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磯山友幸のブログ RSSフィード

2015-06-02

「監査等委員会」で消えるか監査役

| 11:09

月刊ファクタの6月号(5月20日発売)に掲載された原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201506011.html

企業経営のチェック役として最後の一線を担う監査役に、参考になる話題の提供を心掛けてきたこの連載も50回。最終回を迎えるにあたって、最後は監査役制度そのものの行方について考えることにしたい。

改正会社法が5月1日に施行され、日本企業が選択できるガバナンスの形態がひとつ増えた。監査等委員会設置会社と呼ばれるもので、社外取締役が過半数を占める「監査等委員会」が、経営監視に当たる仕組みだ。監査等委員会を置けば、従来の監査役や監査役会は不要になり廃止することができる。

日本の上場企業の大半は監査役を置く「監査役設置会社」だったが、6月の株主総会で、この監査等委員会設置会社に移行する企業が相次ぎそうだ。新聞報道などによると移行を決めた会社は既に100社を超えたという。この流れが加速するようだと、日本から監査役が消えることになる可能性も出てくる。

だが、それで日本企業のガバナンスは向上するのだろうか。長年、監査役制度に厳しい注文を付けてきた久保利英明弁護士も、新しい制度に懐疑的なひとりだ。「監査等委員会設置会社が、本当に監査役設置会社よりガバナンスの面で上なのか。実は下なのではないか」と疑問を呈する。

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かつては「閑散役」とすら揶揄されていた監査役だが、バブル崩壊後に企業不祥事が表面化したことなどをきっかけに、数度にわたって強化策が取られてきた。どうせ社長が選んでいるのだから、監査役が厳しい事を言えるはずはない、というのが長年の風潮だったが、株主総会に選任議案を出す時は監査役や監査役会の同意が必要になった。

また、監査役の任期も延長され、今では任期が4年になった。取締役の任期は逆に短くなり1年にする企業が増える中で、4年という監査役の任期が持つ意味は非常に大きくなった。

また、大会社の監査役の半数以上は社外監査役であることが義務付けられている。総数が3〜4人なら2人、5人の場合は3人が最低でも社外でなければならない。

監査役会の下に直属のスタッフを持つ会社も多く、監査役に様々な情報が入ってくるような仕組みになった。「取締役よりも、長期にわたって取締役会に出席している監査役の方が社内事情に通じているケースも増えた。また、会計士などからの情報も監査役の方が入ってくる」と久保利氏は言う。

では、新しく誕生する監査等委員会は、従来の監査役会以上の働きができるのだろうか。委員会に所属する社内取締役が、これまでの常勤監査役と同じ役割を担うことになるが、取締役を選ぶ社長の顔色を見る人物が就任すれば、本当にチェックが働くのか疑わしい。それこそバブル崩壊前の、弱かった時代の監査役に戻ってしまう可能性もありそうだ。

そもそも監査等委員会設置会社が生まれたのは、2003年に生まれた委員会設置会社(今回の改正に伴い、指名委員会等設置会社に名称変更)が不発に終わったことが大きい。指名委員会、報酬委員会、監査委員会の三つの委員会を置き、いずれも社外取締役が過半数を占めることとされた。取締役会は経営監視に徹し、業務執行は執行役が担う。いわゆる欧米型のガバナンス制度を目指したのだが、ピークで71社が採用したものの、その後減り、現在は60社に満たない企業しか採用していない。

日本固有の仕組みである監査役設置会社から、委員会設置会社へ徐々に移行していくとみていた法務省会社法学者の思惑が外れたのである。

多くの企業が移行を躊躇した最大の理由は指名委員会だった。社長の権力の源泉は人事権である。これを事実上手放し、社外取締役に委ねることになりかねない指名委員会の設置に、経営者の多くが踏み切れなかったのである。それならば、とできあがったのが、監査委員会だけを置く委員会設置会社だったというわけだ。

当初は、欧米のガバナンス制度とは大きく違う監査等委員会設置会社は広がらないという見方もあった。ところが蓋を開けてみれば三菱重工業など大企業でも移行するところが出てきた。これはどういうわけか。

最大の理由は、社外取締役の増員圧力がここへきて高まっていることがある。改正会社法では義務付けこそ見送られたものの、社外取締役を置かない場合には「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明しなければならなくなった。

