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2016-07-15

定住外国人受け入れ、政府は明確な理念示せ

| 15:04

日経ビジネスオンラインに7月1日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/062900017/

 政府は、今後予想される深刻な労働力不足に対して、外国人労働者の本格的な受け入れに踏み出す方針だ。自民党の「労働力確保に関する特命委員会」(委員長木村義雄参院議員)の提言を受ける形で、参議院議員選挙後にも議論が始まる模様。今後、日本の「働き方」に大きな影響を与える外国人労働者受け入れはどうあるべきか。警察庁長官を退官後、スイス大使を務めた経験から、移民受け入れの制度整備が不可欠だと主張する國松孝次・未来を創る財団会長に聞いた。

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受け入れなければ、日本はもたない

政府がいよいよ外国人労働者の本格的な受け入れに舵を切りそうです。

國松:人口減少が続く中で、外国人を受け入れないままでは日本社会がもたないのは明らかです。ようやく政府が議論を始めつつあることは率直に良いことだと思います。

 しかし、どんなに外国人の高度人材を優先して招き入れると言っても、実際はそうなりません。当然、問題の多い外国人がやってきたり、日本の生活の中で落ちこぼれていく人も出てくるわけです。外国人受け入れの「負」の部分は必ず出てきます。その負の部分をできるだけ小さくするにはどうすべきか。今こそ、それを真剣に考える必要があります。

 私が関係する「未来を創る財団」という小さな組織で昨年秋に、「定住外国人受け入れについての提言」というものを出しました。〜甬泙傍掴世魍始すること⊆存嚇な受け入れ制度の早期実施D蟒山姐饋佑紡个垢詁本語教育の義務化自治体やNPOの役割の明確化──を求めました。何しろ、真正面から議論を始めて欲しいというのが本音です。

 それをより具体化させようと考え、現在、全国各地で定住外国人に関する「意見交換会」を開いています。地域の実情などを踏まえたうえで、11月12日に東京で「ラウンドテーブル」を開きます。定住外国人に関わる現在の方々と、政策を考える政府の官僚や政治家をつなぐ役割を果たしたいと思います。

グローバル人材」と「ダブル・リミテッド」

まずは地域で意見を聞いているわけですね。

國松:先日、愛知県名古屋に続いて、私の出身地である浜松市で意見交換会を開きました。愛知では大村秀章知事浜松では鈴木康友市長にもご参加いただきました。ご承知のように自動車産業などが発達している浜松では、もう何十年も前から外国人労働者を受け入れてきました。非常に参考になる話を聞くことができました。

 浜松で参加していただいた2人の大学教授がまったく違った角度から現状報告をされたのが印象的でした。子どもの時に日本に来た日系ブラジル人が成長し、日本語やポルトガル語、英語を自在に操る優秀なグローバル人材に育ったという事例の紹介がありました。その一方で、日本で生まれながら、日本語もポルトガル語も両方満足に使えない若者がいるという話も出ていました。「ダブル・リミテッド」と言うそうですが、そうしたことが地域の現場では大きな社会問題になっている事を中央官庁の官僚や国会議員はきちんと把握していないのではないでしょうか。

移民第2世代、どう受け入れるか

安倍首相は「いわゆる移民政策は取らない」と言っています。

國松:周囲にいる移民反対派の人たちに気を使っているのでしょうが、労働力だけとして受け入れるというのは現実的ではありません。実際には日本に働きにやってくれば日本で生活するわけですし、家族もやってきます。さらに子どもが生まれる。こうした人たちをどう受け入れていくのか、真正面から議論する必要があるのではないでしょうか。浜松では「移民第2世代」をどう受け入れていくかが大きな課題となり、それを克服するべく取り組んできたわけです。

 グローバル人材が育っていると報告して下さった大学教授は、たくさんの問題が起きている現状は十分に理解しているが、暗闇の中に出口の明かりが見えることが重要だとおっしゃっていた。未来を見ることが大事なのです。定住外国人の問題で、浜松など現場に学ぶべきことはたくさんあります。

スイスに学ぶ、移民受け入れのインフラ

大使をされていたスイスは移民を受け入れてきた長い歴史があります。

國松:外国人の受け入れについてスイス政府には明確な理念があります。異なった文化を持った人たちがやってきてスイスという国が多文化並立、つまりマルチカルチャーになるのは困る。かといって、スイス式にすべて改めよという同化政策でもうまくいかない。目指すべきはインテグレーション(統合)だとしています。スイス社会に溶け込んでいってもらう、ということでしょう。日本で言う多文化共生です。

 それをスムーズに行うために移民庁があり、外国人を受け入れるきちんとしたインフラを整えている。これは日本にはまったくありません。

「移民政策は取らない」と言うことで、現実に起きている問題から目をそらしているようにも思えます。

國松:政府が外国人受け入れに関するきちんとした理念を持つことが大事です。ところが日本ではこれまで、それぞれの役所が自分の担当分野の中だけでバラバラに行動してきた。建設現場や農作業で人手が足らないからと言って「技能実習」という名目で労働力を導入してきた。場当たり的な対応だったわけです。そうした理念がない中で、現場では警察が目先の対応に追われて苦労してきました。問題を起こした外国人は捕まえて国外退去させるといった対症療法に追われたのです。

