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2018-07-06

安倍内閣弱体化で「規制改革」が正念場に 国家戦略特区のつまずきで誤算

| 20:43

日経ビジネスオンラインに7月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/070500080/

加計学園問題で国家戦略特区に批判が集中

 内閣支持率は底割れを回避し、奇妙な「安倍一強状態」が続いている。森友学園問題や加計学園問題への対応には、多くの国民が不信感を抱いているものの、野党からも自民党内からも安倍晋三首相を脅かす勢力は出て来ない。

 だからといって、かつてのような求心力が働いているわけでもない。野党が反対した働き方改革関連法も何とか成立させたが、結局は数頼みだった。

 そんな中で、猛烈な逆風が吹き始めているのが「規制改革」である。第2次安倍内閣発足以降、安倍首相が推進してきたアベノミクスでは、「3本の矢」の「3本目」として「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げた。そして、成長戦略の「1丁目1番地は規制改革」だと言い続けてきた。

 当初「3本目の矢」には、海外投資家などが大きく期待し、株価上昇の原動力になった。規制改革で日本経済の「稼ぐ力」が増せば、株価が上昇するという期待が盛り上がったのである。ところが、その規制改革が、ここへきて、逆風にさらされているのだ。

 最大の要因は、安倍首相が「規制改革の1丁目1番地」と位置付けてきた「国家戦略特区」のつまずきである。首相は「岩盤規制」に穴をあけるドリルの刃になると宣言、医療や農業、労働市場を名指しして改革をぶち上げた。全国一律に規制を緩和するのではなく、特区でまず規制をぶち破り、それを全国に広げていく。そんな作戦を立てたのだ。

 ところが加計学園問題で、この特区に批判が集中することとなった。特区には2014年3月に東京圏関西圏兵庫県養父市などが地域指定され、2016年1月に「広島県今治市」が3次指定として追加された。そして、特区担当大臣と自治体の長、事業者の三者で更生する「区域会議」で、獣医学部の新設を盛り込んだ。

 獣医学部新設は50年以上にわたって認められてこなかった「岩盤規制」である。結局、事業者として手を挙げた加計学園が、特区として認定された今治市内で2018年4月に獣医学部を新設したが、その認可の過程で、加計学園理事長と長年の友人である安倍首相の指示あるいは、官僚たちによる忖度があったのではないか、という批判が野党を中心に噴出したのだ。つまり、「加計ありき」で安倍首相特区制度を利用したのではないか、というわけだ。

規制改革を求める「事業者」が登場するか

 獣医学部の新設に関しては、特区諮問会議のワーキンググループ(WG)が医学部新設とともに早い段階から「岩盤規制」として俎上に載せていた。2014年以降、WGでの議論に登場するが、議事録を読む限り最も熱心だったのは座長の八田達夫・大阪大学名誉教授だ。何せ50年以上も学部新設を許可しない文科省行政は、岩盤規制そのものだと八田教授は考えたようだ。WGのメンバーは記者会見を開き、今治市選定のプロセスについてこう語った。

 「今回の規制改革は、国家戦略特区のプロセスに則って検討し、実現された。言うまでもなく、この過程で総理から『獣医学部の新設』を特に推進してほしいとの要請は一切なかった」

 規制改革プロセスとしては「一点の曇りもない」と強調したのだ。八田教授は国会での参考人聴取でも同様の発言を繰り返した。また、特区諮問会議の議員に名を連ねた坂根正弘・コマツ相談役も、首相の関与などありえないと発言している。

 それでも野党の批判は執拗に続いた。安倍首相も最後まで選定プロセスには全く関与しておらず、一点の曇りもないと繰り返したが、安倍首相の意向を忖度して加計学園が選ばれ、特区獣医学部開設を実現できた、という印象が定着した。

 もともと、特区は、首相のリーダーシップによって各省庁が抵抗する「岩盤規制」を突破しようという仕組みだ。もちろん、各省庁の後ろには、既得権を持つ業界団体がいる。獣医学部の新設が50年にわたって実現しなかったのも、「獣医師は余っている」という獣医師会の反対を受けて、文部科学省などが認可しなかったためだ。加計学園は今回の特区申請以前にも、繰り返し獣医学部新設を要望したが、ずっと拒否され続けてきた。

 実は、特区制度で最大の難関は、規制改革を求める「事業者」が手を挙げるかどうか。特区は前述の通り、国と地方自治体、事業者の3者が一体となって規制に挑む仕組みだ。だが、手を挙げる事業者からすれば、既得権を握る同業者や、その利益を守っている監督官庁を敵に回すことになる。役所を敵に回せば、その案件は通っても、他のどこで意地悪をされるかわからない。まさに「江戸の敵を長崎で討たれる」ことになりかねないのだ。

