で、銀行業務そのものが急速に儲からなくなっていることがある。日本の銀行の伝統的なビジネスモデルは、広く預金を集めて企業などにお金を貸し、その金利差で儲けるというもの。ところが低金利によって、その金利差がほとんどなくなっている。

伝統的な商業銀行は「構造不況

 さらに、企業などの資金需要が乏しく、銀行から資金を借りるところが激減している。預金が貸し付けに回っている割合を示す「預貸率」は銀行114行の平均(2016年3月期)で68%に過ぎない。預金と貸出金の差額は何と244兆円に達している。

 景気が悪くて企業の資金需要がない、というわけではない。債券発行やファンドからの投資受け入れなど、資金調達手法が多様化していることで、銀行にお金を借りに来なくなっているのだ。

 つまり、構造的な変化が起きているわけで、金利が上昇し始めれば、銀行の収益力は元に戻る、というわけではないのだ。日本経済新聞の記事の中で、三菱東京UFJ銀行の三毛兼承頭取は「伝統的な商業銀行モデルはもはや構造不況化している。非連続的な変革が必要だ」と発言している。

 だが、ここまでならば、世界的な低金利の中で、欧米の金融機関が直面してきた課題と変わらない。欧米では10年以上前から店舗網の縮小や窓口業務を行ってきた行員の大幅削減などを行ってきた。日本のメガバンクの構造改革方針は、10年遅れのリストラ、と見ることもできる。

 問題は、銀行の経営がさらに深刻なことだ。人工知能AI)やフィンテックと呼ばれる金融技術の進化によって、銀行業務そのものが「消える」可能性が出てきているのだ。特に資金決済など、伝統的に銀行が担ってきた業務が急速に新しい仕組みに置き換わりつつある。店舗でのATMを使った振り込みがパソコンなどを使った振り込みに変わるだけなら、銀行の役割は変わらない。ところが、今進んでいることは、銀行を介さずに携帯電話端末の間だけで決済ができてしまう新しい仕組みの進展だ。国境を越えても関係がないため、高い手数料を取ってきた銀行の外国為替業務なども減っていく。

 さらに、ブロックチェーンと呼ばれるシステム上の帳簿技術やそれを使ったビットコインなど仮想通貨が広がれば、ますます伝統的な銀行業務は消えていく。その変化のスピードは10年単位という話ではなく、数年で景色が一変する可能性を秘めている。つまり、10年後に1万9000人削減といった悠長な話ではないのだ。

 もちろんメガバンク自身が、ブロックチェーンを含むフィンテックを使った新しいビジネスモデルへと転換していくこともあり得る。その場合に最大の障害になるのが、従来の行員だ。紙の伝票を処理し、現金を1円の狂いもないように数える人手を大量に使う仕事は、今も銀行の内部にしぶとく残っている。顧客に窓口で順番待ちをさせ、人間が一つひとつの用件に対応していくスタイルは基本的に19世紀と変わらない。

終身雇用は企業にとって「好都合」

 新卒で銀行に入った人材は、こうした伝統的な業務を「スキル」として叩き込まれるが、10年後、20年後にそのスキルが役立つことはないだろう。仮にそうした人たちの業務を残そうとすれば、銀行自体の収益力はさらに下がり、競争力を失っていく。

 欧米の銀行ならば、消える職種の従業員は「リストラ」で解雇されるのが一般的だ。いわゆる「ジョブ型」の採用形態が一般的な欧米企業では、その人が携わる仕事がなくなれば解雇理由になる。

 ところが銀行を含む日本企業の場合、いわゆる「メンバーシップ型」の採用が一般的なため、担っている職務がなくなったからと言って簡単にはクビにならない。他の職種に転換したり、別の業務を担ったりすることで「社員」としての地位は保たれる。

 一見、働く側にとって有利な仕組みに見えるが、実際は企業にとって好都合な仕組みだった。新卒で採用すれば辞令一枚で全国津々浦々、どこへでも転勤させられる。自分の業務が終わっても、隣の人の仕事が残っていれば手助けするのが当たり前。何せ業務範囲が明確に規定されていないのだ。終身雇用で生涯面倒をみる代わり、企業の意のままに働くという日本型の雇用慣行が続いてきたのだ。

 こうした雇用慣行が今後の銀行経営に大きな足かせになるだろう。今、銀行が直面しているのは、おそらく数百年に一度の大変化だ。銀行のビジネスモデルを根底から見直さなければならない中で、旧来モデルに対応するための人材を抱え続けなければならないのだ。支店業務で「優秀」だった人材が、フィンテックの世界で力を発揮できるとは限らないのに、解雇できないわけだ。

 フィンテックに対応してビジネスモデルを変えられなければ、銀行の収益力はさらに低下することになるだろう。赤字に陥れば、雇用確保などと言っていられなくなる。「業務量を削減」した分、人員も減らすというリストラが本格的に始まるのも、そう先の話ではないだろう。

 従来の「銀行員」が姿を消したとしても、金融業務がすべてなくなるわけではない。また、機械に置き換わらない仕事も必ずある。資産運用の方法についてアドバイスしたり、税務や相続などの相談を引き受けたりするのは「信頼」がベースになければ難しい。機械がとって変わるのは簡単ではない。

 欧州のプライベートバンクは、かつては企業向けの融資なども行っていたが、利ざやが小さくなるとともに貸金業務から撤退、今のような富裕層の資産運用を行うビジネスモデルへと変化していった。顧客を担当するリレーション・マネジャーは原則として交代はなく、生涯にわたって顧客と付き合い、細々とした相談にのる。数年で担当がぐるぐる変わる日本の銀行とは発想が違う。おそらく、こうした業務は簡単には機械に置き換わらないだろう。

 果たして日本のメガバンクは生き残っていけるのか。どんなビジネスモデルに転換し、そこで働く人材はどんな人たちが求められるのか。ここ数年では予想できないほどの大変化が起きる可能性もありそうだ。

2017-11-16

企業の「内部留保」400兆円 吐き出させるには課税が一番か?

| 10:11

月刊エルネオス11月号(10月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

企業の貯蓄は四百兆円を突破

 総選挙ではアベノミクスに対抗する野党経済政策が注目されたが、小池百合子東京都知事が率いる希望の党は、「内部留保課税」という耳慣れない税金を打ち出した。二〇一九年十月に予定されている一〇%への消費税率引き上げを凍結する代わりに、財源としてこの税金を検討するとしたのである。企業などから反発の声が挙がると、「課税にはこだわらない」と一気に後退したが、小池氏が主張した「内部留保課税」とは何なのか。