日本語教育義務化など制度整備が不可欠

まずは政府が外国人受け入れの理念を明確にすべきだ、ということですね。

國松:はい。外国人を受け入れるにしても、誰でもOKというわけではないでしょう。きちんとした基準を設けて、それを満たして入ってくれば、定住者としてきちんと面倒をみる。一定以上の日本語を身に着ければ定住許可が得られるとなれば、真剣に勉強します。ハードルを高くして、きちんとふさわしい人たちに来てもらう仕組みは不可欠です。

 一定の基準を満たさない人は受け入れないというルールを作るためには、どんな人ならば定住者として受け入れるかという明確な理念がなければなりません。何の理念もなく、なし崩し的に居住している外国人が増えていく、という状況は避けるべきです。

外国人労働者を受け入れたいという自治体も増えているようですね。

國松:やはり人手不足が各地で深刻になっていることが大きいと思います。私たちの財団でも秋田県大潟村で意見交換会を開く予定ですが、大潟村の農業を守っていくには外国人を受け入れないと無理だ、と考えているようです。

鎖国はできない、覚悟を決める必要も

英国国民投票EU離脱が多数を占めました。シリアなどからの難民などが欧州に押し寄せ、移民に対する風当たりが強くなっていることが背景にあります。

國松:世界で強まっている移民排除のムードは、日本での定住外国人の議論に間違いなく逆風です。だからと言って、外国人を一切受け入れないで鎖国することなどできるわけがありません。現実に日本にやってきて何十年もたつ定住外国人もたくさんいるわけです。どうやって外国人を受け入れていくか。覚悟を決める必要があります。

2016-06-17

「40歳定年制」は非常に合理的な意見 昭和女子大学特命教授 八代尚宏氏に聞く

| 15:42

日経ビジネスオンラインに6月17日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/061500016/

 安倍晋三首相は「働き方改革が次の3年間の最大のチャレンジ」「最大のチャレンジは多様な働き方を可能とする労働制度改革」だと繰り返し述べ、同一労働同一賃金の実現などを掲げている。果たして日本の労働政策や労働市場は大きく変わるのか。政府経済財政諮問会議議員などを務め、長年、労働市場改革の重要性を訴えてきた八代尚宏・昭和女子大学特命教授に聞いた。

同一労働同一賃金の実現で、年功賃金も崩れる

安倍首相は同一労働同一賃金を実現すると明言しています。

八代:本当に同一労働同一賃金を実現するのであれば、大革命だと思います。確かに非正規社員との賃金格差はなくなりますが、同時に勤続年数だけで給料が増える「年功賃金」も維持できなくなる。年功賃金というのは終身雇用制度と表裏一体の仕組みですから、いわゆる日本的雇用慣行と言われるものが、もはや普遍的なものではなくなるわけです。

連合など労働組合や、野党は、同一労働同一賃金に賛成ですね。

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八代経団連も連合も建前としては否定できないわけですが、本音では両者とも反対でしょう。とくに労働組合は正社員の定期昇給を最低限のラインとして守るために労使交渉を積み重ねてきた。最近では非正規労働者の加入を増やす組合もありますが、同一労働同一賃金が義務付けられれば、非正規の待遇が改善されると共に、中高年正社員の待遇が引き下げられる可能性が高いのです。

安倍首相は本気なのでしょうか。

八代:仮に、経団連や連合のように、「現行の雇用慣行に配慮して」という制約をつければ実態はあまり変わらないでしょう。現在でも、すでに雇用機会均等法や労働契約法には不合理な差別的取り扱いを禁止する規定があるわけですから。少なくとも企業に対して、正社員の間や正規と非正規の間での待遇格差についての説明責任を課すことを法律に盛り込む必要があります。これは企業にとっては「負担増」といわれていますが、いずれ合理的な人事管理を促進させるうえで役立ち、企業にとっても大きなメリットがあります。

説明責任を課す場合、どこまでが許容範囲か線引きすることは難しいですね。安倍首相はガイドラインの作成を指示しましたが、難航しているようです。

八代:正社員は、慢性的な残業や転勤を事実上拒絶できないという差異だけで、類似の業務の非正社員と2倍も3倍も待遇格差があることを合理的だと言えるのか、難しいと思いますね。

日本的雇用慣行が崩れれば、定年制度も不要に

仮に安倍首相が本気で同一労働同一賃金を進めるとして、日本的といわれる雇用慣行が崩れた場合、どうなるのでしょうか。

労働需給の長期的なひっ迫の下で、労働の流動化が進み、より活発な労働市場ができます。そうなると、派遣という形態も抑制されるでしょうね。同一労働同一賃金なので、派遣を使うと手数料の分だけ人件費コストが高くなるわけで、そうなれば企業は派遣を最小限度にしか使いません。また、中高年社員もコスト高になりませんから、定年制度も不要になります。同じ仕事をできる能力があれば、何歳になっても働ける、高齢社会にマッチした働き方ということです。

