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磯山友幸のブログ RSSフィード

2018-11-08

GPIF運用益「3カ月で5兆円の黒字」でもやっぱり気になること 世界の株価が不透明感を増す中で

| 08:50

現代ビジネスに11月8日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58366

株価上昇でGPIFも大幅黒字

国民の年金資産を運用するGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)の第2四半期(7〜9月期)の運用成績は、5兆4143億円の黒字となった。期間収益率は3.42%のプラスとなった。日本や米国など、世界的な株価上昇が保有資産の価値を押し上げたことが大きい。

GPIFは165兆円の運用資産を持つが、このうち国内株式と、外国株式にそれぞれ25%を投じ、資産の半分が株式運用になっている。7〜9月期は国内株が2兆4230億円の黒字、外国株式が2兆8823億円の黒字だった。かつては日本国債での運用が圧倒的に大きかったが、安倍晋三内閣の方針もあって運用資産構成割合(ポートフォリオ)を見直し、株式に大きくシフトした。

第2次安倍内閣が発足した2012年12月末には全体の60.1%を国内債券で運用、日本株と外国株はそれぞれ12.9%だった。9月末段階で、国内債券での運用は25.26%にまで低下、過去最低の比率となっている。国内債券の運用は7〜9月期の実績で、3365億円の赤字となっており、これまでのところ、株式シフトの効果が出ていると言える。ちなみに外国債券は4412億円の黒字だった。

9月末の日経平均株価は2万4120円04銭で、前の期の期末(6月末2万2270円39銭)に比べて8.3%も上昇した。米国株も史上最高値を更新するなど、株高に沸いた。

株価をつり上げているわけではないが

GPIFは「基本ポートフォリオ」として、それぞれの運用資産の割合を決めているが、日本株と外国株はそこで定めた25%に達している。国内株は上下9%、外国株は上下8%の乖離幅が認められていることから、理論的には国内株は34%まで買い進むことができるが、現実には運用資産の分母が増えない限り、新規に買い増すのは難しい情勢だ。

一時はGPIFの年金資金が日本株を市場で買い支えているとの見方があったが、もはや限界点に近づいている、とみて良さそうだ。

そんな中で10月以降、米国株の大幅な下落などを受けて、日経平均株価も軟調が続いている。10月初めには27年ぶりの高値である2万4270円62銭(10月2日終値)を付けたが、その後つるべ落としとなり、10月26日には一時、2万1000円台を割り込む場面もあった。

GPIFは長期運用を目的としており、相場の上下で大幅な売り買いをするわけではないものの、前述の通り、大幅に買い出動する余力には乏しいとみられる。

そこで注目されたのが日本銀行金融緩和の一環として市場から国債などを買い入れて資金を供給しているが、ETF上場投資信託)も買い入れ対象になっている。ETFは様々な企業の株式で構成されている。

これを10月に日銀は何と8700億円も買い入れたのである。もちろん単月の買い入れ額としては史上最大だ。結果的に日銀ETF買いが、相場を下支えする格好になっている。

誰が日本株を買っているかを示す投資主体別売買動向の週間データをみると、10月初めに高値を付ける過程では海外投資家が9月後半から3週連続で買い越していたが、その間、信託銀行が大きく売り越していた。

GPIFの資産を運用する投資顧問会社などが市場で売買する場合、信託銀行経由になる。このため、株価が上昇したタイミングで利益確定の売りを出した可能性もある。

その後の下落局面では、海外投資家が3週連続で売り越したのに対して、個人投資家と信託銀行が買い向かっていた。個人投資家の買い越しは4週連続で、今年1月から2月にかけて7週連続で買い越して以来の長さだ。個人投資家は景気の先行きに意外と強気だとみることもできそうだ。

公的年金が企業に物言う株主

年金のような長期の運用が求められる資産は、長期にわたる成長が見込める企業への投資が向いている。とくに、現状のようにゼロ金利時代となり、国債での運用が難しくなる中、海外の年金基金なども株式運用に大きなウエートを割くようになっている。そういう意味ではGPIF債券中心から株式にシフトしたのは正しいだろう。

