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2018-06-12

2019年の消費税増税は実行できるか 景気の力強さはまだ足りない

| 08:39

月刊エルネオス6月号(6月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 消費税率を現在の八%から一〇%に引き上げる消費税増税が予定通り二〇一九年十月から実施されるかどうかに、関心が集まり始めた。まだ一年以上先のことではあるが、民間企業の経理システムの変更など増税実施のための準備を考えれば、一年前には実施するかどうかを最終決定する必要がある。逆に言えば、再度、先送りするのならば、今年秋頃までに首相が決断しなければならない。

リーマンショック級の事態が起こらない限り引き上げていきたい」

 一七年秋に安倍晋三首相はこう発言し、よほどの事態が起こらない限り、消費税は引き上げるとした。だが、これは、大きな経済危機が起きれば、消費税率の引き上げ延期はあり得る、ということでもある。

 何が「リーマンショック級」かという定義も難しい。実際、一八年二月にはニューヨーク・ダウが一日で一千百七十五?も下落する「史上最大の下げ」が発生した。その後、回復したので「リーマンショック級」にはならずに済んだが、経済をどう判断するかは、首相裁量権があるとも言える。

 政府はここへきて、次々と「消費税対策」を打ち出している。

 消費税増税の前後では「駆け込み需要」とその反動の「買い控え」が起きる。四年前の五%から八%への引き上げ時は、住宅や自動車など高額商品だけでなく、ほとんどの消費でこれが起きた。特に高額な住宅などは消費税分だけでも多額になるため、購入を考えている人たちは増税前に一気に駆け込むという現象が起きた。

 当時、消費税増税を主導した財務省の幹部は安倍首相に、反動による消費減退は一年余りで収束すると説明していたが、なかなか消費は戻らず、低迷はそれ以降も続いてきた。

 来年、八%から一〇%に引き上げた場合、これと同じことが起きるとみられる。このため、政府はその影響をどう吸収するか、知恵を絞っている。

住宅や自動車に特別の減税策

 具体的には、どんな知恵が出ているか。まず、消費税増税後の住宅や自動車に買い控えが起きないよう、購入者に特別の減税策を実施するのが柱になりそうだ。内閣官房に省庁横断の作業部会を設置し、増税後の反動減対策の検討に入っている。六月に閣議決定される「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」に方向性を盛り込んだ上、具体的な制度は自民党税制調査会などで詰めることになる。

 さらに、「消費税還元セール」も解禁する方向だ。前回、一四年の消費税増税では、増税しても価格転嫁ができない力の弱い中小事業者がしわ寄せを食うことになるという批判が上がり、政府を挙げて消費税増税分を最終価格に上乗せするよう指導した。最終消費者に対してスーパーなどが消費税増税分を値引きする「消費税還元セール」という言葉を使うことも禁止した。そのためにわざわざ特別措置法を作った。消費税は最終消費者が払うものだという「原理原則」を徹底したわけだが、これが消費者の財布を直撃することになり、消費の落ち込みが決定的になったわけだ。

 来年の増税も二%で五兆円近い税収増を見込むが、従来通りならば家計から五兆円を召し上げることになり、消費者の財布の紐が一気に固くなることは間違いない。一方、企業はここ数年の法人税減税で業績が好転、内部留保を大きく増やすなど余裕が生まれている。「消費税還元セール」など企業努力で増税分を吸収させ、消費者のダメージを少しでも小さくしようというのが趣旨だ。

 それでも消費税増税が消費に深刻な影響を与えると考える人は少なくない。特にアベノミクスを推進する安倍首相の周囲に、増税を再延期すべきだと主張する人たちが少なからず存在する。

増税ラストチャンス

 安倍首相は早くから「経済好循環」を掲げ、企業収益が回復した分を賃上げなどによって従業員に還元するよう求めた。一八年の春闘でも「三%の賃上げ」を経済界に要請。五年連続のベースアップが実現するなど、一定の効果が出始めている。家計の所得が増えることで、それが消費に向かい「経済の好循環」が始まるという絵を描いてきたのだ。最低賃金の引き上げも毎年行っており、パートやアルバイトの時給も上昇。人手不足も加わって、賃金はようやく増え始めているとみられる。