定年もなくなるわけですか。

ただ、新卒者がいきなり仕事に見合った賃金を強いられると、長く社会で働いた経験者と競争にならない。何もしなければ、欧米のように若年層の失業率が大きく上昇することになるでしょう。日本型の新卒一括採用には良い面もあります。

 東京大学の柳川範之教授が「40歳定年制」という提言をされましたが、非常に合理的な意見です。労働経済や労働法の専門家からは絶対に出てこない発想でしたね。新卒から40歳までの雇用は保障するが、そこから先は自己責任。40歳までにスキルを磨いて労働市場の中でひとり立ちできるように頑張るのです。能力を磨けばそのまま同じ会社で雇用され続けてもいいし、より良い条件の会社に転職もできる。実際に、中小企業の場合、大企業ほど年功賃金の上昇カーブが大きくないので、定年なんて関係なく、仕事ができる限り働いているというケースがたくさんあります。

金銭解雇についてはここ数年大きな議論になっています。自由な労働市場を作るには、企業にも解雇の自由を認めることが必要になるのでは。

八代:実際には裁判に訴えられない中小企業の社員は、わずかの補償金で解雇されている実状があります。金銭解雇は、働いた期間などに応じてきちんと補償金を支払うルールですから、中小企業の経営者は反対する可能性が大きい。一方で大企業の正社員の場合、仮に解雇された場合、職場復帰を求める訴訟を起こします。復職命令が出た場合でも実際には和解で解決金を受け取って辞める場合が多いのですが、その際の解決金は企業の支払い能力で大きく異なります。欧米などでは勤続1年で1カ月分の解雇補償といった明確な基準がありますが、それよりはるかに高額になる。金銭解雇ルールができると逆に補償金の上限が抑えられてしまう可能性があるわけです。解雇の金銭補償ルールの策定については、中小企業経営者と大企業労働組合が一致して反対という面白い構図です。

セーフティネットの強化が必要

流動的な労働市場ができて多様な働き方をする時代が来た場合、労働政策で必要になるものはありますか。

八代セーフティーネットの強化ですね。雇用保険のあり方を考え直す必要があるでしょう。現在の失業給付は年金と似た方式で、給与に応じて一日当たり多くの給付を、勤続年数が長い中高年ほど長期間もらえます。これをむしろ医療保険型、つまり、負担した保険料にかかわらず再就職するまでの期間の生活の維持費として一定額を支給する。もう少しフラットにすれば、中高年の再就職が不利になりません。

 また、教育のセーフティーネットも重要です。給与を受け取りながら学べて、その後、社員として採用されるような学校をもっと作るべきではないでしょうか。かつての国鉄の「中央鉄道学園」「鉄道大学校」のように専門技術者として教育を受け、そのまま国鉄職員に採用されるイメージです。経済的に恵まれない若者や高校などでドロップアウトした若者たちにスキルを学んで職に就く機会を与える必要があります。

20年後の労働政策を考えた場合、他に何かやるべき事はありますか。

八代:ホワイトカラーのスキルアップのためのセイフティネットと言えるかもしれませんが、教育休業制度ですね。個人が海外留学する際など、企業は雇用保障だけして休職を認める。その間、最大2年などと区切ったうえで、雇用保険から準失業手当のような生活費を支給する、育児休業と同じ枠組みでできます。

 企業は留学費用などを一切払う必要はありませんが、MBAなど資格を取って帰国したら必ず昇格昇給させる。会社の経費で留学し、資格を得ても帰国後に昇格できないので、転職するといった無駄な事もなくなります。

高齢者には社会保障の現実を理解してもらう

ご著書の『シルバー民主主義──高齢者優遇をどう克服するか 』(中公新書)が話題になっています。

八代:高齢者の投票率が高いからと言って、その投票権を制限すべきという主張は非現実的です。高齢者に日本の悲惨な社会保障の現状を理解してもらうしかないのです。方法は2つ。ひとつは理詰めで説得すること。政府は年金制度が持続可能だと言っているが、実際にはそれは粉飾で、年金はすでに不良債権ということをきちんと説明する。そのうえで、年金の一部切り下げを受け入れてもらうわけです。

 もうひとつは高齢者の「利他主義」に訴えること。あなたのお孫さんを犠牲にしてまで多くの年金を受け取りたいですかと問えば、日本の多くの高齢者はとんでもないと言います。政治家はそうした点をもっときちんと高齢有権者に訴えるべきです。