「内部留保」とは、企業が事業から得た利益のうち、配当や設備投資などに回さずに手元に残している「貯蓄」のこと。財務省が全国三万社あまりの企業を調査する「法人企業統計」によると、一六年度の「内部留保」は四百六兆二千三百四十八億円と、初めて四百兆円を突破、過去最高となった。

 アベノミクスは開始早々、大胆な金融緩和などによって円高が修正され、企業収益は大きく改善した。全産業(金融業・保険業を除く)の経常利益はアベノミクスが始まる前の一二年度の四十八兆四千六百億円から四年後の一六年度には七十四兆九千八百億円へと一・五倍になり、二十六兆円も増えた。

 安倍晋三首相は一四年頃から、「経済の好循環」を訴え始め、経営者らに利益の増加分を賃上げや設備投資に回すよう協力を求め続けてきた。株主への配当だけは十三兆九千五百億円から二十兆八百億円へと一・四倍になったものの、人件費や設備投資の増加にはなかなかつながらず、多くが内部留保として企業内に蓄えられた。内部留保は四年間で百兆円も増えたのである。

 大企業を中心にベースアップが四年連続で実現するなど、賃上げムードは広がっているものの、増加率はごくわずか。これが、多くの国民が景気好転を実感できない最大の理由になっている。

企業経営者や経済界は反対

 この「内部留保」を企業にいかに吐き出させるのか。希望の党はこれに課税をすることで、企業経営者に貯蓄ではなく、設備投資や人材投資に儲けを再投資させようと考えたわけだ。四百兆円に一%の課税をすれば、四兆円の税収になる、という皮算用である。消費税率一%分で二兆円の税収増になるとされるから、八%から一〇%への増税を凍結しても財源は確保できる、というのが当初の発想だったようだ。

 実は、この課税は長年、財務省の一部官僚の間で話題にのぼってきたものだ。

 一二年に財務省内に設けられた内部の調査チームで、なぜ日本経済が成長しないかを分析した際、企業が利益を再投資せずに内部留保として蓄えてしまうからだ、というのが一つの答えとして導き出された。その内部留保を吐き出させるためには課税するのが手っ取り早いという声があった。

 だが、内部留保は企業が法人税などを支払った後の「剰余金」が積み重なったものだ。個人で言うならば銀行貯金である。そこにもう一度税金をかけるとなると明らかな「二重課税」だ。強制的に「企業部門」から「政府部門」へと資金を移転させるわけで、かなり左派的な色彩が強い政策ということになる。当然、企業経営者や経済界は反対である。

 安倍内閣は企業に国際競争力を持たせるために、法人税率の引き下げを断行してきた。共産党などは法人税率を下げる一方で消費税を引き上げるのは、企業に恩典を与えて庶民にツケを回していると批判する。

 これまでも政府は、企業に内部留保を吐き出させるために、設備投資減税や人件費を増やした企業への助成などを行ってきた。規制緩和などによって企業の投資意欲を喚起するのもオーソドックスな政策といえる。ところが、企業は投資リスクを取りたがらず、内部留保として将来不安に備えることを優先している。

 つまり、アメを与えてもなかなか内部留保を使わないならば、いっそムチとして課税してしまえば、企業が動くのではないか、というのが課税論だ。だが、課税を嫌って利益を海外に移転してしまったり、会社そのものが日本国外に移ってしまうことになっては元も子もない。

コーポレートガバナンス強化

 課税でもなく、優遇でもない中間的なやり方がある。コーポレートガバナンスの強化だ。年金基金や生命保険会社といった機関投資家が強くなれば、資本を眠らせる内部留保には批判的な声が強まる。配当の増額を求められたり、成長分野への再投資を要求する声が強まるのだ。米国企業では余剰資金を貯め込めば、ファンドなどにターゲットにされ、配当での吐き出しを要求される。日本の一部の資金が潤沢な企業が米国ファンドのターゲットにされたのも、こうした流れに沿っている。

 アベノミクスでは、コーポレートガバナンスの強化も一つの柱として掲げられた。機関投資家のあるべき姿を定めたスチュワードシップ・コードが導入され、機関投資家が徐々に「モノ言う投資家」に変わりつつある。また、企業としてのあるべき姿を規定したコーポレートガバナンス・コードが導入され、株主還元の強化なども求められている。

 ガバナンス強化の狙いは、企業経営者にプレッシャーを与えることで、成長分野への投資や、不採算部門からの撤退などを行わせ、企業の「稼ぐ力」を取り戻させようというものだった。その効果が徐々に表れているという見方もあるが、一方で、内部留保の増加が依然、止まらないのも事実だ。

 内部留保に課税するとなると、企業の持つ剰余金をいったん税金として吸い上げ、それを政府社会保障などに使うことになる。計算上は辻褄が合うようにみえるが、企業はますます成長分野への投資などに慎重になる可能性もある。

 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、フィンテックブロックチェーンなど、次々に新技術が広がり、産業が様変わりしていく中で、こうした分野への投資に、今こそ、潤沢な日本企業の内部留保が使われるべきだろう。ここで世界の変革に乗り遅れれば、日本企業の成長の芽は永遠に失われることになりかねない。

2017-11-15

「国会の質問時間問題」自民党は野党時代を思い出したらどうですか? あのとき「野党8」を求めたのは誰か

| 11:20

現代ビジネスに11月15日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53504

確かに与党議員の質問は少ないが

国会での質問時間を巡る与野党の攻防が続いている。慣例で与党2対野党8になっている質問時間の割合を見直すよう自民党が求めたのがきっかけ。これに対して野党側は、野党の質問時間を削って、森友・加計学園問題などの追求をかわそうというのが本音だとして強く反発している。

国会での質問時間は議院運営委員会の申し合わせで決めることになっており、法律で決まっているわけではない。原則は議席数に応じてということになっているが、長年の慣行で野党に多く時間配分するようになってきた。

自民党の圧勝によって議席の3分の2を与党が占めるようになった一方で、従来の与党2対野党8という質問割合の慣行を維持した場合、与党議員で質問に立てるチャンスは激減することになる。単純に計算すれば、ひとり当たりの質問時間は、野党議員には与党議員の8倍が認められることになる。

