宝飾品など販売好調、消費底入れか 2019年の消費増税へ、「国内消費」の行方が焦点

日経ビジネスオンラインに11月24日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/112200064/

訪日外国人の高額品購入が復活

 百貨店での高額商品の売れ行きが好調だ。日本百貨店協会が11月21日に発表した10月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)によると、雑貨の中の「美術・宝飾・貴金属」部門の売上高が前年同月比5.8%増と7カ月連続のプラスとなった。10月は2週連続で週末に台風が日本列島を直撃するなど、百貨店全体の売上高は1.8%のマイナスだったが、高額商品の売り上げは失速しなかった。高額品の売れ行きは消費全体の先行きを占う先行指標とも言えるだけに、長期にわたって続いてきた消費低迷がいよいよ底入れする気配が出てきた。

 高額商品好調の追い風になっている最大の要因はインバウンド消費。訪日外国人の高額品購入が復活してきた。同じ百貨店協会がまとめた10月の外国人観光客の売上高調査によると、免税手続きをした売上高は280億9000万円と前年同月の1.9倍に拡大、月間で過去最大を記録した。

 免税手続きをした客の数は38万人と前年同月比1.6倍となり、こちらも過去最多を更新した。中国の国慶節の休暇が10月1日から8日までだったこともあり、中国人観光客の来店が大幅に増えた。

 中でも注目されるのが、免税客1人当たりの購買額が7万4000円と前年同月の5万9000円から大幅に増え、2015年12月の7万7000円以来の高さとなったこと。百貨店協会の調べによると、外国人観光客に人気があった商品のトップは引き続き「化粧品」だったが、2位に「ハイエンドブランド」、3位に「婦人服飾雑貨」が入り、中国人を中心とする外国人観光客の消費が再び高額化していることを物語っている。

 ちなみに免税客の客単価は2014年12月の8万9000円がピークだった。急激な円安によって日本での買い物価格が大幅に割安になったこともあり、百貨店で欧米の高級ブランド商品が飛ぶように売れた。そうした「爆買い」はその後沈静化、客単価も下落した。2016年7月には5万2000円を付けていた。

 その後は、日本の化粧品や食品などに購買対象が広がっていた。ここへきて日本製の婦人物コートなどが売れているといい、客単価の上昇は、かつての「爆買い」とはやや様相が違う。日本の良いものを買うという本来の方向に進みつつあるという見方もある。今年7月の単価は6万4000円だったので、3カ月で1万円上がったことになる。

株高による「資産効果」が追い風に

 問題は、日本国民などによる国内消費に火がつくかどうか。高額品の売れ行き好調は消費が盛り上がる予兆と見ることもできるが、果たしてどうか。もちろん外国人観光客は免税品だけを買うわけではないので、国内消費にも貢献しているが、国民が消費を増やさなければ、力強さは戻ってこない。

 そこで、全国百貨店売上高から免税売り上げを引いた「実質国内売り上げ」を計算し、対前年同月比を見てみた。対象店舗数が違うので、正確な数字とは言えないが、それでも傾向はわかる。

 2016年8月から2017年8月まで1年にわたってマイナスが続いていたが、2017年9月は1年2カ月ぶりにプラスに転じた。ところが10月はマイナス4.2%と、再び減少に転じてしまった。台風など天候要因が大きかったので、一喜一憂はできないが、今後の動向を注視する必要がありそうだ。

 高額品消費に追い風はまだある。株価の大幅な上昇によるいわゆる「資産効果」だ。日経平均株価が9月中旬に2万円を突破、10月に入ると上げ足を早め、2万2000円台に乗せた。海外投資家が買い越しを続けていることが大きいが、一方で日本の個人投資家は株式を売り越しており、値上がりによる利益を獲得しているものとみられる。

 株価の上昇によって利益を得たり、含み益が増えたりしたことで、財布のひもが緩み、それが消費に回る。「資産効果」による消費は、日頃は買わない高額品などが売れることだ。百貨店の「美術・宝飾・貴金属」が、外国人観光客だけでなく、日本人富裕層に売れ始めるようになると、消費が本格的に底入れする可能性が出てくる。

