Hatena::ブログ(Diary)

磯山友幸のブログ RSSフィード

2018-05-21

【高論卓説】日本の“カイシャ”の形が変わる 副業解禁で進む終身雇用の崩壊

| 12:29

5月15日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/180515/bsg1805150500001-n1.htm

 「副業」を認める会社が目立ってきた。安倍晋三内閣が「働き方改革」の一環として昨年来、副業や兼業の解禁に旗を振ってきた「効果」が出始めたともいえる。

 厚生労働省が示している「モデル就業規則」から副業禁止の規定を削除。「労働者は、勤務時間外において、他の会社などの業務に従事することができる」と、ひな型で示した。もちろん、競業に該当して元の企業の利益を害する場合などは禁止だが、副業を「原則禁止」から「原則自由」へと180度変えたわけだ。

 なぜ政府は「副業解禁」に動いたのか。多様な働き方を求める人たちが増えたこともあるが、最大の理由は深刻化する「人手不足」が背景にある。

 一つの会社に縛り付ける従来の「働かせ方」では、労働人口の減少とともに、人手はますます足りなくなる。ダブルワークの解禁が人手不足を吸収する一助になる、と考えたのだろう。

 解禁に動いている企業にも理由がある。日本型雇用とされてきた「終身雇用」が企業にとって「重荷」になってきたのだ。日本の伝統的な企業では、いったん就職すれば、定年退職を迎えるまで、よほどのことがない限り解雇せず、面倒を見続けてきた。仮に社員のスキルを生かせる仕事がなくなっても、配置転換などで仕事をあてがい、生活を保障してきた。

 だが、猛烈な人手不足と、時代の変化が激しい世の中になって、配置転換で仕事を与え続けるような人事のやり方は非効率になった。むしろ、必要な人材は中途採用し、専門を生かせる場がなくなった人には、辞めて転職してもらう。そのためには、社員が自ら専門性を磨く「副業」の解禁が必要になるわけだ。

 つまり、副業解禁は「日本型雇用」の崩壊を示しているといえそうだ。時代の変化で仕事がなくなった社員を抱え続ける余裕が会社になくなってきたのだ。

 日本企業の収益力が低いことも一因だろう。人手不足にもかかわらず、給与を大きく引き上げることは難しい。そうなると、自社で稼げない分、外で働くことを容認せざるを得ないのだ。

 こうした副業解禁をきっかけに、日本の「カイシャ」は根本から変わるだろう。副業を解禁するには、その社員の「本来業務」が何かを明確にする必要がある。「本来業務」が何かが明確でなければ「競業」かどうか分からない。つまり、欧米型の「ジョブ・ディスクリプション」がより明確になっていくだろう。

 副業が当たり前になると、より「専門性」を身につけた社員と、会社の関係は希薄化していくに違いない。いや、より「対等」になっていく、と言っても良い。いったん「雇用」したら働く場所も職種も会社次第という時代は早晩終わりを告げる。業務を明確化した上で、それぞれの会社と個人が個別に業務契約を結ぶ。そんな関係が増えていくだろう。

 そうなれば、あたかも「疑似家族」のようだった日本の伝統的な「カイシャ」は急速に壊れていくことになる。

2018-04-05

【高論卓説】働き方改革の狙いは生産性向上

| 08:51

3月29日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/180329/bsg1803290500001-n1.htm

 ■「好循環」促進へサービス業は転換を

 「働き方改革」というと、残業の圧縮など長時間労働の是正を思い浮かべる人が多いだろう。企業経営者の多くも人手不足の中でどうやって残業を減らすかに腐心している人が少なくない。だが、働き方改革の本当の狙いは、どうやって生産性を上げるかにある。

 経済を成長させるには、企業がもうけることが重要だ。そしてそのもうけを内部にため込むのではなく、従業員に還元し、それが消費となって再び経済を押し上げる。安倍晋三首相の言う「経済の好循環」だ。

