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磯山友幸のブログ RSSフィード

2018-09-20

司法試験の希望者が激減している理由を知っていますか? 既得権益層から不満噴出の結果がコレ

| 20:51

現代ビジネスに9月20日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57598

司法制度改革の逆コース

難関の国家資格の代表格である「弁護士」が、大きな転機を迎えている。司法制度改革で大幅に増やした合格者を一転して絞った結果、今度は受験者が激減。かえって合格率が上昇する結果になっているのだ。

2002年に閣議決定された司法制度改革推進計画では、弁護士検察官裁判官の「法曹人口」の大幅な増員が掲げられ、司法試験の合格者数を「年3000人程度」とするとされた。これを受けて2007年から2013年までの7年間、司法試験合格者は毎年2000人を超えた。

ところが、法曹人口が増えたことで、弁護士業界から批判が噴出。「合格者が増えて質が低下した」「資格を取っても食べていけない弁護士が増えた」と言った声が上がった。

日本弁護士連合会などが法曹人口の抑制を要望したこともあり、2015年に政府が方針を転換。「年間1500人程度以上」に目標を修正した。

その結果、司法試験合格者は、2015年は1850人、16年は1583人、17年は1543人と着実に減少した。9月11日に発表された18年の合格者は1525人で、昨年よりさらに18人減少した。目標を当初の3000人から1500人に半減させた「政策」が、ほぼ実現できたわけだ。

合格者を減らすことで、弁護士の質を高めるというのが弁護士会などが主張する大義名分だった。合格者を絞れば合格率が下がり、再び難関の試験に戻っていく。そう弁護士会は考えたようだ。ところが、結果はどうも逆になりつつある。というのも受験者数が年々減少しているのだ。

2015年に8016人だった受験者数は16年に6899人、17年に5967人と大幅に減少、18年には5238人に激減した。この結果、2015年に23.1%だった合格率は、今年は29.1%にまで跳ね上がることになった。

合格率を見る限り、司法試験は難しくなるどころか、難易度は下がっていることになり、弁護士会の言う「優秀な人材」が本当に選別できているのか怪しくなっている。

苦労して司法を目指さなくとも

受験者が激減している背景には、世の中で急速に進む人手不足がある。少子化に加えて、景気の底入れで企業が積極的に採用人員を増やしていることもあり、新卒学生は引っ張りだこの状態。苦労して司法試験を受けようという学生が減っているというのだ。

もともと弁護士や会計士といった資格取得は、不景気で就職難の時ほどニーズが高まるとされる。世の中の人手不足が弁護士のなり手をさらっているわけだ。

合格者数を絞っていることも学生に受験を敬遠させる一因になっている。門戸が狭まるところにあえて挑戦しようという人は少ないのだ。

また、「資格を取得しても食べていけない」という弁護士界の司法制度改革批判は、これから受験しようとする学生にとっては、「苦労して弁護士になっても生活できないのか」ということになり、これも受験を敬遠させる要因になっている。

法科大学院の仕組みが事実上崩壊したことも大きい。司法制度改革では大学学部卒業後、二年間の法科大学院を終了すれば、ほぼ確実に弁護士になれるハズだった。ところが、その後の方針転換で法科大学院に進んでも合格できない学生が大量に生まれている。

2018年の司法試験で、法科大学院出身者(4805人)の合格率は24.75%。法科大学院を経ずに受験する「予備試験」に合格して司法試験を受けた人(433人)の合格率は77.6%だった。

法科大学院の人気は一気にしぼみ、それが司法試験受験者の減少に結びついている。法科大学院の入学志願者は初年度の2004年は7万2800人、翌年は4万1756人に達し、5000人以上が入学したが、2018年度は志願者8058人、入学者は1621人にまで減少している。すでに閉鎖したり、募集を停止した法科大学院も多い。

法科大学院の入学者数を見る限り、今後も受験者の減少は続きそうだ。よほど予備試験経由の合格者を増やさない限り、「1500人以上」という政府の目標は維持できなくなりそうだ。

