「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」見たよ


大阪のとある家族に琴子(こっこ)という少女がいた。小学三年生のこっこは、口が悪くて少し偏屈。大家族の温かい眼差しに包まれて暮らしていながらも、いつも不満だらけ。そして、孤独にも憧れている。8歳の少女が、家族と学校という半径数キロメートルの“全世界”の中で考え、悩み、成長をしていく――。

『円卓 〜こっこ、ひと夏のイマジン〜』作品情報 | cinemacafe.net


西加奈子さん原作を実写映画化と言われて思い出すのは昨年公開の「きいろいゾウ」です。

きいろいゾウ (小学館文庫)

きいろいゾウ (小学館文庫)

わたしは原作を読まずに観に行ったのですがその突拍子の無さというかとりとめのなさにかなりおどろかされたし、観終えてから読んでみた原作もそれに輪をかけてアグレッシブな内容でびっくりしました。意外性と独創性のいりまじったストーリーは他にはないおもしろさがあってひじょうに楽しませてもらったために、本作も西さんの本が原作ということで他では観られない作品が見られるんじゃないかという期待を抱いていました*1


さらにわたしは行定監督の作品がとても好きなのですが、中でも「遠くの空に消えた」はいまだに思い出すことのある大好きな作品です。

西さんの原作であること+「遠くの空に消えた」とまったく同じ「行定監督+夏+子ども」という素材で組み立てられているという、もはや期待せずにはいられない要素が盛りだくさんでしたので高く積み上げられた期待を引き連れて観てきました。


本作はキャストだけを観れば子役品評会的な感じではありましたが、作品自体は期待していた以上のなかなかの良作でした。

愛菜ちゃん演じるこっこちゃんは「普通である」ことをとても嫌がっていて、普通とはちょっと違うことをする人にすぐに憧れてその真似をします。ものもらいになって眼帯を付けた友だちがいればすぐにその真似をして眼帯を付けるし、興奮し過ぎて不整脈で倒れた同級生に憧れてとつじょ胸を押さえて苦しそうなふりをするのです。

「普通ではない」ことに憧れるこっこちゃんの気持ちはおそらく多くの人にとって理解のおよぶものであると思うのですが、一方ではこっこちゃんがしていたような「いいなと思ったことをそのまますぐ真似る」という行為に違和感なく理解を示せる人はそんなに多くはいないのではないかと思います。

とくに「吃音」や「命にかかわる病気」といった、それを真似られた当人がネガティブにとらえているであろう特徴を真似らるとなるとなおさらこっこちゃんのしている行為に共感をおぼえることはむずかしくなります。


映画を観るまでは、わたしは思い込みや予備知識、先入観が少ないぶん、子どものほうが「想像力」がゆたかであるとなんとなく思いこんでいました。

もちろん「何にもないところから新しいものを考えるような想像力」については実際に子どもの方が自由な着想でアイディアを出せることが多いし、そういった意味で想像力がゆたかであるとも言えます。ところが、日常生活で他人とコミュニケーションを取る上で必要とされるジャンルの想像力をふくめて考えると実際に経験をしていなければ想像することすらできないということも多くあるために、一概に子どもの方が想像力があるとは言えなくなるのです。

具体的な例というか、日常のコミュニケーションで必要となる想像力の用途として「相手の立場に立って考えてみる」というものがあります。これも相手が実際に立っている立場に立ったことがある、もしくはそういう立場の人と交流して得た経験がなければなかなか想像できるものではなかったりします。


想像力の欠如というのはやや言い過ぎですが、そういった日常における想像力という点についてはこっこちゃんはまだ想像力は足りない部分が多く、それゆえに相手を傷つけたり逆に腹立たしい想いをさせられたりするのです。

自分が当然そうだと思うことを否定され、そうではないと思うことを周りが当たり前のように共感を求めてくる。
こっこちゃんは自身をとりまくそんな状況に日々いらだち、周囲の人たちの無理解に悔しさを感じています。本作は大変な良作だと冒頭で申し上げましたが、中でもとくによかったのはその燃え上がるような感情のささくれ具合の表現がとにかくすばらしい点です。自分が子どもだったころにはこんなふうに理不尽なこと(だと自分では思っている)に怒っていたなということを思い出してしまうようなまっすぐな感情表現に感動をおぼえました。

さらにそんなふうにやさぐれてしまいそうになるこっこちゃんをなだめ、正しく進むべき道を指し示す幼なじみのぽっさんとおじいちゃんの2人がまたすばらしい存在感を見せてくれます。決して声を荒げて道を正そうとするのではなく、ときには共感を、ときには間違っていることを強い言葉で指摘することで、こっこちゃんに想像力の大事さを教えるぽっさんとおじいちゃんの姿にはとてもグッときました。


原作も読んでみようかな。





@TOHOシネマズ宇都宮で鑑賞


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円卓 (文春文庫)

円卓 (文春文庫)


*1:さすがにあそこまで振り切れた作品ではないだろうなとは思っていましたが