だが、問題は、日本企業が期待通りに成長を遂げ、株価の上昇をもたらすかどうかだ。安倍晋三首相アベノミクスの実行と共に、「経済好循環」を掲げている。その好循環が始まる「原資」は企業に稼ぎを増やさせる事で生み出される。

大胆な金融緩和円高が修正され、大幅に収益を改善させた企業が多い。政府はさらに法人税減税を進めたこともあり、過去最高益を更新する企業も少なくない。

ところが、一方で、その収益が「利益剰余金」として内部留保に回り、設備や人になかなか再投資されていない。

安倍内閣はコーポレートガバナンスの強化も進め、経営者への圧力を強めるために社外取締役の導入を実質的に義務付けた。本来はそうした効果で、株主資本に対する利益率(ROE)が向上し、その結果、株価が上昇するというシナリオを描いた。

確かに、ひと昔まえ比べれば、コーポレートガバナンスは改善されたようにみえるが、日本企業の収益性改革はまだまだだ。GPIFが長期にわたって株式を保有する「長期投資」を考えるならば、企業の収益性改善に向けて、株主としてもっと厳しく経営者に圧力をかける「モノ言う株主」に変わっていくことが不可欠だろう。

2018-11-01

高度成長期並の人手不足のウラで政府が気にする「ある不気味な数字」 23ヵ月ぶりのマイナスが示すもの

| 13:18

現代ビジネスに11月1日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58250

高度成長期並みの人手不足だが…

深刻な人手不足が続いている。仕事を探す人1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は、厚生労働省が10月30日に発表した9月の実績で1.64倍と、1974年1月(1.64倍)以来の高水準となった。

なんと44年8カ月ぶりというから、高度経済成長期並みの人手不足になっているということだ。

同日総務省が発表した労働力調査でも、就業者数が6715万人と過去最多を更新、会社に雇われている「雇用者」数も5966万人と最高を更新した。人口が減っているにもかかわらず、働く人がどんどん増え、それでも人手が不足しているという未曾有の状態が続いている。

就業者数、雇用者数ともに2013年1月以降69カ月連続で増え続けている。まさに大横綱双葉山の69連勝に匹敵するほどの大記録と言っていい。2013年1月は安倍晋三首相が年末に第2次安倍内閣を発足させた直後だったため、安倍首相は自らの経済政策アベノミクスの最大の成果としてこの「雇用の増加」を引き合いに出している。

2012年12月から5年9カ月の間に就業者数は6240万人から475万人、雇用者数も5490万人から476万人増加した。安倍首相が胸を張りたくなる気持ちも分からないではない。働く人が475万人も増えているのに、一向に求人倍率は下がらないのだ。

業種によって極端な偏りが

いったいどんな職業の人手不足が深刻なのか。中分類で見ると「保安の職業」が8.65倍、「建設・採掘の職業」が4.99倍、「サービスの職業」が3.56倍、「輸送・機械運転の職業」が2.57倍、「販売の職業」が2.32倍といった具合だ。

さらに細かく見ると、建設の中でも「建設躯体工事の職業」が11.18倍、「土木の職業」が5.00倍、「建設の職業」が4.82倍といったところだ。サービス業の中でも「家庭生活支援サービスの職業」が7.29倍、「介護サービスの職業」が4.16倍、「接客・給仕の職業」3.92倍となっているほか、輸送では「自動車運転の職業」3.03倍だ。人手不足と言われている建設関係、輸送関係、介護、飲食といったところが軒並み高い倍率になっている。

一方で、「事務的職業」の有効求人倍率は0.49倍。中でも「一般事務の職業」に至っては0.38倍。事務職として仕事を探す人が多い一方で、事務の仕事の求人は少ないということだ。パソコンの普及などで、事務作業の合理化が進み、一般事務が仕事として姿を消しつつある、ということかもしれない。

不気味な夏以降の景気停滞

人手不足は簡単には収束しそうにないが、ここへきて気になる数字が出てきた。企業が新たに求人する「新規求人数」が9月は前年同月比6.6%減の93万1362人になったのだ。新規求人数が前年同月比でマイナスになったのは、2016年10月以来、23カ月ぶりのことだ。

