ブクレコに引っ越しました。

 長いこと開店休業状態になっている「いとちりBooks」ですが、SNSの書評サービス「ブクレコ」に引っ越しさせてもらいました。このブログ自体も、ジャンル分けをして、装い新たにまた再出発をしようと思っています。「いとちり」はどんな本を読んでんだ?という事に興味のある奇特な方は、ぜひ「ブクレコ」をご覧ください。

ブクレコの書棚はこちらです。
http://www.bookreco.jp/my/bookshelves/index/shelf

おじさん・・・。

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 タイトルを見て、「おうおう、おじさん世代も大変よのう」と思って読んでみたら、自分たちも(団塊ジュニア世代)ターゲットだった。タイトルに騙されてはいけない(いい意味で)。人脈もコミュニケーション能力も高い「おじさん」達が、ソーシャルメディアという武器を手にすると、どういう化学反応が起こるのかが具体的に示されている。
 特に、マーケティングに関するワザ、「パーソナルブランディング」の在り方など、「悩める中年」には朗報。ただ、「毎日ブログ」「twitterFacebookの上手な使い分け」など、著者が言う「ソーシャル疲れ」に関する記述も「やっぱりねー」と思うところも多い。
 「道具としてのソーシャルメディア」でなく、「ソーシャルメディアのための日々の活動(とその記録)」に走りすぎた「失敗例」も、多々あるような気がしてならない。そのあたりにも言及が欲しかった。

ビッグデータとは?

 

ビッグデータの覇者たち (講談社現代新書)

ビッグデータの覇者たち (講談社現代新書)

 シリコンバレー在住のコンサルタントながら、「ビデオの録画すらできないワーキングマザー」である著者が、丹念な取材をもとに書いた極めて「文系ライク」な入門書。「ビッグデータ」という言葉が何かとてつもなく素晴らしく、高度な技術のように見えるが「なんだ、そういうことか」と腑に落ちる。
 「会社そのものがビッグデータ」ともいえるGoogleのビジネスモデルや、「ビッグデータ関係者はなぜか野球のたとえが好き」であり、彼らの仕事を一気に広める機会なった映画(原作の小説はデータ分析の部分がもっとマニアックに書かれているらしい)「マネー・ボール」の紹介、「組織票・ドブ板」の共和党優勢に対して「ビッグデータ・草の根」で見事に勝った2期目のオバマ大統領の選挙、震災後の交通情報で一躍有名になったホンダのカーナビデータ分析など最近の日本の話題まで、コンパクトにまとまっていて大変わかりやすい。 言語や画像に比べて数字の羅列である位置情報(GPS)は分析がしやすく、今後技術を牽引する可能性があること、いくらビッグデータとはいえ、分析者が明確な意図を持って加工し、導き出そうとしない限り、データは活用されないことなど、当たり前のことながら、「地理学」をやっている人間にとっては福音とも言える見解が散りばめられている。

今時のエリート

 

 灘中学在学中にiPhoneアプリを世に出し、無料アプリランキング世界3位になった「スーパーIT中学生」(現:高校生)と、日本のコンピューターサイエンスの草分けにして元グーグル日本法人社長の対談。
 秀才があふれる中で、自分も埋もれるまいとアプリ開発を独学で始め、アップルのプレゼンをユーストリームで翻訳実況中継する才児の進路相談に「アメリカに行くしかない」と応じる66歳。対して「とりあえず、日本の大学に行って、その上で目指してみようかな。でも、東大は嫌」とさらっとかわす17歳。日本式の「鉄板・成功モデル」が崩れつつある中、危機感は共通しているが、対処の違いがくっきりと現れている。
 現役の生徒が語る「灘高生」は恐ろしく頭が良い。それを受け止めて伸ばそうとしている教師陣もすごい。スーパー中学生が高校生となり、「その下の世代」の台頭を意識し、ネットに溺れる同世代をクールに代弁する17歳。アプリのダメ出しを自分で最低30箇所出してから直すなど、独自のポリシーとプライドを持ち、審査に納得いかなければアップルの担当者とやりあう。彼にとってはアメリカは「日常」の延長線にあるのだろう。村上氏の「アメリカすごい、日本の教育ダメダメ」論に対して時には同調し、適度に噛み付きながら「進路相談」する姿は微笑ましくもある。
 Tehu氏が語るライフヒストリーの章も面白いが、村上氏との対談というスパイスを効かせることで、今時のエリートの置かれている境遇と価値観がより鮮明に見えてくる。新書でありがちな企画だが、本書はソフトカバーの¥1500。その分、専門用語や人名には脚注がついていて、付加価値は高い。とりあえず、Macが欲しくなる本でもある。

