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(旧館)IT判例・法令メモ

2011-11-11

レンタルサーバのデータ喪失 東京地判平21.5.20判タ1308-260

| 06:18

レンタルサーバのデータが喪失したことによる損害賠償請求事件。


ただし,前回紹介した東京地判平13.9.28(http://d.hatena.ne.jp/it-law/20111109/1320768060)とは,事情は異なる。


事案の概要

Xらは,サーバホスティング事業者Yと契約していたZと契約し,Yのサーバを利用してウェブサイトを運営していたところ,サーバに障害が発生し,Xらのプログラム,データが消失した。なお,障害は,人的な作業ミスというよりは,ハードディスクの故障だとされている。


そこで,Xらは,Yに対し,不法行為に基づく損害賠償として合計約2億円を請求した。


なお,Yの定めるホスティングサービス約款には,

40条(責任の制限)

1 被告は本サービスを提供すべき場合において、被告の責めに帰すべき理由により、契約者に対し本サービスを提供しなかったときは、契約者が本サービスを全く利用できない状態にあることを被告が知った時刻から起算して、連続して24時間以上、本サービスが全く利用できなかったときに限り、損害の賠償をする

2 前項の場合において、被告は、障害発生時刻における契約者との契約内容の月額料金を限度として損害の賠償をする。

3 第1項の場合において、被告の故意又は重大な過失により本サービスを提供しなかった場合には、前項の規定は適用しない。

41条(免責)

40条(責任の制限)の規定は、本契約に関して被告が契約者に負う一切の責任を規定したものとする。被告は契約者、その他いかなる者に対しても本サービスを利用した結果について、本サービスの提供に必要な設備の不具合・故障、その他の本来の利用目的以外に使用されたことによってその結果発生する直接あるいは間接の損害について、被告は40条(責任の制限)の責任以外には、法律上の責任並びに明示または黙示の保証責任を問わず、いかなる責任も負わない。また、本契約の定めに従って被告が行った行為の結果についても、原因の如何を問わずいかなる責任も負わない。ただし、被告に故意又は重大な過失があった場合には、本条は適用しない。

と,どこのホスティング事業者も定めているような,免責・減責規定があった。


前回紹介した平成13年判決とのもっとも大きな違いは,原被告間には直接の契約関係がないというところにある。つまり,上記の規約は,直接にはXY間には適用はないことになる。


ここで取り上げる争点

Yは,Xらに対し,記録の消失防止義務を負うか


裁判所の判断

YはZとの間で共用サーバホスティングサービスの利用契約を締結しているだけであって、Xらとの間には契約関係はなく、本件サーバに保存された本件プログラムや本件データの保管について寄託契約的性質があるともいえないから、Yが契約関係にないXらに対し本件サーバに保存された記録について不法行為法上の善管注意義務を負うとする根拠は見いだし難い。そうすると、Yがレンタルサーバ業者であるとの一事をもって、契約関係にない第三者に対する関係で当然に本件サーバに保管された記録について善管注意義務を負うとか、記録の消失防止義務を負うということはできない。

とした。さらに,

  • Yは,利用規約において,免責規定を定めていること
  • Yは,利用規約において,契約者が第三者に対してサービスを提供することを認めていること
  • 第三者提供に当たっては,当該第三者も規約の遵守に同意することを条件としていること

から,Zの提供者であるXらにも規約の免責規定が及ぶことを前提としたサービスであるとし,

  • 利用規約の内容はホームページによって公開されていること
  • 他のレンタルサーバ事業者においてもほぼ同じ免責規定があることは広く知られていること

から,

Yは本件利用規約の免責規定を前提として契約者及び契約者の提供先である第三者に対して共用サーバホスティングサービスを提供しており、他方、第三者であるXも上記免責規定を前提として被告の上記サービスを利用していたのであるから、Yは、Xとの間で契約を締結していないものの、Xとの関係においても免責規定を超える責任を負う理由はなく、したがって、本件プログラムや本件データの消失を防止する義務を負うとはいえない。

として,義務を否定した。


さらに,追い打ちをかけるように,

サーバは完全無欠ではなく障害が生じて保存されているプログラム等が消失することがあり得るが、プログラム等はデジタル情報であって、容易に複製することができ、利用者はプログラム等が消失したとしても、これを記録・保存していれば、プログラム等を再稼働させることができるのであり、そのことは広く知られている(弁論の全趣旨)から、Xらは本件プログラムや本件データの消失防止策を容易に講ずることができたのである。このようなXら及びY双方の利益状況に照らせば、本件サーバを設置及び管理するYに対し、Xらの上記記録を保護するためにその消失防止義務まで負わせる理由も必要もないというべきである。

と,データの性質,回復容易性に言及して,責任を否定している。


なお,利用規約の免責規定には,故意・重過失の場合には免責されないとしているが,本件障害(ハードディスク故障)について,

  • HP製のサーバで,事故発生まで1年7カ月しか経過していないこと
  • Yは,サーバ管理施設にて適切に管理していたこと

から,重過失があるとまでは認められないとしている。


結局,その他にXが主張したYの記録回復義務違反などの主張も,同様の論理により否定され,Yに対する請求はすべて棄却された。


若干のコメント

前回の平成13年判決では,一部とはいえ,事業者側の責任を認めたのに対し,本件では,義務違反を認めませんでした。もちろん,契約当事者とそうでない場合という形式的な差はあるものの,その他の事情においても差があるようです。


まずは,規約の定め方。


平成13年判決では,免責規定の定め方から,通信障害等による利用不能の場合の責任を限定したものだという解釈がなされました。本件の利用規約中の免責規定と異なり,シンプルな規定となっていました。この点は,数年の経過とともに,事業者側の規約が事業者保護の方向へ充実していたことがうかがえます。本件では,上述のとおり,「設備の不具合・故障」によって生じた損害は,40条以外について責任を負わないことが明記されていたという違いは大きいでしょう。


そして,事故の態様。


平成13年判決では,サーバのメンテナンス中のミスという「積極的な行為」によってデータが失われたことの責任が問われていたのに対し,本件では,ハードディスクの故障が原因でした(人の行為は介在していない。)。仮に,本件において,メンテナンス担当中の人為的なミスによってデータが消失したとすると,それは「重大な過失」として評価される可能性もあり,その場合には結論が変わる可能性もあり得ます。


また,本件で議論されていた「消失防止義務」の内容も問題となります。判決では,

善管注意義務の具体的内容として、本件サーバに保存された原告らの記録を消失させないようにする注意義務

を消失防止義務としていますが,これは,判決の中身を検討すると,データが消失しないよう,日常的な積極的な行為を取らなければならない作為義務であるように読めます。本件では,明確に「消失防止義務を負わない」としましたが,だからといって,何らかの作為(事業者側の作業ミス)によって,データを消失させたとしても,「消失防止義務を負わないから責任はない」といえるかどうかは微妙です。というのも,あくまで利用者のデータを「積極的に破壊,喪失させない,いじらない」という不作為義務については事業者は負っていると考える余地があるからです。


いずれにせよ,ホスティング(レンタルサーバ)事業に限らず,クラウド系のアプリケーションについては,ほとんどの事業における利用規約において,サーバ側のデータが保持・保全されていることは保証されていません。ユーザ側はローカルにバックアップを置くなどの自衛策を採るか,追加の対価を支払って,バックアップサービス,サルベージサービスなどを利用してヘッジせざるを得ないでしょう。

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