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磯山友幸のブログ RSSフィード

2018-05-22

ガバナンス・コード改訂で 「株式持ち合い」が消えていく

| 09:15

日本CFO協会が運営する「CFOフォーラム」というサイトに定期的に連載しています。コラム名は『コンパス』。オリジナルページもご覧ください。→http://forum.cfo.jp/?p=9869

 「コーポレートガバナンス・コード」の改訂版が2018年6月から施行される。ガバナンス・コードは2015年6月に施行されたから、丸3年を経て初めての改訂となる。企業経営者と機関投資家の「対話」の促進に重点が置かれ、「投資家と企業の対話ガイドライン」も同時に公表されているが、何と言っても影響が大きいのは、「持ち合い株式の削減方針の明確化」だ。

 持ち合いは日本的経営を支える仕組みとして賞賛された時代もあったが、近年は、企業の資本効率を悪化させる元凶のひとつとされ見直しが求められてきた。また、持ち合いによって機関投資家など他の株主の発言権を封殺しているとして、投資家と企業の対話を阻害していると批判されている。

 今回の改訂版では、持ち合い株式、つまり「政策保有株」に関する「原則」が大きく変わった。

 これまで「政策保有に関する方針を開示すべき」とされていたものが、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」と変わった。ガバナンス・コードに従う会社は、今後、株式持ち合いの「縮減」を目指すべきことが明示されたわけだ。

 さらに、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい、合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを次のように変更した。

 「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」

 中長期的に経済合理性があれば良し、としてきたものを、資本コストに見合っているかを具体的に精査しなければならなくなった。また、合理性について説明するとしてきたものを、保有の適否を検証してそれを開示すべき、と踏み込んでいる。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか、具体的に精査せよとまで問われると、なかなかそれを立証することは難しい。これまでも、経済合理性を説明することは難しいとして、多くの会社が持ち合い解消に動いてきた。資本コストに見合っている、という説明はおそらく難しいので、この解消の流れは一気に強まるのではないか。旧財閥グループの中には、資本コストを犠牲にしても株主にメリットがあることを説明しようと、事業上のメリットの強調などを試みるかもしれないが、投資家を納得させられるかどうかは微妙だ。

 持ち合いについては「外堀」が埋まってきている面もある。生命保険会社や銀行など機関投資家は、スチュワードシップ・コードが導入されたことで、アセット・オーナーの利益に反する行動は取れなくなってきている。政策投資だからといって、かつてのように「安定株主」として、経営陣に「白紙委任」を与えるような投票行動を取ることが難しくなっている。

 機関投資家は投票行動を個別に開示するようになっており、会社側提案の議案に無条件に賛成するというのは難しい。実際、会社側提案に反対票を投じる機関投資家も増えている。企業経営者からすれば、資本コストを度外視して持ち合いをしても、相手が安定株主として行動してくれなくなっているわけだ。持ち合いの効用が消えてきているわけだ。

 もちろん、企業の側も議決権行使の「合理性」を問われることになるので、政策保有株だからといって無条件に会社提案に賛成するというわけにはいかなくなる。

 今回の改訂でコードに「縮減」することが明記されれば、それを「口実」にして持ち合い解消を一段と進める動きが強まるのは明らかだろう。「こういうご時世ですから、申し訳ありませんが」と言いやすくなるわけだ。

 経済界からは、日本企業が長期志向で安定的な経営を遂行するためには株式持ち合いは重要な慣行だという反論が長年あったが、外堀が埋まってきたことで、そうした主張を真正面からする経営者は減っている。

 米国では銀行が企業の株式を政策目的として保有することを原則として禁じている。また、欧州でもドイツなどでは銀行が株式保有によって企業を実質的に支配する仕組みが慣行として広がっていたが、ここ20年の間に急速に銀行の株式売却が進んだ。企業に資金を融資する「債権者」の立場と、「株主」の立場が時として利益相反になるケースが増えていることが背景にある。

 今回のコード改訂は、日本企業の株式持ち合いを消滅させる大きなきっかけになっていくだろう。

2018-03-27

「働き方改革」に背を向ければ会社は潰れる

| 21:12

日本CFO協会が運営する「CFOフォーラム」というサイトに定期的に連載しています。コラム名は『コンパス』。オリジナルページもご覧ください。→http://forum.cfo.jp/?p=9396