 ただ一方で、円安などに伴う物価の上昇も起き始めており、実質賃金が増えたという感覚はまだまだ庶民の間に広がってはいない。このため消費はいまだに弱いままである。日本百貨店協会が毎月発表している全国百貨店売上高や、日本チェーンストア協会が発表するスーパーなどの売上高は、なかなか前年同月比プラスが定着しない。百貨店の場合、日本を訪れる外国人による「インバウンド消費」の効果が大きく、それを除外した実質国内売り上げは前年同月比マイナスが続いている。消費の現状は、一四年の増税前の状況に比べて力強さを欠いているのは明らかだ。

 もちろん、今後の消費の動向にも大きく左右される。二〇年の東京オリンピックパラリンピックに向けて、建設需要以外の「ソフト」分野への投資がこれから本格化する。そうなると企業収益は一段と増加、人手不足の深刻化とともに賃金の上昇も鮮明になっていく。逆に言えば、オリンピック直前の一九年秋に消費税増税ができなければ、いつまでたっても消費税増税など難しいということになってしまう、という見方もある。オリンピック後には程度の差こそあれ景気が減速するのは覚悟しなければならないという点は明らか。消費税増税するならば今回がラストチャンス、ということもできる。

 何のために消費税増税が必要なのか、というそもそも論もある。国債など「国の借金」が一千兆円を超え、国内総生産(GDP)の二〇〇%を突破、先進国で最悪の財政状態にあるのを立て直さなければならない、と財務省は主張する。高齢化による年金や医療費といった社会保障費の純増を賄うためにも消費税増税が必要だ、という主張も長年繰り返されてきた。

 だが、消費税を上げた結果、景気が悪化し、消費税以外の税収が大きく落ち込むようなことになれば、むしろ国の財政は悪化してしまう。果たして安倍首相は、予定どおり消費税を上げるのかどうか。ここ数カ月が正念場と言える。

2018-05-02

「高島屋一番店は大阪店」で知る「商都大阪」復活!? ひとり勝ちの大阪は外国人をガッチリつかむ

| 11:21

月刊エルネオス5月号(5月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 国内消費がいまひとつ盛り上がらない中で、ひとり大阪だけが元気だ。理由は大阪を訪れる外国人旅行者が落とすおカネをガッチリとつかんでいるから。今や大阪難波から心斎橋筋にかけて歩いている人の過半は外国人ではないかと思われるほど。立ち並ぶ商店も中国語や韓国語のポスターやチラシを用意し、外国語が話せる店員を置くなどインバウンド・マネーの獲得に工夫を凝らしている。まさに「商都大阪」復活の様相なのだ。

 これは統計にはっきりと表れている。日本百貨店協会が毎月発表する全国百貨店売上高。店舗数調整後の数字で「大阪地区」の売上高の増減を見ると、何と二〇一七年一月以降十四カ月連続で前年同月比プラスが続いている。全国平均はプラスになったりマイナスに沈んだりの一進一退で、一七年十二月以降は三カ月連続でマイナスになっている。それだけに、大阪の「ひとり勝ち」は際立っているのだ。

 郄島屋の二〇一八年二月期決算は象徴的だった。同社の百貨店店舗の中で「大阪店」の売り上げが一千四百十四億円と八・八%も増え、東京日本橋店の一千三百四十二億円を抜いて「一番店」に躍り出た。郄島屋はもともと大阪が本社だが、大阪店が「一番店」だったのは一九五一年が最後というから、何と六十六年ぶりの一番店返り咲きである。

 前期の郄島屋全体の年間売上高は九千四百九十五億円。このうち免税手続きをしたものの売り上げは四百八十七億円だったという。つまり、五・一%だ。同じ期間の全国百貨店の免税売上高は二千八百五十億円ほどで、全売上高の四・八%相当だから、郄島屋はそれをやや上回っていたことになる。

インバウンドで潤う大阪

 だが注目すべきは「大阪店」だ。大阪店の売上高一千四百十四億円に対して、同店の免税売上高は二百四十億円あまりだったという。何と全体の一七%である。実際には免税手続き対象外の商品も外国人観光客は購入しているとみられ、郄島屋大阪店の外国人客依存度は二割を大きく超すとみられる。まさに、外国人観光客様々なのだ。

 もちろん、外国人で潤っているのは郄島屋だけではない。道頓堀心斎橋筋の商店街、難波黒門市場など、外国人の人気スポットになっている。黒門市場はさながら、日本の味を楽しめるフードコートと化している。京都神戸の百貨店売上高がそれほど増えていないのを見ると、間違いなく、大阪が外国人を惹きつけているのだ。

