Hatena::ブログ(Diary)

磯山友幸のブログ RSSフィード

2017-05-02

東芝の債務は本当に「1兆円」で終わるのか

| 10:27

プレジデントオンラインに5月1日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://president.jp/articles/-/21944

「経営陣の数字はもう信じられない」

東芝は3月29日、米国原子力子会社であるウェスチングハウス(WH)の米国連邦破産法11条(チャプターイレブン)をニューヨーク州連邦破産裁判所に申し立てた。同日の東芝の発表によると、裁判所による再生手続きの開始によって、東芝の「実質的な支配から外れるため、2016年度通期決算より当社の連結対象から外れることになります」としている(※1)。一方で、東芝がWHに対して行っている「親会社保証」を完全実施した場合の貸し倒れ引当金などを見積もった結果、通期決算の最終損益は1兆100億円の赤字になる「可能性がある」とした。もちろん日本の事業会社として前例のない過去最大の赤字である。

昨年末にWHに巨額の損失が発生していることが明らかになって以降、綱川智社長は「米国原子力事業のリスクを遮断する」と強調してきた。決算期末ギリギリに破産法11条の申請に持ち込んだのも、これによってWHを連結決算から外せば、東芝が泥沼に引きずり込まれる事態が回避できると考えたからだろう。東芝の社内に対しても、「1兆円はあくまで最悪の数字で、WHの再建策がうまくいけば、損失は小さくなる」と説明しているようだ。

果たしてそれは本当なのだろうか。中堅幹部の間にも疑心暗鬼が広がっている。というのも、2015年末に、コスト負担を巡ってWHと紛争になっていた原発建設会社S&W(ストーン&ウェブスター)をWHが買収した時にも、原子力部門の社員たちは「買収によって損失が小さくなる」という説明を受けていた、という。ところが1年たった16年12月に「数千億円規模」の損失が発生することが表面化。17年2月14日に会社が公表した損失額は7125億円という巨額にのぼった。

しかも、この損失は「原子力事業ののれん減損」が理由だった。東芝の経営陣は16年2月に「新生東芝アクションプランの進捗について」という発表をした際にも、「減損の兆候なし」として損失計上は不要という姿勢をとっていた。マスコミがWHは減損が不可欠ではないかと報じていたタイミングでのことだ。

ところがそれから2カ月後の16年4月になると、東芝の経営陣は一転して「無形固定資産の価値が増大した結果、相対的にのれんが減少する」という一般のビジネスマンでは理解不能な理屈を付けて、2600億円の減損損失を16年度の決算に計上する予定だとした。それから8カ月余りで7125億円に損失額が膨らんだのだ。「もう経営陣の言う数字は信じられない」と中堅幹部は吐き捨てる。

原発4基」の契約でリスク遮断は不透明

焦点は、WHの破産法11条申請で、本当に「リスクを遮断した」と言い切れるのかどうか。東芝自身も発表資料で、「16年度業績への影響については現時点ではまだ影響額を確定できておりません」としている。

現在、明らかになっているのが、東芝のWHへの「債務保証」の存在。昨年6月に公表した東芝有価証券報告書によると7934億円に達する。29日の発表では2月末時点の親会社保証は6500億円規模としており、これに東芝のWHへの債権が1756億円あるとしている。これを全額引き当てた場合の当期最終損益ベースでの追加悪化は6200億円になり、2月14日時点で3900億円の赤字だった最終損益が1兆100億円になるとしているわけだ。

さらに、WHが米国で受注している原発4基を完成させられなかった場合の「損害賠償」についても親会社として負担する契約になっていることを明らかにしていた。WHの再生手続きを進める中で、発注元の電力会社とWHの間で建設コストを巡る負担割合がどうなるのか、その際に東芝の賠償分はいくらになるのか、なかなか簡単には合意できないのではないかと思われる。そうなった場合、東芝はいつまでたっても「リスクを遮断」することができなくなる。