競争なしを前提にした業界規模

弁護士業界はそれでも危機感を持っていない。法曹人口が足りなくなることはない、むしろ、1500人の合格者でも多すぎると思っている向きもある。

日本弁護士連合会弁護士白書2017年版には、「弁護士人口の将来予測」という表が載っている。このまま1500人の合格者が続いた場合、2018年で4万5000人の法曹人口は2049年まで増加を続け、7万1138人になるとしている。

法曹資格を取得して43年間「現役」でいることを前提に、2049年までは引退・死亡する法曹人の数が、新規参入の1500人を下回り続けるため、増加が続くとしている。

また、弁護士1人当たりの国民数は2018年の3162人から2049年には1605人になる、という。人口当たりの弁護士数はこれから2倍になるとしているのだ。

1500人の合格者を続ければ、ますます弁護士は食べられなくなる、と言っているようにもみえる。弁護士界の一部にくすぶる「合格者を1000人まで引き下げろ」という声を後押しているようにみえる。

司法制度改革の狙いは、規制緩和が進む中で、様々な分野で法曹の役割が増していくので、その需要にこたえるためにも法曹人口の増加が不可欠というものだった。

また、多様な分野で活躍できる弁護士を増やすには、法律だけ学んだ人ではなく、様々な学部を経て弁護士になるルートが必要だということで法科大学院が生まれている。

つまり、弁護士の業務範囲をこれまでの裁判や紛争解決などにとどめず、幅が広がっていくことを前提に、法曹人口増を目指してきた。

だが、弁護士業界の反応は、資格さえとれば一生(平均43年間)仕事に困らないという前提で「適正人数」を考えている。そこには競争による切磋琢磨や、新分野への進出といった発想はみられない。

今後、少子化の影響で若年層の人口が減り続ける中で、法曹界司法試験受験者の減少に歯止めをかけ、優秀な人材を確保していくことができるのかどうか。社会の重要なインフラを担うだけに、今後も注目していきたい。

2018-09-13

全国の百貨店が猛暑と災害で受けた「大打撃」の実態 9月の地震の影響はおそらくこの後だ

| 18:35

現代ビジネスに9月13日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57500

7月の急落

猛暑に加えて、台風などの風水害や地震など、相次ぐ自然災害は、日本経済にどんな影響を与えるのか。とくに低迷している消費の行方に関心が集まっている。

日本百貨店協会が発表する全国百貨店売上高は、5月にマイナス2.0%を付けた後、6月は3.1%増と久しぶりの高い伸びを記録、消費の底入れに期待が膨らんだ。

ところが、7月は一転して6.1%減と、消費増税の反動減に次ぐ大きなマイナスとなった。8月は再びプラスになった模様だが、激しい乱高下を繰り返している。消費が改善に向かっているのかどうか、エコノミストの多くも実態をつかみあぐねている。

7月の売り上げ激減について日本百貨店協会はリリースでこう分析していた。

「上旬の西日本豪雨をはじめ、梅雨が明けて以降連日の猛暑、更には月末の台風12号の上陸など異常気象のほか、クリアランスセールの前倒しの影響や土曜日1日減などのマイナス与件から、売上・客数共に振るわず前年実績には届かなかった」

今年、大手百貨店は夏のセールを6月に繰り上げ実施した。その効果もあり、6月には衣料品が4.3%増と2015年4月以来の高い伸びを記録した。

7月にも再度セールを実施する百貨店も多かったが、「先食い」の影響で、7月の衣料品は11.1%減と壊滅状態になった。4月以降の4カ月の増減率を単純平均すると3.5%のマイナスで、百貨店の売りである衣料品は苦戦したままである。

また、1月以降、前年同月比プラスが続いていたハンドバッグなどの「身の回り品」が6.3%減と大きくマイナスになり、6月のプラス6.0%を帳消しにした。さらに、2017年4月以降プラスだった「美術・宝飾・貴金属」が16カ月ぶりにマイナスに転落した。