 高齢者にばら撒いて目先の選挙を有利に戦おうというのは馬鹿げたことです。かつて小泉純一郎首相は「痛みなくして改革なし、改革なくして成長なし」と言って、国民に構造改革の重要性を訴えて大きな支持を得ました。政治家がリスクを負って、高齢者に痛みを受け入れてもらうよう説得すべきでしょう。

2016-06-03

グローバル社会で活躍するのは、個性豊かな人材 人財アジア社長 岡村進氏に聞く

| 17:02

日経ビジネスオンラインに6月3日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/060200015/

 グローバル化する経済社会の中で、今後求められる人材とは何なのか。外資系企業の社長の座を投げ打って起業し、ビジネスパーソン向けの予備校を開いた岡村進さんは、「異なる価値観を持つ人々と協働してシナジー効果を生みながら、より大きな仕事の成果を上げられる人」を育てる事が急務だと語る。そのためには、まずは自分自身の個性を磨き、「何のために働くか」を見極めることが大事だという。

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「ノーモア資格、ノーモアとりあえずの英語」

将来を見据えてグローバル人材を育てるべきだという声が一段と強まっています。岡村さんは大手金融機関など様々な企業の人事研修なども引き受けておられますが、現場では何が起きているのでしょう。

岡村:先日も大手システム会社で研修を行いましたが、100人以上の社員が集まりました。関心が高いというよりも不安に感じている人が多いという方が正しいでしょうね。経営戦略部門が「グローバル化だ」「海外展開だ」と決めて檄を飛ばしているものの、グローバル人材とは何なのか、何をすべきなのか、きちんと説明していない企業がほとんど。社員は何をやったらいいのか迷っています。TOEICの点数を取ったり、英会話を習いに行ったりするケースが多いわけですが、私は「ノーモア資格、ノーモアとりあえずの英語」と言って最近の風潮を否定しています。

グローバル人材教育というとすぐに「英語」という話になります。

岡村:グローバル人材とは何なのか、定義がきちんとなされていないのです。私はグローバル時代に活躍できる人材を、「異なる価値観を持つ人々と協働してシナジー効果を生みながら、より大きな仕事の成果を上げられる人」だと定義しています。「英語」とか「海外」という言葉は一切使いません。

 グローバル化というのは「世界の中の日本」、「世界の中のドイツ」といった具合に、世界の中でどう生きていくか、戦っていくかという問題です。そんな中で、終身雇用を前提にした同質社会と言われる日本が、最も苦しい変革を求められているわけです。

 まずは、世界は異なった価値観を持つ個性豊かな人から成り立っているのだということを理解しなければいけません。逆に言えば自らの個性というものを磨く必要があるんです。異なった価値観で多様な働き方をしているというのがカギで、それをお互いが理解し尊重することが重要なのです。こうした働き方は、そう遠くない未来に日本でも当たり前になると思います。

もはや「あうんの呼吸」というのは通じない、と。

岡村:海外の人たちと会議をやると、日本人からすれば当たり前と思うことを延々と議論します。結論は見えているんだから、さっさと答えを決めればいいじゃないか、と日本人は思うわけです。ですから、そうした会議で日本人はほとんど発言しません。

 ところが、外国人と議論していて、ある時ふと気が付いたのです。実は結論なんて彼らも初めから分かっている。それよりも誰がどんな考え方をするのかを、議論を通じて確かめているんだ、と。そうしたお互いを理解するプロセスこそが、結論よりも大事だということです。ですから、発言しない日本人は、「何を考えているか分からない」と言われるわけです。


日本企業は「尖がった人材」を潰している

そうした自分自身の意見をきちんと主張する人を育てるのが、グローバル人材教育だという事ですか。

岡村:そうですね。私も日本企業の人事部にいましたが、日本企業は良かれと思って「尖がった人材」を逆に潰しているのではないでしょうか。全体の調和を乱すような人材は困る、という発想が根底にあるわけです。

 こうした人事評価は、終身雇用を前提とした日本型の雇用システムと密接に関係しています。終身雇用が前提だと、仕事の専門能力が足らないからといってクビにはできません。どこかの部門に配置転換して雇い続けることになります。ですから、特定の職種でしか使えない「尖がった人材」よりも、どこにでも配置できる汎用性のある人がいいわけです。

 日本企業も「専門職制度」を導入しているところが少なくありませんが、形だけ海外を真似た制度がほとんどです。海外で、本当の専門職と言われる人たちは、その会社で通用しなければ、別の会社の同じ職種に転職します。また、その会社の待遇が実力以下ならば、別の会社からスカウトがかかります。


崩れかけた終身雇用制は、壊してしまった方が良い

逆に言えば、いつクビになるか分からないということですか。

岡村:外資系企業だからと言って、翌日クビになることなど、まずないのですが、1年、2年たって成果を上げていないと、自分のポストは大丈夫なのか不安になってくる。そうした緊張感の中でグローバル企業のビジネスパーソンは仕事をしています。終身雇用が前提の日本の「ナンチャッテ専門職」には緊張感はありません。