自民党内には議席数に比例した質問時間にするべきだ、という声もあるが、そうなると7割近くが与党議員の質問になってしまう。さすがにそれは無理ということで、自民党からは与党5対野党5の割合に変更するよう要求が出されたが、当然のことながら野党側が拒否した。

筆者は非営利任意団体「国会議員の活動データを集積する会」の世話人として国会議員の質問回数(衆参両院)や質問時間(衆議院のみ)を集計している。

2017年の通常国会である193国会(1月〜6月)の衆議院では、足立康史議員日本維新の会)57回が最高だが、50位(16回)までに自民党議員はひとりもいない。与党としては公明党の吉田宣弘議員(28位20回)ら4人が名前を連ねているだけだ。

11月7日の自民党総務会では「あるマスコミは誰が何回、誰が何回と数えて格付けしている」と批判する声が上がった。そもそも質問の割り当て時間が違うのに、自民党議員に不利な格付けをするのはケシカランということのようだ。

確かに、前述の「集積する会」のデータを元に、NPO法人「万年野党」(田原総一郎会長)として質問王を「三つ星国会議員」として毎国会表彰しているが、三つ星議員自民党議員が選ばれたことはほとんどない。質問の量で測る限り、自民党議員は圧倒的に不利なのだ。

国会での質問は、国民が直接見ることができる数少ない国会議員の活動の姿だ。そんな国会での質問を、自民党が本気で重視し始めたのならば、誠に喜ばしい限りだ。与党として政府にキチンとモノを申したいというなら、それ相応のキリっとした質問を期待したい。

そうでなくても、自民党議員による国会質問は、首相や大臣に媚びるかのような発言も目立つ。質問ではなく、応援演説になっているものも少なくない。そんな「出来レース」のような質疑を長時間続けられても、国民のプラスにはならないだろう。

自民党野党時代に決まった時間配分

もともと、与野党2対8という質問時間に申し合わせで決まったのには経緯がある。2009年に自民党が下野するまでは与党4対野党6が目安だった。ところが、民主党政権は「政府与党一体」という姿勢を強く打ち出したため、当時、野党だった自民党の要求で野党の質問時間を8にまで増やした。

議員内閣制では政府与党は一体なのが当たり前だ、と解説するメディアもあるが、日本の場合、そう単純ではない。明治以来、霞が関官僚の力が強い中で、かつては与党政治家が質問に立って、省庁の局長などから答弁を引き出すという姿がしばしば見られた。

自民党は党の政務調査会に様々な部会を置き、そこで内閣が提出する法案(閣法)などは事前に審査することになっている。その決定を経て、総務会で承認されたものを、内閣が閣議決定して国会に提出するというのが基本的な段取りだ。

つまり、国会に提出される各法は事前に党内での議論は終わっており、国会与党議員閣僚に質問するのは「形だけ」ということになる。もちろん議決する場合に、与党議員が反対することはまずあり得ない。だからこそ、与党の質問時間は少なくていい、ということになるわけだ。

民主党政権が「政府与党一体」と宣言した背景には、自民党の政調で決めるプロセスは一切国民に公開されない密室で決まっており、いわゆる「政官業癒着」の舞台になっている、とする主張があった。

民主党は政調の機能を止め、業界からの陳情なども幹事長室に一本化した。また、政府の意思決定は大臣・副大臣大臣政務官の「政務三役」で行うとして官僚を排除した。

そうした政治システム改革の流れの中で、政府を動かす与党議員政府に質問するのはおかしいという論理で、与党の質問時間が2割まで減ったのだ。

野党に転落した自民党は、ベテラン政治家を予算委員会などでの質問に立たせ、民主党政権を徹底的に批判した。それが、立場が逆転した途端に、質問時間を与党に配分せよと言っているわけだ。

自民党議員の本気質問は増えるのか

安倍晋三首相が幼児教育の無償化などの財源の不足分のうち3000億円程度を産業界に求めると発言したことに対して、小泉進次郎自民党筆頭幹事長が「党で全く議論していない」と批判した。

小泉氏の批判は、むしろ旧来の自民党型を守れと言っているに等しい。つまり、政府が物事を決める前に与党に根回しせよと言っているわけだ。この主張は、自民党国会質問時間を増やせ、という議論とおそらく矛盾する。

自民党国会での質問時間を増やすというなら、自民党内の政調での「密室論議」を放棄すべきだろう。あるいは、国会での議論を党の議論よりも優先させるというのなら、国会での「党議拘束」を廃止するべきだ。つまり、与党議員といえども、政府の政策に全て賛成するわけではない、という姿勢を明確にすべきだろう。

だが、現実には、自民党にはそこまで国会の「形」を変える気はないだろう。やはり、うるさい野党の質問時間を削り、触られたくない問題の追及をかわしたい、というのが本音に違いない。

自民党議員の数で押し切り、野党の質問時間を削って与党議員の質問を増やしたらどうなるか。

与党を厳しく批判する質問を目にする機会が減り、自民党の支持率は上がるか。それとも、政府に媚びへつらう質問ばかり目にするようになって自民党への支持率はむしろ下がるのか。

テレビに映らない委員会での質問時間が増えたとして、本当に質問に力を入れる自民党議員が増えるのか。それとも、若手議員ばかりに質問を任せてベテランは政府や党の役職ばかりを重視するのか。

質問時間の増加を声高に主張する自民党の「本気度」を見てみたいものだ。

2017-11-14

さらなる「法人税率引き下げ」で「賃上げ」なるか

| 10:30

11月13日にフォーサイトにアップされた原稿です。

 自民党税制改正論議が始まった。党の税制調査会(宮沢洋一会長)の「インナー」と呼ばれる幹部による非公式会議が本格的に動き出し、2018年度の税制改正大綱として12月14日をメドに決定することを確認した。

 最大の焦点が法人税安倍晋三首相は「3%の賃上げを期待する」と企業に呼びかけているが、これを後押しする税制改正を検討する。具体的には、2017年度末に期限が切れる「所得拡大促進税制」の拡充・延長を行う方針。賃上げした企業に対して法人税を優遇することで、賃上げを促進するというのが狙いだ。

・・・以下、新潮社フォーサイトでお読みください(有料)→http://www.fsight.jp/articles/-/42991

2017-11-13

商店街に集いの場を、茅ヶ崎ママたちの実験

| 09:16

ウェッジインフィニティに11月5日にアップされた原稿です。→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9232