 生産性の低い産業としてしばしば挙げられるのが、運輸、小売り、飲食、宿泊といった分野だ。こうしたサービス産業の生産性が欧米諸国に比べて圧倒的に低い。

 その最大の理由は「価格」である。デフレ経済が続く中で、サービス産業の多くが「価格破壊」と呼ばれた価格競争に走った。外食産業で言えば、ギリギリまで食材コストを削り、調理の効率化などを進めた。そのしわ寄せは人件費に及び、安い給料で長時間働くのが当たり前の世界ができた。

 デフレ経済が終わりを告げようとしている中で、圧倒的な人手不足がやってくると、こうした生産性の低い業種には人材が集まらなくなった。深夜営業ができなくなったり、店舗閉鎖に追い込まれるなど、経営の足元を揺るがす事態になっている。

 確かに、デフレ時代は「良いサービスをとことん安く」が経営の方向性だった。だが、デフレが終わることを考えれば、その方針を大転換しなければならない。サービス産業は「より良いサービスを、きちんとした対価で」提供することが重要になる。そしてそれを、サービスを支える人材に還元することが求められる。

 今、サービス産業に求められているのは、従来通りの価格を維持してサービスの効率化を進めることではなく、サービスに磨きをかけて顧客が納得する水準に価格を引き上げていくことだ。デフレ時代の「価格破壊」の修正である。

 今、消費者の間にも、サービスに見合った価格を払わなければ、サービスが維持されないという感覚が広がっている。昨年、ヤマト運輸が先頭を切って宅配便の価格引き上げに動いた際も、消費者の多くはそれに納得した。生活する上で、なくてはならないサービスだと感じたからだろう。ヤマトはサービスドライバーなど従業員の待遇改善を進めている。収入を増やして生産性を上げる一方で、キチンと従業員にその恩恵を回すという「好循環」への取り組みだろう。

 もちろん、サービスよりも低価格を求める消費者は存在する。人手不足で人件費が上昇していく中で、こうしたサービスはどんどん機械化され、効率化されていくに違いない。

 生産性の向上と言うと、今まで以上に従業員に働かせることを想像しがちだ。そうではなく、きちんと付加価値が生み出せる事業に人材を配置し、従業員ひとりが生み出す利益を大きくすることが求められる。「働き方改革」は「経営改革」そのものである。

2018-02-15

【高論卓説】「人手不足倒産」を防げ 物価上昇分以上の賃上げ不可欠

| 19:57

2月13日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/180213/bsg1802130500003-n1.htm

 厚生労働省は7日、毎月勤労統計調査の2017年分を発表した。これによると、現金給与総額は前年比0.4%増えたが、消費者物価が0.6%上昇したことから、実質給与は0.2%の減少となった。

 現金給与総額(事業所規模5人以上)は全産業の平均で月額31万6907円と0.4%増えた。物価を考慮しない額面ベースでは4年連続の増加になったが、物価上昇の影響で「実質」では2年ぶりのマイナスになった。賃上げが物価上昇に追いつかなかった、ということになる。

 日本銀行は2%の物価上昇をターゲットに金融緩和を実施してきた。黒田東彦総裁が再任される見通しで、当面、この方針は維持される。野党などは物価上昇が目標の2%に届かないとして、アベノミクスは失敗だと批判しているものの、実際には物価はジワジワと上昇している。焦点は物価上昇に負けない「賃上げ」が18年に実現できるかどうかだろう。

 今年も労働組合は春闘でベースアップを求めており、5年連続でベアが実現するのは確実な情勢だ。そうした中で、安倍晋三首相はベアや定期昇給などを合わせた「3%の賃上げ」を経済界に求めている。3%の賃上げが実現すれば、仮に物価上昇が2%でも実質賃金はプラスになる、というわけだ。