もうひとつ懸念されるのが東芝の資金繰りだ。「のれん減損」というと、通常は買収した価格と実際の価値の差額を損失処理するという意味で、新たな資金負担が生じないケースをイメージしがちだ。だが、WHの場合、原発建設費の追加負担など実際に資金が必要になるものが多いとみられる。WHの借金に対する親会社保証にしても、履行すればWHに代わって返済する資金が必要になる。通常の長期借入金の約定返済も毎年2000億円以上ある。

東芝は3月30日に臨時株主総会を開いてメモリ事業の会社分割を決めた。「稼ぎ頭」とされる半導体事業を切り離して、株式の過半を国内外の企業に売却する予定だ。金額は1兆円を超すとも言われる。要は巨額の損失が出る分を事業売却の利益で穴埋めしようというわけだ。WHの損失で3月期末に債務超過になっても決算発表を行う5月以降に売却が決まっていれば債務超過解消にメドが付く。一応、バランスシートの辻褄は合うということなのだろう。

「辻褄合わせ」で社員すら欺く経営陣

この本決算を乗り切っても、東芝が抱える問題が無くなるわけではない。「時限爆弾」とも言えるのが、米国液化天然ガスLNG)を巡る長期契約だ。米国で「液化役務提供会社の天然ガスの液化能力及びパイプライン会社のパイプラインを、2019年から20年間にわたり一定規模利用する」契約を結んでいることが有価証券報告書に記されている。つまり、20年間にわたってLNGを引き取る契約になっているわけだ。どうやら米国でWHが4基の原発を受注する際の見返りとしてこの契約を結んだとみられている。

有価証券報告書の2021年度以降の偶発債務には9249億円という数字が書かれていて、「大部分の契約債務については見合いの販売契約を締結してまいります」とある(※2)。つまり、販売先は昨年段階でまだ決まっていないのだ。有価証券報告書の別の場所にも、「全量について、需要家との間で、主として長期の取引契約を締結する予定ですが、原油価格等の動向次第では(中略)損失が発生する可能性があります」となっている。電力会社やガス会社に損失が出ない価格で引き取ってもらえなければ、大損することになる。このリスクも何とか「遮断」しなければ、東芝再生の重い足かせになる。

1年前、東芝は期末ギリギリで、将来を担う「虎の子」だった医療機器事業をキヤノンに売却、債務超過を回避した。決算書の「辻褄合わせ」に成功したわけだ。ところが今度は、当時は不要だと言っていたはずの原子力事業の減損を迫られて巨額の損失を計上することになった。残る「虎の子」の半導体事業を売却することで、今回も決算書の「辻褄」は何とか合わせるのだろうか。

本当に1兆円の損で収まったとしても、目だった稼ぎ頭がなくなった「新生東芝」の前途は多難だ。何よりも、辻褄合わせの過程で欺き続けた投資家や社員の信頼を取り戻すのは容易ではないだろう。


注1:当社海外連結子会社ウェスチングハウス社等の再生手続の申立について(2017年3月29日)

http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20170329_1.pdf

注2:2015年度-第177期(2016年3月期)有価証券報告書

https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/library/sr/sr2015/tsr2015.pdf

2017-04-27

「上場すべきでない会社」が上場したままでいいのか

| 11:01

プレジデントオンラインに2月16日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://president.jp/articles/-/21309

確信犯の「上場ゴール」暴利を貪る経営陣

上場ゴール」という言葉をご存じだろうか。株式を取引所に上場(公開)するのは、そこで広く投資家から資金を集めて企業をさらに成長させるためだ。ところが、上場前から株式を保有する経営陣たちが、上場によって保有株の価値を大化けさせ、一攫千金を狙うことだけが最終目的となっているような株式上場を指す。投資家からすれば、高値で株をつかまされるので、まるで詐欺にでもあったような甚大な被害をもたらす。

そうした「上場ゴール」まがいの株式公開は、株式相場に人々の関心が向いている時に現れることが多い。2016年の日本の株式相場は、ドナルド・トランプ氏の米大統領選での勝利をきっかけに大きく買われ、12月には1万9000円台に乗せ、年初来高値を更新した。現在も株式相場への関心は高い。