こうした消費の先行指標ともいえる商品類がマイナスになったことで、百貨店の販売は「変調」をきたしている可能性もある。これらの商品が8月にどれぐらい売り上げを戻すのかが注目される。

頼みの外国人も頭打ち

もうひとつ「変調」は訪日外国人の百貨店での消費動向。7月の全国百貨店での免税売り上げは272億2000万円と7月としては最高を更新したものの、6月を下回った。例年、7月は観光客が増える時期で、7月の免税売り上げは6月を大きく上回って来た。

悪天候や災害などによる一時的な影響とみることもできるが、観光客による百貨店売り上げが頭打ちになり始める予兆かもしれない。

さらに気になるのが、免税売り上げの客単価が落ち続けていること。今年2月の7万1000円から、5カ月連続で下落し、7月は6万円になった。

株価の下落などから中国経済に減速懸念が強まった2016年7月に5万2000円にまで下がったことがあるが、その後V字回復して、2017年10月には7万4000円になっていた。その客単価が再び低下し始めているのだ。

高級ブランド品や宝飾品などの売り上げが落ちて、化粧品や食料品など単価の低いものに購買ゾーンがシフトしていることが大きいとされる。中国人観光客の「爆買い」が話題になった2014年から2015年にかけては、百貨店での免税客単価は8万円を超え9万円に迫っていた。つまり、ピークの3分の2というわけだ。

9月災害の影響はさらにこの後

これまでひとり気を吐いてきた「大阪」の百貨店売り上げが一服したのも大きな変化だ。大阪地区の百貨店売上高は2016年12月以来、19カ月ぶりにマイナスになった。福岡も12カ月ぶり、札幌も6カ月ぶりのマイナスだ。外国人観光客に人気の都市での売り上げ減というのが気になるところだ。

さらに、大阪関西空港台風による被害で一時閉鎖されたほか、アクセス橋の損傷で、鉄道の復旧が遅れており、発着便数が元に戻るにはかなりの時間を要するとみられている。このままでは訪日観光客への影響は必至で、大阪の百貨店にとっては大打撃である。

また、北海道胆振東部地震の影響が長引いており、北海道の観光産業への打撃は小さくない。北海道地区の百貨店売り上げにも当面影響が出ることになりそうだ。

といっても、7月の大幅な減少の主因は日本在住者の消費減少である。百貨店売上高から免税売り上げを引いた実質国内売り上げは7.3%の減と大幅なマイナスだった。6月は1.2%のプラスだったが、その前の5月は4.0%のマイナスで、国内消費は低迷し続けているというのが実態だ。

それに加えて、外国人消費に変化の兆しが出てきたり、災害によって訪日客自体の伸びが鈍化すれば、一段と消費が冷え込むことになりかねない。

2019年10月の消費増税まであと1年あまり。それまでに消費が底入れするかどうか。今後、増税を見据えた駆け込み需要がどれぐらい盛り上がってくるかも焦点だろう。

また、増税後の反動減を小さく抑えるために、政府は様々な優遇措置や消費刺激策を打ち出すと見られるが、消費に力強さを欠いたまま、さらに税率が引き上げられることになれば、日本経済が一気に失速することになりかねない。

2018-09-07

企業の「内部留保」史上最高の500兆円突破で起きること くすぶる「やっぱり課税すべき」の声

| 15:34

現代ビジネスに9月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57392

GDP並みに貯めこんでいる

企業がせっせと貯め込んだ「内部留保」の金額が、またしても過去最高を更新した。

財務省が9月3日に発表した2017年度の法人企業統計によると、企業(金融・保険業を除く全産業)の「利益剰余金」、いわゆる「内部留保」が446兆4844億円と前年度比9.9%増え、過去最高となった。増加は6年連続だが、9.9%増という伸び率はこの6年で最も高い。