 加計学園問題で特区が批判されるようになって以降、特区制度を使って規制を突破しようとする事業者が激減している。企業など民間からすれば、いくら政治家や内閣府が後押ししてくれても、監督省庁と事を構えるのは危険だ。安倍内閣も永遠に続くわけではない。

 特区に選ばれた自治体も尻込みしている。「これまでは特区に選ばれたことが大きなPR材料だったが、なぜ特区などに手を挙げたのかという批判から住民の中からも出るようになった」(特区に指定されている自治体の首長)という。自治体の首長としても特区に手を挙げるのがリスクになり始めているのだ。

「目玉不足」の規制改革実施計画

 政府が6月に閣議決定した成長戦略「未来投資戦略2018」には、「国家戦略特区の推進」という項目が残っている。だが、143ページにわたる戦略本文の中で、わずか1ページと6行だけである。規制改革の「1丁目1番地」はまさに風前の灯火だ。

 同じ6月15日には「経済財政運営と改革の基本方針2018〜少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現〜」、いわゆる「骨太方針」と、「規制改革実施計画」も閣議決定されている。この3つを同時に閣議決定し、それを行政の方針として7月以降の「事務年度」で実行に移していく、というのが第2次安倍内閣以降のやり方になっている。霞が関にとって「閣議決定」は重く、内閣の方針として決められた事として、行政はそれに何らかの「答え」を出す事が求められる。

 霞が関の官僚は、閣議決定された方針に真正面から反対することは出来ない。面従腹背することも可能だが、成果を上げなければ、官僚としての評価が下がる。この3本の閣議決定は極めて大きな意味を持つのだ。

 だが、今年は「規制改革実施計画」がニュースで大きく取り上げられることはなかった。「目玉」に乏しかったのである。

 実施計画を策定したのは政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授、元経済財政政策担当大臣)である。計画には、「改革の重点分野」として、「行政手続コストの削減」、「農林」、「水産」、「保育・雇用」、「医療・介護」、「投資等」及び「その他重要課題」を掲げている。農林ではかつてJA全中の解体などを掲げ、大きな議論になったが、ひと山越えた感じになっている。

 今年の計画では、放送と通信の融合に向けた規制改革などが盛り込まれているが、今ひとつ話題にならなかった。

 これまで、農業ではJA、医療では医師会、雇用問題では労働組合などを、岩盤規制を守る既得権者とみなし、政治が前面に出てそうした団体と戦う姿勢を安倍首相らは取り続けてきた。そうした改革姿勢が国民の支持を得て、高い支持率につながると考えたのだろう。

 ところが、ここへきて内閣の足元が揺らぐとともに、そうした既得権者をやり玉に挙げて規制改革を進める手法はなりをひそめるようになった。安倍首相が「敵を作らない」方針に変えたのかどうかはわからない。だが、規制改革をめぐる永田町霞が関のムードが大きく後退していることだけは間違いない。

2018-07-04

安倍内閣弱体化で「規制改革」が正念場に 国家戦略特区のつまずきで誤算

| 20:43

日経ビジネスオンラインに7月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/070500080/

加計学園問題で国家戦略特区に批判が集中

 内閣支持率は底割れを回避し、奇妙な「安倍一強状態」が続いている。森友学園問題や加計学園問題への対応には、多くの国民が不信感を抱いているものの、野党からも自民党内からも安倍晋三首相を脅かす勢力は出て来ない。

 だからといって、かつてのような求心力が働いているわけでもない。野党が反対した働き方改革関連法も何とか成立させたが、結局は数頼みだった。

 そんな中で、猛烈な逆風が吹き始めているのが「規制改革」である。第2次安倍内閣発足以降、安倍首相が推進してきたアベノミクスでは、「3本の矢」の「3本目」として「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げた。そして、成長戦略の「1丁目1番地は規制改革」だと言い続けてきた。

 当初「3本目の矢」には、海外投資家などが大きく期待し、株価上昇の原動力になった。規制改革で日本経済の「稼ぐ力」が増せば、株価が上昇するという期待が盛り上がったのである。ところが、その規制改革が、ここへきて、逆風にさらされているのだ。

 最大の要因は、安倍首相が「規制改革の1丁目1番地」と位置付けてきた「国家戦略特区」のつまずきである。首相は「岩盤規制」に穴をあけるドリルの刃になると宣言、医療や農業、労働市場を名指しして改革をぶち上げた。全国一律に規制を緩和するのではなく、特区でまず規制をぶち破り、それを全国に広げていく。そんな作戦を立てたのだ。

 ところが加計学園問題で、この特区に批判が集中することとなった。特区には2014年3月に東京圏関西圏兵庫県養父市などが地域指定され、2016年1月に「広島県今治市」が3次指定として追加された。そして、特区担当大臣と自治体の長、事業者の三者で更生する「区域会議」で、獣医学部の新設を盛り込んだ。