上場時の売り出しや公募増資など、一般の投資家が上場直前に購入した価格を、上場初値が下回ったり、上場初値では上回っても、その後大きく値下がったりすれば、投資家は損失を被る。とくに、公開前に示していた業績見通しを上場後に下方修正するような例は、意図していたかどうかにかかわらず、投資家を欺く行為だ。実態以上に数字を良く見せるのは明らかな「粉飾」である。

9月2日に東京証券取引所のマザーズに上場したベイカレント・コンサルティングは、12月9日になって17年2月期の業績予想を大幅に修正した。税引き前利益を従来予想の39億1500万円から20億8300万円に下方修正したのだ。前期実績は25億8200万円なので、51%増益から一転して19.4%減益へと方向性が大きく変わったわけだ。上場からわずか3カ月のことである。しかも、業績悪化の責任を取るとして、萩平和巳社長は辞任してしまった(※1)。上場時の情報開示に大きな問題があったのは明らかだが、責任のすべては前社長にあると言うのだろうか。ベイカレントの公開価格は2100円だったが、上場初日の1999円を高値に下げ続けた。下方修正後はストップ安が続き、12月22日には808円の上場来安値を付けている。

企業の株式公開には、当然専門家が関与する。業績見通しなどについてもこうしたプロたちのチェックを通って公開されている。ベイカレントの場合、主幹事証券は野村証券、担当の監査法人はトーマツである。どちらも業界大手だ。証券会社も監査法人も、本来は資本市場と投資家を守るのが一義的な役割のはずだ。公開させる企業は手数料をくれる顧客には違いないが、公開企業は資本市場を使うことで資金調達という大きな利益を得る。証券会社も監査法人も投資家が信用する資本市場を維持してこそ商売が成り立つのだ。それが、どうも目先の利益、つまり手数料を払ってくれる企業を優先しているようにみえる。

「次から次へと問題が起こる。もう少し主幹事証券がしっかりしてくれないと困る」と東京証券取引所の幹部は言う。投資家が損をする公開が増えれば、投資家の文句は東証に殺到する。「このところ、かなり審査を厳しくしているが、なかなかダメとは言えない悩ましいケースが多い」という。

売り上げの多くが業務契約だけで、本当にそれが実現するのか不透明だったり、買収を繰り返して「営業権(のれん代)」が膨大に積み重なっていたりする会社の評価となると、監査法人でも頭を悩ますという。企業価値が本当にあるのか測りきれないというのだ。上場の審査を厳しくすれば、新規上場企業数は増えない。

誰も責任を取らない「東芝問題」の行方

実際、16年に東証や名古屋証券取引所に新規公開した企業は87社前後と、15年の98社に比べて減少した。11年の37社から、12年48社、13年58社、14年80社と増え続けてきたものが一服する。東証関係者によると、上場審査を慎重にしたことが影響しているという。

f:id:isoyant:20170425153823j:image:right

新規上場数が増えれば、主幹事証券監査法人も、上場する東証自身も儲かることになる。逆に、数を絞れば、そうした企業の収益増にブレーキがかかる。ついつい新規上場ありき、になってしまう傾向があるわけだ。そこを「上場ゴール」の経営者たちに見透かされるのである。

しかし、投資家に損をさせるような問題企業ばかりが上場してくることになれば、株式市場全体の信用がぐらついてくる。あそこのマーケットは腐ったリンゴばかり置いているとなれば、誰もマーケットにはやってこなくなる。つまり、信用を守ることが取引所にとっては生命線になるのだ。

では、どうやって取引所はその信用を守るべきか。もちろん、事前の審査を厳しくして、「腐ったリンゴ」が市場に紛れ込むことを防ぐ必要がある。だが、それだけでは難しい。「腐ったリンゴ」を市場から排除し、それを持ち込んだ業者を厳しく罰することも不可欠だ。「これは美味しいリンゴです」と投資家を偽って腐ったリンゴを買わせた経営者はさらに厳罰に処さなければ、市場の信用は守れない。「腐ったリンゴ」を排除するのは、上場廃止であり、業者の処分は課徴金や上場賦課金であり、経営者の処分は刑事告発だ。

