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磯山友幸のブログ RSSフィード

2016-09-23

大手都市ガス「電力参入」が絶好調!の理由

| 09:43

現代ビジネスに9月11日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49601

スマートエネルギー情報局→http://smartenergy.ismedia.jp/

大手都市ガス、絶好調

今年4月に電力小売りが全面自由化され、一斉に「新電力」が家庭向け電力小売り事業に新規参入したが、そうした中で大手都市ガス会社が順調なスタートを切っている。首都圏で家庭向け電力小売りに参入した東京ガスは当初、初年度の目標としてきた40万件の顧客獲得を4カ月で達成、目標を53万件に引き上げたと報じられていた。

関西エリアで電力事業を展開する大阪ガスも、20万件という初年度目標を掲げているが、すでに17万件の契約を獲得した。名古屋を拠点とする東邦ガスも当初1カ月で1万件の契約を取るなど順調に滑り出した。都市ガス大手が大手電力会社にとっての最大のライバルになってきた。

都市ガス大手が順調に電力小売りの契約を獲得している背景には、同じエネルギー会社として各家庭にネットワークを持っていることが大きい。通信系なども家庭とのつながりがあるが、カバー率はガスの場合、ほぼ100%で、圧倒的に高い。きめ細かい顧客サービスを展開する素地があるわけだ。

東京電力の広瀬道明社長は毎日新聞のインタビューの中で、「新電力ナンバーワンを目標に、達成までやり抜く」と意気込みを語っていた。競争は激しいものの、環境は都市ガス大手にとって優位性があり、他の新電力を凌駕できる余地は十分にある。

大阪ガスはガス契約をしている家庭を対象に新たに「住ミカタ・サービス」という新サービスを展開。ガス機器のメンテナンスだけでなく、エアコンの修理のほか、風呂や台所などのクリーニングなどにサービスを拡大している。住宅のリフォームの相談などにも乗っている。顧客との関係の「密度」を上げることで、ガス契約から電力小売りなどに契約を広げていく戦略だ。

リフォームや建て替えのタイミングを早期に知ることで、家庭内の設備インフラを総合的に提案できるようにするのも狙い。特にガスを使った温水床暖房などは家の建設設計と同時に組み込まれるケースが多いことから、そのタイミングで電力や通信の契約も合わせて一括受注する体制を狙う。

ガス会社から「総合エネルギー会社」へ

経済産業省資源エネルギー庁によると、「小売電気事業者」として登録しているのは8月9日時点で334事業者にのぼる。そのうちすでに一般家庭への電力供給を始めた会社は100社あまり。今後、事業開始を予定している事業者もあるが、ほぼ出そろって来た感じだ。

参入したのは、大手都市ガス会社のほか、静岡ガス&パワーや中央セントラルガスといった「ガス系」、昭和シェル石油東燃ゼネラル石油、JXエネルギーといった「石油元売り系」、伊藤忠エネクスホームライフ関東やミツウロコグリーンエネルギーといった「商社系」のほか、KDDIなどの「通信系」や、東急パワーサプライなどの「電鉄系」など多岐にわたる。

各社とも、大手電力会社に比べて価格が安いことを売り物にしているが、各社のもともとの事業サービスと組み合わせた料金体系を取り入れるなど、工夫をこらしている。

変わったところでは、生活協同組合が事業者として事業を開始したところもある。大阪いずみ市民生活協同組合では「コープでんき」と銘打って事業を開始。価格が安いことも売りのひとつだが、「『コープでんき』の2016年電源構成は、FIT(再生可能エネルギー)を38.5%(全国平均の3倍以上)で計画しています」として、環境配慮を前面に打ち出している。エコ意識の高い生協組合員を意識した特長ある取り組みと言える。

もっとも、新電力はまだまだ「乱立状態」で、価格体系などが見えにくいことから、切り替えを躊躇している消費者も多い。インターネットには価格の比較サイトなども登場しているが、競争が収斂していく様子を見ている人たちは少なくない。緒戦で一定のシェアを獲得した新電力に、今後、様子見をしている消費者が契約に動くことになるとみられる。