厚生労働省は、北海道胆振東部地震の影響などで、企業が求人を控えたとみているが、これが一時的な現象にとどまるのか注視する必要がありそうだ。というのも、7月の西日本豪雨災害や8月の猛暑、台風の相次ぐ来襲などで、経済活動が停滞し、特に消費が急速に悪化している。

消費が落ち込めば、企業の売り上げが減少し、求人の増加を手控えるという「悪循環」になりかねない。

安倍首相は第2次安倍内閣発足以来、「経済好循環」を掲げてきた。円安に伴う企業収益の好転を、賃金の上昇に結び付け、消費を拡大し、さらに企業収益を押し上げるという好循環を実現しようとしている。それが、まったく逆に動き出しかねない状況に直面しているのだ。

安倍首相自らが財界幹部に呼びかけたこともあり、春闘では5年連続のベースアップが実現した。今年は「3%の賃上げ」を訴えたが、実際には賃上げ幅はなかなか上がっていない。一時は消費が盛り上がるかに見えたが、夏以降、再び悪化の色を見せている。

もうひとつ、雇用の増加が所得の伸びにつながっていない、という問題もある。就業者数の増加で目立つのは65歳以上の高齢者と女性だ。安倍首相が「1億総活躍」「女性活躍推進」を政策の柱のひとつとして掲げてきた成果が出ているとも言えるが、団塊の世代やそれに続く世代の人たちが働き続けている効果が大きい。

高齢者・女性就労者増で所得伸びず

9月の労働力調査でも65歳以上の就業者数は886万人と過去最多を更新したが、2016年5月からわずか2年4ヶ月で100万人も増えた。第2次安倍内閣が発足した2012年12月には、65歳以上の就業者数は593万人だったから、293万人も働く高齢者が増えたのである。

65歳の定年で再雇用されているケースなどが多く、当然、給与は大きく下がる。つまり、雇用が増えても、給与総額自体の伸びは小さく、従って消費に回るおカネもあまり増えない、という状況になっているのだ。

女性の活躍にしてもそうで、確かに働く女性は増加している。9月の女性の就業者数は2980万人と過去最多で、15歳から64歳までの女性の就業率は70.3%に達している。8月に初めて70%台に乗せた後、9月もさらに率を伸ばした。

女性もパートで働く人が少なくないため、ここでも就業者数の伸びほどには所得は伸びていないとみていいだろう。

政府は最低賃金を大きく引き上げるなど、給与増を実現しようと躍起になっている。期待ほど給与が増えない一方で、企業の内部留保、特に現金・預金は大きく増え続けている。まだまだ企業に給与を引き上げる体力はあるということだ。

人手不足に対応して、企業も思い切って賃上げをするなど、方針転換しなければ、結局は消費が減って企業の売り上げも落ちるという悪循環を招くことになりかねない。今は、歯車が前に回るか、逆回転を始めるかの正念場だと見るべきだろう。

2018-10-25

またまた「消費増税延期」がウワサされるこれだけの理由 安倍首相は「今度こそ」と表明したが…

| 09:12

現代ビジネスに10月25日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58125

決め手に欠く増税対策

安倍晋三首相が10月15日の臨時閣議で、2019年10月からの消費増税を予定通り行うと改めて表明したことで、増税に向けた準備が動き始めた。

軽減税率制度の導入に向けたシステムなどの準備は、導入まで1年を切ったことでギリギリのタイミングとされ、中小事業者にどう対応を急がせるかがポイントになっている。制度が複雑で準備が間に合わないのではないか、という声も出ている。

そんな中で、最も深刻なのは、増税による景気への影響だ。「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」と安倍首相経済対策の策定を指示したが、霞が関から上がってくるアイデアはどれも二番煎じか決め手に欠けるものばかり。

中小事業者でキャッシュレスによって購入した場合、増分に相当する2%分をポイントで返すというアイデアも出たが、麻生太郎副総理兼財務相が真っ先に反対するなど異論が噴出して沙汰止みになった。