 3月1日から大学生の就職活動が解禁され、空前の「売り手市場」とされる2019年春入社の採用が本格的に始まった。今年2018年の面接解禁は6月1日なので、早い学生は6月上旬には内々定を獲得、10月1日にそろって内定式を迎える。

 就職氷河期と言われた1990年代後半や、リーマンショック直後と大きく違い、学生にとっては、ひとりでいくつもの内定を得られる好環境だが、企業にとっては人材獲得難が続く。大企業でも熾烈な採用合戦が繰り広げられる中で、中堅中小企業では新卒採用に苦戦することが予想される。

 何せ、未曽有の人手不足である。2017年12月の有効求人倍率は1.59倍(季節調整値)。バブル期を上回り、高度経済成長期並みの求人難になっている。正社員の有効求人倍率も1.07倍と1倍を超えている。職種を選ばなければ誰でも正社員になれることを示している。

 新規学卒者を除いてパートを含んだ一般労働者の新規求人数に対する就職件数、いわゆる「充足率」は15.2%。アベノミクスが始まった2013年は22.2%だったから、4年で7ポイントも低下した。15.2%というのは企業が7人採用したいと思っても1人しか採用できない状況を示している。

 そんな中で、「働き方改革」が求められている。同一労働同一賃金や長時間労働の是正に世の中の関心が向いているが、そうでなくても人手不足なのに、どうやって残業を減らせというのか、と訝しく思う人も少なくないだろう。働き方改革は働かない改革ではないか、という人もいるが、それは大きな間違いだ。

 働き方改革の本質は、これまでの仕事のやり方を一から見直して、劇的に生産性を上げるように変革することを求めている。今までのやり方を維持したままで、労働時間だけを減らせば、生み出される成果も減る。それでは企業収益も落ちて、会社は立ち行かなくなってしまう。

 どうやって社員ひとりが生み出す付加価値を増やすか。そのためにどう仕事の内容を見直すか。労働時間を減らしても今までと成果が変わらないどころか、むしろ成果を上げる。そんな働き方への変革が求められているのだ。

 生産性を上げる第一歩は、それぞれの社員の役割を明確にすることだ。「ジョブ・ディスクリプション」と呼ばれて欧米では当たり前だが、なぜか日本では評判が悪い。チームワークを壊す、自分だけ仕事が終われば良いという人が増える、そもそも日本型の経営に合わない、といった批判が巻き起こる。

 上司が残っているから帰れない、自分の仕事は終わったのだが、隣の人の仕事が忙しそうなので手伝わないと申し訳ないーー。そんな日本的な働き方は欧米にはまず存在しない。仕事が遅いのはその人の能力が低いか、過剰に仕事を負わせている上司が悪い。欧米ならそんな反応が返ってくる。

 専門性の高い時給にすれば何万円の人材に、誰でもできる雑用をやらせれば、その分生産性が下がる。日本の大学では教授が雑用をこなしているが、欧米ではきちんとスタッフが分担する仕組みが出来上がっている。それは身分差別でも何でもなく、仕事を明確に分けることで生産性を上げようとしているわけだ。

 この「ジョブ・ディスクリプション」の無さが、新卒者が短期間に会社を辞める理由にもなっている。「営業の仕事をするために入ったつもりなのに、いきなり人事に回された」といった不満の声が、新入社員から湧き上がる。会社からすれば優秀だからエリートコースの人事に回したつもりでも、今の若者には理解されない。

 「君のやりたい仕事をやらせてあげよう」というのが最大の殺し文句になっている。中小企業でも自己実現ができる場があるとなれば、今の若者はチャレンジする。そもそも1つの会社に生涯勤めようとは思っていない。あくまでもキャリアパスと考えている。

 経営者も発想を変えることだ。優秀な人材をつなぎとめ、長く戦力として働いてもらうためには、その人材が求めるキャリアパスを実現してあげることだ。もちろん、勤務時間や仕事の仕方で自由度を認めることも不可欠だ。社員のライフスタイルを尊重して、働き方を変えることを認めていく柔軟な会社にしなければ、優秀な人材に愛想を尽かされることになる。

