指輪世界の第二日記

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2016-02-23 不在の…いや、存在する!/サウルの息子 このエントリーを含むブックマーク

「それでさ、今回の」

「サウルの息子」

「もう傑作だね! これも、みんな死んじゃう系でしょ」

「死にますね」

「やっぱり高い高い死の壁に四囲を囲まれてて、絶望しようと、抗おうと、戦おうと、狂おうと、どうしようとも死ぬ。人間として強かろうと弱かろうと、善かろうと悪しかろうと、賢かろうと愚かだろうと、あまりに高い死の壁の中では、ごまつぶの背丈がわずかに凸凹しているだけで、意味がない」

「ふむ…主人公はヘマばかりで、身勝手で、仲間の足を引っ張りまくりますけども」

「仲間って言ったって、そもそもが同胞を騙しなだめて屠殺場まで連れて行く、死の羊飼いをやることで、数ヶ月の生をながらえている背信者たちなわけだからね。だから、いったいなにが裏切りなのか、なにがヘマなのか、もうすり切れてしまっていて区別がつかない。その無意味さの中で、存在しない息子を弔おうと執着して、危ない橋を渡り続ける。この映画はその執拗さを延々写していく」

「むー?」

「主人公があくまで執着する息子。その息子が、意味がなく、死んでおり、そもそも存在しない。主人公の執着対象がいかに存在していないかが明示されていく。存在しない息子。屋内に閉じ込められている鳥が、なにもない空間で虫をついばむ行動をとるようなものだ」

「なにかの代償行為ということですか」

「そういったものなのかと思う。そしてその死体もついに、流されてなくなってしまう」

「渡河するシーンですね」

「もとから存在しなかった息子が、ついにその死体も消えてしまう。と、そこに、その意味のなかったポインタ、虚無の場所に、生きている少年が立ち現れる」

「あの目が合う子ですか」

「金髪碧眼のあの少年、あれは

 ・ナチスではないが、

 ・ナチスのやったことを見ていた、傍観していた──『知らなかった』ではない、

 ・戦争中は声を上げられなかった──口を塞がれる演出、

 ・生き延びて敗戦後の国を継いだ、

という少年、つまり、お前たち国を継いだ人間、この少年がお前たちだ、という含意になっている」

「えー」

「これはもう明々白々、めちゃくちゃわかりやすい。論を待たぬといえる。そして、それに対して主人公が微笑む。ここが真のポイントだ。ここまで表情を抑えに抑えてきた主人公の、満面の笑み。これで、その少年が主人公の息子だ、という意味になる。この二人は血縁もふれ合いも全くない、言葉も心も交流しないまるきり無縁の二人なのだが、しかし、この最後のワンカット、執拗な90分のあとの1分のシーンでもって、息子になる。ここまで執拗に、意味がない、死んでいる、存在しない…と描かれてきた不在の人格、主人公の息子に、突如、意味が付与され、生き、存在させられる。それは、お前たちだ! スクリーンのこちら側にいる生者なのだ! こんな強引で鮮やかな技があるのか!! すごい構成だ!!」

「ノリノリですね」



参考: 町山智浩氏の 『サウルの息子』の息子とラストについて

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2016-02-22 みんなちがって、みんな死ぬ/野火 このエントリーを含むブックマーク

「野火の話はしたっけ。去年の、塚本晋也監督の」

「聞いてない…と思います」

「戦争映画の傑作でさ。みんな死んじゃう系。いばるやつも死ぬ、せこいやつも死ぬ、若僧も死ぬ、ベテランも死ぬ。人間性を捨てたやつも死ぬし、捨てなかったやつも死ぬ」

「みんな死んじゃう系」

「こうすればよかったのでは、という選択はなく、こうすれば生き延びれたのでは、といった道もない。それがしっかり説明されていく。賢ければ生き残れる、なにか知恵がまわれば生き残れるみたいな状況ではない。四囲を死に囲まれて、その死の壁が十分高いので、その中で賢さや人間力やらをくらべても、ごまつぶの背比べが凸凹してるだけで死んでいく」

「壁」

「死の壁のなかでぐずぐずと、たがいに空気を読みあいながら死んでいく。軍隊は、軍規と、命令系統と、兵站とがあるんだが、海軍が輸送艦をぼこぼこ沈められてるのに、陸軍は前のめりに兵士を送り込むから、兵站がなくなって下から崩れていく。兵站がなくなり、命令がなくなり、軍規がなくなる」

「組織として崩壊していくんですね」

「そう、まず組織として、次に個人として崩れていく。そして各人が人間性を、一部を残しながら捨てていって生き延びていくんだが、どこを残しながら捨てていくか。残しかた、残す部分が人によってちがっていて、バリエーションがある。それがみんなちがうんだよ、という映画だ。みんなちがうが、そこに優劣はなくて、どの残し方をしたら生き残るということはなくて、みんな死ぬ」

「みんなちがって、みんな死ぬ、と」

「うまいことを言うね。この、こうすれば生き残ったのでは、こういう人間性の残し方なら生き残ったのでは、という、ごまつぶの背比べを、丹念に描きながら丹念に潰してある。予算はないかもしれないし、歯がきれいなのが気になったりもするが、すみずみまでしっかり作り上げられた戦争映画だ」