その機能が問われているのが東芝不正会計問題である。

東芝を監査していた新日本監査法人は15年末に課徴金を課されるなど処分を受けた。ところが、驚いたことに経営者は罪に問われなさそうな気配だ。

東芝不正会計問題について、証券取引等監視委員会(SESC)は「粉飾」だと認定、西田厚聰・元会長や佐々木則夫・元副会長、田中久雄・元社長らの責任は明らかだとして、東京地検特捜部に刑事告発するよう求めた。ところが、東京地検は立件は難しいという姿勢を崩していないのだ。3期9年にわたってSESCの委員長を務めた佐渡賢一氏は告発に執念を燃やしていたが、12月12日に退任し、「幕引き」になるとみられている。つまり、2000億円を超える巨額の利益かさ上げが行われたにもかかわらず、経営者の責任が不問に付されそうなのだ。

経営者個人の問題ではないとするならば、巨額の利益かさ上げは「組織ぐるみ」ということになる。企業風土が変わらないならば「腐ったリンゴ」を市場から排除しなければならない。つまり上場廃止である。

東証は15年9月、東芝を「特設注意市場銘柄」に指定した。1年たって内部管理体制が改善したと認められれば、解除されるはずだったが、東証の自主規制法人は、指定延長を決め、17年3月までに改善されるかどうかを判断することにした。最終結論は7月までに出る見通しだ(※2)。

東芝は二度と粉飾の起きない体制ができあがったとして「内部管理体制確認書」を提出したが、自主規制法人の理事たちの理解を得ることはできなかった。

関係者のひとりは、「どうせ日本を代表する企業であるわれわれを上場廃止になんぞできないだろう、という不遜な態度を痛感する」と語る。

実際、東証が東芝上場廃止にするのは至難の業だ。上場廃止になればまっ先に損失を被るのは株主だからだ。経営者の問題をなぜ株主が負うのか、というわけだ。だが、1年半たっても社風が変わらないとすれば、株主が経営者にかけるプレッシャーが弱いためだと考えることもできる。

果たして東証がどんな判断をするのか。老舗企業を守るために、株式市場の信用を擲つのか。東芝への対応はまさに試金石である。


注1:辞任した萩平和巳前社長は、日刊工業新聞の記事(16年10月19日付)で、将来目標について「2020年には、総合コンサルティングファームとして国内トップになりたい」と答えていた。

注2:東京証券取引所「特設注意市場銘柄の指定継続:(株)東芝」(2016年12月19日)

http://www.jpx.co.jp/news/1021/20161219-14.html

2017-02-27

東芝「社外取締役」大物ぞろいも罠見抜けず…行く手に待つのは“原発アリ地獄”

| 11:21

AERA 2017年2月27日号に掲載された原稿です。→https://dot.asahi.com/aera/2017022000086.html?page=1

AERA(アエラ) 2017年 2/27 号 [雑誌]

AERA(アエラ) 2017年 2/27 号 [雑誌]

“虎の子”売却でも出血が止まらない東芝。米企業を買収して大やけどを負ったのだが、この悲運、どうも偶然ではなさそうだ。なぜ見抜けなかったのか。

東芝は完璧にハメられたね」と外資系ファンドのトップは言う。昨年末になって突然公表した「数千億円規模」の米原子力事業での損失。2月14日、その額が7125億円に達するという見通しを発表した。

 ところが、その日発表予定だった2016年4〜12月期の連結決算は最大1カ月延期。最終赤字4999億円、12月末の株主資本1912億円の債務超過という決算数値も一応は公表したが、「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したもの」とし、さらに下方修正する可能性があることを示唆した。損失が確定できず、決算ができない異例の事態なのだ。