Wedge (ウェッジ) 2016年 11月号 [雑誌]

Wedge (ウェッジ) 2016年 11月号 [雑誌]

 神奈川県茅ケ崎市にある浜見平団地。湘南海岸線にほど近い、いわゆる公団住宅である。築50年を迎えて老朽化が進んだ住宅棟は、現在、建て替えが進んでいる。

 そんなシャッター商店街の一角に、昨年、一風変わった店舗が誕生した。

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「ローカルファースト」ショップの前で。 淺野真澄さん(中央)と、協力者のママさん、お客さんたち

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 そんな中で最後に残ったコンクリート造りの一棟は、1階に商店が並ぶ構造だが、いずれやってくる取り壊しに向けて移転するなど、櫛の歯状にシャッターが降りている。

 「Local First(ローカルファースト)」

 地域の人たちが手作りした小物や、不要になったリサイクル品を販売する。店頭はカラフルでオシャレ。取材当日もハロウィンを控えて、オレンジ色のお化けかぼちゃのオーナメントが天井いっぱいにつりさげられていた。明るく開放的なため、誰でも気軽に入れるムードにあふれている。

 この店を切り盛りするのは淺野真澄さん。地域で活動する「ローカルファースト研究会」の代表を務める。

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100人のママの声を聞く

 ローカルファーストという概念は、地域資源を掘り起こして、地域のモノを優先することで、地域経済の活性化を図ろうというもの。

 研究会では、年2回のシンポジウム、機関誌『ローカルファーストジャーナル』の発行、子供向け教材の作成などを行っているが、それだけでは満足できない。実際にローカルファーストを実践する場を作ろうと考えたのだという。

「どうやって主婦にアプローチするかを考えたんです。財布を握っているのは女性ですから、ママたちに支持されないと成功しません」 「空き店舗プロジェクト」と名付けて地域のシャッター商店街を探した結果、浜見平商店会にたどり着いたのだ。浜見平団地は高齢者世帯が多いものの、建て替えによって若い子連れ世帯も増えていた。もちろん初めからリサイクルショップを開こうと決めていたわけではない。

 淺野さんは周辺のママさん100人とディスカッションして、どんなお店が求められているか聞き取ることから始めた。

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浜見平商店会

 当時、淺野さんに意見を聞かれたのをきっかけに、今ではすっかりお店の常連になっている安齋かさねさんは、「建て替えで引っ越しが多いので、不用品を扱うリサイクルショップがいいのではないか」と主張した一人だった。人気のおもちゃなどが狷荷瓩垢襪函△△辰箸いΥ屬貿笋蠕擇譴襦

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ローカルファーストで販売するハンドメイド製品

 文房具店やフリーマーケットが欲しいという意見も多かったが、リサイクルのお店にすることで、結果的にそうした人たちのニーズも取り込む結果になった、と淺野さんはみる。

 もう一つの目玉がハンドメイドの商品だ。地域に住む30組ほどの「作家さん」が店内に陳列棚を持ち、手芸品などを直売する。

 「趣味で長年やってきた作品をお店に来たお客さんに買っていってもらえるのは励みになります」と、陶器製の一輪ざしなどを作る祝部(ほうり)美佐子さん。売れ行き具合を見に、しばしばお店にやってくる。

 この日初めてお店を訪れていた小宮哲朗さん、杉崎絢さんは、「どこに行っても同じモノが並んでいるお店ばかりなのに、ここは手作りの色々なモノがあって楽しい」とすっかり気に入った様子。さっそく、自ら手作りした作品を置いてもらう相談を始めた。

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初めて来店した小宮哲朗さん、杉崎絢さん

 ローカルで作ったモノをローカルの人たちが買っていく。まさに、ローカルファーストだ。

 淺野さんがお店を開いたのはモノを売買することだけが狙いではない。地域の人たちが気軽に集まることで、地域の交流の拠点を作ることだ。お店にやってきて淺野さんやスタッフの人たちとのおしゃべりを楽しんでいく高齢のお客さんも多い。航空会社のキャビンアテンダントをしていた経験もある淺野さんの、気さくで明るいキャラクターにひかれてやってくる地域の人たちは少なくない。


湘南スタイル研究会

 実は、淺野さんの活躍の背後には、「ローカルファースト」という理念を地域おこしにつなげようと考えた人物がいる。亀井信幸さん。地元の建設会社、亀井工業ホールディングスの社長だ。

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亀井信幸さんと淺野さん

 地域の青年会議所の活動から40歳で引退したのを機に、同世代の地域の経営者に呼び掛けて「湘南スタイル研究会」という会合を立ち上げた。2000年のことだ。地域の著名人やキーパーソンを招いて話を聞いていく中で出会った東海大学工学部建築学科の杉本洋文教授から聞いたのが、「ローカルファースト」という考え方だった。

 地元の経営者らと視察に行った米国ポートランドでは、ローカルファーストが定着し商店街が生き生きしている様子を目の当たりにした。若い頃から世界を旅して、欧米先進国では地方都市が元気なことを痛感していた亀井さんは、本当の豊かさとは何かを追求していくうえで、ローカルファーストの考え方が、地元湘南だけでなく、日本にももっと広がるべきではないか、と考えた。そして、ローカルファースト研究会を立ち上げたのだ。

 「全国的なチェーン店も便利ですから否定はしません。でも1000円買い物するうちの50円でよいから地元のお店で買えば、地域経済が回るようになる。地元に根付いたお店で日々買い物をすれば、フェイストゥーフェイスのコミュニケーションも復活します」

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ローカルファーストで販売するハンドメイド製品

 そう語る亀井さんはローカルファーストの発想を事業者や住民が持つことで、失われてきたコミュニティの再構築ができると考えているのだ。同じサンドイッチを買うにしても、どこで買うか。コンビニか、スーパーか、地元のパン屋か。コンビニの便利さは否定しないが、地元のパン屋も大事にして欲しい、と言う。もちろん、パン屋自身もチェーン店にはない商品の良さを磨く努力が必要だ。

 亀井さんはコンセプトを日本中に広げるために、本の出版を思いつく。そうしてまとめたのが、『ローカルファーストが日本を変える』(東海大学出版会)だ。活動の考えを広めるためにローカルファースト財団も設立した。ローカルファーストの動きを湘南茅ヶ崎から全国へと広げていこうとしているのだ。