 獣医学部新設は50年以上にわたって認められてこなかった「岩盤規制」である。結局、事業者として手を挙げた加計学園が、特区として認定された今治市内で2018年4月に獣医学部を新設したが、その認可の過程で、加計学園理事長と長年の友人である安倍首相の指示あるいは、官僚たちによる忖度があったのではないか、という批判が野党を中心に噴出したのだ。つまり、「加計ありき」で安倍首相特区制度を利用したのではないか、というわけだ。

規制改革を求める「事業者」が登場するか

 獣医学部の新設に関しては、特区諮問会議のワーキンググループ(WG)が医学部新設とともに早い段階から「岩盤規制」として俎上に載せていた。2014年以降、WGでの議論に登場するが、議事録を読む限り最も熱心だったのは座長の八田達夫・大阪大学名誉教授だ。何せ50年以上も学部新設を許可しない文科省行政は、岩盤規制そのものだと八田教授は考えたようだ。WGのメンバーは記者会見を開き、今治市選定のプロセスについてこう語った。

 「今回の規制改革は、国家戦略特区のプロセスに則って検討し、実現された。言うまでもなく、この過程で総理から『獣医学部の新設』を特に推進してほしいとの要請は一切なかった」

 規制改革プロセスとしては「一点の曇りもない」と強調したのだ。八田教授は国会での参考人聴取でも同様の発言を繰り返した。また、特区諮問会議の議員に名を連ねた坂根正弘・コマツ相談役も、首相の関与などありえないと発言している。

 それでも野党の批判は執拗に続いた。安倍首相も最後まで選定プロセスには全く関与しておらず、一点の曇りもないと繰り返したが、安倍首相の意向を忖度して加計学園が選ばれ、特区獣医学部開設を実現できた、という印象が定着した。

 もともと、特区は、首相のリーダーシップによって各省庁が抵抗する「岩盤規制」を突破しようという仕組みだ。もちろん、各省庁の後ろには、既得権を持つ業界団体がいる。獣医学部の新設が50年にわたって実現しなかったのも、「獣医師は余っている」という獣医師会の反対を受けて、文部科学省などが認可しなかったためだ。加計学園は今回の特区申請以前にも、繰り返し獣医学部新設を要望したが、ずっと拒否され続けてきた。

 実は、特区制度で最大の難関は、規制改革を求める「事業者」が手を挙げるかどうか。特区は前述の通り、国と地方自治体、事業者の3者が一体となって規制に挑む仕組みだ。だが、手を挙げる事業者からすれば、既得権を握る同業者や、その利益を守っている監督官庁を敵に回すことになる。役所を敵に回せば、その案件は通っても、他のどこで意地悪をされるかわからない。まさに「江戸の敵を長崎で討たれる」ことになりかねないのだ。

 加計学園問題で特区が批判されるようになって以降、特区制度を使って規制を突破しようとする事業者が激減している。企業など民間からすれば、いくら政治家や内閣府が後押ししてくれても、監督省庁と事を構えるのは危険だ。安倍内閣も永遠に続くわけではない。

 特区に選ばれた自治体も尻込みしている。「これまでは特区に選ばれたことが大きなPR材料だったが、なぜ特区などに手を挙げたのかという批判から住民の中からも出るようになった」(特区に指定されている自治体の首長)という。自治体の首長としても特区に手を挙げるのがリスクになり始めているのだ。

「目玉不足」の規制改革実施計画

 政府が6月に閣議決定した成長戦略「未来投資戦略2018」には、「国家戦略特区の推進」という項目が残っている。だが、143ページにわたる戦略本文の中で、わずか1ページと6行だけである。規制改革の「1丁目1番地」はまさに風前の灯火だ。

 同じ6月15日には「経済財政運営と改革の基本方針2018〜少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現〜」、いわゆる「骨太方針」と、「規制改革実施計画」も閣議決定されている。この3つを同時に閣議決定し、それを行政の方針として7月以降の「事務年度」で実行に移していく、というのが第2次安倍内閣以降のやり方になっている。霞が関にとって「閣議決定」は重く、内閣の方針として決められた事として、行政はそれに何らかの「答え」を出す事が求められる。

 霞が関の官僚は、閣議決定された方針に真正面から反対することは出来ない。面従腹背することも可能だが、成果を上げなければ、官僚としての評価が下がる。この3本の閣議決定は極めて大きな意味を持つのだ。

 だが、今年は「規制改革実施計画」がニュースで大きく取り上げられることはなかった。「目玉」に乏しかったのである。

 実施計画を策定したのは政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授、元経済財政政策担当大臣)である。計画には、「改革の重点分野」として、「行政手続コストの削減」、「農林」、「水産」、「保育・雇用」、「医療・介護」、「投資等」及び「その他重要課題」を掲げている。農林ではかつてJA全中の解体などを掲げ、大きな議論になったが、ひと山越えた感じになっている。