 報道によると一七年に大阪府を訪れた訪日外国人客は一千百万人。日本政府観光局(JNTO)の推計では、日本全体での訪日外国人客は、二千八百六十九万人だったので、三人に一人が大阪を訪れた計算になる。その外国人が大阪で使ったおカネの総額は一兆一千七百三十一億円にのぼったというから、大阪経済の底上げに外国人は間違いなく大きく貢献している。

 なぜ大阪なのか。

 その理由のひとつはLCC(格安航空会社)便の増加である。関西国際空港にLCC専用のターミナルができたこともあり、LCC便の発着数が大幅に増えた。大阪ミナミ難波は、関空の玄関口である。難波駅から関西空港駅まで南海電鉄の特急で三十六分。百貨店などでは空港までの時刻表を配布するなどして、「出発までの空き時間をギリギリまで買い物ができる」点をアピールしている。銀聯カードやアリペイなどが使えるのは当たり前、当日の航空券を見せると割引になるサービスなどもあり、さすが大阪商人の心意気を感じさせる。街を挙げて観光客に買い物しやすい環境を提供しているのだ。

コスパの良さと官民の「やる気」

 大阪の「コスト・パフォーマンス」の高さも人気の秘密のようだ。特に、アジアからの観光客には、大阪流の「コスパの良さ」が受けている。大阪ミナミ周辺のビジネスホテルは東京に比べればまだまだ割安なところが多い。さらに、大阪の「色」も肩ひじ張らず、気軽に買い食いができるものが多い。まさに「食いだおれ」の大阪が、アジアの観光客にフィットしているのだ。

 商都大阪は、「価格勝負」が当たり前。観光客が値切っても決して嫌な顔など見せない。このあたりも東京の高級店とはひと味違う。

 大阪を訪れる観光客は、圧倒的にリピーターが増えているとみられている。有名な観光地は一度訪れるとなかなか同じ場所に行かないが、大阪には繰り返しやってくる。玄関口ということももちろんあるが、食事や買い物など「日本」を楽しむには格好の街なのだ。これは同じ関西でも、京都神戸とは大きく違うところだろう。

 商都復活の背景には、もうひとつ、政治の役割も大きいかもしれない。大阪維新の会大阪での改革を掲げた頃、大阪経済どん底だった。大阪の県民所得はかつて競っていた東京には大きく引き離され、名古屋横浜に追いつかれていた。少子高齢化も深刻で、閉塞感が満ちていた。そこで、経済再生を政策の柱として掲げたのである。

 府市統合による二重行政の解消や市営地下鉄の民営化、地下鉄新路線の検討など公共インフラのつくり直しを橋下徹知事・市長らは掲げてきた。関西空港伊丹空港の一体運営化なども実行に移した。そうした改革が、街に活気を与えていることも間違いない。

 公共インフラの整備は、外国人観光客を積極的に受け入れていくうえでも重要だ。民間の「やる気」ももちろん大事だが、行政が本腰を入れて誘致を行う必要がある。そういう意味でも、まだまだ大阪ポテンシャルがあるかもしれない。

 大阪の賑わいは、決して偶然の結果ではない。官民を挙げたさまざまな工夫が街の魅力を増し、外国人観光客を引き寄せたと見るべきだろう。まだまだ地域の魅力を発揮できていない日本各地は、大阪に学ぶことがありそうだ。

2018-04-12

なぜ政治家に「忖度」するのか 「内閣人事局」が問題なのではない

| 09:16

月刊エルネオス4月号(4月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 森友学園問題は、国有地売却に関わった財務省近畿財務局が、本省の指示によって決済文書を事後に改ざんしていた事が明らかになるという驚きの展開になった。財務省が認めたところによると14件の文書を300カ所にわたって書き換え、森友への国有地売却が「特例」であるという表現が削除されていたほか、安倍晋三首相の妻である昭恵氏の名前や政治家の名前が消されていた。

 なぜ、公文書を改ざんするという法律に触れかねない前代未聞の行為にまで財務省は組織的に踏み込んだのか。改ざん当時、理財局長だった佐川宣寿・前国税庁長官の国会答弁に合わせるために、佐川氏の指示で改ざんしたとされるが、佐川氏個人の犯行などという説明では国民の多くは納得しないだろう。