 ちなみに浜見平団地の「ローカルファースト」の店舗は、2016年いっぱいで閉店した。もともと期限が決まっていた実験店舗だったわけだが、そこから得られた経験は大きい。全国のシャッター商店街を活性化させるヒントや、地域のコミュニティの核を作る知恵など、店舗運営から得た経験を「遺伝子」として次にどんな展開を試みるか。亀井さんや淺野さんたちの次の一手が注目される。

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お店のレジに立つ淺野さん

 (写真・生津勝隆 Masataka Namazu

2017-11-10

東芝を上場廃止にしなかった理事長の言い訳 独立性なき「自主規制法人」では投資家は守れない

| 09:22

日経ビジネスオンラインに11月10日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/110900063/

臨時株主総会の「12日前」に指定解除

 東芝をなぜ上場廃止にしなかったのか――。東京証券取引所を傘下に置く日本取引所自主規制法人理事長である佐藤隆文氏が、月刊『文藝春秋』の12月号に手記を寄せている。東証は、東芝不正会計が発覚した2015年秋、同社株を「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」に指定した。期限の1年半が経過し、内部管理体制が改善されたかどうかを審査。問題が残っていると判断すれば上場廃止になるところだった。それを10月12日に「相応の改善が認められた」として指定を解除したのだ。

 手記の冒頭で佐藤氏は、自主規制法人の使命を「資本市場の秩序を維持し、投資家を保護すること」だと高らかに述べている。では、本当に今回の決定は投資家保護を第一に考えて下されたのか。これで資本市場の秩序が維持された、と胸を張って言えるのだろうか。

 東芝は周知の通り、不正会計発覚後に次々と、会計上、経営上の問題が明るみに出た。東芝の経営陣は、米国原子力子会社ウエスチングハウス(WH)について経営状態に問題はないと言い続けてきたが、2016年末になって巨額の損失が隠れていることが発覚した。子会社のレベルでは減損処理という損失計上をしておきながら、東芝の連結決算では損失計上しないなど、明らかに隠蔽を図っていた。その後、東芝は決算を巡って監査法人PwCあらたと対立。決算発表ができない異例の事態が繰り返された。

 結局、PwCあらたは「限定付き適正」という異例の監査意見を出し、ようやく2017年3月期の決算書が10月24日の臨時株主総会にかけられることになった。自主規制法人が「指定解除」を決めたのは、その12日前のことだった。

 なぜ、臨時株主総会決算書を承認する前に、上場維持を決めたのか。佐藤氏は手記の中でこう答えている。

 「臨時株主総会の日付についても知ってはいましたが、意識はしていませんでした。株主総会の2週間前というタイミングに関しては、しかるべき議論を進めた結果そうなったという偶然に過ぎません」

 決算書の承認だけでなく、半導体事業の売却という会社の存亡に関わる株主総会をまったく意識していなかった、というのは呆れた話だ。本当だとすれば、なんとも間が抜けている。

監査制度を真正面から否定

 なぜ、佐藤氏がそう言わなければならなかったか。株主総会前に東証が「問題なし」とお墨付きを与えることで、決算書の承認をスムーズにしたいという狙いがあったのではないか。というのも官邸筋から「東芝上場廃止にするな」という圧力が東証サイドにかかっていたからだ。東芝は重要な企業だから、上場廃止をきっかけに万が一潰れることになったら大問題だという声が官邸にあり、それを自主規制法人が「忖度」したのではないか、とみる向きもある。実際、自主規制法人の理事の中にも「忖度はあった」と感じている人がいる。

 これに対して佐藤氏は「大企業だから審査を甘くするなどということは一切ありません。会見では『政治家からの圧力』の有無も問われましたが、これも明確に否定しました」としている。実際、「東芝を守れ」という号令を発していたのは官邸の官僚だと言われているので、確かに政治家からの圧力ではない。

 臨時株主総会の直前に指定を解除したことについて、6月まで自主規制法人の外部理事を務めていた久保利英明弁護士は、「むしろ総会での株主による投票結果をみた上で解除するかどうかを判断すべきだった」と語る。決算書について株主たちが問題なしとするならば、上場を維持して仮に東芝が再度問題を起こしても、株主たちの自己責任だから仕方がない、というのだ。

 実際、東芝の臨時株主総会では、1号議案だった「計算書類承認の件」には議決権の11.40%が反対票だったが、87.97%の賛成で可決された。東証が特注指定を解除したことが投資家の投票行動に影響したかどうかは分からないが、決算の承認で1割以上の「不承認」が出るのは極めて異例だ。ちなみに綱川智社長の取締役選任議案には12.67%が反対、監査委員長を務める社外取締役の佐藤良二氏(元監査法人トーマツのCEO)にも11.87%が反対した。一部の大手の機関投資家が反対票を投じたとみられている。

 自主規制法人は内部管理体制(内部統制)について「相応の改善」がなされたと結論づけたが、実は内部統制についても監査法人がチェックして意見を言うことになっている。PwCあらたの結論は「不適正」だった。

 一方で、不適正意見が出ると東芝は問題は改善されていると反論した。自主規制法人は第三者のプロである監査法人よりも、当事者の東芝の主張を受け入れたわけだ。まさに驚天動地の判断だが、この点について佐藤氏は「投資家の保護者」とは思えない反論を手記で展開している。

 「私は、監査法人の意見を無条件で絶対視するのは資本市場のあり方として危険なことだと思っています」

 資本主義の世界で普遍的なルールになっている監査制度を真正面から否定しているのだ。「多くのメディアが、監査法人の意見があたかも無謬性を備え、神聖不可侵であるかのような前提を置いているように感じられてなりません」というのだ。監査は国が認めた試験に合格した公認会計士でなければ行うことができない、それを否定して、誰が監査を行うというのだろう。

東芝は「守秘義務」を解除すべきだ

 あたかも、監査法人よりも自主規制法人の調査の方が優れている、と言いたげだ。手記でも「(東芝から)二度にわたり提出された確認書は、計3万数千ページに及ぶ膨大なもの。これらを精査して、事実関係に齟齬がないかチェックしました」と胸を張る。いかにも大変な作業をしたと言いたいようだが、3万ページを佐藤氏がいう10人のメンバーで2年かけて読んだとして、単純平均すれば1日4ページだ。そんなに胸を張れるほどのチェックなのか。