そうなった場合、価格だけでなく、サービスをどう周知するかがポイントになる。このため自社のもともとのサービスで既存ネットワークを持っている事業者がより優位に立つことになりそうだ。そうした面でも、ガス大手が従来の顧客サービスの拡充に動いているのは正しい戦略だろう。

電力VSガスの行方

今後、IoTインターネット・オブ・シングス)と呼ばれる動きが加速し、家庭内の電気機器やガス機器、通信などがインターネットで結ばれて管理される態勢になっていく中で、「家庭内インフラ」の窓口一元化が進むことになりそう。電力・ガスなどエネルギーに加え、インターネット通信や電話、CATV、防犯システムといった家庭に関わるサービスを一企業が一括受注して一括管理する方向へ進んでいくに違いない。

それだけに、通信事業者やCATV会社など自社の既存事業を守るためにも電力小売りに参入しているという面が強い。今後、合従連衡を経て集約されていく中で、「総合家庭サービス会社」が誕生してくるのだろう。その場合も、エネルギーを基幹とするガス会社が優位に立つ可能性はある。

もちろん、ガス大手が安閑としていられるわけではない。都市ガスの小売り自由化が迫っており、電力会社が家庭向けのガス事業に参入してくるのだ。

今は守勢に立っている電力大手は、資本力ではガス大手を圧倒するだけに、ガス事業参入では強力な競合相手になる見込み。いずれは大手ガス会社と大手電力会社の統合なども起き、早晩、総合エネルギー会社が誕生してくるに違いない。

2016-08-03

ピーク時と比べてほぼ半減…ガソリンスタンド消滅時代がやってくる!

| 12:27

現代ビジネスに8月2日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49316

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こんなに儲からなくなった

ガソリンスタンドの減少が止まらない。経済産業省が発表した今年3月末の全国の給油所数は3万2333カ所と、1年前に比べて1177カ所、率にして3.5%も減少した。ピークだった20年前には6万カ所を超す給油所があり、ほぼ半減している。

どこへ行ってもガソリンスタンドがある、という状態が大きく変わっている。高速道路ですら100キロ以上にわたって給油所がない場所が80カ所以上存在するとされ、市町村でも給油所の激減で、生活に支障をきたしかねない状況に追い込まれているところも出始めた。

なぜガソリンスタンドの減少が止まらないのか。ハイブリッド車の普及などで、ガソリン消費量が減っていることが一因とされる。確かにガソリンの国内販売量は減少傾向だが、販売量が激減しているわけではない。2015年のガソリン販売量は5311万キロリットル。前年比で0.9%の減少だったが、年度でみると若干プラスに転じている。販売量が激減したからガソリンスタンドを閉めているということでは必ずしもないようだ。

最大の要因はガソリンスタンド経営が成り立たなくなってきたからだ。原油価格の下落もあって、ガソリン価格が下がったため、利幅が小さくなったことが大きい。つまり儲からなくなったのだ。

同じ経産省の調査で、揮発油販売業者の数は1万5574事業者と1年間で855も減少している。業者自体がつぶれているのだ。

揮発油販売業者にしても、給油所にしても、法律に基づいて届け出することが義務付けられており、廃止する場合にも手続きが必要だ。ところが、給油所を廃止して年数が経っているにもかかわらず、廃止手続きをしないまま、連絡がつかない事業者が頻発。各地の経済産業局が職権で廃止手続きするケースが相次いでいる。

国道脇に入り口をロープで仕切ったまま、草ボウボウになっている給油所などを見かけるが、業者が廃業して放ったらかしになっている給油所も少なくないわけだ。

ガソリンスタンドが儲からなくなったことは、ガソリンを卸している石油元売り会社の業績をみれば一目瞭然だ。2016年3月期のJXホールディングスの業績は、最終赤字が2785億円に達した。出光興産も359億円の赤字、コスモエネルギーホールディングスも502億円の赤字となった。消費量が伸びないところへ、原油価格の低迷で、採算が悪化したのだ。