また、金融庁東京証券取引所が合同で作ったコーポレートガバナンス・コードでは複数の独立社外取締役を置くことが望ましいとされた。今年の株主総会で、社外取締役を増員せざるを得ない状況に多くの企業が追い込まれたのである。

前述の通り、監査役は既に半数が社外である。監査等委員会設置会社に移行して、社外監査役をそのまま社外取締役に移行してしまえば、複数の社外取締役という要件を満たすことができる。

もちろん、移行する企業も数合わせだけを狙っているわけではない。監査役制度に固執するよりも、世界に理解されやすい社外取締役による監査に移行した方が今後グローバルに活動するには都合が良いという判断もある。従来の監査役会のスタッフを監査等委員会のスタッフとして残すなど、新たな工夫をする企業も生まれている。従来の監査役制度よりもガバナンスの強化につなげようという努力である。

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日経平均株価が一時2万円を超えた背景には、海外投資家の日本企業のガバナンス改革への期待があることは間違いない。社外取締役の積極的な導入で取締役会の緊張感が高まり、不採算事業の整理などが進めば、日本企業のROE株主資本利益率)は高まる可能性がある。

本当に監査等委員会設置会社への移行がガバナンスの強化につながるのなら、こうした投資家はその企業を評価するに違いない。つまり株価は上昇するはずだ。市場が監査等委員会設置会社を評価する動きが広がれば、ますます監査役設置会社から移行する流れが加速する。だが、そうなっても、長年にわたる監査役制度改革によって鍛えられた監査役の知恵は求められ続けていくことになるだろう。

毎回、小難しい話に長年お付き合いいただいた読者の皆様に、心より感謝申し上げます。

2015-05-01

大塚家具とフランスベッドの私情

| 08:15

月刊ファクタの5月号(4月20日発売)に掲載された原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201505006.html


本誌のこのコラムで最初に裏側を報じた大塚家具の経営権を巡る対立に、ひとまず決着が付いた。

3月27日、東京都内で開かれた株主総会では、社長で娘の大塚久美子氏が「会社側提案」として出した取締役候補案と、会長で父の大塚勝久氏が出した「株主提案」が激突。会社側提案には勝久氏の名はなく、株主提案には久美子氏が排除されていたことから、総会の勝者が経営権を握るという前代未聞の父娘対決になった。

結果は会社側提案が61.07%を獲得、久美子氏が社長を続投する一方で、勝久氏と長男の勝之専務は退任が決まった。株主提案への賛成は36.18%だった。

総会当日まで激しい委任状争奪戦が繰り広げられ、最後まで勝敗は予断を許さない状態だった。勝久氏は発行済み株式数の18.04%を保有する筆頭株主で、勝久氏側に付いた妻の大塚千代子相談役も1.91%を持つなど、「基礎票」だけでみると勝久氏側が有利だった。一方の久美子氏は、一族の資産管理会社である「ききょう企画」が保有する9.75%を押さえていたに過ぎなかった。

そんな久美子氏が予想以上の大差で勝利したのはなぜか。ひとえに金融機関や投資ファンドなどの機関投資家が賛成票を投じたことが決め手になった。

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「悪い子供を作った」と公衆の面前で娘を批判し、情に訴えた勝久氏に対して、久美子氏は終始冷静に「これは上場企業のコーポレートガバナンスの問題です」と理を説いた。

「いくら情に訴えられても、われわれの議決権行使にはまったく関係ないこと」だったと外資系金融機関のトップは言う。とくに外資系ファンドなどにとって、ガバナンスは重要事項。昨年12月末で10.13%を持っていた米国の投資会社ブランデス・インベストメント・パートナーズが早い段階で久美子氏側支持を表明したのもこのためだった。

1月の段階で久美子氏が社長に復帰、取締役会の多数を押さえたことも大きかった。機関投資家からすれば、よほど納得できる株主提案が出ない限り、会社側に反対するのは難しい。また、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)などが会社側支持の意見書を出したことも久美子氏には大きな追い風になった。

保険会社の幹部は「企業価値を上げられるのはどちらかという視点でしか投票できなかった」と振り返る。一昔前なら、創業者との長年の人間関係を理由に、株主提案に賛成できたかもしれない。だが、機関投資家としてのあるべき姿を示したスチュワードシップ・コードが昨年導入され、その可能性は消えたという。保険契約者にとっていかにプラスになるかを、きちんと説明できなければ投票できなくなった。さらに、安易に棄権することも不可能になったという。