「内部留保」は企業が事業から得た利益のうち、配当や設備投資に回さずに手元に残している「貯蓄」のこと。金融・保険業を加えたベースでは前年度比10.2%増の507兆4454億円と、初めて500兆円を突破した。

500兆円といえば、日本のGDP(国内総生産)の1年分に匹敵する額。かねてから巨額の利益を貯め込んでいるとして、企業の内部留保は問題視されてきたが、一段と批判の声が高まるのは必至だ。

2017年度の内部留保(利益剰余金)が大きく増えた原因は、企業業績が好調で利益が大きく増えたこと。全体(金融・保険業を除く)の当期純利益は61兆4707億円と前年度に比べて24%も増えた。

企業も、利益配分などに力を入れているものの、利益の伸びの方が大きく、「貯蓄」が溜まってしまったというわけだ。

社員に還元できているのか

安倍晋三首相は第2次安倍内閣以降、「経済好循環」を訴え、アベノミクスによる円安効果などで利益が大幅に増えた企業に、賃上げなどを求めてきた。

法人企業統計を見ると、人件費は206兆4805億円で、前年度比2.3%増えた。2015年度以降、1.2%増→1.8%増→2.3%増と、増加率も増している。

確かに、人件費は着実に増えているのだが、企業が生み出した付加価値のうちどれぐらい人件費に回しているかを示す「労働分配率」は66.2%で、2011年度の72.6%からほぼ一貫して低下し続けている。なかなか、企業収益が社員に十分還元されて来なかったわけだ。

これに繰り返し噛みついてきたのが、麻生太郎・副総理兼財務相である。経済界の求めに応じて法人税率の引き下げを決めた後にも、「法人税率を引き下げるのはいいが、内部留保に回ってしまっては意味がない」と苦言を呈していた。

実際、今回の法人企業統計では、企業が納めた税金である「租税公課」は10兆1690億円と7.7%も減少する一方で、内部留保は9.9%も増えたのである。

統計が発表された翌9月4日、閣議後の記者会見で質問が出ると、麻生氏は、「給料が伸びたといっても(前年比で)2桁に達していない。労働分配率も下がっている」と不満を述べた。「そんなに貯めて何に使うのか」、「企業収益が上がっていることは間違いなく良いことだが、設備投資や賃金が上がらないと消費につながらない」と批判したと報じられた。

このままだと政府に手を突っ込まれる

増え続ける内部留保に経済界も気をもんでいる。麻生氏が苦言を呈していることもあるが、内部留保に課税するという案がくすぶっているからだ。

2017年秋、小池百合子東京都知事が率いる「希望の党」(当時)が掲げた「ユリノミクス」にこんな一文があった。

消費増税の代替財源として、(中略)大企業の内部留保への課税を検討する」

企業の内部留保を召し上げて財源にするという「奇策」を打ち出したのだ。さすがの麻生氏もこの時は「内部留保は税金を払った後のお金で、(さらに税を課すと)二重課税になる」と批判したが、同時に、「(企業は)金利のつかない金を貯めて何をするのか。給与や設備投資に回したらどうか」と付け加えることを忘れなかった。

そんな麻生氏の堪忍袋の緒が切れるのではないか、と経済界は恐れているのだ。というのも財務省内にはかねてから、内部留保に課税すべきだ、という声があるのだ。時限を設定したうえで一定以上の内部留保に課税する方針を打ち出せば、企業は設備投資や配当に資金を使うのではないか、という声もある。

自民党内閣が内部留保課税を打ち出せば、希望の党の流れをくむ国民民主党や、共産党や立憲民主党なども賛成に回る可能性が高い。

安倍首相が「3%の賃上げ」という数字を示して春闘での賃上げを経営者に求めたのは今年春。その結果が法人企業統計に反映されるのは来年9月に発表される2018年度分からだ。

来年の統計で人件費が3%を大きく超える率で増えない一方で、またしても内部留保が大きく増えれば、麻生・財務省が動き出す可能性が出て来るのではないか、と経営者が内心恐れているわけだ。

