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2018-07-02

2つの「コード」で株式持ち合いが消え、 経営者への白紙委任は終焉へ

| 12:56

月刊エルネオス7月号(7月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 六月下旬に一斉に開かれた上場企業株主総会。かつては経営者に「白紙委任」するシャンシャン総会瓩大半だったが、今は大株主が経営に対してモノを言う機会に大きく変わっている。機関投資家と呼ばれる年金基金や生命保険会社、投資信託会社などは、当日の総会場で発言することはまずないが、裏では経営者の出した議案に「否」を突きつけるなど、「モノ言う」姿勢を強めている。

 背景には二つの「コード」の存在がある。第二次安倍晋三内閣以降、政府主導で相次いで導入された。

 一つ目は二〇一四年に決まった「スチュワードシップ・コード」。機関投資家のあるべき姿を示した行動指針だ。大原則は、アセット・オーナー(資産の保有者)の利益を最大化するように行動すること。例えば、生命保険会社は膨大な株式を保有しているが、その原資は年金保険や生命保険などに加入する保険者が拠出した資金。つまりアセット・オーナーは保険契約者ということになる。生命保険会社が保有している株式の議決権を行使する場合、その投票行動が保険契約者の利益に反しないかどうかが問われるのだ。

 かつて保険会社は、営業にプラスになるのを狙って、保険契約を結んでくれる会社の株式を保有し、経営陣の出す議案には無条件で賛成するという「安定株主」の役割を担っていた。だが今は、長年にわたって業績が低迷していたり、配当が低い会社の、役員選任議案などに「否」を付けることも珍しくなくなってきた。

長年の付き合いだけでは株式の持ち合いはできない

 金融機関の多くは、株式保有を純粋な投資として行うの

ではなく、企業との長年の関係や営業上の損得など「政策」目的で行ってきた。いわゆる「政策保有株」「持ち合い株」と呼ばれるものだ。それがスチュワードシップ・コードの導入で、昔から続いてきたという理由だけで政策保有株を持ち続けることができなくなっているのである。昨年からは、機関投資家に対して、株主総会での投票行動を個別に開示するよう求められるようになった。どの会社のどの議案に賛成し、反対したのか、白日の下に晒されることになったのだ。

 これで一層、会社側提案の議案に無条件に賛成するというのは難しくなった。特に、不祥事を起こした企業の経営者の再任議案などには、反対する機関投資家も増えている。例えば、二〇一七年の総会では大手機関投資家東芝役員選任議案に反対した。

 もう一つのコードが、「コーポレートガバナンス・コード」である。これは上場企業のあるべき姿を示したもので、一五年六月から施行された。取締役会のあり方や役員報酬などについて細かく「原則」が定められている。

 そのコーポレートガバナンス・コードが三年ぶりに改定され、この六月から施行された。企業経営者と機関投資家の「対話」の促進に重点が置かれ、「投資家と企業の対話ガイドライン」も同時に公表された。

 経営者と投資家の対話とは、要するに大株主の意思に経営がもっと耳を傾けよ、というもの。スチュワードシップ・コードでモノ言う株主に変わりつつある機関投資家の声を経営に反映させよ、というのである。

 今回の改定で影響が大きいのは、「持ち合い株式の削減方針の明確化」である。経営者に白紙委任を与える持ち合い株の存在が、機関投資家など他の株主の発言権を封殺する。その根源である持ち合い株式自体を削減せよ、としているのである。

「政策保有株」に関する原則が大きく変わり、これまで「政策保有に関する方針を開示すべき」とされていたものが、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」となった。コーポレートガバナンス・コードに従う会社は、今後、株式持ち合いの「縮減」を目指すべきだと明示されたわけだ。

議決権行使の合理性を問われ持ち合い株式の縮減が加速

 また、改定前には、政策保有株を持っている場合には、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい、合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを、「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」と変更した。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか具体的に精査せよ、とまで問われると、なかなかそれを立証することは難しく、これまでも多くの会社が持ち合い解消に動いてきた。この流れは一気に加速することになりそうだ。

 機関投資家の中からも、持ち合いに対して問題視する動きが強まっている。今年六月の総会では、TBSホールディングス(以下TBS)に海外の大株主が突き付けた株主提案が注目を集めた。海外株主英国のアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)というファンドで、アクティビスト(モノ言う株主)型の投資を行っているとされる。アクティビストとは、企業に経営改革や増配などを迫り、株価を上げて投資回収する投資家を言う。AVIは今年三月末時点で二%弱のTBS株を保有しているとみられる。

 そのAVIが、TBSが保有する東京エレクトロン株七百七十万株のうち、四割に当たる三百六万四千四百十四株を株主に現物配当せよと要求したのだ。

 TBSは東京エレクトロンの発行済み株式の四・七%を持ち、事実上の筆頭株主。TBSが長期保有してきた政策投資株、つまり「持ち合い株」である。AVIはTBSが保有する持ち合い株には合理性がないので、株主に分配せよとしたわけだ。

 コーポレートガバナンス・コードの改定が、早速、株主総会で現実の提案として議題にのぼったのだ。機関投資家側も議決権行使の「合理性」を問われることになるので、会社側が反対する株主提案だからといって無条件に反対する、というわけにはいかなかったのである。

 今後、ますます持ち合い株式の「縮減」が進んでいくことになるのは間違いなさそうだ。

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