スタッフ不足も深刻

石油元売りが隆盛だったころは、全国のガソリン販売会社に積極的に支援を行い、自社のシェア拡大に力を注いだが、最近はめっきり石油元売りの力も落ちた。経営態勢の立て直しに向けて業界の合従連衡が進んでおり、現在も出光と昭和シェル石油が統合を目指して準備作業を進めている。

創業家である出光家が統合に反対しているが、経営陣はあくまで統合で生き残りを図る戦略をとっている。こうした石油元売りの業績悪化が地方のガソリン販売会社にも影を落としている。

加えて、地方での給油所の減少の背景には、地方経済の収縮という構造問題がある。人口の減少が鮮明になり、ガソリンスタンドの経営や営業を担う人材が急速にいなくなっている。体力的にきついガソリンスタンドのスタッフが集まらなくなっているのだ。

欧米諸国ではガソリンスタンドの無人化などが進んでいる。日本でもセルフ式のスタンドも解禁されているものの、欧米のように完全無人で運営できるわけではない。規制緩和が後手に回ったという見方もできる。

もうひとつ、ガソリンスタンド経営に重くのしかかる規制がある。給油所のタンクは地下に埋設することが義務付けられてきたが、このタンクが40年たって老朽化した場合に補修義務が課されている。

利幅が小さくなって儲からないビジネスになっているのに加えて、経営者の高齢化も進んでおり、設備投資が必要になった段階でその給油所の廃止や、会社全体の廃業を選択するケースが増えているのだ。

このままガソリンスタンドの減少が続けば、一段と生活に支障をきたす例が増えることになりそう。長距離のドライブでは、事前に給油カ所を決めて出発するのが当たり前の時代が来るかもしれない。また、地方都市の場合、給油所がなくなると冬場の灯油などを手にいれる術がなくなる地域も存在する。

こうした状況に国も危機感を持っている。地下埋設を義務付けてきた給油所のタンクを陸上に設置できるようにするなど、規制緩和を検討している。事業を継続するうえでの投資を小さくすることで、廃業を食い止めようというわけだ。

コンビニエンスストアなどに給油所を設置しやすくするなど、兼業での給油所確保にも力を入れている。

これまで日本では増え続ける石油消費をいかに抑えるかという「脱石油」戦略が採られてきた。ハイブリッド車だけでなく、電気自動車の普及促進などに力を入れているが、一方でガソリン需要が頭打ちになれば、インフラとして整備されていた給油網が壊れるという新たな問題に直面しているわけだ。

地域のエネルギー供給体制をどうするか、という根本問題にもからむだけに、今後、議論が本格化することになるだろう。

2016-07-05

参院選後、安倍政権は「日本の原発政策」の将来を指し示すことができるのか

| 12:10

現代ビジネスに7月1日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49042

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どうしても老朽原発を残しておきたい理由

稼働40年を超す「老朽原発」の運転延長が初めて認められた。原子力規制委員会が6月20日に許可したもので、1974年に稼働した関西電力高浜原子力発電所1号機が最長2034年まで、75年に稼働した2号機が最長2035年まで運転できることになった。

ただ、再稼働には安全性を向上させるための改修工事が必要で、関電はすべての工事を2019年10月までに終えるとしている。許可はされたものの、実際に再稼働するのは3年後ということになる。

さらに関電の高浜原発を巡っては、3、4号機の運転を大津地方裁判所が差し止める決定を下し、今も運転は止まったまま。再稼働もメドは立っていない。

一方で、高浜原発1号機と同じ年に稼働した中国電力島根原発1号機や、高浜2号機と同じ1975年稼働の九州電力玄海原発1号機はすでに廃炉することが決っている。

四国電力は、伊方原発3号機(1994年稼働)の再稼働を急ぐ一方で、1977年稼働の伊方1号機は廃炉することを決めた。申請して20年の運転延長を目指すことも可能だったが、巨額の改修費用がかかることから、採算が取れないと判断した。