久美子氏は社長に復帰すると中期経営計画などを発表。構造改革中の3年間に限って配当を40円から80円に倍増することを示した。これに対して勝久氏側も経営計画を打ち出し、大幅な収益増を前提に120円という配当額を示したが、付け焼き刃の後追い提案の印象はぬぐえず、プロの目からすると実現可能性に疑問符が付いた。久美子社長は初めから大塚家具株を5.88%保有する日本生命保険や3.22%持つ東京海上日動など、機関投資家を意識した作戦を展開していたわけだ。

そんな中で、勝久氏側が「切り札」として頼ったのが、長年の取引先であるフランスベッドだった。

総会直前の3月25日、勝久氏側のPR会社からメディア関係者に一斉にプレスリリースが届けられた。そこにはこう書かれていた。

「大塚家具の大株主として退職給付信託口を含め3%超の議決権を有し、大塚家具の最大取引先の一つでもあるフランスベッド株式会社様より、本日、大塚勝久に対して委任状をいただきましたので、その旨お知らせ申し上げます」

そのうえで「極めて重要な意味を持つもの」という勝久氏のコメントを付していた。

その前には、従業員の“血判状”や、家具業界団体の支持などをアピール。従業員も業界も勝久氏の社長復帰を願っているという姿を示すことで、金融機関など機関投資家の支持を取り戻そうという戦略だったようだ。それには業界大手のフランスベッドの支持が「重要な意味」を持っていたのだ。

勝久氏だけでなく、久美子氏との面会にも応じて両者の主張を聞いていたフランスベッドは、勝久氏側に委任状を出すことに、かなりの逡巡があった模様だが、最後は池田茂社長の決断で勝久氏支持を決めた。池田氏は創業家出身でフランスベッドの筆頭株主。勝久氏と似たような立場にあることも背景にあったのだろう。

フランスベッド側は委任状を出した事実を勝久氏側が大々的に公表するとは思ってもいなかった、という説が流れている。とんだとばっちりを受けたぐらいにしか思っていないかもしれない。

だが、フランスベッドは東証一部上場企業である。なぜ、大半の機関投資家が賛成したとみられる久美子氏側(会社側)ではなく、勝久氏側(株主側)に賛成したのか。株主総会株主から問い質されれば、きちんと説明をしなければならない。その時、池田社長はどういう理由を述べるのか。

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3月に金融庁東京証券取引所有識者会議で決まった「コーポレートガバナンス・コード」には、いわゆる政策保有株の議決権行使について「適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである」という原則が盛り込まれている。機関投資家同様、理由が立たない「私情」で株式を保有したり、議決権行使することは難しくなっているわけだ。

大塚家具の内紛はこれで終わりとはいかないだろう。勝久氏は今も筆頭株主のままだ。久美子社長に付いたブランデスも保有株を半分売却している。「ききょう企画」に対しては勝久氏側から15億円の貸付金を返済せよという訴訟が起こされている。ききょう企画の財産のほとんどは大塚家具株だから、実際には株を勝久氏側に引き渡せというのが本音である。

この訴訟はもう1年半も続いているが、結審するメドは立っていない。勝久氏側はききょう企画の株が手に入れば、30%近い株を握ることになるため、再び経営権を取り戻せると考えている。だが、仮に借金を返済せよという判決が下れば、すでにききょう企画の所有である大塚家具株は、第三者に転売されることになりかねない。

テレビのワイドショーをさんざん賑わせた大塚家具劇場は早晩、第二幕が開くことになるのかもしれない。

2015-04-01

「社外取締役」元官僚や教授は過渡

| 11:31

ファクタ4月号(3月20日発売)に掲載された定期コラムです。編集部のご厚意で以下に再掲させていただきます。→http://facta.co.jp/article/201504023.html


上場企業の「あるべき姿」を示した「コーポレートガバナンス・コード」が完成した。金融庁東京証券取引所が共同で事務局を務めていた有識者会議(座長、池尾和人・慶応大教授)が3月5日に原案を公表したもので、今後、東京証券取引所の上場規則などに反映されていくことになる。

昨年完成した「スチュワードシップ・コード」では、企業を株主としてチェックする立場にある生命保険会社や銀行といった機関投資家の「あるべき姿」が示された。今回のガバナンス・コードの完成で、車の両輪がそろったことになる。これで、日本企業の経営のあり方は徐々に変わっていくのは間違いなさそうだ。

