最近読んだ本の感想(2014/10/01〜10/15)


2014年10月1日から15日に読んだ本のまとめ

71. 流転の海

流転の海 第1部 (新潮文庫)

流転の海 第1部 (新潮文庫)

敗戦から2年目、裸一貫になった松坂熊吾は、大阪の闇市で松坂商会の再起をはかるが、折も折、妻の房江に、諦めていた子宝が授かった。「お前が20歳になるまでは絶対に死なん」熊吾は伸仁を溺愛し、その一方で、この理不尽で我侭で好色な男の周辺には、幾多の波瀾が持ち上った。父と子、母と子の関係を軸に、個性的な人間たちの有為転変を力強い筆致で描く、著者畢生の大作第一部。

http://www.amazon.co.jp/dp/4101307504

本屋に行ったら未読の第六部と第七部が出てたので、いっそ通読してしまおうと第一部から読み直すことにしました。

本書は、戦前に中古車販売を生業として業界で頭角をあらわし一代で財を成した熊吾が、50歳で父となったことをきっかけに人生を大きく変えていくその始まりの物語です。戦争で多くを失ったとは言え、豪放磊落な性格はまだまだ健在で皆から畏敬の念をもって接せられる熊吾は本当に魅力的なキャラクターで何度読んでもその人となりに引き込まれてしまいます。

人生にIFは無いとよく言われますが、この第一部を読むたびに「もし熊吾が南宇和に引きこもるという選択をしなかったら...」と考えずにはいられません。

72. 地の星 流転の海 第二部

流転の海 第2部 地の星 (新潮文庫)

流転の海 第2部 地の星 (新潮文庫)

五十歳で初めて子を授かった松坂熊吾は、病弱な妻子の健康を思って、事業の志半ばで郷里に引きこもった。再度の大阪での旗揚げを期しつつも、愛媛県南宇和の伸びやかな自然の恵みのなかで、わが子の生長を見まもる。だが、一人の男の出現が、熊吾一家の静かな暮らしを脅かす…。熊吾と男との因縁の対決を軸に、父祖の地のもたらす血の騒ぎ、人間の縁の不思議を悠揚たる筆致で綴る。

http://www.amazon.co.jp/dp/4101307512/

息子の伸仁があまりに体が弱いために、伸仁が大きくなるまで熊吾の生まれ育った南宇和で育てようと大阪から南宇和に移住してからを描いたのがこの第二部。生まれ故郷で大人しく暮らしていた熊吾が商売や政治などさまざまなことに手を出し始めたことで、おだやかだった田舎暮らしがじょじょに動き出します。

個人的にはこの第二部が一番好きで、何度読んでもいてもたってもいられないたまらない気持ちになります。


73. 血脈の火 流転の海 第三部

流転の海 第3部 血脈の火 (新潮文庫)

流転の海 第3部 血脈の火 (新潮文庫)

昭和27年、大阪へ戻った松坂熊吾一家は、雀荘や中華料理店を始めとして、次々と事業を興していく。しかし義母の失踪に妻房江の心労はつのり、洞爺丸台風の一撃で大損害を被った熊吾も糖尿病の宣告を受ける。そしてたくましく育つ無邪気な小学生伸仁にも、時代の荒波は襲いかかるのだった…。復興期の世情に翻弄される人々の涙と歓びがほとばしる、壮大な人間ドラマ第三部。

http://www.amazon.co.jp/dp/4101307520/

南宇和から大阪に戻ってきた熊吾たちが大阪で再起を図るというのがこの第三部。

熊吾の凋落が加速し始めるのがこの第三部でして、読んでいていたたまれない部分が多いです。
年齢のせいなのかそれとも時代が変わったのかは分かりませんが、戦前のようにはうまいこといかずやきもきします。

第二部の中で、鍛冶屋をいとなんでいた音吉が「全部が全部ではないけれど子どものいない夫婦には気の利かない人が多い」と言うシーンがあるのですが、そのときに「この世でもっとも気になる他者である子どもと関わることがないことが原因かも知れない」と音吉は結論づけていました。子どもを得ることで人は変わるのだとすれば、熊吾もまた伸仁を得たことで変わったのだろうし、もしかしたら商売がうまくいかない一因はそんな熊吾の変化に起因する部分もあるのかなと思ったりしました。