Hatena::ブログ(Diary)

磯山友幸のブログ RSSフィード Twitter

2018-03-09

復旧だけでは東北経済は「息切れ」する 「所得」「消費」「雇用」で鮮明になった深刻度

| 17:02

日経ビジネスオンライン3月9日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/030800072/

震災復興「特需」は1年限り?

 東日本大震災から7年。この間、宮城県福島県を中心とする被災地の復興に向けて、多額の国費が投入されてきた。住宅の再建や高台への移転、土地のかさ上げ、除染作業など、地道な活動が続いてきた。

 だが、被災によって壊滅的な被害を受けた地域ほど、コミュニティーが破壊され、住民は戻らず、経済活動は停滞したままだ。本当の意味での「生活復興」はできているのだろうか。

 福島県がまとめた「2015年度福島県県民経済計算」によると、県民所得は5兆4395億円と2014年度に比べて1.8%減少した。震災で2011年度には11%も減少したが、その後2012年度9.7%増、2013年度8.3%増、2014年度1.9%増と増加基調にあった。しかし2015年度は水面下に沈んだ。

 1人当たり県民所得も2015年度は284万2000円と、前年度に比べて0.7%減少した。4年ぶりの減少だ。県の報告書では「復旧・復興への取り組みを続ける中、製造業や卸売・小売業、建設業が減少したことから、全体として総生産が減少」したとしており、それが県民所得の減少に直結している。

 県民所得のデータは集計が終わるまでに時間がかかるため2015年度が最新だが、福島県など東北地方経済は、その後も「息切れ」状態が続いているとみられる。

 端的に表れているのが消費だ。日本百貨店協会がまとめている地域別の百貨店売上高(年間)で「仙台」と「東京」の対前年比伸び率を比較すると、仙台東京を上回ったのは2012年だけ。東京が2.1%増だったのに対して、仙台は7.7%増と、震災復興の「特需」に沸いた。

 ところが2013年は東京の3.5%増に対して仙台は0.4%増、2014年と2015年は東京がプラスだったのに対して、仙台はマイナスに落ち込んだ。2016年は東京の1.8%減に対して仙台は3.7%減である。

 住宅の再建や補修に伴う家具や家電製品、家庭用品の購入などは、震災後1〜2年で影をひそめ、消費は沈静化していったことが伺われる。

東北地方の人手不足は、南関東より深刻

 ちなみに、2017年の地域別百貨店売上高は、東京が0.5%増だったのに対して、仙台は0.6%増と、全国的な景気の底入れとほぼ同じ動きになり始めているのかもしれないが、もはや東北の方が、消費が盛り上がっている、という状況ではなくなっている。

 その最大の要因は、復興関連の公共工事などは別として、通常の経済活動が停滞して、仕事が増えないからだろう。7年経った今も、かさ上げされた更地だけで、「町」が復興されていないところが東北の沿岸にはたくさんある。もともとあった会社が潰れたり、別の場所に移転するなど、経済活動が戻ってきていないのだ。

 これは総務省労働力調査を見てもわかる。「東北」の雇用者数は震災前の2010年の376万人から2017年には392万人に4.3%増えた。一見、仕事が増えて経済活動が活発化しているように見える。だが、これに対して「南関東」は2010年の1651万人から2017年は1789万人と8.4%も伸びている。つまり、東北の雇用者数の伸び率は南関東の半分なのだ。ちなみに「南関東」は、埼玉千葉東京神奈川である。

 アベノミクスが始まった2013年以降、全国的に雇用者数が伸びている。企業収益の回復によって企業が雇用を増やしているためだ。2018年1月の有効求人倍率は1.59倍で、バブル期を超え、高度経済成長期並みの人手不足状態が続いている。

 こうした全国的な人手不足が、被災地の復興の足を引っ張っている可能性もある。復興に向けた土木工事などはまだまだ仕事があるが、人手が足らないことから予算はあっても完成できていないケースが少なからず存在する。

 これは、地域別の有効求人倍率に裏付けられている。2018年1月のデータを見ると、東北有効求人倍率は1.65倍。南関東の1.48倍を大きく上回る。東北の方が人手不足は深刻なのだ。

 多額の復興予算によって、土木工事や建設工事が東北地方で行われている。もちろん、これは壊れた堤防や地盤をもとに戻す「復旧」が第一の狙いだが、生活基盤が壊れた被災地に「仕事」を供給する意味合いもある。当初は全国から作業員が集まり、その仕事をこなしたが、今や全国的な人手不足で、簡単には労働力が集められなくなっている。

 公共事業を行えば、そこに労働力が集まり、その地域で消費をして、地域経済が回り始めるという地域版の「経済好循環」が当初数年間は機能したが、ここへ来て公共事業で経済を回すモデルに限界がきているように見える。

 最大のポイントは、経済を回すための「生活基盤」の拡大だろう。最も重要なのが「仕事」であることは間違いない。だが、「食べていければ良い」という理由だけで職業を選択する人は今の時代、大きく減っている。そこに「やりがい」があるか、東北地方でしかできない仕事があるのかが大きな選択肢になっているのではないか。逆に言えば、魅力的な仕事を、被災地を中心とする東北地方にどうやって「創造」していくかが重要になる。

経済だけでなく「精神的リターン」が重要に

 そのためには、自分たちの地域の強みを生かした産業に磨きをかけ、そうした産業を再興するグランドデザインを作ることが不可欠だ。今、被災地の自治体の財政は、国からの資金で水ぶくれしている。これが本当に自分たちの地域の役に立つ事業なのか、疑問を感じながら歳出予算を組んでいる首長・議会も少なくない。国が主導する復興計画に唯々諾々と従っていて、本当に自分たちの町は再び賑わいを取り戻せるのか、そんな疑問の声を多く聞く。

 長い将来を考えれば、自分たちの地域で自立していける経済を作ることが必要だ。人口減少が進む中で、どうやって日本中から若者を集め、地域経済を動かすか。

 今、地方創生が花盛りだ。これにも国の予算が付いており、全国似たような事業計画が目白押しだ。本当に自分たちの魅力を磨くことよりも、国から補助金をもらうことが優先課題になっているように見える。

 本来は、国からお金がもらえるかどうかではなく、本当に自分たちの地域を活性化させるためのアイデアを磨き、自分たちで実行に移していくことが大事だ。つまり、「自分たちの地域の魅力はこれだ」という価値付けと、「それを将来に向けてこう変えていく」というビジョンを示せば、資金は必ずしも国や県の補助金に頼らずとも、全国から集めることが可能だ。

 クラウドファンディングで多額の資金が集められるようになった現在、お金の出し手に響くのは「経済的リターン」の大きさというよりも、地域づくりに貢献できるという「精神的リターン」の大きさが重要になっているように見える。いかに「共感」を呼ぶビジョンなり計画を作れるかがポイントになっているのだ。

 東北地方には全国に発信できていない「宝」がまだまだたくさんある。そうした宝に磨きをかけることで十分に産業化できるものが一杯ある。東北の人たちにそう言うと、決まって「東北人は口下手で、宣伝しないから」という返事が返ってくる。そのためにも「よそ者」を積極的に招き入れることだろう。「よそ者」だからこそ、地域の宝の価値に気づくということもある。

 震災から7年。「復旧」の段階はもはや終わりつつある。いかに本当の意味での経済復興を進めるか。むしろこれからが本番のように思う。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/isoyant/20180309/1520582541