「ふむふむ。あ、すみませんー。この…だし巻き卵を。あと…?」

「ねぎの焼きびたし。それと、これを、ストレートで。はい、お願いします」


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2016-01-23 西住みほはいつか死ぬ/ガールズ&パンツァーを兵士の映画とみる このエントリーを含むブックマーク

ため息をつく西住みほ

「ああ、ガルパンはいいですね。先輩は何回目なんですか」

「これで3回目だね」

「よく見ますねえ。ミリオタとして闇の成分が足りないとか言ってたじゃないですか」

「うーん…それが…ふむ」

「?」

「ちょっと思いついたことがある。食いながら話そう。何を食べたい? タイ料理屋と、よさそうなおでん屋、あともうひとつ和風のところを見つけた」

「おでん屋でお願いできますか」

「いいね」


「ガルパンを戦争映画、兵士の映画として見ることは、やはり可能という気がしてきた──明博君、きみはガルパンを戦争映画として見たいかね」

「二次設定とかの話ですか?」

「いや、TV本編とOVAと劇場版の情報だけからいけそうだ。まず…あの熊のボコを、死のメタファーだと読む」

「おっ メタファー」

「傷と包帯だらけのボコ人形は、明らかに死のメタファーだ、としよう」

「大七はこっちです。はい、どうも…どうぞ。では…乾杯!」

「乾杯! …いいね。それで、あのボコワールドで、着ぐるみショーがあるだろう」

「ありますね」

「あれは『負けるとわかっていても立ち上がり、抗い戦う、それがボコだ』というテーマだ。つまり、『死ぬとしたら今日ではなく、明日だ』という言葉がある。兵士の言葉だな。『死は避けられない。あんたも死ぬし、俺も死ぬ。皆いつか死ぬ。だが今日じゃない』絶望するような戦場で、それでも立ち上がって今日一日を戦い抜く、それが兵士だ、Live another dayだと」

「はあ…?」

「着ぐるみショーでの『ボコ、がんばれ、ボコ、がんばれ』という声援は、ボコと自分を同一視している台詞だ。励ましているのは自分なんだ。島田愛里寿も同じ声援を送るが、あの二人は二人とも、死に共感している。死の中の生だな。死の中にあってその恐怖に抗い立ち上がり、一日一日を戦い抜く、それが兵士。Furyと同じテーマだ。ガルパンは実質フューリー」

「大丈夫かぁー はーい、こっちです。よし。よさそうですね。頂きます」

「いただきます」


「西住みほの発言を見てみるとだ;

3話麻子に「危ないから中に入って下さい」

4話 弾道に息を呑み、被弾をまぬがれて吐息→「車内は大丈夫だよ」

「めったに当たるものじゃない」→当たらないとは言ってない→いつかは当たる(だが今日ではなく、明日だ)

ガルパンの感想で、戦車道について、『カーボンで車内が安全とか言ってるけど体乗り出してるじゃないか。なぜか当たらないことになっているじゃないか。そこは言わないご都合の、お約束の世界観だ』という意見を聞くことがあったが、そう読まなくてもいい。西住女史の発言は、一貫して、『いつかは当たる。それはわかっている』と言っている。本人がずっとそう言っているんだからな。『(いつか当たる。だが、今日じゃない。私はボコだ)』ということだ」

「女子高生がですか」

「女学生が死傷の危険を冒すなんておかしいのでは? と、一見、思うが、オリンピックやマラソンの中継を『この選手は去年、二度、疲労骨折しました』なんて解説を聞きながら見てたりするし、皆が拍手喝采で喜んで見てるチアリーディングや組体操のピラミッドで、首の骨折ったりしてるからね。そういったものに近いのだろう」

「いちおう…理屈は通ってるのかなー? いずれ死ぬことへの達観と、その達観を持ちながらボコを応援することが、イマイチつながらない」

「ボコは達観してるキャラであり、西住みほはその達観に憧れている。死を前にしてなお立ち上がり戦う、その覚悟ができるボコに憧れている」

「戦車から体を出してるみほは、それが役割だから死に面してるけど、達観しているわけではない?」

「『ボコは私だ』ではなく『私はボコだ(ボコでありたい)』」

「うーん?」

「ああー次作ではヨルダン高校のザイアダイン隊長と戦ってくれー 『きみは兵士だから戦う、ただそれだけだ。銃が自分は撃たねばならぬと知っているように、兵士は戦わねばならぬと知っているだけだ。だが、銃が撃つのをやめたら、こわれたら、もはや無でしかない。きみもおなじだ、西住みほ。撃つことをやめたら、死んでしまったら、神はなにを見いだす。無だ』って言われてくれー」

「なんですかそれ」

「ライアルの『砂漠の標的』だよ。全ページがこれぐらいかっこいいのでおすすめ。そろそろ行くか」

「はい」

「すみませーん。お勘定。はーい」

「なかなかよかったですね」


「タイトル…なにか強めの釣りタイトルなにか。『西住みほはいつか死ぬ』とか?」

「『戦争映画』の一言が入ると良いけど、『死ぬ』のほうがインパクトあります」

「『西住みほはいつか死ぬ/ガールズ&パンツァーを兵士の映画とみる』」

「良いのでは」

「:)」


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