自動車取得税の免税や住宅取得促進などのおきまりの対策に加え、公明党などが主張する「プレミアム商品券」が再び浮上している。

頼みのインバウンドも台風で頭打ち

増税による消費への影響が懸念されるのは、足元の消費が極めておぼつかないからだ。10月23日に日本百貨店協会が発表した9月の全国百貨店売上高は前年同月比3.0%減と、3か月連続のマイナスになった。

北海道胆振東部地震の影響で札幌地区が11.1%のマイナスと大きく減少したほか、台風による高潮被害で関西国際空港が一時閉鎖された影響で大阪地区も4.1%のマイナスになった。

大阪地区の百貨店は中国などからやってくる訪日外国人観光客のいわゆるインバウンド消費によって、絶好調を維持してきた。2017年1月から2018年6月まで18カ月連続で前年同月を大きく上回ってきたが、7月以降、ムードが一変している。

全国の百貨店での免税売上高は、9月は246億5000万円で、前年同月と比べればまだ6%増えているものの、前月比では6カ月連続でマイナスが続いている。

2014年10月に免税範囲が拡大されて以降、初めてのことだ。また、免税手続きを行う顧客ひとり当たりの単価は6万1000円にとどまっている。「爆買い」と言われた2015年前半には8万円を超えていたので、明らかにインバウンド消費に変化が見え始めている。

特に9月は関西国際空港の一時閉鎖の影響が大きく、JNTO(日本政府観光局)の推計によると訪日外国人客の数自体も前年同月比で5.3%減少した。訪日外客数がマイナスになったのは2013年1月以来、5年8カ月ぶりのことだ。今後、訪日客が再び増加傾向に戻るのか、そろそろ頭打ちになるのか、消費にも大きく影響するだけに注目される。

百貨店売上高への「インバウンド消費」の貢献度は小さくない。9月の全国百貨店での売上高4197億円に占める免税売上高の割合は5.9%に達する。外国人観光客の買い物すべてが免税になるわけではないので、実際にはそれ以上の割合がインバウンド消費効果と言える。

国内消費は完全に変調

その免税売上高を差し引いた分を「実質国内売上高」として計算してみると、対前年同月比でマイナス4.1%に達する。

今年6月にはプラス1.2%と7カ月ぶりに増加に転じ、ボーナスの増加などが消費増に結びつく「経済好循環」が始まるかに見えたが、7月は7.3%減→8月1.3%減→9月4.1%減と大幅なマイナスが続いている。完全に国内消費には変調をきたしているとみて良さそうだ。

百貨店の場合、売上動向が天候や祝日数に大きく左右されるなど、特殊な要因もある。今年の夏は風水害が多発し、異常な高温が続いたこともあり、その影響が大きいとの見方もある。

一方で、2014年4月に消費税率を5%から8%に引き上げる前には、駆け込み需要も含めて消費が大きく伸びていたが、その後、増税によって消費の低迷が続いている。現状の消費が弱いまま来年10月の増税を迎えた場合、日本経済が失速することになりかねない。

半面、日本チェーンストア協会が発表した2018年9月のスーパー各社の全国売上高は、4カ月連続で前年同月を上回った。これをどう読むかがポイントだろう。単純に消費が回復しているとみていいのか。

スーパーの売り上げの中で増えているのは食料品。9月の場合、既存店ベースで1.9%増加した。やはり4カ月連続のプラスだ。一方で、衣料品は5.6%減と9カ月連続でマイナスになった。

食料品の場合、円安によって輸入食材が値上がりしていることなど、物価がジワジワと上昇していることが影響している可能性が高い。生活に不可欠な食料品が値上がりしているため、衣料品やデパートでの消費を抑えている、という見方ができるかもしれない。

また頭をもたげる消費増税延期観測

安倍首相は「経済好循環」を掲げて好調な収益を上げている企業に「賃上げ」するよう求め続けている。最低賃金の引き上げもあり、徐々に給与は増加傾向になりつつある。もっとも、給与が上がれば、所得税・住民税だけでなく、社会保険料の負担が増えるなど、給与増分がすべて可処分所得の増加につながるわけではない。