 日本企業はもはや終身雇用を維持することは不可能になっています。実際はかなり崩れているのですから、むしろ、さっさと壊してしまった方が良いと思いますね。

多様な働き方を認めるには、個々の社員の志向を把握する必要があるのではないでしょうか。

岡村:もちろんそうです。日本の人事部は個々人の声をきちんと聞いていません。個性を認めてしまうと日本型の調和が崩れてしまうからです。海外の企業では経営者は目の前の社員の個性をいかに引き出すか、生かしていくかを考えます。働く側からすれば、自分の個性を伸ばすことが他の人との競争に勝つことにつながるわけです。

「ノーモアとりあえずの英語」とおっしゃいましたが、小学校からの英語義務化など、早期教育が日本でも重視されています。

岡村:先日、韓国サムソンの幹部と話しをしていたら、同社のエリート社員の大半は自分の子どもに小学校1年生から月額5万円をかけて英語教育をしていると言っていました。韓国人に英語を話す人が増えたのはそうした努力の結果です。しかし一方で、その分犠牲になるものはあるわけです。しっかりした日本語が話せて日本人としてのアイデンティティをきちんと持てるというのが前提での、英語教育でしょうね。

 ただ、社会人になってからは話が別です。英語力を上げるよりも仕事力を上げる方がはるかに重要です。外資で社長をしていた時、部下の英語の点数なんて見たことはありませんでした。仕事で成果が上がっていれば英語はしゃべっているんだろう、という事になります。仮に英語が得意でなくても、英語が上手な部下を駆使して仕事の成果を出すこともできます。かつては、海外から日本に進出する企業の多くは、英語力を見て日本現法の社長を探していましたが、最近は英語力よりも仕事力を見て選んでいますね。

 人工知能(AI)の進化スピードは速いので、数年すれば、何のストレスも感じない自動通訳が可能になるでしょう。そうなると英語力はますますグローバル人材の武器ではなくなります。


「働く目的」をきっちり見定めて、公言するのが大事

ビジネス予備校で教える際に、どんな事を強調されていますか。

岡村:自分自身の「働く目的」をきっちり見定めて、公言するのが大事だと言っています。私は○○のために働いている、と公言することで、自分の逃げ道をふさぐわけです。「どう働くか」を突き詰めると「どう生きるのか」になります。それを考え、公言すれば緊張感が生まれます。

 どう生きるのか、答えはひとつではありません。いろいろな生き方があります。つまりいろいろな働き方があっていいわけです。自分自身の価値観をきっちり持っていなければ、他の人たちの多様な価値観を認めることなどできません。今の教育は「ハウツー」ばかりが多すぎるのです。グローバル社会で活躍できるのは、豊かな個性をもった多様性あふれる人たちです。

2016-05-20

多様な働き方を認めれば、社員の意欲は高まる サイボウズ社長 青野慶久氏に聞く

| 14:01

日経ビジネスオンラインに5月20日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/051900014/

 20年後の働き方はどう変わるのか。「100人いれば100通りの働き方ができる会社」を標榜し、斬新な職場づくりに挑んでいる会社がある。グループウエア大手のサイボウズ。ライフスタイルに合わせて「働き方」を選べる人事の仕組みを導入、オフィスのスタイルも大きく変えた。社長自ら「育休」を取得するなどメディアにも注目されている。サイボウズは日本の会社の未来像なのか。青野慶久社長に聞いた。

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青野慶久(あおの・よしひさ)氏

サイボウズ社長

「日本企業=長時間労働」という負のブランドを打破すべし

サイボウズでは「働き方」に関してユニークな取り組みを続けています。「働き方」の未来はどうあるべきだと考えますか。

青野:人は人らしく生きるために働くのではないでしょうか。ところが今の社会では、会社という「法人」が生身の人間に様々な命令を出してくるわけです。「何時から何時まで働け」とか、「転勤せよ」とか、「副業はするな」とか。なぜ、「法人」がそんな権限を持つのか、注目して考えるべきだと思っています。

 日本人は働き過ぎだと言われながら、まったく変わっていません。悪しき風習が染みついている。長時間労働だけでなく、マタハラやパワハラと呼ばれるものがなくならない。こうした悪しき風習を断ち切るためには、行政がもっと介入するべきかもしれない。日本企業イコール長時間労働といった負のブランドを打破して、働くなら日本企業だよね、と言われるように変えて行くべきです。人口減少が続く中で、外国人人材の活用などが言われていますが、まずは、人々が「働きたくなる国」に日本が変わっていく必要があります。

サイボウズは「100人いれば100通りの働き方ができる」会社を目指しているそうですが。

青野:もともとサイボウズも典型的な日本のソフトウエア開発会社の働き方を社員にさせていました。長時間労働や残業は当たり前で、どちらかというとブラック企業に近かった。人を雇ってもどんどん辞めていく。2005年には年間の離職率が28%に達していました。

 社員に多様な働き方を認めるというのは大変面倒です。それぞれの事情に合わせた制度が必要になるわけですから。一方で、多様な働き方を認めれば社員のモチベーションは上がります。また、採用コストや入社した社員の教育コストを考えれば、社員が定着してくれることは膨大なコスト削減につながります。発想を大転換し、社員が働きたいように働いてもらう仕組みに変えました。その結果、離職率は4%を切るまでになっています。

基本的に働き方は自由なのですか?