 巨額損失の原因は原発建設・サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)。米国の規制強化などで原発建設のコストが膨らむ中、電力会社やS&W、東芝原発子会社ウェスチングハウス(WH)の間で費用をなすりつけ合う事態になっていた。そんな中、WHがS&Wを買収。それからわずか1年で巨額損失が表面化し、東芝が抱え込む羽目に陥った。

●「体制一新」を示した

 東芝がWHによるS&Wの買収方針を発表したのは15年10月28日。その直前に取締役会で承認されたようだ。当時の東芝不正会計問題に揺れ、歴代3社長らが引責辞任。9月末の臨時株主総会で新経営体制が発足したばかりで、取締役11人中7人を社外取締役にして、「体制一新」を示そうとしていた頃だ。昨年6月の綱川智社長体制でも6人の社外取締役がいるが、いずれも15年9月末に就任した人たち。それも大物ぞろいである。

 まず経営者が3人。小林喜光氏は三菱ケミカルホールディングス会長で経済同友会の代表幹事を務める。もう一人は前田新造氏。資生堂の社長、会長を務めて今も相談役。池田弘一氏はアサヒビール(現・アサヒグループホールディングス)の社長、会長を務めて今も相談役だ。

 加えて弁護士1人と公認会計士が2人。古田佑紀氏は検察官出身で05年から12年まで最高裁判事を務めた。会計士の佐藤良二氏は監査法人トーマツでCEO(包括代表)を務めた人物。野田晃子氏は中央青山監査法人の代表社員だった会計士で、証券取引等監視委員会の委員も務めた。いずれも名だたる経営者、専門家たちである。

 そんな大物たちはS&Wについて、一体どんな説明を受け、何を質し、WHによる買収を承認したのか。その年の12月に買収を完了するが、巨額の損失が発生する可能性をまったく考えずに承認していたのか。

 1年後の16年12月に巨額損失の可能性を知らされると、取締役会は大騒ぎになったという。社長の綱川氏ですら12月中旬に初めて報告を受けたようだ。

 WHがS&Wを買収しなければ、原発建設の遅れに伴うコスト増は発注電力側の負担になっていた、という指摘も東芝社内にある。つまり、巨額損失を抱えたS&WをわざわざWHが買収する理由とは何だったのか。

●「親会社保証」という罠

 問題が東芝にとって深刻なのは、WHが抱えることになった巨額損失を、いつの間にか東芝が背負う事態となったことだ。WHを切り離して“損切り”することができないのである。

 14日の発表資料の中にWHに対する「親会社保証」という資料がある。16年3月末の「偶発債務及び保証類似行為」が7934億円とあり、米原発工事に関わる「客先に対する支払保証が90%弱」を占めるとする。さらに「支払保証の概要」として「(WHの)客先への支払義務(プロジェクトを完工できなかった場合の損害賠償請求を含む)を履行できなかった場合」、東芝がWHの「親会社として、客先にこれを支払うことが要求されている」とある。

 本来は東芝を立て直すために社外取締役になったはずの経営の専門家たちは、結果的に東芝を“アリ地獄”にハメる役割を担ってしまったことになる。

2017-02-14

三流経営が掘った墓穴 東芝“虎の子”放出で始まったカウントダウン

| 14:59

AERA 2017年2月13日号に掲載された原稿です。→https://dot.asahi.com/aera/2017020600056.html?page=1

AERA(アエラ) 2017年 2/13 号 [雑誌]

AERA(アエラ) 2017年 2/13 号 [雑誌]

 巨額損失発覚で破綻目前の東芝が“虎の子事業”を分社化する。残るは原発事業の片輪走行だが、損失爆弾はその片輪の中。いよいよ秒読みが始まった。

東芝は一流の技術を持っていますが、経営者がダメだと会社はこうなってしまうんだということを痛感しました」

 東芝の若手技術者はこう言ってため息をついた。

 医療関連、家電製品と部門が売却されて仲間が減ったうえに、ひとり、またひとりと会社を去っていく。将来性のある優秀な人材から見切りをつけて転職しているのだ。人が減った分、仕事はどんどんキツくなる。将来不安もあって精神を病む同僚も目立ってきた。