厚生年金の保険料率引き上げは昨年秋で一段落したものの、医療費の高騰で健康保険料率は上昇傾向にある。つまり、可処分所得が思ったほど増えない中で、生活必需品の価格がジワジワと上昇した結果、消費自体がマイナスになるという悪循環に陥っているのではないか。そこに消費増税したらどうなるか。

新聞各紙やエコノミストには、まだ消費増税の見送りもあり得る、という論調が目立つ。安倍首相が過去に2度延期していることも要因だが、あまりにも足元の消費が弱いということがひとつの理由だ。

一方で、訪日外国人が増え、「特需」が生まれる東京オリンピック・パラリンピック前の増税を逃すと、特需が消えるタイミングで増税しなければならなくなり、来年秋以上のマイナス効果を日本経済に与えることになる。

それだけに、消費増税後の消費減少をどう底上げするかという視点での経済対策だけでは不十分だろう。足元の消費を盛り上げるための景気対策を早急に打つことがより重要だと思われる。

2018-10-18

消費増税「反対の声強し」でも延期が困難である事情

| 12:18

現代ビジネスに10月18日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58031

予定通り消費税引き上げ方針

安倍晋三首相は10月15日に臨時閣議を開き、2019年10月に消費税率を10%に引き上げることを改めて表明した。そのうえで、「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」と述べ、駆け込み需要とその反動による消費減少を防ぐための経済対策の策定を指示した。

足下の消費が弱い中での消費税率の引き上げは、景気を腰折れさせる危険性を秘める。メディアやエコノミストの間でも消費増税を再度延期するのではないか、という見方が広がっていた。

来年10月の消費税率引き上げでは酒と外食を除く食料品に軽減税率が適用されるが、民間ではその軽減税率導入に向けたシステムの準備などが進んでいないとされる。安倍首相が1年を切ったこのタイミングで改めて「増税実施」を打ち出した背景には、そうした準備を促す狙いがある。

だが、景気動向に関係なしに増税に踏み切れば、消費の冷え込みは間違いなく起きる。それを回避するために、政策を総動員するとしたわけだが、役所から聞こえてくる「対策」は心もとない。

安倍首相は、消費税額が大きくなる自動車や住宅などで、来年10月以降の購入にメリットが出るように税制・予算措置を講じる、としたが、駆け込み需要を無くす政策を取った場合、足元の消費は盛り上がらない。増税後の方が有利な対策にした場合は、逆に買い控えが起きかねない。

中小小売業への支援策として、増税後の一定期間、消費者にポイントとして還元するという案も打ち出された。実質的な増税の先送りに近い効果があるが、大手のスーパーや百貨店で買い物した場合と中小業者の店舗で買い物した場合で、格差ができることになり、消費者がどこまで受け入れるかが焦点になる。

ポイント還元の仕組みをどうするかによっては中小業者にカードリーダーなどの設備投資が必要になり、短期間のために投資を行うかどうかも分からない。

軽減税率は初めての試みにもかかわらず、準備が遅れている。欧米のように消費税率を今後大幅に引き上げていくためには不可欠な制度だが、導入直後は税率の差が2%で、「軽減」という感覚は乏しい。

ドイツは本則の税率が19%なのに対して、食料品などは7%だ。この2%の「軽減」が、食料品は消費税率据え置きと消費者に受け取られ、食料品の消費に影響が出ないのかどうかも焦点だろう。

景気対策に決定打無し

また、公共事業の積み増しなども検討されている。ただ、旧来の土木工事型の公共事業では、簡単には消費対策にはつながらない。土木建設業で働く人の数が減っているうえ、圧倒的な人手不足で、予算を付けても工事がこなせない状態が続いている。また、働き手には高齢者や外国人も多く、仮に給与が増えてもどれだけ消費に回るかは分からない。

公共事業増→企業利益増→給与増→消費増と好循環が起きるにはかなりの時間を要するため、来年10月の消費増税での落ち込み分を補うにはタイミングが間に合わない可能性が高い。

