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磯山友幸のブログ RSSフィード

2018-09-04

人手不足はこれからが「本番」だ 実は、働く人の数は過去最多を更新

| 22:08

月刊エルネオス9月号(9月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 深刻な人手不足に陥っているのは働く人の数が減っているからだと思っている人が多い。確かに少子化によって若い働き手が減っている。しかし、働く人の総数が減っているわけではない。

 総務省が毎月発表している労働力調査によると、今年五月の就業者数は六千六百九十八万人と、これまでの最多だった一九九七年六月の六千六百七十九万人をほぼ二十一年ぶりに更新した。就業者数は昨年十二月からの五カ月間で百五十六万人も増加。一年前の五月と比べても百五十一万人増加している。対前年同月比では六月の就業者数も増加しており、第二次安倍晋三内閣が発足した直後の二〇一三年一月から六十六カ月連続でプラスが続いている。

 雇用の増加は、安倍首相アベノミクス最大の成果として繰り返し強調している。確かに五年前の就職戦線は「氷河期」と呼ばれたリーマンショック後の状況を引きずっていた。アベノミクスによる大胆な金融緩和円高が是正されたことを引き金に、企業収益が大幅に改善。その後、企業が積極的に雇用を増やしたことが就業者数の増加に結びついている。ちなみに、企業に雇われている「雇用者数」も六十六カ月連続で増加を続けており、こちらはずっと過去最多を更新し続けている。安倍内閣が発足した一二年十二月の五千四百九十万人からこの六月の五千九百四十万人まで、四百五十万人も雇用が生み出されている。状況は一変し、今では新卒者に企業が群がり、人材獲得競争が激しさを増している。

就業者数の増加要因は

「女性活躍促進」と「一億総活躍」

 日本の人口は〇八年の一億二千八百八万人をピークに減少し始めている。今年七月の推計は一億二千六百五十九万人なので、百四十九万人減っている。にもかかわらず、働く人の数が増えているのはなぜか。

 一つは安倍首相が就任以来言い続けている「女性活躍促進」の効果だ。この五年半で増えた四百五十九万人の就業者のうち、男性は百五十五万人、女性は三百四万人と、女性の増加数が大幅に上回っている。この五年で間違いなく女性が働くようになったのだ。労働力人口に占める実際に働いている人の割合である「就業率」は、十五歳から六十四歳の女性で六〇・九%から六九・四%に上昇した。

 安倍内閣が進めた産休・育休制度の充実や保育所の整備などがジワリと浸透。それまでは出産や育児の期間は退職するため、年齢別に見ると就業率が三十歳くらいから四十歳くらいまで下がる「M字カーブ」が問題視されてきたが、ここへきて「M字」が「台形」に近くなり、「M字カーブ」がかなり解消されつつある。

 もう一つの理由は六十五歳以上の就業者が増えたことである。これも安倍内閣が掲げた「一億総活躍」のターゲットだったと言える。六十五歳以上の就業者数は安倍内閣発足時の五百九十二万人から八百六十九万人へと、二百七十七万人も増加した。「生涯現役」「人生百年時代」の掛け声の下、高齢者も働き続ける傾向が鮮明になった。

 女性や高齢者の「就業者」の増加に伴って起きているのが、「非正規」の増加である。高齢者雇用が増えた背景には、団塊の世代の退職が相次ぐ中で、深刻な人手不足に直面した企業が、団塊の世代の人たちの「再雇用」に動いたことが大きいとみられる。当然、「嘱託」や「パート」として再雇用されることになるため、正規雇用から非正規へと変わることになる。今や非正規雇用者は二千百二万人。雇用者全体の三八%に達する。

 ではどんな業種で就業者が増えているのだろうか。

早晩期待できなくなる

雇用を支える高齢者と女性

 このところ目立つのが「宿泊・飲食サービス業」の増加。六月時点では四百十七万人と前年同月に比べて十七万人増えた。ホテルや旅館、飲食店といった消費産業で女性のパートを中心とする仕事が急増しているのだ。

 二〇二〇年の東京オリンピックパラリンピックを控えて、顧客が大きく増加するという期待から、全国の主要都市でホテルを新設する動きが広がっている。また、既存の旅館やレストランなどでも改装などが行われている。こうしたハコモノを整備しても、接客するスタッフが足りなければお客を受け入れることができない。猛烈な人手不足を見越して、二〇年をめがけた人材の確保が始まっているのだろう。