「40年原則」に沿って廃炉にする動きが強まっている中で、なぜ関電は老朽原発の稼働にこだわったのか。

廃炉費用は数百億円

その大きな理由は、関電には今後、稼働から40年を迎える原発が目白押しなことだ。

1976年稼働の美浜原発3号機、1979年稼働の大飯原発1、2号機と続く。今回延長申請した2基にこれらの3基を加えると、発電能力で関電が持つ原発の半分を超える。40年原則に従えば、3年後までで、原発の発電能力は半分以下になるのだ。

関西電力はもともと原発依存度が高く、40年廃炉の原則に従ってしまうと、電力の供給能力に不安が生じかねない。

もうひとつは、短期間の間に廃炉が続くと、廃炉費用が経営を圧迫することだ。関電はすでに美浜1号機、2号機の廃炉を決めているが、その廃炉費用だけでも数百億円かかるとみられている。加えて、40年超の原子炉を廃炉にしていくと、巨額の費用がかかるのだ。

政府は電力会社に老朽原発の廃炉を促すために、廃炉によって一気に除却費用などが生じるのを、分割して費用計上できるように会計ルールを変えている。それでも廃炉の件数が大きくなれば、業績に大きなインパクトを与える。

関西電力は原発が稼働すれば電力料金を引き下げるとしてきたが、再稼働が進まないことで高い電気料金が定着している。一方で、電力小売りの自由化が本格的に始まり、小規模事業者や一般家庭の電気料金への関心度は高まっている。

値下げをできない関電の電力販売量はここ数年大きく減少している。値段を上げると販売量が減るという悪循環に陥っているのだ。そんな中で、さらに廃炉費用が重なれば、経営に深刻な影響を与える。

「40年に科学的根拠はない」という批判も根強くある。だが、1970年代と90年代以降で、原子力発電を巡る技術が大幅に進んだのも事実。「新しい原子炉の方がより安全性が高いのは当たり前だ」と経済産業省の幹部も認める。安倍晋三首相も「世界一の安全基準に則って、安全性が確認されたものから再稼働させる」と繰り返し述べている。

本来ならば、新しい原子炉から再稼働させるのが正しい手順ということになるが、そうなると老朽原発はすべて一気に廃炉しなければならないことになる。

運転延長しても再稼働は難しい

もっとも、今回、高浜1、2号機の運転延長が認められたからと言って、簡単に再稼働できるわけではない。

高浜は新しい3、4号機を巡っても訴訟が起きて裁判所が運転を差し止めており、1、2号機の再稼働が迫れば、同様の訴訟が起きるのは火を見るよりも明らか。実際、今回の原子力規制委員会の決定を巡っても名古屋地裁で、許可を差し止める仮処分などの訴訟が起きている。

関電は美浜3号機についても、最長60年への運転延長を目指しており、夏にも規制委員会の安全審査に合格するとみられている。もっとも、美浜原発は過去に事故を起こしており、住民感情などは複雑。関電も一時は廃炉を検討したとされる。仮に審査を通って、運転延長の許可を得たとしても、そう簡単には再稼働には結びつきそうにない。

「とりあえず、40年を60年に延ばしておくことに意味がある」と経産省の中堅幹部は言う。40年原則を定着させてしまえば、議論のないまま、日本の原発は次々と廃炉になっていく。1984〜85年には8基が稼働したが、2025年には40年を迎える。

本来ならば、老朽原発を新型原発に再建する「リプレイス」が不可欠だが、原発に関する議論がほとんど止まっている現状では、10年後に新規稼働する原発があるとは思えない。