 果たして、どの程度の「賃上げ」になるのか。通常ならば強い抵抗を示す経営者の間にも「賃上げやむ無し」のムードが広がっている。というのも猛烈な人手不足に直面しているからだ。厚労省が先月末にまとめた17年平均の有効求人倍率は1.50倍。16年の1.36倍を大きく上回り、高度経済成長期並みの高水準となっている。

 正社員の新規の求人に対して、どれだけ採用できたかを示す「対新規充足率」は13.6%。7人雇いたいと思っても1人しか採用できないことを示している。それぐらい人手不足は深刻なのだ。

 今後、優秀な人材を確保するには、きちんと待遇改善を進めていく必要が出てくる。残業の削減など長時間労働の是正を行う一方で、きちんと「賃上げ」を実行していかないと、優秀な社員ほど会社に愛想を尽かして辞めてしまう。有効求人倍率を見ても分かる通り、就職には苦労しないから、より条件の良い会社に転職する動きが加速する。

 優秀な人材に抜けられたら、どうなるか。残った社員へのシワ寄せが大きくなり、ますます職場環境は悪化する。悪循環に陥り、最終的には「人手不足倒産」に直面することになる。中堅中小企業ほど人材採用難、人手不足が経営悪化に直結しやすい。人手が足らないから営業ができない、という事態に陥りやすいのだ。逆に、優秀な人材を集めることができれば、人手不足に陥ったライバルに勝つことも可能になる。

 どれぐらい賃上げすれば「勝てる」かどうかは業種によってもまちまちだろう。だがはっきりしているのは、物価上昇分以上の賃上げをしないと、働き手は満足しないということだ。今年の焦点は、物価上昇に負けない賃上げをできるかどうか、だろう。

2018-01-09

【高論卓説】「家庭養育原則」どう実現するか

| 10:14

12月28日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/macro/news/171228/mca1712280500002-n1.htm

■養親、里親、小規模ホーム…支援手厚く

 親からの虐待にあった子供や、望まない妊娠によって生まれた子供など、親元で育てることができない子供を、どう社会全体で育てていくか。厚生労働省の検討会が8月にまとめた「新しい社会的養育ビジョン」を具体的な政策に落とす作業が、厚労省の社会保障審議会の「社会的養育専門委員会」で本格化する。

 2016年に改正された児童福祉法は、この分野に関わる人たちの誰もが「画期的」という内容だった。1947年の法制定後初めて理念にかかわる改正が行われ、子供は誰もが健全に育てられる権利を持つという「子ども権利条約」の精神が取り入れられたからだ。改正法には「(子供の)最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成」するよう努めると明記された。

 その上で、実の親から子供を離して養育する場合でも、できるだけ家庭と同様の「良好な家庭的環境」で養育すべきだと改正法で規定された。欧米先進国では一般的になっている「家庭養育原則」を日本でも明記したわけだ。

 その中でも重視されたのが特別養子縁組だ。実の親との法的な関係を断って、新たな親と法的な親子関係を構築するもので、子供は養親の下で実の子として育つ。日本では年間500人ほどと、まだまだ数が少ないが、「ビジョン」では、これを5年以内に1000人以上に増やしていこうということが盛り込まれた。

 特別養子縁組が難しい場合には、里親の元で暮らすことが奨励され、里親への包括的な支援体制の強化などがうたわれている。施設に入所させる場合も、小規模な「ファミリーホーム」とし、家庭的な環境で育てることを求めている。

 児童養護施設は、相部屋で集団生活をする「大舎」と呼ばれる施設がまだまだ多数を占めている。日本では、親から離れて暮らす子供たちの多くが18歳までそうした児童養護施設で暮らしてきた。改正児童福祉法ではこうした大規模な施設を「家庭的環境」として認めておらず、大舎を小規模化していくことが求められている。小規模化はこれまでも施策として進められてきたが、これを本格化する必要が出てきたのだ。