 そもそも、森友学園への売却は「特例」ではなく、適切に処理されていたと繰り返し国会で答弁した佐川氏は、なぜ、そんな嘘を国会で答弁せざるを得なかったのか。

 疑われるのは政治家の関与だ。よもや安倍首相自身が改ざんを指示したとは思えないが、内閣官房長官や首相官邸詰めの幹部官僚が関与していなかったか。焦点はそこにある。

 政治家が直接の指示を下さなくても、官邸の官僚たちが、首相にマイナスにならないよう理財局長に工作を指示したことはなかったのか。徹底した調査が必要だろう。

 少なくとも、佐川氏が状況を「忖度」して国会答弁をし、それに合わせて改ざんしたのは明らかだろう。だが、普通に考えて、官僚が自らの身の危険をおかしてまで、そんな事をするか。その後佐川氏は、理財局長から国税庁長官というトップに登り詰める処遇を受けており、外形的にみて、「忖度」には見返りがあったという事もできる。

 出世に目がくらんだ官僚が「忖度」して公文書の改ざんまで行った、ということなのか。

 霞が関の官僚からは安倍政権になってできた「内閣人事局」が問題だ、という声が上がっている。2014年に内閣官房の下に置かれた組織で、省庁の幹部600人の人事を一元的に行う。「省益あって国益なし」という省庁縦割りの仕組みを打破するために、内閣人事局が幹部の実質的な人事権を握ったのである。公務員制度改革の柱のひとつだったが、これには霞が関から猛烈な反発が起きた。

 内閣人事局長は官房副長官が就くことになっているが、初代の内閣人事局長は政治家の官房副長官である加藤勝信・衆議院議員(現・厚生労働大臣)が就任した。官房副長官には事務方のトップもいて、当初は事務の副長官が室長を兼ねるとみられていたが、最後の最後で安倍首相は政治家を任命した。政治主導で幹部人事を仕切る体制を明確にしたのだ。

 こうした人事の「官邸主導」が政治家への「忖度」を生んだというのが、内閣人事局批判の根幹である。

 確かに、内閣人事局ができて、官邸の顔色を伺う官僚が増えたのは事実だ。省の都合よりも内閣の意向を尊重するようになったのである。もともと官僚は人事権者には従順な人たちだ。人事権を握った政治家の指示には素直に従うようになった。

 内閣人事局ができる前はどうだったか。各省庁の事務のトップである事務次官が人事権者として絶対的な力を握っていた。大臣ですら人事権を振おうとすれば、大騒動になった。そうした例は過去に多くの例がある。

 省庁の人事を握る事務次官の権力は大きく、事務次官会議で了承したものしか閣議にかけることはできないという不文律までできていた。それが、戦後一貫して続いた官僚主導体制だったのだ。つまり、政策を政治主導で行うには人事権を内閣が握る必要があったのである。

 政治への「忖度」が起きるから内閣人事局を廃止せよというのは、官僚による、為にする議論だ。官僚は国民全体への奉仕者だから政治家からも独立していた方が良い、というのは詭弁である。忘れてならないのは、政治家は国民が選挙によって選ぶことができるが、官僚は国民が直接選ぶわけではない。その官僚の人事権を内閣が握るのは民主主義社会では当然のことだろう。

 だが、官僚が時の政権への「忖度」で、国民を欺く不法行為を行う事は断じて許されるべきではない。安倍内閣は自らの責任において、そうした公務員としてあるまじき行為を行った個人の責任を徹底的に追及すると同時に、組織ぐるみで不正を行った財務省を徹底的に糾弾すべきだろう。

 また、第2次安倍内閣以降、停滞している公務員制度改革に本腰を入れるべきだろう。

 そのうえで、そうした「忖度」の土壌を作った政治の責任は明確化すべきだ。国会で嘘の答弁を続け、国民を騙し続けた麻生太郎財務大臣の責任は免れないし、結果的には自分自身や妻への追及を回避することにつながってきた安倍首相の責任も問われる。

 そうした「忖度」が生じた最大の原因は、安倍内閣が長期政権になったことだ。官僚からすれば、今の政権が将来にわたって続くとみれば、「忖度」することが自分の保身に役立ち、将来の出世にも結び付く、と考えてしまうことになる。