消費を増やすには、可処分所得を増やすのが手っ取り早い。特に子育て世代など30歳代半ばから50歳代半ばまでの現役世代の「手取り」を増やす必要がある。

毎年上がり続けてきた厚生年金保険料は昨年10月で打ち止めになり、今年は、保険料引き上げはない。ただし、毎年4月に見直される健康保険料は医療費増加の影響で、保険料の上昇が続きそうだ。

本来ならば大規模な所得減税を行うべきだが、財源は乏しい。また、多額の所得税を払っている世帯が必ずしも大量に消費する世帯とは限らず、減税が消費につながる保証はない。

安倍官邸が最も期待しているのは、企業の給与引き上げだ。

安倍首相経済好循環を掲げて経済界首脳に賃上げを要請、2014年以降の春闘で5年連続ベースアップが実現した。また、2018年は「3%の賃上げ」を経済界に要請し、ボーナスなど諸手当を含めれば実現している企業も少なくない。

また、最低賃金の引き上げが続き、今年も約3%の上昇となった。こうした賃上げが消費の増加に結びつき始めているとの見方もある。

来年の春闘に向けて、安倍首相がさらに大幅な賃上げを要請することになりそうだ。440兆円にのぼる企業の「利益剰余金」を設備投資や人件費にまわさせることが重要で、そのための政策検討が不可欠になる。

2019年10月をずらせない理由

足下の消費は改善の兆しが見えない。さらに豪雨災害や台風、地震といった災害によって目先の消費が落ち込んでいる。復興需要が生まれる中期的には消費が持ち直すという見方もあるが、足元は厳しい。

そんな中で、今打ち出されている経済対策には見るべきものがない。このまま消費増税を迎えれば、景気が失速することになりそうだ。

だからといって、消費増税の延期は難しいだろう。

2019年10月という増税のタイミングは、反動減があったとしても、2020年の東京オリンピックパラリンピックにやってくる外国人の消費によって穴埋めされると期待できる。外国人観光客は免税による買い物ができるので、消費増税の影響は関係ない。オリンピックが終わるころには増税から1年がたち、統計的には「反動減の反動」で消費が戻る可能性もある。

つまり、消費増税のタイミングとしては来年10月は絶妙で、これを延期した場合、永遠に消費増税などできなくなる可能性が高い。それでなくてもオリンピック後には「特需」が消えるわけで、そのタイミングで増税すれば、日本の消費は一気に底が抜けることになりかねない。

つまり、来年10月の増税は必須なのだ。だからこそ、知恵を絞って、足元の消費を盛り上げる施策を立て続けに行う必要がある。

2018-10-11

「70歳定年」だと…?いつまでも働かなければならない社会への危惧

| 21:06

現代ビジネスに10月11日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57908

狙いはやはり「社会保障費の抑制」

自民党総裁3期目に入った安倍晋三首相は、内閣の「最大のチャレンジ」として「全世代型社会保障への改革」を打ち出した。これまでは「働き方改革」を最大のチャレンジとして掲げてきたが、通常国会で働き方改革関連法が成立したことから、次にステップを進める、ということなのだろう。

10月5日に首相官邸で開いた「未来投資会議」(議長・安倍首相)で打ち出したもので、今後、未来投資会議で集中的に議論を進める、としている。

今後目指すという「全世代型社会保障」とは何なのだろうか。未来投資会議で安倍首相はこう述べた。

「生涯現役社会の実現に向けて、意欲ある高齢者の皆さんに働く場を準備するため、65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けた検討を開始します。この際、個人の実情に応じた多様な就業機会の提供に留意します」

さらに、こうも述べている。

「健康・医療の分野では、まず、人生100年健康年齢に向けて、寿命と健康寿命の差をできるだけ縮めるため、糖尿病・高齢者虚弱・認知症の予防に取り組み、自治体などの保険者へのインセンティブ措置を強化します」

高齢者にいつまでも元気で働いてもらう、というわけだ。もちろん高齢者が活躍の場を得て、生き生きと働くのは悪いことではない。だが、それがなぜ、「社会保障改革」になるのか。