 何せ、日本を訪れる訪日外国人はうなぎのぼり。JNTO(日本政府観光局)の集計によれば一七年一年間での訪日外客数は二千八百六十九万人で、今年は七月までの累計で一千八百七十三万人に達しており、年間では三千三百万人近くに達する勢いだ。

 政府は二〇年に四千万人を見込んでいるが、このペースが続けばオリンピックの「特需」分を除いても十分に達成できる計算だ。そうした訪日外国人が日本国内で落とすお金をガッチリつかもうと、ホテルやレストランだけでなく、さまざまなサービスに「投資」する動きが出ているわけだ。

 今年六月の有効求人倍率は一・六二倍と、四十四年ぶりの高水準が続いている。働く人は増えているのに、それでも人手不足が深刻化しているのだ。ここで問題になるのが、高齢者の就業者数が早晩、頭打ちになるとみられることだ。また、女性の就業率上昇も、M字カーブの解消が示すように、そろそろ限界に近づいている。つまり、これまで就業者数の増加を支えてきた女性と高齢者が期待できなくなりつつあるのだ。

 団塊の世代は一九四七年〜四九年生まれを指す。その数二百六十万人とされる。この人たちが皆、オリンピックを前に七十歳を超えることになる。生涯現役とはいえ、七十を超えると働く人は激減する。この世代が本格的に労働市場から姿を消し始めると、人手不足は一気に深刻化するのだ。

少子化による人手不足」とつい口にしてきた我々だが、就業者数が減少をし始めた時のインパクトは大きいだろう。まさしく、それ以降が人手不足の本番だと言える。その「時」は着々と迫っている。当然ながら、今から対策を講じなければならない。

2018-08-01

増え続ける「過労自殺」 労働時間削減だけでは解決しない

| 21:59

月刊エルネオス8月号(8月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

長時間労働の改善など「働き方改革」の必要性が強く叫ばれるきっかけになったのは、大手広告代理店「電通」の新入社員、高橋まつりさんの自殺が、長時間労働に伴う過労によるものだったと労働基準監督署から労災認定され、世の中に知れ渡ったことだった。高橋さんの月の残業時間は百五時間を超えていた。

 今国会で成立した「働き方改革関連法」では残業時間に罰則付きの上限が設けられ、繁忙期の特例で許される上限が月「百時間未満」となった。高橋さんを自殺に追い込んだような残業は明確に「法律違反」になったわけだ。

 ではこれで、精神的に追い込まれて自殺するような「過労自殺」は減るのだろうか。

 七月六日に厚生労働省が二〇一七年度の「過労死等の労災補償状況」をまとめた。これによると、「精神障害等」で労災を申請された件数は一千七百三十二件と前年度に比べて百四十六件、率にして九・二%も増加した。そのうち、未遂を含む自殺による請求は、前年度比二十三件増の二百二十一件と、一割以上も増えた。

 データで見る限り、過労自殺は減っているどころか、むしろ増加傾向が続いているのだ。労災申請されるのは氷山の一角だという指摘もあり、日本の会社における「過労自殺」は重大問題になっている。

「過労死」に関わる労災申請は、かつては脳疾患や心臓疾患などによる申請が多かったが、今は「精神障害等」が圧倒的に増えた。一七年度は「脳・心臓疾患」による申請は八百四十件だったので、「精神障害等」はその二倍以上だったことになる。「メンタルをやられた」社員は一般的な大企業なら全社員の五%くらいは存在するといわれる。しかも、人手不足で仕事が忙しい現在、その比率はどんどん上がっているとされる。

パワハラや仕事が増えて「メンタルをやられる」

 労災申請してもすべてが「認定」されるわけではない。労災認定されるには業務との因果関係が重視されるなどハードルが高い。月に百時間を超えるような長時間労働の末に精神障害になれば、多くが認定されるものの、長時間労働がなければ、なかなか労災とは扱われない。それでも、一七年度の精神障害での労災認定は五百六件と、前年度より八件増えた。中でも未遂を含む自殺が九十八件と、前年度に比べて十四件も増えており、職場のストレスによる自殺労災認定されるようになっている。