報告書が冒頭で強調しているのは、今回のコードは「成長戦略の一環として策定され」たものだという点。「目的」としてこう書かれている。

「会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている」

つまり、企業を縛るブレーキではなく、安心してアクセルを踏むための安全装置だと言っているのだ。ガバナンスが機能していないと、経営の意思決定が合理的かどうか疑わしくなり、リスクを取らない経営に堕してしまう。ガバナンスを強化することで、経営陣をそうした制約から解き放つのだとしている。

極端な言い方をすれば、これまで多くの日本企業の経営は、社長や会長、創業者といった権力者に、「白紙委任」して全権を委ねる仕組みだった。

取締役会は経営方針を真剣に議論する場ではなく、社長の方針を追認する場。それだけに他の取締役はその場の「空気を読む」ことが求められた。だからこそ、取締役会に「よそ者」が入ってくるのを極端に嫌ったわけだ。

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今回のコードには、独立社外取締役について、「少なくとも2名以上選任すべきである」と明記された。経済団体などは数値基準を入れることに強く抵抗したが、最終的に盛り込まれた。

さらに、会社の自主的な判断で、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考えた場合、「そのための取組み方針を開示すべき」だとも書かれている。つまり、間接的表現ながら、3分の1以上を促しているようにも読めるのである。

会社法では社外取締役の設置は義務付けられていない。ただし、置かない場合にはそれが「相当な理由」を開示するよう求められたため、多くの上場企業が設置に動いた。東証の昨年7月時点の集計によると、東証1部上場企業の61.4%がすでに独立社外取締役を置いている。1年前は46.9%だったから、急速に増えたのだ。

ただ、2人以上となると、まだ21.5%の会社しか置いておらず、今後、独立社外取締役の選任ラッシュが起きることになるだろう。

「人材がいない」というのが、経済界などが、社外取締役の制度導入に反対する一つの大きな理由になっていた。また、社外取締役を置いたからといって経営が良くなる保証はない、という批判もあった。

確かに今後、東証1部だけでも2千人以上の人材が必要になるわけで、人探しは容易ではない。間違いなく、会計士、弁護士、大学教授、官僚OBなどが引っ張りだこになるだろう。メディアの中には「官僚の新たな再就職先」として、否定的にとらえる向きもある。

社外取締役を巡る長年の「人数」問題が決着したことで、今後は本格的に「質」や具体的な「役割」を問う時代に入る。コードには、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべき」とあり、上場会社は「そのような資質を十分に備えた」人を選ぶべきだとしている。

では、どんな人物が相応しいのか。それは会社自身が考えることだ。

今回のコードの特徴は、法律と違って「義務」として課される線を示したものではない。コードに従うか、従えない場合にはその理由を開示する「コンプライ・オア・エクスプレイン」という仕組みが導入されている。つまり、社外取締役を置かない理由をきちんと説明できれば、ルール違反ではないのだ。あとは株主がどう考えるかである。

人選に当たっては当然、持続的な成長と企業価値の向上に「寄与する人物かどうか」が問われることになる。ただ、形式上、独立していればよい、という問題ではないのだ。単なる「お目付け役」では務まらないのだ。

おそらく、初めは官僚OBは引く手あまたに違いない。独立・公正に疑問を挟まれることは少ないからだ。だが、独立社外取締役が定着してくると、企業経営者は「この人物は本当に企業価値の向上に貢献しているのか」と考え始める。当然、株主もそれを問う。つまり、官僚経験者としての専門性や知見が問われることになるのだ。

天下りが批判されるのは、官僚の規制権限を背景に、業界団体や関連企業に再就職するからだ。退官後、本当に企業経営に役立つ社外取締役になろうと考えれば、それにふさわしい専門能力を現役時代に培っておかなければならない。役人として権限をふるっているだけでは、退職後、まったく役に立たない。企業側も大物官僚だったから、というネームバリューで取締役候補者にすることは、早晩なくなるに違いない。

大学教授も、企業の利益に結び付かない「ご高説」ばかり垂れていたら、お声がかからなくなる。合格者を絞り込んでいる弁護士や会計士は、もはや社外取締役の供給源になりえない。

つまり、官僚OBや学者を大挙して選任するのは、過渡期の現象とみていい。天下りと目くじらを立てる必要はない。むしろ、取締役会で通用する人材を、霞が関や大学が供給するためには、彼ら自身の仕事の仕方や専門能力の育成方法を考えなおさなければならなくなる。