●「実質的に銀行管理」

「今も東芝を愛している」というこの若手技術者も、ついに転職することを決めた。技術だけでは会社がもたないことが分かり、経営の経験を積んで技術が分かる経営者になりたいという。

「昨年の段階から東芝は実質的には銀行管理状態だよ」

 そう外資系ファンドの幹部は言う。東芝は昨年3月末、東芝メディカルをキヤノンに売却することを慌ただしく決めたが、それも銀行の東芝に対する貸付金を「破綻懸念先債権」など不良債権化しないための「便法」だったというのだ。

 実際、本当に売却手続きが完了したのは昨年末になってからだったが、何としても東芝の3月末のバランスシートを見かけ上、債務超過にしたくなかったというのである。粉飾決算で傾いたはずの会社が、決算書づくりのために事業の切り売りを迫られる。何とも皮肉な展開だ。

 だが、東芝の“再建策”に、「自社の社員を守るなんて発想はないね」とこのファンド幹部は突き放す。実際、中国の美的集団に売却された家電部門の中堅幹部は「昨年末のボーナスが信じられないほど減った」と嘆く。

 過去の粉飾決算のツケを払うだけでも大変だが、昨年末に新たな問題が加わった。東芝子会社であるウェスチングハウス(WH)が買収した原発建設会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスターで「数千億円規模」の損失が発生することが明らかになったのである。原発工事の原価見込みが甘く、工事が進むほど、損失として現金が出ていく。まさに「泣きっ面に蜂」だ。

●東日本大震災で一変

 東芝は急遽、半導体部門の分社化を打ち出したが、結局これも1年前の決算書づくりと同じ「便法」である。またしても稼ぐ力のある「虎の子」を切り離せば、残った東芝はますます自立できなくなる。政府系金融機関や政府系ファンドによる出資の声が出ているのは、要は最終的に「国民負担」で処理する、ということに他ならない。

「実は東芝はあの時つぶれていたんです」──。粉飾決算が表面化する前、経済産業省の幹部が言っていた。もう時効だと思ったのだろう。

 あの時とは2009年春のことだ。リーマン・ショックの影響で国内企業が苦境に立たされた。その最も深刻な例が東芝だった。当然、経産省が先頭に立ち、他の省庁や銀行も協力して東芝をひとまず危機から救った。

 ところがそこに11年、東日本大震災が起きる。原発ビジネスを巡る環境が一変。買収して抱えていたWHの資産価値が目減りした。ところが経営陣は巨額の損失計上を避けるために、イケイケドンドンの事業計画を掲げ続け、粉飾がまかり通るようになった。

 東芝原子力だけを残しても、「国は助けてくれるに違いない」というのが東芝の経営者や銀行の考えなのだろう。だが、過去の失敗を繰り返したくない経産省は救う気がないようにも見える。原子力技術を日本に残すことは必要でも、東芝という企業体を残すことと同義ではない。

「WHを引き取るところなんて、どこもないだろう」と経産省の大物OBも言う。東芝原子力事業と、日立製作所と三菱重工業が持つ原子力事業と統合する案もささやかれるが、損失額の確定すらできないWHがもれなくついてくるのでは、日立も三菱もおいそれとは首を縦に振れない、というわけだ。

 何らかの「便法」でとりあえずこの3月末の決算を乗り切ったとしても、東芝がこの断末魔から抜け出すのは難しい。WHの引き取り手が出てこなければ、いよいよ秒読みが終わりに近づく。

2016-02-06

なぜ公務員の給与が増え続けているのか

| 08:02

アベノミクスの成果を給与引き上げを通じて広く国民にもたらし、経済の好循環につなげるというのが安倍晋三首相のかねてからの主張です。その恩恵を真っ先に受けるのが国家公務員というのでは、国民はやっていられません。プレジデントの2月1日号に書いた原稿です。オリジナル→http://president.jp/articles/-/17165