 長期政権は安定をもたらし、外交や経済政策に一貫性を持たせるプラス面も大きい。だが、時間がたてば権力は澱むのが常だ。安倍首相は改ざん前の文書が国会に提出された段階で、「前の文書をみてもらえれば、私や妻の関与が無かったことがはっきりした」と開き直った。その答弁に権力者の奢りを感じた国民は少なくなかったのではないか。

 世論調査でも内閣支持率は大きく低下している。そんな折に、政権を託せる力を持つ野党がないのは不幸なことだ。安倍内閣を上回る明確な外交戦略や経済政策を掲げる野党はない。また、自民党内にも安倍首相を追い落とした後、安倍首相を上回る政策実行力を持っているように見える宰相候補がいないようにみえる。

 「官邸主導の政治」というここ20年にわたって続けてきた日本政治の体制改革がその真価を問われている。

2018-04-10

2018年は実感できる賃上げになるか 長期的人手不足で正社員採用も増加

| 18:20

月刊エルネオス3月号(3月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 安倍晋三首相は今年の春闘で、経済界に対して「三%の賃上げ」を求めている。企業業績の回復と人手不足もあって企業経営者の間にも賃上げ容認ムードは高まっており、五年連続のベースアップ(ベア)は確実な情勢だ。だが、一方では給与が増えているという実感に乏しい、という声も聞く。果たして二〇一八年は人々が実感できるだけの「賃上げ」が実現するかどうか。

 厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査の一七年分では、実質の「現金給与総額」が前年比〇・二%減少した。一六年は増加していたにもかかわらず、再びマイナスになったのだ。新聞各紙にも「二年ぶり減少」という見出しが躍った。賃上げしているはずなのに減少とは、いったいどうしたことか。

 ここで注意が必要なのは、この数字が「実質」であるということ。給与の増加分から物価の上昇分を差し引いている。一七年の場合、給与は〇・四%増えたのだが、消費者物価が〇・六%上昇したため、「実質」では〇・二%の減少となった。せっかく給与が増えても物価が上昇しては使用価値が増えないわけで、「実質」で見ることにも一理ある。

 これを受けて野党は、アベノミクスは失敗だと批判を強めている。民主党政権時代などデフレが続いていたため、給与が実質でプラスになる現象が起きた。給与が減っても、消費者物価がそれ以上に下落すれば、実質賃金はプラスになる。確かに、価格下落が進めば同じ一万円でも使用価値が高まるというのは事実だが、消費も生産もどんどん縮小していってしまう。デフレの怖いところだ。

パートタイムと一般労働者

 統計に戻ると、事業所規模五人以上を対象とした現金給与総額は、全産業の平均で月額三十一万六千九百七円。前述の通り〇・四%増えた。給与の「実額」としては一三年以降五年連続の増加である。

 もう一つ、注意が必要なのは、この数字には「パートタイム労働者」も含まれている点だ。正社員などの「一般労働者」分だけを見るとまた違った様子が見えてくる。パートの給与の総額は月九万八千三百五十三円と低い。フルタイムで働いているわけではないので当然といえば当然だ。しかも、働き手に占めるパートの割合は年々上昇している。〇八年に二六・一一%だったパート労働者の比率は一貫して上昇を続けて、一七年に三〇・七七%になった。パートが三割を超えているのだ。フルに働いていない給与総額の少ない人の割合が増えているわけだから、全体数字の足を引っ張ることになる。

 では、一般労働者分だけを見るとどうか。直近の底は〇九年の三十九万八千百一円。それが一三年以降、五年連続で増加し、一七年は四十一万四千一円になった。リーマンショック前の〇八年の四十一万四千四百四十九円にあと一歩に迫っているのである。これは中小企業も含めた金額だ。

 では、産業別に見た給与動向はどうだろうか。ここからは正社員など「一般労働者」と「パートタイム労働者」に分けて見ることにする。

 一般労働者で最も給与が高い産業は「電気・ガス業」。五十六万八千三百九円に達する。インフラを担う事業として安定的な収益を稼いできたことから、特に地方中核都市などでは人気職種になってきた。もっとも、電力やガスの小売り自由化が進んでいるほか、原子力発電所の稼働停止で電力会社の収益も悪化傾向にある。二〇一七年は前年比ではマイナス一・一%となった。

 次いで高かったのが、「金融業・保険業」で五十二万六千六百一円。伸び率も二・七%増と高かった。他の産業で給与増が目立ったのは、「建設業」と「卸売業・小売業」の一・〇%増、「医療・福祉」の〇・八%増、「製造業」の〇・六%増などとなった。