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欧米企業の社外取締役を見ていると、多くは他の企業の経営者である。経営のプロを外部から呼んで意見を聞いているわけだ。時間はかかるだろうが、日本企業の社外取締役もそうなっていくに違いない。それと同時に、プロ経営者層が育ってくることになるだろう。

経営力が改善されれば、まだまだ日本企業は成長する余地があるようにみえる。ガバナンス・コードの適用は、地味ではあるが、実は日本企業に大きなインパクトを与える大変化である。

2015-03-02

大塚家具創業の父に娘が「引導」

| 14:05

月刊ファクタの3月号(2月20日発売)に掲載された原稿です。事態はどんどん進展していますが、2月上旬の締め切りだった原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201503014.html


本誌1月号の当コラムが“独走報道”した大塚家具のお家騒動が収束に向かう見通しとなった。

創業者で実父の大塚勝久会長と長女の大塚久美子社長が経営方針をめぐって激しく対立。昨年7月には勝久氏が主導して久美子社長を解任する事態に発展した。ところがそれから半年しか経たない今年1月28日、取締役会で久美子氏が再び社長に返り咲く異例の展開になった。

現在は勝久会長と久美子社長がともに代表権を持つツートップの体制となっている。営業本部は引き続き勝久会長が担当しており、3月に予定される株主総会の準備作業や経営計画の策定を久美子社長が担う。

だが、これは両者が和解して最終決着した姿ではない。対立が続く中で取締役会の多数派工作が繰り広げられ、久美子氏側が主導権を握った結果なのだ。取締役会を掌握したことで、株主総会で勝久会長は退任し、久美子社長を中心とした新体制ができあがることになりそうだ。

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勝久氏と久美子氏の対立は、大塚家具のビジネスモデルの根幹にかかわる方針の違いから生じていた、という。大塚家具の大きな特長は、顧客の会員制を取ってきたことにある。入店時に受付カウンターで目的の商品などを聞き、担当者が一緒に店内を案内する。接客で最も難しいとされる「客への声掛け」を最初の段階でクリアすることで、家の新築や引っ越しを控えた「目的買い」の客をがっちり掴む戦略を取ってきたのだ。非常に効率的な営業スタイルだったと言える。

ところが住宅着工件数の減少や、「商品や価格をいろいろ見比べたい」という消費者の購買スタイルの変化で、切り札だった会員制方式に限界が見え始めていた。それに危機感を抱いた久美子氏は、銀座や新宿といった繁華街にある店舗を中心に、ぶらりと散歩感覚で自由に入店できるよう「オープン化」を進めたのである。

ところが、この方針に昔のビジネスモデルに固執する勝久会長が激しく抵抗したのだという。それが実の父がいったんは譲った社長の座から娘を引きずり降ろすという事態につながった。

昨年7月に自ら社長を兼務した勝久会長は、時計の針を大きく元に戻し営業スタイルを変えていった。三越があった建物を店舗にした新宿店では内装工事を実施して1階正面に受付を復活させた。その一方で、広告宣伝費を7億円余り積み増したのである。積極的に広告を打つことによって「目的買い」の客だけを集める昔ながらの戦略に打って出たわけだ。

だが、結果は惨憺たるものだった。

新宿店の11月単月の入店客は前の年の同じ月に比べて2割以上も減少。売り上げも激減したという。この結果、12月24日、大塚家具は2​0​1​4年12月期の業績予想の大幅な下方修正発表を余儀なくされる。売上高は573億円の予想から5​5​5億円に大幅減額。営業損益は2億7​9​0​0万円の黒字から一転して4億9​6​0​0万円の赤字見通しとなった。2月13日に行われた決算発表ではやや改善したが、4億2​0​0万円の赤字になった。

久美子氏が社長だった7月までは4億円ほどの黒字が出ていたのが、8月以降の5カ月で8億円近い赤字を出す結果に終わったわけだ。広告宣伝費の積み増しが売り上げ増に結びつかず、そっくり赤字要因になったのである。

取締役会に動揺が走ったのは想像に難くない。広告宣伝費の積み増しや、埼玉・春日部の店舗用地取得などで会長を支持した社外取締役の中尾秀光氏が1月の取締役会を前に自ら辞任した。過大な出費計画を止めなかった責任を、久美子氏らから責められた末の決断だった。