もうひとつ企業が恐れているのが「市場」である。2017年度の配当は23兆3182億円と前年度に比べて16%増えたものの、当期純利益に占める配当の割合(配当性向)は2015年度の53.1%、前年度の40.4%からさらに低下して37.9%になった。利益を十分に株主還元していないという批判が、機関投資家などから強まる可能性が高いのだ。

機関投資家は配当が十分でない企業や利益水準が低い企業の株主総会で、会社提案に反対票を投じるケースが増えている。このところ、日経平均株価は上値が重い展開が続いているが、背景には企業の株主還元が十分でないため、という批判もある。

果たして、企業の行動は大きく変わるのか。日本経済の行方にも大きく影響するだけに注目される。

2018-08-29

支持率ほぼゼロ…国民民主党は代表選で生まれ変われるか 対照的な二人の対決

| 20:51

現代ビジネスに8月24日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57172

解党の危機を乗り越えられるか

国民民主党の代表選挙が8月22日告示され、玉木雄一郎共同代表と津村啓介元内閣府政務官が立候補した。投開票日である9月4日に向けて選挙戦が始まった。

国民民主党は2018年5月に、希望の党と民進党の再結集を狙って発足したが、両党合わせて107人いた衆議院議員と参議院議員107人のうち、6割しか参加しなかった。その結果、立憲民主党の63人に及ばず、目指していた野党第1党の座を逃した。

NHKの世論調査では、発足した5月の政党支持率は1.1%で、4月時点の希望の党(0.3%)と民進党(1.4%)を合わせた支持率を下回った。その後もジリジリと支持率を下げ、8月の国民民主党の支持率は0.4%と、ほぼゼロと言って良いところまで落ち込んでいる。

起死回生を狙った統合・新党結成だったが、完全に空振りに終わり、政党としての影響力をほぼ失っている。

そんな中で行われる代表選は、立候補した両氏が国民民主党の存在意義を訴える貴重な場になる。新代表が求心力を失えば、結党から4カ月で解党の危機に直面することになりかねない。

まだ序盤戦とはいえ両候補の戦い方は対照的だ。

玉木氏は「必ず、政権を取る。これが国民民主党を結党した意義」だとし、11分野43項目の政策を掲げる。現職の代表らしく、党としての未来戦略を描くオーソドックスな手法と言える。

一方の津村氏は来年の参議院議員選挙を念頭に、野党共闘を行って候補者を一本化すべきだと訴え、共産党との共闘にも踏み込む姿勢を見せた。政策というよりも戦い方の戦術の焦点を当てた代表選を戦う意向のようだ。

確かに、政権交代に向けた政策論議をすることは重要だ。選挙の顔である代表がどんな政策を打ち出すかを知っておくことは、党員や党所属の議員に取っても重要である。安倍晋三首相が進めるアベノミクスなどに対抗して政権交代を果たすには、柱になる政策が必要なのは言うまでもない。

選挙ではまず独自候補を立てる努力をするのが先決だというのが玉木氏の考えのようだ。

政権交代よりもまず目先の選挙

だが一方で、支持率が1%にも満たない政党が、政権を取ると言ってみたところで実現性がどれだけあるのか、という疑問も生じる。

来年の参議院選挙をどう戦うのかという戦術、つまり野党共闘のあり方を前面に打ち出すのも、あながち的外れではない。いや、というよりも、現職の国会議員、特に来年任期満了を迎える参議院議員にとっては選挙で勝ち残れるかどうかは最大の関心事である。

多くの国民民主党議員が選挙に不安を抱いているのは間違いない。

衆議院の場合、小選挙区で戦って自民党に勝てないとすれば、善戦して比例復活を狙うことになる。だが、野党第2党では、比例復活の目は乏しい。本音では古巣で一緒だった立憲民主党の議員と激突することだけは避けたい、と考えている。

選挙が弱い議員には、タイミングを見て立憲民主党に鞍替えしようと考えている議員もいる。政策で立憲民主党と対立することを国民民主党として掲げてしまうと、選挙区での候補者調整が難しくなり、ガチンコで勝負することになりかねない。