 おそらく佐藤氏が監査法人を批判するのは、自主規制法人の体制が優れているからではないだろう。佐藤氏は元金融庁長官である。金融庁などの行政機関が最終的に決算書が正しいかどうかを判断すべきだと考えているのではないか。20年以上前の「行政指導」全盛期のノスタルジーがあるのだろうか。

 現在の監査法人の体制が万全であるとはもちろん言えない。だからと言って、監査制度を全否定するような発言を、金融庁の元トップがするのはいかがなものか。この点は、今後、監査制度を研究する学者や公認会計士から異論・反論が出てくるに違いない。

 手記では佐藤氏はPwCあらたの対応を強く批判している。有価証券報告書などに付した監査意見について「監査法人の側から明快かつ十分な説明がないことです。型通りの記述の域を出ない監査意見の書面からも、説明責任を果たそうという意欲は伝わってきません」というのだ。

 監査法人に守秘義務を課しているのも、紋切り型の監査報告書を定めているのも金融庁だ。監査報告書についてはもう少し説明を増やす長文化の議論が金融庁審議会で始まっている。

 佐藤氏は「契約相手方である企業が、守秘義務を限定的に解除すれば、世間に対して、投資家に対して、もっと説明することは可能なのではないでしょうか」ともいう。これには大賛成だが、東芝は守秘義務を解除しないだろう。PwCあらたの前に監査をしていた新日本監査法人東芝不正会計と監査について内部で詳しい検証報告書を作っているが、一切、明らかにしていない。理由は「公表すれば東芝から訴えられます」という法律事務所のアドバイスだという。是非とも、東芝の現経営陣は両監査法人の守秘義務を解除して、真実を明らかにしてほしいものだ。

 実は、今回の決定に当たって開かれた自主規制法人の理事会は、満場一致ではなかった。手記で佐藤氏が明らかにしているが、7人の理事のうち、1人が特注指定解除に反対した。「全会一致のケースがほとんどである理事会では、極めて稀なことでした」としている。

 7人の理事は佐藤理事長のほか、東証の上場審査担当ら内部の理事3人に、日本公認会計士協会の会長を務めた会計士の増田宏一氏、京都大学教授を務めた川北英隆氏、そして久保利氏の後任として6月に加わった石黒徹氏の外部理事3人で構成される。

自主規制法人は本当に「独立」しているのか

 自主規制法人の関係者によると、反対したのは増田氏。川北氏も厳しい発言を繰り返していたが、政策的な判断には関与したくないとして、反対には回らなかったとされる。

 問題は、この自主規制法人が本当に「独立性」が高い組織なのかどうか。内部理事の3人は東証の利益を第一に考え、目に見えない投資家よりも、日々接する上場企業寄りの判断をする可能性がある。だからこそ、7人中4人は外部理事とすることになっている。だが前述の通り、佐藤氏は金融庁からの天下りである。

 久保利弁護士と入れ替わった石黒弁護士は森・濱田松本法律事務所のパートナーだ。実は森濱田は東芝の顧問事務所である。自主規制法人の関係者によると石黒氏は就任にあたって森濱田を退職するという話だったが、現在も同事務所のホームページにはパートナーとして名前が載っている。外形的に見て重大な利益相反があると言えるだろう。

 自主規制法人東芝を守ったからといって、これで東芝上場廃止リスクが消えたわけではない。二期連続で債務超過となれば上場廃止になる、東証の基準に触れる可能性があるのだ。臨時株主総会で決めた半導体事業の売却が来年3月末までに完了し、売却益が入って来なければ、債務超過を解消できない。予断を許さない状況なのだ。

 最近、日本取引所グループ清田瞭CEOに対して、この上場廃止基準を変えろという圧力が加わっている、という話が流れている。二期連続の債務超過でも東芝上場廃止にならないように、というわけだ。

 この点について佐藤氏は手記で「この基準が揺らぐことは決してないと、はっきり申し上げておきます」と断言している。上場廃止のルールが決められているのは、腐ったリンゴを市場に起き続けた場合、それを買ったお客が損失を被るからだけではない。腐ったリンゴが当たり前に市場に置かれるようになると、市場としての秩序が守れなくなるからだ。

 株価の上昇とともに、再び海外投資家が日本の株式市場に目を向け始めている。その市場の質を守る自主規制法人が、「資本市場の秩序を維持し、投資家を保護すること」を第一に考える組織に、早急に生まれ変わることを望みたい。

2017-11-08

結局、希望の党の「経済スタンス」が見えないという大問題 「保守」なのか「革新」なのか

| 09:10

現代ビジネスに11月8日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53439

希望の党の方向性はこれから

希望の党の共同代表選びが始まった。所属国会議員による選挙で決めることになっており、11月8日に告示、10日に開票される。いずれも民進党出身者の大串博志氏、泉健太氏、玉木雄一郎氏が真っ先に立候補を表明。これに渡辺周氏なども加わり、混戦模様だ。

選挙の結果、誰がトップになるかによって、希望の党が向かう方向は大きく変わりそうだ。希望の党小池百合子東京都知事が代表を務めるが、選挙の敗北を受けて小池氏は都政に集中する方針を示している。このため、今回選ばれる共同代表が実質的に国政における希望の党の方向性を決めることになる。

そんな中で、希望の党所属の議員は大きく2つグループに分けられる。ひとつが、実質的に元の「民進党」に戻ろうという議員たちのグループ。今回の総選挙での希望の党の当選者50人のうち40人は民進党から合流した議員だということもあり、元の仲間である立憲民主党と協力関係を築いていくことを模索しようというグループだ。大串氏や渡辺氏はこうした方向に動くのではないか、とみられている。

もうひとつのグループは、もはや民進党では選挙は戦えないと割り切っている議員たち。玉木氏らは当選者の平均年齢が40歳台であることをアピール、「新しい党」であることを前面に打ち出すべきだとしている。左派色の強い立憲民主党とは一線を画し、小池氏が打ち出した「寛容な改革保守政党」という枠内で、中道勢力を結集する核を作るという戦略のようだ。こうした議員の多くが、仮に民進党として選挙を戦った場合でも、大敗北を喫したのは間違いないという見方を持つ。

経済政策の路線問題で軋轢

前者の姿勢を取る候補者が代表になった場合、小池氏の掲げた「保守」の色彩は薄れ、リベラル色が強まることになりそう。特に安全保障や憲法改正に対する姿勢は、希望の党が掲げたものとかい離し、元の「民進党」路線へと戻っていくだろう。

