指輪世界の第二日記

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2004-09-14 CRPGでの最適化と確認 このエントリーを含むブックマーク

 プレイヤーがコンピューターRPGに放り込まれたとき、まず、いくらかの時間をかけての学習過程があります。そこでプレイヤーは「よしこんなもんだろう。」というところまで最適化をします。つまり、どんな手順で呪文をかけアイテムを使うのが強いのか、どんな装備でどこそこの敵を何匹狩り、どれだけMPを消費したら町に戻り、どのアイテムを補給して再出撃するか。そのような最適化されたメソッドを編み出すまでが、学習過程です。これは言い換えると、出題されたリソースマネージメントのパズルを解くことです。この問題を解き/メソッドを得、採用してからが反復作業になります。

 たいていのゲームは、最初の反復作業のままでは終わりません。この反復作業中になんらかのポイントが貯まっていって、一定値になったら状況を変えるように仕込んであります。CRPGでいえば経験値/貨幣蓄積によるレベルアップその他の成長がそれです。これが次のエリアへの移動へつながり、自キャラおよび周囲の環境の状況が変わって、新たな学習過程が始まります*tl。これは解くべき資源配分問題が新たに出題されるということです。

 つまりCRPGは、リソースマネージメントのパズルが出題されつづける部厚い問題集なのです。成長は次のパズルを形成するために存在します。そして反復作業は解の有効性を確認する行為であり、つまり答え合わせであって、また報酬でもあります*rw

 「モンスターの階段」*msに代表されるCRPGのゲーム構造は、この最適化-確認 のリフレインを、モンスターやレベルやスキルや装備の形で実装したものだと言えます。

 この最適化過程の時間をS、適用反復作業の時間をAとすると、ゲームによってS/A比というものを考えることができます。1000時間コースのMMORPGなどはS/A比が低い、などと使えます。

 良いゲームデザインというのは、一つには、このSとAとのリフレインを気持ちのよい長さで配置することだと言えます。強いコンボをみつけても、それを堪能しつくす前に次のエリアに進んでしまったら物足りないし、逆にそれに飽きるほど状況が変わらないというのも嫌です。できるだけ少ないデータ量で、どれだけこの心地よいSとAのリフレインを配置できるか? といったところです。

 そしてCRPGのS/A切換トリガーは先述の通り自キャラ内のexpやgoldパラメータに仕込まれており、これが世に幾多あるゲームシステムの中でも突出して優秀な自動調整能力を発揮し、他の追随を許しません。CRPGは非常に適切にSとAとを配置するシステムなのです。ここは他ジャンルに対するCRPGの決定的な優位といえます。



[tl] 成長と学習

 われわれが学習によって適応するのは周囲の環境だけでなく、成長する自分の肉体に対してもです。なにかをできるようになったら、できるようになった自分に適応し、それに沿った新たな最適化を見つけなくてはなりません。言い換えると成長期間の長い種においては*rh、学習の大きな部分が、成長する自分自身という対象に割かれなくてはなりません。となるとそのような適応のスキルに対してもまたこの理屈があてはまってメタメタになりますが*me、ここで指摘したいのは、CRPGにおける自キャラのパラメータを、現実世界における自分の肉体的能力に対応するものと考えることができる、ということです。この場合、CRPGは、「肉体的成長によって何かができるようになることへの適応」を模擬し、多数回繰り返すシステムであると考えることができます*di


[rh] 成長期間の長い種においては

 人間は自分の資格リストを眺めなくてはなりません。しかし兎はそれほど自分の成長に気をつかわなくても済みます。他の兎とくらべて自分にしかできないことはなんだろうとか考えないでいいのです*si。兎には、自分のキャラクターシートを睨んで取得スキルについて悩む必要はありません。

 反例:GURPS Bunnies & Burrows(1976) ラビッツ&ラッツ(1987)


[si] 他の兎とくらべて自分にしかできないことは……

 人間が他の生物とくらべて自意識が強いのはそういう理屈なのだと考えられます。


[me] メタメタになる

 メタにメタに理屈が適用できること。無限退行などという。


[di] CRPGの模擬しているシステム

 CRPGの特長は、この自分と環境との変化が微細であることです。ある時点での自他の状況と、変化後の時点での状況とが、わずかだけ違っていて、その違いに適応していく。積み上がっていくパターンで、したがって文脈をもって変化していく。言い換えると差分型というか発展的というかなんかそういうやつです。この差分チックなつくりは、効率的な学習法かなにかと通じるところがたぶんあります*st

 アクションゲームにせよアドベンチャーゲームにせよ、ある関門/そしてその次の関門の課題の配置は、やはりわずかだけ差分をもたせて発展的に設定するのが、安定したゲームデザインだといえます。しかしそれらのジャンルでは、はいそうですかと簡単にそれらを設定できるとは限りません。


[st] 効率的な学習法

 ゲームは本来、人間の学習の過程を快く再構築したシステムといえます。


[rw] 報酬

 得た解、採用したメソッドが正しかった場合には、その正しさの確認作業は快いものであり*mm、報酬となります。ここは面白いので注意を要します。(以下2005.08.18追記)