代表選は所属国会議員62人が各2ポイント、国政選挙候補予定者18人が各1ポイントを持つほか、750人余りいる地方議員が合計71ポイント、7万人余りの党員・サポーターが同じく71ポイントを持ち、得票数で比例配分する。

合計284ポイントを争うわけだが、国会議員はもとより地方議員も次の参議院議員選挙や衆議院選挙をどう戦うか、野党共闘はどうなるかが最大の関心事と言っても良い。

一方、一般の党員やサポーターからすれば、国民民主党がどんな政党を目指すのかを明示してもらわなければ、応援のしようがないということになるだろう。つまり、長期的な党の盛衰を考えれば、政策を訴えることが重要だが、目先の選挙対策を考えると他党との連携をどうするかが焦点ということになる。

アベノミクスに対抗できるか

では、現代表でもある玉木氏が掲げる政策はどんなものか。アベノミクスを向こうに回して戦えるだけの「説得力」があるのか。特に安倍首相が成果だと強調する「経済」分野で太刀打ちできる政策を掲げているのか。

真っ先に掲げているのが「生活の安心をつくる」として月7万円の最低保障年金と、給付付き税額控除の導入を掲げている。給付付き税額控除には「日本版ベーシック・インカム」という名称が付けられている。

ベーシック・インカムはどんな人にも一定の所得を保障するというもので、低所得者への再分配を増やす政策と言える。

社会主義色の強いヨーロッパの野党などが長年主張しているが、先進国で導入されている例はない。働かずに所得を得る「タダ乗り」が発生して労働モラルが落ちるという反対意見も根強い。

希望の党が小池百合子代表の下で「ユリノミクス」と名付けた経済政策を掲げた際にも柱としてベーシック・インカムが盛り込まれていた。

「金融・財政の新しい規律をつくる」として、アベノミクスが進めてきた「マイナス金利は即座に廃止し、異次元緩和の弊害を除去」と明言しているところも目を引く。

また、「『2030年代原発ゼロ』に向けたスケジュールを具体化」としている。旧民主党が政権末期に掲げた『2030年代原発ゼロ』という脱原発の方向性を踏襲している。さらに「日米FTAは認めない」といった文言も含まれる。

多くの国民がアベノミクスの効果を感じる一方で、森友学園や加計学園を巡る首相の答弁や財務省の公文書改ざんなどに不信感を抱いている。

一方で、野党がこうした問題にただ批判を繰り返すだけで、政権の受け皿となるには不十分な野党しか存在しないことにも苛立っている。

玉木氏が、愚直に政策を前面に打ち出したのは、そうした国民の期待に応える野党を創り上げることを狙っているとみられるが、大半の所属議員が目先の選挙の戦い方に関心を抱く中で、どこまで支持を集められるか。9月4日の臨時党大会が注目される。

2018-08-23

いよいよ、この国で「本格的な給料アップ」が始まる予兆 最低賃金1000円にあと一歩...

| 20:20

現代ビジネスに8月17日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57050

人手不足背景に伸び続く

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、東京の最低賃金が1000円を超えることが確実になった。

厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月24日、2018年度の最低賃金の目安を決めた。全国平均で時給を26円引き上げ874円にするほか、東京都は27円引き上げて985円とした。

今後、各都道府県の審議会が、地域別の最低賃金を正式に決め、10月をめどに改定後の最低賃金が適用される。

安倍晋三内閣は中期的な目標として「最低賃金1000円」を掲げている。2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、最低賃金の「年3%程度の引き上げ」を盛り込んでおり、それ以降、全国平均の引き上げ率は3年連続で3%を超えた。このままのペースが続けば、2023年には全国平均で1000円を超す。

それよりひと足早く、東京都の最低賃金は来年2019年には1000円台に乗せることが確実な情勢となった。来年も同率の引き上げが行われれば、最低賃金は1012円となる。神奈川県も今年度の最低賃金は983円になる見込みで、来年は1000円を突破することが確実だ。