つまり、40年から60年への稼働延長の本当の狙いは、比較的新しい技術で作られている1980年代半ば以降の原発の稼働期間を延ばすことにある、というのだ。

参議院議員選挙の投票を控えて安倍内閣は、国民の間で議論が分かれる大きな問題は軒並み「封印」している。その際たるものが、原発政策だ。

日本の原発を将来どうしていくのか。議論のないままフェードアウトさせていくのか。安全性を見極めたうえで、最新技術を取り入れた「リプレイス」を行っていくのか。参議院選挙後に、本格的な議論が始まることを期待したい。

2016-05-31

軒並み黒字でも明るくなれない、電力会社の胸中〜直面する「販売電力量の減少」という大問題

| 15:44

現代ビジネスに5月31日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48751

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「燃料費激減」が示すもの

大手電力10社の2016年3月期通期の連結決算で、経常損益が全社そろって黒字になった。10社が黒字になったのは、東日本大震災以降初めて。昨年は関西電力と九州電力、北海道電力の三社が経常赤字だった。久方ぶりの好決算というわけだが、これで大手電力の収益体質が立ち直った、というわけではなさそうだ。

今回の決算では、関西電力が昨年の1130億円の経常赤字から2416億円の黒字に転換したのが目を引いた。九州電力も736億円の赤字から909億円に黒字に転換した。業界最大手の東京電力も2080億円から3259億円に利益を大きく増やした。

電力大手10社の2016年3月期の業績(出典:電気事業連合会)

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今回の損益改善の要因は原油価格の大幅な値下がりで、火力発電用の燃料費が激減したこと。加えて、各社が電力料金の値上げに踏み切ったことも収益改善に結び付いた。

特に関西電力の場合、燃料費が7103億円と前の年の1兆1865億円から4762億円も減ったことが収益を劇的に改善させた。関西電力の昨年からの経常損益の改善幅は3546億円だから、それを大きく上回る燃料費の減少効果があったことになる。

他の電力会社でも燃料費の減少が大きく、東京電力の燃料費は1兆6154億円と、前の年の2兆6509億円に比べて、何と1兆円も減少した。東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止が相次ぎ、結果的に石油やLNG(液化天然ガス)を原料とする火力発電の割合が大きくなっている。

火力の割合が高まっただけ、原油やLNG価格の下落の効果が大きく効いたということになる。

「省エネ」は痛しかゆし

電力各社は休止中の原発を早期に再稼働させたい考えで、コストの低い原発を稼働させなければ経営がもたないという立場を取り続けてきた。昨年夏に鹿児島県にある九州電力川内原発1・2号機が再稼働、今年1月には福井県にある関西電力高浜原発3・4号機も再稼働したが、大津地裁が運転差し止めの仮処分を下したことで、3月に停止した。

川内原発はほぼ半年にわたって稼働したことになり、決算でも730億円の収支改善効果があったとしている。実際、九州電力の燃料費の削減率は46%に達し、燃料費価格の減少だけでなく、燃料使用量も減ったことを伺わせる。ちなみに原発が稼働していない電力大手の燃料費削減率は中部電力で38.8%、中国電力で34.3%、四国電力で34.1%で、東京電力でも39.1%だった。確かに、原発再稼働はコスト削減に結び付くわけだ。

だが、だからといって、原発が再稼働すれば、業績がどんどん伸びるかというとそうではない。

関西電力は昨年、赤字決算担った際、「原子力プラントが平成25年の電気料金の値上げの前提どおりに再稼働できなかったことから、事業収支は極めて厳しい状況となりました」としていた。原発再稼働が計画通りに進まない中で、関西電力は大幅な料金引き上げに踏み切った。これが燃料価格の下落と共に収益が大きく改善した要因になった。