 今年の計画では、放送と通信の融合に向けた規制改革などが盛り込まれているが、今ひとつ話題にならなかった。

 これまで、農業ではJA、医療では医師会、雇用問題では労働組合などを、岩盤規制を守る既得権者とみなし、政治が前面に出てそうした団体と戦う姿勢を安倍首相らは取り続けてきた。そうした改革姿勢が国民の支持を得て、高い支持率につながると考えたのだろう。

 ところが、ここへきて内閣の足元が揺らぐとともに、そうした既得権者をやり玉に挙げて規制改革を進める手法はなりをひそめるようになった。安倍首相が「敵を作らない」方針に変えたのかどうかはわからない。だが、規制改革をめぐる永田町霞が関のムードが大きく後退していることだけは間違いない。

2018-06-22

株主総会が大きく「変質」、主役はファンド 経営陣も無視できない「株主提案」増える

| 20:04

日経ビジネスオンラインに6月22日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/062100079/

株主総会ピークは6月28日

 株主総会が佳境だ。東証上場の3月期決算企業2340社余りのうち、15%に当たる359社の総会が6月22日に開かれ、総会シーズンが本格化する。最も多いのが6月28日の木曜日で、全体の31%に当たる725社が開催する予定だ。28日に次いで多いのが27日、そして26日。22日と合わせた4日間で全体の80%が総会を開く。

 今年の株主総会の注目点は、「株主提案」の行方だ。一定数の株式を持っている株主が総会に「議案」を提出するもので、基準日の6カ月以上前から議決権の100分の1または300個以上の議決権を有する株主が権利行使できる。8週間前までに会社に通告した場合、会社は総会の招集通知に株主提案として記載、議題にしなければならないのだ。

 株主提案は年々増えている。昨年2017年6月の総会では40社に合計212議案が出された。2016年は37社167件、2015年は29社161件だった。当初は、原発反対の株主が電力会社の株主になって原発廃止の議案を提出するといった使われ方がされていたが、ここへきて、株主の利益を左右するような提案が増えている。

 例えば、6月20日に都内で株主総会を開いた新生銀行の場合、米国ヘッジファンドであるダルトン・インベストメンツが新たな役員報酬制度の導入を求める議案を提出していた。同じ総会で新生銀行は会社提案として、取締役の年間報酬枠合計1億8000万円のうち、2000万円を上限に株式で支給する新たな役員報酬制度を提案していた。役員報酬の一部を、一定期間譲渡できない株式で支給することで、株価上昇を意識した経営を促す仕組みだ。

 これに対してダルトンが株式部分を2000万円では不十分だとして、上限を2億円とするよう求める「株主提案」を出していたのだ。

 これらの議案について、議決権行使助言会社である米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、株主提案に賛成するよう推奨していた。助言会社の推奨には海外の機関投資家が従う傾向が強いため、新生銀行総会での議案の行方が注目された。結局、総会では会社側提案が可決された。

取締役選任、配当積み増し、保有株の分配……

 株主提案は通らなかった格好だが、経営陣には大きな圧力になったのは間違いない。株価上昇に向けた役員のインセンティブ付与をどうするかなど、機関投資家にとっても大きなテーマで、こうした提案を無下に扱うことはできなくなっている。

 例えば、6月28日に開かれるフェイスの株主総会では、米国投資ファンドであるRMBキャピタルが、RMBのパートナーである細水政和氏を社外取締役として選任するよう求める株主提案を行っている。RMBはコーポレートガバナンスの強化など、経営改革を求める姿勢を強調しているが、これに対して、会社側も“対抗措置"を打ち出した。

 会社側が提案する取締役候補を、従来の社内取締役5人、社外取締役2人から、社内5人、社外3人とし、社外取締役の割合を3分の1以上に引き上げたのだ。経営陣もただ単に株主提案に反対するだけでは、その他の機関投資家など株主の支持を得られなくなっているわけだ。

 株主提案で、配当の積み増しなど、利益配分を求めるケースも増えている。6月21日に開かれたアルパインの株主総会では、香港投資ファンドオアシス・マネジメント・カンパニーが増配や社外取締役の選任を求める株主提案を提出した。オアシスは2018年3月期の期末配当を会社側提案の15円ではなく、325円にするよう求めた。

 親会社であるアルプス電気がアルパインを完全子会社化する方針を掲げているが、これに1割弱のアルパイン株を保有するオアシスが反対。社外取締役を送り込むことや、増配を求めていた。 この提案にもISSは賛成推奨していたが、総会ではこの株主提案も否決された。