■厳しい財政赤字でもバラマキは止まらず

 国家公務員の給与とボーナスが2年連続で引き上げられた。安倍晋三内閣は12月4日に、2015年度の国家公務員の月給を0.36%、年間の期末・勤勉手当(ボーナス)を0.1カ月分それぞれ引き上げることを閣議決定したのだ。年収にすると0.9%の増になる。4月に遡って支給されるため、1月に調整額として支払われることになる。まさに安倍首相からの“お年玉”だ。

 月給とボーナスが2年連続で引き上げられるのは24年ぶりという。1991年度以来だから、まさにバブル期以来ということだ。この2年間での引き上げは10%を超えている。安倍首相はアベノミクスの効果が給与の増加に結び付く「経済好循環」を掲げている(※1)が、真っ先にその恩恵を受けているのが公務員なのだ。

 この2年間で最も大きかったのは、東日本大震災による減額措置をすっかり白紙に戻したこと。東日本大震災の復興財源を確保するために、所得税などに上乗せする復興特別税を創設、国家公務員も「身を切る」姿勢を示すために、給与が平均7.8%、賞与も約10%減額された。12年度と13年度の話だ。

 それを安倍内閣は14年4月、元に戻したのである。7.8%減を元の水準に戻したので、給与は前年度比で8.4%増加。ボーナスも10%減が元に戻ったので11%以上増えた。さらに人事院が勧告した月給の0.27%アップと、賞与の0.15カ月分引き上げも実施したため、人によっては2割近くも年収が増えたのである。


 14年4月といえば、消費税率が5%から8%に増えたタイミングである。国民に負担を求めながら、一方で公務員に大盤振る舞いしたのには唖然としたが、メディアはあまり報道せず、批判の声は盛り上がらなかった。ちなみに7.8%の削減で浮く財源は3000億円。復興特別税での所得税上乗せ分も約3000億円である。復興税の方は2037年まで25年間も永遠と続く。

 国家公務員給与の総額は財務省が公表している15年度当初予算ベースで3兆7975億円。これが0.9%増えるから3兆8300億円程度になる模様だ。一律削減で大きく減った13年度は3兆5018億円(当初予算ベース)だったから3300億円近く増えている。

 財務省は国債の発行残高など「国の借金」が1000兆円を突破した、このままでは財政破綻しかねない、と国民に危機感を煽っている。財政破綻を避けるには消費税を引き上げる他ないというのだが、その一方で、自らの給与は着々と引き上げているのである。単年度赤字を出し続けている会社が、給与やボーナスを大幅に増やすなどということは、民間の常識では考えられない。なぜこんな理不尽が許されるのか。

 国家公務員の給与やボーナスは、「民間並み」になるよう人事院が「引き上げ」や「引き下げ」を勧告。それに従って内閣が決定する仕組みになっている。あくまで「民間並み」が原則なのだ。15年度の改訂でも、民間給与が41万465円なのに、国家公務員の給与は40万8996円である、として格差を解消するように求めた。だが、実態は違う。勧告の計算の対象から国家公務員の管理職以上を外し、平均額が低く見えるような仕組みにしているのだ。50歳を超える公務員になると、給与は民間よりも高いのだ。

 人事院が資料に示す「モデルケース」でも、35歳の本省の課長補佐の年収は741万円、45歳の本省の課長は約1195万円、局長になれば1729万円に跳ね上がる。

■公務員が人気職種に迫る「ギリシャ化」

 しばしば公務員の給与は安いと言われる。確かに「現場」のヒラ公務員の給与は30歳で376万円である。ところが、ポストをよじ登るにつれ、給与が大きく増えていくのだ。

 民間企業では、係長や課長といった「中間管理職」が廃止されたり、ポストが大幅に減らされて久しい。役所はいまだに階級社会。しかもよほどのヘマをしない限り、入省年次に従って同期と共に昇進していく。それに連れて給与も増えるのだ。