 精神を病んでしまう社員が受けるストレスは、必ずしも「長時間労働」によるとは限らない。支給決定された案件では、精神障害に結びついたと考えられる「出来事」も調査されている。それによると、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が八十八件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が六十四件と目立った。前者はいわゆる「パワハラ」がストレスの原因だったということだろうが、後者は仕事を与える上司からすれば「当たり前」と考えがちだ。忙しくなって仕事が増えたり、配置転換で仕事が変わるのに対応できないのは社員の能力に問題がある、と捉えられてしまうケースが少なくない。

 総合商社やメガバンクなど人気企業でも、激戦を勝ち抜いて入社した新入社員が「メンタルをやられて」会社を休む人が少なくないという。仕事が覚えられなかったり、終わらせることができなかったりするのは、自分の能力に問題があるのだ、と自身を責めてしまう。ところが世の中の流れで残業はするなと言われるため、こっそり自宅に持ち帰って仕事をしている若者も少なくない。自分で自分を追い込んでしまい、最後はノイローゼになってしまうというのだ。

 そんな職場に限って、上司には猛烈社員として勝ち残った人がいて、「今の若い奴は甘ったれている」といった対応をする。いわゆる「クラッシャー上司」だ。こうなると、労働時間を規制するだけでは、精神を病む働き手の数は減りそうにない。

高付加価値事業とやりがいで本当の「働き方改革」を

 今回の厚労省の集計を見ても、「精神障害」で労災認定された人は、必ずしも長時間労働の人だけではないことが分かる。「百時間以上百二十時間未満」が四十一人、「百六十時間以上」が四十九人と、長時間労働での認定者が少ないわけではもちろんないが、残業「二十時間未満」での認定者が七十五人と最多になっている。時間区分と認定者数を見ると、ほとんど労働時間との相関はない。

 安倍晋三内閣が「働き方改革」を掲げたのは、少子化で労働力が減る中で、一人一人の生産性をアップさせなければ、経済力を維持できないという危機感からだった。つまり、どうやって効率的に付加価値を生み出すかを考えることが「働き方改革」だったのだが、職場が深刻な人手不足に陥っている中で、慢性化している長時間労働をどう抑え込むかに焦点が当たった。

 今後、人口減少が鮮明になってくる中で、ますます人手は足らなくなる。そんな中で、労働時間を抑え、付加価値を生み出すには、「無駄な仕事はしない」ことが重要になる。無駄な仕事とは、付加価値を生まない低採算の事業だ。低付加価値事業をやめ、高付加価値事業にシフトしていくのが本当の意味の働き方改革で、これは経営者が決断して実行しなければならないことだ。

 もう一つ重要なのは、社員にやりたい仕事をやらせること。自らの仕事にやりがいを見出していれば、忙しくても、そう簡単に精神障害に追い込まれることはない。欧米企業のようにジョブ・ディスクリプションを明確にし、自分の意思で仕事を選び、その道のプロとしてスキルを磨くことが重要になる。

 そうなると、これまでの日本型の人事制度では対応が難しい。新卒一括採用で、仕事内容は入社してから会社が決める。辞令一枚でどんな仕事にもどんな勤務地にでも送り込める。いわゆる「メンバーシップ型」と呼ばれる日本の雇用の仕組みと目指すべき職場は対極にある。おそらく、こうした日本型の仕組みを変えない限り、不本意な仕事に配属され、精神的に追い込まれる社員は減っていかないだろう。過労自殺を減らせるかどうかは、そんな本当の「働き方改革」に突き進めるかどうかにかかっている。

2018-07-02

2つの「コード」で株式持ち合いが消え、 経営者への白紙委任は終焉へ

| 12:56

月刊エルネオス7月号(7月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 六月下旬に一斉に開かれた上場企業の株主総会。かつては経営者に「白紙委任」する爛轡礇鵐轡礇鸛躄餃瓩大半だったが、今は大株主が経営に対してモノを言う機会に大きく変わっている。機関投資家と呼ばれる年金基金や生命保険会社、投資信託会社などは、当日の総会場で発言することはまずないが、裏では経営者の出した議案に「否」を突きつけるなど、「モノ言う」姿勢を強めている。