 やはり6月28日に開催されるTBSホールディングス(以下、TBS)の株主総会に出されている株主提案も注目される。英国ファンドであるアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が、TBSの保有する東京エレクトロンの株式を、TBS株主に分配せよ、と求めているのだ。AVIは今年3月末時点で2%弱のTBS株を保有しているとされる。

 TBSはいわゆる「政策投資」として東京エレクトロンの株式を770万株、発行済み株式の4.7%分を持っている。いわゆる持ち合い株だが、この770万株のうち4割に当たる306万4414株を株主に現物配当せよ、と要求しているのだ。

 TBSの大株主には三井物産や三井住友銀行、三井不動産など大企業が名を連ねており、2%しか株を持たない海外投資家の提案が通る可能性は低いが、注目される理由がある。

 東京証券取引所が6月1日から施行した、「改訂コーポレートガバナンス・コード」で持ち合いに関する「原則」が大幅に改定され、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」とされたのだ。

 さらに「個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」とされ、政策保有する合理的な理由を具体的に示すことが求められるようになった。

「反対」する場合、正当な理由が必要

 TBSは東京エレクトロン株の保有について「従来から、当該株式を企業価値向上のための各種投資の原資として有効に活用しており、今後も、最適なタイミングで随時活用する方針です」と株主総会招集通知に記載。株式の現物を配当すれば多額の税金が課せられることなども理由として、株主提案に反対する、としている。

  問題は、こうした説明に年金基金や生命保険会社などの機関投資家が納得するかどうか。前述のISS株主提案に賛成するよう推奨している。改訂されたコーポレートガバナンス・コードで「縮小」が求められている政策投資を、容認するような議決をすることが許されるか、機関投資家側も大きく迷わざるを得ないのだ。

 というのも、安倍晋三内閣が主導して2014年に「スチュワードシップ・コード」という機関投資家の行動規範が導入されたからだ。生命保険会社や年金基金、信託銀行などの機関投資家は保険契約者や顧客などにとってどちらが利益をもたらすかを検討し、議決権を行使しなければならなくなったのである。

 つまり、英ファンドの提案どおり、東京エレクトロン株を配分してもらうのがよいか、TBSにこれまで通り東京エレクトロン株を保有させておいた方がよいか、最終受益者の立場に立って判断することを迫られるわけだ。

  しかも、機関投資家にとって厄介なのは、その議決権行使の内容について、昨年から個別に開示しなければならないことになったことだ。つまり、TBSの問題について、株主提案への賛否が表に出てしまうのだ。ISSが推奨する株主提案に反対票を投じるには、それなりの理由付けが必要になる。

 その議案が株主にとってプラスになるのか、ならないのか――。株主提案の内容がより株主の損得に直結する問題になってきたことで、経営者も緊張を迫られるようになってきた。もはやシャンシャン総会という言葉も死語になりつつある。

 スチュワードシップ・コードにせよ、コーポレートガバナンス・コードにせよ、アベノミクスの成長戦略の一環として導入されてきたものだ。狙いは日本の上場企業に「稼ぐ力」を取り戻させること。要は収益力を引き上げるために機関投資家など株主のプレッシャーを利用しようとしたのである。株主提案の増加や、株主総会での企業の対応を見ると、そうしたコーポレートガバナンス改革は、少しずつ前に進んでいるように見える。

2018-06-08

「ニセコ」が国際リゾートに変貌した真相 立役者のロス・フィンドレー氏に観光戦略を直撃

| 08:08

日経ビジネスオンラインに6月8日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/060700078/

 北海道倶知安町。2018年の公示地価で、住宅地、商業地ともに上昇率全国トップに躍り出た。理由は外国人にスキーリゾートとして「ニセコ」が人気を博していること。外国人自身が別荘などとして不動産を取得しているほか、リゾートとしての発展を見込んだ投資も増えている。いわゆるインバウンド(訪日外国人)に沸いている町だ。2018年1月時点の町の人口は1万6492人だが、うち1648人が外国人。何と1割が外国人という日本の地方としては有数の“国際化”が進んだ地域でもある。そんな倶知安町に30年近くにわたって住み、ニセコの魅力を発信してきたNAC(ニセコアドベンチャーセンター)のロス・フィンドレー社長に話を聞いた。 (聞き手は磯山友幸)


世界中のスキーヤーに高い人気

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ロス・フィンドレー氏

1964年オーストラリア・メルボルン生まれ。キャンベラ大学卒業。米国やスイスでスキーのインストラクターを経験。1989年来日、札幌でスキー学校のインストラクターなどを務める。1992年倶知安町に移住。建設会社で働きながら、スキーのインストラクターを続ける。1994年ニセコアドベンチャーセンター(NAC)設立。社長に就任して今に至る。冬のスキーによる観光しかなかったニセコ地域に、ラフティングなど夏の体験観光を付加、広く国内外から観光客を集めることに成功した立役者。日本人の妻との間に4人の子どもがいる。