 つまり、一般に経験値や貨幣はプレイヤーへのごほうびと考えられていますが、細かく言えばそれらは目標であって報酬ではありません。最初の目標とその結果の報酬とを分けて考えるわけです。CRPGでは、プレイヤーは経験値や貨幣を目標として、それらを獲得しようという観点から最適化を行いますが、実際に最適化に成功したときには、その報酬は、メソッドの反復という行為のほうにすりかわります*1。得たメソッドをもうn回適用し成功することが快楽となるのであって、たとえばその毎回で経験値s点が得られるとして、繰り返しを抜きにして即座にns点が与えられたり、あるいは最初の敵の先にn個宝箱があって各s点の経験値が入っていたとしても、プレイヤーは嬉しくない。たしかにs点が0点では駄目なので、経験値や貨幣がまるで必要ないということにはなりませんが、重要なのはメソッドの反復のほうです。

 だから、中ボスっていうのは、グラフィックとモーションが派手だから成立するのであって、ほんとうは面白いものではないんだな。うむ。最終ボス戦前にもう一回出てきたりするけど、その時も能力値変わってたりするしね。

 あとここでは敵って言葉を使ったけど、自キャラのことも忘れないように。厳密には、ある敵とあるレベル&装備の自キャラとの組み合わせ、にプレイヤーは適応していくことになります*3

 この理屈は、CRPGでは繰り返しが非常に重要だという命題を支えるひとつの柱ですし、言い換えると、コンピューターは繰り返し処理が得意なのでこうした性質を利用しやすいメディアであるということになります。


[mm] 確認

 ではさらに、確認作業が快いのはなぜか、というところまで理屈付けてみましょう。ここでマーヴィン・ミンスキー先生にご登場頂きます。

 ミンスキー先生いわく。

 子どもが、滑らかな発達のプロセスを経て連続的に成長しないのは、なぜだろうか。それは複雑なシステムを発達させるときに危険が伴うからだ。新しい考えや技能を身につけた後で、その考えに重大な欠陥があることがわかったら困る。そうした事態に備える一つの方法は、バックアップをつくっておいて、いつでもその「古い心」に立ち戻れるようにしておくことだが、さらにいえば、新しい段階の心が前の段階の心を上回ることがはっきりするまでは、新しい心に実際の行動をコントロールさせないようにする、という手がある。子どもがこの手法をとっている場合、外からは高原現象が観察され、行動の変化がほとんどない。そしてその後に突然新たな能力があらわれ、急激に発達するように見えるだろう……『心の社会』マーヴィン・ミンスキーpp.278-279(※去年静大へ生ミンスキーが講演しに来て本を売っていらさった)

 応用反復抜きで最適化/学習をのみ連続して行っていくのはリスキーです。学習したメソッドは一定期間の試用を経て、その有効性を確認されなければなりません。

 したがって確認行為は快いのです。


*1 目標と報酬とのすりかわり

 なにかしらのなにかを目標として行動を始めて、そしてある状況に陥る。すると、そこでやるべきことが別なものにすりかわる。つまり動物や人間の神経系の行動アルゴリズムはけっこう小さなシークエンスに分割されて、それぞれ親子関係の非常に薄い並列・独立になっている。たぶん、それくらいゆるくないと冗長性がたりないのだろう。しかしこれは、すべてのシークエンスが親子関係の下に置かれ、目標までの階層関係に書き下された、言葉で書かれた計画とは、かなり違うものになる*2

 なお、この理屈は解発行動というやつ(コンラート・ローレンツ先生の『攻撃』を参照)の仲間です。


*2 並行独立の小シークエンス群と、親子関係で書き下されたサブシークエンスが一つの目標の元に統一されている計画とは違う

 学校や書籍などの教育では後者を教えるし、実際、人間の合理的な、知的な力とは後者によって伸びてきたものだろう。しかし、それを支えている脳神経系自体は、前者で組まれているわけだ。このへんが「人生の目的」まわりの哲学やら洞察やらの混乱ということか。(この話id:ityou:20050820にて書き直し)


*3 自キャラのことも忘れないように

 俺屍では、敵におけるモンスターの階段だけでなく、自パーティにも戦力構成の急激な更新(キャラクターの死亡と誕生とパワーレベリング)が組み込まれています。それだから俺屍の設計は偉大なのです。(家族の階段


[ms] モンスターの階段

 CRPGで、だんだんに強い敵モンスターがエリアごとに設定されていることによって、難易度が階段状に上がっていくことを言う。『注文の多い傭兵たち』押井守でいうモンスターの壁(指輪世界内該当引用箇所)およびざるの会のゲームデザイン入門2.2-3-4、また塊魂についてネタゲームの品評会を参照。



指輪世界内:MMORPG関連の話

spcategゲーム[ゲーム]

mihael2mihael2 2004/09/16 23:04 がーん!! 「注文の多い傭兵」たちはノーマークであった!! そんな熱い本だったのか!

AYSAYS 2004/09/17 00:05 うーむ、正しすぎて特にコメントがない。スマン。
生ミンスキー先生見たんですか。それは自慢になるなあ。

ityouityou 2004/09/17 13:00 『傭兵たち』は半年ほど前に再版されたから(イノセンスのおかげで)どこかで読めるんじゃないかしら。押井守の理屈力が炸裂してますよ。文章も凝ってます。//もう一歩強弁して間違ったこと言わないと綾茂さんには受けませんかー

ueluel 2004/09/17 19:24 やあ、僕のような無学な人間には大変助かってます。

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