「ダウン・バイ・ロー」読んだよ

ダウン・バイ・ロー (講談社文庫)

ダウン・バイ・ロー (講談社文庫)

大型ショッピングモールに客足を奪われ、貧困と荒廃が進む山形、南出羽市。それに追い打ちを掛けるような震災の発生。女子高生・真崎響子は、幼なじみの遥 から小遣いをまきあげ、憂さを晴らす日々だった。その遥が自分の目前で線路に突っ込み自殺してしまう。自殺の原因を疑われ、煩悶を続ける響子。その響子の まわりに連続しておこる不可解な事件と、謎の人物。死んだはずの遥が響子の耳元にささやき、響子はズブズブと、事件の泥流に絡め取られていく。

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山形という身近な場所が舞台とした作品ということと、同著者の「アウトバーン」「アウトクラッシュ」がかなりおもしろかったので期待して手に取ったのですが、その期待していた以上におもしろかったです。
前半は田舎で起きた不思議な事件を紐解こうとするミステリーな展開にワクワクし、後半はそれらの謎を一気に回収しながらバイオレンスな展開にドキドキするというたいへん贅沢な流れになっておりまして、このアクロバティックな展開に胸がおどらない人などいないのではないかとかんじました。

ノンジャンルな感じが「捜査官X」っぽくてよかったし、田舎というか東北地方のもつ空気がものすごい濃度で埋め込まれていて、読みながらその懐かしい空気にしばし浸ってしまいました。


さて。
表題の「ダウン・バイ・ロー」(down by law)というのがどういう意味なのかわからなかったので調べてみました。
アメリカ南部の刑務所で流行ったスラングで「親しい兄弟のような間柄」という意味だそうです。

これは、南部の黒人が北部に持ち込み定着したスラングが刑務所で close brotherhood 「親しい兄弟のような間柄」という意味で使われるようになり、それが若いギャングの間でも広まった。うんぬん。He is down by law. と言えば、命かけても大丈夫なぐらい信頼のおける人ってことらしい。

http://www.h3.dion.ne.jp/~tango2/D/down-by.html

閉鎖的な田舎の特徴である「人と人の距離が近いためにプライバシーなんてほとんどない」ところや「えげつない人たちが暴やお金でその場を支配している」ところはどこか刑務所と似ている気がするし、そう考えるとそこで暮らす響子が得た親しい仲間はダウン・バイ・ローと言えるのかななんて思ったのでした。


そんなわけで本作品はたいへんおもしろかったのですが、読みながら一番気になったのは「これをよく書けたなあ」ということでした。

というのも、本作品の舞台となっているのは仮名ではあるもののおおよそどこを指しているのかわかる場所でして、あらためて著者である深町さんのブログを呼んでみるとご自身の地元の閉塞感を描いたと書かれていました。

今回は、故郷である山形県を舞台にした。私が高校生のときに、新庄市で起きた「山形マット死事件」をモチーフにしている。友人を自殺に追いやったと、周囲から責められ、孤独に陥った女子高校生を主人公とし、彼女の目を通して、自分の地元に漂う閉塞感を描いた。

本日発売「ダウン・バイ・ロー」 - 深町秋生の序二段日記


そんな近しい土地のネガティブな一面、うす暗い一面を切り取って物語にするのは、たとえフィクションとは言えすごく勇気がいることだとわたしは思ったのです。ただ、思いの丈というかご自身が書きたかったという想いが込められている分、すごく視点の定まった作品だったなと思うし私は過去に読んだ深町さんの著書の中ではこれが一番好きだなと感じました。