 パートを見ると、不思議な数字が表れる。人手不足が深刻化して給与が上昇しているはずの「卸売業・小売業」や「飲食サービス業等」でむしろ給与総額が前の年より減ったのだ。「卸売業・小売業」が九万五千三十三円と〇・四%減、「飲食サービス業等」が七万五千七百六十七円と〇・一%減ったのである。

 原因は、一人当たりの平均勤務時間が大きく減少していること。「卸売業・小売業」のパートの労働時間は一・九%減、「飲食サービス業等」では二・一%も減った。人手不足が深刻化して、深夜営業を取りやめたり、営業時間を見直すなど、パートの労働時間が減っていることが背景にありそうだ。また、パートを正社員化する動きも影響していると見ていいだろう。

非正規上回る正規雇用の伸び

 今後、「働き方改革」が進むとともに、業種別の賃金や労働時間も大きく変わってくるとみられる。残業代などの「所定外給与」の伸びが一七年で最も高かったのは、一般労働者では「建設業」の七・五%増、「運輸業・郵便業」の三・三%増など人手不足を残業で吸収していることが分かる。

 デフレ時代は人件費を抑制するために、多くの企業や店舗などの現場で、「非正規化」を進めた。正社員が退職した後を補充しなかったり、契約社員やパートなどに置き換えるケースが多かった。団塊の世代が大量退職して嘱託社員などの非正規雇用に就く人たちが多く存在したことも大きい。

 安倍内閣が掲げた女性活躍促進などもあり、パートで働く主婦層も大幅に増加した。前述のようにパート比率が上昇してきた背景には、こうした人たちの増加もあった。

 ここへきて猛烈な人手不足となったため、パートの人件費は急上昇している。一七年の給与額で見ても、一般労働者の給与が〇・四%の増加だったのに対して、パートは〇・七%増だった。最低賃金の引き上げもあり、パートの賃金は決して割安ではなくなっている上、長期的な人手不足を補うために、正社員を雇う動きが活発になっている。

 正社員の有効求人倍率が一倍を突破、被雇用者の伸びを見ても、正規雇用の伸びが非正規雇用の伸びを上回る状態が続いている。

 今後も給与の上昇が続くことになりそうだが、冒頭で見たように、「実質」でプラスになるかどうかは微妙だ。日本銀行は二%の物価上昇を目指して金融緩和を続けており、物価もじわじわと上昇しそうだ。物価上昇を上回る賃上げを企業が続けられるかどうかに、今後も関心が集まることになるだろう。

2018-02-05

訪日外国人2869万人で過去最多 消費4兆円が日本経済を下支え

| 09:19

月刊エルネオス2月号(2月1日発売)に掲載された原稿です。

http://www.elneos.co.jp/

 二〇一七年一年間に日本にやって来た「訪日外国人」が二千八百六十九万人と過去最多を更新した。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、一六年が二千四百三万人だったので、四百六十五万人、率にして一九%も増えた。尖閣諸島問題などで中国からの訪日客が減った一一年は六百二十一万人だったので、五年の間に二千二百万人以上増え、四倍になった計算だ。年間一千万人を目標にして、なかなかそれが達成できなかったのがウソのようだ。

 訪日外国人急増のきっかけはアベノミクスによる円高の是正だ。一ドル=八〇円以下から一気に一ドル=一一〇円台に円安となったことで、自国通貨がドルに連動している傾向が強いアジア諸国からみると、日本円に対して通貨高になった。つまり、日本旅行が一気に割安になったのだ。

 二〇一三年以降、中国人観光客が大挙して押し寄せ、高級ブランド品などを買い漁った「爆買い」現象が起きたのも、こうした為替の効果が大きかった。

 もちろん、他に政府が何もしなかったわけではない。日本に入国するビザの要件を大幅に緩和したほか、消費税が免税になる「免税品」の最低金額を引き下げるなど、促進策を打った。化粧品や食料品を免税対象に加えたことで、それまでの高級ブランド品や家電製品などから日本製の化粧品などへ「爆買い」対象が広がった。

 一七年の訪日客を国・地域別に見ると、最も多かったのは中国から。七百三十五万人が日本を訪れた。一一年の百四万人と比べると隔世の感がある。

 二位は韓国で七百十四万人。前年より二百万人も増えた。地理的に近いこともあって、九州地域への短期旅行者などが目立つ。韓国は一三年まではトップで、一四年には台湾に抜かれたほか、一五年以降は三年連続で中国に首位を譲った。

