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2018-06-15

「就業者」急増は、消費底入れの前兆か? 64カ月連続で増加し、過去最高の更新まであと一歩

| 09:26

日経ビジネスオンラインに6月15日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/061400069/

「就業者数」「雇用者数」ともに64カ月連続増加

 ここ数カ月、働く人の数が急増している。企業に雇われて働く「雇用者」だけでなく、自営で働く人を含めた「就業者数」が大幅に増えているのだ。人口は減少しているはずなのに、働く人が増えているのはなぜか。景気が良くなる兆しと見ることもできそうだ。

 総務省が発表した2018年4月の労働力調査(5月29日公表)によると、就業者数は6671万人と昨年12月末からの4カ月間で129万人も増加した。1年前の4月と比べると171万人の増加である。

 対前年同月比では、第2次安倍晋三内閣が発足した直後の2013年1月から64カ月連続でプラスが続いている。ピークは1997年6月の6679万人で、あと一歩でこれを更新する。

 働く人の増加は安倍首相が繰り返し自慢するアベノミクス最大の「実績」で、経済が縮小スパイラルに陥った「デフレ経済」からの脱却を示すものとして、強調されている。特に、大胆な金融緩和による円高の是正で、企業収益が大幅に改善。企業が積極的に雇用を増やしたことが背景にあるのは間違いない。

 「雇用者数」も同じく64カ月連続で増え続けており、2012年12月の5490万人からこの4月は5916万人と、426万人も雇用が生み出された。リーマンショック後の状況から一変。今では新卒者に企業が群がり、人材獲得競争が激しさを増している。

 5年以上にわたって続く雇用者の増加だが、ここへきて、大きな変化が見られる。年明けからの増加率が著しいのだ。対前年同月比で見ると、1月1.5%増→2月2.1%増→3月2.5%増→4月2.8%増と2%を超す伸びになっている。この5年で2%を超えたのは2月が初めてで、しかもそれ以来3カ月続いているのである。

 いったい何が起きているのか。

 一つの大きな特徴は「非正規」の伸びが急増していること。実は2016年10月から昨年12月までの15カ月中、14カ月は「正規」の伸び率の方が「非正規」の増減率を上回っていた。それが今年に入って再逆転しているのだ。しかもその伸び率が尋常ではない。対前年同期比で1月3.5%増→2月5.7%増→3月5.7%増→4月5.0%増といった具合だ。

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「非正規」雇用の伸びが「正規」を圧倒している


女性のパート労働者が急増

 アベノミクスの前半は、正規の雇用者は減少し、非正規が大きく伸びるという状況が続いた。野党からは「雇用が生まれていると言っても非正規だけが増えている」と批判されたものだ。

 ちょうど団塊の世代が定年を迎えて嘱託社員にとなる例が増えたことが、正規の非正規化の大きな要因だったとみられるが、実際に正規が減っていたのは事実だ。ところが2015年ごろから正規の減少は止まり、前述のように2016年秋ごろからは正規の伸びが非正規を上回った。非正規ではなかなか優秀な人材が採用できないので、正規化する動きが広がったことが大きいとみられる。

 人手不足の状況が変わらないのに、なぜここへきて再び非正規が急増しているのだろうか。

 雇用者数はこの4カ月間で53万人増えたが、この間、男性の雇用者は8万人減少、女性の雇用者は61万人も増えた。雇用形態別ではパートが40万人増加したが、このうち女性のパートは29万人を占める。つまり、非正規雇用が急増している背景にはパートの仕事が増えていることがあるのだ。

 ではどんな業種で雇用が増えているのだろうか。

 最も雇用者の増加数が大きい業種は「卸売業・小売業」で、この4カ月の間に21万人増えた。次いで「情報通信業」が18万人増加、「宿泊・飲食サービス業」が16万人、「金融保険業」が同じく16万人増えた。もちろん季節要因もあるが、対前年同月比でも「宿泊・飲食サービス業」が39万人増加、「卸売業・小売業」も21万人増えている。明らかにホテルや旅館、飲食店、小売店といった消費産業で女性のパートを中心とする仕事が急増しているのである。