 今後ますます深刻化する人手不足の中で、人材が集まらなければ会社自体が行き詰まってしまうことになりかねない。

2018-01-16

賃上げに背を向ける会社の末路

| 08:36

日本CFO協会が運営する「CFOフォーラム」というサイトに定期的に連載しています。コラム名は『コンパス』。オリジナルページもご覧ください。→http://forum.cfo.jp/?p=8890

 2018年の春闘を控えて、安倍晋三内閣が「3%の賃上げ」を経済界に求めている。アベノミクスによって企業収益が大幅に改善した成果を従業員に分配することで「経済の好循環」を実現しようという姿勢は2014年から一貫しており、2017年の春闘まで4年連続でベースアップが実現している。2018年は5年連続のベースアップは当然として、定期昇給と合わせた賃上げ率を3%以上にするよう求めたのだ。

 政府が賃上げを求める最大の理由は、企業収益の増加分が十分に従業員に分配されていない、という不信感があるからだ。実際、企業の内部留保は毎年増加し続け、財務省の法人企業統計によると2016年度は406兆2,348億円と過去最高を更新。4年間で100兆円も増えた。一方で、人件費も増えてはいるが、国民の多くに賃金上昇の実感は乏しい。

 安倍内閣は企業の国際競争力を維持する狙いで法人税率のアジア主要国並みへの引き下げを掲げ、実際に税率引き下げも行っている。にもかかわらず、それが内部留保に回っていることに共産党などからも批判の声が上がっている。安倍内閣としては何としても大幅な賃上げを企業に促したいわけだ。

 賃上げした企業には法人税を減免する制度を設けているが、2018年度の税制改正では、3%以上の賃上げを行った企業に対して減税幅を拡大する。こうした企業には、経団連などが求め続けてきた実効税率25%への引き下げを実現させる方針だ。減税を呼び水に給与引き上げを企業に行わせようというわけだ。

 もっとも、政府が求めるからといって渋々賃上げをしているようでは企業経営の先行きは危うい。というのも、今や深刻な人手不足が続いており、有能な人材を採用するためにも、いまいる社内の人材に愛想を尽かされないためにも、待遇改善が重要になっている。

 政府が音頭を取る「働き方改革」は残業時間の短縮ばかりに目が向きがちだが、本来は仕事のやり方を変えることで効率性を高め、同じ成果を短時間で上げることが目的のはずだ。同じ成果が上がるならば、給与は同じ額が支払われるのが当然で、残業代の減少分は賃上げによって穴埋めされる理屈になる。つまり、賃上げできない企業は、本当の働き方改革ができていない、ということになるわけだ。

 そうした中で、賃金の引き上げができない企業に未来はない。待遇が改善されなければ新規の人材確保ができないばかりか、従来いる社員が辞めていく。ライバル企業にスカウトでもされれば、競争力の低下は計り知れない。

 また、優秀な人材が抜ければ、その分、企業内に残った社員の負担が増えることになり、残業の短縮など望めない。社員のフラストレーションは溜まり、ますます企業への帰属意識が弱まり、退社する人が増えていく。

 何せ、労働市場は未曽有のひっ迫状態である。厚生労働省が2017年12月26日に発表した11月の有効求人倍率(パートを含む、季節調整値)は1.56倍。何と、1974年1月以来、43年10カ月ぶりという高水準である。すでにバブル期を上回っており、高度経済成長期並みの求人難となっている。

 新規の求人に対してどれだけ採用できたかを示す「対新規充足率」は14.2%。ということは、7人雇いたいと思っても1人しか採用できないという計算である。さらに総務省の調査によると、同じ月の完全失業率は2.7%。24年ぶりの低さである。求人倍率の高さ、失業率の低さからみて、まさに歴史的な人手不足状態となっている。世界的には3%を下回っている状態は、働く意思のある人はすべて働いている完全雇用状態とみなされている。

 そんな中で、企業の人材争奪戦が始まる。ライバル企業や同業からの引き抜きはもはや当たり前。優秀な人材はどんどんヘッドハントされ、転職していく時代になりつつある。特に30代以下の若手は会社への帰属意識が非常に乏しい。会社に長く勤めればポストや昇給で報われるという経験のないデフレ時代の社員ということもある。