青野:私たちの会社が目指すのは「グループウエアで世界一の会社になる」という一点です。この目標に合致していないものは認めません。逆にいえば、会社の目的にかなっていれば、どんな働き方をしてもよい、ということです。

ウソは絶対にアウト!

出社時間も自由、どこで働いていても構わないとなると、本当に働いているのか、管理できないのでは。

青野:サイボウズではウソは絶対にアウトです。「公明正大」であることが多様性のある会社には不可欠です。ウソを言われ始めると、どんどん管理を強化しなければならなくなる。ちょっとしたウソが、どんどん大きな不正へとつながっていきます。ですから、サイボウズではどんなウソでも発覚すると徹底的に糾弾します。

 会議に遅刻をした時に「寝坊しました」と言えば、「たまにはあるよね」といった反応になりますが、「電車が遅れた」と言って、それがウソだったことがバレた時には糾弾されます。かつて「オフィス・グリコ」というのがあって、お菓子が置いてあり、食べた場合にはおカネを入れることになっていました。ところがおカネの計算が合わないわけです。1円たりともズレたら撤去するという約束で設置したので、すぐに撤去しました。

目的を共有して、それに合致すれば良いと仰いました。

青野:社員の提案で様々な制度を入れていますが、「コーヒー代補助」という制度を導入しました。営業の担当者がお客さんとの約束の合間にスターバックスに入ってパソコンで仕事をしているのに、コーヒー代が自腹なのはおかしい」というのが提案理由でした。確かに一理あるので、補助を出すことにしたのです。本当に働いているのか、休憩しているだけではないのか、と言い出したらきりがありません。みんなが公明正大にしていれば、非常に気持ちが良いのです。

日本社会には「ウソも方便」という感覚が色濃くあります。

青野:多様性の高いチームを前提にすると、もはや「あうんの呼吸で理解する」といったことは無理です。マネジメントするにも「本音と建て前」があってはやりにくいのです。そういう意味では、多様性を受け入れるには価値観の転換が必要だということです。

給与の増減にあまり関心を持たない人もいる

ライフステージに合わせて、子育て中なので今は残業はしないとか、短時間の勤務しかしない、という選択が可能だそうですが、評価は難しいのではないでしょうか。給与は年俸制ですか。

青野:その人がどれぐらいの市場性があるか、平均的な市場価格の給与をお互いの納得のうえで決めています。他のソフトウエア会社の平均給与と比べても決して高くはないのですが、給与の増減にあまり関心を持たない人も少なくありません。

 チームに所属して働く時に報酬というのは1つの要素に過ぎません。給与が少しぐらい高くても、上司との折り合いが悪くて猛烈にストレスがたまるなど、その他の条件がある。また、家族との生活を楽しむ時間が作れるとか、自分の好きな仕事ができるなど、金銭以外の報酬もあります。

 労働は苦役だとされてきましたが、自分が働く楽しさを知って自立する、そんな時代になっているのではないでしょうか。

多様な働き方を社員がすると、情報共有が大事になるのではないでしょうか。

青野:もちろんです。グループウエアを使うことで、基本的に情報はオープンに共有されています。誰が今、どんな仕事をしているかがチーム内で相互に分かるわけです。プライバシー情報とインサイダー情報以外はオープンにすることになっています。

上司と部下の風通しは良いのですか。

青野:上司に匿名でダメ出しする仕組みもあります。部下が部長以上の上司を評価します。上司は自分に対する評価をパソコンで見ることができます。例えば私に対する社員の評価を見ると、青野さんは公明正大かどうかという質問に92%がYESと答えていますね。

社員が集える「バー」を作ることを最初に決めた

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サイボウズはユニークなオフィス作りでも有名ですが、日本橋に本社を移転されたのですね。

青野:本当にリアルなオフィスがいるのか、いるとしたら何が必要なのかを考えました。日本橋の地下鉄駅の上にできた新築ビルに移ったのは、便利な場所だからです。お客様にとっても社員にとってもリアルに会うなら便利な場所がいい。2フロアの下の階は交流するためのスペースで、お客様がいらした時の応接スペースや会議室があります。外部からいらした方がちょっとした作業をするスペースもあります。

 まっ先に作ることを決めたのが、バーです。夕方になると社員が集まってきて宅配ピザか何かをとって一杯やる。リアルな情報交換の場になります。

 その横には「リビング」があります。急に子どもが熱を出して保育園に預けられない場合、子どもを見ながらお母さんが仕事を片付けられる。そんな使い方もあります。

 上のフロアはパーテーションのない大部屋スタイルで、誰が何をしているかが見える形になっています。本当にワークスペースが必要なのか悩んだのですが、今のところ、やはり会社に来て仕事をしたいという人が多いですね。