 国内消費が低迷を続けたままだと、2019年10月に予定される消費税率の引き上げに暗雲が漂う。安倍晋三首相は消費増税分の使い道を争点に10月に解散総選挙を行っており、現在8%の税率を10%に引き上げることは既定路線だが、消費が低迷したまま増税に踏み切れば、さらに消費が落ち込み、景気を失速させることになりかねない。

 2020年には東京オリンピックパラリンピックが控えており、これに向けた建設投資や設備投資などが2018年は佳境を迎える。景気は一段と力強さを増すに違いないが、それが消費に回るためには、安倍首相も言うように働く人たちの給与が増えて「経済の好循環」が起きることが不可欠になる。

 日本を訪れる外国人の消費を多様化することも課題だ。免税品を狙った「買い物ツアー」では、消費対象は限られる。しかも免税手続きをした場合、消費税は入って来ない。せっかくやってくる外国人にもっとおカネを落としてもらう工夫が必要だろう。

訪日外国人は「リピーター」が過半数

 日本政府観光局(JNTO)の推計によると、日本を訪れる外国人の数は今年1〜10月の累計で2379万人と、2016年1年間の2403万人に迫っている。2017年1年間では2800万人に達する見通しだ。オリンピックを開く2020年には4000万人に増やすという目標を政府は掲げている。

 オリンピック観戦に来る観光客を含めれば、4000万人の突破は十分にあり得る。その観光客によるインバウンド消費が、消費全体に占める割合は現在以上に重みを増す可能性が高い。

 いかに外国人に長期滞在しておカネを落としてもらうか、そのための仕組みづくりが不可欠だ。

 観光庁がまとめている「訪日外国人の消費動向」の2017年7〜9月報告書によると、旅行者1人が旅行中に支出している金額は14万339円。前年同期に比べて9.8%も増えている。

 では、何に使っているか。買い物代が34.2%と最も多く、次いで宿泊費が29.7%、飲食費が21.1%、交通費が11.2%となっている。「娯楽サービス費」は3.3%に過ぎない。

 一方でこの調査では「次回したいこと」も聞いている。「次回したいこと」で「今回したこと」を上回るポイントになったのは、「温泉入浴」(40.0%)や「四季の体感」(27.6%)、「日本の歴史・伝統文化体験」(27.0%)、「自然体験ツアー・農漁村体験」(16.0%)、「舞台鑑賞」(12.9%)など。もちろん、次回も「ショッピング」を楽しみたいという人も多い(42.6%)がより体験型の旅行を求めていることがわかる。いわゆる「モノ消費」から「コト消費」へのニーズだ。

 そう考えると、まだまだ日本には旅行者をひきつけるコンテンツがたくさんある。しかも大都市部ではなく、地方にこそその魅力が散在している。だが、一方で、地方ほどその魅力に気づいておらず、観光コンテンツとして磨かれていないケースが多い。

 「インバウンド消費」というと、百貨店やドラッグストアでの「爆買い」がイメージされがちだ。だが、今や日本を訪れる外国人はリピーターがかなりの数に上っている。観光庁の前述の調査では、初めて日本を訪れた人は43.7%で過半数はリピーターだった。10回目以上という人も8.2%に達する。日本にやってくる外国人は年々「日本通」になってきているのだ。

 そうした旅行者により「日本らしさ」を体験してもらう工夫をしなければ、早晩飽きられてしまう。日本にやってくる理由は「買い物」だけではなくなっているのだ。

 日本の良さをアピールするだけではない。日本が世界から呼び寄せるコンテンツの力も旅行者には魅力だ。東京の博物館で開かれる展覧会の特別展などで、外国人の姿が多く見られるようになった。また、音楽会でも外国人が席を占める。日本に絵を見にやってくる、あるいは音楽を聴きに来るのは、日本が世界からコンテンツを集める力を持っているからだ。日本で開くコンサートももはや日本人のためだけのものではない。

 2020年に向けて、どうやって外国人に国内でおカネを落としてもらうか。真剣に考える時が来ている。