実は、電力大手は構造的な課題を抱えている。販売電力量の大幅な落ち込みと、発電量自体の減少が続いているのだ。

電気事業連合会がまとめた2015年度の「発受電電力量」(10社合計)は8644億キロワット時で、3.3%も減少した。震災前である2010年度の発受電電力量は9876億キロワット時だったので、12.5%も減っているのである。しかもここ数年、景気悪化に歯止めがかかりつつある中で、2013年度0.1%減→2014年度3.2%減→2015年度3.3%減、と減少率が大きくなっている。

震災以降、家庭の節電志向が高まったことや、企業を中心に省エネ投資が進んでいることが背景にある。電力会社としては「省エネ」は促進する立場だったが、それも消費電力業が右肩上がりに伸びていた時代を前提にしている。

消費電力が発電能力を上回らないように新規の発電所建設などが必要になると、電力会社の業績にもマイナスだったから、「省エネ」は電力会社の利益にもつながっていた。

ところが、最近のように消費量が激減してくるとなると話は違う。設備能力をフルに使うことができなければ経営効率が下がってしまうのだ。口では「省エネ促進」と言いながら、電力会社の経営を考えると痛しかゆしなのである。

電気が売れない、それが最大の問題

改めて大手10社の決算を見ると、10社中販売電力量が増えたのは沖縄電力だけで、他は軒並み減少した。10社合計の販売電力量は2.7%の減少となったのだ。

販売量が減れば値上げをしてもなかなか売り上げ増には結びつかない。10社合計の売上高は6.3%の減少となった。

中でも販売電力量の減少が目立ったのは関西電力だ。5.2%減とダントツで大きく減った。関西電力は原発の稼働停止を理由に電力料金を大幅に引き上げており、結果として消費者の間で「電気離れ」を加速しているようにみえる。値段が上がれは消費量を減らすというのは当たり前の行動である。

家庭用の電気(電灯)の販売量は3.9%、商店や小規模企業向けは4.0%販売量が減った。そんな中で最も減少が目立ったのが「特定規模需要」と呼ばれる大規模な工場や事務所向けである。この部門は5.9%も減っている。つまり、競争に負けているのである。

4月から家庭用の電気も小売りが自由化された。今後ますます家庭の電気料金への感度は高まっていくだろう。新規参入の業者との競争はまだまだこれからといった感じだが、コストが上がったからと言って価格に転嫁しようとする経営スタイルは、なかなか通用しなくなるだろう。

電力大手にとっては、原発停止や小売り自由化も大きな衝撃には違いないが、最大の問題は電気が売れなくなっていること、つまり販売電力量の減少にどう立ち向かうかが経営にとって需要になるだろう。

2015-08-20

原油急落で原発再稼働に暗雲? イラン制裁解除が日本に与える「思わぬ影響」

| 08:45

7月27日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44352

焦るイラン

イランの核開発問題を協議してきた欧米など関係6か国とイランが7月14日、核開発の大幅制限で最終合意に達した。これを受けて、国連の安全保障理事会は、合意を履行すればイランに対する制裁措置を解除することを全会一致で決議した。EU(欧州連合)は来年1月にも制裁を解除する方針だと伝えられている。

経済制裁の解除でがぜん注目されるのが今後の原油価格の動向だ。産油国であるイラクが本格的に原油輸出に乗り出せば、国際原油相場に影響を与えることは必至。もちろん、日本の電力料金などエネルギー価格に直結する。

イランへの経済制裁が解除されても輸出がすぐに始まるわけではない、という見方もある。だが一方で、イランが蓄えている在庫がすぐに市場に出て来るという観測もあるのだ。

「イラン、原油在庫放出へ 制裁解除後1700万バレル」−−。7月22日付けの日本経済新聞はドバイ発の記事でこう伝えている。「イランのタンカー船団は約4000万バレルの原油を蓄えており、制裁解除に伴う在庫放出で1700万バレル以上を直ちに出荷できるもようだ」という。

電力料金は下がる

さらに同記事は、本格的な増産に乗り出す構えであることにも触れている。イランのザンギャネ石油相の発言として、「輸出は制裁解除直後に日量50万バレル増える。6カ月後には100万バレル増えるだろう」とした。現在日量110万バレルの輸出が、250万バレルにまで増えるというのだ。