山手線をめぐる官民の攻防史

 

山手線誕生―半世紀かけて環状線をつなげた東京の鉄道史

山手線誕生―半世紀かけて環状線をつなげた東京の鉄道史

 地方公務員(区役所勤務)の傍ら「鉄道史研究家」として執筆活動を続ける著者。日本人なら誰でも知っている「山手線」を題材に、明治日本の鉄道敷設をめぐる官・民・そして地域住民の攻防をわかりやすい文章で活写している。
 新橋〜横浜間に鉄道を開設することに奔走した若き官僚(20代後半)だった伊藤博文大隈重信のエピソードから物語は始まる。敷設に強硬に反対した薩摩藩邸や軍の敷地を避けるために海上に堤を作ってその上を通す(今は埋め立てられて陸続き)奇策が面白い。その後、西日本までの路線をどうするか(当初は高崎から西に向かう「中山道線」が最有力)の検討が進む中、華族が出資した初の私鉄「日本鉄道」が上野から北へ工事を始め、品川〜上野をどうつなぐかでの駆け引き、何もない原っぱに作られた「東京駅」、用地買収と煤煙対策で最後まで難航した「秋葉原〜東京」間など、1周するのに50年かかったという鉄道史はドラマそのものである。各駅もそれぞれの思惑の中で引越しを繰り返している(品川駅が品川区でなく港区にある理由の説明に感心した)。
 会話を増やし、小説仕立てにして読みやすさを狙っているものの、「ほんとにそう言ったかなー?」と思えるところもあるのでちょっとマイナス。それでも、硬い文章の学術書、雑学うんちく本とも違う読みやすくてためになる本である。

  

八重の桜 一

八重の桜 一

  2013年大河ドラマの脚本を小説化。原作はもっと短いと思われるが、当時の会津藩上層部、京都の政略等の場面をふんだんに取り入れて分かりやすくまとめている。
 会津藩の砲術指南役の家に生まれた主人公。「女に鉄砲なんぞ」という時代の中で密かに火薬の調合などをまとめた本を写し、見よう見まねで知識を得る。年の離れた兄は東奔西走、養子として藩を担うことになった藩主、松平容保は幼い頃の主人公と一瞬交差しつつ、京都の政局の大激流に飲み込まれ・・・NHK出版による、いわば「大河予習本」であるが、読み物としても十分楽しめる。3ヶ月おきに全4巻が出されるらしいので、映像を見る習慣がない人にも勧めたい。

異聞・新選組

 

播磨の国高砂の塩商人から、新選組に入った主人公から見た新選組の成長と崩壊。会計を担当しつつ、豊かな実家の支援を受けて隊士らに個人的に金を貸し(ただし無利子・無期限)、武士に憧れながらもどこか「商人の打算」とネイティブ武士の「商人蔑視」へのコンプレックスから抜け出せない主人公。彼の目を通して見る土方歳三芹沢鴨山南敬助沖田総司はお馴染みの「新選組キャラクター」とはひと味もふた味も違う。
 実在する人物をモデルにしつつも、彼が日々つけたとする架空の日誌、悲劇的な最期、そして著者流の「現代の企業社会に例えた解説」で味をつけて、「幕末的ビジネス小説」に仕立てている。理想に萌えた集団が内部対立を乗り越える上での知恵と非情。「組織の維持」が目的化した時に起こる本末転倒は、原題にも通じる教訓である。「そんなにかっこいいもんじゃない」という意味での「異聞」というタイトルに込められた批判精神。史実との違いを考慮に入れつつ「ビジネス書」として読みたい。