 足元の日本の消費はまだまだ力強さに欠けているというのが実情だ。にもかかわらず、宿泊、飲食、小売りで雇用が増えているのはなぜか。

 2020年の東京オリンピックパラリンピックを控えて、顧客が大きく増加するという「期待」が高まっているのが一因だろう。実際すでに、外国人観光客が大幅に増えた効果が出始めていることも、こうした産業の経営者を強気にさせている。

 2017年に日本を訪れた訪日外国人はJNTO(日本政府観光局)の集計によれば2869万人。今年は4カ月ですでに1000万人を突破しており、年間では3300万人近くに達するペースだ。政府は2020年に4000万人を見込んでいるが、このペースが続けば十分に達成できる。もちろん、訪日外国人が日本国内で落とすお金も大きい。

 その恩恵を受けるのは消費産業ということになるが、その効果をガッチリつかむには店舗を運営する人材が不可欠だ。

旅館やホテルで人材の争奪戦

 全国の主要都市でホテルを建設する動きが広がっているのに加え、既存の旅館やレストランなどでも改装などが行われている。ただし、いくらハコモノを整備しても、接客するスタッフが足りなければお客を受け入れることができない。2020年をめがけて、人材の確保が始まっているのかもしれない。

 もう一つ、こうした産業の雇用が増えている理由は待遇の改善だろう。宿泊・飲食・小売りといったサービス産業は生産性が低い業種の代表格だった。デフレ経済の中で、価格競争が激しさを増し、儲からない産業になっていた。このため従業員の給与も他の産業に比べて低く抑えられていた。

 それが、ここへきて給与が上昇傾向にある。ひとつは国の政策もあって最低賃金が急ピッチで上昇していること。安さを売り物にする外食チェーンでも都心部では時給1000円以上が当たり前になった。待遇の改善によって、パートやアルバイトが集まるようになったということだろう。

 こうした産業で値上げが浸透してきたことも理由だ。ホテルや旅館の価格は大幅に上昇している。外国人観光客の急増で、稼働率が上がり、宿泊料も引き上げられれば、当然、大きな利益が生まれる。これを従業員に還元することが可能になってきたのだ。逆に言えば、キチンとした待遇でなければ、人材が他の旅館やホテルに奪われる、という事態になっている。

 日本の旅館やホテルなどの価格は世界的に見て極めて安い。欧米諸国はもとより、シンガポール香港などアジア諸国のルームチャージよりも安いケースが少なくない。しかも旅館の場合、1泊2食付きが普通で、外国人観光客からすれば、信じられない安さ、ということになる。20年以上にわたって日本でデフレが続いた結果、国際価格から大きく乖離してしまったのだ。逆に言えば、国際価格に戻すチャンスで、「低採算業界」という汚名を返上する絶好の機会に直面していると言える。

 話を戻そう。この4カ月で増えているのは「雇用者」ばかりではない。それ以上に「就業者」が増えているのだ。就業者は129万人増えたが、そのうち雇用者は54万人である。具体的な理由はまだ分からないが、「自営業」や「請負」といった会社に雇われない働き方が大きく増えているとみられる。雇用者と同様に「宿泊・飲食サービス業」や「卸売業・小売業」などの就業者が大きく増えている。

 外国人観光客などを目当てに規模の小さい物販業など小売業を始める人が増えているのかもしれない。あるいは、「働き方改革」の一環で、多様な働き方を求める人が増えたり、企業もそうした働き方を容認するようになって、「雇用」ではない働き方の契約形態が広がり始めている可能性もある。

 消費産業を中心とする、この4カ月の就業人口の急増が続くのかどうか。この傾向が長続きするようならば、日本の消費が本格的に底入れしてくるシグナルになる可能性もありそうだ。

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