 「ビジョン」では就学前の子供について「原則として施設への新規措置入所を停止する」と明記したこともあり、児童養護施設関係者の間に動揺が走っている。専門委員会では、大規模施設をファミリーホームなどに分散・小規模化していくか、そのための財政援助をどうするかといったことも大きなテーマになっている。

 もともと安倍晋三内閣は「児童虐待の防止」に力を入れており、その柱が児童福祉法の改正だった。日本では親から離して養育している子供の数はドイツやフランスの3分の1以下で英国と比べても3分の2だという。人口比でみれば、日本は極端に少ないことになる。家庭内で虐待されているにもかかわらず、児童相談所が把握できなかったり、把握していても対処できていなかったりする子供が、まだまだたくさんいることをうかがわせる。具体策を決めていく専門委員会での議論を見守りたい。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。55歳。

2017-11-08

【高論卓説】日本企業にまかり通る「ウソ」 相次ぐ不正、経営トップは本当に反省しているのか?

| 15:54

11月7日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。

オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/business/news/171107/bsg1711070500001-n1.htm


 東芝、日産自動車、神戸製鋼所と、企業の不正が相次いで発覚している。日本企業はいつから「ウソ」がまかり通る組織になったのか。どうすれば、不正を根絶することができるのか。不正が発覚した企業はみな、謝罪会見を開いてトップが頭を下げてはいる。だが、本当に反省しているのか。見ていて疑わしい印象を受ける。

 東芝でも粉飾決算を行った歴代社長は逮捕すらされていない。粉飾、つまり有価証券虚偽記載罪はれっきとした犯罪だ。にもかかわらず、証券取引等監視委員会が求めても東京地検は立件に踏み切らない。理由は、当事者たちが容疑をかたくなに認めないためだとされる。つまり、トップたちは、「チャレンジとは言ったが、粉飾をやれとは言っていない」「自分が罪を犯したわけではない」と思っているのである。

 粉飾決算にしても、「会社のためにやったことで、悪いことをしたわけではない」というのが当事者たちの率直な思いだろう。欧米企業でしばしば起きる不正事件のように、経理帳簿を改竄(かいざん)して自分の懐にカネを入れたわけではない。あの段階で数字を作ってかさ上げしなければ会社が潰れて路頭に迷っていた。だから、仕方がなかったのだ。そう思っているフシがある。

 かつて総会屋事件で利益供与していた総務担当の役員たちも、本当には反省していなかった。会社のためには「汚れ役」が必要で、それをこなしているだけ。自分の利益のためにやっているわけではない、と思っていた。経営トップもそれが分かっていて、仮に逮捕されても、ほとぼりが冷めると子会社の顧問などにして生活の面倒をみていたものだ。建設業界の談合もまったく同じ構図だった。

 総会屋対策では、利益供与した会社側役員にも厳罰を加える法改正が実施された。さらに総会屋の罰則も強化されたため、割に合わない犯罪になって、今はほとんど下火になった。

 では、どうすれば企業の不正は根絶できるのか。一つは、不正が発覚したら厳罰に処することだ。不正が明らかになれば、厳しい罰が待っているとなれば、誰も不正は働かない。

 もう一つは会社のトップが「不正は絶対に働くな」と明言することだ。その上で、不正が発覚した場合、「不正に手を染めた社員は守らない」とはっきり言うことである。守らないどころか、会社が不正を働いた役員や社員を告発したり、損害賠償を求めたりするとまで言えば、社員はだれも不正に手を染めなくなる。

 終身雇用が幻想だと思い始めている若い世代は、会社に対する絶対的な忠誠心など、もはや持ち合わせていない。会社のために自分が不正を働いて処罰されるなど、ばかばかしいと思っている。だからこそ、社長が「会社のためだから不正を働くなんて絶対にダメだ。そんなことをしても、決して会社のためにはならない」とはっきり言えば、不正のカルチャーは根絶できる。日本企業から不正をなくす第一歩は、社長がまず腹をくくることである。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。55歳。