 有能な社員を確保できなければ、事業を運営できなくなり、会社そのものが存続できなくなる。いわゆる「人手不足倒産」である。CFOの仕事は、いかに人件費を下げるかという計算から、人材確保のためにどれぐらい賃上げ余力があるかを計算することが重要な時代になってくる。

2017-11-20

東証は東芝の犠牲者

| 09:41

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 東京証券取引所は2017年10月12日、東芝株について「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」と「監理銘柄」から「指定解除」した。東芝の内部管理体制について「相応の改善がなされた」と認めた結果としている。これで、2015年に発覚した東芝の粉飾決算に関する東証の「審査」は一段落。東芝は粉飾や内部管理体制の不備を理由とした上場廃止からは免れたことになる。

 さらに、10月24日には東芝が臨時株主総会を開催、半導体事業の売却承認を取り付けた。売却額は2兆円ともいわれ、2018年3月末までに売却が完了すれば、現在の債務超過が解消される見込み。2期連続の債務超過も東証の上場廃止基準に定められており、これからも逃れることになる。

 東芝は株主総会前に、自社が東証に提出した内部管理体制の「改善報告」を公表した。臨時株主総会に報告する決算については、監査法人から限定付きながら適正意見を得たが、内部統制については「不適正」との意見を監査法人に付けられていた。「改善報告」を総会前に公表することで、株主の理解を得ようとしたのだろう。

 東芝が公表した「改善報告」では、これまで終始一貫「不適切会計」としてきたものを「不正会計」と改めて表記している。大手メディアには「反省の意思を明確にするため」と説明しているようだ。「不適切」と言い張ることで、あたかも「悪いことはしていない」と言いたいかのように受け取られていた。

 金融庁から処分される際も、有価証券報告書虚偽記載と認定されており、粉飾つまり不正会計が長年にわたって行われていたことが公になっている。それでも東芝は「不適切」と言い続けたが、ようやく東証に対しては「恭順の意」を示したわけだ。

 だが、東芝が本当に反省しているのかは疑わしい。というのも同社のホームページのトップにはいまだに「不適切会計」という言葉が使われている。さらには「不正会計問題」ではなく、単なる「会計問題」と記載しているところもある。あくまで「不正」という言葉は使わないという意思がうかがえる。上場廃止を回避するために、東証に対してのみ「不正会計」という言葉を使っているようなのだ。

 そんな東芝をなぜ東証はあっさり許したのか。東証のルールでは、特注銘柄の指定は最長1年半。その期限は2018年3月の段階で切れており、審査でクロかシロ、つまり上場廃止か上場維持かを決める必要性に迫られていた。

 東証としては、株主などに大きな影響を与える上場廃止という選択肢はなかったのかもしれない。東芝のように大勢の株主がいて、銀行や生命保険会社が大株主になっているような老舗企業を上場廃止にすることは当初から想定していないのではないか。

 どこからも文句の来ないような小さなベンチャー企業はさっさと上場廃止にするが、老舗企業は守り抜く。そんなダブルスタンダードなのだろう。

 東証自体、株式を上場している営利企業だ。取引所は本来、そこで売買する投資家が最も尊重すべき「客」のはずだが、どうやら上場して賦課金を払ってくれる企業を「客」と思って優先しているのだろう。そんな利益相反を避けるために、上場廃止などの審査は東証の自主規制法人が行うことになっており、理事長以下7人の理事の過半である4人は独立性の高い外部理事ということになっている。

 だが、実際には理事長は金融庁長官の天下り。東証プロパーの3人の理事は金融庁には逆らえない。外部理事の1人は公認会計士だが、所属する日本公認会計士協会は金融庁の監督先で、役所の方針に異を唱えることなどできない。つまり、金融庁の胸先三寸で上場廃止の可否が決まるのが実情なのだ。しかも議事はまったく公開されていない。役所の審議会は議事録が公開されているから、それ以下である。

 東証が金融庁の意向を忖度し、不正を犯しても大企業だからといって優遇していれば、東証という市場の「質」が問われることになりかねない。取引所が上場廃止のルールを設けているのは、腐ったリンゴの売買を見逃せば、腐ったリンゴを買わされた投資家が市場自体を信用しなくなるからだ。あそこの市場は安心して売買ができる、ということにならなければ、市場の繁栄はあり得ない。東証は東芝を守って、自らの信用を犠牲にしていることになる。