経済制裁によって国内経済が疲弊しているイランからすれば、できるだけ早く増産して石油を輸出し、外貨を稼ぎたいのは明らかだ。多少、国際市況に影響を与えても、なりふり構わず量産する可能性はありそうだ。

そんな中で、7月22日のニューヨーク原油先物市場で、指標の米国産標準油種(WTI)9月渡しの終値が、1バレル=49.19ドルと約3カ月半ぶりに50ドルの大台を割り込んだ。直接の引き金は、この日発表されたアメリカの石油統計で、市場予想に反して原油在庫が増えたことだったが、中期的に供給過剰感が強まるのではないかという懸念が再び高まったという。

原油価格は2008年6月には1バレル=140ドル台を付けたが、2011年以降は80ドルから120ドルの間で推移していた。ところが、昨年秋以降、大幅に下落し、一時は40ドル近くにまで下がっていた。最近はようやく60ドル近くにまで戻し、中期的には100ドル近くにまで戻すという観測が市場に流れていた。そこにイランの制裁解除が飛び込んできたわけだ。

原油価格の下落は日本経済にも大きな影響を与える。財務省が7月23日に発表した6月の貿易統計速報によると、輸入額は6兆5748億円と2.9%減少、一方で輸出が6兆5057億円と9.5%増えたため、輸入から輸出を差し引いた貿易収支は690億円の赤字と大幅に縮小、ほぼトントンと言えるところまで改善した。

輸入が減ったのは原油の輸入額が36.7%も減ったこと。さらに原油価格にほぼ連動する液化天然ガス(LNG)の輸入も37.3%減ったことが大きい。現在、原発の稼働が止まっており、日本の発電電源の多くはLNGや原油で賄われている。円安が定着しているにもかかわらず、大幅な国際市況の下落によって、日本のエネルギーコストの上昇が抑えられている格好だ。今後、原燃料費調整制度によって電力料金が引き下げられることになりそうだ。

原発推進派には逆風

このところ電力会社による電力料金の値上げが続いている。関西電力が申請していた値上げを経済産業省が認可、6月から平均4.62%、10月からは8.36%値上げする。福井県の高浜原子力発電所3、4号機が11月から稼働することを前提にしており、原発の稼働状況に応じて順次値下げするとしている。

つまり、コストの安い原発が動いていないため、高いLNGや原油を使わざるを得ず、電気料金が上がってしまう、という理屈である。「原発を動かなければ電気料金は上がるぞ」と半ば国民を脅すことによって、原発再稼働に道筋を付けたいという思いが透ける。

コストを盾に再稼働を進めようとする電力会社や経産省にとって、足下の原油価格の下落は「不都合な真実」だと言っていい。通常の値上げとは異なり、原燃料費調整制度は、原油・LNG・石炭の3か月間の貿易統計上の価格に基づいて平均燃料価格を算定、それを電気料金に自動的に反映させていく仕組みだ。原油価格が大幅に下がれば、電気料金は自動的に安くなる。国民の反発を押し切って料金を値上げしたそばから、自動調整で価格が下がっていくことになりかねないのだ。

政府は2030年のあるべき電源構成、いわゆるエネルギーミックスを決めたが、その中で、原発の割合を20〜22%とした。安全性が確認された原発から再稼働させるとしているものの、なかなか具体的に進まない。鹿児島川内原発などでの再稼働準備が進めば、再び、反対運動に火が点く可能性もある。安全保障関連法案で支持率が大きく下がっている中で、原発再稼働を無理に進めれば政権への打撃にもなりかねない。

原油価格が大幅に上昇して、電気料金を押し上げているようなら、コストを理由にした原発再稼働にも理解を示す国民も増えただろうが、足元の状況はまったく逆になっている。原油価格の動向から目が離せなくなってきた。