中尾氏の辞任で取締役が7人となったことで取締役会の勢力図が大きく変わることになった。1月の取締役会に提出された久美子氏の社長復帰案が、勝久会長と長男の大塚勝之専務が反対する中で、賛成多数で可決されたのはこのためだった。

取締役会の多数派を握ったことで、3月の株主総会に出す取締役候補者名簿は久美子社長が作成することとなった。2月13日の取締役会でも多数決になったが、そこで承認された名簿には勝久氏と勝之氏の名前は含まれていない。勝久氏には今後、創業者としてふさわしい名誉職を用意する意向だというが、株主総会で承認された段階で、大塚家具の経営の第一線からは身を引くことになった。

実は、勝久氏は完全に納得したわけではない。逆に久美子氏らを排除した候補者案を株主提案として出している。

勝久氏は発行済み株式の18.04%を保有する筆頭株主だ。だが、そうなれば、町の桐タンス店を一代で株式公開企業にまで育て上げた立志伝中の人物が、自ら泥仕合を演じて晩節を穢すことになる。

株主である久美子氏の弟妹もこれ以上、経営を混乱させれば、会社そのものの屋台骨が揺らぎかねないと危惧しているという。父親が渋々ながらも引退してくれることを望んでいるというのだ。

一族の資産管理会社である「ききょう企画」が株式の9.75%を握るが、家族で占める取締役の過半が久美子氏支持に回っている。また昨年来、大塚家具の株式を買い増している投資ファンドの米ブランデス・インベストメント・パートナーズも久美子氏の経営改革路線を支持している模様だ。ブランデスは1月14日に大塚家具が開示した資料によると、発行済み株式数の10.77%を保有している。委任状争奪戦になっても久美子氏側の勝利は揺るがない見通しだ。

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株主総会で支持を得たのち、久美子社長体制が本格的に再スタートすることになる。東京・有明の大型店などでは会員制を堅持する一方で、1​0​0万件の顧客リストを武器に過度な宣伝広告に頼らない集客体制を再構築する。一方で、都心の店舗ではオープン化を進め、新業態の模索も始まるだろう。

創業者の引き際は難しい。長年企業に君臨した創業者が引き際を誤ったり、長男への承継にこだわった挙げ句、会社をボロボロにした例は過去に少なくない。

久美子氏はこれまで、繰り返し「コーポレートガバナンス」の重要性を訴えてきた。体制固めを終えて、今後、どう社外取締役を活用し、創業一族の意思を調整していく体制を築いていくのか。引き続き、注目していきたい。

2015-02-03

「監査」と似て非なるグレーゾーン

| 17:20

月刊ファクタの2月号(1月20日発売)に掲載された原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201502016.html


安倍晋三内閣は昨年来掲げている農協改革の具体策として、今通常国会に農協法改正案を提出する構えだ。焦点は全国農業協同組合中央会(JA全中)の扱い。現在、農協法で定めている地域の農協に対する全中の指導・監査権を廃止し、全中の組織自体も一般社団法人や任意団体などにする方針だ。実質的な「解体」方針に、全中関係者は強く抵抗しているが、アベノミクスの改革姿勢を示す象徴的な存在になっているだけに、安倍官邸は一歩も引かない姿勢を見せている。

全中が必死に存続を求めているのは農協法に裏付けられた「監査権」だ。「監査」を通じて地域の農協の経営内容などをすべて把握できる仕組みになっており、それをベースに経営指導を行う権限を持っているため、地域の農協が全中の下部組織のような位置づけになっている元凶だという批判が根強い。地域の農協から自立心を奪っているというわけだ。

しかもこの監査、実は一般に企業などで行われている監査とはまったくの別物なのだ。企業では難関試験に合格して監査法人などで経験を積んだ公認会計士しか監査を行うことができないが、農協は農林水産省の所管する「農協監査士」という別の資格試験合格者が監査する。全中関係者からは「農協は一般の会計士が監査するのは無理」「全中監査は民間より専門的でしかも割安」といった声もあり、全中による監査の存続を求めている。法案提出のギリギリまで、自民党の農林族に存続を働きかけていく方針だという。

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農協監査はかねて、会計士業界などで問題視されてきた。「監査のようで監査でない問題な制度」だと日本公認会計士協会の役員を務めた大物会計士も言う。本来なら独立性の高い会計士が行うべき監査を、農協の身内で固めているというわけだ。