 背景には二つの「コード」の存在がある。第二次安倍晋三内閣以降、政府主導で相次いで導入された。

 一つ目は二〇一四年に決まった「スチュワードシップ・コード」。機関投資家のあるべき姿を示した行動指針だ。大原則は、アセット・オーナー(資産の保有者)の利益を最大化するように行動すること。例えば、生命保険会社は膨大な株式を保有しているが、その原資は年金保険や生命保険などに加入する保険者が拠出した資金。つまりアセット・オーナーは保険契約者ということになる。生命保険会社が保有している株式の議決権を行使する場合、その投票行動が保険契約者の利益に反しないかどうかが問われるのだ。

 かつて保険会社は、営業にプラスになるのを狙って、保険契約を結んでくれる会社の株式を保有し、経営陣の出す議案には無条件で賛成するという「安定株主」の役割を担っていた。だが今は、長年にわたって業績が低迷していたり、配当が低い会社の、役員選任議案などに「否」を付けることも珍しくなくなってきた。

長年の付き合いだけでは株式の持ち合いはできない

 金融機関の多くは、株式保有を純粋な投資として行うの

ではなく、企業との長年の関係や営業上の損得など「政策」目的で行ってきた。いわゆる「政策保有株」「持ち合い株」と呼ばれるものだ。それがスチュワードシップ・コードの導入で、昔から続いてきたという理由だけで政策保有株を持ち続けることができなくなっているのである。昨年からは、機関投資家に対して、株主総会での投票行動を個別に開示するよう求められるようになった。どの会社のどの議案に賛成し、反対したのか、白日の下に晒されることになったのだ。

 これで一層、会社側提案の議案に無条件に賛成するというのは難しくなった。特に、不祥事を起こした企業の経営者の再任議案などには、反対する機関投資家も増えている。例えば、二〇一七年の総会では大手機関投資家が東芝の役員選任議案に反対した。

 もう一つのコードが、「コーポレートガバナンス・コード」である。これは上場企業のあるべき姿を示したもので、一五年六月から施行された。取締役会のあり方や役員報酬などについて細かく「原則」が定められている。

 そのコーポレートガバナンス・コードが三年ぶりに改定され、この六月から施行された。企業経営者と機関投資家の「対話」の促進に重点が置かれ、「投資家と企業の対話ガイドライン」も同時に公表された。

 経営者と投資家の対話とは、要するに大株主の意思に経営がもっと耳を傾けよ、というもの。スチュワードシップ・コードでモノ言う株主に変わりつつある機関投資家の声を経営に反映させよ、というのである。

 今回の改定で影響が大きいのは、「持ち合い株式の削減方針の明確化」である。経営者に白紙委任を与える持ち合い株の存在が、機関投資家など他の株主の発言権を封殺する。その根源である持ち合い株式自体を削減せよ、としているのである。

「政策保有株」に関する原則が大きく変わり、これまで「政策保有に関する方針を開示すべき」とされていたものが、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」となった。コーポレートガバナンス・コードに従う会社は、今後、株式持ち合いの「縮減」を目指すべきだと明示されたわけだ。

議決権行使の合理性を問われ持ち合い株式の縮減が加速

 また、改定前には、政策保有株を持っている場合には、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい、合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを、「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」と変更した。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか具体的に精査せよ、とまで問われると、なかなかそれを立証することは難しく、これまでも多くの会社が持ち合い解消に動いてきた。この流れは一気に加速することになりそうだ。

 機関投資家の中からも、持ち合いに対して問題視する動きが強まっている。今年六月の総会では、TBSホールディングス(以下TBS)に海外の大株主が突き付けた株主提案が注目を集めた。海外株主は英国のアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)というファンドで、アクティビスト(モノ言う株主)型の投資を行っているとされる。アクティビストとは、企業に経営改革や増配などを迫り、株価を上げて投資回収する投資家を言う。AVIは今年三月末時点で二%弱のTBS株を保有しているとみられる。

 そのAVIが、TBSが保有する東京エレクトロン株七百七十万株のうち、四割に当たる三百六万四千四百十四株を株主に現物配当せよと要求したのだ。

 TBSは東京エレクトロンの発行済み株式の四・七%を持ち、事実上の筆頭株主。TBSが長期保有してきた政策投資株、つまり「持ち合い株」である。AVIはTBSが保有する持ち合い株には合理性がないので、株主に分配せよとしたわけだ。

