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2018-10-11

「70歳定年」だと…?いつまでも働かなければならない社会への危惧

| 21:06

現代ビジネスに10月11日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57908

狙いはやはり「社会保障費の抑制」

自民党総裁3期目に入った安倍晋三首相は、内閣の「最大のチャレンジ」として「全世代社会保障への改革」を打ち出した。これまでは「働き方改革」を最大のチャレンジとして掲げてきたが、通常国会働き方改革関連法が成立したことから、次にステップを進める、ということなのだろう。

10月5日に首相官邸で開いた「未来投資会議」(議長・安倍首相)で打ち出したもので、今後、未来投資会議で集中的に議論を進める、としている。

今後目指すという「全世代社会保障」とは何なのだろうか。未来投資会議で安倍首相はこう述べた。

「生涯現役社会の実現に向けて、意欲ある高齢者の皆さんに働く場を準備するため、65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けた検討を開始します。この際、個人の実情に応じた多様な就業機会の提供に留意します」

さらに、こうも述べている。

「健康・医療の分野では、まず、人生100年健康年齢に向けて、寿命と健康寿命の差をできるだけ縮めるため、糖尿病・高齢者虚弱・認知症の予防に取り組み、自治体などの保険者へのインセンティブ措置を強化します」

高齢者にいつまでも元気で働いてもらう、というわけだ。もちろん高齢者が活躍の場を得て、生き生きと働くのは悪いことではない。だが、それがなぜ、「社会保障改革」になるのか。

狙いは増え続ける社会保障費を抑制することにあるのは明らかだ。いくら寿命が延びても病気になって病院のベッドで生きながらえるとなると、膨大な医療費がかかる。

すでに日本の年間の医療費総額は42兆円を突破。中でも「75歳以上」の高齢者の医療費の伸びが大きく、医療費増に拍車をかけている。2017年度では75歳以上のひとり当たり医療費は年間94万2000円で、75歳未満の22万1000円を大きく上回っている。15歳以上65歳未満の現役世代が使っている医療費は全体の3分の1だ。

ところが、今の制度では現役世代は給与に応じた健康保険料に加えて、受診時には3割を自己負担している。一方で、75歳以上の「後期高齢者」は現役並みの所得がある人を除いて1割負担になる。その分、健康保険組合や国の財政を圧迫しているわけだ。

しかも、2022年には団塊の世代が75歳以上に加わり始める。このままでは、医療費の総額が増える一方で、現役世代へのしわ寄せが一段と強まることになる。

できるだけ健康で長生きしてもらえば、その分、医療費の増加は抑えられる、と言うわけだ。医療費を抑えた自治体などにインセンティブを与えるというのも、野放図な増加に何とか歯止めをかけたいという苦肉の策である。

年金支給開始年齢の引き上げへ

前段の「65歳以上への継続雇用年齢の引上げ」は、年金の支給開始年齢を引き上げるための準備とみていい。実際、年金を受給し始める年齢を70歳以上に引き上げることが選択できるようになる。

年金の支給開始年齢だけを引き上げれば、退職後も年金がもらえず無収入になる人が出て来る。これを避けるために、定年になっても希望すれば継続して働ける制度が設けられている。

安倍内閣は2013年から改正高年齢者雇用安定法を施行、定年を迎えた人が希望すれば、65歳まで企業は雇用し続けることが義務付けられた。

企業の対応は3つで、定年を65歳以上に引き上げるか、定年自体を廃止するか、65歳までの継続雇用制度を設けるかを迫られた。継続雇用は給与など待遇については見直して再雇用する形が多くの企業で採られている。

現在、年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられつつあるが、65歳までの継続雇用制度はこれに対応しているわけだ。

安倍内閣が未来投資会議で、継続雇用制度の年齢をさらに引き上げる議論を始めるのは、将来の年金支給開始年齢の引き上げを狙っているために違いない。支給開始を全員70歳にするには、継続雇用を70歳まで企業に義務付ける必要がある。

政府内には定年自体の引き上げを義務付けるべきだという意見もある。人手不足が深刻化する中で、定年を引き上げたり、撤廃する企業も出ている。ただ、そうなると年功序列型賃金を採る伝統的な大企業では、高齢者に支払う人件費が大きく膨らむ。

現在の再雇用では、仕事に応じた給与を提示、本人が納得すれば嘱託などとして残るという形が一般化している。今後、どういった制度設計がされるかで、企業経営への影響は極めて大きい。

定年を廃止する場合、企業が経営状況や社員の評価によって比較的に簡単に解雇できるようにすることが不可欠だ。定年はない代わりにいつでも解雇が行われ、企業の新陳代謝が図られる。

不可欠、日本型雇用解体

継続雇用年齢の引き上げは、終身雇用年功序列という日本型の雇用制度を大きく見直す必要が出て来る。

安倍首相も未来投資会議で次のように述べた。

「あわせて新卒一括採用の見直しや中途採用の拡大、労働移動の円滑化といった雇用制度の改革について検討を開始します」

刺激の強い「解雇制度」という言葉は避けているが、中途採用を拡大して、労働移動を円滑化する裏側は、解雇が比較的自由に行われる社会ということになる。

政府の規制改革会議(議長・大田弘子氏)などでは、金銭を支払うことで解雇を認める解雇ルールの整備などを求めており、未来投資会議ではこうした議論も行われることになりそうだ。

いつまでも働く社会に変えていくことには反対意見は少ないだろう。だが、いつまでも働ける社会と、いつまでも働かなければ生きていけない社会とでは、その意味は大きく違う。

年金や健康保険といった社会保障費の抑制ばかりが先行すると、国民の理解は得られない。安倍内閣が最後に手を付ける社会保障改革の道のりは険しい。

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