「真正面」から外国人労働者を受け入れよう 技能実習の拡大による「なし崩し」は最悪

日経ビジネスオンラインに1月12日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/011100059/

23区の新成人は「8人に1人」が外国人
 1月8日は全国各地で「成人の日」の祝典が行われた。今年の新成人は123万人。前年に比べて横ばいだった。だが一方で、新成人に占める「外国人」の割合は着実に増えている。

 8日夕方にNHKは「東京23区の新成人 8人に1人が外国人」というニュースを流していた。NHKの調べによると23区の新成人は8万3400人で、そのうち1万800人あまりが外国人だという。「留学生」が急増していることが背景にある。

 日本語学校や専門学校、大学などが集中する新宿区が23区内で最も外国人の新成人が多く、およそ1790人。新成人の45.7%が外国人だという。新成人の半数近くが外国人と聞くと耳を疑うが、もはやそれが現実なのだ。次いで豊島区が1200人で38.3%、中野区が860人で27.0%だったと報じられた。成人式に振袖姿で参加する外国人の姿も珍しくなくなってきた。

 実は、こうした傾向は都心部の特殊な地域のものではなくなってきている。工場や農業生産現場の「労働力」として外国人を受け入れてきた地方都市などでも、外国人の新成人が増えている。もはや外国人なしに日本の経済も社会も回らなくなり始めていることを象徴している。

 日本の人口は減少が続いている。総務省統計局が発表する月次の人口推計では、最新の確定値である2017年7月1日で1億2678万6000人。1年前に比べて20万9000人減った。実はここには増加を続けている外国人も含まれており、「日本人」の人口は1億2476万3000人と1年で35万4000人減った。逆に言えば、1年で外国人が約15万人増えているのだ。さらに「日本人」の中には、外国人が帰化して国籍を取得した人も含まれている。

 日本人は高齢化が著しい一方で、外国人は留学生を中心に若年層が多い。このため、新成人で外国人の割合が大きくなるわけだ。当然、働き手となる世代での外国人の割合は高く、もはや外国人なしに不足する人手は賄えなくなっている。

「資格外活動」労働者は3年で2倍に
 昨年末の12月25日、朝日新聞がコンビニ大手ローソンの竹増貞信社長のインタビューを掲載した。コンビニの業界団体である日本フランチャイズチェーン協会が、外国人技能実習生の対象に「コンビニ店員」を加えるよう要望しようとしていることに関して、「必要だ。やるなら早い方がいい」と語っている。

 一方で、理由は「人手不足対策ではない」と強調したというのだ。「レジ係に限らず、コンビニには商品の発注や店舗の清掃など小売業のノウハウが満載だ」「コンビニ業務を身につけて自国に帰れば、その国の小売業で活躍できる」と語ったのだ。

 これにはネット上などで猛烈な批判の声が上がった。ローソンの場合、店舗のスタッフの5%程度が外国からの留学生で、語学学校が集まる東京の都心部では3割が外国人留学生だという。多くの読者はコンビニの外国人店員と日ごろ接している。彼らがいなくなったら営業が回らないであろうことは容易に想像できるだろう。「人手不足対策ではない」という竹増社長の発言が「建て前」であることはミエミエなのである。

 そもそも、急増している外国人「留学生」も、本当の狙いは日本で働く事にあるケースが多い。留学生ビザでは一切働くことができない米国などと違い、日本にやって来た留学生は週に28時間までアルバイトをすることが認められている。さらに夏休みなど長期休暇の間は1日8時間まで働くことができる。

 留学生ビザは、日本語学校などへの授業料が全額支払われていれば、簡単に取得できる。最近急増しているネパールやベトナムからの留学生の多くが、借金をして授業料を払って日本にやってくる。間には業者が介在し、日本で働いた賃金から借金を返済することになる。要は体の良い「出稼ぎ」の仕組みとして利用されている。「留学生」という枠組み自体が「建て前」なのである。

 留学生は働く資格がないということで「資格外活動」として厚生労働省外国人労働者数の統計に登場する。2013年に12万1770人だった資格外活動の労働者は2016年には23万9577人と、わずか3年で2倍になった。2017年10月時点の統計は今年1月末に公表される予定だが、さらに大きく増えていることは間違いないだろう。

 コンビニ業界が「技能実習制度」の枠組みにコンビニ店員を加えるよう求めているのは、そうした留学生の資格外労働に厳しい目が向けられつつあることと無縁ではない。技能実習ならば、国が認めた制度であり、外国人を働かせることが可能になる。

 しかし、「人手不足対策ではない」と言い張らなければならない社長にも同情すべき点はある。技能実習という制度それ自体が「建て前」の制度だからだ。日本で技能を実習して帰り、それを自国で役立たせる、あくまで国際貢献の仕組みだというのが制度の目的になっている。たとえ、自国には造船業が存在しない国からやってくる労働者でも造船業界で「技能実習生」として働けるし、コンビニがない国からやって来た若者にもノウハウを教えることができる。

日本の総人口の「1.6%」は既に外国人
 本来は労働力として受け入れたいのだが、国があくまで「移民政策は取らない」「単純労働者は受け入れない」という頑なな態度を取り続けているために、「建て前」の制度を利用せざるを得なくなっているのだ。

 ローソンの社長が、「はい。人手不足対策として不可欠です」と言ったとしたら、その段階で政府はコンビニ店員を技能実習生として受け入れる道を閉ざしてしまう恐れがあるのだ。

 問題を直視せず、本音を語らず、建て前だけの制度を守る。あまりにも日本的な対応と言えるだろう。

 だが、そうやって「なし崩し的」に外国人労働者を受け入れていることが、将来に禍根を残すことになりかねない。成人式からも分かるように、日本に住んでいる外国人は、社会生活を日本で営むことになる。当たり前の話だが、労働者は生活者でもあるのだ。

 これを欧米先進国では「移民」と呼んで、当然の存在とみなしているが、日本では欧州に大量流入した「難民」問題などと区別もせず、外国人受け入れが社会混乱をもたらすといった恐怖心ばかりが煽られている。

 この結果、政府は真正面から移民問題を議論しようとしていない。国際的な基準では1年を超えてその国に居住する外国人は「移民」という扱いで、日本でも総人口の1.6%が外国人になっている。欧米諸国に比べればまだまだ少ないが、日本人人口の減少が続けば、さらに人手不足が深刻化し、外国人受け入れが不可欠になるだろう。

 その時に明確な移民政策をもたず、生活に必要な日本語や日本の社会制度の教育もまったく義務付けないままで、なし崩し的に外国人が流入してくれば、日本国内に民族ごとのムラが出来上がり、社会的な摩擦の原因になりかねない。ドイツなど移民先進国が過去に犯した失敗を、みすみす日本も繰り返そうとしているようにみえる。

 今後ますます進む人手不足を補うには、長期にわたって日本に住む定住外国人に頼らざるをえないのは明らかだ。そのためにも、早急に外国人受け入れ問題に真正面から向き合う必要がある。