2017-09-21

機関投資家「議決個別開示」の破壊度

| 11:16

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 機関投資家の間で、保有株の議決権行使内容を個別開示する動きが急速に広がっている。野村アセットマネジメントが7月18日に今年1月から6月までの株主総会での議決内容を個別開示したほか、三井住友信託銀行が7月26日に、大和証券投資信託委託が8月1日に開示した。さらに、三井住友アセットマネジメントが8月末に、住友生命保険が9月上旬に開示した。第一生命保険も9月中にも公表する。

 機関投資家のあるべき姿を示す「スチュワードシップ・コード」を金融庁が改定、「個別開示」を求めた。コードに強制力はないため、機関投資家によって対応に差が生じ、日本生命保険は当面開示を見送るとした。

 2014年のスチュワードシップ・コードの導入によって、機関投資家は「もの言う株主」へと変化することが求められてきた。保険会社ならば保険契約者、投信会社ならば投信保有者の利益を最大化するよう行動しなければならないとされ、議決権行使でもそれが求められるようになった。旧来は、機関投資家である金融機関と企業の取引関係やグループ関係などが重視され、経営者側の提案に無条件に賛成するケースが多かった。それが、スチュワードシップ・コードの導入で大きく変化していると言われていた。

 今回、「個別開示」が始まり、機関投資家の議決権行使が具体的に明らかになりつつあることで、日本の機関投資家が極めて「真面目に」議決権行使を行いはじめていることが明らかになってきた。会社側提案に反対したケースが予想以上に多いのだ。

 野村アセットマネジメントの場合、4〜6月総会1,692社の会社提案1万8,250議案のうち、8.5%に当たる1,560議案で反対している。買収防衛策の導入や更新には100%反対したほか、退職慰労金の支給でも54%に反対。監査役の選任でも独立性が低いと見なした場合など、24%で反対した。取締役選任議案では「業績不振、重大な不祥事、財務情報の大幅な開示遅延などで株主利益を毀損した場合」に責任があると判断した取締役候補者に反対票を投じたという。

 個別開示の内容を見ると、不正会計問題や原子力発電事業での巨額損失で決算発表が大幅に遅れた東芝については、綱川智社長と平田政善CFO(最高財務責任者)に反対票を投じた。

 また、子会社で会計不正が発覚した富士フイルムホールディングスの取締役選任議案では、古森重隆会長、助野健児社長ら3人に反対した。株主総会では、古森重浪馗垢料任議案への賛成が83.26%、助野健児社長への賛成票が80.51%にとどまった。他の取締役候補が軒並み90%以上の賛成票を得た中で、反対票の多さが際立ったが、野村アセットのように反対票を投じた機関投資家がいたことをうかがわせる。

 大和投信の場合、6月総会会社1,686社の会社提案5,815議案のうち、1,046議案に反対。反対比率は18%に上った。買収防衛策への反対は90%に達し、取締役選任議案でも36%に反対票を投じた。

 三井住友信託は4〜6月の1,710社の総会での会社提案1万8,497議案のうち、12%に当たる2,241議案に反対した。業績悪化が続く会社や、配当が基準を満たさない会社などで、取締役選任に反対しているケースが目立った。

 株主が提案した議案に賛成するケースも増えている。これまでは考えられなかったことだ。大和投信は株主提案197議案のうち6議案に賛成、三井住友信託は株主提案212議案中5件に賛成した。

 野村アセットは211あった株主提案のうち、15議案に賛成しているが、いずれも定款変更を求める議案だった。武田薬品工業では、経営陣が反対した株主提案に賛成票を投じた。相談役・顧問を置く場合には株主総会の議決が必要なように定款を変更せよ、というのが株主提案の内容だった。

 こう見ると、株式持ち合いによって経営者が白紙委任を受けてきた時代は確実に終わりに向かっている。メーンバンクなど大手銀行は、株式保有そのものを見直すケースが増えている。経営者は多くの株主からきちんと「支持」を得られる経営をしなければ、株主総会を乗り切れなくなりつつあるのだ。

 議決内容が個別に開示されることによって、他の機関投資家や個人株主などに影響を与えることは必至だ。大半の機関投資家が反対する議案に賛成した場合、その理由を問われることになる。機関投資家が「物言う株主」に変わっていく流れは、もはや止まることはないだろう。