――日本は政府をあげて訪日外国人の受け入れ増加を目指しています。2017年は2869万人が訪れました。ニセコ地域はオーストラリアや欧米からの観光客が多く、観光地として成功していますね。

ロス・フィンドレー氏(以下、フィンドレー):「ニセコ」ブランドが世界で通用するようになってきました。スキーヤーの間では、スイスのサンモリッツやカナダのウィスラーに引けをとらない知名度になっています。2000年頃にオーストラリアの旅行会社がニセコのスキーを商品にして200人くらい来ました。それをきっかけに、雪質が最高だということで、評判が評判を呼びました。ここは、シーズン中ずっとパウダースノーで、アイスバーンになりません。ただ、リゾート地としての整備はまだまだです。

――何が問題なのでしょうか。

フィンドレー:通年雇用が多くないので、なかなか優秀な人材が腰を落ち着けて住んでくれません。通年雇用を生む観光業やビジネスを広げなければいけません。私の会社NACでは夏にラフティングを始め、今では夏の間にラフティング目当てのお客さんが3万人近く来るようになりました。

 冬のスキー、夏のラフティングと目玉ができましたが、それでも5、6、10、11の4カ月はお客さんがほとんど来ません。ホテルも営業を休み、海外の人もいなくなります。別荘などもガラガラです。稼働率が極端に落ちる中で従業員を雇い続けることが難しいわけです。


観光開発の「グランドデザイン」が不可欠

――1年中お客さんに来てもらう仕掛けづくりが重要だ、と。

フィンドレー:ええ。1週間は滞在して欲しいので、1週間分の「遊び」を用意しなければいけません。尻別川での川遊びも、ラフティングだけでなく、カヤックや小型のボート「ダッキー」、立って乗る「サップ(スタンドアップパドル)」などに広げています。林道や山道、川原、草原などを走るマウンテンバイク・ツーリングも始めました。

 2017年11月にオープンしたのが「NACアドベンチャーパーク」です。町有林を借りて高さ4メートルから13メートルくらいの高さに様々な足場を付け、木から木へと移動していくスリリングな遊びです。難易度の異なるコースがありますが、小学校高学年ぐらいから楽しめます。

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ニセコアドベンチャーセンター(NAC)


――春から秋までお客さんを引き寄せられる目玉を作っているわけですね。地域の行政や民間が一体になって取り組んでいるのですか。

フィンドレー:そこが問題なんです。町、北海道、国がバラバラで統一したビジョンがないのです。国も観光庁や国土交通省、農林水産省、経済産業省など縦割りです。

――グランドデザインが描けていない、と。

フィンドレー:観光開発にはこの地域をどんなエリアにしてブランドを磨いていくのか、グランドデザインが不可欠です。私はアジアのアウトドアの中心地にできると思っています。気候が良く、空気も水も綺麗なニセコに、アジアの都市住民が喧騒を逃れてやってくる。「アウトドアはニセコ」というブランドを距離の近いアジアでプロモーションしていくべきだと考えています。

――ところが省庁は縦割りでまとまらない。

フィンドレー:私たち民間が何かやろうとして認可を求めても、お役所仕事ですぐに1年2年かかってしまいます。役所の職員は時間がかかってもその間給料がもらえますが、民間は収入なしで従業員を食べさせていかなければなりません。

 町長はいろいろな意見をもった人の調整役で、大変だと思います。しかし、町としてのビジョンを掲げるべきだと思いますね。例えば、将来の人口を何人にするかをもっと高く掲げてもいい。

――倶知安町の不動産価格が全国トップの上昇率になっています。

フィンドレー:投資で新しいおカネが入って来ることはとても大切です。一方で、不動産価格が上がると、住宅の賃料も上がり、スキー場で働こうとする若い人たちの大きな負担になります。町営アパートを活用するなど対策が必要です。


英語ができないと仕事にならない

――NACなどフィンドレーさんの会社では何人ぐらい雇っているのですか。

フィンドレー:社員は20数人ですが、夏になるとアルバイトなどで90人くらいになります。ニセコも人手不足です。ここでは英語ができないと仕事になりません。英語ができないと、雪下ろしのような仕事しかできない。町民教育、グローバル教育に力を入れていく必要があります。

 今は、優秀な人材ほど町から出ていきます。高校進学や大学進学のために出て行って戻ってきません。この町で教育を受けて国際的な大学受験資格であるインターナショナル・バカロレア(IB)を取れるようにする。「グローバル教育研究会」というのが立ち上がって、IBについて研究しています。英会話を学ぶ機会を増やすなど、少しずつ前に進んでいます。

