extra innings

2008-12-25

参議院が害悪である理由

政局が混乱するのは大統領制を採る国の方が多いが、これには単純な原因があって、議会大統領がそれぞれ別個に選出されるため、行政府立法府で民意の矛盾が生じやすいからである。

そのためフランスでは、大統領国民投票対象法案提出権、議会の解散権など立法府権限を与え、「大統領による統制」を計っている。

アメリカ型の典型的な三権分立型の大統領制では、大統領立法府に対する権限を基本的には持たないのだから、立法府において与党が少数になった時、行政府立法府の対立が生じ、膠着・混乱状態に陥りやすい。

アメリカではそこまでの混乱が見られないのは、政党の拘束力が比較的弱い、連邦制である、大統領への心理的な求心力が強いなどの特殊な政治風土があるからである。

そうした政治文化がないところにアメリカ型の大統領制を持ち込めば統治機構が立ち往生するのは目に見えている。

一般的に言うならば、アメリカ型の大統領制はシステムとして明らかに欠陥制度であって、先進国でこのタイプの政治制度を採る国は他にないという事実が、傍証的にそれを裏付けている。

先進国の機構であるOECD加盟国30ヶ国のうち、アメリカ型の大統領制を採るのはアメリカただ一国であり、半大統領制を採る国はフランス韓国のみである。

フランスは弱点を克服するために他国には類例のないほどの強大な権限を大統領に与え(フランス大統領先進国中、システム上、最も強力な政治的地位である)、韓国ではそこまでの権限が与えられていないのでしょっちゅう政治混乱が生じている。

残りの国はすべて議院内閣制を採っている。

こうした事情を踏まえれば、議院内閣制に替えて大統領制を導入するなど狂気の沙汰であり、歴史における試行錯誤の中で、政治システムとしての議院内閣制の優位はすでに証明されていると言っていい。

議院内閣制の最大の特徴であり、利点は、内閣議会によって選ばれることから、政府議会の対立が理論上は生じないことにある。

統治機構は統治を行うために存在するのであって、政府議会が分裂すれば統治遂行が困難になる以上、権力の分割にもおのずと限界がある。

軍隊で司令官に指揮権も人事権も与えないで、さあ戦えと言ったところでどだい無理なのと同じことで、「権力は分割されていればされているほどベター」というものではない。

むろん、監視と抑制は必要だが、それは適切な度合いと方法でなされなければならない。

議院内閣制を採る国のうちでも、先進七ヶ国に限れば、カナダイタリアドイツ英国、そして日本が二院制を採っている。

イタリアの事情は調べ切れていないので割愛するが、これらの国のうち、日本の二院制はかなり特殊なものである。

おそらく日本の参議院は議院内閣制の先進諸国のうちでも最も強力な第二院である。

カナダでもドイツでも英国でも、第二院は直接的な民選議会ではない。

地方議会首相と知事、政府の任命などによって議員が選出され、権限も非常に小さなものである。

カナダでは慣習的に下院で可決された法案を上院が否決することはなく、ドイツでは上院にかけられるのは地方に関係する法案のみになっている。

英国では上院改革の真っ最中であり、貴族院かつ最高裁としての性格を失いつつある。

第一次大戦前のアスキス内閣で蔵相として入閣したロイド・ジョージは、社会保障費を捻出するために、土地相続税や土地売却のキャピタルゲイン課税などを強化、この政策は伝統的な土地貴族のライフスタイルを直撃し、20世紀を通じて見られる貴族の没落の直接的な引き金となった。

これを人民予算と呼ぶが、貴族の巣窟である上院は当然のことながら頑として抵抗し、世襲貴族の抵抗によって、選挙によって選出された政府の政策遂行が難しい状況となった。

それに対抗して自由党内閣が採ったのは、貴族の大幅な増員である。

つまりそれによって、自由党寄りの新貴族を大量に上院に送り込んだのだ。

これにはもちろん、最終的な任命権者である国王ジョージ5世の同意が必要で、ジョージ5世は利己的な世襲貴族たちには辟易していたのと同時に憲法秩序を守る必要もあったので、政府の後押しをした。

この過程で、自由党は「叙爵利権」を握り、人民予算後にも、それはロイド・ジョージの財政的基盤になるのだが、それはまた別の話である。

国王を巻き込んでの非常手段でもって、政府は法案成立のために状況を突破したのだが、これを教訓として、以後、英国上院の権限は縮小を続けている。

現在では予算案は審議権自体がないし、下院で成立した法案は上院で否決すれば批判される。仮に否決したところで、一年後に立法化される(つまり上院の否決は施行を一年遅らせる意味しかない)。

上院改革の課程では、この否決権自体を失くそうという動きもあった。

英国上院は、ブレア政権の改革によって性格を民選議会化しつつあるが、権限は更に縮小傾向にある。

政府は統一していなければならないという要請からすれば当たり前のことであって、衆議院で可決した法案でも参議院で否決できる、参議院で否決された法案は衆議院の3分の2で再可決しなければ廃案になるという途方もないハードルを課して、参議院の権限が非常に強力なのは日本だけである。

現状のように、両院で多数党が食い違っている時、日本のシステムでは、政府議会が統一しているという議院内閣制のせっかくのメリットも生じず、かといって大統領制ではないので行政府議会から独立しておらず、政権の無秩序化が生じる。

今はたまたま小泉郵政選挙の余慶で与党衆議院で3分の2という途方もない議席を獲得しているからまだなんとかなっているが、そんな状態は憲政上ごく稀であることを思えば、日本の政治制度の特殊性、システムとしての欠陥は明らかである。

二院制を維持する上で、チェック機能の利点を挙げる人は多いが、チェック機能はあくまでチェックであって、主体は政府になければならない。

非常に素朴なそうした見方は、現に大抵の先進国の議院内閣制かつ二院制の国で、政府の統一のために実態としての一院化が進んでいるという事実を踏まえていない。

日本国憲法は、大統領制を採るアメリカが主導して、議院内閣制の国である日本に導入したために、多少、歪なところがあり、参議院の存在とその権能は最たるものである。

参議院が民選議会であることが頻繁な国政選挙を生じさせ、政権の信が頻繁に問われることになり、なおかつその権限が強大なことから、政府議会運営を困難にしている。

その結果としての、日本における内閣の短命化であり、政府のダッチロール化である。

すべてではないにせよ、政府の統制能力の欠落は大半は参議院の存在に由来している。

私は参議院を廃止して一院化してもとりたてて不都合はない(実際、多くの先進国が一院制である)と思うが、どうしても二院制にこだわるならば、参議院の権限を縮小しなければならないと思う。

そしてそれはかなり緊急の要請だと思っているのだが、それにはまず、国民の理解を求めなければならず、この記事がその一助になれば幸いである。

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