青野さんが最近出版された『チームのことだけ、考えた』(ダイヤモンド社)を拝読しました。サイボウズ創業以来の盛衰や、青野さんの思考の軌跡をたどることができ、なかなかの経営書だと思いました。

青野:私は理科系なので、論理的に考え、結論を導いていく癖があります。多様な働き方を目指していくうえで、社員が理想に共感して、同じ目的を目指すことが大事だということに気づきました。私たちが目指すのは「グループウエアで世界一の会社になること」です。売り上げや利益だけを追うことではありません。株主も、配当や株価の上昇だけを求める人ばかりではありません。最近は株主総会がサイボウズのファンの集いのようになってきました。株主も私たちのチームの一員なのです。理想やビジョンを実現するためのチーム、株主と株式会社の関係も、そんな形が原点だったのではないでしょうか。

2016-04-15

特別インタビュー 大塚久美子[大塚家具社長] 会社の永続こそ創業一族の利益

| 12:43

日経TOP LEADER 2016年3月号に掲載された大塚家具・大塚久美子社長の特別インタビューを編集部のご厚意で再掲させていただきます。インタビューは2月に行ったものです。

会社の永続こそ創業一族の利益

1年前、創業者で会長の父と社長の長女が経営権を巡って争った大塚家具。

創業一族と会社の関係はどうあるべきなのか。

次世代へのバトンタッチはどうするのか。大塚久美子社長に聞いた。

聞き手、磯山友幸=経済ジャーナリスト

−ファミリービジネスでの事業継承が増えています。昨今の会見の際、創業者と後継者はそもそもタイプが違うという話をされていました。

大塚 どんな会社も、最初は創業者がその人の個性で作り上げるわけです。でもそういう強烈な個性を持っている人は二人としていないわけですよね。ですから、創業者と同じパターンで次の世代が会社を運営するのは難しい。私たちが抱えていたのはそこで、一人の強い個性の創業者によるカスタムメードの会社になっていたものを、どうやって移行していくかという問題に直面していたのです。

−創業者が個性でひっぱる会社から、組織的に運営する会社に変えていくということでしょうか。

大塚 私が大塚家具に入った1994年の時点からある程度、会社の規模が大きくなるのに合わせて、組織の運営も変えていこうという風潮はありました。私が社長になったのは2009年ですが、それ以来、マネジメント層をいかに育成するかという観点でやってきました。ちょうど、前の世代の経営層が定年に差し掛かり、次をどう育てるかが大きな課題だったのです。当時の50歳代の社員は10人もいませんでした。その世代がすっぽり抜けていたのです。

 組織的な運営にできるだけスムーズに移行できればいいのですが、役員や従業員の動き方や働き方、機能の仕方が大きく変わることになりますから、非常に手間がかかる話でした。多かれ少なかれ、エネルギーをかけざるを得ない問題だったのです。もちろん、摩擦が起こることもあるわけです。

−社長に就任される前は、取締役会は大塚一族が占めていたのですね。

大塚 はい。2007年には5人のボードメンバーが全員大塚姓でした。直前に、会社による自社株買いがインサイダー取引だとみなされて課徴金を課される不祥事が起きたのですが、当局の目が厳しかった背景には閉鎖的な同族支配が原因だという見方があったと思います。不祥事を機に私が顧問として会社に戻る際、取締役会に社外取締役を入れることを条件にしました。全員大塚だから何かを起こすわけではもちろんないのですが、やはり、社内だけで役員会を構成すると、どうしても同質になります。同じ経験をしている人の集団は、気が付かないうちにモノの考え方が偏ってしまうものです。

 うまく会社が回っている間は、むしろ効率的なところもあるのですが、社会の考え方や制度が変わると、ついていけなくなってしまう。やはり、多様性を持つことは大切で、リスク分散の観点からも社外取締役が必要だと思いました。

−日本企業の多くは、「よそ者」を取締役に迎えることに躊躇します。大塚家具では抵抗はなかったのですか。

大塚 そこは当時の社長(大塚勝久氏)が社外取締役を入れようといえば反対する人はいなかったと思います。背景に不祥事が有りましたから、ある程度やむを得ないという判断だったのでしょう。

−それ移行も、社外取締役のウエートを高めようとされて、結果としては、それが創業者との摩擦になったように見えます。

大塚 経営層に空白の世代がある中で、世代交代していかなければならないという問題と同時に、日本社会の世代交代も重なっていました。お客様である消費者が大きく変わり始めていたのです。人口減少社会になって住宅着工も大きく減り、消費行動が変わっていく中で、かつての成功したビジネスモデルでも、世の中の変化に適応するためには、変えていかなければならない。マネジメントの転換と、ビジネスモデルの転換という2つの課題に同時に直面したようです。会社のビジネスのあり方も変えなければならないという重荷をかかえることになったのです。

−どういうガバナンスの形を目指していたのでしょう。

大塚 理想形があるわけではありません。与えられたリソースで最善を追求するしかないと思います。昨年、中期経営計画書に盛り込んだように、多様なスキルを持った社外取締役の構成にすることで、社内の経営層の育成が不十分な部分を補うことにしたわけです。

−取締役会は変わりましたか?