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NACのカフェからは羊蹄山が一望できる


――ニセコに住みたいという外国人は多いのですか。

フィンドレー:冬だけやってくる外国人も多いのですが、今、定住していて夏もいるのは500世帯くらいでしょうか。日本で暮らしたいと考えている外国人の中には、子どもを東京ではなく自然の多いところで育てたいという人が少なくありません。そうした人たちにニセコは魅力的です。だからこそ、通年で働ける仕事が重要なのです。通年で働ける仕事でないと、スタッフの質も上がりません。

――フィンドレーさんはなぜニセコに定住したのですか。

フィンドレー:1989年に日本に来ました。札幌・手稲の三浦雄一郎さんのスキースクールでインストラクターをしていましたが、ニセコに遊びに来た時に、若い人たちがたくさん集まっていて非常に楽しかった。もちろん雪質が良いことにもひかれました。それでニセコで働くことにしたのですが、なかなか仕事がありません。ようやく建設会社に採用されて3年間働きました。

 オーストラリアの大学時代、スポーツ科学を学んでいたこともあり、自分でスポーツビジネスがやりたかったのです。それでNACを立ち上げました。1994年に設立して24年が過ぎましたが、札幌でクライミングジムを作るなど順調に拡大しています。

――最近では観光庁の「観光カリスマ」に選ばれるなど、政府の会議のメンバーとして、日本の観光行政に意見を述べています。

フィンドレー:繰り返しになりますが、明確なビジョンを示してブランドを磨くこと。そして国際的なプロモーションをきちんと行うことです。これはニセコに限ったことではありません。その町その町の特色を打ち出し、魅力を発信することが何より重要だと思います。まだまだ日本の観光はチャンスがあると思います。

2018-05-25

「高プロ」導入で問われる「労働組合」 働き方が多様化する時代で「存在意義」はどこに?

| 17:46

日経ビジネスオンラインに5月25日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/052400077/

安倍内閣の悲願だった制度導入

 働き方改革関連法案が今国会で成立、「高度プロフェッショナル(高プロ)」制度が導入される見通しとなった。与党である自民党・公明党と、日本維新の会などの一部野党が「働き方改革関連法案」の修正で合意し衆議院を通過する公算で、参議院でも6月20日の会期末までには可決成立する方向だ。仮に会期を延長しても小幅にとどまるとみられる。

 高プロ制は、年収1075万円以上で専門性の高い「社員」に限って、残業規制などの対象から除外する制度。「時間によらない働き方」の制度導入は、2012年末に第2次安倍晋三内閣が成立して以降の懸案だった。

 当初は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれ、経営の幹部候補などを時間規制から除外することを狙ったが、左派系野党が猛反発。対象を高年収の専門職に絞り、「高プロ」として法案をまとめてからも2年以上にわたって審議されず、棚ざらしにされてきた。安倍内閣からすれば「悲願」の制度導入といえる。

 高プロ制はIT(情報通信)技術者やクリエイティブ系の職種など、労働時間と業務成果が比例しない職務につく社員に対して導入される。こうした職種を抱える企業からは、一律、時間で縛る現行制度への不満が長年くすぶってきた。これは働かせる企業側だけでなく、働く社員側にも不合理だとの声があった。

 一方、左派系野党は、年俸だけで際限なく働かせることにつながるとして、「残業代ゼロ法案」「定額働かせ放題プラン」「過労死促進法案」などとレッテルを貼り、徹底的に導入に反対してきた。背景には支持母体である労働組合の根強い反対がある。

 そんな高プロ制が導入に向けて動き出したのは2017年3月末に政府の「働き方改革実現会議」が「働き方改革実行計画」をまとめたのがきっかけ。長時間労働の是正を掲げて、残業に罰則付きで上限を求めることとし、経済界と連合などの間で合意に達した。残業の上限を原則として月45時間とする一方で、どんなに忙しい月でも「100時間未満」とすることとした。

 残業時間については法律で上限が決まっているものの、労使が合意して「36協定(さぶろく協定)」を結べば、実質的に青天井で働かせることができた。そこに法律で歯止めをかけることになったわけで、労働者側からすれば、画期的な規定ということになる。

新種の「正社員」が誕生する

 当初は「100時間未満」という絶対的な上限設定に対して、経団連など経営者側からは「100時間程度」などあいまいな表現にするよう求める声が上がったが、安倍首相が「裁定」を下す格好で収束させた。ただし、同時に法案には高プロ制を盛り込むことも了解された。それが2017年3月のことだった。