 コーポレートガバナンス・コードの改定が、早速、株主総会で現実の提案として議題にのぼったのだ。機関投資家側も議決権行使の「合理性」を問われることになるので、会社側が反対する株主提案だからといって無条件に反対する、というわけにはいかなかったのである。

 今後、ますます持ち合い株式の「縮減」が進んでいくことになるのは間違いなさそうだ。

2018-06-12

2019年の消費税増税は実行できるか 景気の力強さはまだ足りない

| 08:39

月刊エルネオス6月号(6月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 消費税率を現在の八%から一〇%に引き上げる消費税増税が予定通り二〇一九年十月から実施されるかどうかに、関心が集まり始めた。まだ一年以上先のことではあるが、民間企業の経理システムの変更など増税実施のための準備を考えれば、一年前には実施するかどうかを最終決定する必要がある。逆に言えば、再度、先送りするのならば、今年秋頃までに首相が決断しなければならない。

リーマンショック級の事態が起こらない限り引き上げていきたい」

 一七年秋に安倍晋三首相はこう発言し、よほどの事態が起こらない限り、消費税は引き上げるとした。だが、これは、大きな経済危機が起きれば、消費税率の引き上げ延期はあり得る、ということでもある。

 何が「リーマンショック級」かという定義も難しい。実際、一八年二月にはニューヨーク・ダウが一日で一千百七十五?も下落する「史上最大の下げ」が発生した。その後、回復したので「リーマンショック級」にはならずに済んだが、経済をどう判断するかは、首相に裁量権があるとも言える。

 政府はここへきて、次々と「消費税対策」を打ち出している。

 消費税増税の前後では「駆け込み需要」とその反動の「買い控え」が起きる。四年前の五%から八%への引き上げ時は、住宅や自動車など高額商品だけでなく、ほとんどの消費でこれが起きた。特に高額な住宅などは消費税分だけでも多額になるため、購入を考えている人たちは増税前に一気に駆け込むという現象が起きた。

 当時、消費税増税を主導した財務省の幹部は安倍首相に、反動による消費減退は一年余りで収束すると説明していたが、なかなか消費は戻らず、低迷はそれ以降も続いてきた。

 来年、八%から一〇%に引き上げた場合、これと同じことが起きるとみられる。このため、政府はその影響をどう吸収するか、知恵を絞っている。

住宅や自動車に特別の減税策

 具体的には、どんな知恵が出ているか。まず、消費税増税後の住宅や自動車に買い控えが起きないよう、購入者に特別の減税策を実施するのが柱になりそうだ。内閣官房に省庁横断の作業部会を設置し、増税後の反動減対策の検討に入っている。六月に閣議決定される「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」に方向性を盛り込んだ上、具体的な制度は自民党の税制調査会などで詰めることになる。

 さらに、「消費税還元セール」も解禁する方向だ。前回、一四年の消費税増税では、増税しても価格転嫁ができない力の弱い中小事業者がしわ寄せを食うことになるという批判が上がり、政府を挙げて消費税増税分を最終価格に上乗せするよう指導した。最終消費者に対してスーパーなどが消費税増税分を値引きする「消費税還元セール」という言葉を使うことも禁止した。そのためにわざわざ特別措置法を作った。消費税は最終消費者が払うものだという「原理原則」を徹底したわけだが、これが消費者の財布を直撃することになり、消費の落ち込みが決定的になったわけだ。

 来年の増税も二%で五兆円近い税収増を見込むが、従来通りならば家計から五兆円を召し上げることになり、消費者の財布の紐が一気に固くなることは間違いない。一方、企業はここ数年の法人税減税で業績が好転、内部留保を大きく増やすなど余裕が生まれている。「消費税還元セール」など企業努力で増税分を吸収させ、消費者のダメージを少しでも小さくしようというのが趣旨だ。

 それでも消費税増税が消費に深刻な影響を与えると考える人は少なくない。特にアベノミクスを推進する安倍首相の周囲に、増税を再延期すべきだと主張する人たちが少なからず存在する。