大塚 昔と今の両方の取締役会を知る役員は、かなり変わったと実感しているのではないでしょうか。実質的な議論ができるようになったと思います。健全にチェック機能が働くようになりました。いろいろな観点から議論がなされるので、社内も対応していくのは大変ですが、会社にとっては良いことだと思います。

−創業者一族、あるいは大株主との関係はどうあるべきでしょうか。

大塚 いろいろな大株主がいます。それぞれに株を持つ動機、理由、優先順位が違います。同じ投資ファンドでも、今年と来年では優先順位が違うことも有る。各々の株主がどういう保有動機なのか、優先順位を理解したうえで、多様な要望に対してバランスをとっていくことが大事だと思います。ただ、企業価値を上げることは共通の利益といえるでしょう。

−大塚家具と大塚一族の関係の将来像はどうあるべきだと思いますか。

大塚 こうであってほしいと思っても、そうなることではありません。関係を維持したくても日本では制度上、なかなか許されない。例えば相続などが起きれば、相続税を支払うために株式を売却せざるを得ない一族も出てきますから、持ち株比率を維持するのは簡単ではありません。創業家と会社の関係は、現実にはどんどん薄くなっていく。時間の経過とともに薄くなることを前提に、どうしたら会社の長期的な価値を高めていけるかを考えるしかないでしょう。

 ひとりの創業者が立ち上げた会社も、株式上場などでステークホルダーが増えていけば、基本的に社会的存在です。利害関係者もたくさんいて、無視することは不可能です。そうした関係をいかに良好に継続し、企業価値に収斂されるか、社会的価値をどうやって上げていくか、というところが一番の問題になってきます。

−創業家が株主として経営に一定のコミットすることで、長期的な視点での経営が確保できるという考え方もあります。

大塚 それはそれでいいと思います。ただ、ファミリービジネスの場合、血縁関係が前提に鳴るのだとすれば、次の世代の人は一族の中にいるのか、という話にもなります。現実に私には子どもはおりません。たまたま血がつながっている優秀な子や養子にバトンを渡して、それが企業価値の向上に資するのであれば、それはあそれでハッピーですが、なかなかやろうと思ってできることではありません。

 当社の場合は、遠い先のことはわかりませんが、会社を受け継ぐことができる世代の血縁者というのは、いまの会社の中にはいないのです。「家業」というと、子どものときから身近に商売を見ていて、なんとなく身体に染み付いているわけで、私なども創業の時から近くで見ているわけですが、今、そういう環境にいた人は一族にはいないのです。そうなると、むしろ会社のことを知っているのはプロパー社員。長く大塚家具で働いて、一番、実態を見ているのは社員なわけです。

−いずれ社長の後継問題も出てきますね。

大塚 いま、取締役会でも議論していますが、経営層をどう育成していくかはビジネスモデルの変革と並んで重要な問題です。今回のビジネスモデルの改革が成功したとしても、世の中の変化によって、また10年後、20年後に同じ問題が起きるでしょう。そういう変化に直面してリーダーシップを取れる人がいないと困るわけです。社内で今までやってきた延長線上だけではなく、一歩引いた目線で見ることが出来る人たちを、層として育成していかないと、次の自体に対応できなくなってしまいます。そこが今の経営陣に求められていることではないかと思います。

 事情は会社によって異なりますが、会社が健全に生き延びていかないと、株を持っている創業家としても利益を守れません。そういう意味では、まずは企業価値を高めることだと思います。

−久美子社長が考えるビジネスモデルとは何でしょう。

大塚 創業精神である「いいものを安く」「生活の質をあげる物を、多くの人に使ってもらいたい」ということは、ずっと変わりません。しかし、どういう手段で暮らしの質を上げるかは、時代によって変わります。モノ自体が大事な時もあれば、暮らし方や生活の知恵といったソフトが大事な局面もある。ただ、その生活の質を大事にするという価値観は大塚家具のアイデンティティーです。それをどう提供するかという仕組みがビジネスモデルです。

−2月には新宿店を大きく改装されましたが、反応はどうですか。

大塚 担当者が付いてご案内しなくても店内を歩いていれば様々な情報が得られるように店作りを変えました。また、インテリアアクセサリーを置いて、お客様が頻繁にやってきても楽しむことができるようにしました。まずはお客様にお店に来ていただかなければ始まりません。改装の結果、来店客数は前年度と比較して今のところ4割増えてしまいます。短時間で気軽に変えるような仕組みを作りましたが、それをきっかけに、より大きなビジネスに結びつけていくことが重要になってきます。