全中関係者は、農協監査は公認会計士監査よりも「専門的」だというが、試験の実態を見れば、一目瞭然だ。

農協監査士の試験は5科目。監査、会計学、簿記、農協制度、関係法(法人税法、民法)からなる。一方の公認会計士試験は、監査論、財務会計論、管理会計論、企業法、租税法の必須5科目に、選択科目一つが加わる。経営学、経済学、民法、統計学の四つから選ぶ仕組みだ。

試験科目は農協制度についての知識を問う点が違うものの、他は大きく違わない。だが、試験の難易度は相当違う。

例えば2​0​1​4年度の農協監査士の試験には5​2​2人が受験して1​0​1人が合格した。合格率は19​.​3%である。前年の合格率は25​.​5%だった。一方、超難関で知られる公認会計士試験には14年度に1万8​7​0人が受験、1​1​0​2人が合格している。合格率は10​.​1%に過ぎない。つまり、公認会計士よりも易しい試験の合格者が「監査」を担っているのである。

「組合員のための組織だから組合員が相互チェックすればいいんですよ」と監査論の学者の中にも、農協独自の監査制度を擁護する声もある。だが、組織内部のチェックには別途、農協職員が取得できる「農業協同組合内部監査士」という資格も存在する。農協監査士の合格者も圧倒的に農協関係者が占めているとはいえ、形のうえでは企業の監査同様、外部監査なのである。しかも、農協の業務は農産物の集荷だけでなく、物品販売などの商社機能や金融業務も営むようになっている。組合員も専業農家ばかりではなくなっており、一般の民間企業と変わらない社会的な存在になっている。きちんとした外部監査を受けるのは当然の組織になっているのだ。

ところが、農協監査を一番目の敵にしそうな現職の会計士協会の幹部の歯切れは悪い。実は農協監査の総元締である全中の理事・監査委員長というポストにあずさ監査法人の理事長を務めた公認会計士の佐藤正典氏が就いているのだ。現在の森公高・会計士協会会長もあずさ出身で、佐藤氏の後輩に当たる。佐藤氏の前任の監査委員長もあずさの理事長経験者が務めており、大物会計士の指定席になっているのだ。全中からすれば会計士業界の幹部を制度の枠組みに抱き込むことで、批判をかわしているようにも見える。

農協監査に関係する大物会計士のひとりは、「地方の農協に財務が分かる人材はいない。全中が監査権を持って指導しなければ、日本の農協制度自体がもたない」と語る。すっかり全中の代弁者になっているのである。

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実は、農協監査以外にも、日本には「監査」という名前が付いているものの、実際には「監査」からは程遠い制度が存在する。そのひとつが「政治資金監査」だ。政治家などが提出する政治資金収支報告書を専門家が「監査」することになっている。

昨年、経済産業大臣を辞任に追い込まれた小渕優子衆議院議員の関連政治団体「小渕優子後援会」の政治資金収支報告書にも「政治資金監査報告書」が添付され、「登録政治資金監査人」の署名捺印が付されている。観劇会の会費収入と劇場に支払った支出に巨額の差異がある経理など一般企業の監査では考えられないが、堂々と監査人のチェックをパスしていた。

登録政治資金監査人もやはり、公認会計士である必要はなく、税理士や弁護士も登録することができる。小渕優子後援会は税理士が署名捺印していたが、この税理士は、税理士で作る小渕優子氏の後援会の幹事長も務めていた。監査は独立した第三者が行うのが当然だが、それすらまともにできていなかったのだ。

政治団体だけでなく、地方公共団体の「外部監査」も実は、監査のようで監査でない。ここでも会計士のほかに、税理士や弁護士、「公務精通者」が外部監査人になれるのだ。公務精通者とは、要するに役人OBである。

透明性や法令順守が当然のごとく求められる時代となって、会計士監査へのニーズは高まっている。本来ならば、会計士業界はまっ先に新しい監査領域に進出していくべきなのだが、なぜか腰が重い。「監査のようで監査でない」中途半端な領域を作って、その他の専門家とは争わず、仲良く仕事を分け合っているのである。

自民党の農林族の中には、安倍官邸の改革方針との妥協案として、地域の農協が、農協監査士による監査か、民間の監査法人などによる会計士監査かを選べるようにしてはどうか、という意見が出ている。それが実現すれば、またしても領域を曖昧にして、監査のようで監査でない制度が温存されることになるだろう。