増税のラストチャンス

 安倍首相は早くから「経済好循環」を掲げ、企業収益が回復した分を賃上げなどによって従業員に還元するよう求めた。一八年の春闘でも「三%の賃上げ」を経済界に要請。五年連続のベースアップが実現するなど、一定の効果が出始めている。家計の所得が増えることで、それが消費に向かい「経済の好循環」が始まるという絵を描いてきたのだ。最低賃金の引き上げも毎年行っており、パートやアルバイトの時給も上昇。人手不足も加わって、賃金はようやく増え始めているとみられる。

 ただ一方で、円安などに伴う物価の上昇も起き始めており、実質賃金が増えたという感覚はまだまだ庶民の間に広がってはいない。このため消費はいまだに弱いままである。日本百貨店協会が毎月発表している全国百貨店売上高や、日本チェーンストア協会が発表するスーパーなどの売上高は、なかなか前年同月比プラスが定着しない。百貨店の場合、日本を訪れる外国人による「インバウンド消費」の効果が大きく、それを除外した実質国内売り上げは前年同月比マイナスが続いている。消費の現状は、一四年の増税前の状況に比べて力強さを欠いているのは明らかだ。

 もちろん、今後の消費の動向にも大きく左右される。二〇年の東京オリンピックパラリンピックに向けて、建設需要以外の「ソフト」分野への投資がこれから本格化する。そうなると企業収益は一段と増加、人手不足の深刻化とともに賃金の上昇も鮮明になっていく。逆に言えば、オリンピック直前の一九年秋に消費税増税ができなければ、いつまでたっても消費税増税など難しいということになってしまう、という見方もある。オリンピック後には程度の差こそあれ景気が減速するのは覚悟しなければならないという点は明らか。消費税を増税するならば今回がラストチャンス、ということもできる。

 何のために消費税増税が必要なのか、というそもそも論もある。国債など「国の借金」が一千兆円を超え、国内総生産(GDP)の二〇〇%を突破、先進国で最悪の財政状態にあるのを立て直さなければならない、と財務省は主張する。高齢化による年金や医療費といった社会保障費の純増を賄うためにも消費税の増税が必要だ、という主張も長年繰り返されてきた。

 だが、消費税を上げた結果、景気が悪化し、消費税以外の税収が大きく落ち込むようなことになれば、むしろ国の財政は悪化してしまう。果たして安倍首相は、予定どおり消費税を上げるのかどうか。ここ数カ月が正念場と言える。

2018-05-02

「高島屋一番店は大阪店」で知る「商都大阪」復活!? ひとり勝ちの大阪は外国人をガッチリつかむ

| 11:21

月刊エルネオス5月号(5月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 国内消費がいまひとつ盛り上がらない中で、ひとり大阪だけが元気だ。理由は大阪を訪れる外国人旅行者が落とすおカネをガッチリとつかんでいるから。今や大阪難波から心斎橋筋にかけて歩いている人の過半は外国人ではないかと思われるほど。立ち並ぶ商店も中国語や韓国語のポスターやチラシを用意し、外国語が話せる店員を置くなどインバウンド・マネーの獲得に工夫を凝らしている。まさに「商都大阪」復活の様相なのだ。

 これは統計にはっきりと表れている。日本百貨店協会が毎月発表する全国百貨店売上高。店舗数調整後の数字で「大阪地区」の売上高の増減を見ると、何と二〇一七年一月以降十四カ月連続で前年同月比プラスが続いている。全国平均はプラスになったりマイナスに沈んだりの一進一退で、一七年十二月以降は三カ月連続でマイナスになっている。それだけに、大阪の「ひとり勝ち」は際立っているのだ。

 郄島屋の二〇一八年二月期決算は象徴的だった。同社の百貨店店舗の中で「大阪店」の売り上げが一千四百十四億円と八・八%も増え、東京・日本橋店の一千三百四十二億円を抜いて「一番店」に躍り出た。郄島屋はもともと大阪が本社だが、大阪店が「一番店」だったのは一九五一年が最後というから、何と六十六年ぶりの一番店返り咲きである。

 前期の郄島屋全体の年間売上高は九千四百九十五億円。このうち免税手続きをしたものの売り上げは四百八十七億円だったという。つまり、五・一%だ。同じ期間の全国百貨店の免税売上高は二千八百五十億円ほどで、全売上高の四・八%相当だから、郄島屋はそれをやや上回っていたことになる。