東京の都心部を中心に深刻な人手不足が続いており、学生アルバイトの時間給はすでに1000円を超えているケースが多い。外食チェーンなどでは時給1000円未満での募集は姿を消しつつある。

今後、オリンピックに向けてホテルや飲食店などのオープンが相次げば、さらに人手不足は深刻化する見込みで、パートやアルバイトを中心に時給の上昇はさらに続きそうだ。

時給の上昇は地方にも波及している。訪日外国人は日本政府観光局(JNTO)の推計によると、1〜6月ですでに1589万人に達し、2018年は3000万人を超えるのが確実な情勢。アジア諸国からの観光客を中心にリピーターが増えているため、地方都市や地方の観光地に足を延ばす外国人が多くなっている。

このため、地方中核都市はインバウンド観光客を狙ったホテルの新築などが相次いでおり、ここでも人手不足が常態化している。有名観光地の旅館などでも人手が足らないため、時給はジリジリと上昇している。

全国の都道府県の審議会が、国の方針に異を唱えずに最低賃金引き上げに動いている背景には、こうした人手不足と賃金上昇の流れがある。

消費に結びつくか

安倍内閣が最低賃金の引き上げを重点政策のひとつとしてきたのは、アベノミクスで企業収益が回復した恩恵を広く働き手に循環させる狙いがある。

第2次安倍内閣が発足する前の2012年の最低賃金は全国平均で749円、東京都で850円だったが、それ以降、毎年引き上げられ、この6年間で全国平均が125円、東京が135円上昇した。

最低賃金の引き上げは、最低賃金に近い時給で働くパートやアルバイトなど非正規社員の待遇改善につながっているのは間違いない。加えて、正規雇用の社員の賃金を押し上げる効果も出始めている模様だ。

アベノミクス開始以降、安倍首相は「経済好循環」の実現を繰り返し訴えている。

企業収益を社員への分配に回すよう求め、安倍首相みずから、経団連などの財界首脳にベースアップの実現を求め、春闘では5年連続のベアが実現している。

また、今年は「3%の賃上げ」という目標数値を経済界に要望し、多くの企業がボーナスなどを含めた年俸ベースで3%以上の増加を実現しつつあるとみられる。

「最低賃金の3%引き上げ」と「3%の賃上げ」が政策的に連動していることは間違いない。こうした最低賃金の引き上げや賃上げが、ようなく数字のうえで「給与の増加」として表れ始めた。

厚生労働省が8月7日に発表した6月の毎月勤労統計では、「現金給与総額」の賃金指数が、昨年8月以降11カ月連続で前年同月比プラスとなった。12月までは1%未満の増加だったが、3月には2%増を記録、6月の速報では3.6%の増加となった。

名目賃金にあたる1人あたりの「現金給与総額」は44万8919円で、1997年1月以来21年5カ月ぶりの高水準となった。

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パートの上昇率(6月は1.4%)を一般労働者の上昇率(同3.3%)が上回っているのが特長で、賃上げ効果がジワリと広がって来たことが伺える。

業種別では小売業の伸び率が高く、人手不足を背景に給与が増加していることが分かる。

問題は、こうした「給与の増加」が、今後、消費に結びつくかどうか。所得が増えた分、それでモノを買う行動に消費者が出るかどうかだ。

現状では消費は全体的に力強さに欠けており、本格的な回復過程に入っていない。特にインバウンドの外国人消費を差し引くと、百貨店売り上げなどは苦戦を続けており、給与増→消費増という好循環が今後起きるのかどうかが焦点になっている。

2019年10月には消費税率が8%から10%に引き上げられる予定で、それまでに消費が盛り上がらないと、増税の反動で再び消費が落ち込み、景気が悪化することになりかねない。

それだけに、2020年のオリンピックに向けて消費が盛り上がるかどうかが、今後の日本経済を占う大きな試金石になってくる。