中国人は一人二十三万円消費

 日中関係、日韓関係ともに、政治的には冷え込んでいる。特に韓国との関係は竹島の領有権をめぐる問題に加え、「最終的不可逆的」に解決したはずの従軍慰安婦問題が再び蒸し返されるなど、「氷河期」とさえ言われる状況に直面している。

 ところが、韓国からの訪日客は昨年四〇%も増えており、韓国から日本に気軽に買い物に来るなど観光ブームに火が付いている。逆に日本の若者の間でも韓国での買い物などが人気で、人の往来は急速に増えている。韓国からの訪日客がこのペースで増えると、中国の伸び次第では再び韓国が首位に躍進することもありそうだ。

 こうした訪日外国人の増加は日本経済にとって大きなプラスになっている。観光庁が発表した一七年の訪日外国人消費動向調査によると、年間の訪日外国人旅行消費額は四兆四千百六十一億円と前の年に比べて一八%増え、過去最高を記録した。日本国内の消費がいまひとつ勢いがない中で、大きな下支え要因になっている。

 外国人旅行者一人当たりの消費額は十五万二千百十九円。三七%に当たる五万七千百五十四円が買い物代に使われたほか、宿泊代に四万三千三百九十七円(二八%)、飲食費に三万八百六十九円(二〇%)、交通費に一万六千九百七十四円(一一%)が充てられた。娯楽サービス費は五千十四円(三%)だった。

 最も一人当たりの旅行費用を使ったのが中国で、二十三万三百八十二円。そのうち買い物代が十一万九千三百十九円を占めた。二位はオーストラリアの二十二万五千八百六十六円だったが、買い物代は二割以下で、飲食費(五万七十円)や娯楽サービス費(一万四千九十四円)に多くを割いていた。北海道のスキーリゾートなどで比較的長期のバケーションを楽しんでいる様子が浮かび上がった。

 三番目に多かったのは英国の二十一万五千三百九十三円。宿泊に九万七千三百三円を使い、飲食費も五万千二百八十九円と、国・地域別で最も宿泊費・飲食費を使った。

 一人当たり総額で二十万円以上を使ったのは、中国、オーストラリア、英国のほか、スペインとフランスも二十万円を超えた。

娯楽サービス費の増加努力を

 買い物代に最も使ったのは前述の通り中国の十一万九千三百十九円だが、これにベトナム(七万二千三百三円)、ロシア(六万五百十三円)が続く。実は全体の平均(五万七千百五十四円)を超えたのはこの三カ国だけで、他の十七カ国は平均以下となった。いかに中国が平均を引き上げているかが分かる。

 ちなみに、四兆四千億円の消費額のうち八千七百七十七億円が中国観光客の買い物によって支えられている。これに台湾(二千百八十四億円)、韓国(一千三百九十四億円)、香港(一千二百二十八億円)を加えると、買い物総額一兆六千三百九十八億円の八二%を占める。アジアの買い物パワーが日本経済を支えていることを如実に示している。

 平均滞在日数を見ると、全体の平均は九・一日だが、欧米系は二週間前後が多い。ベトナムが三十五・二日で最長で、これにインドが二十三・一日で続くが、これは実際はビジネス目的で入国しているなど、純粋な観光とは言えない可能性が大きい。フランスの十五・七日、オーストラリアの十三・二日など長期滞在も目立つようになった。

 一方、最も短いのは韓国の四・三日で、地の利を生かした短期の買い物などが多いとみられる。

 日本政府東京オリンピックパラリンピックが開かれる二〇二〇年には訪日外国人客を四千万人とし、外国人観光客消費を八兆円にする目標を掲げている。四千万人の目標達成は、だいぶ視野に入ってきたと見てよさそうだ。

 一方で、八兆円を実現するには、単純計算で一人当たり二十万円を使ってもらわなければならない。今よりも五万円く多く使ってもらう必要があるのだ。そのためにはアジアからの訪日客により長期の滞在をしてもらい、宿泊費や飲食費におカネを使ってもらうことが重要だ。さらにまだまだ少ない「娯楽・サービス費」を増やしていく努力が不可欠だ。体験型のイベントや観劇、スポーツなど、いわゆる「コト消費」をどれだけ増やせるかがカギを握ることになりそうだ。