インバウンドで潤う大阪

 だが注目すべきは「大阪店」だ。大阪店の売上高一千四百十四億円に対して、同店の免税売上高は二百四十億円あまりだったという。何と全体の一七%である。実際には免税手続き対象外の商品も外国人観光客は購入しているとみられ、郄島屋大阪店の外国人客依存度は二割を大きく超すとみられる。まさに、外国人観光客様々なのだ。

 もちろん、外国人で潤っているのは郄島屋だけではない。道頓堀や心斎橋筋の商店街、難波の黒門市場など、外国人の人気スポットになっている。黒門市場はさながら、日本の味を楽しめるフードコートと化している。京都や神戸の百貨店売上高がそれほど増えていないのを見ると、間違いなく、大阪が外国人を惹きつけているのだ。

 報道によると一七年に大阪府を訪れた訪日外国人客は一千百万人。日本政府観光局(JNTO)の推計では、日本全体での訪日外国人客は、二千八百六十九万人だったので、三人に一人が大阪を訪れた計算になる。その外国人が大阪で使ったおカネの総額は一兆一千七百三十一億円にのぼったというから、大阪経済の底上げに外国人は間違いなく大きく貢献している。

 なぜ大阪なのか。

 その理由のひとつはLCC(格安航空会社)便の増加である。関西国際空港にLCC専用のターミナルができたこともあり、LCC便の発着数が大幅に増えた。大阪ミナミの難波は、関空の玄関口である。難波駅から関西空港駅まで南海電鉄の特急で三十六分。百貨店などでは空港までの時刻表を配布するなどして、「出発までの空き時間をギリギリまで買い物ができる」点をアピールしている。銀聯カードやアリペイなどが使えるのは当たり前、当日の航空券を見せると割引になるサービスなどもあり、さすが大阪商人の心意気を感じさせる。街を挙げて観光客に買い物しやすい環境を提供しているのだ。

コスパの良さと官民の「やる気」

 大阪の「コスト・パフォーマンス」の高さも人気の秘密のようだ。特に、アジアからの観光客には、大阪流の「コスパの良さ」が受けている。大阪ミナミ周辺のビジネスホテルは東京に比べればまだまだ割安なところが多い。さらに、大阪の「色」も肩ひじ張らず、気軽に買い食いができるものが多い。まさに「食いだおれ」の大阪が、アジアの観光客にフィットしているのだ。

 商都大阪は、「価格勝負」が当たり前。観光客が値切っても決して嫌な顔など見せない。このあたりも東京の高級店とはひと味違う。

 大阪を訪れる観光客は、圧倒的にリピーターが増えているとみられている。有名な観光地は一度訪れるとなかなか同じ場所に行かないが、大阪には繰り返しやってくる。玄関口ということももちろんあるが、食事や買い物など「日本」を楽しむには格好の街なのだ。これは同じ関西でも、京都や神戸とは大きく違うところだろう。

 商都復活の背景には、もうひとつ、政治の役割も大きいかもしれない。大阪維新の会が大阪での改革を掲げた頃、大阪の経済はどん底だった。大阪の県民所得はかつて競っていた東京には大きく引き離され、名古屋や横浜に追いつかれていた。少子高齢化も深刻で、閉塞感が満ちていた。そこで、経済再生を政策の柱として掲げたのである。

 府市統合による二重行政の解消や市営地下鉄の民営化、地下鉄新路線の検討など公共インフラのつくり直しを橋下徹知事・市長らは掲げてきた。関西空港と伊丹空港の一体運営化なども実行に移した。そうした改革が、街に活気を与えていることも間違いない。

 公共インフラの整備は、外国人観光客を積極的に受け入れていくうえでも重要だ。民間の「やる気」ももちろん大事だが、行政が本腰を入れて誘致を行う必要がある。そういう意味でも、まだまだ大阪はポテンシャルがあるかもしれない。

 大阪の賑わいは、決して偶然の結果ではない。官民を挙げたさまざまな工夫が街の魅力を増し、外国人観光客を引き寄せたと見るべきだろう。まだまだ地域の魅力を発揮できていない日本各地は、大阪に学ぶことがありそうだ。