 なぜ安倍首相はそんな大盤振る舞いが可能なのか。

 背景には好調な税収がある。15年度の一般会計税収は56兆円台と当初見込んでいた54兆5250億円から2兆円近く増える見通しだという。1991年度の59兆8000億円以来24年ぶりの高水準だ。アベノミクスによる円安で企業収益が大幅に改善、法人税収が増えたことが大きい。さらに株価の上昇による所得税の増加もある。デフレのどん底だった09年度の税収(38兆7000億円)に比べると18兆円近くも増えたのだ。

 まさにバブル期以来の税収好調を背景に、バブル期以来の2期連続の給与・ボーナス引き上げを行ったわけだ。要はバラマキである。

 安倍首相が公務員に甘い顔を見せるのは、過去のトラウマがあるとされる。第1次安倍内閣では公務員制度改革に斬り込み、霞が関を敵に回したことから、短命政権になったと安倍首相は信じているのだという(※2)。民主党政権が実現した給与削減の特例法を廃止したうえ、さらに上乗せの改訂を続けている。長期政権を実現するには、霞が関は敵に回さないに限るというわけだ。

 政府の中には、公務員の給与引き上げは、アベノミクスが目指す「経済好循環」に役立つという“解説”もある。いくら財界人に安倍首相が働きかけても、民間給与の引き上げは簡単にはできない。まして地方の中小企業の給与は上がる気配に乏しい。だが、政府が国家公務員の給与を引き上げれば、それにつれて地方公務員の給与も上がる。人事院勧告に連動して地方の人事委員会が給与改訂を勧告する仕組みだからだ。

地方自治体は財政難のところが少なくないが、それを見越してか、15年末に閣議決定した補正予算には1兆2651億円の地方交付税交付金の上乗せ配分が含まれている。税収増を地方にもバラまき、それを人件費として配ろうというわけだ。

 「県庁や市役所の職員の給料が上がれば地方経済は良くなります。地方で飲み屋街を支えているのは県庁職員ですから」とある県の県庁職員は悪びれずに言う。中には、「官官接待を無くしたから地方の消費が落ち込んだ」と真顔で言う人もいる。官官接待とは、地方自治体の幹部が国の公務員などを接待する慣習である。

 確かに、公務員におカネをバラまけば、目先の消費は増えるかもしれない。だが財政赤字が続く中で、人件費の増額のツケはいずれ増税の形で国民に回って来る。増税になれば消費の足を引っ張ることになる。

 さらに民間よりも待遇の良い官公庁に若者が集まれば、民間の力はどんどん疲弊していく。資格取得の予備校で最も人気のあるのが「地方公務員講座」という状況が続いている。

 公務員への大盤振る舞いに反発する声は意外に小さい。国会でも公務員の労働組合を支持母体にする民主党は、公務員給与の引き上げに賛成の立場だ。統一会派を組むことになった維新の党は「公務員給与の引き下げ」を政策の柱にしてきた数少ない政党だが、民主党と一緒になることで、声高に叫ぶことができなくなりつつある。

 「公的セクター」の役割は重要だが、大きな収益を稼ぎ出すわけではない。民間が萎縮し「官」がどんどん肥大化していけば、国民の多くが経済的にも精神的にも「官」にぶらさがることになりかねない。それこそ日本の「ギリシャ化」である。

 ※1:2015年6月に閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2015」では、経済政策「アベノミクス」は第2ステージに入ったとして、「経済の好循環の拡大」「未来への投資・生産性革命」「ローカル・アベノミクスの推進」を謳う。

※2:第1次安倍内閣は2006年に佐田玄一郎を「公務員制度改革」の担当大臣に指名。以来、民主党政権でも担当大臣は引き継がれ、2012年に発足した第2次安倍内閣では稲田朋美が担当大臣に指名されたが、2014年の第2次安倍改造内閣では担当大臣が廃止された。

.

経済ジャーナリスト 磯山友幸=答える人