狙いは増え続ける社会保障費を抑制することにあるのは明らかだ。いくら寿命が延びても病気になって病院のベッドで生きながらえるとなると、膨大な医療費がかかる。

すでに日本の年間の医療費総額は42兆円を突破。中でも「75歳以上」の高齢者の医療費の伸びが大きく、医療費増に拍車をかけている。2017年度では75歳以上のひとり当たり医療費は年間94万2000円で、75歳未満の22万1000円を大きく上回っている。15歳以上65歳未満の現役世代が使っている医療費は全体の3分の1だ。

ところが、今の制度では現役世代は給与に応じた健康保険料に加えて、受診時には3割を自己負担している。一方で、75歳以上の「後期高齢者」は現役並みの所得がある人を除いて1割負担になる。その分、健康保険組合や国の財政を圧迫しているわけだ。

しかも、2022年には団塊の世代が75歳以上に加わり始める。このままでは、医療費の総額が増える一方で、現役世代へのしわ寄せが一段と強まることになる。

できるだけ健康で長生きしてもらえば、その分、医療費の増加は抑えられる、と言うわけだ。医療費を抑えた自治体などにインセンティブを与えるというのも、野放図な増加に何とか歯止めをかけたいという苦肉の策である。

年金支給開始年齢の引き上げへ

前段の「65歳以上への継続雇用年齢の引上げ」は、年金の支給開始年齢を引き上げるための準備とみていい。実際、年金を受給し始める年齢を70歳以上に引き上げることが選択できるようになる。

年金の支給開始年齢だけを引き上げれば、退職後も年金がもらえず無収入になる人が出て来る。これを避けるために、定年になっても希望すれば継続して働ける制度が設けられている。

安倍内閣は2013年から改正高年齢者雇用安定法を施行、定年を迎えた人が希望すれば、65歳まで企業は雇用し続けることが義務付けられた。

企業の対応は3つで、定年を65歳以上に引き上げるか、定年自体を廃止するか、65歳までの継続雇用制度を設けるかを迫られた。継続雇用は給与など待遇については見直して再雇用する形が多くの企業で採られている。

現在、年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられつつあるが、65歳までの継続雇用制度はこれに対応しているわけだ。

安倍内閣が未来投資会議で、継続雇用制度の年齢をさらに引き上げる議論を始めるのは、将来の年金支給開始年齢の引き上げを狙っているために違いない。支給開始を全員70歳にするには、継続雇用を70歳まで企業に義務付ける必要がある。

政府内には定年自体の引き上げを義務付けるべきだという意見もある。人手不足が深刻化する中で、定年を引き上げたり、撤廃する企業も出ている。ただ、そうなると年功序列型賃金を採る伝統的な大企業では、高齢者に支払う人件費が大きく膨らむ。

現在の再雇用では、仕事に応じた給与を提示、本人が納得すれば嘱託などとして残るという形が一般化している。今後、どういった制度設計がされるかで、企業経営への影響は極めて大きい。

定年を廃止する場合、企業が経営状況や社員の評価によって比較的に簡単に解雇できるようにすることが不可欠だ。定年はない代わりにいつでも解雇が行われ、企業の新陳代謝が図られる。

不可欠、日本型雇用解体

継続雇用年齢の引き上げは、終身雇用年功序列という日本型の雇用制度を大きく見直す必要が出て来る。

安倍首相も未来投資会議で次のように述べた。

「あわせて新卒一括採用の見直しや中途採用の拡大、労働移動の円滑化といった雇用制度の改革について検討を開始します」

刺激の強い「解雇制度」という言葉は避けているが、中途採用を拡大して、労働移動を円滑化する裏側は、解雇が比較的自由に行われる社会ということになる。

政府の規制改革会議(議長・大田弘子氏)などでは、金銭を支払うことで解雇を認める解雇ルールの整備などを求めており、未来投資会議ではこうした議論も行われることになりそうだ。

いつまでも働く社会に変えていくことには反対意見は少ないだろう。だが、いつまでも働ける社会と、いつまでも働かなければ生きていけない社会とでは、その意味は大きく違う。

年金や健康保険といった社会保障費の抑制ばかりが先行すると、国民の理解は得られない。安倍内閣が最後に手を付ける社会保障改革の道のりは険しい。