継続的取引契約の解約と予告期間 東京地判平22.7.30金商1352-59

IT関連の判例ではありませんが,継続的契約の終了に関する興味深い示唆がある事例。

事案の概要

X社は,オーストラリアのワイン会社Yからローズマウントワインを18年間に渡って輸入し,国内で販売してきたが,Yが,Xの販売不振等を理由に,4ヶ月間の予告期間をもって代理店契約を解約し,代理店を変更する旨を通知した。


そこで,Xは,少なくとも1年間の予告期間を設けるべきであったとして,8ヶ月分の粗利益相当額約8000万円の損害賠償を求めた。

ここで取り上げる争点

4か月の予告期間しか設けなかったことが,Xに対する債務不履行ないしは不法行為に該当するか。

債務不履行ないし不法行為に該当するとした場合の損害額はいくらか。

裁判所の判断

裁判所は,

  • Xは通算18年にわたって,Yのワインを日本で輸入販売したこと
  • 昭和62年当初は,数百ケースの取扱いであったが,平成15年には2万ケースにまで売上を伸ばしてきたこと

という事実をもとに,

Xにおいて将来にわたってYのローズマウントが継続的に供給されると信頼することは保護に値するものであるから,Yが本件販売代理店契約を解約するには,1年の予告期間を設けるか,その期間に相当する損失を補填すべき義務を負うものと解される。

として,損失補てんをしないまま4ヵ月間の予告期間で解約したことが販売代理店契約上の債務不履行にあたるとした。


損害額については,

Xに予告期間として相当な1年から上記4か月を差し引いた8か月分のローズマウントの売上げに係る損害を与えたものということができる。(略)
Xの被った損害とは,総利益から販売直接費及び販売管理費を控除した営業利益の喪失分と解するのが相当である。

として,X主張の粗利益を損害とは認めなかった(認定額は約590万円)。

若干のコメント

一般論として,継続的契約における一方当事者からの解約は,本判決のように,「解約は認めるが,相当の予告期間ないしは損失補填が必要」という立場が有力です。では,その場合の予告期間はどの程度設けるべきかというのは,取引実情に応じてケースバイケースということになります。


本件は,そもそも,販売代理店契約書という書面が存在しなかったため,代理店契約の締結そのものも争われました。しかし,この点は,18年間という長期の取引実態と,解約通知文書に「日本の・・販売代理店を変更することを決定した」などの記載から,契約の存在は認められています。


システム・ITサービスにおける継続的契約といえば,システムの保守・運用契約や,ASP/SaaS等のサービス提供契約が考えられます。ベンダにとっては,長年,特定のユーザのために,リソースを配置してサービスを提供していたところ,急に解約を申し出られれば,損失補填を求めたくなる場合もあるでしょう。また,逆に,ユーザにとっても,システムの保守・運用を,特定のベンダに依存してしまうと,ベンダ切り替えには相当の費用と期間が必要になるため,ベンダからの解約通知には,相当の予告期間を求めたくなります(いわゆるベンダーロックインの問題。)。


このような事情に鑑みると,どちらの当事者にとっても,解約*1には,相当の予告期間を設けなければならない旨を,契約書中にしっかり書いておく必要があります*2。仮に何も書いていない場合は,本件のような事情のもとでは「1年の予告期間が相当」と判断されましたが,法律上,予告期間の制限はありません(準委任契約とされた場合,「いつでも」解約できる―民法651条1項)。


話はそれますが,システムの保守・運用契約においては,解約に限らず,契約終了時に資料,データ,機器に関わる権利,占有の移転方法についても合意しておかないと,ユーザは,同一のサービスを他のベンダから事実上受けられなくなってしまうことに注意が必要です。

継続的契約と商事法務

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継続的取引の研究

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*1:これに対し,一方当事者が債務に違反した場合になされるのは「解除」であるので,区別が必要。

*2:ASPサービス規約などでは,サービス提供者側は,短い予告期間のみで解約できるのに対し,ユーザ側は途中解約できなくなっていたりするなど,平等でないものもあるので,注意が必要です。