一方で、後者の方向を目指す候補者が代表になっても前途は多難だ。民進党に属してリベラル色の強い政策を表明してきた議員が、保守に「転向」するのは容易ではない。

とくに難しいのが経済政策だ。希望の党選挙戦で、企業の内部留保に課税することや、国民に一定の所得を保証するベーシックインカムの導入などを掲げた。この2つの政策は極めてリベラル色の強いものだが、民進党議員の合流から投票日までほとんど時間がなかったこともあり、所属議員の間でほとんど議論されていない。

一方で、「保守」的な改革による成長重視の政策を標ぼうしていたはずの小池氏の姿勢とも相いれない。分配中心の経済政策を掲げて「保守」と言えるのかどうか。

さらに、民進党支持母体だった連合との関係をどうするかがもうひとつの焦点になる。小池氏は選挙後、連合の神津里季生会長に会い、希望の党候補者への連合の支援に謝意を表した。だが、保守政党を標ぼうしながら、労働組合に支援を求め続けるということはあり得るのかどうか。大いなる矛盾を抱え込んだと言えるだろう。

選挙では希望に加わらず無所属で戦った民進党出身の議員が、今後、希望に加わってきた場合も問題が生じる。

すでに民進党の前代表だった前原誠司氏は希望に入党届を提出している。前原氏が仮にそれなりのポストに就いた場合、「希望は民進が看板をかけかえただけ」という印象がさらに強まる。

野田佳彦元総理岡田克也副総理など、民主党政権の看板だった議員が合流すれば、決定的だ。希望は「保守」なのか「革新」なのかまったく分からなくなる。

政治家の「主義主張」はどこに行った?

そんな希望の党が次の選挙を戦うことができるのか。衆議院解散総選挙は先としても、2019年には参議院議員選挙がある。参議院ではまだ民進党が存続しているのも、所属議員たちがどこの看板で選挙を戦えば有利かを見極められないからだろう。

左派色の強い議員立憲民主党への合流を模索しているが、「立憲民主は今がピーク」(民進党参議院議員)という見方もある。

なぜ、これほどまでに政策と政党が「ねじれ」ることになったのか。最大の理由は「政策よりも当選」を重視する前職議員が多かったことだろう。小選挙区で当選した希望の党議員の中には、支援者から無所属で立候補すべきだったと批判されているという議員もいるが、希望に合流した理由は「仲間をひとりでも多く比例で当選させるため」だったという。

現在の衆議院選挙制度では、小選挙区で落選しても比例区重複立候補し、所属政党の比例票が多ければ復活当選することができる。初めから復活を頼みにしている候補者も少なくない。一方で、無所属で立候補すれば、比例区からは出られず、復活当選もなくなる。

つまり、どんなに党の政策と議員自身の主義主張が違っても、比例で票を集められる政党に所属しなければ当選はおぼつかないのだ。選挙前に離合集散して、「追い風」が吹いている政党にどう移るかが、議員の才覚として必要になっている、というわけだ。

政治家が主義主張を軽んじれば政治家とは言えないだろう。そんな心根を国民に見透かされたからこそ、民進党から希望の党に合流した議員たちには猛烈な逆風が吹いたに違いない。

それを教訓とするならば、主義主張を同じくする政治家が集まって政党を作ることがますます大事になるだろう。代表が誰になるかにかかわらず、希望の党議員たちに求められるのは、そうした「腹のくくり方」だと思われる。

【高論卓説】日本企業にまかり通る「ウソ」 相次ぐ不正、経営トップは本当に反省しているのか?

| 15:54

11月7日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。

オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/business/news/171107/bsg1711070500001-n1.htm


 東芝、日産自動車、神戸製鋼所と、企業の不正が相次いで発覚している。日本企業はいつから「ウソ」がまかり通る組織になったのか。どうすれば、不正を根絶することができるのか。不正が発覚した企業はみな、謝罪会見を開いてトップが頭を下げてはいる。だが、本当に反省しているのか。見ていて疑わしい印象を受ける。

 東芝でも粉飾決算を行った歴代社長は逮捕すらされていない。粉飾、つまり有価証券虚偽記載罪はれっきとした犯罪だ。にもかかわらず、証券取引等監視委員会が求めても東京地検は立件に踏み切らない。理由は、当事者たちが容疑をかたくなに認めないためだとされる。つまり、トップたちは、「チャレンジとは言ったが、粉飾をやれとは言っていない」「自分が罪を犯したわけではない」と思っているのである。

 粉飾決算にしても、「会社のためにやったことで、悪いことをしたわけではない」というのが当事者たちの率直な思いだろう。欧米企業でしばしば起きる不正事件のように、経理帳簿を改竄(かいざん)して自分の懐にカネを入れたわけではない。あの段階で数字を作ってかさ上げしなければ会社が潰れて路頭に迷っていた。だから、仕方がなかったのだ。そう思っているフシがある。

 かつて総会屋事件で利益供与していた総務担当の役員たちも、本当には反省していなかった。会社のためには「汚れ役」が必要で、それをこなしているだけ。自分の利益のためにやっているわけではない、と思っていた。経営トップもそれが分かっていて、仮に逮捕されても、ほとぼりが冷めると子会社の顧問などにして生活の面倒をみていたものだ。建設業界の談合もまったく同じ構図だった。

 総会屋対策では、利益供与した会社側役員にも厳罰を加える法改正が実施された。さらに総会屋の罰則も強化されたため、割に合わない犯罪になって、今はほとんど下火になった。

 では、どうすれば企業の不正は根絶できるのか。一つは、不正が発覚したら厳罰に処することだ。不正が明らかになれば、厳しい罰が待っているとなれば、誰も不正は働かない。

 もう一つは会社のトップが「不正は絶対に働くな」と明言することだ。その上で、不正が発覚した場合、「不正に手を染めた社員は守らない」とはっきり言うことである。守らないどころか、会社が不正を働いた役員や社員を告発したり、損害賠償を求めたりするとまで言えば、社員はだれも不正に手を染めなくなる。