 いわば、「罰則付き残業上限」の導入と、「高プロ」の導入は、労使間のバーターだった。連合も当初はそれを受け入れた。

 ところが、連合傘下の組合から猛烈な反発がわき上がる。昨年夏のことだ。以来、連合の支援を受ける左派野党は一貫して高プロの導入に反対してきた。

 なぜ、労働組合は高プロに反対するのか。

 いったん制度が導入されれば、1075万円という年収下限がさらに引き下げられ、多くの労働者が低い年俸で働かされることになりかねない、というのがその理由。まさに残業代ゼロを容認する制度だというわけだ。さらに、労働時間規制を外せば、膨大な仕事を与えられて24時間際限なく働かされることになる、とも主張する。「定額働かせ放題」というわけである。

 だが、労働組合が最も恐れているのは、従来とは違った制度で働く「正社員」が生まれることで、組合活動に深刻な問題が生じるからに違いない。

 従来の労働組合は、組合員が一致団結して、ベースアップなどの待遇改善を一律で求めていくスタイルだった。当然、一部の社員だけが厚遇されることは許さないという建前だ。

 背景には「同一労働同一賃金」の考え方がある。同じ正社員が同じ仕事をする以上、同じ賃金が支払われるべきだ、というものだ。

 だから、特殊な働き方をして従来の枠組みとは異なる待遇を受ける社員が誕生することに戸惑いがあるのだ。労働時間の圧縮などを組合が求める時に、労働時間に関係なく働く社員がいた場合、求めるものが変わってくる。

 実は、同様の問題が嘱託社員や派遣社員など「非正規労働者」と「正社員」の間でも起きている。連合などは非正規労働者を組合員として受け入れることの重要性を訴えているものの、実際には大手の企業の労働組合で非正規社員が加わっているケースは少ない。

 正社員でも労働組合に所属しない人が増えている。労働組合加入を義務付ける「クローズドショップ」の組合も少なくなり、労組加入が任意となっている企業が多いことから、組合の組織率は年々低下している。2017年6月末での労働組合の推定組織率はわずか17.1%である。

 これは、労働組合が働き手のニーズをつかみ切れていないことを示している。

労働組合は高プロ社員の「味方」になる?

 「労働組合は敵だと思いました」と大手電機メーカーから外資系に転職した中堅社員はいう。その大手メーカーは経営危機に直面、退職者が相次いだが、そのしわ寄せが残った社員にのしかかった。残業時間はみるみる増えたが、「さぶろく協定」で組合が受け入れている以上、残業は拒否できない。耐えられなくなったその社員自身も外資への転職を決めざるを得なかった。「あのまま働いていたら過労死していたかもしれません」。

 高プロ制が導入された場合、労働組合は高プロ社員の「味方」になるのだろうか。維新との修正協議で、高プロ社員が自らの意思で高プロから外れることができるよう明示された。

 高プロ制では、年俸と仕事量が見合っているかどうか、本人が納得しているかどうかが重要な要素になる。仕事量が多すぎる場合など、組合に相談しても、「それなら高プロを辞退しろ」と言われるのだろうか。少なくとも、現在の労働組合のスタイルの中で、個別の社員の待遇についてバラバラに交渉することは想定されていない。

 おそらく今後誕生してくる「高プロ」社員を、現状の労働組合が受け入れることは難しいだろう。高プロだけでなく、今後、働き方が多様化して、様々な条件で働く人が増えていく中で、組合がそれぞれのニーズを汲み取ることはできないに違いない。つまり、労働組合の組織率は、組合が変わらない限り、今後も低下を続けるだろう。

 では、労働組合はどう変わっていくべきか。

 働き方が一律であることを前提とした組合は、働き手からは必要とされなくなっていく。会社と働き手が個別に労働契約を結ぶようなケースが増えていくことになれば、従来の労働組合の「闘い方」では救えない働き手が急増してくることになるだろう。

 今後、組合が生き残っていくには、働き手のニーズをきちんととらえ、彼らの支援をする組織へと変わっていくことが求められる。会社と働き手が結ぶ契約の内容が不当ではないか、契約と違わない業務が与えられているか、問題がある場合、本人にアドバイスするなり、組合として改善を求めていけるか。個々の働き手のコンサルティングを担うような組織に変わっていく必要があるだろう。

 そんなのは労働組合ではない、という声が関係者からは上がりそうだ。

 もうひとつの生き残り策は、欧州のような「産業別」の労働組合に再編していくことだろう。同一労働ならば会社が違っても同一賃金を求めるというのが前提だが、日本の伝統だった企業別組合とは相容れない。働く側の意識もライバル企業より給与が高いかどうかに関心があり、同じで良い、とはならないだろう。また、産業別労働組合自体が、伝統的な工場労働などを前提としており、多様な働き方が普通になっていく今後の時代にマッチしているのかは微妙だ。

 いずれにせよ、「高プロ」は日本人の働き方を大きく変えていく第一歩になるのは間違いないだろう。そんな中で旧来型の労働組合も間違いなく変化を求められる。変化できなければ時代から取り残され、滅ぶことになるだろう。