 終身雇用が幻想だと思い始めている若い世代は、会社に対する絶対的な忠誠心など、もはや持ち合わせていない。会社のために自分が不正を働いて処罰されるなど、ばかばかしいと思っている。だからこそ、社長が「会社のためだから不正を働くなんて絶対にダメだ。そんなことをしても、決して会社のためにはならない」とはっきり言えば、不正のカルチャーは根絶できる。日本企業から不正をなくす第一歩は、社長がまず腹をくくることである。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。55歳。

2017-11-01

選挙圧勝の自民党が守り抜くのは「この国」か、それとも「医師会」か 医療費圧縮の先送りはもうムリなので…

| 17:57

現代ビジネスに11月1日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53381

いよいよ始まった医療費を巡る攻防

増え続ける医療費を巡って、来年度予算の攻防が始まった。

財務省審議会が診療報酬を「マイナス改定」するよう求めたのに対し、人件費見直しを迫られる病院経営者らから反発の声が上がっている。

財務省財政制度等審議会財政制度分科会(分科会長:榊原定征経団連会長)が10月25日に求めたのは、診療報酬の「2%台半ば以上のマイナス改定」。診療報酬は医療サービスの公定価格で、医師の技術料に当たる「本体」と薬価相当分で構成される。

もっとも、仮に2%台半ばのマイナス改定が実現しても、医療費総額は減らず、医療費の伸びを「高齢化の範囲内」に留めることができるに過ぎない。それでも医療の現場からは、働き方改革などで医師の人件費の引き上げなどが求められている流れに逆行する、として抵抗する声が出ている。

一方で、厚生労働省は診療報酬改定によって薬価の大幅な引き下げを行う方針だが、急激に増えていきた調剤費をどれだけ抑えられるかは予断を許さない。

今年9月に公表された2016年度の「概算医療費」は41兆3000億円。このうち33兆6000億円が診療費、7兆5000億円が調剤費用、1900億円が訪問看護医療費となっている。

「概算医療費」は労災や全額自己負担の治療費は含まない速報値で、1年後に確定値として公表される「国民医療費」の98%程度に当たる。この「概算医療費」が2002年以来14年ぶりに減少した。だがこれで、増え続けてきた医療費が頭打ちになるのかというと、そうではない。

薬価を引き下げても、調剤費は…

2016年度の減少は大幅に増えた2015年度の反動だ。2015年度は一気に1兆5000億円、3.8%も「概算医療費」が増加したが、そのうち調剤費が9.4%増と一気に7000億円も増えた。

2015年度にはC型肝炎治療薬の「ソバルディ」と「ハーボニー」が相次いで公的保険の適用対象になったが、1錠約6万円から8万円と高額だったため、一気に調剤費が膨れたのだ。

通常、薬価改定は2年に1度だが、調剤費の急増に慌てた厚労省が、年間の販売額が極めて大きい薬は2年に1度の薬価改定を待たずに価格を引き下げるルールを設けた。この結果、これらの薬の価格が3割ほど下がった。これによって、2016年度の調剤費は4.8%の減少になった。

診療報酬改定の薬価分は、薬の実勢価格に合わせて引き下げられることになっており、それだけで1000億円程度は下がる見通し。つまり、2016年度の調剤費は7兆4000億円程度になる見込みだ。

もっとも、2015年度の薬価引き下げ前の調剤費は7兆2000億円で厚労省が大幅に薬価を引き下げると言ったところで、3年前よりも多くなるのは確実だ。

薬価は2年ごとの改訂だが、現実には薬の価格は時間と共に下落するケースが多く、医療機関や薬局、製薬会社に利益が多く残る仕組みになっている。厚生労働省内にはかねてから薬価を毎年改定すべきだ、という意見もあるが、製薬業界などの反対で実現していない。

高額薬剤の販売急増で製薬会社は潤ったが、一方で国民が負担した医療費は大きく増える結果になった。

こうした経緯から、薬価の引き下げには製薬業界なども強く反対しにくいと見られ、診療報酬全体でマイナス改定になるのは間違いなさそう。

「医療費カット」で下野したトラウマ

問題は、医師の人件費である診療報酬本体をマイナス改定にできるかどうかだ。診療報酬本体をマイナス改定にしたのは2006年度。第1次安倍晋三内閣の時だ。本体をマイナス1.4%、薬価改定をマイナス1.8%とした。

合計で3%を超すマイナス改定になったのは1985年以降では例がなく、社会保障費の伸び率抑制に果敢に切り込んだ。ところが、これが医療界、薬品業界の猛烈な反発を浴びることになった。野党民主党による「医療崩壊」キャンペーンが繰り広げられ、医師会は民主党支持に大きく舵を切った。

慌てた自民党政権は2008年度の改訂では本体を0.4%のプラス改定にしたが、医療費カットというレッテルを貼られた自民党は苦戦。選挙で敗北して下野する一因になった。

民主党政権下で行われた2010年度、2012年度の改訂では、本体部分が1.6%増、1.4%増と大幅なプラス改定が行われた。その後、第2次安倍内閣になっても、本体は2014年度が0.7%、2016年度は0.5%のプラス改定となった。2016年度は本体のプラスよりも薬価引き下げが大きくなり、診療報酬改定としてはマイナスになった。

2018年度に本体をマイナス改定するとなると、6回12年ぶりのマイナス改訂ということになる。これまでは、診療報酬の本体が5回続けてプラス改定されたことで、民間の病院などの経営は大幅に改善されたと言われる。

一方で、人手不足は深刻化しており、人件費はむしろ上昇する傾向にある。今回、診療報酬本体のマイナス改定が決まると、医師の実質人件費との差額は医療機関が負担する形になり、反転してその経営を圧迫することになる。

安倍首相は10月26日に開いた経済財政諮問会議で、経済界に3%の賃上げを要請した。これに対して、日本病院団体協議会議長の原澤茂氏は、医師などの病院関係者の賃金について「上げられる分の原資を診療報酬でみて欲しい」と述べたと報じられた。

診療報酬本体のマイナス改定に本気で取り組むとなると、医療界からの反発は激しさを増すことが予想される。

これまでの安倍首相は、過去のトラウマになっている問題は避け、真正面から反発を食らうような道は選ばなかった。一方で、農協改革のように、自民党下野の際に民主党支持に回った団体には「意趣返し」か、と思われるほど厳しい改革を行ってきた。はたして、医師会に対する姿勢はどうなるのか。

衆議院選挙で完勝を収めた安倍首相が、医療費圧縮に向けて毅然とした対応を取るのかどうか、注目される。